うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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オリアナ編
第20話 再会


 

時は少し遡り…。

 

シャドウガーデンの本拠地であるアレクサンドリア…。

 

その一室にて、一人の少女が泣きながらベットに座る男性へと寄り添う。

 

「お父様ッ!お父様ッ!!」

 

そんな少女の頭を、父と呼ばれた男がそっと撫でる。

 

「ローズ…なのか…。私は…一体…」

 

「ラファエロ・オリアナ国王で間違いないですね?」

 

ラファエロは、漆黒に身を包んだ人物へと目を向ける。

 

声色から察するに、若い女性であろう。

 

だが、その身なりと雰囲気には身に覚えがあった。

 

「貴殿らは…もしやシャドウガーデンでは…?」

 

「…我々のことを知っているのですね」

 

「ああ…ディアボロス教団に対抗している組織…そうであろう?」

 

父がシャドウガーデンとディアボロス教団のことを知っていることに、ローズは目を見開いて驚く。

 

「…失礼しました。名乗るのが遅れてしまいました。私は、シャドウガーデン最高幹部、七陰が一人、ベータです」

 

「そうか…貴殿が七陰か…」

 

「…早速ですが、これまでの経緯をお話しさせて頂きます…」

 

ベータは、淡々とラファエロに対して話を進める。

 

オリアナ王国の侯爵であるドエム・ケツハットの反逆…。

 

オリアナ王国の現状…。

 

ディアボロス教団のこと…。

 

そしてローズのこと…。

 

伝えていることはどれも看過できないもののはずであるのに、ラファエロは酷く落ち着いた様子を見せていた。

 

「やはり、そうであったか…」

 

「…気付いてらしたんですね」

 

「奴は、ドエムは私利深い男だ…。王の座を淡々と狙っていたのはわかっていた。だが、教団の後ろ盾を得ていたとはな…」

 

ラファエロは、少しだけ視線を鋭いものにさせる。

 

「お父様…」

 

そんな様相を見たローズは、自身がどれだけ何も知らずに生きていたのかを察してしまう。

 

父はある程度のことを把握し、それでも自身に伝えようとはしなかった。

 

その優しさに、配慮に、止まりかけていた涙が再度溢れる思いであった。

 

「…ラファエロ国王…。我々シャドウガーデンは、オリアナ王国を救う準備があります」

 

ベータの言葉に、ローズは大きく目を見開く。

 

だが対照的に、ラファエロは表情を変えずに視線だけをベータへと向ける。

 

そこには、一種の迷いのようなものが見え隠れしていた。

 

それを察したベータは、冷静に彼の心情を推し量るようにして口を開く。

 

「ディアボロス教団の脅威と根深さを考えれば、あなたの迷いも当然…。ですが、断言致しましょう。ディアボロス教団は近いうちに滅びを迎えることになります」

 

「…その根拠は?」

 

「我らが盟主、シャドウ様とシスイ様が教団と敵対している…。このお二方に勝るものなど、この世にはありません」

 

ラファエロは、押し黙ったまま、ベータを見つめる。

 

そんな父を説得するように、ローズは身を乗り出す。

 

「お父様、今の私達に選択肢はありません…。特にシスイ様に対しては、私たちは並々ならぬ恩義があります」

 

「…それは、どういうことだ?」

 

「ラファエロ国王の身体と精神を元に戻したのはシスイ様…。そして、ローズ王女を蝕んでいた悪魔憑きを治療したのもシスイ様です」

 

ベータの言葉に、ラファエロは今までにない表情を浮かべる。

 

その表情に現れている驚きは、自身を救ってくれたことに対してではなかった。

 

「ローズが…悪魔憑きに…ッ!それは誠か!!」

 

「はい…。ですが、シスイ様に治療して頂き、今では完全に治っております」

 

「…なんと…。悪魔憑きは治せるのか…⁉」

 

「はい」

 

ベータの短い肯定に、ラファエロは暫く驚いていたが、落ち着きを取り戻すと、スッと頭を下げる。

 

「お、お父様ッ!」

 

王たる父が頭を下げたことで、ローズは困惑する。

 

「娘を…ローズを救ってくれたこと、心から感謝する」

 

「…それは、シスイ様に仰ってください」

 

「それもそうだな…」

 

ラファエロは、ふっと小さく笑うが、すぐに表情を真剣なものへと戻す。

 

「…貴殿らに、オリアナ王国は救えるか?」

 

「あなた達が我々を受け入れるのであれば、確実に…」

 

ベータの一切の懸念を抱いていない回答に、ラファエロは思わず目を見開く。

 

ディアボロス教団をまるで恐れていないその様相に、酷く驚いたのだ。

 

あの世界を裏から牛耳る、教団を…。

 

「…見返りは?」

 

「シャドウガーデンの後ろ盾となって頂きたい」

 

「…つまり、オリアナ王国をシャドウガーデンの依り代とする…というわけか」

 

「理解が早くて助かります」

 

ラファエロは苦悶に似た表情を浮かべる。

 

普通に考えれば、教団を敵に回す選択はできない。

 

彼の教団は、表では聖教と通じている。

 

聖教の信者は多い。

 

しかもその多くは、善良な市民たちだ。

 

オリアナ王国が表立って聖教を否定すれば、大きな混乱が生まれるのは火を見るより明らかだ。

 

だが、彼らの願いを突っぱねることも、また難しい。

 

断れば恐らく、娘のローズもろとも消されるだろう…。

 

しかしもし…、もし教団を本当に排することができたのなら…。

 

その先に、明るい未来があるに違いない…。

 

ラファエロは、大きく息を吸いこみ、ベータへと視線を向ける。

 

「…その申し出…、引き受けよう」

 

「その英断に、心より敬意を…」

 

「…頼むから…後悔させないでくれ…」

 

「お約束しましょう」

 

 

 

 

 

 

イタチがアレクサンドリアに到着すると、出迎えてくれたのはベータであった。

 

「お待ちしておりました。シスイ様」

 

「…例の件は?」

 

「滞りなく…。既に出立の準備はできております…」

 

「そうか…2人はまだ部屋に?」

 

イタチはそう呟きながら、ゆっくりと歩を進める。

 

そんなイタチの少し後ろを、ベータはついていく。

 

「はい…。その前に、2点ほど確認させて頂きたいのですが…」

 

「なんだ?」

 

「はい。まず、例の指輪の件ですが、ゼータと559番から報告がありました。教団側の手に渡ったと…」

 

イタチはその言葉に、怪訝な様相を見せる。

 

「…あの2人でも奪取は難しかった…ということか?」

 

「戦力的には問題はありませんでした…。ですが、教団側にレイナ王妃の姿を見て、奪取を断念したとのことです」

 

「なるほど…。どうやら俺の作戦の意図は正しく伝わっていたようだな…」

 

「はい。レイナ王妃を安全に捕縛することは不可能と考え、監視に留めている状況です」

 

ゼータと559番が葛藤する姿が目に浮かぶ。

 

レイナ王妃を幻術にかけて更生させるという案は、言うなればイタチの我がままである。

 

シャドウガーデンの中でも、突出して教団に対して恨みを持つあの2人が、オリアナ王国や周辺国家を混沌に陥れる可能性のある鍵たるあの指輪を教団の手に渡らせ、且つ教団の一員と成り果てているレイナ王妃を見逃すなど、並々ならぬ思いであっただろう。

 

この時ばかりは、普段億劫に感じている忠誠心とやらに、イタチは感謝した。

 

「…となると、どこかで指輪を奪う必要性がある…ということか」

 

「はい…。その詳細については、まだ考えている段階となります」

 

「…それについては、俺の方でも考えておこう」

 

「ありがとうございます」

 

ベータは、ペコリと頭を下げる。

 

「それで、もう一つは?」

 

「はい…。その…ミツゴシ本社からの伝書鳩で知りえたのですが…。武神ベアトリクスをお連れになるというのは本当なのですか?」

 

「ああ、本当だ」

 

「その…なぜでしょうか?」

 

イタチは、ベータへと視線を向ける。

 

「理由も伝え聞いているのだろう?」

 

「はい…。ですが、本当にそれだけなのですか?」

 

「…どういう意味だ?」

 

「えっと…ですね…」

 

イタチからの質問に、ベータは言葉を詰まらせる。

 

ミツゴシ本社から届いたということは、アルファの検閲を間に挟んでいることになる。

 

それが何を意味するのかを理解したイタチは、大きくため息をつく。

 

そのため息に、ベータはイタチが不快感を抱いたのだと思い、大量の冷や汗を流す。

 

「も、申し訳ありません!」

 

「…謝る必要はない。そして、理由も伝え聞いているものだけだ…。それ以外はない」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「…逆に何かあると思ったのか?」

 

イタチは少しだけ、ベータをいじる様な発言をして見せる。

 

「い、いえ…そんなことは…」

 

ベータは、少しだけ焦る様な様相を見せるが、目的の部屋の前へと到着したことで、何とか落ち着きを取り戻す。

 

「…では、計画通りに…」

 

「ああ」

 

イタチは、ベータが扉をノックし、部屋に入っていくのを見送った後、シスイの姿へと変化していたそれを解く。

 

白い煙と共に、イタチ本来の顔と身体へと戻りを見せた…。

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

ベータがとある一室に入ると、そこには旅支度を済ませたラファエロとローズの姿があった。

 

「出立かね?」

 

「はい。そちらの準備はいかがですか?」

 

「問題ありません」

 

ベータの問いに、ローズはハキハキとした口調で答える。

 

「わかりました。…作戦内容の確認は必要ですか?」

 

「いや、十分に把握してある。必要はない」

 

「そうですか」

 

「あ、あの…ベータ様…」

 

父との会話の合間を縫うようにして、ローズはおずおずと言った様子で声を掛ける。

 

「なんですか?」

 

「その、我々の護衛をしてくださる御方のことなのですが…。シャドウガーデンの者ではないのですよね?」

 

「ええ、そうです」

 

「…信用できるのですか?」

 

今のローズと父には、シャドウガーデン以外に後ろ盾がない。

 

オリアナ王国ですら、今はドエムの手の中…。

 

祖国にすら頼れないローズ達にとって、素性のしれない護衛ほど、恐ろしいものはなかった。

 

護衛となれば、自身と父の傍に控えることになる。

 

もし彼の者に裏切られれば、オリアナ王国を取り返すどころの話ではなくなる。

 

最悪、道中で死に絶える可能性すらある。

 

シャドウガーデンが用意した人物となれば、信用に値するものではあるが、やはり不安は拭いきれない。

 

「その点は心配なく…。というよりも、その者が誰であるかを知れば、あなたは嬉々としてそれを受け入れるでしょう」

 

「それは…どういう…」

 

「口で説明するよりも、実際に見た方が早いでしょう…入ってください」

 

ベータの言葉に反応するようにして、扉がゆっくりと開かれる。

 

どうやら、その護衛というのは、体格からして男性のようであった。

 

ローズは、一瞬、腰に差した剣に手を添えるが、それはすぐに制止を見せる。

 

「あ…ぁぁ…うそ…」

 

「…ローズよ…どうした…?」

 

身体を硬直させ、まるで小鹿のような声を漏らす娘に、ラファエロは些少の困惑を見せる。

 

その人物は部屋へ一歩入り、扉をゆっくりと閉める。

 

そして、ローズへと身体の向きを変え、微笑を向ける。

 

「久しぶりだな…ローz…」

 

「イタチさんッ!!!!」

 

ローズは、イタチの言葉を遮り、疾風の如く駆けより、抱き着く。

 

抱き着いた後、ローズは溢れんばかりに涙を流す。

 

娘が吐いた言葉、そしてその様相を見て、ラファエロも大きく目を見開く。

 

「イタチ…イタチと言ったか…。もしや貴殿は…ッ!」

 

「グス…。お父様!このお方です!このお方こそが、5年前盗賊に攫われた際、私を助けてくれた、イタチ・ウチハさんです!」

 

ローズは、イタチを力強く抱きしめたまま、父へと激を飛ばすように声を荒げる。

 

イタチは、スッとベータへと視線を移す。

 

…ローズに対して、まるでゴミを見るかのような目を向けていた…。

 

それを受け、イタチはゆっくりとローズを引き剥がす。

 

「あ…///イタチさん…」

 

顔を赤く染め、イタチをじっと見つめている。

 

そんなローズに、イタチは再度微笑を向けた後、ラファエロへと視線を移す。

 

「貴殿が、イタチ・ウチハ…」

 

「はい。お初にお目にかかります…。ラファエロ・オリアナ国王陛下…。今回、あなた方をオリアナ王国まで護衛させて頂きます。イタチ・ウチハと申します。どうぞよろしくお願い致します」

 

ラファエロは、覚束ない足取りで、ゆっくりとイタチへと歩み寄る。

 

「貴殿の話は、ローズから何度も聞いている…。まさかこのような形でお会いできるとは…」

 

「シャドウガーデンの者から、大体のお話は聞いております。大変な苦労を為されたと…」

 

イタチのその一言に、ローズはうっと呻き声を漏らす。

 

「イタチさん…もしかして、私のために…」

 

「…それ以外に、理由があるか?」

 

ローズは、更に顔を赤く染め上げ、身を震えさせる。

 

そして、先ほどよりも更に強く、弄るようにして抱き着く。

 

「イタチさんッ!本当に…私を…ずっと信じて…」

 

「…ローズ……」

 

引っ付き虫のようにくっついてくるローズを、しかし今度は引き剥がさずに、そっとその頭を撫でる。

 

うっとりとしたローズと、それを暖かい目で見守るラファエロ……。

 

そんな雰囲気に耐えかねたベータが、引きつった唇をゆっくりと剥がす。

 

「あの…そろそろいいかしら…?666番??」

 

「ッ…!も、申し訳ありません…」

 

未だ話の途中で会ったことを思い出し、ローズは渋々と言った様子でイタチから身を剥がす。

 

…しかし、ちゃっかりイタチの袖を摘まんでいた。

 

「さて…それではイタチさん…このお二人お任せ致します」

 

「ああ」

 

「…確認のために申し上げておきますが、くれぐれも約束を違わぬように…」

 

「………?」

 

イタチは、ベータの発した言葉の意味を理解できず、それを無言で返す。

 

何言ってんだ、この子は…?

 

イタチは心の中でそう呟いたが、しかしローズとラファエロの反応は違った。

 

「約束…?約束とは何ですか⁉」

 

「…よもや、シャドウガーデンから不当な契約を結ばされたのか?」

 

不穏なベータの言葉を、別の意味で捉えたのだろう。

 

オロオロとした様子で困惑している。

 

一体何考えている、ベータ…。

 

という視線を送るが、なぜかベータはしてやったり見たいな顔をしている。

 

「…あなた方お2人には関係のない話です…。そうですよね?イタチさん…」

 

「……そうだな」

 

関係ないも何も、聞いていないのだからそう答える他ない。

 

「…イタチさん……」

 

「…すまない」

 

その契約が、約束がなんであるのかはわからないが、間違いなく二人の安否と護衛の任を受ける代償であると察したローズとラファエロは、苦悶にも似た表情を浮かべる。

 

「お気になさらず…、私が決めたことです」

 

この場の流れを崩さない言葉をイタチは発するが、同時にジトっとしたした視線をベータへと向ける。

 

ベータは一瞬、ビクッと身体を震わせるような様相を見せるが、なぜか直後に、惚けたような面を見せる。

 

本当に何を考えているのか…。

 

自分ではそこそこ洞察力があると考えていたイタチであったが、それを改める必要があるな…と内心で言い聞かせる。

 

そんな風にして勘違いと謎の思惑が跋扈する中、扉をノックする音が響く。

 

「ベータ様…、ラムダです」

 

「入りなさい」

 

「失礼いたします」

 

褐色肌の隻眼のエルフが、イタチ達のいる室内へと入ってくる。

 

一礼した後、威厳のある声を発する。

 

「準備の方、滞りなく完了いたしました」

 

「わかったわ…では、参りましょうか」

 

ベータは先ほどまで見せていた謎の赤面を収め、イタチ達を案内する形で部屋を後にした……。

 

 

 

 

 

アレクサンドリアから馬車で移動し、イタチ達一行は、カゲノー領へと到着を果たす。

 

オリアナ王国へ向かうためには、カゲノー領を通らざるを得ないのだが、イタチ達がこの地へ踏み入れたのにはそれ以外に大きな理由があった。

 

「もう一人の協力者とは……もしやクレア・カゲノーさんなのですか?」

 

馬車内でイタチの腕に引っ付いているローズは、先のイタチの発言から、ある予測を立てる。

 

「いや、クレアじゃない…。あいつなんかよりも頼りになる者だ…」

 

さりげなくクレアへの罵倒を口にする。

 

「それは一体誰なんだ?…イタチ殿が信用する者だ…。心配はしておらんが…」

 

ローズの命を救い、今こうしてオリアナ王国を共に取り戻そうとしてくれているイタチを、ラファエロは既に心底信用しきっていた。

 

「すぐにお分かりになりますよ…」

 

イタチのその言葉通り、馬車の扉が開かれ、その人物が入ってくる。

 

「失礼…」

 

艶めかしい肉体を、黒いローブで包み込んだ女性…。

 

馬車内に入ったのちに、深く被っていたフードを捲る。

 

それによって露になった、大きく尖りを見せるその耳は、彼女がエルフであることを指し示していた。

 

その顔は、ローズもラファエロもよく知っている顔であった。

 

「ま、まさか…」

 

「武神…ベアトリクス…様…」

 

ベアトリクスは、その言葉に反応を示さず、じっとイタチを見つめる。

 

そして何を思ったのか、ローズとは反対側に位置するイタチの隣へと、ドサッと腰を下ろす。

 

「あなた達を護衛する…イタチから頼まれた…」

 

頼んだ覚えはないんだが…。

 

とイタチは思ったが、別にそれでさして大きな誤解を生むことはないと思い、特に異議を唱えなかった。

 

…だが、それが良くなかった。

 

「イ、イタチさんに…ですか…?」

 

「…そう。イタチに求められた…」

 

ベアトリクスの抑揚のない言葉に、しかしその内容に、ローズは少しだけ、ほんの少しだけ視線を鋭くさせる。

 

「求められたとは…どういう意味でしょうか?」

 

「そのままの意味…。イタチは私を必要としてくれた」

 

「…ベアトリクス…一体何を言って…」

 

「イタチさんッ!一体どういうことですか⁉」

 

ローズは掴んでいるイタチの腕を、自身の胸へと密着させ、ウルウルとした目線を送る。

 

「…彼女の名声が必要だった…。ベアトリクスが一緒であれば、ドエム派も教団側も、そう簡単には手出ししてこないだろう」

 

「ふむ…。なるほど…。確かに、武神と言われるベアトリクス殿が一緒であれば、無為な争いを避けられるというもの…。さすがは我が娘の婿殿だ…」

 

ラファエロの軌道修正に関心していたイタチであったが、最後の最後に不穏なことを発したことで、一気に表情を強張らせる。

 

「…私がいつ、ローズの婿になったのですか…」

 

「……そうだ…。彼女とイタチは不釣り合いだ…」

 

「…それはどういう意味ですかな?ベアトリクス殿?」

 

娘を貶されたと感じたラファエロは、臆することなく怪訝な表情を浮かべる。

 

「…イタチさん…。私では、ご不満でしょうか?」

 

「いや…そういう問題ではなくてだな…」

 

「では、何が問題なのでしょうか?」

 

ローズの疑問に、イタチは思わず尻込みしてしまう。

 

そんな様子を見て、ベアトリクスが小さく呟く。

 

「あなたでは、イタチの隣に立てるほどの強者ではないということだ…」

 

「…ッ!確かに…私はイタチさんよりは遥かに弱い…」

 

「いや…そういうことでは……」

 

イタチが異議を申し立てようとするが、しかし興奮しきったローズの耳にそれは入らない。

 

「ですが!イタチさんを想う気持ちだけは…愛だけは、誰にも負けるつもりはありません!!」

 

「…愛…?それで人や国を守れるのか…?」

 

「それは……。ですが、愛こそが人を、国を救うものだと、私は信じています!」

 

ローズとベアトリクスが、イタチを挟んでバチバチと火花を散らす。

 

イタチはそれを真ん中で、間近に受け、思わず馬車の天幕を仰ぎ見る。

 

「(俺はどうしたらいい…教えてくれ…サスケ…)」

 

愛する弟の顔を思い浮かべながら、イタチはそっと目を閉じるのであった……。

 

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