うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第16話 魔遁

 

イタチが無法都市に到着すると、そこは地獄のような光景が広がっていた。

 

「…一足遅かったか」

 

そう呟きつつ、一人の女性に些少の悪態に似た感情を抱く。

 

謎の尋問と宥めがなければ、もう少し早くここへたどり着いていたことだろう。

 

眼下で起こっている、惨劇に、イタチは思わず目を背けたくなる。

 

「…ディアボロス教団…碌な奴はいないようだな…」

 

血の女王に悪意はない…。

 

それどころか、彼女は人間等との共生を望んでいる…。

 

いや、なんなら達成しかかっていた。

 

それは、シャドウガーデンの面々が調べ上げた、確かな情報であった。

 

それを、悪意ある吸血鬼が、教団と結託して貶めたのだ。

 

イタチは、無法都市全体を救う手立てを有している。

 

発動させる…。

 

そう思ったときであった。

 

紅の塔に、無数の血の雨…いや、血の槍が降り注ぐのが見えた。

 

写輪眼を発動し、目を凝らす。

 

距離は離れているが、この世界に来てから回復した視力と、写輪眼の視力強化によって、塔の惨状が目に飛び込んでくる。

 

見知った顔ぶれが多い。

 

ギリギリで持ちこたえているものの、破綻は時間の問題に見える。

 

「…まずいな」

 

イタチが行おうとしているものは、自身が慣れていないこともあり、多少時間がかかる。

 

「先にあちらの片を付ける方が先決か…」

 

誰に言うわけでもなく、そう小さく呟いて、イタチはその場から瞬間移動するようにして姿を消した…。

 

 

 

 

 

「シスイ様…」

 

ベータは、ペタンと座り込みながら、大きな黒い背中を見つめる。

 

イタチの魔力が、ベータ達を包み込むような動きを見せる。

 

「無事か…ベータ…ッ!」

 

ベータの手に発生している魔力暴走による肉塊を見て、イタチは眉を顰める。

 

「悪魔憑きか…血の女王の力に反応したか…」

 

イタチは、ローズや他の構成員達にも同じようにそれが発生しているのを見て、ぶわっと言う効果音が似合う様相で、真紅の魔力を彼女らへと向ける。

 

その魔力は、彼女たちを蝕む悪魔憑きを急速に鎮静化させ、元の身体へと戻していく。

 

「シ、シスイ様ッ!」

 

「こ、これは…ッ!」

 

「うそ…!」

 

「あぁ…シスイ様…また私を…」

 

ローズ、664番、665番、そしてベータが、驚きと感嘆の声を上げる。

 

だが、一人だけ、イタチの魔力に反応を示さない人物がいた。

 

「…そ、そんなッ!シスイ様の魔力でも…」

 

ベータにとって、それは自身の身体に悪魔憑きが再発した時よりも驚くべき事象であった。

 

イタチは救世主、いわば神のような存在。

 

イタチに為せないことなどない。

 

ベータはそう思っているし、信じ切っている。

 

だからこそ、その人物、クレアの悪魔憑きの侵攻を抑え込めないような光景には、絶句に似た感情を抱く。

 

…しかし、それとは対照的に、イタチはふっと笑みを浮かべる。

 

「なるほど…。俺の助けはいらなかったか…」

 

艶めかしいほどの紫色をした長髪が、クレアだった肉塊から生え広がる。

 

同時に先ほどまで見るに堪えない肉塊であったものが、再び人の形を取り戻す。

 

…だが、それはクレアの様相を呈してはいなかった。

 

豊満な胸を前へ押し出し、ぐっと両手を天へと伸ばす。

 

「んぅ~…ざっと数か月ぶりの自由…♪」

 

「そんな…なぜ…?」

 

「クレア…なのか…?」

 

嬉々として声を上げる女性に対し、ベータとメアリーは酷く動揺して見せる。

 

「…クレアを依り代にしていたとはな…アウロラ」

 

「ど、どういうことですか⁉シスイ様!」

 

訳を知っているであろうイタチに、ベータは食って掛かったような物言いで迫る。

 

「シスイ…?ああ、なるほど、彼と同じね…。どちらにしても、久しぶりね」

 

アウロラの言葉に、イタチは少しだけ目を見開く。

 

変化の術も、魔力の変質も完璧なはずだ。

 

だが、見抜かれた。

 

それがイタチに先の反応をさせるに至る。

 

「久しぶりだな…。察しが良くて助かる…」

 

だが、両者の感動?の再会は数秒しか持たなかった。

 

赤き月を背に、空中に佇むエリザベートが、無数の血の槍を向けてくる。

 

それを察したイタチは、両目を見開き、それを万華鏡写輪眼へと変貌させる。

 

血の槍がイタチ達へと届く瞬間、真っ赤な骸骨の巨人が現れ、それを全て防ぎきる。

 

「な、何だこれはッ!」

 

「「ひぃ…が、骸骨~…」」

 

「魔力で…作っているのか…」

 

「わぁぁぁ~……」

 

メアリーは困惑し、664番、665番抱き合いながら畏怖し、ローズは大きく目を見開いて固まる。

 

ベータだけは煌々とした輝きを目に宿して感動している。

 

「あら、須佐能乎ね…。もう一度見れるなんて、幸運だわ」

 

「そうか…。お前は知っているんだったな」

 

「ス、須佐能乎…ッ!も、もしかしてこれは、忍の叡智ッ!忍術なのですかッ!」

 

ベータは、酷く感動しているが、対してアウロラは些少の冷ややかな視線をイタチに向けてくる。

 

「忍の叡智?…あなた、そんな洒落た事を幼気な少女に教え込んでいるの?」

 

「………本気でそう思うか?」

 

「………あー、その一言でなんとなくわかったわ…ごめんなさい」

 

ふむ…。

 

どうやら本当に察しの良い女である。

 

その洞察力に、イタチは既に2度も救われた…。

 

「…忍の叡智かどうかは置いといて、忍術であることは確かだ…」

 

「…両目の万華鏡写輪眼を開眼した者のみが扱える力…それがこの須佐能乎よ…」

 

「……あいつといい、お前といい、なぜお前達が説明するんだ」

 

「ふふっ…ちょっと言ってみたかったのよ…。なんかかっこいいし」

 

アウロラは、悪戯が成功した子どものようにくしゃっと笑って見せる。

 

「…まあいい。一先ず、お前たちは須佐能乎の内側にいろ…。その間に俺が…」

 

「待って…。ここは私がやるわ」

 

イタチはその申し出に、大きく目を見開く。

 

「試してみたいことがあるの…。いいでしょ?」

 

「…その身体はお前のものじゃない…。クレアのものだ」

 

「わかってるわよ…。死ぬようなことはしないわ…。でも、どれほど耐えられるのか、確認する必要はあるでしょ?この子のためにも…」

 

イタチは、沈黙をもってそれに答える。

 

それを肯定と受け取ったアウロラは、ゆっくりと口角を上げる。

 

「それに…試してみたいことがあるの…」

 

「……試したいこと?」

 

イタチは、少しだけ首を傾げる。

 

「ふふ…」

 

瞬間、アウロラを中心に、真っ赤な球状の魔法陣が浮かび上がる。

 

イタチは、誰がどう見ても驚いているとわかる表情を浮かべる。

 

それは圧倒的な魔力を有し、かつ精密な制御をもって展開されていた。

 

少し遅れて、ベータが怒りにも似た表情を浮かべる。

 

「は…はぁ⁉…あなた…まさか…⁉」

 

「……これは…」

 

イタチは、独り言を呟くように、小さな声を発する。

 

アウロラは、片手を掲げ、ドヤ顔で詠唱を始める。

 

「アーイ…」

 

アウロラの後ろで、ベータが歯ぎしりをするような音が聞こえる。

 

怒りか、困惑か、将又悔しさか…正確な彼女の感情は読み取れないが、良い感情を抱いていないのだけはわかる。

 

「…アーム…ジ・オール……」

 

イタチが、ゆっくりと目を見開く。

 

「ッ!よせ…!」

 

何かに気付いたようだ。

 

瞬間、アウロラの掲げた手が弾け飛ぶ。

 

辛うじて手の原型は保っているが、夥しいほどの出血を齎す。

 

「え…ッ」

 

アウロラの困惑した言葉と共に、魔方陣が一瞬で離散する。

 

「あらら…身体の方が耐えられないか…」

 

「ちょっとッ!…あなたねーッ!」

 

アウロラが残念そうな様子で呟くが、それをベータが叱責するようにして迫る。

 

「大丈夫よ…。このくらいならすぐ治るわ…」

 

「そういう問題じゃ…」

 

「そういう問題よ…」

 

アウロラとベータが言い合いを展開する中、エリザベートの魔力が高まりを見せる。

 

「また…ッ!」

 

「平気よ…ここには、頼れる男がいるじゃない」

 

アウロラの言葉に、ベータがバッとイタチへと視線を向ける。

 

「…バトンタッチよ、シスイ…。私、もう限界みたい…。また今度…」

 

アウロラの周りに真っ赤な魔力が漂う。

 

次第に、本来の姿であるクレアへとその容姿を変える。

 

「ああ…」

 

その言葉を受け、イタチは一歩前へ踏み出し、両手で印を結び始めた…。

 

 

 

 

 

エリザベートの能力は、魔力で血を操る。

 

聖地においてアウロラがやって見せたものと同じ力である。

 

その無数の槍のような攻撃がイタチへと襲い掛かるが、須佐能乎の強固な防御は破れず、全てが空しく四散する。

 

加えて、須佐能乎の内側にいるベータ達の血を操ることもできずにいた。

 

「…エリザベート様の攻撃をこうも完璧に防ぎきるなんて…」

 

「素晴らしいです!シスイ様!!」

 

メアリーとベータが、驚きと感嘆の声をイタチの背中へと放つ。

 

このままでは突破が難しいと考えたのか、エリザベートは更に魔力を込める。

 

それを見逃すはずのないイタチの写輪眼は、目にも止まらぬ速さで印を結び、大きく息を吸いこむ。

 

「『火遁・豪火球の術』!」

 

吸い込んだ息は、火炎放射として、イタチの口から放出される。

 

その火炎放射は、巨大な火球となり、エリザベートへと突進していく。

 

その熱は凄まじく、そこら中に点在しているエリザベートの攻撃の残骸、血だまりを一気に蒸発させる。

 

「火を吹いている…」

 

「これってッ!さっきの!」

 

「す、すごい…」

 

664番、665番、666番が餌を求める鯉のように、口をパクパクとさせて驚く。

 

エリザベートに攻撃が当たる直前、魔力を込めた血の防壁がそれを防ぐ。

 

先ほどの血の槍よりも強固に練られた魔力により、豪火球は相殺という形で、花火のように爆発四散する。

 

「やるな…」

 

イタチは、些少の関心を言葉にしながら、再度印を高速で結び、息を吸いこむ。

 

「『火遁・鳳仙花の術』」

 

1mほどの大きさの火球が10個ほど発生し、扇形に広がる。

 

新たな攻撃を察し、エリザベートは先ほどの血の盾から血の槍を生成する。

 

血の槍と鳳仙花がぶつかるが、その力の差は歴然で、血の槍は一瞬で蒸発し、鳳仙花の進撃を止めることができない。

 

しかし、血の槍の方は100はくだらないほどの数を有しており、連続で迎撃を受けた鳳仙花は、次第に勢いをなくし、またもエリザベートに届く前に消失してしまう。

 

「これでは手数で分が悪いか…なら…」

 

イタチは、更にチャクラを練り上げ、印を結ぶ。

 

「『火遁・鳳仙陣の術』!」

 

生みだす火球は、先ほどの鳳仙花と同じ1m程度のもの。

 

しかし、数が圧倒的に違った。

 

エリザベートの放つ血の槍と同じ、100を超える火球であった。

 

鳳仙花と同じように扇形に広がるが、数が10倍以上あるため、その規模の違いは誰しもが一目で理解できるほどであった。

 

未だ意識がしっかりとせず、無表情のままであったエリザベートが、些少目を見開く。

 

威力は変わらずとも、自身の血の槍10本でようやく鳳仙花1弾を防げるほどの差があるのに、それが100弾も襲ってくるとなれば、彼女に迎撃できる可能性などなかった。

 

故に、防御一択となる。

 

込められるだけの魔力を込め、展開できるだけの血を全て壁へと変質させる。

 

壁に大量の火球が激突する音が響いた瞬間、それらがとてつもない熱をもって爆発する。

 

「ッ!」

 

エリザベートは、思わず目を細め、顔の前に手を添える。

 

なんとか防ぎきることはできたが、魔力の消耗が著しい。

 

先ほどと同じ強度の盾は、もう生成できないだろう。

 

崩れ始めている血の盾を見据えながら、先ほどから攻撃を仕掛けてくる男へと視線を移す。

 

目を疑う…。

 

巨大な真っ赤な骸骨の中にいたはずの男の姿が見えなかったのだ。

 

視線を左右へと動かす。

 

しかし発見できない。

 

…その瞬間。

 

「…後ろだ」

 

エリザベートは、大きく目を見開いて、ばっと後ろを振り返る。

 

と同時に、魔力と血で巨大な鎌を形成し、振りぬく。

 

だが、攻撃が当たった感触はない。

 

「…驚いたな、まだそんな力が残っていたのか」

 

再度、後ろから声が響き渡る。

 

同じようにして振りかぶるが、今度はガギンッという接触音が発生する。

 

イタチが、スライムソードで彼女の攻撃を防いだのだ。

 

ギギッと短くせめぎ合う。

 

「…魔力と武器の扱い…共に申し分ない…」

 

イタチがそう一言呟いたと同時に、両者が上空で何度も衝突を繰り返し始めた…。

 

 

 

 

 

「おいおい…なんであいつ火噴いてたんだ?」

 

「わっちに聞かないでくれなんし…」

 

イタチの発動させている須佐能乎の後方、ジャガノートとユキメが、互いに目を合わせず会話する。

 

戦闘が上空へと移ろいを見せ、ジャガノートは再度呆れにも似た驚きを口にする。

 

「…シスイって言ったか?あいつは本当に人間か?」

 

「さあ?…でも、わっちらでは決して敵わないのは確かでありんすなー…」

 

「シャドウもあれくらい強いのか?」

 

「だから、わっちに聞かんでくれといってるでありんしょう…」

 

ユキメは、はぁ…と呆れた様子でため息をつく。

 

「でも、彼はシャドウガーデンのNO.2でありんすから…。常識的に考えれば、シャドウはんの方が強いんじゃありんせんか?」

 

「はっ!あれ以上につえーなんて、にわかに信じられねーな…」

 

ジャガノートは、天上で繰り広げられる圧倒的な力と速度を有する戦闘を眺め、悪態を吐く。

 

もしあそこに自分がいたら…と考えたのだろう。

 

「…一瞬だな」

 

「なんて?」

 

「なんでもねーよ!」

 

ユキメの短い疑問に、ジャガノートは苛立ちを隠すことなく返した。

 

 

 

 

 

 

一方、ベータはイタチのいない、しかし未だ発動中の須佐能乎の中で、大きく目を開き、空を見上げている。

 

まるで太陽が目の中に入ったのかというくらいに、輝かせている。

 

ベータ含め、七陰の中で、それこそアルファでさえ、イタチが忍術を扱う様を見たことはあまりない。

 

あるとすれば、イタチがよく使う、『写輪眼』くらいである。

 

イタチ本人から『忍術は様々な種類が存在する』と聞いていたが、ベータが知っているのはそれを除けば、片手で数えられる程度である。

 

なぜ使わないのか…。

 

その深淵なる考えの全てがわかるわけではないが、一つに『異質』という点が挙げられる。

 

イタチの扱う『忍術』は、魔力ではなく、チャクラを用いて発動させる力である。

 

この力は、イタチがかつて身を置いていた『忍者が主流の国々』で扱われている力であり、この近辺ではめったに見られない力だという。

 

もちろん、ベータ含めそれを知るものがいなかったことからも、それは真実であると理解できた。

 

一体どれほど遠い国々にいたのか、それすらもわからないほどだ。

 

そんな力、この辺りの人々が知りえない力を使えば、目立ってしまうのは必至。

 

あからさまに目立つのは、シャドウガーデンの意に反することになる。

 

だから、イタチはあまり忍術を使わない。

 

それがベータの、七陰全員が察していることであった。

 

故に、ベータは目を輝かせる。

 

万華鏡写輪眼、須佐能乎、豪火球、鳳仙花、鳳仙陣…全てが初めて聞き、目にする力であった。

 

さらに言えば、そのどれもがベータの想像を遥かに超える力であり、且つ美しかった。

 

アーティファクトを用いることなく、それでいてこれほど強大な魔力の巨人を、火炎を生み出すなど、神の如き所業に見えたのだ。

 

「シスイ様ッ///…ベータは今、とても感動しております…///」

 

両手をその豊満な胸の前で絡め、頬を赤く染め、目をトロンとさせて呟く。

 

空には、似たような色の魔力のぶつかり合いが、しかし赤と真紅というまるで違う色合いが交差している。

 

「噓でしょ…。エリザベート様が…手も足も出ないなんて…」

 

ベータと同じように空を見上げるメアリーだが、その表情には驚愕と恐怖が滲み出ている。

 

エリザベートは、この世界でも屈指の強さを誇る、メアリーにとっての主である。

 

彼女が戦いにおいて、苦戦を強いられることなどなかった。

 

それこそ、彼女の力が暴走すれば、周辺国家が灰燼に帰すくらいには、強大な力を有している。

 

ところがどうだろうか…。

 

そんなエリザベートを、遥かに凌ぐ力を見せている男がいる…。

 

驚きなどというモノではない…どちらかと言えば、絶句に近かった。

 

「シスイ様…。やはり、イタチさんよりも…」

 

シスイの正体を知らない666番は、別人だと確信しているイタチと比較し、些少の怪訝さを含んだ様相を見せる。

 

666番にとって、最も尊敬し、敬愛する男は、イタチである。

 

それは5年前から一切ぶれることなく、そしてシスイから施しを受け、救われた今でも変わらない。

 

彼女は、オリアナ王国を救い、内乱騒動が収まりを見せたら、イタチを迎えに行く腹つもりであった。

 

それくらいには、彼に依存している。

 

その大きな要因が、幼少期に救われたこともそうであるが、自身の道を決めるきっかけとなった剣技、強さであった。

 

イタチこそが最強の魔剣士である…。

 

そう思っていた。

 

だがそれは、数か月前に彼と再会を果たしたことで、呆気なく崩れ去る。

 

しかも、彼の口から『シャドウとシスイには敵わない』と聞かされたのだから、その驚きは大きかった。

 

イタチの言葉を疑っていたわけではない。

 

だが、実際に見るまでは信じ切れていない部分もあった…。

 

しかしどうだろうか…。

 

目の前でシスイが放った摩訶不思議な力…。

 

そして今天上で繰り広げられている圧倒的な剣戟…。

 

イタチの戦いを見たからこそわかる…。

 

…シスイの方が、強いと。

 

どこか、悔しさに似た感情が芽生える。

 

ぐっと666番が拳を握りしめた途端、無法都市全体を包んでいるのではないかと錯覚するほどの深紅の魔力が吹き荒れる。

 

その魔力は、次第に巨大な球形を形作る。

 

見覚えがあった…。

 

些少の色の違いと、圧倒的な魔力の質という違いはあるが、つい先ほど見て感じたものと酷似していた。

 

「こ、これは…さっきと同じ…?」

 

666番は、まるで紋様のように浮かび上がる膨大な魔力を見つめる。

 

「ま、まさか…シスイ様も…これをッ!!」

 

666番と同様に、だがそれ以上の興奮を抱きながら、ベータが叫ぶ。

 

だが、一人だけ、明らかに動揺している人物がいた。

 

その魔力が、エリザベートを滅ぼすと感じたのだろう。

 

「まって!お願い!!まってッ!!」

 

メアリーの顔に、ドッと冷や汗があふれ出す。

 

両眼には、わずかに涙すら浮かんでいた。

 

「ッ!エリザベート様ーッ!!」

 

…瞬間、世界が真紅の魔力に、波動に包まれた…。

 

 

 

 

 

イタチは、エリザベートとの剣戟の最中、あることに気付く。

 

「(…剣の冴えが増している?)」

 

最初に剣と鎌を交えた時よりも、攻撃の練度があがっていることに気付いたのだ。

 

そして、その要因に気付く。

 

それは彼女の目が、イタチをしっかりと認識し始めたことで、理解に至る。

 

「(そうか…。目覚めたばかりで、意識が混濁していたのか…)」

 

イタチは、そう結論付けるのと同時に、彼女の持つ鎌を大きく弾いて見せる、

 

と同時に、彼女へとぐっと接近する。

 

その距離は10㎝程度であり、見る人が見れば、抱き合っているようにも見える距離であった。

 

エリザベートは、一瞬目を見開くが、すぐに小さく微笑む。

 

「お名前を…教えて頂けますか?…紳士様…」

 

その言葉を、イタチは表情を変えずに受け取る。

 

瞬間、極限まで圧縮された魔力が一気に広がりを見せる。

 

これは、イタチがこの世界に来て編み出した、いや、とある人物の力を参考にして編み出した、魔力を主体とした技、力であった。

 

この世界において、魔力というモノは特化型と言える。

 

剣に魔力を込め、ぶっぱなす。

 

脳筋も良いところである。

 

しかし、これがこの世界の常識であった。

 

だが、シャドウはその常識を覆した。

 

魔力を込めて攻撃するしかなかったこの世界で、シャドウはそれを圧縮し、制御し、拡散させるという技を編み出したのだ。

 

一言でいえば、『汎用化』させたのだ。

 

それによって生まれたのが、『アトミック』である。

 

初めて見た時、正直な話、心の底から見事だと感じた。

 

…それと同時に、イタチは自分でも再現可能であると感じたのだ…。

 

圧縮、制御、拡散…。

 

確かに魔力でやって見せたのはシャドウである…。

 

だが、チャクラにおいて、忍術として、それは既にイタチが習得しているものでもあった。

 

そして、魔力はチャクラと性質が似ている…。

 

出来るはずだと…確信した。

 

圧縮においてはシャドウに劣るため、奴ほどの威力が出せるわけではない…。

 

それこそ、須佐能乎のもつ攻撃手段の方が威力としては高いだろう…。

 

だが、ことこの場面では、その攻撃力は良い結果を生むことはない…。

 

だから、イタチは選択した…。

 

シャドウの技を模倣し、且つチャクラを混ぜ合わせた力を使うことを…。

 

「『魔遁・回帰快方』」

 

真紅の魔力が、一瞬で紅の塔を、無法都市を包み込む。

 

…それはかつて、シャドウがやって見せた『リカバリー・アトミック』と同じ効果を持つ技であった。

 

一番近くにいたエリザベートは、その圧倒的な魔力に、しかしどこか温かみのある魔力に、大きく顔を綻ばせる。

 

その温かみに身を委ねるようにして、エリザベートはゆっくりと瞼を閉じ、意識を手放した…。

 

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