うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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アンケートの方、ありがとうございました!

最終的には、イタチもシドも、四肢欠損なし状態のハッピーエンドで締めくくらせて頂きます!!


第30話 記憶

 

『イタチが姿を消した』

 

シェリーからの報告を受け、酷い動揺を見せた七陰とナンバーズであったが、アルファの指示のもと、部隊を分けて捜索するに至る。

 

シャドウガーデンの本拠地がある、古都アレクサンドリアは、霧の龍が支配する深い森と霧の中にある。

 

普通の人間が入れば、まず間違いなく迷うほどの広大さと霧の深さである。

 

アルファ達が失踪したイタチの捜索へと向かう直前、普段はほぼ接触してこない、その霧の龍が接触してきたことで、事態は急速な展開を迎える。

 

「これがあなたの言う異変ね…」

 

アルファ達は、霧の龍が指し示した場所へと足を運んでいた。

 

確かに異変である。

 

何せ、ついこの間まで、鬱蒼とした森の一部であるはずの場所には、大きな池が形成されていたからだ。

 

しかも、ただの池、詰まりは水の塊ではなかった。

 

「あやつ…名はシスイ、だったか…。あやつの魔力を感じる…」

 

霧の龍は、突如として現れた池を見下ろしながら、怪訝な様相を見せる。

 

「…そうね。間違いなく彼の仕業だわ」

 

「イタ…いえ、シスイ様は、火だけでなく、水も生みだせるのですね…ッ」

 

アルファの言葉に、ベータが一瞬言葉を詰まらせながらも、驚きに似た表情を見せる。

 

イタチが彼女たちに扱って見せた性質変化を伴う忍術は、その殆どが火、つまりは火遁であった。

 

あのアルファですら、イタチが水、つまりは水遁を扱っているのを見たのは、1,2度しかない。

 

「なぜ彼はここで水遁を…何か理由が…」

 

アルファは、イタチの真意を思案するが、糸口すらつかめない。

 

そんな中で、ガンマが霧の龍に問いかける。

 

「あなた、シスイ様の魔力の痕跡を追えます?」

 

「……いや、無理だな…。この森においても、あやつの魔力の痕跡が残っているのはここと、古都だけだ…それ以外には全くもって感知できん」

 

霧の龍は、ガンマの問いに、完全にお手上げといった様相で答える。

 

「…彼が本気で隠密に徹すれば、シャドウであっても見つけるのは困難……あなたが感知できないのも無理はないわ…」

 

「…むぅ…慰められている…わけではなさそうだな…」

 

アルファのさも当たり前のような発言に、霧の龍は不貞腐れたような様相を見せる。

 

龍とはいえ、人並みの感情…というよりは、似たような感情は有しているようだ。

 

「なぜ彼がここで水遁を扱ったのか、そして彼の動向と意思も何一つわからないけれど……今の彼を一人にしておくのは心配ね…」

 

アルファは、ベータとガンマにスッと視線を送りながらそう伝える。

 

「そうですね……今のシスイ様を放っておくのは…」

 

「…その選択は、なしに等しいかと…」

 

アルファが送ってきた視線の意図を理解したベータとガンマは、抽象的な言葉をもってしてそう呟く。

 

その真意を汲み取った霧の龍は、少しだけむっとして見せる。

 

だがまあ、彼女らが自身を完全に信用しきれないのは仕方ないことだ。

 

「…これを為したのがあやつであるならば、悪意があったわけではないということだな…」

 

「ええ、それは間違いないわ…。何か深遠な考えがあってのことだとは思うけれど…」

 

なぜここでこれほどの水遁を用いて、小さな池を形成して見せたのか……。

 

その目的と真意は未だ理解できないが、霧の龍が発した心配がないことだけは確信していた。

 

「であるならば、我としては安心だ…。後は、お前たちに任せるとしよう」

 

霧の龍は、そう言い残し、森の霧へと同化するようにして掻き消える。

 

それを無言で見送ったアルファは、ふぅっと大きく息を吐いて見せる。

 

「……感情を隠すのは、上手な方だとは思ったのだけれど…ダメね…」

 

「…あれだけのことを、真実を知ったのです…それも致し方ないかと…」

 

アルファの自傷に、ベータは苦悶の表情で答える。

 

アルファの手と足は、微かにだが小刻みに震えている…。

 

イタチの過去と真実…、それに加えて失踪……。

 

正直、今のアルファはベットに横たわり、布団にくるまって泣きわめきたいくらいの気持ちなのだろう。

 

ベータもガンマも、それに準ずる、いや同じ気持ちなのだから、容易に理解できる。

 

だが、シャドウガーデンNO.3としての責任が、イタチを想う尋常ならざる思いが、それを微かに上回り、こうして行動するに至っている。

 

「…一先ず、この池の調査は、ラムダを中心に進めるように指示して…。後のことは、一度アレクサンドリアに戻ってから話し合いましょう」

 

「「はい…!」」

 

アルファの指示のもと、ベータとガンマは取り急ぎ、アレクサンドリアへと移動する。

 

…道中、ガンマが何度も転倒して鼻血を流したことは、言うまでもないだろう…。

 

 

 

 

 

 

ベアトリクス達から、話しを聞いたイタチは、愕然とした表情を浮かべていた。

 

彼女たちを警戒し、携えていたクナイには既に力は込められておらず、だらんと垂れさがった手に握られているだけであった…。

 

この世界で、イタチは流浪の魔剣士として活動していたこと…。

 

その折、5年前にクレアとその弟であるシドと出会ったこと。

 

1年ほど前にベアトリクスやアレクシアと出会ったこと。

 

そして、ディアボロス教団と名乗る組織や、シャドウガーデンと名乗る組織と相対していたこと。

 

それ以外にも、彼女たちが知りうる限りの情報を、イタチの記憶にない情報を得ることができた。

 

だが、その中に、看過できない情報が紛れ込んでいた。

 

「シスイ…シスイだと……?」

 

イタチは苦悶にも似た表情を浮かべながら、地面へと目を伏せる。

 

彼の様相は、この場にいる3人が見たこともないものであり、あまりのことに言葉を失いかける。

 

「シスイのことは…覚えているのか…?」

 

ベアトリクスからしてみれば、ほぼ全ての記憶を失っているにもかかわらず、シスイの名を覚えているような口ぶりに、些少の違和感を覚える。

 

「…シスイが、シャドウガーデンのNO.2……だが…まさか…」

 

イタチは、ブツブツと呟くようにして言葉を漏らす。

 

「だ、大丈夫か?」

 

シスイの名を連呼し、何かを考え込むようなイタチを見て、ベアトリクスは心配そうに彼の顔を覗き込む。

 

その視線に気づいたイタチは、虚ろな目を向け、ゆっくりと口を開く。

 

「…俺とシスイは敵対していた…というのは本当か?」

 

「…少なくとも、仲間…ではなかったと思うわ…」

 

その返答を、ベアトリクスの後方にいるアレクシアが齎す。

 

イタチは、その返答をもってして、再び地面へと視線を落とす。

 

「(もし彼女たちが言っていることが真実だとすれば…シスイもこの世界に来ている…?そして、俺とシスイは再会したが、仲間としては行動していなかった…それが指し示す意味は……)」

 

そこまで考えが及んだことで、イタチは苦悶にも似た表情のまま、小さく笑って見せる。

 

「(…シスイが死んだ後の俺の行動を知り……決別した…といったところか……)」

 

シスイが俺に託したもの……。

 

それは、木の葉とうちはを守ることであった。

 

だが、イタチはその片方…木の葉を守ることしかできなかった。

 

…それを為すために、うちは一族を滅ぼしたのだから…。

 

「…シスイは、生きているのか?」

 

「…少なくとも、オリアナ王国であなたが行方不明になった時には生きていた…」

 

オリアナ王国……俺はその国で、このベアトリクスと名乗る女性と、その国の王女であるローズ・オリアナと共に行動していたらしい。

 

イタチは、ぐっと目を閉じたのち、彼が自分の知っているシスイなのかどうか、確かめることにした。

 

「…シスイは、どのような戦いをしていた…。例えば…特殊な目を持っていたりしたか…?」

 

「特殊な目…?写輪眼のことか…?」

 

ベアトリクスは、イタチの質問に、ローズと記憶のあった頃のイタチの話を思い出しながら答える。

 

その言葉に、イタチは、大きく目を見開く。

 

確定だ…。

 

写輪眼を有し、シスイと名乗る男が、2人もいるはずはない……。

 

本来であれば、死んだはずの親友と再会できるという喜びに心を躍らせる場面であるが、先の話から今のシスイとは良好な関係ではないのだろう。

 

それに、シャドウガーデンという組織のNO.2がシスイであるのなら、その組織の研究室に自分が誘拐と思える形で居たことも納得がいく…。

 

しかし、一抹の希望に、人違いであることを信じ、イタチは両目にチャクラを練り上げて見開く。

 

「…それは、こんな眼だったか…?」

 

「「「ッ!」」」

 

イタチの目が、真っ赤な、そして黒い勾玉を3つ有するものへと変化したことで、ベアトリクス達は大きく目を見開く。

 

「あ、あなた…目が…」

 

「真っ赤に…ッ」

 

クレアとアレクシアは、イタチの目が黒から赤に変化したことで、大きく驚いている。

 

驚いているのはもちろんベアトリクスも同じであったが、その驚き様と理由は全くの別物であった。

 

「なっ…なぜ…なぜイタチがその眼を…シスイと同じ、写輪眼をもって…ッ」

 

なるほど……。

 

どうやら、過去の、記憶にない自分は、彼女たちに写輪眼を見せたことはなかったらしい…。

 

そして同時に、彼女たちが語るシスイが、自分の知る人物であることが確実となった。

 

「シスイ…彼の本当の名は、うちはシスイだ…」

 

「う、うちは…⁉」

 

アレクシアは、シスイがイタチと同じファミリーネームであることに、大口を開けて驚く。

 

「それはつまり…」

 

ベアトリクスも、それが何を意味するのかを理解したようだ。

 

「ああ、俺とシスイは、同じうちは一族であり、親友……だった…」

 

イタチの言葉共に、それが真実であるとわかったベアトリクスであったが、彼が語尾を詰まらせたことで些少の怪訝を呈する。

 

「親友だった…?…今は違うということか?」

 

「…俺は仲間のつもりだが…。君たちが知りうる限りでは、そうではないのだろう?」

 

アレクシアは、はっと気づいたような表情をして見せる。

 

「そっか…。決別したかもしれない時の記憶もないのね…」

 

「………」

 

その言葉に、イタチは沈黙をもって返す。

 

暫く続いた静寂であったが、クレアが大きくため息をつく。

 

「まあ、ここでごちゃごちゃ言ってても仕方ないわ…。少なくとも、あんたは無事だった…それでいいじゃない」

 

「…そうね。記憶を失ったというのなら、取り戻せばいいだけだし」

 

「確かに、そうだな…」

 

アレクシアとベアトリクスも、酷く納得した様子を見せる。

 

「そんなことより!シドよ!シド!!あの子は一体どこをほっつき歩いてるのよ!!!」

 

先ほど理知的な発言を齎したクレアであったが、それは即座に消え失せる。

 

「そんなことって……」

 

「……まあ、シドが心配なのは確かにそうだが…」

 

アレクシアとベアトリクスは、そんなクレアの様相に、思いっきり引いて見せる。

 

「シド…確か、君の弟だったな……。俺の弟子でもあると言っていたが……」

 

イタチが呟くようにして発したその言葉に、クレアがカッとした視線を向ける。

 

気迫が溢れるその視線に、イタチは思わず、少しだけ瞳孔を開く。

 

「元はと言えば、あなたのせいなのよ!イタチ!!」

 

「は…?」

 

両手を腰に当て、ズカズカと近づいてくるクレアに、イタチは半歩身を下げる。

 

「あ・ん・た・が!シドをフラフラとさせる原因を作ったの!!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

シドという人物を知りえないイタチにとって、それはあまりにも見当違いな怒りであったが、記憶を失っているらしい手前、強く出れない。

 

「そ・う・な・の!!それも覚えてないわけ⁉」

 

「……すまない」

 

身に覚えがないものであったが、彼女が言うのであれば事実なのだろうと思い、イタチは小さく謝罪を口にする。

 

だが……。

 

「いや、謝る必要はないと思うぞ…」

 

「多分、この人の被害妄想だから…」

 

「……そうなのか?」

 

アレクシアとベアトリクスの助け舟に、イタチは些少の安心感を抱く。

 

「ちょっと!それどういう意味よ!!」

 

しかしそれを聞いたクレアは、異議ありとばかりに、今度はアレクシアとベアトリクスにも迫るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り……。

 

…イータの中にあった感情は、焦りと期待だった。

 

焦りはイタチの意識がないこと…、期待はイタチの過去を見ることができること…。

 

もちろん、イタチの意識を回復させる手段を得ることが第一目標ではあった。

 

しかし、イータはイタチに助けられたあの日から、イタチを羨望と興味の眼差しで見てきた。

 

それは彼が持つ、『忍の叡智』に他ならない。

 

魔力とは違う力…。

 

加えて、一つの力から様々な派生を生む強力さと利便性…。

 

剣や銃とは違う戦闘技術…。

 

そのどれもが、イータにとっては心躍るものであった。

 

故に、彼の、イタチの過去を覗き見ることは、この上ない喜びでもあった。

 

…。

 

……。

 

………。

 

…だが、それは大きな間違いであった…。

 

幼き頃の仲睦まじい家族との生活、イズミという少女との出会い、忍としての活動、シスイという兄のような友……。

 

そこまではよかった…。

 

途中、尾獣という圧倒的な力を持つ化け物が木の葉に攻め込んできたようだが、それでも様々な経験の中で、イタチは成長していた。

 

…問題は、イタチが暗部という木の葉の中枢直轄の部隊に入ったあたりから始まる。

 

うちは一族と木の葉の間にある確執…。

 

それによって伴う、イタチのスパイ活動…。

 

うちはと木の葉、どちらを取ればよいのか、その葛藤が記憶を覗き見ていたイータですら、理解できるほどであった。

 

「(…一族と国家…普通なら、一族を…家族を取るわよね…)」

 

だが、イータのその想像は、思い違いであったと分かる。

 

それは、イタチの親友シスイとの記憶から垣間見ることができた。

 

『…残念だが、もううちはのクーデターは止められそうにない…このまま木の葉が内戦を起こせば、他国が必ず攻め入ってくる…。まず、戦争になる…別天神を使い、クーデターを止めようとした矢先、ダンゾウに右目を奪われた…奴は、なりふり構わず自分のやり方で木の葉を守るつもりだ…時期に左目も狙われる…その前にこの眼はお前に託す…』

 

イタチの記憶の中のシスイは、自身の左目を抉って見せる。

 

「(ッ!)」

 

自分で自分の目を抉り取る…。

 

それがどれほどの苦痛と覚悟であったのか…、感情に乏しいと言われるイータですら、思わず顔をしかめる程のものであった。

 

『シスイ…』

 

『頼めるのは親友のお前だけだ…。木の葉を、うちはの名を、守ってくれ…』

 

シスイは、イタチに自身の眼球を手渡す。

 

悲痛にも似た表情をもってして、イタチはそれを受け取る…。

 

『それとだ…。お前に渡すのは、俺の眼だけじゃない…。お前に新しい力を与える……。万華鏡写輪眼だ』

 

『ッ!シスイ、お前ッ…』

 

『お前も知っているな…万華鏡写輪眼の開眼条件は……』

 

『…最も親しい者の…死……』

 

「(え……?)」

 

記憶の中の両者の会話に、イータは大きく目を見開いて驚く。

 

「(最も…親しい者の死……それが、万華鏡写輪眼の……ッ)」

 

イータは、奥歯がガタガタと震える感覚を覚える。

 

この話の流れから察するに、それは……。

 

『どのみち、俺は長くない…最後の贈り物だと思って受け取ってくれ…』

 

イタチの顔に、イータが見たこともないような表情が浮かぶ。

 

「(ッ……)」

 

それを見て、イータはうっすらと涙を浮かべる。

 

この時のイタチの気持ち…それを推し量るには、余りあるものであった。

 

『なんて顔してる…今の俺でも、お前の表情は簡単にわかるぞ…』

 

シスイは、小さく笑って見せ、イタチの肩へとその手を添える。

 

『不安な表情はお前には似合わない。いかなる時も平静を装え…それがうちはイタチだろう…。なに、お前ならできる。大丈夫だ、自信を持て』

 

『俺は…お前と共に、うちはを…ッ』

 

『これからのお前は、暗く辛い道を、陰の道を歩むことになるだろう…。そんなお前の隣にいてやれないこと…。申し訳なく思う…。それでも俺は、お前が道を外れることなく、木の葉の忍として、進んでくれると、強く信じている!』

 

シスイの言葉に、イタチはぐっと歯を食いしばる。

 

『だからこそ託せるんだ…。俺の意思も…万華鏡もな…』

 

シスイは、すっとイタチへと背を向ける。

 

そんな背中を、イタチは悲壮感に溢れた視線で見つめている。

 

「(ッ…。なんて……二人なの……)」

 

イータは、シスイとイタチの会話を見て、胸に言い表しようのない感情が溢れる。

 

……そして、シスイは自ら命を絶った…。

 

イタチは、それに目を背けることなく、看取る…。

 

直後、イタチの目には、3つの勾玉で形成された写輪眼ではない、三ツ刃の万華鏡写輪眼へと変化して見せた…。

 

…。

 

……。

 

………。

 

そして、イタチの記憶は、地下での父との会合、木の葉上層部との会話、そしてダンゾウと名乗る男からの任務へと進んでいく。

 

「(イタチさんは…木の葉と弟を守るために……一族を……。これって…ベータが書いた…物語なんじゃ…ッ!)」

 

ここまでの記憶を見たイータは、ベータが書いた物語、『復讐と英雄』に酷く似通っていることに気付く。

 

「(ダンゾウ……木の葉の上層部の1人……こいつが、イタチさんを……ッ!)」

 

『うちは一族を抹殺せよ』

 

ありえない任務をイタチに告げた男、ダンゾウへの憎しみが、怒りが、イータの表情を鋭いものにさせていく。

 

恐らく、他の七陰にも、それこそイタチにすら見せたことのない表情であっただろう…。

 

もしかしたら、人生でこんな表情を浮かべたのは、初めてかもしれない…。

 

そんな風に考えていると、イタチの記憶は、ある女性との対面へと進んでいく。

 

「(あれは…確か、うちはイズミ…。イタチさんの幼馴染で、恋人の……ッ!)」

 

一瞬、イズミに対して嫉妬にも似た感情を生んだイータであったが、もしこれがベータの書いた物語、あれがイタチの過去をなぞらえて書かれたものだとすれば……。

 

「(ま、まさか…イタチさんは…ッ!)」

 

恋人であるイズミは、イタチと同じうちは一族…。

 

そして、ベータの書いた物語においては、とある一族の生き残りはたった1人…。

 

その生き残りは、間違いなく男であった…。

 

つまり……。

 

『…許せ……イズミ……』

 

伏せたイタチの目から、水のようなものがハラリと落ちてくる。

 

それによって、イータは自身の予測が、当たっていたことを理解する。

 

「(う…うそ……でしょ……)」

 

イタチは、万華鏡写輪眼を発動させ、イズミに幻術をかける。

 

それは、慈悲のある幻術であった。

 

『イタチに告白され、その後結婚、子宝にも恵まれ、最後には孫に囲まれながら人生を全うする』

 

そういう内容の幻術であった。

 

それを齎した『月読』の瞳術。

 

時間や質量すら操れるその幻術は、イズミに一切の違和感を与えることなく、幻術の中で死を迎えると同時に、精神的ダメージにより、現実で息を引き取ることになる……。

 

ゆっくりと、静かに息を引き取ったイズミを肩に抱き、イタチは静かに鼻を啜る……。

 

「(ッ…!うっ…)」

 

イタチの決断、そして感情を読み取り、イータは胃の内容物がせりあがってくるのを感じる。

 

すでにイータの精神状態も良くない物になってきていたが、それでも記憶の流れは止まらない…。

 

イズミをその手にかけた後、イタチは次々とうちは一族を、同胞をその手にかけていく。

 

イタチの顔には、身体には、同胞の返り血が次々と付着していく。

 

「(こんな…こんなの…だめぇ……)」

 

イータは、記憶を覗き見ているだけであるが、うっすらと涙を浮かべながら斬り進むイタチを制止しようと手を伸ばす。

 

もちろん、映像として流れているだけのものに手を伸ばしたところで、それは届かない。

 

…そして、イタチの進撃は、自身の家へと到達する。

 

『…俺の子と…殺し合いはしたくない…』

 

イタチが来るのを、じっと待っていたのか、父と母は一室で正座をして待ち構えていた。

 

この状況を見て、今からどんな記憶が、何が行われるのかを察したイータは、あらゆる思考を手放す。

 

ただただ、流れ込んでくる記憶を見続けることしかできなくなってしまう。

 

『お前は…木の葉についたか…』

 

イタチは、そんな両親の背中で、項垂れながら刀を携えていた。

 

『父さん…母さん…俺は…ッ』

 

『わかっているわ…イタチ…』

 

『イタチ、最後に約束しろ』

 

父の言葉に、イタチは大きく目を見開く。

 

『…サスケのことは頼んだぞ…』

 

イタチの目に、うっすらと涙が浮かび、溢れ出るようにして頬を伝う。

 

「(…ッ⁉⁉⁉)」

 

それを見た瞬間、イータの感情は完全にバグり散らかしてしまう。

 

自分でも何を感じ、何を想っているのかすらわからなくなってしまう程であった。

 

『わかっている…ッ』

 

イタチの持つ刀が、カチャカチャと音を立てる。

 

両親をその手にかけることに対する恐怖と悲しみ、それを脳と身体が拒否を見せているためであろう。

 

『恐れるな…。それがお前の決めた道だろう…』

 

それを、父は見抜いていたようだ。

 

『お前に比べれば、我らの痛みは一瞬で終わる…。考え方は違っても、お前を誇りに思う…!』

 

イタチは、更に顔を伏せ、更に涙を溢れさせる。

 

そして、更に刀を持つ手が震える。

 

自身の選択を尊重してくれた父に対し、表現しがたい感情を有する。

 

『…お前は本当に、優しい子だ……』

 

…父がそう言い終えて少し……。

 

イタチは、震える手で、大きく刀を振り下ろした。

 

…。

 

……。

 

………。

 

そこから、イータの意識は朦朧とし始める……。

 

その後の弟、サスケへついた嘘…。

 

暁へ加入した後の活動……。

 

そのどれもが、目の間で記憶を覗き見ているにも関わらず、どこか遠くの出来事のような感覚を覚えたのだ。

 

一族を、恋人を、両親をその手にかけたイタチの心情を想いながら、イータは激しく身体を震えさせる。

 

「イータさん…?」

 

微かに聞こえるシェリーの言葉にすら、イータは反応を示すことができなかった…。

 

虚ろ虚ろとしながら進んでいく、イタチの記憶……。

 

イータが辛うじて思考を取り戻したきっかけは、ボロボロになったイタチの姿を目にしたときだった。

 

「(ッ…。イタチ…さん……)」

 

敬愛するイタチが、見たこともないほどに疲弊し、傷を負っているのを見て、強制的に思考を引き戻された。

 

『…サスケェ…お前は……俺が……』

 

覚束ない足取りで、全身傷だらけになりながら、サスケと呼称する男へと手を差し伸べる。

 

ここでイータは、これが成長したイタチの弟、サスケであることを、漸く理解する。

 

『くっ…』

 

イタチを一族を裏切った咎人と勘違いしているサスケは、イタチと同じように疲弊しきっているのか、足をもたつかせながら後ろへと下がる。

 

しかし、イタチの手から逃れることはできず、その距離は残り数十センチにまで迫る。

 

直後、イタチはふっと小さく笑いかける。

 

『…許せ…サスケ…。これで…最後だ…』

 

その言葉と共に、サスケの額を指で小突く…。

 

その一言を聞いて、その行動を見て、イータは過去の、自身の過去の記憶を思い出す。

 

忍の叡智を聞きたいと、イタチに迫る自分を…。

 

そんな自分を、笑いながら、似たようなセリフを吐いて、額を小突いてきたイタチの姿を……。

 

「い…いやぁ……」

 

それを思いだし、イータは涙を溢れさせる…。

 

そして、記憶の中のイタチが倒れ、事切れるのと同時に……。

 

「いやああああああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!」

 

現実に、イータの研究室に、止めどない悲鳴が響き渡ったのであった……。

 

とりあえず、イタチ編を含め、本編は後3編で終了予定(話数にすると、プロットでは20話行かない程度)です。そこで、最終的にこの物語をどう締めくくるのか、大まかな流れを皆さんに問わせて頂きたく思います。

  • ハッピーエンド!
  • ハッピーエンド(イタチの身体一部欠損)
  • パッピーエンド(イタチ、シド共に欠損)
  • バッドエンド(イタチは皆の精神の中に…)
  • バッドエンド(イタチは精神の中にすら…)
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