うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第4話 姉と兄

シドやアルファと出会ってから2年が経過した。

 

「あんたがイタチねっ!私と決闘よ!」

 

「…?」

 

カゲノー家の近くで、突然宣戦布告してきた少女に、イタチは思わず思考を停止させる。

 

だが、その風貌と顔つきを見て、シドから聞かされていた人物なのではないかと察する。

 

「シドの姉…クレア…だったか…?」

 

「そうよ!貴方にシドは渡さないわっ!」

 

クレアは、腰に差した剣を引き抜くと、切っ先をイタチへと向ける。

 

「言っている意味が分からない…。俺は別にシドを奪ったりなどしない」

 

「嘘よっ!シドに修行を付けるなんて言って、痛めつけているんでしょっ!」

 

…姉弟揃ってバカなのか…?

 

しかし、思考する間もなく、クレアは地面を蹴り、イタチへと斬りかかる。

 

なるほど、14歳にしてはそこそこできる。

 

スピードも、剣筋も悪くない。

 

だが、イタチには、それこそ弟のシドにも遠く及ばない。

 

イタチは、一本のクナイでクレアの斬撃を何度も、軽々と受け止める。

 

何度か行われた剣戟は、鍔迫り合いをもって一時収束を見せる。

 

「やるわね…。シドが師匠って呼ぶだけはあるわ…」

 

言葉とは裏腹に、クレアは今までにない焦りを見せていた。

 

「(こいつ…強すぎる…ッ!)」

 

刃渡り15センチ程度の黒いナイフに似た武器で、自身の剣を何度も防がれる。

 

実力差は火を見るよりも明らかであった。

 

しかし、その焦りを見透かされるわけにはいかない。

 

故に、言葉だけは強気な様相を見せる。

 

「その腰に差した剣は、お飾りなのかしら?」

 

クレアは、一瞬、スッとイタチの腰にある剣を視界に捉える。

 

この辺りでは非常に珍しい、打刀のようであった。

 

刃が片方にしかついていない、剣の一種である。

 

実際に見るのは、クレアも初めてであった。

 

「君程度なら…抜く必要はない」

 

「ッ!なめるなっ!」

 

クレアは全力をもってして、その鍔迫り合いを終わらせようと、剣を押し込む。

 

イタチのクナイを一気に押し込み、そのまま剣を振りかぶる。

 

勝った、そう確信した。

 

「なっ!」

 

しかし、自身の剣はイタチを捉えることはなく、イタチの立つすぐ横に逸れ、地面に突き刺さる。

 

同時に、剣が遠くへ吹き飛び、クレアの手から離れる。

 

一体何が起きたのか、理解できなかった。

 

しかし、それを考える暇などなかった。

 

イタチのクナイが、自身の首元に突きつけられていたからだ。

 

「…終わりだ」

 

「くっ…」

 

勝てない…。この男は、圧倒的に強い…。

 

完全に手を抜かれているにもかかわらず、それでも手も足も出ないというのは、クレアにとっては衝撃的なことであった。

 

「…安心すると言い。俺はシドを奪ったりなどしない」

 

「…本当でしょうね?」

 

「嘘をついているように見えるか?」

 

イタチの鋭く、しかし誠実さが滲み出る視線に、クレアは一つ長めに息を吐く。

 

「…わかったわ…。一応は信じてあげる…」

 

「…それはなによりだ」

 

イタチはスッとクナイをクレアの首元から引くと、そのまま背中を向けて歩き出す。

 

そんな隙だらけのイタチの背中を見て、更にクレアは自尊心を傷つけられるような思いだった。

 

「(ッ!ここまで侮られるなんて…ッ!)」

 

両手の拳をギュッと握りこみ、イタチの背中に突き刺すような視線を送る。

 

「(でも、完全に私の負け…。まさかここまで強いなんて…)」

 

クレアは、弟の顔を思い浮かべる。

 

最愛の弟である。

 

目に入れても痛くはないほどに愛している。

 

だが、弟は酷く頼りない。

 

そして、何よりも弱いのだ。

 

だからこそ、姉である私が守らなくてはいけない…。

 

そう思っているのだ。

 

故にその思いは、遠ざかるイタチを呼び止めるという行動に至る。

 

「待ちなさいッ!」

 

クレアの言葉に、イタチは足を止め、ゆっくりと振り向く。

 

「私を…私も、あなたの弟子にしなさい!」

 

人差し指をビシッとイタチに向け、威厳のある声で言い放つ。

 

「…断る」

 

「そう、言い心掛けね。私が弟子になってあげるんだから……って、なんで断るのよ!!」

 

断られるとは微塵も思っていなかったクレアは、この上ない様子で異議を唱えていた。

 

イタチからすれば、断って当然とばかりに思っていただけに、思わずため息が漏れる。

 

「…突然襲い掛かってくる奴を弟子にするバカが何処にいる?」

 

「うっ…それは…ッ!」

 

イタチのもっともな意見に、クレアは返す言葉がなく、黙りこくる。

 

そんなクレアの様子を見て、イタチは一つの質問を投げかけた。

 

「なぜ、俺の弟子になりたがる?」

 

「決まっているでしょう?もっともっと強くなって、弟を守るためよ!!」

 

クレアの言葉に、嘘はなかった。そしてそれは、瞳にも表れる。

 

それを見据えたイタチは、ふっと小さく笑いかける。

 

「ッ!何がおかしいのよ!!」

 

弟を守りたいという気持ちをバカにされたと思ったクレアは、酷く憤慨して見せる。

 

しかし、イタチはそんなクレアの様子に一切興味がないような素振りを見せ、再び背中を向け、歩き去る。

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

そんなイタチを追いかけようと、数歩踏み出した瞬間、イタチの声が耳に入る。

 

「…明日も、同じ時間にここへ来い」

 

イタチの承諾ともとれる言葉に、クレアは大きく目を見開いて、立ち止まった。

 

 

…その後、イタチはクレアの修行に付き合うこととなった。

 

クレアの修行を引き受けてからは、カゲノー家の両親とも面識を持ち、クレアが手も足も出ないほどの強者であり、かつクレアを鍛え上げてくれるということで、イタチが歓迎されたというのは言うまでもないだろう。

 

ちなみに、クレアの修行の際に、弱っちい役を演じるシドの修行にも付き合うのだが、あまりの名演技に、イタチが感心したとかしなかったとか…。

 

 

 

 

イタチとシドが出会ってから早くも3年が過ぎようとした頃…。

 

アルファから、クレアが教団に攫われたという報告を受ける。

 

イタチは、シドがかつてクレアの悪魔憑きを治したという話を思い出し、その影響による可能性が高いと判断する。

 

その後、カゲノー家で情報を収集しようと、召使に扮しているベータから話を聞く。

 

やはり、悪魔憑きの疑いをかけられて、攫われたようだ。

 

加えて、既に攫われた場所をシドが指摘してくれたらしく、その時の話をベータは興奮したようにイタチに話していた。

 

…本当だろうか?その場の出まかせなのでは?

 

そう思ったイタチは、ベータに資料を一通り見せてもらう。

 

…なるほど、確かにシドの示した場所は可能性が非常に高い…というか、ほぼ当たりであろう。

 

もしこれをまぐれで言い当てたのであれば、奇跡と言える。

 

もしかしたら、シドはイタチの思うよりも頭がいいのではないか…?と一瞬考えてしまう。

 

しかし今はそんなことを考えている時ではない。

 

どうやら既にシドはその場へ向かっているらしく、七陰も全員をもってして強襲する予定らしい。

 

シドと今の七陰全員が居れば、万が一にも敗北はありえないが、しかしやはりシドのバカさ加減を知っているイタチは確実な信用がないため、シドの後を追う形で拠点と思われる場所へ向かった。

 

 

 

 

「いやー、助かったよ…。犯人の親玉らしき人を斃したはいいけど、迷っちゃって…」

 

…やはり来て正解だったようだ。

 

道に迷っていたら、急に変な人が現れて、それを斃したそうだ。

 

一瞬でも、もしかしたら有能か?と思った自分を、イタチは殴ってやりたい気持ちになった。

 

まあ、結果としては事なきを得たため、特にシドを咎めるようなことはしなかった。

 

イタチは、些少の落胆を覚えながら大きくため息をつく。

 

「それじゃあ、帰ろうか」

 

シドの言葉に、イタチは思わず視線を鋭くする。

 

「…クレアはどうするんだ?」

 

「あー、さっき拘束を解いておいたから、勝手に家に戻るでしょ…」

 

シドのクレアに対しての冷たい態度に、またも大きくため息をつく。

 

「…お前には人の心とかないのか?」

 

「ひどいなー」

 

「酷いのはどっちだ…。まあいい…。なら、クレアは俺が連れて帰る」

 

「ん…それなら安心だね…」

 

シドはイタチから外ヘ通じる道を教えてもらい、イタチはシドからクレアの場所を聞き出し、再び別れた。

 

 

 

 

クレアは、心地のよい揺れと体温を感じながら、ゆっくりと目を開く。

 

次第に意識がはっきりとし、自分が誰かに背負われていることを理解する。

 

そして、その背負っている人物が誰であるのかを認識すると、小さく呟く。

 

「イタチ…」

 

「目が覚めたか…」

 

クレアの呟きに気付いたイタチが、それに答える。

 

「…あなたが、助けてくれたの?」

 

「…まあ、そんなところだ…」

 

半分本当で、半分嘘の情報を、クレアに言い放つ。

 

「そう……。ねえ、降ろして」

 

「…無理するな…このままでいい」

 

「…大丈夫だから…降ろして…」

 

しかし強情なクレアに、イタチは仕方ないとばかりに地面へと降ろす。

 

地面に降り立ったクレアは、バッとイタチから離れ、距離を取る。

 

年頃の女の子というのは、難しいものだ。

 

イタチはそんな風に思いながら、クレアを見つめる。

 

しかし、当の本人はイタチを視界に入れることなく、そっぽを向いたままだ。

 

「イタチ…」

 

「なんだ?」

 

少しの間があく。

 

「ありがとう…」

 

クレアは、小さくお礼を吐き捨て、足早に歩く。

 

イタチは、そんなクレアの態度に、やれやれと言った様子で、後を付ける。

 

…故に、見ることができなかった。

 

前を歩くクレアの頬が、少しだけ、ほんの少しだけ赤く染まっているのを…。

 

 

 

 

クレアを救い出したその後…。

 

アルファたちと共に、時折シャドウも加わりながら、ディアボロス教団の支部や、下部組織を叩き潰すなどして、シャドウガーデンとして活動をする中で、一つの大きな成果を得るに至る。

 

それは、十分な設備と広さを持つ拠点を確保したことだ。

 

その後も各地で悪魔憑きを発見し、治癒した女性たちも続々とシャドウガーデン入りしたことで、イタチが身を置いていた廃村では足りなくなり、新たな拠点へと移ったのだ。

 

名を、古都アレクサンドリア。

 

深淵の森の奥深くにある、忘れ去られた地であった。

 

この地は、霧の龍というドラゴンが支配していたが、シャドウによって完膚なきまでに叩きのめされるだけでなく、イタチの万華鏡写輪眼によって身動き一つとれなくなるという、圧倒的な敗北を味わったことで、屈服を宣言。

 

シャドウガーデンの本拠地として手にするに至る。

 

また、屈服させた霧の龍の毒の吐息で守られているため、秘密結社であるシャドウガーデンにはうってつけの場所であった。

 

そして、このアレクサンドリアを有したことで、シャドウガーデンは目覚ましい発展を遂げることになる。

 

シャドウガーデンメンバーの生活拠点としてはもちろんのこと、陰の叡智を元にした様々な製品や機械等の開発、食料等の栽培、そして構成員の戦闘訓練など、組織としての下地作りに大いに貢献している。

 

リーダーは、もちろんシャドウガーデンの盟主であるシドことシャドウであるが、彼は何とこのアレクサンドリアの存在を知りえていない。

 

故に、実質的なリーダーはシスイということになる。

 

といっても、アルファたち最初の7人、別名七陰が優秀であるが故に、彼は上がってくる報告や計画を聞きつつ、時折口出しをする程度の役回りとなっている。

 

だが、七陰や構成員からすれば、イタチはシャドウの考えが唯一理解できる男であり、シャドウと同等の力を持つという認識である。

 

故に、その行動の殆どが制限されておらず、実際にシャドウガーデンを動かしているのはアルファを始めとした七陰ということになる。

 

しかし、先ほども少し触れたが、イタチはシャドウと同様にシャドウガーデンの御旗のような役割を有しているため、それを怪訝に思う者は誰一人としていない。

 

イタチもイタチで、少女らが一生懸命に考えて行動しているのを微笑ましく思っている節もあるため、あからさまに変な行動を起こさない限り、任せて見守っているのだ。

 

アルファたちからしてみれば、『信頼されている』という歓喜にも似た感情を抱いており、そこに一切の軋轢を生むことなく、組織が成り立っている。

 

さて、そんな風にして、すでにイタチの手を離れかけていたシャドウガーデンであったが、今日は珍しくアルファがイタチに願い出てきた。

 

「…人間の悪魔憑き…か…」

 

「ええ。治療自体は時間をかけて成功したのだけれど、体力の消耗が激しくて…」

 

ベットに横たわる一人の女性を、イタチは注意深く観察する。

 

歳は15歳程度であろうか。

 

長い茶髪を有した、それでいてどこか気品のある少女であった。

 

そんな少女の額に、近くにいたイータが濡れタオルを優しくおでこへ乗せる。

 

「…悪魔憑きの影響と治療の負荷で、相当体力を消耗しているようだな…」

 

「ええ、私達も人間の悪魔憑きを治療するのは初めてで…ごめんなさい」

 

「…力不足…」

 

イタチの言葉に、アルファとイータは、申し訳なさそうな顔をして見せる。

 

しかし、そんな2人にイタチは優しく答える。

 

「謝る必要はない…。人間であれば、エルフや獣人に比べて体力が劣るのは当たり前だ…。故に、彼女が弱るのは仕方のないこと…。それに逆を言えば、人間の悪魔憑きも救えるほどにアルファたちが成長したとも言える…」

 

「イタチ…ッ」

 

「イタチさん…優しい…」

 

アルファとイータは、感銘を受けたようにして、表情が綻ぶ。

 

そんな2人を見て、イタチは小さく笑いかけると、再び横になっている少女へと視線を向ける。

 

「それで、俺を呼んだのは、この子を助けてほしいと言ったところか?」

 

「ええ。私たちの魔力を注いでも、現状が精一杯で…」

 

アルファの言葉を受け、イタチはゆっくりと少女の身体に手を添え、魔力を流し込む。

 

イタチにとっては、大したことのない量と緻密さであったが、アルファとイータにとっては、膨大な量の魔力と、信じられないほどの精密さを誇る魔力制御であった。

 

「ッ!すごい…ッ!」

 

「さすが…」

 

アルファとイータは、目を大きく見開いて驚いて見せていたが、少女の顔色と呼吸に変化が現れたことで、驚きをそちらへとシフトする。

 

「顔色が良くなった…。それに、呼吸も落ち着いてる…」

 

「熱も…下がった…」

 

アルファとイータが、少女の容態を確認しながら、小さく呟く。

 

「暫くすれば、目を覚ますだろう」

 

「…ありがとう、イタチ」

 

アルファは、目尻に些少の涙を浮かばせながら微笑を浮かべる。

 

「気にするな…。また何かあれば、いつでも言ってくれ」

 

イタチの優しく、落ち着いた言葉に、なぜかイータが興奮したような様相を見せる。

 

「イタチさん…写輪眼…欲しい…!」

 

「…それは無理だ…」

 

イータのぶっ飛んだお願いに、イタチは短く拒否の言葉を投げつける。

 

「ちぇ…」っと少し不貞腐れた様子のイータを横目に、部屋を後にしようとするが、思い出したようにして立ち止まり、口を開く。

 

「そういえば、この子の名は?」

 

「本名は、ニコレッタ・マルケス。侯爵家の令嬢よ…。構成員としては、93番を与える予定でいるわ」

 

令嬢というワードを聞いて、イタチは少し目を見開く。

 

「…侯爵家の令嬢でも、悪魔憑きとなれば迫害され、捨てられる…か…」

 

「ええ…」

 

イタチの言葉には、些少の怒りと、やるせない思いがのっていた。

 

それを察したアルファは、目を細めて悔しさを表情に滲みだす。

 

「…ディアボロス教団…早いところ潰さねばな…」

 

イタチは、そう吐き捨てて、部屋を後にする。

 

「イタチ…」

 

そんなイタチの様相を見て、更なる決意と覚悟を、アルファは心に留めるのであった。

 

 

 

シドとの出会いから4年の歳月が流れた。

 

イタチは、古都アレクサンドリアとシドの住むカゲノー家を行き来することが多い。

 

カゲノー家へ足を運ぶ理由は1つ。

 

シドとの修行…というか、最近では互いの力を高めあう機会になりつつあるのだが、それを為すためである。

 

さて、今日も変わらずシドの修行に付き合った後、イタチは元の忍者としての力と魔力を駆使して、音速に近い速度をもって飛行し、アレクサンドリアへと戻る。

 

しかし、その道中(空中だが)で、一つの人影を発見する。

 

アレクサンドリアにほど近い深淵の森内のため、シャドウガーデンの関係者であることはほぼ間違いないのだが、一応確認するに越したことはない。

 

森の中に、身を投じ、その人影の前に姿を現す。

 

イタチが現れたことで、その人影は驚いた様相を見せる。

 

スライムスーツを身に纏っていたことで、警戒心を解いたイタチであったが、逆にその人影は魔力を展開して声を張り上げる。

 

「何者だッ!貴様!」

 

ピンクとも紫とも言える髪色に、頭にはベールのような黒い布を有している少女であった。

 

「君は、シャドウガーデンの者だろう?俺は…」

 

「ッ!!」

 

イタチは彼女の素性を調べつつ、名乗ろうとしたが、少女が急に眼を見開いて襲い掛かってきたことで、言葉を遮られる。

 

「貴様ッ!なぜそれをッ!!」

 

「…なぜ?…シャドウガーデンの拠点であるアレクサンドリアの近くで、スライムスーツを身に纏っているのだから、分かって当然だろう?」

 

イタチの当たり前だろ?というような言葉に、少女は更に瞳孔を開く。

 

「ッ!…まさかそこまで調べがついているとは…、貴様は生かしてはおけん!!」

 

「ちょっとまて、俺は…」

 

「問答無用!!」

 

少女の言葉で、イタチは少女がとんでもない勘違いをしていることに気付き、弁明しようとするが、お構いなしに襲い掛かってくる。

 

「話を聞け…俺はお前の…」

 

「黙れッ!話など、貴様を捕らえてからすればよいだけのこと!!」

 

少女は、スライムで形成した剣を何度も、イタチへと向けて振りかぶる。

 

そんな少女の剣を、イタチはクナイで捌く。

 

「くっ…貴様…中々やるようだな…」

 

「(…聞く耳は持たんか…)」

 

激情しきっている少女に、イタチは言葉での問いかけを止め、写輪眼による幻術に嵌めて落ち着かせようとする。

 

しかし、その瞬間、一人の乱入者が現れる。

 

「何をしているッ!」

 

その乱入者は、少女と同じようにスライムスーツに身を包み、しかし頭には猫耳を有していた。

 

「ッ!ゼータ様ッ!お力添えを!侵入者です!!」

 

イタチは、乱入者、ゼータが現れたことで、一気に戦闘態勢を解く。

 

ゼータはというと、絶句して目を大きく見開き、固まって見せていた。

 

イタチが戦闘の意思を解除したことで、少女は更に勘違いを重ねる。

 

「ふっ!観念したか…どうやら、ゼータ様との戦力差を理解する程度の知能はあるようだな…」

 

勘違いもここまで行くと清々しいな、と思いながら、イタチはゼータへと視線を向ける。

 

イタチから視線を向けられたことで、ゼータはビクッと身体を震わせる。

 

「…ゼータ様?」

 

そんなゼータの様子を怪訝に思った少女は、小さく首を傾げる。

 

「何のつもりだ!!559番!!!」

 

ゼータの、今まで聞いたことのない怒号が、深淵の森に響き渡った。

 

 

 

 

アレクサンドリアへ無事に到着したイタチは、自身の執務室にて、アルファとゼータと共に、目の前にいる、とある少女へ視線を向ける。

 

559番と呼ばれた少女は、地面に両手を付け、額を擦り付けるようにして土下座していた。

 

「も、申し訳ありませんでした!シスイ様だとは知らず、と、とんだご無礼を!!」

 

「もういい、気にするな。不慮の事故のようなものだ」

 

未だシスイという偽名に慣れていない様子のイタチであったが、正直面倒だなと思いながら、目の前で頭を垂れている少女を見下ろす。

 

そんなイタチの姿に、アルファが威厳のある声で答えた。

 

「シスイ…そんなんじゃ、他のメンバーに示しがつかないわ」

 

「そうだよ。シスイ様に刃を向けるなんて、どんな理由があろうと許されることじゃない…」

 

アルファに続き、ゼータも怒りの籠った声を発する。

 

「アルファ様とゼータ様の仰られる通りでございます…。どうか、私に罰を…」

 

「いや…だからあれはただの行き違いで……わかった…」

 

イタチは、ムッとした表情のアルファに押し負ける形で、渋々了承して見せる。

 

「そうだな……。なら、試したいことがあるから、今日一日付き合ってくれ」

 

「「「え?」」」

 

「…え?」

 

アルファたちが、なぜか呆けた様子を見せたことで、イタチも返答に困り、同じような表情を見せる。

 

「そ、それが罰…?」

 

「ど、どちらかというと…それは…」

 

ゼータとアルファが、なぜか身を捩らせて震えている。

 

そんなに重い罰であろうか?

 

イタチからすれば、アルファたちがどうしてもというから提案したに過ぎないのである。

 

しかし、これ以上は時間の無駄だと判断し、威厳を持った声で低く唸る。

 

「不服か?」

 

「ッ!…あなたが…それでいいなら…」

 

イタチの低い声に、アルファは思わず身体を震わせる。

 

「なら、この話は終わりだ…559番…」

 

「は、はい…シスイ様…」

 

声を掛けられたことで、559番は声を震わしながら短く答える。

 

「ついてこい…」

 

「え…あ…はい!」

 

イタチが椅子から立ち上がり、執務室を後にするのを、559番は足早に追いかける。

 

…背中に刺さる、先ほどよりも強大な怒りと嫉妬に似た視線を浴びながら…。

 

 

 

 

イタチが559番にお願いしたことは、93番との模擬戦であった。

 

「私が…559番と模擬戦…ですか?」

 

ラムダから呼び出された93番は、それがシスイの指示によるものだと知ると、歓喜の表情を浮かべた。

 

シスイのことは、アルファやイータから聞かされていた。

 

自身は七陰から悪魔憑きを治療されたものの、生死の境をさまよう程に衰弱していたらしい。

 

それを、シスイが93番に魔力を与え、それを制御したことで救ったのだ。

 

93番からすれば、シスイは救世主に他ならなかった。

 

故に、そんなシスイから呼び出されたとなれば、歓喜に身を震わせないわけはない。

 

だが、訓練場に呼び出された93番は、実際にその内容を聞いたことで、疑問を呈することになった。

 

「ああ、そうだ。君は俺の魔力を有している…。そして、この559番は、シャドウから魔力を与えられている」

 

「なっ!シャ、シャドウ様から!!」

 

559番が、シャドウから力を与えられているということに、93番は驚愕の表情を浮かべる。

 

と同時に、93番がイタチから力を与えられているという事実を、同じように知りえていなかった559番も、驚いている様子であった。

 

「そして、互いにその力を十分に使いこなすには至っていない…そうだろう?」

 

「は、はい。その通りでございます」

 

「……ッ!」

 

93番と559番は、共に苦悶の表情を浮かべながら視線を落とす。

 

「そこで、両者で模擬戦を行い、その精度を高め合えないかと、思ってな…」

 

イタチの言葉に、新メンバーの訓練と教育を担当している軍人のような見た目をした女性、銀髪褐色肌のラムダが、気付いたように口を開いた。

 

「なるほど…。シャドウ様とシスイ様から力を授かったのであれば、それが最適解かも知れません…。同じくお二方から力を授かった七陰の皆さまは忙しく、2人の修行に構っている暇はないでしょうから…」

 

「そう言うことだ…。とりあえず今日一日やってみて、効果があるようなら2人の訓練プログラムに加えてくれ…」

 

「サー!イエッサーッ!」

 

イタチは、あまり馴染みのない敬礼に、特にこれと言って反応をせず、その場を後にする。

 

ちなみに、このイタチの提案は、意外にも効果があったらしく、2人の特別訓練プログラムに加えられることとなった。

 

…余談だが、この2人が訓練兵や構成員たちにとっては、シャドウとイタチの代替にも似た戦闘に捉えられ、どちらがより優秀なのか…という議論に発展していくことになるとかならないとか…。

 

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