うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第14話 虚偽

ローズ王女の凶行と失踪、そしてシャドウによるブシン祭への冒涜と襲撃…。

 

これらの事件はミドガル王国、オリアナ王国の両国は表面上の繋がりはないとして処理される。

 

オリアナ王国の国王失踪に関しては、王位を狙ったローズ王女の奇行として捉えられることとなった。

 

…それから一夜明け、ジミナ・セーネンという偽りの姿をとっていたシャドウと交戦したアイリスとベアトリクスは、ミドガル王国発の列車の前で別れの挨拶をしていた。

 

列車に乗る予定のベアトリクスは、目の前で見送りをするアイリスの表情を見る。

 

その表情は、悲壮感と無力感に苛まれた顔をしていた。

 

「あまり囚われすぎないほうがいい…人では力の及ばない存在は多い…」

 

アイリスは、嬉々を宿さぬ瞳を向ける。

 

「…あなたはまだ幼いのだから…」

 

「大丈夫です。奴に届きうる力をつけて見せます」

 

先ほどまで光を失いかけていた瞳に、決意と覚悟が滲み出る。

 

それを察したベアトリクスは、少しだけ瞳孔を開く。

 

「…何かあてでもあるの?…」

 

「はい…。シャドウと互角に迫る戦いをした男を知っています。彼に教えを乞うつもりです」

 

アイリスの言葉に、ベアトリクスは先ほどとは比べ物にならないほどに目を見開かせる。

 

「それは、本当…?」

 

「はい…。シャドウ本人が認めた男です…。その強さは、我にも届きうると」

 

ベアトリクスは、開いた瞳を維持したまま、固まって見せる。

 

同時に、列車の汽笛が甲高く響き渡る。

 

出発の時刻が来たようだ。

 

しかし、いつまでも乗り込まずに立ち尽くすベアトリクスを見て、アイリスは些少の疑問を抱く。

 

「ベアトリクス様…?」

 

特に反応は見せない。

 

故にもう一度名を呼ぼうとするが、それよりも早くベアトリクスが口を開く。

 

「…気が変わった」

 

「…え?」

 

ベアトリクスは、列車の入り口から離れる。

 

「ベアトリクス様?列車が発車してしまいます」

 

「…いいの。私もその男に興味が湧いた…。会わせて欲しい」

 

「そ、それは…」

 

ベアトリクスの思わぬ願いに、アイリスは酷く動揺する。

 

その動揺を見て、一瞬首を傾げたベアトリクスであったが、その人物が男であることを察し、一つの勘違いをする。

 

「…身体を差し出してもいい…。会わせて欲しい」

 

「な、なな、何を言っているのですか⁉」

 

性の知識に疎いアイリスであったが、ベアトリクスがどんな意図をもって先の発言をしたのかを理解し、顔を赤らめる。

 

しかし、アイリスの動揺が理解できないベアトリクスは、更に首を傾げる。

 

「…身体には自信がある…。満足させられる」

 

「そういうことを聞いているのではありません!」

 

アイリスは、まるで妹に言い聞かせるようにして激高するが、すぐに冷静さを取り戻し、短く謝罪する。

 

そして、一つ咳ばらいをした後に、落ち着いた様子で口を開く。

 

「そんなことをしなくても、彼ならば会ってくださるでしょう」

 

「…そう。それはよかった…それで、彼はどこにいるの?」

 

ベアトリクスは、一切表情を変えずに淡々と答える。

 

これが歳の差か?と、長命たるエルフである彼女の顔をじっと眺めながらアイリスは一瞬考える。

 

「それが、私も彼と直接コンタクトを取る手段を持ち合わせていません…彼の弟子である、シド・カゲノーくんに仲介を頼む必要があります」

 

「シド・カゲノー…彼がその男の弟子なのか…」

 

「はい…。覚えておられたのですね」

 

ブシン祭の際、来賓と同じ区画に設けられていた特別席で、2人が顔を合わせているのを知っていたアイリスは、思わず目を見開く。

 

シド・カゲノーは、彼女が目にかける程の魔剣士ではない。

 

ごくごく普通の、何のとりえもない魔剣士である。

 

世情に疎く、他人にあまり関心を示さないベアトリクスが、そんなシドのことを覚えているのは驚きであった。

 

「そうか…。彼の潜在能力はそれが理由だったか…」

 

ベアトリクスは、彼との出会いと馴れ初めを思い出しながら、小さく呟く。

 

「…ベアトリクス様…?」

 

聞き取れなかったアイリスは、些少の困惑をもって名を口にする。

 

「気にするな…。それより、早速シドと会わなければな…」

 

「はい。こちらで話は通させて頂きますので、しばしお待ちいただければと…」

 

「わかった…。なら私はマグロナルドにでも行っている…」

 

ベアトリクスはそう言い残し、落ち着き払った様子で再び王都へと戻っていった。

 

 

 

 

 

シャドウガーデンの本拠地であるアレクサンドリア…。

 

その城のとある一室の扉の前で、女性3人が立ち止まる。

 

その内の1人、褐色肌に銀髪を有するラムダが、鮮やかな金髪をしている女性へと鋭い口調を放つ。

 

「くれぐれも失礼のないようにしろ。いいな、666番!」

 

「はい…」

 

666番と呼ばれた女性、ローズ・オリアナは、従うようにして小さく呟く。

 

ローズと比べると、些少の淡みをもつ金髪であるアルファが、一室の扉をノックする。

 

「…入ってもいいかしら?」

 

アルファの言葉とノックに、数秒遅れた後…。

 

「アルファか…、入れ」

 

低い声が返ってくる。

 

666番は、その声に聞き覚えがあった。

 

アルファがそれに従って扉をゆっくりと開ける。

 

先の声の主と思われる男は、少し大きめのベッドの傍にある椅子に座っていた。

 

「来たか…ローズ…。いや、今は666番だったな」

 

黒髪の短髪、年のころは10代後半と言ったところであろうか。

 

ローズがその男に抱いていたよりも若く、そして爽やかさのある青年であった。

 

「シスイ…様、ですか?」

 

「…こうして顔を見せるのは初めてだったな…。そんなことよりも、お前の父は一先ず一命は取り止めた」

 

シスイの後半の言葉に、666番はぎょっとした顔を浮かべる。

 

そして、一切の遠慮がないと言った様相で、シスイと父の間に割ってはいる。

 

「ッ!き、貴様…ッ」

 

その行為に、ラムダが叱責を飛ばしかけるが、シスイの片手による制止によって沈黙を有する。

 

「お父様ッ!」

 

だが、父から返事は返ってこない。

 

「…薬物を抜いたが、酷く疲弊している。暫くは目を覚まさないだろう」

 

「ッ!でも、安静にしていれば、目を覚ますということですよね?」

 

「そうだ」

 

シスイの言葉に、666番は目尻に涙を浮かばせる。

 

その顔に王女としての凛々しさはなく、その辺にいる娘と同じ、ただただ父を心配する少女のようであった。

 

「…ここにいるうちは安全だ…。安心して力をつけろ」

 

「シスイ様…」

 

666番は、涙を拭いながら小さく呟く。

 

「おい、いつまでそうしているつもりだ。行くぞ、666番」

 

そんな彼女の心情など知ったことではないと言わんばかりに、ラムダが檄を飛ばす。

 

数秒してその言葉に従う形で、666番はゆっくりとラムダへと歩みを進める。

 

「…シスイ様、このご恩は一生忘れません」

 

「…礼を言うのはまだ早い…。本当の戦いはこれからだ」

 

「はい!」

 

666番は、力のこもった返事をする。

 

そして、ラムダと共に一礼の後、666番は部屋から去っていく。

 

その足音が遠ざかったタイミングで、黙りこくっていたアルファが口を開く。

 

「…母のこと、伝えなくていいの?」

 

「伝える必要はないだろう…。知らずに済むなら、そのほうがいい」

 

シスイはベッドで横になっているオリアナ国王を見つめながら、小さく答える。

 

「でも、ドエムと繋がっている以上、見過ごすことはできないわ」

 

「そうだな…」

 

アルファは、一瞬のためらいを見せるも、疑問を口にすることにする。

 

「…何か策があるのかしら?殺す以外の策が…」

 

「ああ、一つだけな」

 

「…何か聞いてもいいかしら?」

 

些少の眼の見開きをもって、アルファは尋ねる。

 

「…俺の眼についてはどこまで知っている?」

 

「写輪眼のこと?…あなたの一族特有の眼で、動体視力の向上に、魔力探知、幻術の発動に、相手の動きのコピーでしょ?」

 

どうやら、イータから報告を受けてはいないようであった。

 

「そうだな…。それが通常の写輪眼の能力だ」

 

「通常…?それ以外があるというの?」

 

シスイは、視線を鋭くしつつ、練り上げたチャクラを両目に宿す。

 

3つの勾玉模様を有していた写輪眼は、形を変え、三刃の手裏剣へと変化する。

 

その変化を見たアルファは、大きく目を見開く。

 

「そ、その眼は…⁉」

 

真紅に輝く写輪眼、しかしアルファが知らない模様を有したことで、酷く驚いている様子であった。

 

「写輪眼の上位種…万華鏡写輪眼だ…」

 

「万華鏡…写輪眼…⁉そんな力が…」

 

シスイの、未だ底の見えない力に、アルファは驚きと共に、些少の恐怖に似た感情を抱く。

 

一睨みされただけで、屈服し、身動きすら取れないような畏怖を感じているからだ。

 

「万華鏡写輪眼は、先に言った写輪眼の能力の底上げに加え、左右それぞれに固有の瞳術が発現する」

 

「固有の瞳術…?」

 

「そうだ。この左目に宿ったその瞳術で、王妃の目を覚まさせることができるかもしれん」

 

「…それは、一体どんな瞳術なの?」

 

アルファは、多少のためらいを見せながら、一筋の汗を頬に感じながら問う。

 

「名を月読…。発動条件は、この目を相手に見せること…。発動すれば、空間も時間も質量もあらゆる物理的要因を支配する、術者の精神世界へと相手を引きずり込むことのできる幻術だ…」

 

「空間に時間…質量を支配する…?」

 

シスイの説明を受けても、アルファはどこか腑に落ちないと言った様子を見せる。

 

「そうだな…わかりやすく言えば、こちらの世界では1秒にも満たない時間で、発動させた相手に幻術世界で何十時間でも拷問することができる。嵌めたら最後、大抵は精神崩壊を起こしてそのまま廃人となる。…幻術世界で意図的に殺すこともできる力だ」

 

アルファは、先ほどよりも更に大きく目を見開く。

 

あまりにも圧倒的且つ凶悪な力に、アルファは背中に嫌な汗が滲むのが分かった。

 

しかし同時に、歓喜にも似た感情が湧き上がる。

 

「さすがだわ…。まさか、そんな力を持っていただなんて…」

 

「…これで、王妃の精神に問いかける…。単にドエムにいいように使われているだけなのだとしたら、改心させることもできるだろう」

 

「……もし、改心しなかった時は…?」

 

アルファは、酷く真剣な面持ちで告げる。

 

彼女の中で答えは決まっている。

 

そもそも、ディアボロス教団の幹部であるドエムと懇意にしているという時点で、生かしておく理由などないのだ。

 

月読という幻術を使って改心を促すというだけでも、アルファの中では特例中の特例とも言える。

 

それをもってしても改まらないのであれば……。

 

「その時は、俺が殺そう…」

 

「…私が殺ってもいいわ」

 

「いや、そればかりはローズを拾った俺の責任だ…。君に任せるわけにはいかない」

 

シスイは、アルファから視線を反らし、万華鏡を解除しながら、どこか虚空を見つめるような視線をもって答えた…。

 

「そう、あなたがそう言うのなら、異論はないわ」

 

「…悪いな」

 

「謝る必要なんてないわ…。あなたがそうすべきと判断したのだから……」

 

アルファはどこか自分に言い聞かせるようにしてそう呟く。

 

そして、ふっと話題を変えるような疑問が彼女の中に生じる。

 

「そういえば…その変化の術で変装した姿…それがあなたの親友のシスイなのかしら?」

 

「…ああ、そうだ」

 

イタチは、自身が変化して見せている姿の正体を、アルファへと明かす。

 

「そう…。さすがはあなたの親友ね…。優しさと正義感の溢れる姿をしているわ」

 

アルファの言葉に、イタチは目を見開き、そして笑う。

 

「…俺なんかよりも、優しく、正義感のある男だったよ、シスイは…」

 

…過去に自身が選択し、実行した凶行…。

 

きっとその時、彼が生きていれば、死んでも俺を止めただろうなと、心の中で思うイタチであった。

 

 

 

 

ローズがシャドウガーデンに入ってから数日が経った頃…。

 

イタチは、シドから聞かされた場所…王城の敷地内である野外の訓練場へと姿を見せていた。

 

シドから、「アイリス王女とベアトリクスさんが会いたいっていってたよ」という話を聞いたためであった。

 

アイリスとは何度か顔を合わせているため、特に驚きはなかった。

 

しかし、ベアトリクスは違った。

 

シドの言っていた通りであった。

 

そっくりとはいかずとも、よく似ていると言わしめるほどに、アルファを思わせる顔をしていた。

 

そんな驚きも露知らず、アイリスはイタチの姿を捉えると、軽く一礼をもって口を開く。

 

「イタチさん、お忙しいところご足労頂きまして、ありがとうございます」

 

「お気になさらずに…。それで、こちらの方は?」

 

シドから名前も容姿の特徴も聞いていたが、初対面であることに変わりはないため、それとなく質問する。

 

「初めまして、イタチ。私はベアトリクス…。あなたがシャドウと渡り合ったというのは本当?」

 

その言葉に、イタチは少しだけ眉を顰める。

 

なるほど、シド言っていた通り、そこそこの強さを有するエルフだ。

 

顔だけでなく、実力もアルファと同格とは驚いた。

 

「ええ…といっても、奴が本気になれば、勝率はほぼ皆無でしょうね」

 

嘘はない。

 

この世界での『イタチ・ウチハ』としての力、即ちチャクラの使用を完全に制限し、純粋な体術や剣技、魔力だけでシャドウと渡り合うとなれば、敗北は必至。

 

それこそ、シャドウが扱うアトミック。

 

それにイタチなりに昇華した『魔力を圧縮して放つ斬撃』、その最高峰とも言える、とある技をもってしても、アトミックの5割程度の威力しかない。

 

魔力の扱い、とりわけ圧縮に関しては、イタチはシャドウのレベルには達していないし、今後も達することはないだろう。

 

…魔力だけで、という前提条件が付くが。

 

「そうか…。一つ頼みがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「私と戦ってほしい」

 

ベアトリクスは、手にもつ太刀の柄に手を添える。

 

まるでイタチが端から承諾するような素振りであった。

 

「なるほど…。お引き受けしましょう…」

 

この2人に、世界の闇の息がかかっている様子はない。

 

であれば、有事の際には力になってくれる可能性は十分にある。

 

「では、始めましょうか」

 

イタチがそう言葉を発した瞬間、ベアトリクスは太刀を掴む手に力を込め、神速の一刀をイタチに振りかぶった。

 

 

 

 

 

ベアトリクスとイタチの戦い。

 

その後にアイリスとイタチの戦いも繰り広げられた。

 

結果は、両戦いともにイタチの圧勝。

 

ベアトリクスもアイリスも、イタチに一太刀も浴びせることはできなかった。

 

「…驚いた。シャドウと戦っているみたいだった…」

 

「完敗です…」

 

ベアトリクスとアイリスは、息を切らしながらイタチへと称賛の言葉を並べる。

 

「お2人共筋はいいと思います。磨けば更に強くなるでしょう」

 

イタチは、抜刀していた太刀をスッと鞘に納めながら、落ち着いた面持ちで口にする。

 

その言葉は、2人の目を見開かせるには十分であった。

 

「イタチさん、私には何が足りないのでしょうか?」

 

「…アイリス王女、あなたには才能がある…。剣技に魔力量、それらは非常に稀有なものです」

 

イタチの言葉を、アイリスは黙って聞いている。

 

自身に才能があることも、他と比べて恵まれた魔力を有していることも自覚しているからだ。

 

「故に、あなたは疎かにしてしまった…。基礎の剣を、魔力の扱いを…」

 

「ッ!基礎の剣…魔力の扱い…ッ!」

 

「アイリス王女、あなたの剣は、悪く言えば、ただ力任せに魔力を放出して放っているだけ…。基礎の剣を身につけ、魔力を制御し、鋭利に圧縮する…。それができれば、あなたは更に強くなるでしょう」

 

そしてイタチはそのままベアトリクスへと視線を向ける。

 

「そしてベアトリクスさん。あなたは剣の型はほぼ完成している…。他の剣技を自身に落とし込めることもできるでしょう。しかし、魔力の扱いがまるでなっていません」

 

「…すごい、シャドウも同じことを言っていた」

 

ベアトリクスは、先日シャドウに言われたことと全く同じことを吐くイタチに、更に興味を抱く。

 

「魔力の扱いを更に緻密にすることができれば…少なくとも私には届きうる力になるでしょう」

 

「…わかった…。精進する」

 

イタチにスッと一礼をもって答える。

 

その所作は、まるで侍のような美しい礼であった。

 

「お礼を言われるほどのことではありません。…それで、私への用というのはこれで終わりですか?」

 

イタチは、小さく息を吐く。

 

一仕事終えたようなその所作に、アイリスはどこか緊張感をもって口を開く。

 

「…もう一つ、お願いがあります」

 

「なんでしょうか?」

 

「…私を、弟子にしてくれませんか?」

 

アイリスの願いに、イタチは思わず口を半開きにして固まる。

 

そこに更に追い打ちをかけるようにベアトリクスも口を挟む。

 

「私も、あなたに興味が湧いた。あなたと一緒に旅をしながら研鑽を積みたい」

 

両者の目には、まるで太陽のような輝きと、折れぬ覚悟が見て取れた。

 

イタチは即座に冷静さを取り戻し、その返答を口にする。

 

「アイリス王女…。あなたはこの国の第一王女です。そんなあなたに、流浪の魔剣士の私が師となるなど、周りが認めるとは思えません」

 

「そ、それは…ッ!」

 

アイリスは、ぐっと押し黙って俯く。

 

「そしてベアトリクスさん…。私は、暫くこの王都を拠点にするつもりです。あなたと共に旅はできません。それに、あなたには目的があるのではないですか?」

 

「…そうだ…。だが…」

 

ベアトリクスは、はっと気づいたような表情を浮かべたのち、酷く悩んだ様子を見せる。

 

両者とも、非常にしょんぼりとした、落ち込んだ様相をしていた。

 

数秒間の沈黙が流れる…。

 

先に折れたのは、イタチであった。

 

「そうですね…。それなら、時折であれば、お付き合いできるかと思います。お2人共素人というわけではありませんし、毎日私が師事をする必要性もないでしょう…。各々先の課題に取り組めば、自ずと力はついてきます」

 

イタチの言葉に、2人はぱあッとした表情を浮かべる。

 

アルファよりも感情を表に出さない人だと思っていたベアトリクスが、そんな表情を見せたことに、イタチは少しだけ驚く。

 

「ベアトリクスさんに関しては、目的もありますし、殆どお付き合いはできないかもしれませんが…」

 

イタチの言葉に、ベアトリクスは少しだけ口角を上げる。

 

「いや、目的も大事だが、イタチに興味が湧いた…。私も暫くこの国にいることにする」

 

「…シドの話によると、妹さんのお子さんを探しているのではないのですか…」

 

「ああ…。だが、エルフの寿命は長い…。数年はこの国で、君と共に過ごすことにするよ…。それに、数年たてば、君と一緒に旅をすることもできるかもしれない」

 

イタチは、心の底から後悔した。

 

ベアトリクスの探している人物は、十中八九アルファのことだろう。

 

これだけ似ているのだ。

 

そして、不幸にもアルファは過去の、それも家族や親せきとの関りを求めてはいない。

 

悪魔憑きとなって、ごみのように捨てられたのだから、それも当たり前であろう。

 

目の前の彼女は、きっとアルファが悪魔憑きになったことすら知らないのであろう。

 

彼女はそれ以上、家族のことを語ったことがないので、イタチもあまり詳しくは知らない。

 

おそらくアルファの母である妹も、アルファが悪魔憑きになる前に死んでしまったのかもしれない。

 

まあ、要するに、両者を会わせることはできない、というか、現状では避けなければならないということだ。

 

そうであるにもかかわらず、ベアトリクスが王都に滞在することを決めてしまった。

 

原因は、もちろんイタチである。

 

しかも、何やら変な興味を持たれてしまったというのもよくない。

 

しかし、言ってしまった手前、今更『やっぱダメ』とも言えず、イタチは自身のお人好しな性格を自覚なく呪う。

 

「あなたと旅をするというのは、ないと思っていてください」

 

「…問題ない。数年で心を開いて見せる」

 

うーん、どうやらアルファと同じように感情が重く、しかしアルファ以上に実直な性格の人物のようだ。

 

イタチは、脳内にいるアルファが不穏な表情を浮かべているのを想像しながら、小さくため息をついた…。

 

 

 

 

 

アイリスとベアトリクスに師事をしたイタチは、その後ミツゴシ本社の一室で一人の少女と向かい合っていた。

 

銀髪で青眼の泣き袋が可愛い、ベータであった。

 

「ど、どうしても、どうしてもだめなのですか…?」

 

「………」

 

ベータの懇願するような瞳と言葉に、イタチは思わず口を紡ぐ。

 

彼女からの願いはこうであった…。

 

『忍の叡智を、物語を教えてくださいませんか⁉』

 

…教えるわけにはいかなかった。

 

イタチは心に決めたのだ。

 

聖地で、ベータの出版した本を見て…。

 

軽はずみな過去の話をすれば、それを本にされ、たちまち大ブレイク…。

 

イタチの知り合いや見知った人物の活躍を本として昇華されるのは、まあ悪い気はしない。

 

しかし、イタチの生きてきた忍び世界というのは、この世界よりも更に血みどろの世界だったのだ…。

 

まあ、実際にはイタチの人生が血みどろで、入ってくる話や見聞がそっちに偏っているというのもあるのだが…。

 

英雄譚や活躍ならまだしも、知り合いや上司の慟哭を本にされたとあっては、たまったものではない。

 

「悪いが、俺の知る物語は、前に話した神無毘橋の戦いと同様に、あまり気持ちの良い話ではない。その手のネタが欲しいのなら、シドに聞いた方がいい」

 

「いえッ!そのようなシリアスな話が、今はブームなのです!ですから、是非!!」

 

イタチの思惑とは裏腹に、ベータは更に喰って掛かる。

 

どうしたものか…。と頭を悩ませていたイタチであったが、一つだけ、先の問題をクリアできる話があった。

 

ようは、他人でなければいいのだ…。

 

「一つだけ、ベータの望んでいる話がある」

 

「ほ、本当ですか⁉」

 

イタチの言葉に、ベータは手に持つメモ帳とペンをぐっと握りこむ。

 

「相当残酷で、相当胸が詰まる話だが、それでもいいか?」

 

「は、はい!…お聞かせください!」

 

ベータの覚悟の決まった視線に、イタチは一つ深呼吸をして、語り始める。

 

…とある男が、自身の器を測るため、自身の力をより高めるために行った、凄惨な一族殺しの話…。

 

そして、その弟が男を討ち取り、英雄となった(であろう)話を…。

 

………イタチが話し終わると、ベータはポロポロと涙を零しながら、しかし怒りの感情がその表情には表れていた。

 

「酷すぎます!!己が力を高めるためだけに、家族を、一族を皆殺しにするなんて!」

 

「…そうだな」

 

ベータの激高にも似た言葉に、イタチは小さく呟くようにして答える。

 

「この話の弟さんは…相当苦しんだのでしょうね…」

 

「…ああ」

 

「でも、それを乗り越え、逆賊の兄を討ち取り、国の英雄となる…素晴らしい、素晴らしいお話です!」

 

「…彼でなければ、乗り越えられなかっただろうな」

 

イタチは、物耽る様な表情を見せる。

 

「ありがとうございます!シスイ様!これは超大作の予感がします!!」

 

「…そうか、ならよかった…」

 

早速執筆するのだろうか?

 

足早にイタチの元を離れるベータを見送りながら、イタチは大きくため息をつく。

 

過去の自分であれば、決して話すことはなかったであろう。

 

…あまり気持ちの良いもの…というよりも、トラウマに近い話である。

 

だが、既にとある人物にそれを打ち明けている手前、イタチの口は前世に比べて随分と軽くなっていたのだ。

 

まあ、イタチ自身が救われたい、楽になりたいという部分が大半を占めるのであるが…。

 

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