うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第24話 天照

 

上半身は人間の面影を残しつつも、両腕と下半身は取り込んだラグナロクに似た様相を見せる。

 

そんなモードレットは、シスイの言葉を頭の中で反復させる。

 

『無様だな…』

 

その言葉の意味を正確に理解し、顔に憤怒の表情を抱かせる。

 

「誰がーッ!!!」

 

叫び散らしながら、真下にいるシスイに向かって、変質した腕を振り下ろす。

 

その力は、人型に圧縮されたことでより強力なモノであった。

 

もしシスイがスライムソードでモードレットの身体ごと、上空へはじき返していなければ、ここら一帯は地割れを起こしていたことであろう。

 

だがその力の波動は、弾いたことで、空中へと四散する。

 

…いや、空中に衝撃が逃げたという表現が正しいだろうか。

 

ラグナロクの腕が落ちてきた時よりも、さらに強力な暴風が吹き荒れる。

 

「うッ…!」

 

ローズは、襲い来る暴風、空気の壁から顔を守ろうと、両腕を前に添える。

 

「ッ!これは…」

 

「吸収したことで、より精度の高い魔力を…」

 

ベータとイプシロンが、モードレットの有する力に、些少の戦慄を覚える。

 

同じように怪訝な様相を見せていた559番であったが、一気に目を見開く。

 

「ベータ様!イプシロン様!攻撃が来ます!」

 

「「「ッ!」」」

 

ベータとイプシロンが、ばっと顔を上空へと向ける。

 

名前こそ呼ばれなかったが、ローズも同様に空を見上げる。

 

圧倒的とも言える魔力の閃光が、モードレットから放たれようとしているのが見て取れた。

 

「ちっ!バカみたいな魔力ね!」

 

魔力の制御はまるでなっていない。

 

だが、圧倒的過ぎる魔力量故に、脅威であることに変わりはない。

 

仮にあれをそのまま浴びれば、命が脅かされるほどのものであった。

 

「あんなの喰らったら…ひとたまりも…」

 

ローズが、足と声を震わせる。

 

だが、ベータ達3人は、驚きこそしているものの、ローズのような震えは見られない。

 

「そうね…。でも、何の心配もいりません」

 

「え…?」

 

「…シスイ様がいるもの」

 

ベータとイプシロンは、ローズの素っ頓狂な様相を横目に、ドヤるようにして口を開く。

 

559番は、苛立ちを隠せないと言った様子で声を上げる。

 

「曲がりなりにも、シスイ様からお力を授かった貴様が、シスイ様のお力を信用していないと…?」

 

「…いえ、そういうわけでは…」

 

559番の射殺すような視線に、ローズは思わず声を紡ぐ。

 

その時であった。

 

目の前に立つシスイが、両手を高速で何度も合わせる。

 

「『火遁・鳳龍火の術』!!」

 

シスイの口元から、10個以上の炎の塊が吐き出される。

 

タイミングを狙っていたのか、それと同時にモードレットも複数の魔力の閃光を解き放つ。

 

「この技は…ッ!」

 

ローズは、上空へ、閃光へと突進していく炎の塊を見上げながら、焦るようにして声を上げる。

 

以前、無法都市で見た『鳳仙火』…。

 

それと様態は酷く似ている。

 

だが、一つひとつの炎の規模が違った。

 

鳳仙火の一つひとつが1m程度の炎なのに対し、これは3mほどの大きさを有している。

 

「わぁ…これはもしや、鳳仙火の上位互換ではッ!」

 

ベータが、歓喜を表情に滲ませながら、声を放つ。

 

なぜか一瞬、後方にいるイタチに視線を送っていたが、それがなぜか、ローズは理解ができなかった。

 

それぞれに前進していた攻撃が、シスイとモードレットの間、丁度中間地点で激しくぶつかり、爆発する。

 

その衝撃はまたも上空を駆けめぐり、暫くすると先ほどまであれだけの魔力を宿していた両者の攻撃は、まるで幻のように消え去っていた。

 

「相殺…か…」

 

シスイは、未だ熱を帯びる上空を見つめながら、小さく呟く。

 

対して、上空からシスイを見下ろすモードレットは、激しい歯ぎしりをして見せる。

 

「おのれ…ッ!まさかこれほどの強者であったとはッ!…ならばもう出し惜しみは必要あるまい!!最大最強の魔力砲で塵にしてくれる!!!」

 

先の攻撃とは対照的に、モードレットは一点へと魔力を収縮させる。

 

最高出力の一撃を放つつもりらしい。

 

シスイは、その攻撃を見据え、些少の驚きを有する。

 

「…些少とはいえ、まさか空間が歪むほどの魔力を生むとはな…」

 

モードレットの少し横に、よく見ると歪みが生じているのが見て取れる。

 

魔界へとつながるゲートたる黒き薔薇の発動によって、周辺の空間が不安定になっているとはいえ、それを為すのがどれほどの力であるのかを理解していた。

 

尾獣に匹敵するほどの魔力を有するラグナロクの力を得たモードレットは、まず間違いなく世界の脅威たる力を有している。

 

…それでも、シャドウの足元にも及ばないのであるが…。

 

シスイは、愛らしくも憎たらしい、弟のような存在の顔を思い浮かべながら、再度印を結ぶ。

 

「『火遁・豪炎球の術』!」

 

豪火球を遥かに上回る火炎が、モードレットめがけて襲い掛かる。

 

それに対抗しようと、収縮し終えた魔力砲が迎え撃つ。

 

衝撃。

 

両者の攻撃が、空中で拮抗して見せる。

 

それを眺めていたローズは、畏怖を抱いた表情でそれを見つめる。

 

「なんて力なの…」

 

やはりそれとは対照的に、ベータとイプシロン、559番は感銘を受けたかのような顔を見せる。

 

「さすがはシスイ様!」

 

「あれだけの魔力を穿つ火炎を生みだせるとはッ!」

 

「すばらしい…」

 

…しかし、この場において、一人だけ冷静な男がいた…。

 

「…押されている」

 

「「「え…?」」」

 

イタチの低い呟きに、ベータ達は一瞬目を見開く。

 

即座に言葉の意味が理解できなかったのだ。

 

だが、ローズは違った。

 

ベータ達と比べると、シスイに対して陶酔していないローズは、イタチと同様に冷静な判断を見せる。

 

「シスイ…様の攻撃が…押し負けて…」

 

「「「ッ!」」」

 

ローズの言葉に、ようやくベータ達は状況を理解する。

 

徐々に、徐々にではあるが、イタチの放った豪炎球が押し返されている。

 

ベータの顔が、激しくゆがむ。

 

「そ、そんな…シスイ様の攻撃が…」

 

次いで、イプシロンと559番も、苦悶に満ちた表情を見せる。

 

「お、押し負けるなんて…」

 

「そのようなことが…」

 

ゆっくりとシスイの火炎を押し返し、死の閃光が迫りを見せている状況に、それでもイタチは表情を変えない。

 

それもそのはず。

 

シスイ=イタチであるがゆえに、彼が、本体が何を考えているのか、手に取るようにわかるからだ。

 

「(ここで使うか…)」

 

後ろからでもはっきりと認知できた。

 

分身体であるイタチの思考は、ものの見事に的中していた。

 

…まあ、本人の分身体なのだから、当然と言えば当然ではあるが…。

 

シスイは、自身の放つ豪炎球が押し負けているのをはっきりと感じ取りながら、ゆっくりと右目を閉じる。

 

視神経を経由し、膨大なチャクラを右目へと送り込む。

 

眼から涙に似た血が流れ落ちていく感触を覚える。

 

そして、一気に右目を押し開き、呟く。

 

「『天照』」

 

円を描くようにして、赤く燃え盛る火炎に、黒き炎が生まれる。

 

黒き炎は火炎の淵を這う様にして、火炎全体を包み込み、そのままモードレットの放った魔力砲へと伸びる。

 

「な、なんだ…これは…⁉」

 

自身の放った魔力、それも最大出力の魔力砲を包み、焼き尽くさんとする黒き炎に、驚きを隠しきれない様子であった。

 

その驚きは、シスイの後ろで狼狽えていたベータ達も同様であった。

 

「あれは一体…ッ!」

 

「黒い…」

 

「炎…!」

 

「…すごい」

 

イプシロン、559番、ローズがそれぞれに短く言葉を漏らす。

 

魔力と火炎のぶつかり合いであったはずのものが、今では全てが黒き炎によって包まれてしまっている。

 

一体何が起きているのか…、一切の理解が及ばない彼女たちの元に、酷く落ち着いた声が届く。

 

「天照…」

 

「え…?」

 

その声にいち早く反応を示したのは、ベータであった。

 

ローズ以外は、イタチとシスイが同一人物であることを理解している。

 

故に、その言葉にこれ以上ないほどに耳を傾ける。

 

「アマテラス…?」

 

イプシロンは、聞きなれない言葉にカタコトな発音で聞き返す。

 

「奴の万華鏡写輪眼、固有瞳術の1つ…。目視し、ピントが合うだけで、その視点から黒炎を発生させる能力だ」

 

イタチの説明に、皆が大きく目を見開く。

 

「そ、そんな…」

 

「…見つめるだけで黒い炎を発生させる…ということ…?」

 

ローズとベータが、驚愕をもってそれに反応する。

 

だが、更なる驚きが彼女たちを襲う。

 

「そしてあの黒炎は、捉えたものを燃やし尽くすまで消えない…。その対象が、魔力や炎であってもな…」

 

「燃やし尽くすまで…消えない…」

 

「…つまり、喰らったら終わり…」

 

圧倒的な力、能力に、イプシロンと559が全身を震わせる…。

 

同時に、黒い炎がシュンッと消え去る。

 

…イタチの言葉通り、火炎と魔力を燃やし尽くした後に…。

 

「バ…バカな……一体何を…何をしたんだ!!」

 

イタチの説明が届かぬ上空にいるモードレットは、何が起こっているのかを理解できるはずもなく、自身が放てる最強の力が消え去ったことにより、これまでにない焦りを見せる。

 

そんなモードレットの様相に一切反応を見せず、シスイは再び右目の万華鏡を発動させる。

 

ジュッという発火音と共に、モードレットの身体を黒い炎が包み込む。

 

「ガッ…あ、あつ…ッ!!」

 

黒い炎が腹に発生したことで、モードレットはその熱に苦しむ姿を見せる。

 

モードレットは、変質した腕を器用に動かし、その炎をかき消そうとする。

 

「ッ!なぜだ、なぜ消えない…!あ、熱い!熱い!!!ぐわぁぁぁぁッッ……!!!」

 

かき消そうとした腕にも黒炎が燃え移り、更に苦し悶える。

 

その様相を見ていたベータは、歓喜にも似た笑みを浮かべる。

 

「終わった…ということですね…」

 

「そうね…奴は、このまま黒き炎に燃やし尽くされる」

 

「なんと素晴らしいお力…」

 

イプシロンと559も同じような様相を見せ、言葉を漏らす。

 

「なんて…力なの…」

 

ローズは、シスイの背中を見つめる。

 

もしこの力が、あの黒炎が、オリアナに向いたら…。

 

そう考えるだけで、背筋にゾッとしたものが駆け抜ける。

 

イタチの言葉を信じるのであれば、あの黒炎は何をもってしても消すことはできない…。

 

それはつまり、燃え尽きるまで、ただただ見つめることしかできないということ…。

 

その圧倒的なまでの暴力が…、そしてその力を持つシスイが、ローズには酷く、恐ろしく思えて仕方がなかった…。

 

 

 

 

 

万華鏡写輪眼、天照の力を目の当たりにしたベータは、両目をキラキラと輝かせながらシスイへと歩み寄る。

 

すでにモードレットは息絶えた様子で、燃え盛る黒炎も非常に小さなものとなっている。

 

「素晴らしいお力でした!シスイ様!」

 

少し遅れて、イプシロンも駆け寄る。

 

「あのようなお力をお持ちになっていたとは、驚きました!」

 

2人の言葉に、シスイは無言で、ゆっくりと顔を向ける。

 

…ベータとイプシロンは、うっと息を呑んだ。

 

言葉にならないほどの、衝撃を受けたのだ。

 

少し後ろでそれを見た559番ですら、驚愕に大きく目を見開く。

 

だが、至近距離でそれを把握したベータとイプシロンよりは、些少の平常心を保っていた。

 

「シ、シスイ様…ッ!目が…目から出血を…ッ!」

 

その平常心は、拙くも言葉を絞り出すことを可能にした。

 

シスイの右目は閉じられ、その目頭と目尻からは、涙のように鮮血が流れていた。

 

「ど、どど、どうして血が…ッ!」

 

「シ、シスイ様ッ!大丈夫なのですか!」

 

559番の言葉と、些少の時間の経過が、ベータとイプシロンに思考を許す。

 

「…案ずるな、これは天照の…いや、万華鏡写輪眼のリスクの1つだ」

 

「リ、リスク…?」

 

「い、一体どのような…」

 

案ずるなと言った割に、案じざるを得ないイタチの発言に、2人は再び大きく取り乱して見せる。

 

2人の様相を見て、シスイは少しだけ迷うような素振りを見せる。

 

流れで淡々と伝えてしまったが、彼女たちに知られてしまうのはまずかったな…、と後悔する。

 

だが、その後悔もそう長くは続かなかった。

 

先ほどまで沈黙を見せていた黒き薔薇が、はるか上空でバチバチと黒い稲妻を発生させ始める。

 

「…まだなにかあるのか…?」

 

酷く冷静なイタチは、黒き薔薇が激しく動きを見せるのを、ぐっと睨みつける。

 

黒き薔薇の様相を見たローズが、ひっと喉の奥から呻き声のようなものを漏らす。

 

「シスイ様!あの感じ、もしかしたらまた魔物共が出てくるかもしれません!」

 

会場にて、同じような様相を見せた後に、大量の魔物が出現したのを見ていたローズは、必死にそれを伝える。

 

「…ならば丁度いい…」

 

「え?」

 

シスイは閉じていた右目をスッと開き、左目と合わせて、万華鏡写輪眼を再度発動させる。

 

瞬間、真っ赤な、それでいて強大な魔力体が生成される。

 

「こ、これって…」

 

その魔力体は、シスイを中心に骨、肉体と順に形を宿していく。

 

「す、須佐能乎…ッ!」

 

この力を見知っていたローズとベータが、大きく目を見開いて呟く。

 

「須佐能乎…これが…」

 

「なんて強大な…ッ」

 

報告書によって齎されていた情報のみを有していたイプシロンと559番は、その力を感じ取りながら、口を半開きにする。

 

次いで、肉体を有した須佐能乎は、そのまま更に鎧のようなものを身に纏う。

 

「な、なんて力なの…」

 

「これは…無法都市で見たものよりも更に…ッ!」

 

ローズとベータは、見知っていたよりも洗練された姿を有する須佐能乎を見て、更に驚きを見せる。

 

そんな驚きに反応を示すことなく、シスイは発動させた須佐能乎の右手をぐっと押し開く。

 

開いた右手には、通常状態の写輪眼を思わせる、3つの勾玉の形をしたチャクラの塊が生成される。

 

その勾玉は、まるで一つの物体のように、須佐能乎の掌で規則正しく旋回する。

 

須佐能乎の腕がぐっと後ろに引き、そしてそれはそのまま上空に投擲される。

 

「『八坂の勾玉』!」

 

須佐能乎の手から離れた八坂の勾玉は、高速回転を有しながら、黒き薔薇へと突進していく。

 

…数秒の後、黒き薔薇の中心に衝突した八坂の勾玉は、強大な閃光と衝撃をもってして大爆発を起こす。

 

その爆発は、黒き薔薇だけでなく、見える限りの空を覆い尽くした…。

 

 

 

 

 

 

八坂の勾玉によって齎された強大な爆発は、オリアナ王都のみならず、その周辺の空をも覆い尽くした。

 

その爆発と閃光は、遠く離れたミドガル王国でも確認できるほどの威力であった。

 

…その真下、まさに八坂の勾玉の力を至近距離で目の当たりにしたローズは、酷く呆けた様子で眩い空を見上げる…。

 

黒き薔薇が、溶けるようにしてその姿を消していく様がはっきりと目に映る…。

 

「ッ……!闇を祓う暁光…でもこれは…あまりにも…ッ!」

 

ローズの言葉に反応する者は、誰一人としていなかった…。

 

いや、言葉にして反応を示すものがいなかったという方が正しいだろう。

 

イプシロンと559は、形容しがたいような笑みを浮かべ、空を見上げていた。

 

…ベータに至っては、両眼から涙を溢れさせ、それを眺めている。

 

暫くした後、爆発によって齎された閃光が収まりを見せる。

 

黒き薔薇も、それこそ空に点在していた雲すらも、一切がその姿を消していた。

 

夜に塗りつぶされたオリアナの空には、満天の星空が広がる。

 

全てを消し飛ばした張本人であるシスイは、それを確認した後、ゆっくりとベータ達の方へと振り返りながら、須佐能乎を解く。

 

霞みに攫われた様にして、須佐能乎はその姿を消す。

 

未だ空を見上げ、恍惚の表情を見せるベータ達に、シスイは少しだけ目を細めながらも、唯一こちらへ視線を送る人物へと目を向ける。

 

シスイから視線を受けたローズは、一瞬身体を強張らせるが、何とかそれを取り繕う。

 

「…これで終わりだ…。ここからは、お前の、お前達の仕事だ…。666番…いや、ローズ・オリアナ…」

 

「…シスイ、様…」

 

ローズは、小さく、ただ一言だけ呟く。

 

そんなローズの様相を他所に、シスイは一歩前へと歩みを進める。

 

…その瞬間、ぐらッと大きく視界が揺らぐ。

 

「(なっ…なんだ…これは…)」

 

両目を凝らし、揺れた視界を戻そうと試みる。

 

だが、視界は更に歪みを増すだけで、好転する予兆はない。

 

揺れ動く視界は、シスイの身体に直立を許さず、よろめきを与える。

 

「シスイ様…?」

 

上空から視界を外した途端、シスイの様子がおかしいことに、一早く気付いたベータが、語尾に疑問符を宿しながら声を掛ける。

 

瞬間、シスイが両膝を突いて倒れこむ。

 

「ッ!…シスイ様!!」

 

両膝を突いて俯くシスイを見て、イプシロンが疾風の如き速さで駆け寄る。

 

同時に、イタチにも変化が起こる。

 

イタチは、本体である自身の様相に大きく目を見開いたかと思うと、一瞬で煙のように掻き消えてしまった。

 

「イ、イタチさん!!!」

 

この場で唯一、シスイとイタチが別人であると思っているローズが、掻き消えたイタチへと声を張り上げる。

 

だが、消えたイタチは返事を返すことはなかった。

 

「な、なにが…イ、イタチさんはどこに…」

 

「くっ!…影分身を維持できない程に…ッ!」

 

ベータは、掻き消えたイタチの姿を見て、苦悶を超えるような表情を見せる。

 

そうして視線をシスイへと向き直した瞬間、シスイもイタチと同様に白い煙に包まれる。

 

「「シスイ様ッ!!」」

 

少し遅れてシスイに駆け寄った559番が、イプシロンと共に叫ぶ。

 

イタチとは違い、シスイの身体は白い煙が晴れてもその場に留まっていた。

 

当然だ。

 

イタチを包んだ白い煙は、影分身が解けた際に発したもの。

 

そして、シスイを包んだ白い煙は……。

 

「へ、変化まで…ッ!シスイ様!しっかりしてください!!」

 

…変化が解けたことによって発生した者であった。

 

イタチの容姿へと戻りを見せる。

 

…それに、驚くものが1名……。

 

「え…は…え…?」

 

先ほどまでシスイだったものがイタチへと変貌を遂げたことで、ローズは言葉にならない吐息のような声を漏らす。

 

「ど、どうして…どうしてシスイ様がイタチさんに……」

 

ベータは、ここで初めてローズの様相に気付く。

 

「ッ…!しまった…!」

 

ローズの瞳は、上下左右に激しく揺れ動く…。

 

「ど、どういう…まさか…そんな…シスイ様は…もしや……」

 

ローズの言葉に、イプシロンは大きな決断をする。

 

「ベータッ!一先ず、シスイ様をアレクサンドリアへ…ッ!…666番、あなたも来なさい!」

 

「え………」

 

目の前で起こっている出来事に、未だ理解が追い付かないローズにとって、イプシロンの言葉が入る余地はなかった。

 

だが、彼女らにそんなローズを気遣う余裕などない。

 

なにせ、シスイが今しがた、全く反応を示さなくなってしまったのだから…。

 

「シスイ様ッ!どうか、どうかお返事を!!」

 

「ベータ様!脈と息はあります!死んではいません!」

 

「ならなぜ意識を取り戻さないの!!」

 

「わかりません!ですが、今はイプシロン様の言う通り、アレクサンドリアへ戻るのが先決かとッ!」

 

ベータと559番の問答を他所に、ローズは、ゆっくりとイプシロンへと歩み寄る。

 

「イプシロン様……。もしや…シスイ様とイタチさんは……」

 

「…後で説明してあげる……。だから、あなたも手伝いなさい、666番ッ!」

 

イプシロンは、未だしどろもどろといった様相のローズに、激を飛ばすようにして言葉を発した…。

 

 

 

 

 

 

「(一体何が起こっている…?)」

 

シスイことイタチは、歪み揺れる視界の中で、自身の状況を何とか分析しようと頭を回す。

 

「(病気の再発…?いや、痛みはない…それはないだろう…)」

 

次第に立っていることすらままならないほどの歪みに、足の力をストンと抜け落ちる。

 

「(魔力…チャクラの使い過ぎか…?それも違う…今だ2割も消費していない…)」

 

歪みは、意識の維持にまで影響を始める。

 

「(くっ…意識が…くそ…これでは術の維持も…ッ)」

 

そう危機感を抱いた瞬間、影分身体が解除されたのが脳内に伝わる。

 

次いで自身にかけていた変化も解ける。

 

「(まずい…ここにはシスイの正体を知らないローズが…)」

 

既に虚ろと化そうとしている意識の中で、イタチは頭を回すが、視界が暗転していく。

 

「(くっ…なんなのだ…一体…まるで…魂そのものが……)」

 

視界が完全に暗転するのと同時に、イタチは完全に意識を手放すこととなった………。

 

 

 

 

 

ミドガル王都に本社を構えるミツゴシ商会。

 

シャドウガーデンのフロント企業としての役割を果たすミツゴシ商会の本社は、同時にミドガル王都での活動拠点としても機能している。

 

シャドウガーデンのNO.3であり、七陰のまとめ役を担うアルファは、その本社で組織の運営と作戦を取り仕切る役目を担っている。

 

そんなアルファは、ミツゴシ商会の会長、ルーナとしての顔を持つ、同じ七陰のガンマと共に職務に当たることが多い。

 

今日も変わらず職務をこなす。

 

そして、オリアナ王国で作戦を遂行中…、いや、昨晩空に発生したシスイの魔力を感じ取れた閃光を見るに、作戦自体は終了しているのであろうが、その報告があがってくるまではいつも通りに仕事に取り掛かる予定であった。

 

「そろそろかしら…?」

 

「ええ、オリアナでの作戦部隊は既に帰投している頃かと…。報告も順次上がってくるものと思われます」

 

アルファの発言は、要所が抜け落ちた内容であったが、ガンマはそれでも正しく理解し、返答して見せる。

 

すると、ドタドタと執務室の近くの廊下を走る足音が聞こえる。

 

「デルタ…?」

 

「…いえ、彼女は今、別の任務についているはずです…」

 

シャドウガーデンの支部であるこの場を、このようにして品位がない足取りを見せるものは、一人しかいなかった。

 

…だが、彼女でないのなら、一体だれが…。

 

アルファは、些少の怒りと怪訝を抱きながら、近づいてくる足音に耳を凝らす。

 

次いで、アルファ達のいる執務室の扉がバンッと開かれる。

 

ノックもなしに入室してきたその人物に、アルファだけでなく、ガンマも珍しく目を尖らせる。

 

そして驚く。

 

それを齎したのが、まさかのニューであったからだ。

 

彼女は普段から、超がつくほどの真面目さである。

 

間違ってもこのような行為に及ぶことはない。

 

それを肯定するかのように、ニューは大きく息を荒げ、今にも死にそうな表情を見せている。

 

そしてそれは、アルファに一抹の不安を抱かせる。

 

「…一体何があったの?」

 

ニューの信じられない行動、そして表情に、ガンマも思わず目を大きく見開く。

 

「シ、シスイ…シスイ様が……」

 

「ッ!シスイが…どうしたの⁉」

 

ニューから発せられた名前に、アルファはダンッと机を叩いて立ち上がる。

 

その顔には、焦りと困惑が混じったような表情が張り付いていた。

 

「シスイ様が…シスイ様が…」

 

「ッ!はっきりしなさい!ニュー!!」

 

敬愛する主人の名を、ただただ連呼するニューに、ガンマは焦燥感を抱きながら声を荒げる。

 

普段温厚なガンマも、ニューの様相と無視できない名を連呼する姿に、冷静さを欠き始めていた。

 

「…シスイ様が……意識を失われたとの報告を……うけました……」

 

ニューの涙混じりの言葉に、アルファとガンマは『ひぃ…』と喉の奥を鳴らしたかと思うと、これでもかと大きく目を見開き、固まって見せた……。

 




一先ず、オリアナ編はこれで終わりです!

アニメ二期分に追いつけて、とりあえず一安心です。

ここからは小説版を絡めつつ、オリジナル展開で構成していきます。

感想、評価お待ちしております。

今後もよろしくお願いします。
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