うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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イタチ編
第25話 穢土転生


 

ラファエロとレイナと共に、王城庭園の地下へと身を潜めていたベアトリクスは、地下にいてもわかるほどの圧倒的な衝撃音を感じ取る。

 

その衝撃が止み、ゆっくりと地上へ出て、大きく目を見開く。

 

ベアトリクスの瞳に映るのは、満天の星空…。

 

先ほどまで空を支配していた黒き薔薇も、ラグナロクという怪物も見当たらない。

 

「…まさか、シスイが…」

 

斃したのだろうか…。

 

最後まで言葉としては放たず、ただただ静寂が包むオリアナの空を見つめる。

 

「こ、これは…」

 

ベアトリクスの後方から、ラファエロが顔を出す。

 

同じように驚き、空を見上げている。

 

「もしかして…終わったのですか?」

 

更にレイナもそれを認知し、呟くようにして声を発する。

 

「…わからない、でも、脅威は去ったと見える…」

 

ベアトリクスの言葉に、ラファエロとレイナは安堵に似た表情を抱く。

 

が、それは長くは続かない。

 

「ローズとイタチ殿は…⁉」

 

「…それもわからない、探しに行く」

 

「私も行きます…」

 

ラファエロの杞憂に、ベアトリクスはただ淡々と言葉を並べる。

 

その言葉に従う形で、ラファエロとレイナは、未だ混乱が続くオリアナ王都、地上部へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

ベータとイプシロン、559番、そして意識を失ったイタチと共に、ローズはシャドウガーデンの本拠地であるアレクサンドリアへと帰還を果たした。

 

到着時、彼女らを出迎えたのはラムダであった。

 

ローズ達をその目に捉え、近づくにつれて彼女の表情は驚愕へと変化する。

 

なぜなら、イタチが、シャドウガーデンの盟主の1人が、ベータに背負われていたからだ。

 

そこからラムダの行動は早かった。

 

アレクサンドリアにおける警戒レベルを最大限に引き上げ、この場にいる七陰やナンバーズへイタチの状況を伝える。

 

もちろん、ミドガル王都にいるもう一人の盟主シャドウや、ミツゴシ本社にいるアルファ達にも緊急の伝令を飛ばす。

 

意識の戻らないイタチは、一先ず現時点で一番イタチの意識を取り戻すことのできる可能性のある、七陰の1人、イータの元へと送られる。

 

「シスイさんが…意識不明…信じられない…」

 

「ッ!シスイさん!」

 

イータと、その助手であるシェリーは、困惑しきった様相を見せてはいたが、ベータからある程度の経緯を聞かされ、できうる限りの治療を施す。

 

だが、何をもってしてもイタチの意識は戻らなかった。

 

不幸中の幸いだったのは、『生命維持に支障がない』ということであった。

 

脈拍も、呼吸も、非常に安定している。

 

加えて、魔力の流れも穏やかであった。

 

だからこそわからない…。

 

「なんで…意識が戻らない…?」

 

「イータさん…」

 

イータが苦悶の表情を浮かべながら、イタチに寄り添うのを見て、シェリーは居た堪れなくなる。

 

数秒の沈黙ののち、シェリーがある可能性に気付く。

 

そしてそれは、小さな呻き声となって漏れる。

 

その声に気付いたイータはふっとシェリーへと視線を送る。

 

「何か、気付いたの?」

 

「…か、確証はないんですけど…」

 

シェリーは申し訳なさそうに呟いてみせる。

 

「それでも…いい!教えて…」

 

この状況においては、そんなものは関係ないとばかりに、イータはシェリーの小さな両肩をがしっと掴む。

 

「は、はい…。その、シスイさんは…自ら意識を失っているのではないでしょうか…?」

 

「自ら…?」

 

「…辛い記憶や出来事を経験した人の中には、時に生きることを諦めてしまう人もいると聞きます…」

 

シェリーは、自分の辛い記憶をなぞりながら、少しだけ声を震わせる。

 

「…シスイさんに限って…そんなこと…」

 

イータは、シェリーの言葉を鵜呑みにできず、否定の言葉を吐き出す。

 

「そ、そうですよね…。すみません…」

 

シェリーの謝罪に反応を示さない。

 

熟考する。

 

イタチほどの男が、自ら生を諦めるとは思えない…。

 

だが、脈拍も、呼吸も、魔力の乱れもない。

 

至って正常、それこそ、健康そのものだ。

 

その前提条件がある故に、イータの中で、シェリーの語った推察の可能性が高いのではないかという考えに至る。

 

迷っていても仕方がない…。

 

そう結論付けたイータは、散らかりまくった棚の中から、一つの研究成果を取り出す。

 

一見するとヘルメットのようなものであり、それは且つて、イタチに協力を拒否されたものであった。

 

「それは…脳みそちゅうちゅうくん11号…!まさか、それでシスイさんの記憶を…!」

 

装着者の過去の記憶を覗き見ることのできる機械…、それがこの脳みそちゅうちゅうくん11号であった。

 

イタチに見せた時よりも、更に2回ほど改良を重ねたそれは、録画機能を搭載することに成功した最新型であった。

 

今は、複数人で同時に記憶を覗き見る機能を備えた12号を開発中であるが、未だ完成には至っていない。

 

「…出来ることは…何でもする…」

 

「イータさん…」

 

シェリーは迷う…。

 

他人の記憶を覗き見ることは、褒められることではない…。

 

それどころか、見られて気持ちの良いものなど存在しないだろう。

 

シェリーも、自身の記憶を見られるのは…、その相手が例え、愛してやまないシドであっても拒否を示す。

 

だが、状況が状況なだけに、イータは大きな決断をしてみせる。

 

「…シスイさんが…無事に目を覚ますきっかけを…得ることができるなら…私は後で…どんな罰でも受ける…」

 

イータの覚悟に、シェリーは大きく目を見開く。

 

そして、ギュッと瞼を閉じて、その覚悟に答える。

 

「わかりました…。やりましょう!…私も、私も同じく罰を受けます!」

 

シェリーの言葉に、イータは少しだけ目を見開いたのち、小さく笑う。

 

そして、意識のないイタチの頭へと、脳みそちゅうちゅうくん11号を装着して見せた。

 

 

 

 

 

 

ローズは、アレクサンドリアにて与えらえた一室にて、項垂れながらベッドへと腰かける。

 

ある程度自身の中で結論は出ていたものの、実際にベータとイプシロンから真実を聞かされたことで、彼女の頭は既に爆発寸前であった。

 

「…イタチさんはシスイ様で…シスイ様はイタチさん…」

 

まるで自分に言い聞かせるようにして、何度も何度も呟く。

 

それがようやく脳に焼き付いたことで、イタチとシスイとの記憶を思いだす。

 

似ていると思った場面がなかったわけではない…。

 

だが、要所要所で決定的に違いがあったため、まさか同一人物だとは思わなかったのだ。

 

扱う魔力、技、剣技…。

 

そのどれもが似ても似つかないものであった。

 

…だが、それすらも演技であったと、今のローズには理解できる。

 

「あれほど精巧に偽装していたなんて……」

 

気づかない自身の愚かさと共に、それを為しえるイタチという存在に、ローズは心からの称賛の感情を抱く。

 

そして次第に、思い出していた記憶は、イタチとミドガル王国で別れた場面へと届く。

 

『何があっても、私のことを信じてくれますか?』

 

そうイタチに問うた時のことを…。

 

「ふふっ…。あの時にはもう、私の置かれていた状況を見抜いていたのですね…」

 

でなければ、イタチと同一人物であるシスイが、地下水路で逃げ惑う私と会うことなどできようはずもない…。

 

そのまま、記憶は地下水路での場面へと移る…。

 

『助けて…イタチさん…』

 

全てに絶望し、涙ながらに声を発したあの時…。

 

そう発した直後に、シスイは…いや、イタチは現れたのだ。

 

「…あの時に助けてくれたのも、イタチさんだったのですね…」

 

その後のシスイとの関り…。

 

なぜ見ず知らずの私なぞのために力を与えてくれたのか…。

 

道を指し示してくれたのか…。

 

不思議で仕方がなかった…。

 

敵対しているディアボロス教団を潰す…。

 

それが目的だとしても、ここまで親身になって手を差し伸べてくれる理由が分からない…。

 

そう、つい先ほどまでは…。

 

だが、導いてくれたのがイタチであるのならば、話しは変わってくる。

 

「…あなたは、ずっと私を見守ってくれて……なのに……ッ!」

 

惚けたような表情が一変し、苦悶にも似たものへと変化する。

 

「どうして私は…こんなにも弱く…役立たずなの…ッ!」

 

ローズの瞳から、ポロッと涙が零れる…。

 

何度も助けてもらった…。

 

何度も窮地を救われた…。

 

にもかかわらず、いざイタチがピンチの際には、何一つしてあげられない…。

 

それが、今のローズをこの上なく苦しめていた……。

 

 

 

 

 

 

『シスイが意識を失った…』

 

その報告を受けたアルファは、ミツゴシ本社にいる七陰、ナンバーズの全てを伴い、アレクサンドリアへと帰投する。

 

すぐにでもイタチの顔を見て、傍に寄り添いたい気持ちでいっぱいであったが、イータが治療中ということで、何とかその気持ちを踏みとどまらせる。

 

「それで、何があったの?」

 

「…敵にやられたわけではないのでしょう?」

 

ニューから齎された緊急の報告の内容から、大体の状況を聞き及んでいたアルファとガンマ。

 

イタチが意識を失う場に居合わせたベータ、イプシロンへと、詰め寄るようにして口を開く。

 

「はい…。敵の攻撃は一切受けておりません…」

 

「ラウンズ第九席、モードレットを討伐後、発動していた黒き薔薇を破壊…。その直後に、シスイ様は気を失われて…」

 

ベータとイプシロンは、嘘偽りなく当時の状況を説明する。

 

だが、アルファとガンマからしてみれば、その説明から何一つ解決の糸口が見えないことに、大きく顔を歪ませる。

 

「そんなんじゃわからないわ…!」

 

「…何か、何か変わったことはなかったの?」

 

アルファとガンマの言葉に、一瞬身体を震わせたベータとイプシロンであったが、両者とも何かに気付いたようにして目を見開く。

 

「ッ!…出血をされていました…」

 

「シスイが…出血…ですってッ!」

 

ベータの呟きに、アルファは声を震わせる。

 

「はい…。右目から、涙を流すように…」

 

「目、目から…目から出血ッ!ど、どういうことなの!」

 

イプシロンの言葉に、ガンマは口元を手で隠しながら狼狽える。

 

「万華鏡写輪眼の瞳術…それによるものだと…」

 

「万華鏡写輪眼……もしかして、月読…?」

 

アルファは、少し前にイタチから聞き及んでいた瞳術を思い出す。

 

だが、彼女の中で何かが引っかかりを見せる。

 

確か、月読の力が宿っているのは、左目だったはずだ…。

 

そう考えが及んだ矢先、その引っかかりは、ベータによって解消される。

 

「いえ、シスイ様は、天照と……」

 

「アマテラス…?」

 

「はい。視点が合うだけで、対象を燃やし尽くすまで消えぬ黒炎を発生させることのできる力と仰っておられました…。私たちは実際にそれを見ました…。炎や魔力すら燃やし尽くす、そのお力を…」

 

「見るだけで……消えない黒炎を……。天照…。それが彼の右目の万華鏡写輪眼に宿る力…」

 

アルファは、衝撃的な能力に、思わず呆けるようにして大口を開くが、瞬時に冷静さを取り戻す。

 

「…血の涙は、その直後に…?」

 

「はい…」

 

ベータが小さく頷くようにして呟く。

 

「…その瞳術が意識を失った原因…?」

 

「いえ、それは考えにくいかと…。リスクのある力であるとは仰っておりましたが、意識を失うことは想定外であったように思えます」

 

「シスイ様も、酷く狼狽した様子を見せていましたから…」

 

彼女たちの考えは正しいだろう。

 

意識を失うような力を、彼がそう易々と発動させるとは考えにくい。

 

ならば、この状況の原因は他にある…。

 

そう結論付けたアルファであったが、一つだけ、聞き流せない言葉があった。

 

「リスク…リスクがあるの…?」

 

アルファの復唱に、ガンマがゆっくりと目を見開く。

 

リスク…、その一言に込められた焦燥は、酷く大きなものであった。

 

「はい…。血の涙を流された際に、『これはリスクの1つだ』と…」

 

「リスクの、一つ…?それって…では他にもあるということ…⁉」

 

イプシロンの苦痛にも似た言葉に、ガンマは焦りを見せながら詰め寄る。

 

「そのリスクって…何なの⁉」

 

アルファも、ガンマに流されるようにして声を荒げる。

 

「…ッ!申し訳ありません、そこまでは聞き及んでおらず…」

 

ベータが深々と頭を下げる。

 

そんなベータを見て、アルファは怒りにも似た感情を抱くが、それがとんだ見当違いであることに気付き、何とか収まりをつける。

 

その瞬間であった……。

 

「失明だ…」

 

イタチとは別の、シャドウガーデンにおけるもう一人の盟主が現れ、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

背中に、硬い感覚を覚える。

 

居心地の悪い感触であった。

 

その感触を味わうと同時に、ゆっくりと目を開ける。

 

瞼を閉じていた時よりも、些少の明るさを感じ取れはしたが、そこは酷く暗い場所であった。

 

視線を左右へと向け、周りを見据える。

 

どうやら、洞窟のような場所であるようだ。

 

ゆっくりと身体を起こし、息を一つ漏らすと、ザッという何かが地面を擦るような音が聞こえる。

 

ばっとそちらへと振り返り、目を凝らす。

 

同時に、視線を向けた方角から声が聞こえる。

 

「目を覚ましたか…いや、この表現はおかしいかもしれないな…」

 

「その声は…まさか…」

 

聞き覚えがある…と言ったら噓になる。

 

暁時代…たった一度だけ、聞き及んだだけに過ぎない声…。

 

「久しぶりだな…イタチ…」

 

真っ白な髪に、ガリガリにやせ細った男…。

 

以前あった時とはかなり容姿が変わっていたが、その特徴的な目だけは変わっていなかった。

 

「な…長門…なのか?」

 

イタチの後方、岩の壁に背中を預けて座り、こちらをじっと見つめている。

 

「なぜ…お前がここに…」

 

イタチの言葉の真意は、『なぜこの世界に?』という意味であった。

 

忍界が存在していた世界とは、次元の違うこの世界になぜ彼がいるのか…。

 

そういう意味での発言であった。

 

だが、長門からすれば、その言葉はどこか天然な様相を見せるものに映った。

 

「ふっ…それはお互い様だ…。俺たちは、穢土転生されてここにいる…」

 

イタチは、大きく目を見開く。

 

「穢土転生…だと…?」

 

自身の身体をじっくりと観察する。

 

なるほど、確かに穢土転生特有の、塵芥が重なり合ったような身体を有している。

 

高い洞察力と頭脳が、自身の置かれている状況を瞬時に理解へと導く。

 

「戻ってきた…ということか…」

 

魔力なる力が存在する世界から、忍界へ…。

 

急激に意識を失うような感覚に陥った理由も理解できた。

 

だが、同時に、その言葉は長門からすればこう理解される。

 

「ああ…黄泉の国から、呼び戻されたというわけだ…俺たちは…」

 

イタチは、長門の言葉から、自身のこれまでの経緯を知りえていないことが分かった…。

 

 

 

 

 

 

洞くつで長門と再会した穢土転生体のイタチは、足の悪い長門に肩を貸しながら、太陽の元、覚束ない足取りで街道を歩く。

 

暫く無言で歩き続けていた2人であったが、不意に長門が小さく呟く。

 

「イタチ…アンタ、どこまで暁のことを知っていた?」

 

長門の発言に、イタチは暫しの沈黙ののち、ゆっくりと口を開く。

 

「そうだな…。お前よりは知っていたつもりだが…」

 

暁創設の経緯、その裏で暗躍していたマダラを名乗る男…。

 

あれが本物かどうかはわからないが、その瞳力だけは本物であった。

 

イタチの見透かしたような言葉に、長門は苦笑いを浮かべる。

 

「フッ…そうか…。結局、俺もアンタも、人に利用された忍だったということだな…」

 

「………」

 

長門の嘲笑ともとれる発言に、イタチは表情を変えずに聞き入る。

 

「お互い、持っているこの強すぎる瞳術のおかげでな…。今回も、術者に後回しで動かされてる…。使いどころを見極めているんだろう」

 

「利用された…か…」

 

長門の言葉に、イタチは怪訝な様相を見せる。

 

その言葉は、酷く的を得ていた。

 

イタチは木の葉を、弟であるサスケを守りたい一心だった。

 

だが、里の上層部からすれば、それはイタチを縛り、操る格好の餌食でもあった。

 

「戦争における俺たちの使いどころは……。まあ、そんなこと、お前ならわかっているか……」

 

「………」

 

長門とイタチ…圧倒的な瞳術を持つ2人を同時に動かすということは、それ相応の敵とぶつけるつもりなのだろう。

 

それが理解できないイタチではなかった…。

 

長門も、そう考え、あえて口に出さない。

 

「…お互い、やりづらい相手でなければいいがな…」

 

「そうだな…」

 

イタチは、目を細め、短く返した…。

 

 

 

 

 

 

あれから何時間経ったのだろう……。

 

森を抜け、海が見える砂浜へとたどり着く。

 

「…日が昇ってから…随分と歩かされてる…」

 

長門に肩を貸しながら、ゆっくりと歩いているイタチは、ぼやくようにして口を開く。

 

「だが、いよいよ戦いのようだ…」

 

「一体、どいつらだ…?」

 

暫く歩みを進めた長門は、一瞬目を見開く。

 

「…まさかな…」

 

「近いのか?」

 

長門の意味深な発言に、イタチは短く問いかける。

 

「もう懐かしく感じるな…」

 

長門がそう呟いた途端、二つの人影が立ちはだかる。

 

二つの人影は、長門とイタチの姿を捉え、ザッと砂音を鳴らしながら、足を止める。

 

その内の1人、オレンジ色のチャクラを身に纏った青年が、大きく目を見開く。

 

「うちはイタチに…長門…ッ!」

 

「知り合いか、ナルト?」

 

ナルトの言葉に、もう一人の男、褐色肌の男が問う。

 

「ああ、2人共な…」

 

ナルトは、イタチと長門を見つめながら、短く答える。

 

「まさか…お前と戦わされることになるとはな…」

 

「うずまき…ナルト…」

 

長門の言葉に、イタチは思うと事がある様な口ぶりで、その名を呟いた……。

 

 

 

 

 

 

「失明…失明ですって……」

 

シャドウから齎された言葉に、アルファは声を震わせる。

 

「主様…!失明とは…どういうことでしょうか⁉」

 

アルファに次いで、ガンマも信じられないと言った様相を見せる。

 

あまりに衝撃的な暴露に、ベータとイプシロンは驚愕の表情を見せたまま固まっている。

 

「万華鏡写輪眼…絶大な瞳術を得ることができるもの…。だが、その力は、使えば使う程、徐々に視力が低下し、最終的に行き着く先が……」

 

「…失明…」

 

シャドウの含みある言い方に、ガンマは耐え切れずに補うようにして言葉を漏らす。

 

瞬間、アルファがドサッと膝から崩れ落ちる。

 

「「ッ!アルファ様!」」

 

突然膝を折ったアルファを、ベータとイプシロンが心配そうに声を掛ける。

 

「そ、そんな……失明なんて……。そんなの……うそよ…」

 

アルファの瞳に、ジワリと涙が浮かび上がる。

 

「事実だ」

 

だが、シャドウの言葉は、アルファの願望を悉く破壊する。

 

「じゃ、じゃあ…月読も、天照も…それこそ須佐能乎も…使いすぎれば…」

 

「いつかは失明する」

 

シャドウの短くも的確な返答に、アルファは視界がぐらりと歪むのを感じる。

 

一瞬、身体に力が入らなくなり、ふっと横へと上半身を揺らす。

 

「「アルファ様ッ!」」

 

そんなアルファを、ベータとイプシロンが優しく支える。

 

絶望……。

 

命に別状はないとはいえ、イタチが意識を失っているというだけでも心が折れそうになっているのに、万華鏡写輪眼のリスク、それも看過できないレベルのリスクがあることを聞かされ、アルファの心は既に限界に近かった。

 

だが、些少の安心感を齎す発言が、シャドウから出てくる。

 

「案ずるな、アルファ…。シスイの力をもってして、そのリスクは最小限に抑えられている…。現状、今のシスイが失明するリスクはゼロに等しい」

 

『魔力を得てからは、見違えるほどに視力の低下が見られない』

 

過去にイタチ自身がそう発言していたのを思い出し、シャドウは適切にフォローを入れてみせる。

 

シャドウの言葉に、アルファは大きく目を見開く。

 

その瞳には、希望の光が差し込んでいた。

 

「ほ、本当…?本当なの…?」

 

「本当だ…」

 

アルファは、大きく息を吐き、安堵に似た表情を漏らす。

 

「…オリアナの件は、シスイが失明することも、ましてや命の危機に晒されるような状況でもなかったはずだ…」

 

シャドウの言葉に、アルファ達は大きく目を見開く。

 

全てを見通している…。

 

そう思い、安心感を得る…。

 

だが、それは間違いであった。

 

「だが、シスイは意識を失った…。一体、何があったのだ?」

 

初めての経験であった。

 

彼が、自分たちに本気で問うている姿を見るのは…。

 

だが、そんな初めての問いに、答える材料を持ち合わせていないアルファ達は、苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

 

「…ごめんなさい…。私達も、詳しいことは…」

 

彼が求めている…。

 

イタチの現状を、状況を…。

 

「そうか…」

 

シャドウは、小さく、そして低く唸るようにして答える。

 

その言葉が、叱責にも似た声色に聞こえ、アルファ達は思わず身を震わせる。

 

「ならば、直接確かめるしかないか…シスイはどこに?」

 

「え、ええ…。シスイは今、イータのところで治療を……」

 

アルファがそう言いかけた時、彼女たちのいる部屋のドアがバンッと大きな音を立てて開かれる。

 

「アルファ様…ッ!シャ、シャドウ様!お、お戻りになられて……」

 

「ラムダ…!一体どうしたの⁉」

 

「ま、まさか…シスイ様の身に何かッ!!」

 

ラムダの登場、そしてその様相に、アルファとベータは声を荒げる。

 

「い、いえ!シスイ様は無事です!意識は戻られていませんが……」

 

ラムダは彼女たちの不安を払拭しようと即座にイタチの安否を報告するが、以前意識が戻っていないことには変わりないため、語尾に向けて徐々に声を小さくしていく。

 

「ならば、何があった?」

 

そんな様子のラムダに、シャドウは淡々と問いかける。

 

「は、はい!その、シスイ様の治療に当たっていたイータ様が……」

 

「イータが?イータがどうかしたの?」

 

ガンマは右斜めから予想もしていなかった名前が出てきたことで、思わず呆けたような声を上げる。

 

「イータ様が突然発狂し、その…意識を失ってしまわれて……」

 

「「「「な、なんですってッ!!」」」」

 

ラムダの報告に、アルファ達4人は、怒号にも似た声を上げる。

 

イタチだけでなく、その治療に当たっていたイータまで意識を失った……。

 

その経緯を知らないアルファ達は、一つの勘違いを齎す。

 

「ま、まさか…何かのアーティファクト…⁉」

 

「で、では…シスイ様が意識を失われているのも…」

 

「確かに、可能性としてはあり得るわね…」

 

「でも、イータはともかく、シスイ様がそんな……。それに、あの場にいた私たちが気付かないなんてこと…」

 

アルファ、ガンマ、イプシロン、ベータが口々に意見を漏らす。

 

ガヤガヤと話し合う4人に、シャドウは威厳ある声でそれを制する。

 

「騒々しい…」

 

「「「「「…ッ!」」」」」

 

短い、しかし怒気のこもったように思えるその一言で、七陰の4人だけでなく、報告に来たラムダまでぐっと押し黙る。

 

「なんにせよ、まずは状況確認だ…。ラムダよ」

 

「…ッ!はっ!」

 

「すぐにシスイとイータの元へ案内しろ…」

 

「…ッ!お、お待ちください!シャドウ様!」

 

シャドウの言葉に、イプシロンが緊張感を抱きながらもそれに待ったをかける。

 

「ん?」

 

「げ、原因がわからない以上、危険かと…」

 

「案ずるな…。我が意識を失うことなどありえん」

 

「し、しかし…」

 

シャドウの威厳ある言葉に、いつもであれば従うイプシロンであったが、シスイが意識を失っている今の状況では、その行動は看過できないものであった。

 

「安心しろ…。大方の目星はついている…」

 

「ッ!な、なんと!」

 

シャドウの言葉に、ラムダは歓喜にも似た声を上げる。

 

七陰が束になってもたどり着けなかった答えを、シャドウは即座に導き出した。

 

そう理解したラムダは、思わず表情を綻ばせる。

 

「い、一体…何が…」

 

アルファも同じように驚いてはいるが、シャドウの言葉の真意を確かめようと、拙くも声を漏らす。

 

「…知りたければついて来い…」

 

「「「「「ッ!はい!!」」」」」

 

シャドウの頼りになりすぎる言葉と背中に、アルファ達はしっかりと付いていく。

 

……。

 

…まあ、実際には酷い勘違いなのであるが…。

 

「(意識を取り戻したイタチさんに、こっぴどく怒られた…ってところかな…)」

 

イタチの無事を信じて疑わないシャドウは、イータが発狂して意識を失った原因を、そう結論付けていた…。

 

それが、とんでもない思い違いであったことを、彼はすぐに知ることになる……。

 

 

とりあえず、イタチ編を含め、本編は後3編で終了予定(話数にすると、プロットでは20話行かない程度)です。そこで、最終的にこの物語をどう締めくくるのか、大まかな流れを皆さんに問わせて頂きたく思います。

  • ハッピーエンド!
  • ハッピーエンド(イタチの身体一部欠損)
  • パッピーエンド(イタチ、シド共に欠損)
  • バッドエンド(イタチは皆の精神の中に…)
  • バッドエンド(イタチは精神の中にすら…)
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