うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第6話 陰の陰

黒ずくめの集団が、夕日を背に、魔剣士学園を取り囲んでいる。

 

全身を真っ黒なスライムスーツを有するその集団は、シャドウガーデンの面々であった。

 

その中に、シスイの名を用いるイタチの姿もあった。

 

事の発端は、ガンマから上がってきた、シャドウガーデンを名乗るディアボロス教団の手の者による学園の占拠という報告であった。

 

言わずもがな、今回もしっかりとシドが巻き込まれる形で騒動が起こっており、イタチはまず初めに写輪眼に寄る幻術の解除を試みた。

 

…全く効果がなかったため、これは現実の出来事のようだ。

 

ほんっとうに、トラブルの渦中にしかいない男である。

 

本来であれば、すぐにでもイタチを筆頭に突入すべきなのだが、2つの状況がそれを許さない。

 

1つは、学園の生徒の多くが人質に取られていること。

 

もう1つは、学園を取り囲むようにして発動している、魔力を制限、封じるアーティファクトの力が発動していることである。

 

学園の正門に集まっている、アイリス率いる騎士団も、同じ理由で躊躇いを見せている。

 

イタチは、最悪自分一人で強襲を仕掛けることも考えていた。

 

魔力が封じられていても、イタチにはチャクラがある。

 

先ほど忍術を発動させようとチャクラを練り上げたが、一切の阻害なく可能であることを確認した。

 

しかも、裏の顔である、シスイとして攻勢を仕掛けるのであれば、何の制限もなく力を使うことができる。

 

状況がこのまま好転しなければ…と考えていたイタチの元に、一人の女性が音もなく学園から駆け寄ってくる。

 

学生の制服を纏い、丸眼鏡をかけ、髪をお団子にしてまとめている。

 

一見、逃げてきた人質の様相であったが、イタチの傍に来ると、平伏に似た姿勢を見せる。

 

「シスイ様。シャドウ様との接触が成功しました」

 

「…状況は?」

 

その女性は、イタチによって生死の境をさまよっているところを救われた、元93番のニューであった。

 

現在は、学園生活を送るシドの、供回りを担当している。

 

「はい。現在、シャドウ様は魔力制限を起こしているアーティファクト、強欲の瞳の効果を打ち消すアーティファクトの製作の最終段階に入っているとのことです」

 

ニューの思わぬ発言に、イタチは些少の目の開きを見せる。

 

周りにいる数名のシャドウガーデンメンバーは、「アーティファクトを⁉」、「シャドウ様はそのようなことまで…⁉」と驚いた様子を見せている。

 

正直、イタチも驚いている。

 

シャドウにそのような特技があったとは…、と些少の関心を抱くに至る。

 

「なるほど…それで目安は?」

 

「はい。日が落ちる頃には完成するとのことです」

 

「そうか…。ならば、俺一人で片をつける必要もないか…」

 

イタチの発言に、ニューはバッと顔を上げる。

 

「シスイ様ッ!まさか、全てお一人でッ!」

 

「…このままの状況が続くようだったらという話だ…だが、その必要はなくなった」

 

ニューの、イタチへの感情は、尋常ではない。

 

もはや、狂信的とも言っていいほどである。

 

まあ、とある元聖女がシャドウにむけるそれには劣るが、それでも七陰と同じかそれ以上の忠誠心と好意を抱いていると言っても過言ではないだろう。

 

故に、ニューはイタチのこととなると、時折アホの子になってしまう傾向がある。

 

「し、失礼いたしました…」

 

イタチの丁寧な後付けに、ニューは気持ちが先走ってしまったと感じる。

 

「気にするな…。…ガンマ」

 

「はい、イタチ様…ぎゃっ!」

 

イタチの後ろに控えていたガンマは、一歩踏み出した瞬間、蔓に足を取られて転倒する。

 

幸い、イタチが腕と足でガンマを抱きしめるようにして支えてことで、地面への衝突は避けられ、顔面強打による鼻血…というお約束の流れを回避する。

 

「足元に気をつけろ、ガンマ」

 

しかし、それとは別の問題、羞恥とも歓喜ともとれる感情がガンマの中に湧き上がる。

 

「も、申し訳ありません…///」

 

イタチに肩を抱かれ、支えられたことで、ガンマは頬を真っ赤に染上げる。

 

その様子を見て、周りにバレないくらいに、ニューが嫉妬の視線を向ける。

 

…そして、顔面強打を回避したにもかかわらず、ガンマは鼻から真っ赤な線を垂らす。

 

「…鼻血でてるぞ」

 

「ッ!す、すみません…///」

 

ガンマは、イタチの手をかりながら、そそくさと立ち上がって見せる。

 

落ち着きを取り戻したことを確認すると同時に、イタチは先ほど言いかけたことを思い出し、もう一度改めて口を開く。

 

「ガンマ、今からここの指揮は任せる。俺は学園に潜入し、シドと合流する。魔力制御が解放され次第、作戦通りに突撃しろ」

 

「承知いたしました」

 

イタチの指示に、ガンマは優雅に頭を下げる。

 

それを横目に、イタチは学園の屋上へと跳躍し、潜入した。

 

 

 

 

「てなわけで、この子…シェリーって言うんだけど、シェリーが強欲の瞳を無効化するアーティファクトを調整できるから、手伝っているんだ」

 

…前言撤回である。

 

どうやら、強欲の瞳を解除するアーティファクトの調整を可能にしているのは、シドではなく、シェリーと呼ばれた、セミロングの桃色の髪を有した少女だったようだ。

 

一瞬でも『シドも存外優秀だな』と思った自分に、これまでにないため息が漏れる。

 

その後、アーティファクトの調整を終えたシェリーは、一人でその解除へ向かおうとする。

 

「まて、一人じゃ危険だ」

 

危険を顧みない勇気か、はたまた単純に考えが及ばないのかわからないが、イタチはそれを制止する。

 

「だ、大丈夫です!」

 

「そうさ、彼女ならきっとやり遂げる…。それに、イタチさんには僕の手伝いをして欲しいんだよね」

 

彼女の自信と、シドのよくわからない発言に、イタチは頭を悩ませるが、一つの解決策を見出す。

 

「なら、どちらにもついて行けば、問題はない」

 

「え?」

 

「…あー、なるほどね…」

 

イタチの発言に、シェリーは疑問を、シドは納得した様子を見せる。

 

そんな2人の反応を受けながら、イタチは印を結んで一つの忍術を発動する。

 

「『影分身の術』」

 

白い煙と共に、もう一人のイタチが姿を現す。

 

「な、なんですかっ!これっ!!」

 

同じ人物がもう一人、突如として現れたことで、シェリーは今までにない驚きを見せる。

 

「影分身…実体のある分身体を生み出す忍術…だよね?」

 

「よく覚えているな」

 

「ふっ…イタチさんのことで覚えてないことなんてないさ…」

 

シドは、キランッと輝くような表情を見せる。

 

「…すごい」

 

シェリーは、2人のイタチの姿を交互に見据えながら、感嘆に似た声を上げる。

 

「分身体はシェリーに、本体はシドについていく」

 

「んー、僕的にはどちらでもいいけど…」

 

「…アーティファクトの解除、シェリーの義父の捜索、その後の安全な場所への誘導…。本体が出張れば、こちらに再度戻ってくるには時間がかかる。お前の手伝ってほしいことなど、どうせろくなことじゃないんだから、本体の俺がついていた方がいい」

 

「酷い言われようだな…。でもまあ、確かにそっちの方がいいかも…。分身体じゃ弱いもんね」

 

…やはり、碌なことを考えてはいない様子であった。

 

イタチはもう何度目になるのかわからないため息をつくと、シェリーとシド、それぞれに分かれた。

 

シェリーが分身イタチと部屋を出た後、シドに向けて口を開く。

 

「それで、俺に何をさせたい?」

 

「一言でいうなら…僕と戦ってほしいんだ」

 

イタチは、思わぬ発言に目を大きく見開いた。

 

同時に、懐疑的な視線をシドにぶつける。

 

「…どういうことだ?」

 

「そうだね…含んだ言い方をすると…」

 

シドは、何かを企んでいるような、よくない笑みを浮かべる。

 

「陰の陰…つまりは陽として、僕の前に立ちはだかって欲しい」

 

シドの言葉の意味をなんとなく察したイタチは、ゆっくりと目を細めた。

 

 

 

 

分身体イタチは、シェリーと共に講堂の二階部分、ギャラリーから一階部分の様子を眺めている。

 

強欲の瞳の効果を打ち消すことに成功し、それと同時に学園の生徒たちが反撃を開始。

 

その直後、シャドウを筆頭としたシャドウガーデンの構成員達が乱入したことで、講堂は騒然としていた。

 

そんな様相を眺めていたイタチは、ある人物へと視線を固定させる。

 

「(あの子は…まさか…)」

 

イタチの視界に写るのは、金髪縦ロールの少女…いや、女性であった。

 

過去の記憶を遡りながら見つめていたそれは、傍らで同じように講堂を見下ろす少女の焦る様子をもって終わりを迎える。

 

「…義父はいたか?」

 

「いえ…ここにはいないみたいです…」

 

「そうか…なら…ッ!」

 

イタチは、シェリーとは反対方向へと瞬時に視線を動かす。

 

何やら、白い霧のようなものが噴き出していたためだ。

 

「まずい、シェリー…こっちへ」

 

「え…?きゃあッ!」

 

イタチがシェリーを抱えるのと同時に、ギャラリーは一瞬にして燃え上がる。

 

「(…ガス?いや、これは…)」

 

イタチはその燃え上る炎を見ながら悪態を付くような表情を浮かべるが、講堂全体が同じような状況になっているのを見て、些少の目の開きを見せる。

 

「まずい…シェリー、すぐにここから脱出を…」

 

「ッ!待ってください、お義父様がまだ…」

 

シェリーは、イタチの提案を突っぱねるようにして声を張り上げる。

 

その瞳には、揺るがない覚悟のようなものが浮かんでおり、イタチはそれを見据え、小さく息を漏らす。

 

「わかった…なら、急いで探しに行こう」

 

「ありがとうございます…!」

 

イタチとシェリーは、燃え盛る講堂から、同じく燃え盛る学園へと、その身を投じた。

 

 

 

 

本体であるイタチは、副学長室でシドと副学長のルスランが会話をしているのを、表情を変えずに聞き及んでいた。

 

イタチが背中を預けているのは、部屋と廊下を繋ぐ、ちょっとした通路であったが、イタチの隠密性をもってすれば、ルスランからの感知を受けないのは容易い。

 

…本を片手に窓枠に座り込んでいるシドには、バレているであろう…。

 

話の内容を聞けば聞くほど、イタチは嫌悪感を露にしていく。

 

彼は、病を治す手段を探していたところ、とあるアーティファクトに可能性を見出した。

 

そのアーティファクトを研究していたのが、シェリーの母親であった。

 

優秀すぎるがゆえに、学界から嫌われていたらしい。

 

ルスランは、そんな彼女を支援し、シェリーの母は研究に没頭する。

 

良き関係を築いていた。

 

だが、最終的にはそのアーティファクトを危険視したシェリーの母と対立。

 

そして、ルスランがとった行動が、シェリーの母の殺害であった。

 

しかもただ殺すのではなく、身体の先から中心へと突いていき、最後に心臓を突き刺したという。

 

…いわゆる、痛めつけて殺したということだ。

 

その後、ルスランはシェリーを養子として迎え、シェリーは母の死の真相を最後まで知ることなく、疑いもせず、母の研究を引き継いだ…。

 

暫くそうして話をしていたルスランであったが、シドを剣で押し刺す形で窓から突き落とし、その場を収めようとする。

 

イタチは悩んだ。

 

彼を殺すことではない…。

 

シェリーに真実を告げるかどうかを、だ…。

 

結論の出ないまま、ルスランはイタチのいる出口へと通ずる、短い通路へと近づいてくる。

 

それに対し、行動を起こそうとしたイタチであったが、窓から現れた男によって、それを止めるに至る。

 

「どこへいく?」

 

その声にルスランは驚いた様子を見せ、振り返る。

 

「貴様は…シャドウ⁉」

 

ルスランの瞳には、漆黒を纏いし男が写っていた。

 

そこからのシドもとい、シャドウの行動は、イタチからすると些少の驚きを有するものであった。

 

シャドウがルスランを殺害するというのは、彼が悪人であると理解しているシャドウからすれば、至極当たり前のことであった。

 

シャドウは、殺してもいい人と、殺したら可哀そうな人という、二つのグループに分けている。

 

イタチからすればそれは、自身が抱く殺すべき人とそうではない人、という分け方と似ている部分もあったため、そこに違和感を感じることはない。

 

イタチが驚きをもったのは、その殺害方法であった。

 

ルスランがシェリーの母にやったのと同じように、身体の端から中心に駆けて刺し、最後に心臓を刺し、捩じ切る…。

 

普段のシャドウからすればそれは、非常に手の込んだ殺害方法であった。

 

…なぜそのような行動をシャドウがとったのか…。

 

イタチは、ふっと小さく笑いを浮かべながら確信する。

 

「思った以上に、人間らしいな…シャドウ」

 

「…僕は人間だよ…。だから、不快に思うこともあるさ…。君のいた国の上層部に対して抱いたものと、同じようにね…」

 

暫しの沈黙が流れる…。

 

副学長室の部屋の扉が、バンッと音を立てて開かれる。

 

イタチの目の前を、桃色の髪を有した少女が足早に通り過ぎる。

 

その後ろには、自分の分身体の姿もあった。

 

そして、部屋の様相と、倒れているルスランを見て、少女は立ち止まる。

 

イタチは、ゆっくりと目を閉じるのと同時に影分身を解除する。

 

…シャドウは、少女の様子を気にも止めず、ゆっくりと歩み出し、窓から跳躍して姿を消す。

 

桃色の髪をした少女…、シェリーの苦悶に満ちた悲鳴が、副学長室に轟いた…。

 

 

 

 

ルスランが血まみれで倒れているのを見たシェリーは、大声で泣き叫びながらしゃがみ込んでいる。

 

暫く泣き続けていたシェリーであったが、些少の冷静さを取り戻し、状況を把握するに至る。

 

「シャドウが…シャドウが…お義父様を…」

 

その言葉に、イタチは答えなかった。

 

ただただ、瞼を閉じている。

 

シェリーは、ギリッと歯を鳴らし、酷く崩れた表情をイタチへと向ける。

 

「イタチさんは…知っているんですか…?」

 

だが、それでもイタチは答えない。

 

シェリーは、憎悪にも似た視線をイタチに向け、バッと立ち上がる。

 

「イタチさんッ!!」

 

シェリーの気迫ある言葉に、イタチはゆっくりとシェリーの姿を捉えるように瞼を開いた。

 

その顔は、先ほどまでの健気で優しさあふれる、可愛らしさの一端も垣間見えない。

 

「俺はここであったことの全てを知っている…」

 

「ッ!教えてください!!どうしてお義父様が…お義父様が…」

 

シェリーは錯乱した様子で、イタチの元へと歩み寄る。

 

イタチは、そんなシェリーの両肩に手を置き、ゆっくりと口を開く。

 

「シェリー…君にとっては辛い真実だ…。それを受け入れる覚悟はあるか?」

 

「…ッ。例え辛くとも、私は知りたい…。教えてください…。イタチさん…」

 

シェリーの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

 

しかし、その瞳だけは、輝かんばかりの覚悟と信念が見て取れた。

 

…イタチは悩む。

 

もし、彼女がこの場に現れなければ…、シャドウの姿を見ていなければ…、真実を伏せるという選択もできただろう。

 

この事件に巻き込まれ、死亡したと、騙すこともできた。

 

だが、彼女は見てしまった。

 

義父の無残な姿と、その場から立ち去るシャドウの姿を…。

 

このままでは、彼女はシャドウを恨むだろう。

 

シャドウは、それを受け入れるつもりであろうことわかっていた。

 

だがそれは同時に、彼女が自身の人生の全てをかけて、シャドウを追うことにもつながる…。

 

復讐者として、シャドウを殺すために…。

 

自分の弟が…そうしたように…。いや、そうさせたように…。

 

そして、イタチも覚悟を決める。

 

かつての自分とは違う、もう一つの道に可能性を見出して…。

 

「わかった…シェリー、俺の目を見ろ」

 

「…え?」

 

シェリーは、短い疑問を漏らしながら、イタチの目を見据える。

 

その眼は先ほどまでの黒目ではなく、真っ赤な深紅とも言える目であった。

 

それに驚きをもった瞬間、シェリーの頭の中に、とある情景が映し出された。

 

 

 

 

シャドウは、燃え盛る学園の屋上にて、王都を見下ろすようにして佇んでいた。

 

暫くそうしていると、一つの影が、シャドウのいる屋上へと上がってくる。

 

その影は、真っ赤な目を有した男、イタチであった。

 

「…彼女は?」

 

「ガンマに預けた」

 

「…伝えたの?」

 

「ああ…」

 

「そっか…」

 

シャドウとイタチは、短く問答を繰り返した後、黙り込む。

 

その沈黙を、イタチが破る。

 

「恨むか…?」

 

「いや…イタチさんがそう判断したなら、僕はそれでいいよ」

 

「そうか…」

 

再び沈黙が生まれる。

 

学園を包む炎が、パチパチと音を立てている。

 

順番とばかりに、今度はシャドウがその沈黙を破る。

 

「参考までに聞きたいんだけど、どうして伝えたの?」

 

「そうだな…まあ色々あるが…一番は…」

 

イタチは、小さく息を吸いこむ。

 

「…もう一人の弟に、俺と同じ思いをさせたくないと、そう思ったからだ」

 

シドは大きく目を見開く。そして、ふっと笑いにも似た吐息を漏らした。

 

「優しいね…イタチさんは…」

 

シドは、黒く戻ったイタチの瞳を見据えながら、そう言葉を発した。

 

 

 

 

学園を包む炎は、そこかしこで発生している。

 

人質として捉えられていた学園の生徒たちは、魔力が戻ったことに加え、学園を襲撃した集団がシャドウガーデンと争いを見せたことで、その隙に校内を脱出していた。

 

学園を燃やし尽くさんとする炎を眼前に、第一王女であるアイリスは、焦るようにして走りながら、騎士たちに指示を飛ばす。

 

「とにかく、消火作業を急いで!…ッ!」

 

そんなアイリスであったが、人だかりを見つけて歩みを止める。

 

「囚われていた生徒たちか…」

 

魔剣士学園特有の制服を着ている集団であるため、それは間違いないだろう。

 

その手段を見回していると、一人の見知った、金髪縦ロールの女性を発見する。

 

その女性は、負傷した生徒の手当てをしているようであった。

 

「ローズ王女!」

 

アイリスがそう言い放つと、金髪の女性は振り返って反応を示す。

 

「アイリス様…」

 

「突然魔力が仕えるようになったところに、この火の手…中で何が…」

 

「謎の集団が現れて、賊を一掃しました。彼らはシャドウガーデンと…」

 

「ッ!」

 

アイリスは、その言葉を聞いて、怒気を含ませたような表情を浮かべながら、拳を握りこむ。

 

「確かに…そう名乗ったのだな…」

 

「はい…ですが、賊もまた、同じ名を…彼らは一体…」

 

ローズが、酷く困惑したように言葉を発した瞬間、凄まじい衝撃音と共に、学園建屋の一部が崩壊する。

 

「何事だッ!」

 

アイリスは、その崩壊した建屋へと視線を移す。

 

すると、一人の人物が地面を滑るように後退しながら現れる。

 

漆黒の衣を纏う人物であった。

 

容姿はとても中性的な男で、しかし長い髪を後ろで一つに束ねている。

 

「総員戦闘態勢ッ!学園を襲撃した賊の1人かもしれんっ!」

 

アイリスは、周りにいる騎士たちに激を飛ばす。

 

騎士たちはそれを聞き、その男に向けて剣を向ける。

 

アイリスも同様に剣を抜く。

 

「ローズ王女、御助力を…ッ」

 

同時に、ローズへと視線を向けたが、ローズが大きく目を見開いて固まっているのを見て、怪訝な様子を見せる。

 

「うそ…」

 

「…ローズ王女…?」

 

ローズの様相に、アイリスは更に些少の焦りを見せる。

 

その真意を確かめようと口を開こうとするが、それは叶わなかった。

 

「なるほど、素晴らしい…。我が出会ってきた中で、最強と言ってもいい男だ…」

 

崩壊した学園を背に、真っ黒な衣、しかし先ほどの男とは違い、金色の刺繡が施された男が舞い降りてきた。

 

深く、黒いフードを被っているため、その顔は見えない。

 

「(まさか、シスイか⁉…いや、しかし、奴の声とは違うような…)」

 

2人は、敵対している様子であった。

 

「名を聞いておこう…稀に見ぬ強きものよ」

 

「イタチ…イタチ・ウチハだ」

 

「その名、覚えておこう…」

 

「…お前は、何者だ?」

 

イタチが、怪訝さを含んだ言い回しをすると、フードを被った漆黒はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「我が名はシャドウ…陰に潜み、陰を狩る者!」

 

「シャドウ…この騒動はお前の仕業か?」

 

「ふっ…どうだろうな?」

 

暫しの沈黙ののち、2人の姿が掻き消える。

 

同時に、両者は激しいぶつかり合いを見せる。

 

当たりの炎は風圧に押され、圧倒的な衝撃波が学園全体を包み込む。

 

「くっ!なんなんだ、あの2人は…ッ!」

 

アイリスは、自身よりも遥かに膨大な魔力を有する2人の男に、混乱にも似た怒号を上げる。

 

鍔迫り合いも束の間、2人は地上、空中へと舞台を変え、何度も衝突を見せる。

 

見るだけで、感じるだけで、その戦闘が遥か高みにいるもの同士の者であると、その場にいる者達は誰もが理解する。

 

だが…それを呆然と見つめている女性が一人…。

 

その女性の頬に、一筋の雫が落ちるのを見て、アイリスは大きく目を見開く。

 

「ローズ王女…一体どうしたのです…?」

 

「………チさん…」

 

「え?」

 

聞き取れなかったアイリスは、耳を凝らす。

 

「イタチさん…」

 

ローズの感銘にも似た表情と言葉に、アイリスは疑問を抱く。

 

「イタチとは…あの赤い雲のような紋章が入った男か?…知っているのか?」

 

「はい…。イタチ・ウチハさん…。彼は、私の、命の恩人です」

 

「それは一体どういう…ッ!」

 

ローズの言葉に、アイリスは驚愕の表情を浮かべ、口を開くが、またしても衝撃音に言葉を遮られる。

 

イタチが、上空から落下、数度跳ねるようにして地面を転げていく。

 

「ッ!イタチさん!!」

 

その姿を見て、ローズは大声を出して、思わず駆け出そうとする。

 

しかし、アイリスに腕を掴まれ、それを阻まれる。

 

「アイリス様ッ!何をッ!」

 

「お待ちを!ローズ王女!!」

 

「離してくださいッ!彼は、イタチさんは、私のッ!!」

 

ローズが暴れまわるが、実力的に勝るアイリスの拘束は振りほどけない。

 

そうして悶着している間に、もう一人の漆黒が上空から姿を現す。

 

「もう終わりか…?イタチ…」

 

「……ッ」

 

その言葉に反応するように態勢を戻し、舞い降りてきたシャドウを、イタチは睨みつける。

 

「なるほど…どうやらまだあきらめてはいないようだな…」

 

イタチの視線と、剣に宿る魔力を見て、シャドウはふっと笑いを漏らす。

 

「飛翔斬…ッ!」

 

イタチがそう言って剣を振るうと、剣から三日月の形をした斬撃が放たれる。

 

「ッ!魔力の斬撃かッ!」

 

シャドウは、それをスライムソードで受け止める。

 

「なるほど、素晴らしい…。魔力を斬撃にして飛ばすとは…。だが…」

 

シャドウは、剣に込める力を強める。

 

イタチの放った斬撃は、弾けるようにして飛散する。

 

「無駄なことだ」

 

「ッ⁉」

 

それを見たイタチは、完璧と言わんばかりの驚愕を表情に表す。

 

そして、シャドウの姿が掻き消える。

 

イタチが、自身の後ろに気配を感じ、バッと振り向く。

 

だが、気付くのが一瞬遅かった。

 

シャドウの斬撃は、イタチの左肩から右腰に向かって袈裟斬りにされる。

 

「がっ…⁉」

 

そして、そのままイタチは背中から地面に倒れこむ。

 

「イタチさんッ!!」

 

ローズが、火事場のバカ力と言わんばかりに、アイリスの腕を振り落とし、イタチへと駆け出す。

 

それを見たシャドウから「んん⁉」という声がしたが、気のせいであろう。

 

シャドウは、再び上空へとその身を預け、ゆっくりと高度を上げる。

 

「イタチ・ウチハ…。貴様の剣…確かに私に届いていたぞ…」

 

そう言い残し、シャドウは月夜の闇へと消えていった。

 

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