うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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アンケートにお答えいただき、ありがとうございます!

うちはオビトは登場させない方向で行きますね!

また、ブシン祭同様に本編完結後IF作品でぶち込むかもしれませんが…(理想)。

今後も、皆さまにご協力いただく場面があるかもしれませんが、何卒よろしくお願い致します。


第13話 シスイ

ローズは、目の前に現れた漆黒の男が名乗った名前を理解し、驚愕の表情を浮かべる。

 

「シスイ…。シャドウガーデンの…NO.2…!」

 

「ほう…?俺の名を知っているのか…。教えたのはアイリス…いや、イタチか…」

 

シスイは、淡々とした口調でローズの反応を観察する。

 

「…ッ!…あなたは、イタチさんの敵ですか…⁉」

 

「…敵のつもりはない…。味方のつもりもないがな…」

 

「…ッ!」

 

ローズは、困惑した様相を見せる。

 

シスイの発言を、どう解釈し捉えてよいのかわからなかったからだ。

 

「…臣下に謀反を起こされ、父を人質に取られたか?」

 

「………なぜ、そのことを?」

 

シスイという、ローズからすれば初めて会った男が、なぜ自分の置かれている立場を理解したような発言をするのか疑問だった。

 

彼の質問に答える発言ではないとわかってはいたものの、聞かずにはいられなかった。

 

「…俺の敵が、ドエム・ケツハットだからだ」

 

「なッ!!」

 

今まさに、ローズが最も憎しみを抱いている男の名が出てきたことで、その眼は大きく見開かれる。

 

「そ、それは…どういうことですか?」

 

「我らシャドウガーデンが、何と戦っているか、知っているか?」

 

「…ディアボロス教団…ッ!ま、まさか…」

 

何かに気付き、語尾が強まる。

 

「そうだ…。ドエム・ケツハットは、ディアボロス教団の幹部だ」

 

「そ、そんな……」

 

ローズは、視線をシスイから外し、項垂れる。

 

「さて…最初の質問に戻ろう。力が欲しいか?父を、国を、民を、全てを救う力が…」

 

シスイの言葉を受け、ローズはゆっくりと立ち上がる。

 

そして、決意に満ちた目を向ける。

 

「…欲しい…。皆を救う力が欲しい!」

 

ローズがそう宣言した途端、シスイの身体から真紅の魔力が溢れ出る。

 

「ッ!これは…あの時の…」

 

魔力とは別の力も宿ったその力は、聖地で見た魔力の柱に混ざっていたものと同じであった。

 

あの場にシスイもいたのだろうか…?

 

シスイから溢れ出た魔力は、ローズの身体を包み込む。

 

「すごい…これが…シスイの魔力…⁉」

 

そんな疑問が頭の中によぎるが、更なる驚きが生まれる。

 

「あ、悪魔憑きが…ッ!」

 

先ほどまで自身を蝕んでいた悪魔憑きが、一気に縮小をみせ、一気に元の美しい身体を取り戻す。

 

魔力の奔流は止み、再び地下の薄暗い世界が訪れる。

 

「力が…溢れてくる…⁉」

 

「……力試しにはちょうどいい客人だぞ」

 

「ッ!」

 

シスイの言葉を受け、周囲に意識を向けると、黒い影が複数ローズ達を囲むようにして現れる。

 

「…教団の手の者だな…ローズ・オリアナ…。貴様の意を示せ」

 

「………」

 

ローズは、一つ呼吸をすると、剣の柄を握りしめる。

 

同時に複数の黒い影は一気にローズとシスイへと襲い掛かる。

 

一振り…。ただ一振り、ローズは抜刀と共に剣を振るった。

 

瞬間、複数の黒い影は、一斉に爆散し、鮮血を噴き上げる。

 

そして、その鮮血は血の雨のなって床へと降り注ぐ。

 

「…見事だ」

 

「これほどとは…」

 

シスイの短い称賛に、ローズは自身でも驚きを隠せずにいた。

 

暫しの沈黙が流れる。

 

「…さて、ではこれからの動きを確認しよう」

 

「…はい…」

 

ローズは、シスイの言葉を聞きながら、真剣な面持ちをもって耳を傾けた。

 

 

 

 

 

一通りの動き、計画をシスイから聞き及んだローズは、最後の言葉に大きく目を見開く。

 

その見開いた瞳には、涙がじわりと滲む。

 

「父は…父は助かるのですか⁉」

 

「ああ、貴様の悪魔憑きを治療したように、俺の魔力で身体を元に戻す…」

 

ローズは、優しき父の顔を思い浮かべる。

 

…あの顔をもう一度見ることができる…。

 

それだけでローズは救われたような感覚を覚える。

 

「俺は国王を回収する。刺客の相手は、貴様がしろ…」

 

「…はい。元よりそのつもりです…。奴は、ドエム・ケツハットは私が討ちます!」

 

「…違う」

 

「え?」

 

シスイの唐突な否定に、ローズは思わず身じろぐ。

 

「お前の目的は、父を救うことだ…。ドエムを討つことじゃない…」

 

「し、しかし…」

 

「我らが狙うはブシン祭の真っただ中…。その場には一体どれほどの人間がいると思っている?」

 

「…!」

 

ローズは、はっとした表情を浮かべる。

 

「運よく仕留められればそれに越したことはない…。だが、深追いはするな…。ドエムは、後ほど我らシャドウガーデンが追い立てる」

 

「…わかりました」

 

「それでいい…。今の貴様は、父を救うことだけを考えろ」

 

「はい!」

 

「…時が来るまで身を隠せ…私も貴様の傍で身を潜めておく…」

 

シスイはそう言い残し、ローズの前から霞のように掻き消えた…。

 

 

 

 

 

1人の少女が、ランタンを手に、地下迷宮を駆ける。

 

更にもう一人の少女が、その後をつける。

 

先頭を走る少女は暫く駆けていたのか、多少呼吸を荒げていた。

 

「さっきの膨大な魔力は…ッ!」

 

長い一本道が終わり、水路に差し掛かったところで、少女は歩みを止める。

 

水路の先に気配を感じたからである。

 

その気配は、ゆっくりと少女たちの方へと近づいてくる。

 

その正体に気付き、少女ははっと目を開く。

 

「ローズ先輩!」

 

「ッ!」

 

名を呼ばれた人影、ローズは、大きく目を見開いて少女を見据える。

 

「アレクシアさん…ナツメ先生…」

 

ローズが着ている学生服は大きくはだけ、豊満な胸の谷間が見えていた。

 

さらに、所々に血痕が見られる。

 

「その格好は…さっきの魔力は一体…?」

 

ローズへと駆け寄りながら、アレクシアは心配そうに声をかける。

 

だが、ローズは俯いたまま、駆け寄ってきたアレクシアの横を素通りする。

 

「先輩…?」

 

そんな様相を見せるローズに、アレクシアは困惑した声を上げる。

 

「…力を得ました…。私は私の信じる道を行きます…」

 

「待ってください!どういうことですか!なんで婚約者を刺したんです⁉」

 

ローズは、迷うそぶりをみせつつ歩みを止める。

 

「…ごめんなさい…。あなたを巻き込みたくない…」

 

「それじゃ何もわからない!ちゃんと理由を話して!」

 

ローズは、アレクシアへ些少の笑みをもってして振り返る。

 

「話せば巻き込むことになる…」

 

「ッ…!」

 

ローズのその言葉を聞いて、アレクシアは視線を鋭くする。

 

「…あの時、約束しましたよね?私達4人で大切なものを守ろうって!なのにどうしてそんなこと言うのッ。あなたも私を足手まといでしかないと思っているのッ!」

 

「……ごめんなさい」

 

「ちゃんと答えて!」

 

「私はもう戻れない…私は私の道を行きます…」

 

「…ふざけないで!…その言葉を、イタチにも言えるの?」

 

「…ッ」

 

ローズは、眉間に皺をよせ、苦悶の表情を浮かべる。

 

だが同時に、覚悟を決めた表情にも見えた。

 

「…言えます」

 

「もういいッ!」

 

アレクシアは、手にもつランタンを乱雑に投げ捨てる。

 

「だったら力づくで聞かせてもらうッ!」

 

剣を抜き、ローズへと斬りかかる。

 

ローズも剣を抜き、その斬撃を受け止める。

 

魔力を有した両剣の衝突が、地下迷宮の水路に弾ける。

 

両者ともに距離を取り、再度衝撃を果たす。

 

その後何度か剣戟を続けたのち、水路の奥へと両者は駆ける。

 

「私はもう傍観者じゃない!」

 

「ッ!」

 

両者の魔力が放出を見せ、それを斬撃に変える。

 

その衝撃は水路を駆け巡り、暴風を巻き起こす。

 

カフカは、その暴風から身を守るようにして片手を顔の前で構える。

 

魔力の放出と、それによって発生していた暴風が収まりを見せると、再び水路には静寂が訪れる。

 

少しして、カツカツと靴が地面と擦れる音が聞こえる。

 

次第に人影がカフカの眼に映る。

 

ローズが、アレクシアをお姫様抱っこする形でゆっくりと歩み寄ってきた。

 

アレクシアは、完全に意識を失っている様子であった。

 

「…アレクシアさん、いつの間にこんなに強く…」

 

ローズは、朧げな表情を浮かべながら、抱えているアレクシアを見つめる。

 

「…彼女は、私がお預かりしましょう」

 

「ナツメ先生…」

 

カフカの言葉に従う形で、ローズはアレクシアを彼女に預ける。

 

アレクシアは、特に大きな怪我は追っていないようであった。

 

カフカはアレクシアを寝かせ、膝枕をもって彼女の頭を優しく撫でる。

 

まるで、犬や猫にやってみせるような撫で方であった。

 

それがローズには、カフカの優しさに見えたのだろう。

 

「…ごめんなさい」

 

申し訳ない気持ちが溢れんばかりに、小さく呟く。

 

「私は行きます」

 

ローズは、そう言ってカフカの横を通り過ぎる。

 

その瞬間、カフカは非常に落ち着いた口調をもって告げる。

 

「止めませんよ…」

 

「え…?」

 

思わぬ言葉に、ローズはふっとカフカの表情を見る。

 

…どこか、笑っているような様相をしていた。

 

「私には止める資格がありませんので…」

 

「ナツメ先生…」

 

「…ご武運を祈ります…。私たちの道は、そう遠くない未来に交わるでしょう…」

 

カフカの言葉に、些少の疑問を抱いたローズであったが、彼女にそれを考えている時間はなかった。

 

決心したように、走り出し、来た道を戻るようにして地下迷宮へと姿を消す。

 

カフカはローズが遠ざかっていく音を耳で捉えながら、視線をアレクシアから天へと向ける。

 

「…これが、あなたの選択なのですね…シスイ様…いえ…」

 

カフカは、一つ息を吸いこむ。

 

「…イタチ様…」

 

その一言には、どこか寂し気な、理解しがたいような意思が汲み取ることができた。

 

 

 

 

 

ローズが身を潜めてから早数日…。

 

ブシン祭も佳境に差し掛かり、準決勝一回戦目となっていた。

 

闘技会場には、アイリス・ミドガルと、ジミナ・セーネンの戦いに決着がついたころであった。

 

ジミナ・セーネンという、ぽっとでのぱっとしない青年が驚異的かつ圧倒的な勝利を重ね、その上でミドガル王国最強と謳われる、アイリス・ミドガルを打ち破ったことで、会場は動揺が支配していた。

 

しかし、そんなことは関係ないとばかりに、来賓席のガラス張りの窓に手を添えたエルフの女性は感嘆に似た表情を浮かべている。

 

「すごい技…挑んでみたい…」

 

そんなエルフを後ろから睨むようにして…実際にはジミナ・セーネンという謎の実力者への警戒心であったが、見つめる一人の男がいた。

 

「…バカな、アイリス・ミドガルが…手も足も出ないだと…」

 

オリアナ王国の侯爵の地位を賜っているドエム・ケツハットは、アイリス・ミドガルの力をある程度は理解していた。

 

それこそ、彼が警戒するほどには…。

 

そのアイリスが、何もさせてもらえずに敗北するというのは、心の底からの驚きであり、困惑であった。

 

苦悶の表情を浮かべていたドエムは、来賓が別の騒めきを発していることに気付く。

 

「おい、あれって確か…」

 

「いや…まさか…」

 

その騒めきに、ドエムはふっと視線を下へと移す。

 

騒めきの正体を捉え、目を見開く。

 

長い金髪に縦ロールを有するそれは、ドエムが待ち焦がれた人物であった。

 

思わず笑みが零れる。

 

醜悪さが滲み出る笑みであった。

 

「…ようやく戻られたのですね…我が愛しのローズ王女…陛下もお待ちかねでしたよ…」

 

ドエムが優雅に一礼をローズに向けると、後ろから高貴な人物がゆっくりと前へ出る。

 

しかし、その足取りは覚束ない様相で、且つその頭はひどく項垂れていた。

 

「ローズ…よく…もどった…さあ…こっちへ…」

 

その人物は、オリアナ王国の国王であり、ローズの父もあった。

 

そんな父の姿を見たローズは、しかし特に困惑する様子は見せず、スッと片膝を突いて平伏する。

 

「お父様…私は謝罪に参りました…今までのことを…そしてこれからのことを…」

 

ローズの登場により、何か違和感を感じたのか、エルフの女性が警戒の視線を向ける。

 

しかしその目線は、アイリスを倒したジミナが、眼下でゆっくりとこちらへ近づくように歩いてくるジミナに移される。

 

「…私は、オリアナ王国を守るため…私の信じる道を進みます」

 

ローズの言葉を聞き、オリアナ国王は、ふっと笑みを浮かべる。

 

「お前の全てを、許そう…」

 

「ッ!」

 

その言葉に、ローズは俯いたまま大きく目を見開く。

 

「おい!そんな言葉は指示していないぞ!」

 

ドエムの動揺した怒号が響く。

 

ローズの眼から涙が流れる。

 

まぎれもなく、父の、支配されていない父本来の言葉であった。

 

「何を勝手に…!」

 

「父の愛か…」

 

「ッ!!」

 

突然耳元で聞こえた唸るような声に、ドエムはばっと振り返る。

 

そこには、赤い雲の装飾が施された、漆黒を身に纏う男がいた。

 

「き、貴様はッ!ま、まさか…」

 

「今はまだ、お前に用はない…」

 

「なッ!」

 

その男は、一瞬でドエムの前から姿を消す。

 

加えて、消えたのはその男だけではなかった。

 

「へ、陛下はどこにッ!」

 

陛下も同じく一瞬で姿をかき消したため、しどろもどろと言った様子で周囲を見回す。

 

しかし、発見には至らなかった。

 

最中、先ほどまで片膝を突いていたローズと視線が合い、キッと睨まれていることに気付く。

 

ドエムは、『この女の仕業か…』と思い、問いただそうとするが、ローズが急に走り出して逃げようとしたことで、思考を止める。

 

まずは捉えて吐かせる…。

 

この一連の流れを把握するうえでも、それが最善だと判断する。

 

「逃がすなーッ!!」

 

その声と共に、ドエムの周りにいた護衛らしき人物が数人、ばっと空中へ駆け抜ける。

 

…瞬間、来賓席の大きなガラスが砕かれる。

 

その衝撃音と、外気との壁がなくなったことによる強風が、来賓席へ流れこんでくる。

 

ローズは、その音に反応し、ばっと後ろを振り返る。

 

…一人の男が侵入し、ローズを追っていた護衛らしき人物を一瞬で斬り伏せ、沈黙させる。

 

思わず足を止めたローズは、その男をじっと観察する。

 

全く生気を感じられない瞳、表情、見た目であった。

 

しかし、その人物がただものでないことだけは、はっきりと理解できた。

 

侵入してきたのは、先ほどまでアイリスと戦っていた、ジミナ・セーネンであった。

 

「き、貴様は…ッ!」

 

その男がジミナであることを知っていたドエムは、大きく目を見開く。

 

「…偽りの時は終わりだ…」

 

ジミナがそう呟くと、彼を漆黒が包み込む。

 

次第に全身が見えなくなるが、包んでいた漆黒はすぐにはがれる。

 

すると、先ほどまでのジミナの姿はなく、そこには深いフードを被った男がいた。

 

「我が名はシャド…違った…我が名はシャドウ…陰に潜み、陰を狩る者…」

 

ジミナの声から、低く威厳のある声へと変化する。

 

「シャ、シャドウだと!まさか、ジミナ・セーネンが…ッ!」

 

ドエムは、驚きと共に、震えるように一歩後退する。

 

そんなドエムを一瞥した後、シャドウはスッと視線をローズへと移す。

 

ローズは大きく目を見開き、固まっていた。

 

「…行け…本当の戦いはここからだ」

 

「ッ!はい!」

 

シャドウの言葉を聞き、シスイと自身の関係性を理解していると考えたローズは、止めていた歩みを再開させる。

 

「ま、待て!ローズを逃がすな…ッ!」

 

漆黒の剣を喉元に突きつけられたことで、ドエムは瞬時に口を紡ぐ。

 

「くっ!シャ、シャドウ…ッ!くそっ!増援はどうした!誰かいないのか!!」

 

そんなドエムの言葉に反応する、味方らしき人物は現れない。

 

しかし、ドエムにとっては思わぬ声が耳に入る。

 

「…私がやる」

 

その声に、シャドウはゆっくりと振り返り、期待をもった笑みを浮かべる。

 

エルフの女性であった。

 

イタチの持つものに似た太刀…それを持つ手が些少の動きを見せた瞬間、目にも止まらぬ速さでシャドウに迫る。

 

常人では捉えることすらできない速度で、エルフの女性とシャドウの剣が衝突を果たす。

 

その衝突は圧倒的は衝撃波を生み、一瞬にして来賓席を吹き飛ばす。

 

「ぐっ!あれは武神ベアトリクス…!だが、これなら…」

 

結果として、シャドウの魔の手から逃れられたドエムは、身を潜めるようにして物陰へと姿を消した…。

 

 

 

 

 

 

シャドウとベアトリクスが戦闘を開始してから少し経った頃…。

 

彼らの戦いに赤毛の女性が加わり、その戦闘範囲は王都全体へと広がっていた。

 

その戦闘は、多くの一般市民にはまだ認知されてはいなかったが、所々でそれらが暴れまわる音が響き渡る。

 

それを認知している黒髪ロングの女性が、王都の街中で怪訝な様相を見せる。

 

「どこのバカよ、街中で!」

 

雨が降る中、傘もささずに佇む様相は、どこか焦ったようにも見える。

 

「…ッ!そんなこと気にしてる場合じゃなかった…」

 

先ほどまで自身が人を探していたことを思い出す。

 

止めていた足を再び前へ踏み出して走る。

 

「あの子はどこで遊んでるの!…お姉ちゃんがこんなに心配してるってのに…もう!」

 

その女性が走ると同時に、すぐそこの路地に別の女性が降り立つ。

 

金髪縦ロールを有した女性…、先ほどドエムから、ディアボロス教団の手から逃れた、ローズ・オリアナであった。

 

ローズは、少し離れたところで暴れているシャドウの喧騒を耳に捉えながら、それに背を向ける。

 

その顔には、些少の安堵感が見られた。

 

「一先ずはこれで…シスイが指定した場所はここで間違いないはずなのだけれど…」

 

薄暗く、狭い路地を見渡す。

 

そこには、シスイの姿も、それこそ助け出された父の姿もない。

 

「…あまり長居はできない…どうしたら…」

 

いくら人が滅多に入ってこない路地とはいえ、王都に変わりはない。

 

シャドウの出現と戦闘により、ミドガル王国の騎士団が総出で対処に当たり始めていることだろう。

 

そうなれば、いずれここにもその手は届く。

 

ローズの焦りは至極当然であった。

 

いち早くシスイと合流しなければという焦りが、父の安否確認を急ぐその気持ちが、彼女の思考を鈍らせ始めたその時……。

 

「待たせたわね…。あなたと会うのはこれで二回目ね…ローズ・オリアナ…」

 

「ッ!」

 

突然の声、綺麗な透き通るような声であった。

 

ローズは、先ほど背中を向けた方向から聞こえたその声に、ばっと振り返る。

 

そこには、記憶にある女性が立っていた。

 

「あなたは…確か…アルファ…」

 

「…直接あなたに名乗った覚えはないのだけれど、覚えていたのね」

 

「…あなたのお仲間が、そう呼んでいましたので…」

 

聞きなれない言葉に、ローズは小さく疑問を口にする。

 

「そうだったわね…。そして、あなたも今日から私たちの仲間…そうでしょ?」

 

「…シスイ…さんから全て聞いているのですか?」

 

「そんなところよ…。全てはシスイの計画…」

 

その発言に、ローズは思わず視線を鋭くさせる。

 

「…ッ!あなた達に、オリアナ王国を救う意思はありますか?」

 

ローズは苦悶に満ちた表情を浮かべる。

 

「…本来なら、今のあなたのために我々が動く価値はなかった…。けれど、シスイがあなたを救うと決めた…。彼の決定は絶対…」

 

「……彼は、シスイさんはそこまでのお人であると?」

 

「…表面上はシャドウガーデンのNO.2ということになっているけど、権限と力はトップであるシャドウと同等よ…」

 

アルファの答えに、ローズは大きく目を見開く。

 

「でも、シスイの想いに胡坐をかくような真似を、私は許さない」

 

「…どういう、意味ですか?」

 

アルファのドスの効いた声に、ローズは一筋の汗を流す。

 

「あなたの、そしてオリアナ王国の価値を示しなさい…。シャドウガーデンが救うに値する価値を…」

 

「……オリアナ王国を…救えるのですか…?」

 

「未来など、誰にもわからないわ…。二人以外にはね…。それに、今のあなたに選択肢があるとは思えないのだけれど…」

 

父の身柄は、既にシスイが確保している。

 

そして、父の命を救えるのは、シスイを置いて他にいない…。

 

アルファの言葉は、ローズもわかりきっていることであった。

 

「…シスイさんから力を授かり、父を救ってくれたあの瞬間から、私に迷いなどありません…」

 

ローズは、再度覚悟を決め、そう言い放つ。

 

そしてアルファへとゆっくりと歩み寄り、手を差し伸べる。

 

「…よろしくね」

 

その手を握り返したアルファは、抑揚のない口調で、そう答えた。

 

 

 

 

 

ミドガル王国の一角に、青紫の魔方陣のような紋様が、球状を為して発生した。

 

その中心部は時計台であろうか…。

 

膨大でありながら、完全な制御下に置かれているその魔力は、王都にいる者達を釘付けにするには十分であった。

 

その魔力は、暫く圧倒的な安定感をもって鎮座していたが、一瞬にして弾けるようにして王都を、空を包み込む。

 

…だが、その力が王都に、人々に被害を齎すことはなかった。

 

直視できない程の、暴発に似た魔力の解放であったが、それは次第に煌々と輝く太陽の光へと変わる。

 

対象は空であり、天高く泳ぐ雨雲であった。

 

天候すら変えるほどの魔力に、王都の人々は困惑している様相であった。

 

そんな王都に、微かに誰かが叫ぶ声が聞こえる…。

 

その声は、悲鳴にも、怒号にも、無念にも似た、慟哭のような声であった…。

 

 

 

 

 

オリアナ王国の国王を救出したシスイことイタチは、一足先にアレクサンドリアへと帰還する。

 

そんなイタチを、待っていたかのように、アレクサンドリアの城の前に、女性が一人佇んでいた。

 

褐色の肌に銀髪…。耳はエルフ特有の長さを有し、右目は失明しているのか閉じられている。

 

「お疲れ様でございます、シスイ様…。運ぶのを変わります」

 

「必要ない…。それよりもラムダ…。部屋の用意は?」

 

「はっ!抜かりなく、整えております」

 

ラムダは、イタチの言葉にはきはきとした様子で答える。

 

「案内してくれ」

 

「かしこまりました」

 

一礼し、サッと歩き出す。

 

その様相は、軍人として、シャドウガーデンの新人教育を担当している者として恥ずかしくない凛々しさであった。

 

「…アルファから聞いていると思うが、オリアナ王国の王女、ローズが近々ここに来るはずだ」

 

「はい、承知しております。私が担当する手はずとなっております」

 

「ああ、それでいい」

 

イタチは、異議なしと言った様子で短く答える。

 

「ローズには、俺の魔力を与えてある…。適切に扱えるように訓練させろ」

 

イタチの言葉に、ラムダは思わず立ち止まって振り返る。

 

その眼と表情には、大きな動揺が見て取れる。

 

「シ、シスイ様自ら…⁉」

 

「…なにか問題があるか?」

 

「い、いえ…失礼いたしました。なにもございません…」

 

ラムダは、焦ったように深々と頭を下げる。

 

シスイは、便宜上シャドウガーデンのNO.2となっているが、実際にはシャドウと肩を並べる、もう一人のトップである。

 

最高幹部の七陰、そしてナンバーズと呼ばれる幹部にあたるものは、例外なくそう理解している。

 

実際には、シャドウに対して修行をつけていた経験があるという点もあり、中にはシャドウよりも上と見るものも少なくない。

 

それこそ、ラムダもその一人である。

 

元軍人にして、新人を教育している彼女からすれば、イタチに対する敬意は計り知れない。

 

「気にするな…。ローズはこの先の作戦、とりわけオリアナ王国に蔓延る教団に対する作戦には必要不可欠な存在だ…。壊すような真似はするなよ?」

 

「承知しております…。ですが恐れながら、手を抜くつもりはありませんよ」

 

イタチに対して、その発言は多くのシャドウガーデンの者からすれば、不敬にあたると捉えられるものであった。

 

だが、イタチは特に気にするような様子は見せない。

 

「手を抜く必要はない…過度を控えろと言っているだけだ」

 

「…失礼いたしました。それに関しては、ご安心ください。貴重な戦力であり、何より仲間である者を、不用意に壊したりなど致しません」

 

「そうか…。信頼しているぞ、ラムダ」

 

「はっ!」

 

イタチの抑揚のない、しかし些少の優しさの感じられる発言と声に、ラムダは威厳ある声で返し、用意していた一室に案内するのであった。

 

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