うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第32話 驚愕

 

ミドガル王都にあるミツゴシ本社へと帰還を果たしたアルファとガンマは、イタチ失踪に際した捜索計画を精査していた。

 

そんな折、とある重要な一報がニューから齎される。

 

「…ッ!カゲノー領にイタチが⁉」

 

「はい…。ミリアが調べた結果、武神ベアトリクス、アレクシア王女、クレア様と一緒にいるのを見たという領民からの情報です」

 

ニューから発せられた3人の女性の名前に、アルファは見てわかるくらいに怪訝な表情を浮かべる。

 

「…ニアミスだったようね…」

 

ガンマも似たような表情を顔に宿し、視線を落とす。

 

アレクサンドリアから、ここミドガル王都へと至る際に、必ずと言っていいほど通らなければならないカゲノー領。

 

イタチがそこを通っているであろうことは予想していたが、まさかそこであの3人と邂逅しているなどとは、思いもしなかった。

 

「…それで、イタチはまだカゲノー領に…?」

 

「いえ…。武神ベアトリクスと共に、西方へ向かっていったとのことです」

 

「となると、ここ王都に…。あるいはそれより西方のミドガル領…。いえ、オリアナ王国領の可能性もあるわ…」

 

ガンマの言葉に、アルファははっとした表情を浮かべる。

 

「…オリアナ王国である可能性が高い…」

 

「え…?それはどういう……ッ!」

 

アルファの言葉に、一時疑問を呈したガンマであったが、彼女の明晰な頭脳が、アルファの思考へと辿りを見せる。

 

「イタチはオリアナ王国で意識を失い、アレクサンドリアに運ばれた…。であれば、その場にいなかった伯母様…いえ、ベアトリクスやラファエロ王からすれば、戦い後にイタチがいなくなったと考えているはず……。そんなベアトリクスがイタチを見つけ、行動を共にしているとなれば……」

 

「…ッ。ベアトリクスは、ラファエロ王の依頼で、イタチ様を探していた…。そして発見し、オリアナ王国、王都へと向かっている…」

 

アルファとガンマが、類まれなる頭脳を見せ、答えを導き出したことで、ニューが大きく目を見開く。

 

この考えに破綻はない。

 

むしろ、現状で一番可能性が高いものであった。

 

故にアルファは動く。

 

それを確認し、イタチを見つけるために……。

 

だが、その動きは、慌ただしいとある2人の構成員によって破られる。

 

ドンドンッという、配慮もへったくれもないノックが、アルファ達の居る執務室に響く。

 

「アルファ様!664と665です!シスイ様の件で、緊急のご報告がッ!」

 

664番の焦ったような声色が、アルファ達に届く。

 

シスイ、即ちイタチの件での報告ということで、アルファは大きく目を見開く。

 

「ッ!入りなさい!」

 

「失礼します」

 

ガチャっという音と共に扉が開かれ、664と665が入室してくる。

 

纏ったスライムスーツは所々に汚れが目立ち、彼女たちがどれほど急いで報告に上がってきたのかを物語っていた。

 

2人は、入室した後に、洗練されたような動作で片膝を突いて見せる。

 

「…それで、緊急の報告とは?」

 

「はい…。オリアナ王国の王都にて、シスイ様を発見しました。今は666番、ローズ・オリアナと共に城内におります」

 

アルファの催促に応じる形で、664が視線を落としたまま、淡々と口を開く。

 

その報告を受け、アルファ達に些少の安堵の色が見える。

 

「やはり…、アルファ様のご推察通り…」

 

「さすがです、アルファ様」

 

ガンマとニューが、顔を綻ばせながらアルファへと視線を送る。

 

心なしか、アルファの表情にも、小さく笑顔が見られる。

 

それは恐らく、自身の予想が当たっていたことに対するものではないだろう。

 

…敬愛するイタチが見つかった…。

 

それによる笑みであった。

 

だが、それは即座に失われることとなる。

 

「…?どうしたの?まだ何かあるのかしら?」

 

報告を終えたはずの664番と665番は、その場から動かずに、じっと片膝を突いたままだ。

 

しかも、どこか身体の震えも見て取れる。

 

疲れからくる震えではないことを悟ったアルファは、怪訝な様相を抱きながら首を傾げる。

 

「…もう一つ、ご報告が…」

 

665番はそう言って唇をギュッと強く閉じる。

 

「なに…?」

 

恐らくはあまり良い報告ではないのだろう。

 

それを理解したアルファは、胸に謎の騒めきが生まれるのを感じ取る。

 

「…シスイ様は無事です。お身体にも何ら損傷がないように見えました……。ですが……」

 

664番は、身体を震わしながら、ゆっくりと一つ息を吸いこみ、覚悟を持って再度口を開く。

 

「…シスイ様は…記憶を、失っておいででした…」

 

「「「………は?」」」

 

664番から齎された言葉…シスイもとい、イタチと記憶という二つのワードが、アルファ、ガンマ、ニューにまるでトラウマのような感覚を呼び起こす。

 

記憶喪失というあまりの出来事に、3者は言葉を失っていると解釈した664番は、言いにくそうに言葉を続ける。

 

「666番やオリアナ王国のことを始め、我らシャドウガーデンのことも覚えていない様子でした……」

 

アルファとガンマ、ニューは、664番の報告が耳に入っているのであろうか…。

 

そう思わされるほどに、まるで石化したように固まり続けていた……。

 

 

 

 

 

 

アルファ達、ミツゴシ本社組が664番と665番から齎された報告を聞き及んでいる頃……。

 

ニューがアルファ達に伝えたのと同じ内容の報告を、直属の部下であるシグマから受けたベータもといナツメ・カフカは、急ぎミドガル王都にいるある人物を訪ねる。

 

「…あなたから私のところに来るなんて、珍しいこともあるものね」

 

長い銀髪を二つに束ねた、煌びやかなツインテールを揺らしながら、目の前に座るカフカへを視線を送る。

 

カゲノー領でイタチと再会した後、姉であるアイリスにイタチの無事と記憶喪失を伝えてから、すでに数日が経っていた。

 

自身が衝撃を受けたのと同じように、アイリスも驚愕の顔を滲ませていたのは記憶に新しい…。

 

イタチの記憶喪失という衝撃的な事実に、未だ頭と心が追い付いていない最中、目の前の肉ま…カフカが尋ねてきたのだった。

 

「今日は、アレクシア王女にお聞きしたことがあって参りました」

 

言葉だけ取れば、王族であるアレクシアに対する順当な丁寧さであったが、口調と雰囲気はどこか尋問にも似た様相が見える。

 

それを感じ取ったアレクシアは、一つ息を吐くと、彼女が聞きたいであろう内容を予測し、それを口にする。

 

「…イタチのことかしら?」

 

「…ッ!はい、そうです」

 

アレクシアから出てきた人物の名に、カフカは一瞬戸惑いを見せる。

 

それを見たアレクシアは、ふっと小さく笑いかける。

 

「驚いたわ…。あなた、そこまでイタチと仲がよかったのね」

 

「それは、どういう意味でしょうか?」

 

「そのままの意味よ。どこか距離が…というより、遠慮しているように感じてたから…」

 

カフカは、ジトっとした目を持ってアレクシアを見つめる。

 

「…カゲノー領で、行方不明だったイタチさんとお会いした、というのは本当ですか?」

 

「ええ、そうよ…。身体に関しては無事だったわ…」

 

そう答えるアレクシアに、カフカは些少の違和感を覚える。

 

「身体に関しては……?」

 

カフカの怪訝な様相に、アレクシアは面白そうなものを見つけた子どものような表情を浮かべる。

 

「へえ…案外察しがいいのね…。身体は無事よ…怪我もしてなかったし…。でも……」

 

「でも…?」

 

カフカは、自身の心臓がこの上なく早く打ち付けているのを感じ取る。

 

アレクシアの含んだ言い方に苛立ちを覚えていると同時に、イタチに何かあったのかという焦燥感によるものであった。

 

「…記憶を失っていたわ」

 

「……うぇ……?」

 

アレクシアの真剣な、深刻そうな表情と共に発せられた言葉は、カフカの口から喘ぎ声のような吐息が漏れる。

 

「……私のことも、ベアトリクス様のことも、何よりクレアさんのことも、覚えていなかった…。きっとあなたのことも覚えていないでしょう…」

 

「そんな……ッ」

 

ようやくアレクシアの言葉を理解したのか、カフカは一気に顔を蒼褪めて固まる。

 

「…恐らく、イタチは殆どの記憶を失っている…。私が確認した範囲ではあるけど、自分の名前と居た国しか覚えていないみたいだったわ…」

 

「く、国…⁉…そ、それってもしかして、木の葉…ですか?」

 

アレクシアは、目を大きくして驚く。

 

「…へぇ…あなた、イタチの居た国の名を知っていたのね…。わたしは記憶を失くしたイタチから聞いて、初めて知ったのだけど……」

 

自分よりもイタチのことを知りえていたことに対する嫉妬か、アレクシアは些少不機嫌そうな顔を見せる。

 

だが、カフカからすれば、そんなアレクシアの様相など、知ったことではなかった…。

 

「(木の葉の名を伝えたというのであれば…前世の記憶はある…?つまり、失ったのはこの世界に来てからの記憶…ッ!)」

 

イタチの口から木の葉という名が出たのであれば、それは確実であろう。

 

そして、アレクシアやベアトリクス、そして何よりクレアの名前すら覚えていないというのであれば、シャドウガーデンの記憶すらない可能性は非常に高い。

 

カフカは、震える唇を何とか動かし、確信にも似た質問をして見せる。

 

「シド…カゲノーさん…のこともお忘れなのでしょうか…?」

 

…シャドウガーデンの中で、初めてイタチと出会ったシャドウ…もといシドの記憶があるのか…。

 

もし、これがなければ……。

 

カフカは、身体の震えをアレクシアに悟らせまいと、無理やりに平常を取り繕う。

 

だが、アレクシアから出てきた言葉は……。

 

「ぽt…シドのことも覚えていなかったわ…。『記憶にない名だ』って言ってたわ…」

 

カフカは、ふっと脱力したようにして、目の前のテーブルに突っ伏す。

 

ガンッとおでこをぶつけ、そのまま静止する。

 

「ちょ、ちょっと…ッ」

 

いきなり頭を突っ伏したカフカに、アレクシアは今までにない心配な様相を、彼女に向けるのであった…。

 

 

 

 

 

 

「イ、イタチさんが記憶喪失…⁉」

 

余りの驚きに、座っていたベットから勢いよく立ち上がる。

 

寮の自室で酷く驚いた様子を見せているのは、何を隠そうシドであった…。

 

「ええ、私のことも、あんたのことも全く覚えていなかったわ…」

 

先ほどまで、弟であるシドにお仕置きと称して首根っこを掴んで、『どこほっつき歩いてたのよ⁉』と尋問していたクレアは、落ち着き払った様子で足を組み、椅子に腰かけている。

 

「ぼ、僕のことも……」

 

シドは、力なく、ドサッとベットへと腰を預ける。

 

アルファ達にイタチの真実を告げたのち、シドは暫くふらふらと世迷い人のように各地を回っていたのだが、つい昨日ミドガル王都へと戻ってきた。

 

アルファ達に誤解して欲しくない一心で告げた話であったが、それが正しかったのかどうか、それがずっと頭の中をぐるぐるしていたために起こした行動であった。

 

それがようやく落ち着き、『正直に話して、怒られたら謝ろう…』という決断に至った途端、姉からとんでもない爆弾が投じられたのだ。

 

普段なら、『記憶喪失展開きたー!』からの、『悲しみの対立!戻る記憶!陰の友情!!』みたいなプレイを楽しめたのだが、如何せん今の状況でそれを展開できるほど、シドも人間を捨ててはいなかった。

 

一方、ベッドに座り込み、項垂れるシドを見て、クレアは居た堪れない気持ちになる。

 

不本意…本当に不本意ではあるが、クレア自身も、とりあえずシドの兄のような存在として、及第点くらいはあげている節がある。

 

もちろん、自分にとっても……。

 

そして、シドがイタチを慕っているのは、クレアもよく知っている。

 

「シド……」

 

そんなイタチが、記憶を、それも自分のことすら忘れてしまったことに絶望しているシドを見て、胸にこみあげてくるものがあった。

 

もちろん、酷い誤解と勘違いなのであるが…。

 

「…なんで記憶を失くしちゃったの…?」

 

シドは、消え入るような声で、クレアに問いかける。

 

「原因はわからないわ……。武神ベアトリクスの話によると、オリアナ王国での戦闘後に消息を絶ち、その後に記憶を失ったことくらいしか……」

 

「消息を絶った……?」

 

クレアの話を聞き、数秒を有した後に、それはシャドウガーデンが意識を失ったイタチを保護したことによるものであると理解する。

 

「ええ…シャドウガーデンがイタチを攫ったらしいの…。恐らくだけど、シャドウガーデンの連中がイタチに何かしたんじゃないかしら…?」

 

クレアは、顎に手を当てながら、考え込むようにして口を開く。

 

シドは、それを聞いてピクッと身体を動かす。

 

「(攫ったというのは誤解だけど…シャドウガーデンが何かをしたというのは、あながち間違いではないか……)」

 

シドは、イタチが意識を失ってからの出来事を思い浮かべる。

 

「(…イータの記憶を覗き見る機械が原因…?いや、そもそもなんで意識を失ったんだろう…?意識を失ったこと、そのものが原因の可能性もある…)」

 

俯いたまま、身じろぎ一つせずにシドは考え込む。

 

そんな姿を見て、クレアは再度シドに心配そうな視線を向ける。

 

「シド…?」

 

しかし、言葉は帰ってこない。

 

クレアは焦燥感にも似た感情を芽生えさせる。

 

「シドッ!」

 

声を張り上げ、俯いたシドの両肩を掴んで揺らす。

 

「…姉さん」

 

ようやくシドの瞳がクレアを捉える。

 

どこか悲し気な様相を宿す目を見て、クレアは思わずシドを抱きしめる。

 

「そんな顔しないで、シド…。イタチならきっと大丈夫よ…」

 

とんでもない誤解をさせていることを理解しながらも、シドはそれを解く気は一切なかった。

 

「……姉さん…苦しいよ…」

 

抱きしめてくるクレアに、ただただ離れて欲しい一心で、言葉を発する。

 

しかし、クレアは抱きしめることをやめない。

 

「大丈夫…。イタチの強さは、あなたも知っているでしょ?」

 

クレアの言葉に、シドはゆっくりと目を見開く。

 

もちろん知っている…。

 

戦闘面での強さ…。

 

そして何より、強靭な精神力と、耐え忍ぶ力を……。

 

「……うん、そうだね…」

 

シドは、抱き着いているクレアの肩にそっと手を添え、優しく、ゆっくりと引き剥がす。

 

「…シド…」

 

シドの正気を有したような返事に、クレアはとりあえずシドに従う形で身を剥がす。

 

「ねえ、姉さん…」

 

「なに?」

 

「イタチさんはどこにいるの…?」

 

「…?どこって、ベアトリクスと一緒にオリアナ王国へ向かったけど…ッ。ま、まさかあんた、行く気じゃないでしょうね⁉」

 

クレアは、イタチが向かったであろう場所を口走ったことに、瞬時に後悔する。

 

「…まさか。冬休みも終わるし、今から行くわけないじゃないか…」

 

「……本当でしょうね?」

 

シドの呆けたような言い草に、クレアは信じられないと言った視線を向ける。

 

「本当さ…。それに、僕が言ったところで、イタチさんを困らせるだけだしね……」

 

「ま、まあ…。それはそうね…」

 

記憶があろうとなかろうと、シドの実力と頭脳では、イタチの助けどころか足手まといにしかならない。

 

その事実が、クレアを納得させるに至る。

 

「…いいわ、信じてあげる」

 

クレアは、豊満な胸を強調するようにして前に突き出し、シドを見下ろす。

 

「ありがとう、姉さん…」

 

シドは、そんな姉に小さく笑い掛けながら呟く。

 

だが、心の内にあるのは、そんな姉の信用を裏切るものであった…。

 

「(ごめんよ、姉さん…)」

 

罪悪感など、これっぽっちも、いや少しはあるか…?

 

まあしかし、それを感じさせないような心の声を、シドは姉であるクレアに向けるのであった…。

 

 

 

 

 

 

オリアナ王国、王都にある王城…。

 

客間の一室を与えられたイタチは、そこに隣接されているバルコニーへを身を預け、天上に輝く真っ白な月を眺めていた。

 

「(…この世界も、月は一つか……)」

 

煌々と輝く月を眺めながら、イタチは物耽る様な視線を有したまま、思考の海へと意識を投じる…。

 

まず、先の発言からもわかる通り、この世界はイタチが生涯を終え、穢土転生させられた忍界ではなかった。

 

ましてや、限りなく時が遡った忍界でも、限りなく時が経った忍界ですらない…。

 

「(…まさか、このようなことが起こるとはな…)」

 

可能性の1つとして考えていたそれであったが、いざそれが現実となると、受け入れがたいものであった。

 

「(異世界などという、俄かには信じがたいものであるが、この世界と人々そのものがその証左か…)」

 

ベアトリクスやラファエロとの会話で知りえた情報の中に、忍や木の葉というものは一切なかった。

 

それどころか、チャクラという力すら、知識として有してはいなかったのである。

 

この世界が忍界、もしくは忍界の過去か未来であれば、必ずと言っていいほど知りえているはずのものである。

 

それほどに、『チャクラ』というものは、イタチの生きた世界では定着しているものであった。

 

故に、もしここが忍界であるならば、100年を生きたベアトリクスと、一国の王であるラファエロがチャクラや忍と言った名前を、知らないはずがない。

 

ため息にも似た息を小さく吐いたのち、イタチは徐に掌を見つめ、謎の力を放出する。

 

須佐能乎を発動した時のような、深紅の揺らめきが掌の上に現れる。

 

「(…それにこの力…魔力と言ったか…。この存在も、この世界が忍界とは異なる世界であるということを物語っている…)」

 

チャクラとは違う力…。

 

しかし非常によく似た性質を持つ力…。

 

この魔力こそが、この世界の力であり、この世界ではこれを用いた魔剣士と呼ばれるものが数多く存在する。

 

しかし、これがなぜ、自身の新たな肉体に宿っているのかもわからない。

 

…いや、今それは取るに足らない疑問であった。

 

実際には追求したいものではあるが、比較にならないほどの問題がイタチにはあった。

 

…自分が生き返ったのかではない。

 

なぜ、自分が知りえていない人物たちが、自分のことを知っているのかということであった。

 

ベアトリクスやアレクシア、クレアにラファエロなど……。

 

皆が総じて口にするのは、『記憶喪失』という言葉であった。

 

「(…これだけの人々が俺を知り得ているのを見ても、今の俺にこの世界での記憶がないのは確実……)」

 

これが1人、ないしは2人であったのならば、イタチも対して考え込むことはなかったであろう。

 

しかし、出会う人物が口を揃えたようにそう告げてくるのであれば、それはもう信じざるを得ない状況であった。

 

イタチは、ラファエロの話を思い出すようにして、夜空を見上げる。

 

「(…少なくとも、俺は5年…いや、6年前にはこの世界に存在していたことになる…)」

 

今迄に会った者たちの話の中で、最も古い記憶は、約6年前のローズ王女救出であった。

 

「(そして、数週間前に俺はこの地で戦っていた…。その戦いの最中に行方をくらまし、気付いたら記憶を失った俺を見つけた…か)」

 

イタチは、ベアトリクスから得た情報と絡めながら、ゆっくりと視線を落とす。

 

「(ベアトリクスの話を信じるのであれば、俺はシャドウガーデンに攫われたということになる。とすると、記憶を失ったのもシャドウガーデンの仕業…ということなのか…。それに、もしかすると……)」

 

あったであろう記憶の喪失、そして異世界への転生…。

 

それらの原因すら、シャドウガーデンなる組織の仕業である可能性が高まったと感じたイタチ。

 

そんな中、見過ごせないほどのチャクラ、いや魔力を有した人物の存在を捉える。

 

右後方にそれを感じ取ったイタチは、バッと振り向き、その手にクナイを携える。

 

「…さすがね。やはり、あなたに感知されずに近づくのは、まだ無理みたい」

 

「何者だ……」

 

空中からバルコニーへと姿を現した人物…。

 

透き通るような声は、漆黒に身を包んだ人物が女性であるのを物語っていた。

 

深く被ったフードから、金糸にも似た長髪が溢れている。

 

「……ッ!…そう、本当に記憶を失ってしまったのね……」

 

「…なに…?君も俺のことを知っているのか…?」

 

イタチは、大きく目を見開き、金糸の髪を有する漆黒の女性を凝視する。

 

そして、警戒をもってして、ぐっと目に力を籠める。

 

それを為すイタチの両目は、既に赤く輝いていた…。

 

「ええ。もちろん知っているわ…イタチ…」

 

その言葉に、イタチは更に怪訝な視線を送る。

 

記憶にない人物が自身の名を口にしたためであった。

 

この女性も、俺と関りがあったのだろうか…。

 

そんな疑問を抱きながらも、警戒心を言葉に乗せる。

 

「……もう一度聞く、お前は何者だ…」

 

「私はアルファ…。シャドウガーデン、最高幹部七陰の筆頭、アルファよ」

 

アルファは、そう言いながら、ゆっくりと漆黒のフードを消して見せる。

 

まるで生き物のように動き、掻き消えるような様相を見せたために、イタチは些少の驚きを顔に浮かべる。

 

だが、それを遥かに超える2つの衝撃が、イタチを襲う。

 

「シャドウガーデンの最高幹部筆頭…ッ、それに、その顔は…ッ!」

 

「……ええ。あなたと行動を共にした、ベアトリクスによく似ているでしょう…?」

 

どこか含んだような笑みを浮かべるアルファに、イタチは少しだけ不快な感情を抱く。

 

「…なるほど…。ベアトリクスさんが探していた姪とは、お前のことか…」

 

「…そうね。でも、それはあなたも十分に理解していたことよ…。それを知った上で、あなたはベアトリクスに私の存在を隠していた…」

 

「…?どういう意味だ…」

 

アルファとベアトリクスが姪であり、それをベアトリクスに伝えていない…。

 

アルファの存在さえ、記憶にないイタチにとっては理解しがたい内容であった。

 

「貴方はイタチ…。イタチ・ウチハ…。そして……」

 

イタチは、アルファの言葉を聞き逃さぬよう、全神経を耳に集中させる。

 

「…シャドウガーデンにおいて、シスイという名をもって、盟主シャドウと肩を並べて活動していた男よ」

 

「…ッ!…なん…だと……ッ⁉」

 

生涯…いや、一度死んでいるので、この表現はおかしいのかもしれないが、生涯で最も驚きに満ちた感情を、イタチは抱くことになった…。

 

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