うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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ミドガル編
第5話 王女誘拐


シドとイタチが出会ってから5年…。

 

2年前のクレアの後を追うようにして、シドはミドガル王国にある魔剣士学校へと入学する運びとなった。

 

そして、そんなシドの動向に合わせる形で、イタチも王都へとその姿を現していた。

 

…と言っても、シドのように魔剣士学校に通うわけにもいかず、通うつもりもないので、王都内のとある商会の本店で過ごしている。

 

その名は、ミツゴシ商会。

 

ここ数年で頭角を現した商会で、画期的且つ独創的な商品の数々を世に輩出し、今ではその名を知らぬものはいないといった具合にまで急成長を遂げた商会である。

 

イタチはその商会に就職…したわけではなかった。

 

というよりも、元々この商会の立ち上げからのメンバーとも言えなくない。

 

…このミツゴシ商会、実はシャドウガーデンの表の顔、所謂隠れ蓑的存在なのだ。

 

2年前に古都アレクサンドリアを本拠地として手にしてから、様々な商品開発や栽培技術を確立し、それを商会という形で実現させたのが、ミツゴシ商会なのだ。

 

表向きは商会、裏はシャドウガーデンという、まあシドが好きそうな陰の秘密結社らしい存在である。

 

そんなミツゴシ商会は、細長い建造物を、四方に並べた箱形の形を有している。

 

そして、真ん中の空間には大きな建物が隠れるようにして建てられており、これが王都における、シャドウガーデンの拠点であった。

 

今のイタチは、その拠点で過ごすことが多い。

 

そして、そんなイタチの傍に控える七陰は2人。

 

アルファとガンマである。

 

アルファは、シャドウガーデンのNO.3として七陰やナンバーズといった構成員をまとめあげ、管理する立場にある。

 

もう一人、ガンマは、何を隠そう、シドから得た陰の叡智を元に、このミツゴシ商会を一から立ち上げた張本人である。

 

また、ルーナという、ミツゴシ商会の会長を務める表の顔も有している。

 

そんな優秀すぎる2人を傍に置き、イタチが行っていることは…。

 

…特にこれと言ってないのである。

 

数年前から何一つとして変わっていない関係性であった。

 

変わったことと言えば、『少女たちが頑張っているから、暖かい目で見守ろう』から、『あれ?俺が口出しすることは殆どないのではないか?』という、一種の疎外感にも似た感情を抱くようになったことくらいであろうか。

 

数年前までは、悪魔憑きの治療がイタチとシド、そしてアルファとイプシロンが何とかこなせるというレベルであったため、そのために力をふるうこともあったが、今は殆どと言っていいほどにその役回りもない。

 

あるとすれば、アルファたち七陰ですら対処できない程の強敵が現れた際に出張ることくらいであるが、アルファですらこの世界では最強格に近しい力を有していることに加え、そんな強敵がポンポンと出てくるという機会もなく、イタチが忙しくしていることは殆どない。

 

ミツゴシ本社でイタチが行うことと言えば、アルファが一度目を通した書類を確認したり、上がってきた計画などを一緒に考えたりするくらいである。

 

だが、使命に駆られ、忙しそうに活動している少女たちの前で自堕落な生活を送れるほど、イタチも人は捨てていない。

 

ミツゴシ本社に住居を置きつつも、その殆どをディアボロス教団の拠点等の調査に赴くようにしている。

 

イタチからすれば、無理のない範囲でできる限り調査をし、情報を集めて…といった具合で動いているにすぎないのであるが、アルファたちからの評価はうなぎ上りである。

 

『私たちにできないことを、平然とやってのけ、剰え重要な情報を持ち帰ってくる』という印象を与えているのだ。

 

狂信的なまでの、忠誠心にも似たその感情は、イタチの悩みの種の1つでもあったりする。

 

 

…さて、そんな具合で生活をしているイタチに、アルファが落ち着いた声を掛けてくる。

 

「シスイ、これを見て欲しいのだけれど…」

 

「…これは?」

 

裏の名前を決めてから、すでに4年の歳月が流れていたため、イタチもすっかりと慣れた様子を見せ、一切の疑念も抱かずにシスイという名に反応を見せる。

 

「この王都に蔓延る、ディアボロス教団の情報をまとめたものよ」

 

アルファの回答を耳に挟みながら、イタチは渡された資料をパラパラとめくる。

 

そこに記された情報は、一見すると信じられないような名前や場所、情報ばかりであったが、どこか確信にも似た感情を抱く。

 

「…ここまで侵食されているとはな…」

 

「ええ。恐らく、シドも同じように考えて、行動しているはずよ」

 

…それはないだろうな。とイタチは心の中で呟く。

 

シドに限って、そんな高度な考えは有していないだろう。

 

あいつはただ、陰の実力者として振舞えれば、それで満足なのだから。

 

イタチはそんな風に思考を巡らせていたが、アルファが再度口を開いたことで、それを一度止めることになる。

 

「それで…もう一つ報告があるのだけれど…」

 

アルファはどこか混乱しているような様相を見せており、イタチは思わず目を見開く。

 

「…君がそんな表情をするなんて、珍しいな。厄介事か?」

 

「ええ。厄介事と言えば厄介事ね…というよりも、どうすればいいのか、困ってる」

 

アルファは一つ息を吐くと、続けて言葉を発する。

 

「シドが…捕まったわ」

 

「は?」

 

イタチは、一瞬思考を停止させる。

 

そして、まさかという感情を抱く。

 

…遂に、奴は人の道すらも外してしまったのかと…。

 

しかし、それは誤解であったと気づくことになる。

 

「アレクシア王女誘拐の嫌疑がかけられているわ」

 

どうやら、別の意味でとんでもない誤解のようだ。

 

『王家の財宝を盗み出した疑いがかけられているわ…』とかであれば、やりかねないな…と思っていたイタチであったが、女性に対して全くと言っていいほど興味を示していないシドが、そんな真似をするはずがないと、確信に似た思いを抱く。

 

…王女を人質に金銭を…という線もまあありえなくはないが、シドは表では冴えない下級貴族の弱者を演じている。

 

その線も、限りなくゼロに近いだろう。

 

とすれば、えん罪…罪を擦りつけられた可能性が高い。

 

「……詳しく話してくれ」

 

イタチは、事の経緯をアルファから詳しく聞くことにした。

 

 

 

 

一言で表すなら、『自業自得』であった。

 

アルファからの報告をまとめると、入学して間もなく、シドはミドガル王国の第二王女アレクシア・ミドガルに告白をしたらしい。

 

15歳という一般少年であれば、地位があり、容姿も整っているアレクシアとのお付き合いを夢見るということもあるだろう。

 

しかし、シドに限ってそんなことはありえない。

 

奴には、性欲というモノがまるでない。

 

それこそ、イタチと比べても天と地ほどの差があるくらいにはない。

 

故に、別の目的でアレクシアに告白したと考えられる。

 

恐らくは、しがないモブAを演じるため、断られることを前提として告白したのだろうという結論に、イタチはたどり着く。

 

だが、ここで誤算が生じた。

 

なんと、アレクシアが承諾してしまったのだ。

 

めでたくシドとアレクシアのカップル誕生である。

 

しかし、これがまずかった。

 

カップルとして周知され始めたころ、前述の誘拐事件が起こった。

 

そして、その疑いが、その相手であるシドに向くというは、至極当然のこと…。

 

しかも、シドは男爵家の下級貴族…。

 

地位を狙った犯行とみられても、致し方ないだろう。

 

つまり、シドがモブキャラを演じるという行為を行わなければ、巻き込まれることのない事件であった。

 

…そう思っていた。

 

しかし、4日ほど経ち、新たな情報が飛び込んでくる。

 

ミドガル王国の騎士団に、ディアボロス教団が入り込んでいるという情報から探りを入れた結果、このアレクシア王女誘拐事件も、教団の手によるものであると確証を得るに至ったのだ。

 

…つまり、シドがアレクシアと付き合っていようがいまいが、アレクシアは誘拐されていたということである。

 

本当に、なんでこうもトラブルに巻き込まれるのか、イタチは思わず何かしらの幻術か陰謀を疑ったくらいである。

 

だが、教団が絡んでいるとあれば、シャドウガーデンとしても動かざるを得ない。

 

アレクシア誘拐の目的が、濃度の高い英雄の血を求めてのこととなれば、なおさらである。

 

そしてそこから数日後、シドが釈放された晩…シャドウガーデンは動いた…。

 

 

 

 

ミドガル王国の王都では、複数ヵ所で破壊活動が行われていた。

 

その全てが、騎士団の詰め所や拠点であった。

 

…まあ、『ディアボロス教団の息がかかった』という前提条件が付くが…。

 

しかし、表向きには王国正規の騎士団である。

 

それが襲撃を受けているとなれば、国として動かないわけにはいかない。

 

誘拐されたアレクシア王女の姉であり、ミドガル王国第一王女アイリス・ミドガルも、この一連の騒動の鎮圧のため、家々の屋根を駆けるようにして現場へと向かっていた。

 

最中、一つの建造物が音を立てて崩れ落ちる。

 

雄叫びのような声が耳に入ったことで、即座にそちらへ向かう。

 

近づくにつれ、先の声を上げたであろう化け物が目に入る。

 

長い銀髪を有し、その身体は10mは優に超える。

 

全身は見るに堪えない肉塊のような姿で、血管が浮き出たまさに化け物といってよい見た目をしていた。

 

視線を、化け物の周囲へと向ける。

 

化け物が起こしたと思われる破壊によって、傷ついた騎士や市民の姿を捉える。

 

その中には、既に事切れている者も多く、それがアイリスの視線を鋭く、そして怒りを抱かせることになる。

 

アイリスは、屋根から跳躍すると、化け物へと上空から剣を振りかざす。

 

その剣は化け物を正確に捉え、凄まじい出血と共に、悲鳴をあげさせるに至る。

 

「化け物が!!」

 

そしてそのまま、地面へと綺麗に着地して見せる。

 

「おおっ!」

 

「アイリス様ッ!」

 

生き残っていた騎士たちが、アイリスの到着に歓喜の声を上げる。

 

「あなた達は下がりなさいッ!こいつは私が…ッ!」

 

騎士たちに指示を飛ばしていたアイリスであったが、化け物の様相を見て、言葉を詰まらせる。

 

なんと、先ほどアイリスがつけた傷が、再生したのだ。

 

「さ、再生…?」

 

「嘘だろ…アイリス様の一撃だぞ…」

 

騎士たちもそれを把握し、絶望に似た声を上げる。

 

しかし、アイリスの表情は変わることなく、鋭い視線を有していた。

 

化け物は再生を終わらせると、アイリスに向かって飛び掛かる。

 

アイリスは、持っている剣に魔力を込める。

 

赤い魔力が稲妻のように剣に纏わり、その一撃は化け物の腕を切り落とし、その突きは化け物の身体を大きく吹き飛ばして見せる。

 

化け物は、家屋の壁に身体をぶつけ、身を預けるようにして座り込む。

 

だが、それでも更に化け物の身体は再生を続ける。

 

「くそっ!ならば…」

 

アイリスは、再び剣に魔力を込め、化け物へとその力を向けようとする。

 

化け物の腕とアイリスの剣、両者が衝撃を果たし、力の押し合いになる…。

 

そのはずであった。

 

しかし、アイリスの振り上げた剣からは、『ガギンッ!』という、化け物の腕と接触したとは思えない音が発せられた。

 

思わず、大きく目を見開く。

 

そこには、黒いナイフを片手にアイリスの剣を防ぎ、もう片方の手で化け物の腕を防いでいる、漆黒を纏った男がいたのである。

 

何が起こっているのか、アイリスは一瞬理解が及ばなかった。

 

しかし、男の低く唸るような声で、思考に冷静さを取り戻す。

 

「それ以上はよしてもらおう…。お前のそれは、彼女を苦しめるだけだ」

 

「な、何者だッ!」

 

アイリスは、全身から冷や汗が流れ出るのを感じ取る。

 

『この男は強い』

 

脳よりも先に、身体がそう反応を示した証拠であった。

 

しかし、その男は一向にこちらへと視線を向けてこない。

 

化け物へとその視線を固定したまま、小さく呟く。

 

「もう苦しむことはない…。よく頑張ったな…」

 

瞬間、男から発せられた真紅の魔力が化け物を包み込む。

 

アイリスはその魔力の異常さに、瞬時に男から距離を取る。

 

その魔力は莫大であり強大…。しかし極めて精密且つ繊細なものであった。

 

ミドガル王国最強と名高い、アイリスをもってして、驚愕に値するほどだ。

 

化け物を包み込んだ魔力は、まるで何かを浄化するようにして収縮してみせる。

 

その魔力に包まれた化け物は、次第に人間の形を有するに至り、深紅の魔力が消えるのと同時に、地面へとゆっくりと伏して見せた。

 

膨大な魔力の奔流によって生まれた砂ぼこりが次第に晴れ、視界が晴れる。

 

それによって、先の男の姿が視界に写る。

 

「貴様は…誰だ!」

 

しかし、それでも男は一向に反応を示さない。

 

この距離で、声が聞こえていないはずはない。

 

つまりは、意図的に無視しているか、関心がないかのどちらかである。

 

それはアイリスをイラつかせるには十分であり、剣を握る力を強めるに至る。

 

そして、今度は更に声を張り上げ、叫ぶようにして口を開こうとするが、しかし男によって遮られる。

 

「アルファ…この子を頼む」

 

「ええ」

 

男の横に瞬時に現れた、長い金髪を有する女に、アイリスは大きく目を見開く。

 

そして、一気に細めて鋭い視線を作る。

 

剣に込める力を更に強め、一歩前へと踏み出す。

 

「お前たちはッ!何者かと聞いているんだ!!」

 

極限まで魔力を込め、2人に襲い掛かる。

 

しかし、先ほどと同じように、短く黒いナイフで軽々と受け止められる。

 

「くっ…!」

 

たかがナイフに、自身が魔力を乗せた一撃を、それも片手で防がれたことで、アイリスは苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

 

同時に、ようやく男の顔を正面から眺めることに成功する。

 

だが、深いフードにより、その全貌を見据えることはできなかった。

 

「…アイリス・ミドガルだな…」

 

男がそう呟くと同時に、金髪の女が、先の化け物だったと思われる人間を抱えて姿をかき消す。

 

「ま、待てッ!…ぐっ…」

 

その女を逃すまいと叫ぶが、男の力に押し負ける。

 

一歩下がり、その力に対抗しようと踏ん張る。

 

「お前はッ!何者なんだ!!」

 

「シスイ…。シャドウガーデンのシスイだ…」

 

「シスイ…ッ!お前が王都を襲撃したのかッ!」

 

「さあ、どうだろうな…」

 

シスイは一切の抑揚なく、アイリスの質問に答える。

 

アイリスは、まるで梅干しを齧ったような表情を浮かべた後、大きく後ろへ後退する。

 

「貴様は…ここで倒す!」

 

「やめておけ…お前如きでは、俺に傷一つつけることはできない」

 

「黙れッ!」

 

アイリスの剣に、先ほどとは比べ物にならないほどの魔力が込められる。

 

常識的に考えれば、それは一人の人間に向けるべき魔力量ではなかった。

 

しかし、アイリスはたった2回の剣戟、それも鍔迫り合いで感じ取っていたのだ。

 

まともにやり合っても、勝てない…と。

 

故に、奴が油断しきっているうちに、最大火力の攻撃をもって鎮める他なかった。

 

アイリスの魔力に耐えきれず、剣が悲鳴をあげているのが分かる。

 

シッという疾風の如き音を放ちながら、アイリスは男の胸元に剣を振り下ろす。

 

…しかし、その剣はシスイの胸元には届かず、差し出した手によって防がれた。

 

それも、床に落ちた小物を拾うかの如く、片手で、しかも素手で…。

 

行き場をなくした魔力は、その場で一気に四散してみせる。

 

「バ…バカ…な…」

 

剣で防がれたのであれば、まだわかる。

 

そもそも、防げるようなレベルの魔力量、斬撃ではないのであるが、それでも剣で防いだというのであればまだわかる。

 

だが、素手で受け止めたのだ…。

 

あり得ることではなかった。

 

アイリスは目の前がグルグルと回る様な、そんな感覚を覚える。

 

「理解したか…?」

 

「…ッ!」

 

アイリスは、意図せず自身の身体が大きく震えているのが分かった。

 

それは恐怖。

 

自身の知りえない、圧倒的強者に対する恐怖であった。

 

「なんなんだ…なんなんだ…おまえは…」

 

シスイは、刀身を挟んでいる指にグッと力を籠める。

 

アイリスの制御のない暴走しきった魔力によって、既に耐久力を失いかけていた刀身は、それだけでバラバラと崩れ落ちる。

 

それを見たアイリスは、瞳孔を大きく広げ、一歩、また一歩とふらつくようにして後退する。

 

「気は済んだか?」

 

「…ッ!」

 

アイリスは、ひぃ…と喉が鳴る。無意識であったが、それが悲鳴に似たものであることが分かるくらいには、恐怖心を抱いていた。

 

「…それに、貴様はここで俺と遊んでいる暇があるのか?」

 

シスイの言葉に、アイリスは何かを思い出したかのような表情を浮かべる。

 

「アレクシア…」

 

「…我ら、シャドウガーデンの邪魔をするな」

 

アイリスがそう呟くと、シスイは掻き消えるようにして、一瞬で姿を消した。

 

シスイが消えたことで、暫く固まって見せていたアイリスであったが、苦悶の表情を浮かべたのち、走り出すようにしてその場を離れた。

 

 

 

 

シスイはアイリスの前から姿を消した後、時計台の淵に立ち、街を眺めていた。

 

そして、とある一点において、膨大な魔力を感知することになる。

 

その後暫くすると、その一点は地を割り、水を割り、王都の一部を半球状をもって包み込む。

 

それは次第に柱となり、天高くそびえたつ塔のような様相を見せる。

 

王都の街を包みながら、天に上る紫色の魔力の塊…。

 

シャドウによるものだ。

 

その魔力の奔流は、時間と共に収縮を見せ、王都の一部と共に掻き消える。

 

「…限度というものがあるだろう…」

 

シスイは、短く、それでいてかなりの怒りが籠った。

 

しかし、同時にある可能性がシスイの頭の中を巡る。

 

「…それほどの相手だったのか?」

 

シスイの疑問に答えるものは、この場にはいない。

 

「シャドウ…もしかしたら、俺は…お前を…」

 

最後までは声に出さない。

 

しかしその表情には、何かを決意するような、覚悟するような様相を呈していた。

 

 

 

 

アレクシア王女誘拐事件は、王都へ多大なる被害を齎しながらも、解決と相成った。

 

七陰を中心としたシャドウガーデンメンバーによる、ディアボロス教団の息のかかった騎士や拠点の排除。

 

並びに、拉致監禁されていた悪魔憑きの救出。

 

今回の事件の黒幕である、ゼノン・グリフィ侯爵の討伐。

 

そして、アレクシア王女の救出。

 

結果だけを見れば、シャドウガーデン側は一切の被害を被ることなく作戦を成功させた。

 

しかし、シスイの名を有して先の作戦に参加したイタチは、とある危機感を抱いていた。

 

そして、それを目の前にいる本人、シャドウことシドへとぶつける。

 

「なぜアトミックを放った?」

 

イタチの言葉には、怒気が含まれていた。

 

それによって、シドは非常に良くない汗をタラタラと流していた。

 

「え、えーっと…その、なんというか…」

 

「…アトミックを放たねばならぬほどの相手だったのか?」

 

「いや、別にそういうわけでは…」

 

「ならなぜ放った?」

 

「か、かっこいいかなーと…。陰の実力者演出と言いますか…」

 

「…そのためだけに、王都の一部を焦土と化したというのか?」

 

「そ、そう言うことに、なりますかね?…」

 

イタチの抑揚のない、しかし怒りが籠った言葉の羅列に、シドはオドオドとした様相で口を開く。

 

「…シド」

 

「はい…」

 

短く返事を返す。

 

「力を誇示するなとは言わない。陰の実力者を演じるなとも言わない」

 

「はい…」」

 

「…時と場所を考えろ」

 

「はい…」

 

シドは、ひたすらに肯定と承諾を交えた言葉を並べる。

 

「シド、もしお前のその力が、無垢の人々に向けられる可能性があるのなら…」

 

シドは、生唾を飲み込む。

 

実力的には同じである。

 

出会った当初はイタチの方が強かったが、成長と共にその差は埋まり、今では互いに互角の戦いを繰り広げられることであろう。

 

しかし、なぜだろうか。

 

イタチの前では、なぜか背筋が伸びる思いなのであった。

 

故に、普段は聞き流せるような説教も、指摘も、イタチが相手となるとそうもいかないのだ。

 

「…俺はお前を殺さないといけなくなる…」

 

「そ、そうですよねー…」

 

シドは、ははっと乾いた笑いを浮かべる。

 

しかし、イタチは一向に表情を変えない。

 

それが更にシドに緊張感を与える。

 

「…次からは、周りの状況をよく鑑みて行動することだ。…力を持つものは、その力を正しく使う義務がある。よく覚えておけ」

 

「はい…」

 

イタチの指摘に、シドは思わず俯いてしまった。

 

そしてその瞳は、珍しく潤んでいたのであった。

 

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