※作品の題名、タイトルを変えてみました。「こっちのほうがいいんじゃね?」というのがあれば、是非教えてください。
ミツゴシ本社…。
いつもはアルファとガンマを中心としてあらゆる執務が行われているこの部屋。
しかし今は絶望と悲しみが支配していた。
…アルファは、パチパチと音を立てる暖炉の前で、体育座りををして顔を埋めている。
そんなアルファを、ガンマは酷く心配そうに見つめている。
「…彼は、彼にしかたどり着けない領域にいる…」
その言葉に、ガンマは目を細めて苦悶の表情を見せる。
「私はもう…必要ない…」
なぜこんなことになっているのか…。
それを聞かされたガンマであったが、未だにそれを信じられず、彼女を励まそうと努力する。
「…大商会連合の崩壊は止まりません…強引な店舗閉鎖により、市民たちの不安は頂点に達しています…。既に暴動も発生しています…。我々ミツゴシ商会の窓口も換金の対応に追われています」
「…耐えられそう?」
「この状況が続けば、もって2日です…。もちろん、信用崩壊にも耐えられません…」
「そう………」
アルファの声は、今にも消え入りそうな声であった。
「で、ですが…そう、山のような金貨を積み上げ、市民を安心させることができれば…」
「いいのよ…もういいの…」
ガンマの打開案を、アルファは突っぱねるようにして拒否する。
「偽札を流通させたのはシャドウ…信用崩壊を引き起こしたのも彼…この状況は彼の望み…」
アルファは、膝の中に顔を埋めながら、声を震わせる。
「…彼は…いえ、彼らは私達を切り捨てた…」
「か、彼らッ!ま、まさかッ!…」
アルファの言葉に、ガンマは両手で口元を覆う。
「私は、ジョン・スミス…いえ、シャドウと対峙した時に聞いたわ…『シスイは知っているのか』って…。そして彼は言った…『承知の上だ』と…」
「そ…そんな……シスイ様まで…」
ガンマは、パタンッと膝から崩れ落ちる。
ガンマが何とかアルファを支えようと奮い立てていたのは、シスイがいたからである。
シャドウが裏切ったとしても、最も敬愛するシスイが味方でいてくれるなら、苦しくても気張ることができた。
しかし、シスイも同じだった…。
床に座り込んだガンマは、そこでようやく気付く。
なぜアルファが、これほどまでに憔悴しきっているのか…。
自身の心が砕け散っていくような感覚を覚え、ようやく理解する。
アルファも、同じように耐えられなかったのだ…。
シャドウだけでなく、シスイにまで裏切られたという事実に…。
アルファ、ガンマ、そしてベータとイータの4人は、七陰の中でも突出してシスイへの敬愛と依存度が高い。
それは直接救われたことも関係しているが、拾われてから数年、彼女ら含め七陰はシスイの下で育った、と言っても過言ではなかった。
親兄弟に捨てられ、全てを失った彼女たちにとって、シスイの存在は、親などというレベルではなく、希望そのものであり、生きる意味と化していた。
そんなシスイに裏切られた…、見捨てられた…。
それがこの2人にどれだけの絶望を生みだしているのか、想像に難くない。
アルファは、不意にある日のことを思い出す…。
シスイの鴉が、一枚の手紙を届けてくれた日…。
「(あの時点でもう…)」
『暫く一人で行動する』
そう書かれた紙が届いた時点で、シスイは既に自分を見限っていた…。
「(冷静になれば気付けたはず……。彼は必ず私に直接報告しにきてくれていたのに……)」
アルファの瞳から、一筋の涙が頬を伝って零れ落ちる。
「…私たちは彼らの期待に応えることができなかった…それがこの結果よ…」
アルファが一つ、息を吐き、続けて口にする。
「最高の環境と最高の知識、最高の技術を与えられながら、私たちは彼らの領域にはたどり着けなかった…彼らは私たちに見切りをつけた…」
「まさか…そんな…ッ!」
ガンマが両手をついて呻き声に似た声を上げる。
信じたくはない…。
だが、アルファの言っていることは悉くが事実であった。
要所要所で、シャドウとシスイがいなければ、解決できなかったことばかりなのだ。
何より今この現状が、酷く現実として現れている。
「う…うぅ…」
ガンマが床に伏せるようにして、涙を流す。
それをアルファは背中で聞きながら、小さく笑みを零す。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、出会って間もない頃、シスイにかけられた言葉であった。
『…はっきり言おう…。君では力不足だ』
「本当に……そうだったわ……」
彼が何を想ってこの言葉を投げかけてきたのか、今のアルファになら理解ができる。
本気でそう想っていたわけではない…。
彼は優しい人だ…。
年端も行かぬ少女だった私を、戦いに巻き込みたくなかった…。
その一心だったのだろう…。
当時の私は、ただひたすらにディアボロス教団が許せなくて…、そしてなにより命を、身体を取り戻してくれた2人に恩返しがしたくて必死だった…。
「…思い返せば…、我が儘ばかり言っていたわね…」
それでも、シスイは笑って構ってくれた…。
時折困った顔もさせてしまったが、それでも最後には優しく頷いてくれた…。
本当の、妹のように……。
「あなた達の望みに……私はこの命を捧げましょう…」
シャドウとシスイに向けた宣誓…。
それを思いだし、小さく呟く…。
あの時の誓いを、果たさなければならない…。
「…最後の…仕事を…約束を果たさないとね…」
アルファの両眼から大粒の涙が零れる。
それをふっと振り払い、ふらふらと立ち上がる。
アルファが震える両の足に、目一杯力を籠め、一歩踏み出した瞬間……。
「早まるな…アルファ」
その声を聞き、何とか決めた覚悟は、一瞬にして破綻した。
執務台の上には、足を組んで座るシスイの姿があった。
「イ…イタチ…ッ」
その姿を見て、アルファは思わず彼の本名を口にしてしまう。
そして、そのミスに気付かないほどに、アルファは動転していた。
「お前たちに、伝えることがある」
「…つ、伝えること…」
同じくイタチの登場に酷く動揺しているガンマが、小さく呟く。
その呟きを聞いて、アルファは一気に表情が崩れる。
言葉の意味を、悪い方へ悪い方へと捉えてしまう。
「いや…いやだ…ッ」
よろよろと、小鹿のような足取りで、ゆっくりとイタチに近づく。
「ア…アルファ様…」
そんなアルファの様子を見て、ガンマは酷く狼狽する。
イタチも、初めて見るアルファのそんな姿に、思わず目を見開く。
「落ち着け…アルファ。俺は…」
宥めようと、言葉を発したイタチであったが、既に正常な思考を失っているアルファにその言葉は届かない。
「いやッ…お願い…イタチ…捨てないで…ッ!」
アルファは、一刻も早くイタチの元へと駆け寄ろうと足を踏み出すが、震えて言うことを聞かない足はうまく前に出ず、思いっきり躓いてしまう。
そしてそのまま床に衝撃…しなかった。
「ぁ……」
アルファは、小さく息を漏らす。
自分の身体が柔らかく支えられていることに気付く。
そして、その支えが誰であるのかも、すぐに理解する。
「落ち着くんだ…アルファ…」
「イ、イタチ…お願い…なんでもするから…どんなことでもするから…私の前から、いなくならないで…イタチ…ッ」
アルファは、ズルズルとイタチの首に手を回し、抱擁する。
そこにいつもの冷静なアルファはなく、ただ咽び泣く幼子のような様相であった。
「大丈夫だ…俺はお前たちを見捨てたりしない…」
「ッ…うそ…私達を見限って…いなくなった…」
「理由があるんだ…聞いてくれ…」
「いやッ!聞きたくない!…いなくならないで!イタチ!」
アルファは、イタチの言葉を一切聞かずに、ただひたすらに抱きしめる。
逃がさないように、目一杯、力一杯抱きしめる。
「ア、アルファ様ッ!」
アルファの信じられない様相と、イタチの言葉の真意を確かめたい一心のガンマは、何とか2人に寄り添う。
漸くガンマの姿が視界に入ったアルファは、必死の形相でガンマに詰め寄る。
「ガンマッ!あなたもイタチを捕まえて!!捨てられないように…どこにもいかないように…ッ!」
「お、落ち着いてください、アルファ様!こ、これでは…ッ!」
アルファの意識を何とか正常に取り戻そうと、ガンマは声を荒げるが、イタチが片手で制止してきたことで、口を紡ぐ。
その後、イタチは、バッとアルファを引き剥がす。
引き剥がされ、温もりを一気に失ったアルファは再度狂ったように叫び始める。
「いやっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!捨てないで…遠くへ行かないで…私は…ッ!!」
イタチがとった行動に、ガンマは大きく目を見開いた。
……発狂しているアルファの唇に、自分の唇を重ねたのだ。
アルファは、一瞬で身体を硬直させる。
そして、徐々に表情に冷静さを取り戻す。
それと同時に、何が起こっているのかを、理解し始める。
「…ッ///…ぁ…///」
時間にして、ほんの数秒…。
だが、アルファが冷静さを取り戻すには、十分な時間であった。
「落ち着いたか…アルファ…」
「……ん…///」
アルファは、息を漏らすようにして、コクンと頷いて見せる。
それを見て、イタチはアルファを優しく抱きしめる。
「ぁ…///イ、イタチ…///」
アルファは、多好感に包まれたまま、喘ぐようにして声を漏らす。
「すまなかった」
「……ぇ…?」
イタチの言葉を聞いたアルファは、ゆっくりと顔をイタチの胸から引きはがす。
アルファの目に入ってきたイタチの顔は、非常に悲しみに溢れる顔であった。
それが再度アルファの中に負の感情を…捨てられるのではないかという思いを抱かせるが、イタチの発言の方が早かった。
「君たちを傷つける結果になってしまった…すまない」
アルファは、うまく理解ができず、小さく首を傾げる。
イタチとアルファが接吻をしたことに対しての驚きから固まっていたガンマが、その言葉で我に返り、慌てた様子で口を開く。
「理由とは…理由とはどういったものなのでしょうか…!」
イタチが先ほどアルファに言い聞かせるようにして吐いたセリフを、ガンマが繰り返すようにして問う。
その理由、今回の作戦を伝えようとしたその時、執務室の扉がバッと開かれる。
「失礼いたします…。急ぎご報告したいことが…ッ!」
入ってきたのは、ニューであった。
ニューは、入った途端にイタチとアルファが抱き合っているのを見て、大きく目を見開いて固まる。
だが、現状をなんとなく察していたニューは、それよりもシスイがここへ戻ってきたことに、歓喜にも似た様子を見せる。
「お、お戻りになられていたのですね!シスイ様ッ!」
「ああ。迷惑をかけたな…」
「め、迷惑などと…」
ニューは、あたふたしながらイタチの発言を否定する。
「ニュー、一体どうしたの?」
そんな様相を見ていたガンマは、一刻も早く事の顛末を知りたいという思いから、2人の会話に割って入る。
シスイから今すぐにでも理由を聞きたいところではあるが、部下である彼女の報告を聞かないわけにはいかない。
この状況で急ぎというのであれば、十中八九偽札騒動のことであるのだから。
「は、はい…。確証が取れました。やはり、月旦という男がディアボロス教団の先兵で間違いありません…奴はミツゴシ商会を潰すために、偽札を流通させる計画を立てていました」
その言葉に、アルファは僅かに口元を動かす。
引っかかる点があったのだ。
「自爆覚悟ということだったのね…。シャドウガーデンとは関係なしに、奴らはそれほどまでにミツゴシ商会を危険視していた…私たちが経済戦争にかまけている間に、シャドウ様はそれに気づき…偽札を…」
「偽札に…気付き…」
ガンマの言葉を遮るようにして、アルファはイタチの腕の中で小さく呟く。
「…アルファ?」
アルファがゆっくりと自身の身体から身を剥がしたのを見て、イタチは些少の疑問を抱く。
目を大きく見開き、何かを思考している様子であった。
「…教団は偽札を流通させる計画を立てていた…」
「は、はい…ですが…」
アルファの呟きに、ニューが少し戸惑った様子で答える。
「教団はまだ、偽札の流通を始めていない…」
「え…⁉」「(え…⁉)」
アルファの推察に、ガンマが驚いたような声を上げるが、イタチも同じく心の中で驚きを見せる。
偽札流通作戦は、シドがジョン・スミスとなって行っているはずだ…。
そこに教団は絡んでいないはずである…。
「で、ですが…今確かに偽札は…あ、いえ…今流通している偽札は…」
ガンマは何かに気付いたようだ…。
俺にも教えてはくれないか…。
そんなことは、この雰囲気の中で言えるはずもなかった。
「そう…この状況はシャドウが作り出したもの…名を変え、私達を切り捨て、教団よりも先んじてシャドウが偽札を流通させた…その意図は…シスイ…ッ!」
アルファは、天才的な頭脳をもって予測を立て、その回答を目の前にいるイタチへと求める。
だが、その予測はイタチの知る真実とは酷くかけ離れていた。
故に答えられず、黙りこくってしまう。
「ッ!お願い、シスイ!教えて!!」
「え…あ…、そ、そうだな…それは…」
アルファだけでなく、ガンマとニューも期待に満ちた視線を送ってくる。
本当のことを言うべきか…?
いや、だが教団が絡んでいる話など聞いていない…。
どうしたらいいのか、頭の中がパンクしかかっていたその時…。
助け船が現れる。
「アルファ様ッ!!」
甲高い声に、アルファはバッと開きっぱなしの扉へと視線を移す。
「大変です!シャドウ様から頂いた暗号が解けました…ってシスイ様!!」
小走りで声高らかに入ってきたのは、ベータであった。
ベータは、数枚の紙を手に持ちながら、颯爽とアルファの元へと駆け寄ったが、ニューと同じくイタチの姿を捉え、酷く狼狽する。
そして、ワナワナと震えて涙を流す。
「よ、よかった…シスイ様…戻ってきてくれたのですね…!!」
「あ、ああ…」
ベータの感情の高ぶりに、イタチは些少の驚きを見せる。
「ベータ、それで解けた暗号というのはッ!」
「は、はい!これが、イータが解き明かした内容です!!」
アルファはベータから受け取ったメモに視線を落とす。
そして、数秒見つめたのち、大きく目を見開いて涙を滲ませる。
先ほどまでの発狂による涙ではない…。
それはどこか安心しきった、安堵からくる涙であった。
「アルファ様…?」
ガンマも、そのメモを見ようと、覗き込む。
「ごめんなさい…シスイ…。あなた達は、本当に私達を見捨てていなかったのね…」
「あ、ああ。もちろん…」
イタチの場所からは、メモの内容が見えず、しかしとりあえずアルファの言葉自体は真実であるため、肯定する。
覗き見ていたガンマも、内容を理解したのか大きく目を見開いて涙を零す。
「『悪いけど、僕とシスイは裏切ることにするよ…。僕はこれまでの名を捨て、協力者と偽札を作ることとなった。回収した金貨は、昔皆で姉さんを救出したあの施設に貯めている。君たちは恨むかもしれないけど、僕たちはこの選択が、最善だったと思っているよ』」
アルファの目から零れた涙が、手にもつ紙へと落ち、滲ませていく。
イタチはアルファが読み上げたその内容を聞き、大きく目を見開いて固まる。
だが、思考だけは止まっていなかった。
これまでのことを鑑みて、今までにないほどに頭を回転させる。
「(なにがどうなっているんだ…?偽札はシドの計画ではなかったのか?…なぜ教団も偽札を…。シドがそれに気づいていたとは考えにくい…となるとこれは…まさか…)」
一つの仮説が、イタチの中で組みあがったタイミングで、ベータが口を開く。
「全ては…計画通りだったのですね…シスイ様…!」
「……ああ」
この仮説にかけるしかない…。
「これが…あなた達の見ていた景色…」
「全てを見抜いて最善を選択した…流石です!」
「ま、まあな…」
何やら悪いことをしている気分で、イタチは心がキュッと萎むような感覚を覚える。
「シャドウとシスイは…誰よりも早く教団の計画を見抜き、そしてそれを逆に利用した…。教団が動き出す前に偽札を流通させれば、莫大な資金を回収することができるッ!そういうことよね…シスイ!」
「その資金でミツゴシ銀行は信用崩壊を乗り越えることができます!結局教団は、大商会連合を失って一人負け…。そういうことですね、シスイ様!!」
「そ、そう…だな…」
イタチの短い返答に、アルファとガンマはパアッと晴れやかな表情を浮かべる。
「教団も相手が悪かったようですね…。誰よりも信用創造を理解しているシャドウ様と、誰よりも物事を見抜く洞察力を持つシスイ様だからこそ可能だったのです」
「信用崩壊のリスクを理解しながら、大胆かつ効率的に資金を集めるその手腕…素晴らしいです!」
「正体を隠したのも、我々との関係を露呈させないため…敵を騙すならまず味方から…そう言うことですね、シスイ様!」
「その通り…だ…」
ベータとガンマの顔に、更に輝きが巻き起こる。
「後は、我々が資金を回収し、この件は終わり…そうよね、シスイ」
「…ああ」
なぜだろうか…。
当初シドから齎された計画とはかなりかけ離れた解釈をしているが、すごい勢いでバラバラだったピースが組みあがっていく…。
「全てを終えた時、知るだろう…この選択が最善だったと…。彼が言った通りだったわね…」
アルファは、ゆっくりと立ち上がりながら笑みを浮かべる。
そしてその視線は、目の前にいるイタチへと向く。
「…ごめんなさい、シスイ…。私はあなた達を信じきることができなかった…」
「謝る必要はない…。元はといえば、俺たちが多くを語らなかったことが原因だ…」
「…それも作戦の内だった…。そうでしょ?」
「まあ、そうだな…」
君たちが考えている作戦とは大きく異なっているが…。
と、イタチは心の中で呟く。
数秒の沈黙の後、アルファは視線を反らし、顔を真っ赤にする。
「そ、それに…情けない姿を、見せてしまったわ…」
「…いや、気にするな…。唇を奪ったのは…俺だしな…」
「「えッ!」」
イタチの小さく呟くような言葉に、ベータとニューがギョッとした表情を浮かべる。
「い、いいのよ…///…それに…その……嬉しかったわ…///」
アルファは、更に顔を赤らめ、俯く…。
それを見ていたガンマも、その場面を思い出し、少しだけ顔を赤くして身体を捩る。
そして、一瞬の静寂の後……。
「「ええええええええぇぇぇぇぇぇッッッ!!!////////」」
ベータとニューの叫び声が、部屋を、ミツゴシ本社全体を包み込んだ……。
その後…。
なぜかデルタの登場に感動していたアルファ達を見つめながら、イタチは大いに猛省することになる。
「(今回の件は…俺の失態だな…)」
一つは、シドの計画に穴がないと勘違いしていたことだ。
シドは、基本的にあらぬところでファインプレイをかましてくる男である。
転んだ際に落ちたクナイが、地面に当たって跳躍し、それを草むらから出てきたウサギが加えて持っていき、その場所に敵のアジトがあって、クナイに巻き込んでいた起爆札が爆発して、敵の首領を討ち取った。
...みたいなことを平気で、それも何度もしてくるのだ。
今回もそれと同様のことが起き、当初ミツゴシも大商会連合も同時に潰すはずだった計画が、なぜが教団に打撃を与え、且つ大商会連合を崩壊させ、しかしミツゴシは更なる躍進を得る…という結果を招いた。
こんなことは、イタチの洞察力をもってしても、読み解くことなどできはしない…。
何せ、それは考え込まれたことではなく、偶然に奇跡と天啓が組み合わさったような事柄なのだから…。
更に付け加えれば、『シャドウガーデンから離れ、情報を得られない状況は死活問題になる…』というのもあった。
それが、今回の一件でイタチが学びえたことであった…。
シャドウガーデンから一時的とはいえ離れていなければ、大商会連合と教団が繋がっているという情報を得ることができただろう。
それを知りえていなかったため、洞察が遅れたことも、要因の一つであった…。
そしてもう一つ…。
それは、アルファ達が自身に抱く感情である。
好意を持っていることは知っていた…。
それが依存に近いことも…。
だが、正直これほどとは思ってもいなかった…。
少し離れ、突き放す…それすらもあってはならない…。
アルファの先ほどまでの狼狽と発狂に似た様相を見れば、それは確定事項であった。
「(あれをどうにかするのは…無理か…)」
確かにアルファの命を救ったのはイタチとシドである。
恩を感じてくれているのは理解していた。
しかし、そのレベルは遥か上…もはや宇宙の彼方と言ってもいいくらいであった…。
「(これに関しても、策を講じる必要があるか…?)」
クレアとアウロラに対する策よりも、更に難易度は高い…。
何せ、今のところ何の打開策も思い浮かばないのだから……。