うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第3話 偽名

アルファに住居を案内した後、カゲノー領内で必要な物品をあらかた購入する。

 

イタチ1人でひっそりと暮らしているだけであれば必要のないものであったが、幼い少女が一緒となると、それなりに揃えなければならないものも多い。

 

木箱をテーブルや椅子代わりにするわけにもいかないし、仕切りやカーテンと言った目隠しも必要であった。

 

そして何より、コップや食具、ペンや紙と言った小道具も買い揃えておく。

 

そしてそれをアルファの待つ住居へ届けた後、シドへのお説教タイムをするに至る。

 

『どういうつもりだ』と問いかけると、『思わず熱が入っちゃって…』と言い訳し、

 

『存在しない教団など、叩きようがない』と問いかけると、『まあ、その辺の盗賊をそう見立てて戦えばいいんじゃない?』と考えのない発言をし、

 

『すぐに嘘がばれるぞ』と問いかけると、『その時はその時さ…』と開き直る始末…。

 

出来の悪い、いや性格が破綻している弟を持った気分で、イタチは魂が抜けるかのようなため息をついたのだとか…。

 

さて、そんな風にして2週間ほどが経ったある日…。

 

イタチはこの世界に来て、おそらく生涯で1,2を争うのではないかという衝撃を受けることになる。

 

それを齎したのは、アルファであった。

 

「イタチさん…。私なりに色々調べてみたのだけれど、ディアボロス教団は本当に存在していたわ…」

 

「…は?」

 

イタチは、アルファが何を言っているのか理解できず、大きく目を見開く。

 

数週間一緒に過ごす中で、多少の言葉の親しみが生まれ始めていたのだが、そんなことが頭に入ってこないほどに、イタチは混乱していた。

 

思わず、無意識に写輪眼を発動して見せてしまう程だった。

 

「ッ!ごめんなさい…。実は、あの後冷静になって、あなた達の話を100%信じ切れなくて…。あなた達の使命を疑うような真似をしてしまったわ…。」

 

イタチの短い疑問の声と、発動された写輪眼に、アルファは怒りを抱かせた勘違いをしてしまう。

 

イタチから修行を受け始めた際に、写輪眼の能力をある程度聞かされていたアルファにとって、それは恐怖と畏怖を抱くものであったことは言うまでもないだろう。

 

アルファは、些少の身体の震えをもってして、イタチの言葉を待つ。

 

「そ、そうか……。いや、謝る必要はない…気にするな…」

 

「……ありがとう……」

 

イタチの優しく、慈悲のある言葉に、アルファは大きく息を吐いて安堵する。

 

だが、イタチの胸中は尋常ではない程、混乱していた。

 

「(実在していた…だと…?そんな馬鹿なことが…。あれはシドがその場の思い付きで言い始めたことだぞ……)」

 

イタチの思考は、今までにない境地に達しつつあり、何ならすでにパンク寸前であった。

 

だが、やはりうちは一族というべきなのか、頭から煙を出しかけていても、その視界は揺らぐことはなく、アルファの手に持つ資料を捉えるに至る。

 

「…アルファ、時に、それはなんだ」

 

「これは、私が調べ上げたディアボロス教団の資料だけれど…」

 

「……見せてもらっても…?」

 

「ええ…もちろん。でも、イタチさんにとっては、既に知りえている情報しかないと思うわ…」

 

アルファは、イタチが求めているほどの情報を得ていないであろうことを伝えながら、イタチへとその資料を手渡す。

 

だが、イタチからすればディアボロス教団の情報など何一つ得ていないので、その資料は純度120%の、貴重な新情報なのであった。

 

資料をパラパラとめくり、読み進めていく。

 

読めば読むほど、信じられない情報とその裏付けが記されていた。

 

「(……まさか…こんなことが…)」

 

ふぅ…と小さく息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

 

焦ってはいけない。

 

信じられないことが起こっているのだが、しかしこれは好機でもあると考えた。

 

イタチからすれば、いつアルファに『あれはシドの悪ふざけだったのだ…』と告げようかと悩んでいたのだ。

 

しかし、ディアボロス教団というのが本当に存在し、しかもその教団が実際に悪魔憑きを利用して悪さを企んでいるというのであれば話は別である。

 

別どころか、感謝すら覚える始末だ。

 

なにせ、『嘘でした、ごめんなさい』をしなくても済むからだ。

 

幼気な少女を、陰の実力者ムーブとかいう意味の分からない行為で傷心させてしまうという危機を回避したのだから…。

 

「正直驚いたな…まさか短期間でここまで調べ上げるとは…」

 

「…そ、そんなことないわ…」

 

アルファは、イタチの思わぬ称賛に、頬を赤らめる。

 

歓喜の気持ちをしっかりと抑え込んでいたのだが、しかしそれが漏れ出してしまうほどには嬉しかったのだ。

 

そんな可愛げのあるアルファの様相を見て、イタチは一つの杞憂が現実になってしまったことを察する。

 

それは、彼女が戦いに身を投じることになるであろうことであった。

 

「…これで分かっただろうが、敵は強大だ…。戦いともなれば、君の命が脅かされる可能性がある…。俺としては、君を戦いに巻き込むことは避けたいんだが…」

 

「イタチさんッ!あなたの優しい気持ちと心は、理解しているつもりです…。でも、それでも、やっぱり私は戦いたいッ!…イタチさんや時折シャドウにも修行をつけてもらって、私は少しずつ強くなっている…。そして、これからもきっと力をつけていけると信じているわ…。だから、どうか、一緒に戦わせてほしい…」

 

イタチに向けられたその目に、一切の迷いはなかった…。

 

1つの大きな決断をした、勇姿のこもった瞳であった。

 

イタチは、数秒の沈黙をもってして、悩みぬく。

 

正直、彼女を戦いに巻き込みたくはない。

 

忍者や兵士でもない彼女が、命を賭けてまで戦う必要はない…。

 

だが、もしここで彼女を突っぱねて、無理やり追い出したとしても、きっと彼女は1人で戦いを挑むようになるだろう…。

 

そうなっては、そちらの方が危険が高い…。

 

それならば…と、イタチは再び決断をする。

 

「そうか…ならば受け入れよう…。だが、ディアボロス教団の真の強大さを知ったからには、奴らと本気で事を構えるというのであれば、これまで以上に辛い修行をすることになるぞ」

 

「ッ!覚悟の上よ!」

 

アルファは、自身のこもった声をイタチへと向ける。

 

その声を聞いたイタチは、小さく頷いた後、アルファに背を向けて、天井を仰ぐ。

 

「(…さて、シドにはどう説明するか…。面倒なことになってきたな…)」

 

イタチは、複雑化し今後の自身の動向に、思わず手指の力を緩め、呆ける。

 

対してアルファは、無言で天井を見つめるイタチの背中を見つめながら、大きな覚悟を決めるかのように、ギュッと拳に力を入れた。

 

 

結論から言うと、シドには黙っておくことにした。

 

理由は多々あるが、彼に伝えると、更に面倒ごとが増えそうな気がしたからだ。

 

『アルファも、お前の陰の実力者プレイに乗っかってくれる様子だ…』と一言伝えると、嬉々としてそれを迎え入れていた様子を見るに、その決断は正しかったのかもしれない。

 

まあ、伝えないというと語弊がある。正確には、『今はその時ではない』と判断したのだ。

 

 

 

 

…さて、そんなこんなで、1年の月日が経とうとしていた。

 

イタチは22歳、シドとアルファは11歳となった。

 

この1年間で、様々なことがあった。

 

まず、廃村に一棟のピカピカの家が建った。

 

イタチが知りえない工法で作られたその家屋は、一見すると真っ白な四角い箱のような家であった。

 

なんでも、シドの元居た世界ではごく一般的な家屋らしく、ツーバイフォーという工法によってつくられた家なのだという。

 

地震や台風などと言った外力に対して、一体化した箱形の構造で、強く抵抗するのが特徴だとか…。

 

アルファたちは『陰の叡智』などと言っていたが、その実は所謂シドの前世の記憶であり、ただそれっぽく伝えただけである。

 

だが、同時に、この『陰の叡智』のせいで、イタチがアルファたちに伝えた前世の記憶である忍者や忍術、スキルや知識諸々も、『忍の叡智』とかいう謎の名称をつけられてしまった。

 

…木の葉隠れや他里の忍、元の世界に住まう人々には、些少の申し訳なさを抱いていたりする。

 

さて、『アルファたち』と表現した件であるが、実はその後、6人の新たな仲間を加えるに至った。

 

イタチやアルファが保護した悪魔憑き、その発症者たちであった。

 

イタチが救った者と、シャドウが救った者の2パターンがある。

 

銀髪に猫のような青い瞳、左目下に泣きホクロを有するエルフの少女、ベータ。

 

藍色の髪に、顎ホクロを有するエルフの少女、ガンマ。

 

紫髪ロングで口数の少ないエルフの少女、イータ。

 

この三人が、イタチの力によって救われた少女たち…。

 

そして…。

 

黒髪に、可愛らしい狼耳を有している狼の獣人の少女、デルタ。

 

水色の髪と高貴な雰囲気を纏ったエルフの少女、イプシロン。

 

白髪ショートヘアの猫の獣人の少女、ゼータ。

 

この三人が、シドもとい、シャドウに救われた少女たちだ。

 

計7人の少女たちと、イタチは寝食を共にしているのであった。

 

イタチに救われたものはイタチの魔力を、シドに救われたものはシドの魔力を有する形で力を得ている。

 

アルファは2人から力を得ているため、ハイブリット且つサラブレッドと言える。

 

さて、そんな7人とイタチは、まるで家族のように過ごすと同時に、上司と部下のような関係を取ることもある。

 

それは言わずもがな、シャドウガーデンとして活動を行う時である。

 

「それで、今日は一体何の会議なんだ?」

 

11歳~13歳の少女に囲まれながら、大の大人であるイタチが、リビングの椅子に腰かけながら、会話を切り出す。

 

「今日は、イタチさんの偽名を決める会議よ」

 

「偽名…?」

 

アルファの言葉に、イタチは短く疑問を投げかける。

 

「イタチさん…本名だと…素性…バレるかも…」

 

「シャドウ様のように新たな名前をお考えになられた方が良いのではと思いまして…」

 

イータとベータが、その疑問に答える。

 

「なるほど…確かにそうかもしれんが、俺はシャドウのように表の顔があるわけではないしな…」

 

「…以前、少女を盗賊から救ったことがあると言っていたでしょ?…その時にイタチという名を名乗っている以上、偽名は必要だと思うわ」

 

イタチはあまり乗り気ではない様子であったが、アルファの指摘は最もだと、黙りこくる。

 

「それで、イタチ様に相応しいもう一つの名を、皆で色々と考えようって話になったんです」

 

「皆が、俺の名を?」

 

「そうなのです!イタチ様に似合う名前、デルタも考えたのです!」

 

イプシロンの言葉に、イタチは些少の驚きを見せると、デルタが大きな声で宣言するかのようにして口を開く。

 

「声が大きい…メス犬」

 

「なんか文句あるのかっ!メス猫!!」

 

デルタの声の大きさに、ゼータが異議を唱えるが、それがきっかけで喧嘩のような様相を見せる。

 

それを見て小さくため息をつくと同時に、イタチは2人の頭をポンポンと優しく撫で叩く。

 

「こらこら、仲良くするんだ」

 

「「うきゅっ…///」」

 

イタチに頭を触られたことで、2人は一瞬で大人しくして見せる。

 

「さすがイタチ様…、イタチ様の前では、デルタとゼータも形無しですね」

 

「…そうね」

 

ガンマがイタチを称賛するが、アルファは何か思うところがあると言った様子を見せる。

 

「…それで、デルタはどんな名前を考えてくれたんだ?」

 

「はいなのです!デルタが考えた名前は、パワー・チカラなのです」

 

「「「「「「「…え?」」」」」」

 

明らかにおかしな名前に、イタチ含め他のメンバーは思わず声を揃える。

 

「なんていうか…」

 

「バカっぽい…?」

 

ベータとガンマが、呆れたように口を開く。

 

「バカっていうなです!!」

 

デルタは、異議ありと言った様子で憤慨する。

 

どうやら本気でよいと思っている様子であった。

 

「…考えてくれたのは嬉しいが、……なしだな…」

 

「そんなー……なのです」

 

イタチは純粋無垢なデルタの提案を、しかしその名はさすがにと言った様子で否定する。

 

「そんなダサい名前、イタチ様には似合わない」

 

「ダサくない!かっこいいもん!!」

 

「だから、喧嘩するなと言っているだろう」

 

ゼータがデルタを煽ったことで、再度言い合いが始まるが、同じようにイタチに止められる。

 

そしてその隙をつくようにして、アルファがゆっくりと口を開く。

 

「…私は、クリムゾンという名前がいいと思うわ」

 

非常に自信ありげな表情で、意見を述べる。

 

「クリムゾン…真紅という意味か…」

 

「ええ、あなたの真っ赤な瞳、写輪眼と、服に描かれている真っ赤な雲からとってみたのだけれど、どうかしら?」

 

イタチの特徴を、そのまま落とし込んだその名は、他のメンバーにも好評な様子であった。

 

「それ、私とってもいいと思います!」

 

「すごく…かっこいい…」

 

特にベータとイータの食いつきがよく、うんうんと頷く。

 

「…なるほど、確かに意味のある名ではあるが…ちょっと洒落すぎていないか?」

 

だが、イタチからすると、あまりにもド直球すぎるその名は、なんだか胸にザワッとした感情を抱かせる。

 

「そんなことないと思うわ。…でも、イタチさんが好まないのであれば、無理強いはしないわ」

 

そんなイタチの心境を察したのか、アルファは少し残念そうな表情を見せるものの、潔く引いて見せた。

 

一端会話が止まったことで、今度はイータが思い出したようにして言葉を発する。

 

「シェイドは…どう…?」

 

「シェイド?…どういう意味なの?」

 

イータの聞きなれない発言に、イプシロンが首を傾げながら疑問をぶつける。

 

「マスターが言っていた…シャドウと同じ…陰の意味を…持つ言葉…シャドウガーデンのNO.2としても…ピッタリ…」

 

イータは、以前シドから聞き及んだ『陰の叡智』の一端を披露する。

 

「シャドウ様と同じ意味もつ名前…とても素敵ねっ!」

 

「シャドウとシェイド…確かに良い響きだわ」

 

ガンマとアルファが、シャドウと同じ意味を持つという点に強い関心を示す。

 

だが、イタチはどこか悩んでいるような表情を浮かべていた。

 

そんなイタチの顔を、イータはじーっと覗き込む。

 

「気に入らない…?」

 

「いや、そういうわけではないのだが…」

 

自身では理解することのできない感性を持つシャドウと、同じような意味を持つ名をかたることに、些少の…いや結構な拒絶反応があるようだ。

 

「もしかしてイタチ様は、何か良い名前を既にお考えなのですか?」

 

イタチが小難しい顔をしているのを、ベータは別の意味で捉える。

 

「確かに、あなた自身の名前になるのだから、あなたの意見が一番重要だわ」

 

アルファが、気付いたように目を見開く。

 

「意見…か。そう言われてもな…。だが、そうだな…もし偽名を名乗るというのであれば…」

 

イタチは、とある人物の顔を思い出しながら、どこか感慨深い表情を浮かべる。

 

「何か思いつく名があるの?」

 

イタチが一つの考えを有していることを察したゼータが、急かすようにして呟く。

 

「シスイ…というのはどうだ?」

 

「「「「「「「…シスイ?」」」」」」」

 

イタチから齎された、聞き覚えのない言葉に、アルファたちは小さく首を傾げる。

 

その名を口にしたイタチの表情と雰囲気から、アルファが何かを察する。

 

「何か、思い入れのありそうな言葉ね…」

 

「…今は亡き俺の親友の名だ…」

 

その言葉に、アルファたちは一様に黙りこくって見せる。

 

「イタチさんの…親友…」

 

イータが辛うじて呟くようにして口を開くが、他のメンバーは考え込むような表情を浮かべていた。

 

あまり触れない方が良いのではないか…。そんなような感情が渦巻いていた。

 

そんな雰囲気の中で、アルファが代表するようにしてゆっくりと口を開く。

 

「…あなたがそれでよいのであれば…」

 

「…ああ」

 

イタチは、どこか遠くを見つめるような視線をアルファに向けながら、そう答えた。

 

 

 

 

後日…。

 

「ふーん、シスイね…。いいと思うよ、明鏡止水みたいでなんかかっこいいじゃん」

 

会議で決まったイタチの偽名、もとい裏の名前をシドに伝える。

 

アルファたちとは打って変わり、こちらは非常に軽い感じでイタチの、シャドウガーデンとしての名前を受け入れていた。

 

「お前は相変わらずだな…」

 

「ん?どういうこと…?」

 

イタチの唐突な謎の感想に、シドは呆けた表情を見せる。

 

「いや…特に意味はない…。だが、お前を見ていると、何だかおかしくてな…」

 

「…それ、すっごいバカにされてる気がするんだけど…」

 

シドは、ジトっとした目でイタチを見据える。

 

「ああ、そのつもりだ」

 

シドの指摘に、イタチはその通りと言わんばかりに、迷いなく言い放って見せた。

 

「ひどっ…まあいいけどさ…」

 

特に怒りの感情を込めることなく反応したシドであったが、何かに気付いたように視線をイタチへと向ける。。

 

「そういえば、どうしてシスイって名前にしたの?」

 

「…この名は、今は亡き俺の親友の名でな…」

 

シドの疑問に、アルファたちにした説明と同じ言葉を並べる。

 

イタチの言葉に、シドは「そっかー」と言った様子で短く答えると、思いだしたかのようにして口を開いた。

 

「…そういえばさ、前にイタチさんに見せてもらった前世って、幼いころのものばかりだったよね…?」

 

「…それがどうかしたのか?」

 

その質問が何を意味するのかを察したイタチは、些少の後ろめたさをもってして小さく呟く。

 

「何かあったのかなーって、ただそれだけ」

 

「あったには、あったな…」

 

大ありであった。

 

他人においそれと話すことができないほどのことだ。

 

「ふーん、そっか…」

 

シドは短く返しつつ、イタチを見つめる。

 

その表情には、些少の苦悶のようなものが見て取れた。

 

『シスイって人が今は亡き親友って言ってたし、それかな?』などと考えながら、申し訳なさそうな様相を醸し出す。

 

「なんかごめんね。あまり思いだしたくないことだった?」

 

「……そうだな……」

 

イタチは、俯きながら、しかし何か決心に似た感情を心に宿す。

 

だがそれは同時に、自身の経験が、目の前の少年を変えるきっかけになるかもしれないという、気付きによるものでもあった。

 

「…お前には伝えてもいいかもしれんな…。陰を歩むことを望む、お前になら…」

 

「え?見せてくれるの?」

 

思わぬイタチの発言に、シドは大きく目を見開いて見せる。

 

期待のこもったその瞳に、イタチは思わず苦笑いを浮かべる。

 

「…あまり気持ちの良いものではないが…それでもいいか?」

 

「見せてくれるって言うなら、喜んで」

 

シドの言葉を受け、イタチは些少の悩みを見せたが、今まで吐露できなかった感情が自身の胸の中に溢れ、すでに止めることができないまでになる。

 

元の世界で生きながらえていたのであれば、墓場まで持っていく覚悟があったのだが、別の世界に来てしまったがゆえに、それが些少の緩みを見せる。

 

もう、解放されてもいいのではないかと…そんな想いが渦巻いていたのだ。

 

以前シドに自身の世界を見せた時と同じように写輪眼を発動し、自身の経験と記憶をシドの頭へと流し込む。

 

里とうちは一族の軋轢…そこからはじまるイタチの壮絶な立場と選択…。

 

そして、弟への想いと、その後の関係性…。

 

暁時代の自身の罪…。

 

この世界に来る直前の、弟との死闘…。

 

シドに見せていなかった、前世での自身の人生、その全てを…。

 

「…これが、俺の過去…。そして、俺の罪だ…」

 

全てを見せ終わった後、イタチは呟くようにして口を開き、シドを見据える。

 

シドは、大きく目を見開いたまま、固まって見せていた。

 

「どうした…?」

 

イタチの問いかけにも、シドは応じない。

 

暫く沈黙して見せていたが、シドが珍しく唇を震わせながら、ゆっくりと口を開く。

 

「…イタチさん、僕はね、陰の実力者となるために、色々なものを捨ててきたんだ…。だからかな…人の気持ちというか、感情にあまり興味がない…」

 

非常に覇気のない、今にも消え入りそうな声であった。

 

しかし、イタチはその言葉をしっかりと耳に入れる。

 

「…そうだろうな。見ていればわかる」

 

常識的でない…というと語弊があるが、どこか人として大事なものが欠けているという確信を得ていたイタチにとって、それはさして驚くような告白ではなかった。

 

シドは、俯いたまま、しかし震えるようにして再度口を開く。

 

「…だけど、そんな僕でも…これは…あまりにも………惨いよ…」

 

イタチは、シドの頬に、一筋の水滴が流れるのを見て、大きく目を見開く。

 

「…驚いたな…。お前でも泣くことがあるのか…」

 

感情の起伏、他人への共感性が大きく欠落していると考えていたイタチにとって、その涙は驚くべきものであった。

 

「イタチさん…ごめん…」

 

「…?急にどうした?」

 

呟くようにして発せられるシドの言葉に、イタチは思わず疑問を投げる。

 

「…僕はかつて、イタチさんを『陰の実力者』そのものだと、称賛したことがあった…。でもそれは、イタチさんにとっては、辛いものだったんだね…」

 

「………気にする必要はない」

 

出会ったばかりのことを思い出しながら、イタチは目を伏せて返答する。

 

「…優しいね、イタチさんは…」

 

一切責め立てるような発言をしないイタチに、シドは涙を拭う。

 

そして、シドは一つ大きく息を吸いこみ、まだ潤みを見せる瞳をイタチへと向ける。

 

「イタチさん…僕は、イタチさんの選択を、罪だとは思わない」

 

「…⁉」

 

イタチは、シドの発言に、先ほどよりも更に目を大きく見開いた。

 

それは、信じられない言葉を聞いたというような表情をしていた。

 

「僕は、誰が何と言おうと、イタチさんの選択は正しかったと…、そう思うよ」

 

「……そうか」

 

シドの言葉に、イタチは渦巻く自身の感情が、次第に落ち着きを取り戻すような感覚を覚える。

 

汚名を背負い、多くの人間から恨まれる経験を重ねてきたイタチにとって、それはとても新鮮で、そしてどこか甘美な言葉であった。

 

「シド……」

 

「ん?」

 

「…ありがとう」

 

イタチは、この世界に来て…いや、前世のとある日から、一切見せたことのない表情をもってして、シドに小さく感謝を放った。

 

皆様にお聞きしたいのですが、基本的に現在9000~10000文字をもって一話として投稿しております。来週以降も仕事が忙しくなりそうで、現状だと投稿頻度は週一回~二週に一回になりそうです。そこで、一話当たりの文字数に関して、皆さまに質問をさせてください。

  • 今まで通りで良い(約9千文字)
  • もう少し頻度を上げてもよい(約7千)
  • なるべく早く読みたい(約5千文字)
  • とにかく早く読ませろ(約3千文字)
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