うちはイタチ…再び陰として生きる   作:ペリカン96号

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第7話 三王女

シドの陰の実力者への憧れは、狂気じみたものがある。

 

それこそ、他人を盛大に巻き込むことも厭わない程だ。

 

イタチに対して、『陰の陰になって欲しい』というのもその一端が垣間見えるいい例だろう。

 

イタチがそれを聞いた当初は、『???』と、疑問が無限に湧いた。

 

争いごとは、あまり望むところではない。

 

だが、同時にシドの提案も悪くはないと感じた。

 

イタチは、本名であるうちはイタチとして、さらに言うならば、表の顔としての活動は盛んではなかった。

 

イタチが敵視しているディアボロス教団は、陰から世界を支配する組織である。

 

その影響力は、表世界や権力者、それこそ王族や大貴族などと言った国家上層部にも触手を伸ばしている。

 

もちろん、シスイとして裏からできることは多い。

 

しかし同時に、表でなければできないことがあるのも事実であった。

 

ベータが作家として、イプシロンが音楽家として、ガンマが商会会長として活動しているのと同じように、イタチもそうする必要性があると考えていた。

 

シドが扮するシャドウと敵対する、魔剣士イタチとしての活動は、表世界の住人との関係性の構築に役立つだろう。

 

加えて、シャドウと刃を交え、その力がシャドウに届きうるとなれば、シャドウガーデンと敵対する、ディアボロス教団からの接触も期待できる。

 

…その考えに至り、イタチはシドの提案を受け入れ、あたかも敵対しているかのように扮して戦闘を行ったのだが…。

 

「イタチさんッ!…しっかりしてください!」

 

金髪の女性が、目に涙を浮かべながらイタチへと寄り添う。

 

「…君はもしや…あの時の…」

 

イタチは地面に伏し、朧気な瞳で、その女性を見つめる。

 

「ローズです!5年前、あなたに命を救われた、ローズ・オリアナです!」

 

イタチは、予想が当たっていたと理解する。

 

5年前、この世界で目覚めて間もないころに出会った少女であった。

 

既にその身体は、容姿は、大人の女性と言っていいほどにまで成長を遂げている。

 

イタチは、傷の痛みを感じながら、ゆっくりと上体を起こす。

 

「そうか…大きくなったな…」

 

「ッ!ずっと、会いたかった…ッ!」

 

ローズは、イタチをガバッと抱きしめる。

 

致命傷でないとはいえ、肩から腰にかけて小さくない傷を負っていたイタチは、一瞬顔を歪めながら呻き声を漏らす。

 

感情の赴くままに、その身をイタチへと向けたローズはそのことに気付き、即座に身体を離す。

 

「ご、ごめんなさい!…痛かったですよね?」

 

「…気にするな…大した傷じゃない」

 

イタチをもってすれば、魔力を用いることで一瞬にして治せるレベルの損傷である。

 

しかし、ここはあえて時間をかけてゆっくりと治す。

 

それがこの世界の、表の世界の常識であるからだ。

 

「そんなことはありません!しっかりと身体を休めなくては!!」

 

「…いや、大丈夫だ」

 

「でもッ!」

 

そそくさと起き上がるイタチを、ローズは背中を支えながら隣に寄り添う。

 

そんな2人の様相に、近づいてくるものがいた。

 

「失礼…身体の方は大事ありませんか?」

 

「…ええ、あなたは?」

 

長い赤髪を有した女性を目の前に、イタチはあたかも初対面のような様相を見せる。

 

ジャドウガーデンのシスイとして、一度見知った顔であった。

 

「ミドガル王国、第一王女のアイリス・ミドガルと申します。イタチ・ウチハさんでお間違いないですか?」

 

「…はい。イタチ・ウチハです」

 

初めて会う、それも王族に、イタチは失礼のない形で肯定の意を示す。

 

「伺いたいことがあります…。後ほどお時間を頂けますか?」

 

イタチは、一先ず正体がばれていないことに些少の安堵感を抱きながら、ゆっくりと首を縦に振った。

 

 

 

 

数日後…。

 

アイリスとローズと邂逅を果たしたイタチは、王城の一角、アイリスの私室にその姿を見せていた。

 

机を挟んで3人は腰かけることのできるソファーに、イタチは腰を下ろしている。

 

イタチの対面には、アイリスとアレクシアが同じように腰かけている。

 

…なぜかイタチの隣にはローズがおり、今にも肩が触れそうなくらいの距離であった。

 

「来て頂き、感謝いたします。イタチ・ウチハさん」

 

「お気にされずに、アイリス・ミドガル王女…」

 

互いに距離感のある会話であったが、イタチとアイリスは互いに名前で呼び合う旨を了承する。

 

「イタチさん、こちら私の妹で、アレクシア・ミドガルと申します」

 

「アレクシアでいいわ。よろしく」

 

「では、私もイタチで結構です。…シドが世話になっているようで」

 

イタチの一言で、アレクシアとローズが大きく目を見開く。

 

「シ、シドと知り合いなの?」

 

「ええ…奴は私の弟子です…。不出来な弟子ですが…」

 

イタチは嘲笑を込めて口を開いた。

 

アレクシアは、心底驚いた様子を見せていた。

 

「そ、そんなことはありません。シド君は、とても勇敢な人です」

 

そんなアレクシアの驚きをよそに、ローズが庇うようにして言葉を発する。

 

そこで、イタチはシドから聞いていた学園襲撃時の行動を思い出す。

 

「確か、ローズ王女を身を挺して守ったとか…まあ、確かにそれに関しては賞賛に値する」

 

シドの、数少ない名誉である、とイタチは心の底から思っていたりする。

 

「はい…。彼が居なければ、今頃私は死んでいました…。シド君がイタチさんの弟子というのなら、私は2度もあなたに救われたとも言えます…」

 

ローズは、頬を赤らめながら、よくわからないことを言っていた。

 

シドに救われたのであれば、君を救ったのはシドだろうに…。

 

そんな風に考えていたが、その思考はすぐに停止させられる。

 

「色々とお話したいことがあるようですが…本題に入らせて頂いてもよろしいですか?」

 

アイリスの言葉に、イタチは無言で了承の意を示す。

 

「イタチさん、昨日の学園襲撃事件に関してはお聞きするまでもありませんが、先日のアレクシアの誘拐事件についてはご存じですか?」

 

「ええ。最終的には王都の一部が消し飛んだ、あの事件ですね?」

 

イタチは、シド…シャドウの顔を思い浮かべながら、少しだけ申し訳ない気持ちになる。

 

「『ディアボロス教団』と『シャドウガーデン』。この二つの組織による犯行であると、私は考えています。アレクシアを攫ったのは、ゼノン・グリフィという男です。『ディアボロス教団』の一員でした」

 

「け、剣術指南役の、ゼノン先生が⁉」

 

ローズが、その名を聞いて酷く狼狽して見せる。

 

シャドウガーデンという名は、イタチがシスイに扮していた際に、アイリスに直接伝えたため、知っていてもおかしくはなかった。

 

だが、ディアボロス教団のことまで知っているのは予想外であった。

 

ゼノンかシャドウが教えたのか、若しくは2人が対峙した際に会話の中でアレクシアが聞き及んでいたのか…。

 

経緯はわからないが、知っているというのであれば、会話の流れも運びやすい。

 

「アレクシアを攫ったのは『ディアボロス教団』、学園を襲撃したのは『シャドウガーデン』…。私はこの2つの組織が暗躍していると考えています。そして、この二つの組織は対立している…。理由まではわかりませんが…。」

 

「ちょっとまってください。昨日もお伝えしましたが、確かに学園を襲撃した賊は、シャドウガーデンを名乗っていました。しかし、奴らを斃した者達も、シャドウガーデンと名乗っていました。それも、リーダーと思しき、シャドウ自ら…」

 

アイリスの発言に、ローズが待ったをかける。

 

「ええ。ディアボロス教団の者が、シャドウガーデンを名乗っていた、という線も考えられますが、シャドウガーデンもまた、危険な組織であることに変わりはない」

 

「でも、シャドウは私を救ってくれました…。誘拐された時も、人斬りの集団に襲撃された時も…私は、シャドウガーデンが悪だと断定するのは早計だと思います」

 

今度は、アレクシアがアイリスへと物申す。

 

「アレクシアの話をすべて信じるのであれば、王都の一部を消失させたのも、シャドウということにあります。あれほどの力を街中で放つ男が、ましてやその男が束ねるシャドウガーデンが正義だとは思えません」

 

アイリスは、それでも崩れることなく、一貫して威厳のある声で反論する。

 

なるほど、いい線をついている…。

 

全てが全て、正確に把握しているわけではないが、イタチは素直にアイリスの洞察力を評価していた。

 

そんな考えを浮かばせているイタチに、アイリスは真剣な眼差しを向ける。

 

「イタチさん…。その上でお聞きします。あなたは一体何者なのですか?…あの圧倒的な力を有するシャドウと渡り合う程の力を持つあなたは…」

 

アイリスの質問に、イタチは表情を崩さずに鎮座している。

 

イタチの身の上話となれば、アレクシアとローズも気になるようだ。

 

じっと視線をイタチに向けている。

 

イタチは、些少の間をおいて、ゆっくりと口を開いた。

 

「私は、遠い国からきた。少し腕に自信のある魔剣士にすぎません」

 

「…つまり、ディアボロス教団とも、シャドウガーデンとも関係はないと?」

 

「ええ。シャドウとは、先の学園襲撃事件の際に刃を交えたのが初対面です」

 

イタチの発言に、アイリスは考え込むようにして視線を下へと落とす。

 

そこをつくようにして、アレクシアがイタチへ向けて口を開く。

 

「…一ついいかしら?」

 

「なんでしょう?」

 

「どうしてあなたは、学園襲撃時にあの場にいたの?…学生でも教員でも、関係者でもないあなたが…」

 

アレクシアの発言に、イタチは些少の動揺を心に生む。

 

だが、事前に来るであろうと予想していた質問なだけに、その動揺を面に出すことはなかった。

 

「…学園で火の手が上がる、などという騒動が起これば、気になるのは当然のことでは?」

 

「そ、それはそうね…。学園が襲撃されているのを見て、あなたは単身で乗り込んだ…と言いたいわけね?」

 

「その上で、シャドウと遭遇して戦闘になった…確かに筋は通っていますね…」

 

アレクシアとアイリスは、納得した様子で頷いて見せた。

 

「…わかりました。私はあなたを信じましょう。シャドウとの死闘に加え、オリアナ王国であるローズ王女を過去に救ったという功績もありますし…」

 

「そうですか、それはなによりです」

 

「もちろん、私もイタチさんを信じていますよ?」

 

アイリスの決断を聞き、イタチは些少の安堵を有する。

 

なぜかローズが、負けじとイタチの顔を覗き込んでいた。

 

その上で、アイリスは何かを思い出したかのように口を開く。

 

「そうでした…。イタチさんは、シスイという男と、アルファという女をご存じですか?」

 

「…確か、姉さまが相対したというシャドウガーデンのものですよね?」

 

ローズの発言に、少しだけ笑みを浮かべていたこともあり、一瞬顔が引きつる。

 

「アルファも相当な手練れのように思いましたが、あのシスイという男は尋常ではない力を持っていました…。それこそ、シャドウに匹敵するほどの…」

 

「シャ、シャドウに匹敵⁉…姉さま、それは本当なのですか?」

 

アイリスの発言に、アレクシアは動揺して見せる。

 

そんな2人の様子を見ながら、少しだけ悩んだのち、イタチは口を開く。

 

「アルファという女は知りえませんが、シスイなら過去に一度だけ会ったことがあります。奴はシャドウガーデンのNO.2…。シャドウの右腕とも言える男です。実力だけで言えば、確かにシャドウに負けずとも劣らずと言ったところですね…」

 

息を吐くように、真実が混じった嘘をつく。

 

「そんな…。あのシャドウに匹敵するだなんて…とてもじゃないけど信じられないわ…」

 

アレクシアは、絶望に似た様相を見せる。

 

「その…イタチさんは、シャドウとシスイ…という男に勝てるのでしょうか?」

 

ローズはどこか不安な様子で口を開く。

 

「まず無理でしょうね…。奴らの強さは別格…。戦いにはなるでしょうが、勝利を収めるのは絶望的かと…」

 

学園でイタチとシャドウの戦いを見ていたアイリスとローズは、それを否定することなく黙りこくってしまう。

 

直接見ていただけに、その発言に嘘を感じなかったのだ。

 

…まあ、嘘なのであるが。

 

一通りの情報を収集し終えたアイリスは、話題を変えるようにして口を開く。

 

「イタチさん、実は折り入って一つ、お願いがあるのですが…」

 

「なんでしょうか?」

 

「私は、学園の剣術指南役だった騎士、ゼノン・グリフィがディアボロス教団と繋がっていたという件を重く受け止めています。そのため、先日新たにの騎士団を立ち上げました。名を、紅の騎士団…。私が心から信頼できる者のみで構成された騎士団です。ですが、学園襲撃の際に、その主力メンバーを失うこととなりました」

 

「そうでしたか」

 

なんとなく話の流れがつかめたイタチであったが、あえてそれを口には出さず、話に耳を傾ける。

 

「…イタチさん、紅の騎士団に入って頂けませんか?あのシャドウと渡り合えるほどの力を、私にお貸し頂きたいのです」

 

アイリスが小さく頭を下げる。

 

いくら周りに人がいないとはいえ、一国の王女が頭を下げるという行為が、いか程のことであるかを理解している、同じく王女のアレクシアとローズは、大きく目を見開く。

 

アレクシアからすれば、あの真面目でプライドの高い姉が、会ったばかりの男に懇願している様は、驚きを通り越して困惑すら覚えていた。

 

だが、イタチは一切表情を変えず、しかし両目を伏せて黙っている。

 

数秒たったのち、イタチはゆっくりと口を開いた。

 

「アイリス王女、上から目線で申し訳ありませんが、私はあなたの洞察力と考え方を高く評価しています。…国を守りたいという気持ちが強く伝わってくる」

 

「あ、ありがとうございます…。では…受けてくださるということですか?」

 

貴方を高く評価するという言葉に、アイリスは些少表情に綻びが生じる。

 

だが、それは一瞬で地に落とされる。

 

「ですが、その上で、お断りをさせて頂きたい」

 

「…理由を、お聞かせ頂いても…?」

 

些少の怪訝をもってして、アイリスは聞き返す。

 

「理由は…私個人として、あなた方を信用していないからです」

 

「…どういうこと?」

 

アレクシアが、不快な表情を浮かべながら呟く。

 

…こいつ、マジか…。自覚とかないのか…?

 

イタチは思わず不快感を顔に出してしまうが、すぐに表情を戻す。

 

「アレクシア王女が誘拐された際、シドが拷問に近い尋問を受けたこと。そして同じくシドが学園内で、とある女性に辻斬りにあったことが理由です。不出来な弟子ではありますが、可愛くないわけではありませんので…」

 

前者の発言は、アイリスに向けて、後者の発言はアレクシアに向けて放った。

 

アイリスとアレクシア、それぞれが引きつったような表情を浮かべた。

 

ローズも、隣でなぜかそれに匹敵するほどの表情を見せる。

 

「シド・カゲノー君の尋問については、謝罪を…。私の与り知らぬところではありますが、無実の彼を苦しめてしまいました…。しかし、学園内で辻斬りとは…一体…ッ!」

 

アイリスは、後者を知りえていなかったのか、疑問を抱きながらイタチへと返すが、隣で震えているアレクシアに気付き、顔を青くして震える。

 

「ア、 アレクシア⁉…あなたまさか…」

 

「し、しかたなかったんです…ッ!あ、あいつが…シドのやつが…こ、断る…から…」

 

アレクシアは、顔を赤らめて声を張り上げる。

 

「な、何を断られたというのです!」

 

「そ、それは…その…」

 

「…皆まで言わずとも結構ですよ…。アレクシア王女」

 

「…ッ!」

 

イタチの配慮ある、しかし感情のこもっていない一言に、アレクシアは思わず身体を震わせる。

 

「あなた方を悪人だとは思いません…。しかし、確実に信用も出来ない…。まあ、それに関してはお互い様ですが、私としては、同じ志を抱いて行動を共にするまでには至っていなと考えています」

 

アイリスは、一つ大きく深呼吸をし、決断して見せる。

 

「…わかりました。我々の落ち度で、あなたを不快にさせてしまったのは事実のようです…。今回は、潔く引かせて頂くとします」

 

「ご理解いただき、ありがとうございます」

 

「ですが、諦めたわけではありません。…これからの関係性しだいでは、入団を考えて頂けると捉えてよろしいですか?」

 

アイリスは、再び真剣な眼差しをイタチへと向ける。

 

「そうですね…。断固拒否というわけではありませんので」

 

「それが聞けて、安心しました」

 

アイリスは、この場で一番の笑顔を、イタチへと向けた。

 

 

 

 

アイリスたちとの話し合いを終えたイタチは、ミツゴシ本社へと帰還した。

 

帰還早々に、アルファに呼び出されたため、それに応じたが、何やら不穏な空気が部屋を支配していた。

 

どうやら、アルファが怒っているようだ…。

 

視線が鋭く、些少の魔力と、何やら邪悪なオーラのようなものが漏れている。

 

「それで、どうしてあんな真似をしたのかしら?」

 

アルファが問うているのは、十中八九シャドウとの戦闘行為のことだろう。

 

「…もうシャドウから聞いているのだろう?」

 

「ええ。あなたとシャドウの考えは理解できたわ。とても良い案だとは思うし、重要人物との関係性を、イタチとして築くというのもいいと思うわ。でも、あれほどの怪我を負う必要があったのかしら?」

 

なるほど、どうやらイタチが怪我を負ったことをよく思っていない様子であった。

 

しかし、それは責めるべき相手が違うというものである。

 

「それはシャドウに言ってくれ、斬ったのはあいつだ」

 

「…いくら忍術や瞳術を使えなかったとはいえ、あなたが彼の…それも手を抜いた攻撃を避けられないとは思えないのだけれど?」

 

その通りである。

 

シャドウガーデンのシスイとしての活動であるとバレないよう、一介の魔剣士(強すぎることに変わりはないが)として魔力のみで戦闘を行っていたとしても、あの程度の攻撃を避けるのは容易だ。

 

「………」

 

もちろん、別の目的があってしたことであるが、それ自体が事実であるため、イタチに幾ばくかの沈黙を与えるに至る。

 

しかし、そこに助け船が出される。

 

表でナツメ・カフカという作家として活動している、ベータであった。

 

「…シャ、シャドウ様の方が格上だと周りに思わせるためには、怪我を負う必要があったのですよね?」

 

彼女は、アルファの怒りと、シスイの沈黙に、慌てた様子を見せる。

 

そんなベータの様相を察し、アルファはため息とともに、些少ではあるが、怒りを鎮める。

 

「…別に責めているわけではないわ」

 

「…どう見ても、責めているようにしか見えないんだが?」

 

イタチは、思ったことを正直に口にする。

 

「ア、アルファ様は、心配しているのですよ…。シスイ様がお怪我をされたと聞いた時は、酷く取り乱していて…」

 

「ちょ、ちょっとベータッ!」

 

ベータの余計な説明に、アルファは酷く取り乱す。

 

その顔は赤く染まり、羞恥にも似た表情をしていた。

 

「…そうなのか?」

 

イタチは思わぬベータの発言とアルファの様相に、目を見開いて驚く。

 

「ッ…。あ、あなたは私の命の恩人なのよ…。当然じゃない…」

 

イタチを直視できず、目線を横へと逸らす。

 

そんなアルファの様子を見て、イタチは小さく笑う。

 

「ありがとうな、アルファ」

 

「…ッ!///」

 

純粋なイタチの言葉に、アルファは更に顔を赤く染める。

 

それを見られまいと、今度は視線だけでなく、イタチからぷいっと顔を逸らす。

 

アルファの様相に、首を傾げたイタチであったが、話題を変えるようにして気になっていることを聞き出そうと口を開いた。

 

「それで、シェリーの方はどうした?」

 

イタチの質問に、アルファは一つ深呼吸をした後、再びイタチへと視線を向ける。

 

よく見るとまだ頬が赤かったが、先ほどよりは大分マシになっていた。

 

「……彼女なら、研究者ということで、イータの助手を任せることにしたわ」

 

「…イータか」

 

イタチは思わず目を細めてしまう。

 

「…ダメだったかしら?」

 

些少の不安が、アルファの表情に現れる。

 

「…いや。…ただ、シェリーが心配なだけだ」

 

だが、それはすぐに嫌悪に変わり、一度静まった怒りが再度燃焼する。

 

「へぇ…彼女が、心配?」

 

だが、そんなこととは露知らず、イタチは過去の記憶をなぞる。

 

「イータを見ていると、かつて敵だった頭のおかしい忍者…研究者を思い出すんだ…。もちろん彼女はそこまで酷いわけではないが、素質はある気がしてな…」

 

「確かに、ちょっと怖い時はありますよね…。シスイ様は、そこを心配しているということですね」

 

再び嫉妬に燃え上がっているアルファを見て、ベータはなんとかそれを鎮めようと言葉を選びながら発言する。

 

イタチの言葉の意図を察したアルファは、一瞬瞳孔を開き、右手で金色の髪をかき上げる。

 

「…そ、そう…。そうだったのね。でも、心配はいらないと思うわ。イータ、彼女のこと気に入っているみたいだし」

 

「そうか…。それなら安心か…?」

 

…もしかしたら、シェリーにもそっちの気があるのかもしれない…。

 

その危惧が、語尾に疑問を抱かせる。

 

そんな様相を見たアルファが、ふふっと笑う。

 

どうやら、再燃した怒りともとれる嫉妬は、落ち着きを見せたようだ。

 

「そんなに心配なら、イータのところに行ってきたら?」

 

「…そうだな。一度アレクサンドリアに戻るとするか」

 

「イータも、会いたがっていたわよ。彼女も、『シスイ派』の1人なのだから…」

 

アルファの発言に、イタチは怪訝な様相を見せる。

 

「…いつからシャドウガーデンは派閥が生まれるような組織になったんだ?」

 

「あら、最初からよ…。気付いていないなんて言わせないわ」

 

もちろん、気付いていた。

 

シャドウとシスイ、どちらに悪魔憑きを治されたのか…。

 

それが、派閥が生まれた一番の理由であろう。

 

「ご安心ください。組織を二分するような派閥ではありません。どちらかといったら、というだけのものです。皆、シャドウ様とシスイ様には忠誠を誓っております」

 

「…忠誠ね…」

 

重すぎる思いに、イタチは一物を抱えるような感情を抱く。

 

だが同時に、シャドウガーデンの組織が強固なことは知っている。

 

誰かが下手な真似をしない限りは、派閥争いなど起こらないだろう。

 

そもそもシドはシャドウガーデンという組織は『ごっこ遊び』の一環で、本当に存在しているとは考えていない。

 

イタチもイタチで、自分がトップになってどうこうするつもりはない。

 

どちらかを持ち上げて、派閥争いに持っていくこと自体不可能なのだ。

 

しかし、ここで一つ、素朴な疑問がイタチの中で生まれる。

 

「だが、もしシャドウと俺が敵対したらどうするつもりだ?」

 

しかし、この疑問を質問として投げかけたのは悪手だった。

 

それを聞き、意味を理解したアルファとベータは生まれたての小鹿の如く、ワナワナと震えだす。

 

「そ、そんな…そのようなことが…」

 

「…ッ!シスイ……あなた達が対立するなんて……そんなの、冗談よね?」

 

顔の血の気が一気に引き、真っ青な表情を見せる。

 

イタチは、思わずぎょっとした表情を浮かべながら、焦るように弁明する。

 

「すまん、今のは忘れてくれ…。俺たちが争うことはない…」

 

イタチの言葉を聞き、2人は大きく息を吐いて安堵する。

 

「そ、そう…。それならよいのだけれど…」

 

「し、心臓が止まるかと思いました…」

 

2人が涙目で見つめ合い、ほっと胸を撫でおろしているのを見て、イタチは抑揚のない様子で呟く。

 

「深い意味はない、本当に…」

 

金輪際、今のような発言は控えよう…。

 

そう思ったイタチであった。

 

2人が平穏を取り戻したことで、イタチはふぅ…と小さく肩を落とす。

 

…しかし、それは長くは続かなかった。

 

「そうだわ。もう一つシスイに聞きたいことがあるのだけれど…?」

 

それを終わらせたのは、アルファであった。

 

「なんだ?」

 

「…ローズ・オリアナとは、一体どういう関係なのかしら?」

 

…3度目の怒りと嫉妬の炎が、アルファから燃え上るのであった…。

 

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