…シャドウが去ってから、一体どれほどの時間が経ったのだろうか…。
大体の時間すら分からないほどに、その場にいる者達は失意と絶望に苛まれ、シャドウが去った後の玉座の間は、酷い様相を呈していた…。
ただ虚空を見つめて涙を流す者…。
両の目を強く閉じ、苦悶に満ちた表情を浮かべる者…。
床に突いて項垂れている者…。
この原因を齎したのは、言わずもがなシャドウの語りであった。
そしてその内容は、シャドウガーデンNO.2、シスイもとい、イタチの過去と真実である。
イタチの出生から、この世界へ至るまでのものであったが、それは想像を絶する内容であった。
それは長い長い沈黙を有することになるのだが、しかしそれを、か細く小さな声が破ってみせる。
「夢……」
その声は、幾ばくかの意識を向けることに成功する。
地面に座り込み、虚空を見つめている、長い金髪を有した女性が発した声であった。
「これは……夢よね……」
「…アルファ様……ッ」
アルファの、一切の感情が見られないその呟きに、イプシロンが悲痛にも似た声を上げる。
「ありえないわ……こんなの……」
「……ッ」
失意に満ちたアルファの呟きに、同じくへたり込んでいるベータが、ぴくッと身体を動かす。
「…いえ…間違いなく、現実です…」
アルファと同列ともいえる程の聡明さを誇るガンマが、ギリギリのところで保っていた冷静さを何とか絞り出す。
「…イタチ様は…、国と弟を守るため、悪党に見せかけて…死んだ……」
長く垂れ下がった、水色のツインテールを地面に着けた状態で、イプシロンが呟く。
その呟きと同時に、犬のような耳を頭に有した少女が、ゆっくりと歩き出す…。
「デルタ……?」
同じく耳を頭に有してはいるが、彼女とは少し違いのある耳をもつゼータが、珍しくその名を呟く。
「私は木の葉に行くのです…」
「は……?何で……」
デルタは、怒りを抑えることもなく、荒い息遣いのまま、ゼータへと顔を向ける。
その顔には、悲しみが混じったような、憤怒の表情が浮かんでいた。
「決まっているのです!木の葉を潰すのです!!」
デルタの叫びは、静寂が支配する玉座の間に、木霊するように轟く。
その声量と怒りに、一瞬圧倒される皆であったが、ベータがそれを窘めるようにして呟く。
「木の葉の国は、この世界には存在しないわ…」
「ッ!…なら、木の葉の国のある世界に行くのです!!」
「…現状、その手段はないわよ…」
それでも意思を曲げないデルタに、今度はイプシロンが声を上げる。
「なら探すのです!!探し出して、木の葉を…ッ!」
「やめなさい、デルタ」
ならばと、声を荒げるデルタを、アルファが貫禄のある声で制する。
「ッ…アルファ様……」
シャドウとイタチに加え、自身が敵わないと理解しているデルタは、うっと言葉を詰まらせる。
再び静寂を取り戻した玉座の間に、アルファの深く長い吐息が漏れる。
「…仮に木の葉がある世界に行けたとしても、デルタのそれは、…彼の意思に反するわ…」
「ッ!で、でも…!!」
「彼がなぜ、一族を滅ぼし、犯罪者の汚名を背負ってまで国を抜けたのか…わからないわけじゃないでしょう…」
アルファの言葉に、デルタだけでなく、皆が一様に黙り込む。
世界の安定、木の葉の国の平和…そして何より、最愛の弟の命…。
それらを守るために、イタチは全てを、それこそ、自身の命すらも捨てたのだ…。
デルタの気持ちが分からないアルファではない。
アルファにとって、最愛の男性であるイタチの想いを利用し、それを道具として利用した木の葉への憎しみは、言ってしまえば彼女以上のものである。
しかし、それはアルファ自身の感情と憎しみであって、イタチの想いではない。
それが同じ方向であれば、さして問題とはならないが、しかし真逆と言っても過言ではなかった。
「…それに、今私たちがやるべきことは、木の葉がある世界へ行くことでも、ましてや木の葉への制裁でもない……」
アルファは、小鹿のように震える足に、何とか力を込めて立ち上がる。
何度かよろけそうになり、上半身を右往左往へと揺らして見せるが、最終的には二本の足でしっかりと立って見せた。
「…今は、彼の…イタチの意識を取り戻すことが先決よ…」
その言葉に、意思に、絶望と失意に支配されていた多くの者達が、大きく目を見開く。
「そうです…。今は…イタチさんの身を案じなければ…ッ」
漸く悲しみから意識を取り戻した666番、ローズが自身に言い聞かせるようにして呟く。
それを皮切りに、多くの者達が絶望から決意へと、その瞳を変えていく。
それを感じ取ったアルファは、未だ涙で崩れた顔に、なんとか笑みを浮かべる。
「……まずは、現状を整理しましょう…。オリアナ王国で起こった黒き薔薇…いえ、人為的な魔界へのゲートによって齎された異変を……」
アルファがそう言って見せた瞬間、玉座の間がバンッと開かれる。
唐突に扉が開いた音に、皆がそちらへと視線を送る。
そこには、イータの助手として働いている、シェリーの姿があった。
苦しそうに肩で息をしている彼女を見るに、ここまで走ってきたことは容易に想像がついた。
呼吸を整えるようにして、何度か大きく息をして見せた後、彼女は口を開く。
それによって齎された言葉と内容は、アルファ達に再び衝撃を与えた後、またも絶望に似た動揺を生み出すのであった……。
消えゆく意識の中、これまでにない穏やかな感情を抱く。
意図せず打ち明けられてしまった自身の真実であったが、それによって弟へ本当の想いを伝えることができた…。
「(俺の道にもようやく……終わりが見えた…)」
幼き頃の記憶が、平和な木の葉とうちは一族での生活が脳裏に浮かび上がってくる。
「(シスイ…イズミ……父さん…母さん…)」
自身にうちはと木の葉を託し、自死を選んだ親友…。
一族抹殺任務に際し、一番最初に手をかけた、幼馴染にして愛する女性…。
…そして、己の命を差し出し、自身の選択を尊重し、サスケを託してくれた両親……。
「(…あの時、袂を分かった道も…)」
もしかしたらありえたかもしれない日常…、親友との関り、イズミとの婚姻、家族の団らん……。
それらを思い浮かべながら、意識は更に薄いものへと変化する。
「(…これで…ようやく…)」
そう想いながら、意識を手放した…。
…。
……。
………。
…
手放した、はずだった…。
失いかけた意識が、再び明瞭になっていくのを感じる。
その流れに身を任せ、瞼をゆっくりと開く。
開き始めると、瞳には人工的な、真っ白な光が飛び込んでくる。
太陽や月あかりとは違う明るさであった。
数度瞬きをし、瞳だけを動かして周りを見回す。
「(ここは……?)」
見慣れぬ部屋、景色が脳に飛び込んでくる。
様々な器具や書類が乱雑に置かれた机、取り急ぎ片づけた跡が残る床と棚……。
そのどれもが、彼の知りえるものではなかった。
「(俺は…確かに…)」
両手をもって、自身の身体を確認する。
その身体は、穢土転生の象徴とも言える塵芥で構成されてはおらず、間違いなく生身の肉体も有していた。
穢土転生が確実に解除されていることに安堵しつつも、この状況の全てを理解できたわけではない…。
「(生きて、いるのか…それに…)」
左目へと、そっと手を添えながらゆっくりと瞬きをする。
「(…視界が…確実に失明していたはずだが…なぜ…)」
穢土転生体で、失明と引き換えとするうちは一族の禁術、イザナミ。
それによって失ったはずの左目の視界は、しっかりと光を捉えていた。
「(…一体何が起こっている…。本当に生き返った…とでもいうのか?)」
状況がわからず、未だ混乱しているなか、ふっと視界があるものを捉える。
「(ッ!…人、か?)」
ソファの端から、紫色に似た長髪が垂れているのが見える。
ぐっと身体をベッドから起こす。
身体が軽い…。
感覚は生身の肉体と変わりないものであったが、その軽快さは穢土転生体とも思えるものであった。
紫色の髪を有するであろう人物の元へと、ゆっくりと歩みを進める。
「(この子は…人間…か?)」
普通の人間にしては、耳が尖がっていた。
ソファに寝そべり、スウスウと寝息を立てている。
どうやら、死んでいるわけではなさそうだ。
その子の顔を数秒眺めたのち、書類が乱雑に置かれた机へと視線を移す。
書類に書かれた文字、そしてその内容を見て、驚愕が心を支配する。
「(こ、これは…⁉)」
その書類を手に取り、再度視線を動かし、読み進めていく。
「(なぜ…写輪眼のことが…⁉)」
書類には、それが事細かに記載されていた。
それだけでも驚きであるのに、更に目を疑うようなことまで書かれていたのだ。
「(…俺のことまで…、それに、万華鏡写輪眼についてまで記載されている…)」
書類には、イタチの名やその力についてまとめられていた。
次第に驚愕は冷静さを伴い、持ち前の洞察力は一つの仮説を導き出す。
「(…俺を、いや、うちはの力を狙う組織か何かなのか…?)」
未だ安らかさを持った寝息を立てる紫色の髪を有した女性を、じっと眺めながら考える…。
だが、その思考も長くは続かなかった。
普通の人間では捉えることが難しい足音であったが、イタチにとっては造作もないことであった。
「(…ッ)」
一瞬で物陰に潜み、隠れ蓑の術を用いて潜伏して見せる。
高位の忍に対しては意味をなさないそれであったが、瞬時に身を隠すには最適なものであった。
がちゃっという音共に、一人の少女が入室してくる。
年の頃は、14歳前後であろうか…。
ピンクブロンドの髪は、肩にかかるかかからないかくらいの長さであった。
「イータさん、イタチさん、入りますね」
小さく呟くようにして、さも当たり前のように声を発する少女であったが、イタチにとっては看過できないものであった。
「(あの娘…なぜ俺の名を…まさかあの娘も……)」
恐らく出会ったことがないであろう少女が、自身の名を知りえ、呼ぶ姿に酷い困惑が湧き上がる…。
「あ、あれ…?イタチさん…?」
「ッ…」
隠れ蓑の術がばれたのか…。
一瞬そう思ったイタチであったが、それは杞憂に終わる。
彼女がそう呟いた先は、イタチが先ほどまで寝そべっていたベットであったからだ。
居所がばれていないことに安堵しつつも、なんとかこれまでの状況を整理して見せる。
「(穢土転生の術が解除されたのは間違いない…。だが、なぜか俺は生きている…。なぜ生きて…いや、生き返ったのかはわからんが、同じようにここが何処なのかもわからない…。見た感じ、ここは何かしらの研究室のようだ…そして、彼女らが俺のことを知っているとすると…)」
イタチが一人、冷静に思考に耽っている中、対照的に先の少女には動揺の色が見え始める。
「イ、イタチさんッ…どうして…一体どこにッ!」
少女は、辺りをキョロキョロと見回しながら、狼狽える。
そんな少女の様相を捉えながら、イタチは怪訝な視線を送る…。
「(…実験…。うちはの力を調べ狙っている者、組織といったところか…)」
そう結論付けたイタチは、警戒心を強める。
「い、いなくなっちゃった…、ど、どうしよう……ッ」
少女は、頭を抱えながら、酷く狼狽している。
「(…あの娘に俺の居場所は感知されていない…抜け出すなら今だな…。俺の状況も、ましてやこの組織を相手取るにしても、情報がなさすぎる…)」
そう結論付けたイタチは、その場から一瞬で、消え去るようにして姿を消すのであった……。
ミドガル王都から、王国領の極東にあたるカゲノー領へと足を踏み入れたベアトリクスとアレクシア。
特に変わった様子を見せないカゲノー領であったが、領主であるカゲノー男爵家の近くへと近づくと、様相は一変する。
「ちょっとあなた達ッ!シドがどこに行ったか知らない⁉」
武神の名を冠するベアトリクスと、ミドガル王国第二王女であるアレクシアに対する者とは思えない声掛けに、両者は思わず大きく目を見開く。
その声掛けの主は、シドの姉である、クレア・カゲノーであった。
「シドは、ここにはいないのか?」
「なによ…あなた達もシドを探しているわけ?」
ベアトリクスの呆けたような言い方に、クレアは見るからに期待外れと言った表情を浮かべる。
「シド…というより、私たちが探しているのはイタチよ、それにローズ・オリアナ。」
「イタチとローズ王女?何であんた達が…?」
自身の師であり、且つ弟を誑かす怨敵であるイタチの名が出たことで、クレアはあからさまに不機嫌な様相を見せる。
……まあ、他にも理由はありそうではあるが…。
「オリアナ王国で行方不明になったんだ…何か知らないか?」
「はぁ?あのイタチが行方不明…?…それ、いつものことじゃないの」
真剣な様相で口を開くベアトリクスに、今度はクレアが呆れたように声を上げる。
「いつものこと…ってのはどういうことかしら?」
「はぁ…。あんた達がイタチとどういう関係なのかは知らないけど、あいつはふらっとどこかへ行く癖があるのよ…。その悪い癖が弟にも移ってね…。ほんと、憎たらしいわ……」
恐らくは酷い誤解だろうな…、と思ったベアトリクスとアレクシアであったが、あえてそこには触れない。
…何か、恐ろしいまでの執着を感じ取ったからだ。
「いや、今回は話が違くてだな…」
「どういうことよ…」
「何かしらの事件……に巻き込まれた可能性が高いわ」
ベアトリクスが言いあぐねているのを見て、アレクシアが助け舟を出すようにして引き継ぐ。
だが、シドの姉であるクレアを巻き込むことを憚り、抽象的な発言に留める。
それが良くなかったのか、クレアは大きくため息をついて項垂れる。
事の重大さは、伝わっていないようであった。
「それこそ無用の心配よ。イタチは死んでも死なないわ…。ローズ王女の方は知らないけど…」
クレアの言葉に、ベアトリクスとアレクシアはぐっと押し黙る。
その言葉の意味は、『イタチほどの実力者が、早々やられたりはしないわよ』という、一種の信頼でもあったからだ。
だが、2人からすれば、こと今回の件に関してはその信頼を鵜呑みにするわけにはいかなかった。
なぜならば、イタチとローズを攫ったと思われる集団は、あのシャドウガーデンなのだ。
シャドウガーデンには、イタチをもってしても敵わぬ相手が2人もいる。
いくらイタチでも、そのような組織に攫われたとあっては、ただでは済まないだろう。
「…まあいいわ。つまり、あなたはイタチの居場所を知らないってことね?」
「そうよ…。そして、あなた達はシドの居場所を知らないのよね?」
「…ああ」
互いが互いに知りえたい情報を持ち合わせていないため、3者が大きく項垂れるようにして視線を外す。
だが、クレアだけは、その外した視線の先に、見知った男の姿を捉える。
「はぁ…やっぱり無用の心配だったわね…」
「…?どういうこと?」
クレアの発言の意図が分からず、アレクシアは首を小さく傾ける。
そんなアレクシアに、クレアは「ん…」と顎でそれを指し示す。
アレクシアとベアトリクス、両者が丁度背中を向けている先であり、ゆっくりと振り返る。
両者は、大きく目を見開く。
長く黒い髪を、後ろで一つに束ねた男…。
身なりは質素だが、遠目からでもわかるくらいに精悍な身体つきをしていた。
「「ッ!!」」
それを認知したベアトリクスとアレクシアは、一目散に駆けていく。
まるで親鳥を見つけたひな鳥のような様相を見せる2人に、クレアはポカーンと口を開ける。
「なに…一体何なのよ…」
クレアは、暫く立ち呆けていたが、一つ大きく息を吐いたのち、駆けて行った2人を追う形で、件の見知った男の元へと歩いていった。
謎の研究をしているであろう、組織の拠点から無事に脱出を成功させたイタチは、深い霧に包まれた森を駆けながら、現状把握に努めていた。
「(間違いなく俺の身体だ…。だが、病は完全に癒えている…)」
穢土転生される前、つまりは弟のサスケに殺される前に有していた身体とは、まるで別物と言った様相を見せる今の肉体に、イタチは驚きとともに、些少の感動すら味わっていた。
「(それに、視界だけじゃない…。万華鏡すら元に戻っている…。だが、これに関しては失明したのは『穢土転生体の偽物写輪眼』と考えれば、まあ納得はできる…)」
穢土転生を解除するため、カブトに仕掛けたイザナミ…。
それによって失ったはずの左目の万華鏡と光であったが、先の理由からそれが再び光を取り戻したことに、そう結論付ける。
だがそうすると、明らかにおかしな点が出てくる。
「(穢土転生によって呼ばれたのだ…俺が死んでいたのは確実…。しかし、今は生身の肉体を得て、見知らぬ土地にいる…)」
木から木へと、飛ぶようにして進みながら、イタチは思案を続けていく。
「(それに、チャクラとは違う力も感じる……)」
不明な、しかし危険性は感じない内なる力を確かな感覚として感じ取る。
神経を集中させると、その力は空中にもわずかに存在しているのが分かった。
「(まさかとは思うが…ここは別の世界…ということなのか?)」
時空間忍術…?
いや、それにしてはあまりにも強大すぎる力だ…。
次元を、世界を飛び越える時空間忍術など、聞いたことがない。
それに、例えそうだとしても、自身がなぜ生身の肉体を経て生き返ったのかの説明にはなっていない。
…となると、考えられるものは一つ…。
「(なにか、超越たる力が…。俺の知りえないほどの力が働いたということなのか…)」
そう結論付けたイタチは、徐に瞳にチャクラを練り込む。
すると、視界が一気に鮮明になり、視界に入ってくる情報が一段と増加する。
「(写輪眼は問題なく使える…となると…)」
イタチは、木々を移動しながら、目にも止まらぬ速さで印を結ぶ。
森の中ということもあり、発動させたのは自身が得意とする火遁ではなく、水遁であった。
千リットルを遥かに超える水が、バケツをひっくり返したようにして地面へと衝撃を果たす。
「(忍術も問題なく使えるか…。しかし、威力が桁違いだ…。病が完治したからか…?)」
病を患っていた時と比較して、それこそそれを克服していた穢土転生体よりも、遥かに威力の増した忍術、力にイタチは思わず目を見開く。
「(だが、俺を狙っている者達がいる以上、この力はありがたい……)」
先ほどまで自身が眠っていたであろう研究室…。
目覚めるまで死んでいたのか、それこそ彼女らがなんらかの手段で俺を生き返らせたのか…。
経緯はわからないが、研究室にあった写輪眼や自身の資料を見る限り、狙われているのはほぼ確実なものであった。
「(…異なる世界という考えもできるが、果てしなく時が経った忍界…、という可能性もあるのか…)」
どちらにしろ、自身が過ごしてきたかつての忍界、世界とは明らかな違いがあることは明白であった。
そうして思考に耽りながら、深い霧を写輪眼で見通しつつ、森を駆けていく。
「(結構広い森だな…それにこの霧も、何者かの意思を感じる…まるで、何かを守っているかのようだ)」
力を持たない者が、この深い霧の中、そして深い森に迷い込めば、まず脱出はできないであろう。
それほどのものであった。
加えて、この霧は自然に発生したものではないことを、イタチはしっかりと認知していた。
「(大分遠方だが、巨大な力を…それこそ尾獣に匹敵するほどの力を有した何かがいる…)」
これほどの感知能力を有しているはずのないイタチであったが、なぜかそう念じるだけで使用できてしまう。
「(謎の力の恩恵…というわけか…。うまく使いこなせてはいないが、性質はチャクラと非常に似ているな…)」
自身が発動している隠密系の忍術のおかげで、尾獣に匹敵する存在には感知されていないようであった。
…まあ、先ほど発動した水遁の術は感知されてしまったみたいだが……。
あからさまな失態だな…、と思いながら、イタチは少しだけ自身を嘲笑した後、すぐに表情を元の真剣なものへと戻す。
「(…一先ず、先の研究室に人間…と人間らしき者がいたことを考えると、この世界にも人里があるとみていいだろう…まずはそこを目指し、情報を集めるのが先決だ…)」
イタチは、現状で把握できる全ての情報の精査を終え、深い霧が支配する森を駆け抜けていった…。
瞬間移動の如く移動したベアトリクスとアレクシアに追いついたクレアは、なぜか固まっている2人の背中から、イタチに声を掛ける。
「ちょっとイタチ!あんた、シドがどこに行ったか知らない?」
「…シド…?一体誰のことだ?…それに、なぜ君も俺の名を知っている?」
「は……?」
弟の名を知りえていないことに、クレアは吐息を漏らすような声を発した後、一気に表情を真顔へと変化させる。
そんなクレアの反応を見て、ベアトリクスとアレクシアが、何とか口を開く。
「冗談のつもりか?…私だ、ベアトリクスだ」
「ふざけてないで、何があったのか説明しなさいよ!」
その言葉と同時に、イタチはスッとクナイを手に添え、臨戦態勢を整える。
自分たちに刃を向けたことで、ベアトリクスとアレクシアは、ギョッとした表情を見せる。
「もう一度聞く…。君たちは誰だ?…なぜ俺の名を知っている?」
クレアも、なぜ2人が先ほどまで固まっていたのかを理解する。
『無事だったのね!』という思いと言葉と共にイタチに駆け寄ったが、返ってきた言葉が『君たちは誰だ?』だったのならば、それも無理はないだろう。
クレアは、過呼吸気味になりながらも、ベアトリクスとアレクシアの間を通り抜けて近づき、口を開く。
「あんた、何を言ってるの?私はクレア、そしてシドは私の弟よ!…そして私とシドは、あなたの弟子でしょ!!」
クレアは、大きく胸を張り、その胸の中心を右手で叩きながら声を荒げる。
それを聞いたイタチは、携えていたクナイをピクッと震わせながら、大きく目を見開く。
「弟子…?君と、君の弟が……?」
…イタチの本気で驚いた顔なんて初めて見たかも…、などと一瞬この場に似合わぬ感情を抱いたクレアであったが、それを即座に払いのける。
弟子という言葉に反応を示したベアトリクスは、クレアと同様に一歩前へ躍り出る。
「私も、あなたの弟子だ……。覚えていないのか?」
「……君も…?……一体どういうことだ…」
「それはこっちが聞きたいくらいよ…一体何があったの…?本当に覚えていないの?」
アレクシアは、酷く狼狽しているイタチを、本気で心配していた。
彼は強い。
それこそ、自身が憧れ、剰え嫉妬すらしていた姉であるアイリスを遥かに上回るほどには強い。
そんな彼が、酷く困惑している姿は、信じられないのであった。
イタチは、先ほどよりは警戒心を緩めてはいるが、しかし手に持ったクナイには、未だ力が込められている。
警戒しながらも、クレア、ベアトリクス、そしてアレクシアの顔をじっと見つめたのち、小さく息を漏らす。
「……悪いが、君たちのことは記憶にない…」
「「「ッ!」」」
イタチの言葉に、嘘は見られなかった。
まあ、イタチが嘘を言っていたとしても、見破れるだけの洞察力を持ち合わせてはいない3者であったが、それでも嘘はないと感じた。
…それが導き出す答えとは……。
「まさか…」
「これって……」
「記憶…喪失…?」
クレア、ベアトリクス、アレクシアは、無様なまでの呆けた顔を見合わせながら、小鳥の囀りのような声で言葉を交わした…。
作者「あれ…。なんか一部見知ったような内容があるな…。確か1話でも同じようなことが…」
イタチ「イザナミだ」
作者「え…?」
イタチ「イザナミだ!(キリッ)」
作者「………」
とりあえず、イタチ編を含め、本編は後3編で終了予定(話数にすると、プロットでは20話行かない程度)です。そこで、最終的にこの物語をどう締めくくるのか、大まかな流れを皆さんに問わせて頂きたく思います。
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ハッピーエンド!
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ハッピーエンド(イタチの身体一部欠損)
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パッピーエンド(イタチ、シド共に欠損)
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バッドエンド(イタチは皆の精神の中に…)
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バッドエンド(イタチは精神の中にすら…)