聖地リンドブルムにある、闘技場。
その観客席には、満席と言っても差し支えないほどの観客がひしめき合うようにして座っている。
上空に打ち上げられた数発の花火が打ち上げられたのち、闘技場が歓声に包まれる。
その歓声を、手を上げて制する男が一人…。
白と金、そして緑を基調とした、聖職者に似た服装をした初老の男性であった。
干上がった頭のてっぺんは、快晴による日の光を反射させている。
イタチは、他の参加者と共に会場からその男を見上げていた。
「かつて、女神ベアートリクスは、魔神ディアボロスを退けるため………」
開会の宣言をしているハg…男の言葉を聞き及びながら、イタチは注意深く観察していた。
なぜなら、その男こそ本日シャドウガーデンが目標としている人物であったからだ。
表の顔は、大司教代理ジャック・ネルソン。
しかし裏の顔は、ディアボロス教団のラウンズ第11席次を冠する男である。
ネルソンの開会宣言が終わりを見せると、会場が拍手で包まれる。
ネルソンを見つめていたイタチは、ふとネルソンの奥にいる女性たちへと視線を移す。
イタチから見て左からローズ、アレクシア、そしてカフカの姿があった。
3人とも、来賓として笑顔を浮かべながら手を振っているが、それぞれ異様な雰囲気を醸し出していた。
イタチにしかわからない程度のものであったが、イタチが呆けるには十分であった。
ローズは観客に手を振っていると見せかけ、その視線はこちらにずっと固定されている。
イタチが見つめているとわかると、ローズはうっとりとした表情を見せる。
アレクシアとカフカはというと、互いに笑顔を向け合い、しかし何やら攻防戦を繰り広げている様子であった。
「(あの2人、知り合いだったのか…?それにしては険悪な雰囲気だが…)」
腰から下は写輪眼を発動できない状況であるため、イタチの位置から見えないが、上半身だけでも争いに似た雰囲気が感じ取れる。
そして、イタチはふっと後方へと視線を送る。
その視線の先には、軽食を片手にぼけっと座り込んでいる一人の少年がいた。
一見弱そうな、どこにでもいる少年であったが、その少年はイタチをもってして魔力、チャクラ共に全力を出し尽くして、ギリギリ勝てるかと言わしめる存在であった。
「(あいつはあいつで作戦をきちんと理解しているのか…?)」
緊張感のかけらも見られないその少年に、イタチは小さくため息をつく。
そして、案内人の指示に従い、他の挑戦者と共に控室へと戻っていった。
時刻は既に、19時を少し回っていた。
徐々に漆黒が空を支配し、女神の試練へ挑戦する者も、既に残りは5人を切っていた。
「続いての挑戦者は、流浪の魔剣士、イタチ・ウチハ!!」
司会の宣言と共に、イタチは闘技場へとその姿を現す。
すでに女神の試練開始から6時間以上が経過していることもあり、観客たちの歓声も非常に小さいものとなっていた。
「イタチさーんッ!!」
しかし、来賓席にいる金髪縦ロール王女だけは、非常に興奮した様子で声援を送ってくる。
それに答えるわけではないが、イタチは闘技場の中央で腰に差していた太刀を引き抜き、天高く掲げる。
真紅の魔力がイタチを覆い、それが剣先から線となって放出される。
その濃密かつ繊細な魔力を感じとり、観客から幾ばくかの感嘆に似た声が漏れる。
直後、イタチの魔力の色とは違う、深紅の塊がイタチの頭上に現れ、魔方陣のようなものを形成する。
それが天高く舞い上がると、稲妻のようなものと共に、一点に集約、離散する。
一瞬にして消えたそれは、ただ消失しただけではなかった。
濃い緑色の衣装に身を纏い、黒いコートを羽織る女性が姿を現した。
「(容姿から察するに…災厄の魔女か…。名は確か…アウロラ)」
カフカがサインに扮して、イタチの持つ本に書いた情報を元に、それを推察する。
なにやら、来賓席の方が騒がしいが、そちらへ気を配る余裕はあまりなかった。
「(強いな…。忍術全般を使えないとなると、あまり気は抜けないか…)」
空に浮いていたアウロラは、ゆっくりとイタチの前へと降り立つ。
暫くして見つめ合っていた2人であったが、アウロラが口角を上げて笑ったことで、イタチは視線を鋭くする。
「(シドを除けば、この世界で会った中では最強だな…)」
アウロラが笑った理由を察したイタチは、返すようにほんの少しだけ笑いかける。
それを合図に、アウロラは優雅に一回転し、掌を掲げる。
瞬間、アウロラの周りに、真っ赤な鮮血に似た槍が出現し、空を覆う。
それは上空で屈折し、イタチへと襲い掛かる。
イタチは、魔力を用いて、瞬身の術のように高速移動をもってそれらを避ける。
会場全体を蜘蛛の巣の如く覆うように、アウロラの攻撃が繰り出されるが、それを縫うようにしてイタチは避けきる。
アウロラの攻撃の手が届かぬであろう後方へ跳び、刀に魔力を込める。
「『飛翔斬』」
イタチの刀から離れた魔力は、赤い三日月形の斬撃となってアウロラへと迫る。
蜘蛛の巣の様相を見せる真っ赤な槍を、何本も切り刻みながら斬撃は進撃する。
だが、斬撃を止めようと集まった真っ赤な槍は、網状となって斬撃を防ごうとする。
力を失いかけていた斬撃は、網状の鮮血を突破するには至らず、パンッと四散する。
それを見越していたイタチは、再び刀に魔力を込め、放つ。
「『飛翔天斬』」
先ほどの飛翔斬の上位種であり、更に魔力を圧縮し精製した飛ぶ斬撃である。
その威力と脅威を感じ取ったのか、会場全体に張り巡らせた鮮血の槍を、アウロラは一気に引き戻し、全ての力をその斬撃を迎え討つために使用する。
アウロラが全力で対処しても、即座に打ち消すことは叶わず、数秒のせめぎ合いが発生する。
イタチは、その隙にアウロラへと一気に肉薄する。
アウロラが斬撃を制した瞬間、眼前にイタチが現れる。
対処しようと槍を再度形成するが、遅かった。
イタチの刀がアウロラの身体を捉える。
だが、アウロラも瞬時に身を捩らせ、避ける。
肩から腰にかけて斬るつもりであったが、傷は左肩から左わきを抜け、致命傷には至っていなかった。
「……ッ」
イタチは軽く目を細め、悪態を吐くような表情を見せるが、即座にアウロラの反撃が上空から襲ってきたため、再び高速移動をもってそれらをよけ、後方へと引く。
再び両者に距離が生まれるが、アウロラは先ほどのように蜘蛛の巣攻撃をしてこない。
それが悪手であると理解したのだろう。
両者が睨みあうようにして静止していたその時…。
上空で何かが砕けるような音が聞こえる。
…そして、両者の間に割って入るようにして、漆黒を纏う男が現れた…。
「あ、ありえん…何者なんだ、あの男は⁉」
頭皮で月明りを反射させながら、ネルソンは驚愕の表情を表す。
災厄の魔女アウロラを呼び出したときも心底驚いたものだが、あのアウロラと互角に渡り合う姿を見て、更に驚嘆して見せる。
「飛ぶ斬撃ッ!」
「はぁ…さすがイタチさん…素晴らしい…」
「………」
アレクシアとローズが、それぞれに驚きと感嘆の声を上げる中、カフカは非常に冷静な様子を見せている。
そして先ほどの斬撃よりも、更に強力な斬撃が繰り出される。
「さっきより強大な魔力量ッ!」
「あれ以上の技があるというのですかッ…」
今度は両者ともに驚いて見せ、カフカも些少の笑みを零している。
「ざ、魔力の斬撃を飛ばすなど…そんなことがありえるのか…」
「あのお方がやって見せているのですから、可能なのではないですか?」
ネルソンの衝撃に似た疑問に、カフカはどこ吹く風と言った様子で答える。
魔剣士の常識を知らないと思われる小説家であれば、その非常識な発言も疑問には持たれない。
「あのね、普通は魔力の斬撃なんて、不可能に近いことなのよ」
「…でも、あのお方はやって見せていますよ?」
「…きっと、イタチさんが特別なのです…」
アレクシアの呆れたような物言いに、カフカはそれとなく反論し、しかしローズにも宥められるようにして制される。
だが、イタチとアウロラが再度対峙し固まったタイミングで、状況が一変した。
女神の試練を行う際の結界、その上部の一部が砕かれ、漆黒を纏った何かが乱入してきた。
「何者だ、奴はッ!」
その漆黒が、人間であると察したネルソンは、狼狽える。
「なっ…ま、まさか…」
「シャドウッ!」
ローズとアレクシアは、それぞれ遭遇したことがあるため、その人物を一瞬で見抜く。
「シャ、シャドウだとッ!…まさか…」
ネルソンは、大きく目を見開き、冷や汗のようなものを流すが、一歩ゆっくりと後退すると、ささっと来賓席の後方へと移動する。
シャドウの登場により、アレクシアとローズは会場に釘付けであった故、ネルソンの行動に気付かなかったが、カフカだけは、それをしっかりと目で追っていた。
シャドウは、両者の間に着地すると、優雅に佇んで見せた。
十数秒、まるで3者が無言で対話するような様相を見せる。
その緊張感ある時間の中、ネルソンがカフカの近くへと戻ってきた瞬間…。
シャドウが目にも止まらぬ速さで円形状の黒い斬撃を繰り出す。
アウロラは血の槍を展開するもすべて砕かれ、そのまま鮮血を吹き出し、イタチは刀で防ぐも大きく後方に吹き飛ばされ、壁に激突する。
「イタチさんッ!!!」
「うそ…あの2人が……一撃……」
ローズはイタチの身を案じて叫び、アレクシアは震えるように呟く。
そして、鮮血を身体から吹き出していたアウロラは、光の粒子となって掻き消える。
「ば、ばかな…アウロラが…やられただと…!?」
一瞬の出来事に、ネルソンは悲鳴に似た驚きを表す。
シャドウは、黒い剣を薙ぎ払うと、空の彼方へと一瞬で消えていく。
同時に、壁から這い出るイタチの無事な姿を捉えたローズは、あからさまに安堵の様子を見せる。
シャドウの姿が見えなくなるまで空を眺めるアレクシアであったが、目の前の結界が大きくひび割れたことで、驚き一歩後退する。
ローズも一瞬遅れて、アレクシアと同じように身を引く。
直後、一瞬にして結界は砕き消え去り、赤黒い奔流が会場を支配する。
真っ赤な歯車のような、魔方陣のようなものが何個も出現し組み合わさる。
次第にそれは一つの扉のような形を形成する。
突然の実力者イタチの登場、乱入者シャドウの登場、災厄の魔女アウロラの敗北…、そして禍々しい色をした謎の長方形の出現に、会場は騒然となる。
「これは…なに…」
「巨大な…扉…?」
ローズとアレクシアは、それを見て驚きながらも冷静な様子で呟く。
カフカは、丸眼鏡の奥から、鋭い視線をその扉へと向けていた。
「…まさか…イタチとシャドウに聖域が答えたというのか…?」
ネルソンが、驚きつつも現状を言葉にして発する。
「司教様…答えたとは?」
「ああ、いえその…。ご存じの通り、今日は年に一度の聖域の扉が開かれる日です。…しかし、女神の試練の最中に扉が現れるなど、これまでは…」
「聖域の扉は、大聖堂の内部に秘されていると聞いていますが…?」
ローズの問いかけに対するネルソンの回答に、アレクシアが些少の疑念を抱く。
「扉とは、実体を持つそれ1つを指すものではないのです。あのように、自在に形を変え、場所を変え、求めるもの、資格あるものに応じて、相応しき姿で映し出されます。…故に、時々に応じて扉の先は異なり…いかん!扉が開いてしまう!信徒たちを外へ出せ!扉に近づけさせるな!」
ネルソンの張り上げた声が、来賓席に響き渡る。
闘技場、会場は一様に騒然となり、観客たちが続々とその場を離れていく。
ローズとアレクシアも、どこか不安な様子を見せていた。
…そんな中、カフカだけは怪しい目つきで笑顔を浮かべていた。
観客と部外者のほぼ全てを退避させた旨の報告を受けたネルソンは、アレクシア達へと向き直り、表情を取り繕う。
「さあ、皆さまも退出のご準備を…」
だが、ネルソンの発言の途中に、アレクシアとローズは剣の柄に手をかけ、臨戦態勢に入る。
「ひぃ…」
「い、一体何を…おお?」
カフカが怯え、ネルソンも動揺するが、何かに気付き、後ろを振り返る。
するとそこには、漆黒を纏う者達が数名、壁に沿うようにして立っていた。
アレクシアとローズが剣に手をかけたのは、この者達が現れたからであった。
「き、貴様らは⁉まさか…シャドウガーデンか!」
ネルソンの言葉に、態度の悪そうな女が大あくびをする。
その隣にいる長い金髪を有する女は、鋭い目つきでアレクシアとローズを見据える。
「悪いけど、扉が閉まるまでの間、いい子にしていてね…。お嬢様方…」
「「ッ!」」
「………」
アレクシアとローズはその言葉に、更に警戒を強める。
なぜかカフカは非常に冷静であった。
しかし、金髪の女はその3人から即座に目を離し、それを横にスライドさせながら再度口を開く。
「…できれば、あなたも大人しくしていてくれると助かるわ…イタチ・ウチハ」
その名を聞き、アレクシアとローズは大きく目を見開いてその視線の方へと意識を向ける。
一瞬でこの来賓席まで跳んできたのだろうか…。
手すりに立つその姿は、まさに強者の風格を有していた。
「…イタチ・ウチハ…なるほど。私の手に余るわね…。でも、シャドウやシスイよりは弱いわ…」
金髪の女の発言に、イタチは目を細める。
「そうだな…。お前よりは強い」
「…でも、後ろのお嬢様方を守りながら、私たちに勝てるのかしら?」
イタチの視線が、アレクシア達へと向く。
言葉の意味を理解したアレクシアは、酷く心外と言った様子でアルファを睨む。
ローズはどこか苦悶の表情を浮かべ、カフカは特に反応を見せない。
暫く3人娘を見つめていたイタチであったが、諦めたように大きくため息をつき、手すりを超え、来賓席へと降りたつ。
「英断よ…さすがは優しき魔剣士ね」
「褒めても何も出んぞ…」
「あら失礼ね…本音よ」
金髪の女は、小さく笑うと、視線を通路へと続く扉へと向ける。
「後は任せるわ、イプシロン」
「了解しました。アルファ様」
その声を有する存在に気付いていなかったネルソンは、冷や汗を流しながらそちらへ視線を送る。
「いつの間に…くっ…!」
聖教の関係者が倒されているのを見て、更に苦悶の表情を見せる。
「デルタ…」
「はいなのです」
先ほどまでの態度の悪さはどこへ行ったのか、といった具合の声の高さで、デルタと呼ばれた女がアルファの後を歩く。
アルファたちは、イタチとアレクシアの間を割るようにしてゆっくりと手すりへと近づくと、一気に扉に向かって飛び降りる。
デルタに続き、更に数名のシャドウガーデンのメンバーが続く。
アルファ達が扉に近づくと、掻き消えるようにして姿を消す。
「消えた…ッ!」
「まてっ!聖域に入るんじゃない!!」
ローズはその様相に驚いていたが、ネルソンは焦ったようにそれを制止する。
「何をするつもりなのです!あなたたちは!」
ローズが、歩み寄ってくる女、先ほど聖教の関係者を斃した水色の髪をした女性、イプシロンに言い放つ。
「あなた方には、扉が閉じるまでの間、大人しくしてほしいだけ…。もちろん、あなたもよ…イタチさん」
「………」
イタチに向ける声にだけ、些少の敬意が見られる。
「…そこのハゲには一緒に来てもらうけど」
「聖域で一体何をするつもりだ!」
「何をするかではなく、何があるかだ」
イプシロンがそう言い終えると、シャドウガーデンの一員がカフカの首へと剣を突き立てる。
「動くな!…動くと、その女がどうなっても知らないわよ?」
「んあああッ!」
イプシロンが、不穏な声色でそう告げると、カフカが身を捩らせて喘ぎ声に似た悲鳴をあげる。
「ナツメ先生ッ!」
動揺するローズであったが、そこへアレクシアが耳打ちをする。
「見捨てるのもアリよね?」
「ダメですよっ!」
ローズは、思わず声を張り上げる。
「わ、私なら大丈夫です!」
「胡散臭…」
カフカの名演技に、しかしアレクシアは冷たい視線を向ける。
「わかるわー、その気持ち…」「へいきっですからっ!」
イプシロンとカフカの言葉が、偶然にも重なりを見せる。
「我々も内部へ向かう…。こいハゲ」
「ふん!行きたければ貴様だけでいくがよいわ!…あの世へな!」
ネルソンの言葉に、イプシロンは大きく目を見開く。
「やれ!処刑人ベノム!!」
瞬間、処刑人と呼ばれた男がイプシロンへとその凶刃を向ける。
イプシロンは一歩後退し、身を反らして回避しようとする。
…しかし、その必要はなかった。
処刑人の刃は、瞬間移動と言っても差し支えない速度で間に入ったイタチの太刀によって防がれた。
処刑人は驚きに剣先に些少のブレが生じる。
イタチはそれを見逃さず、処刑人の刃を弾き飛ばし、横腹に蹴りを入れる。
処刑人は、来賓席の壁に激しく激突し、呻き声を一つ上げたのち、意識を手放した。
イタチが動いたことで、その場にいる全員が息を呑むようにして驚いて見せる。
「な、何のつもりだ!イタチ・ウチハ!!」
「イ、イタチさm…ん…なぜ…」
「貴様!まさかシャドウガーデンとグルなのか!」
ネルソンとイプシロンが、それぞれに驚愕と言った様相を見せる。
「ネルソン…だったか?俺はただ、殺気に反応しただけのこと…他意はない…。それに、聖教には少々疑念をもっているものでな」
「ぐぅ…貴様…ッ!」
「礼を言うわ、イタチさん…。こい、ハゲ!」
イタチへ抗議の眼を向けるネルソンであったが、怒りを抱いたイプシロンに頭を鷲掴みにされたことで、それは終わりを迎える。
「イタチ・ウチハさん…。あなたも是非…いや、カフカの安全を確保したければ、来るといいわ」
イプシロンは妖艶な笑みをイタチに向けた後、ハg…ネルソンと共に扉へと吸い込まれていく。
続けて、カフカを連れたシャドウガーデンのメンバーも、扉へと向かって跳ぶ。
「あ~~~れ~~~~」
「ちょっとッ!」
「ナツメ先生!!」
カフカのあからさまな悲鳴に、しかし状況が状況なだけに、アレクシアとローズは思わず叫ぶ。
イタチは、一先ずは成功か?と思いつつも、2人に念押しするように声を掛ける。
「アレクシア王女とローズはここへ残れ…」
「ちょ、イタチ⁉」「イタチさん!」
そう言い残して、イタチは閉まりかけている扉へと飛び込む。
イタチの姿が掻き消えると同時に、アレクシアは苦悶の表情を浮かべる。
その表情の奥、頭の中には、シャドウの姿が思い浮かぶ…。
同時に、ローズも尊敬し、最も愛する男が聖域に踏み入ったことで、覚悟を決めたような顔をする。
「お断りよ!」「お断りします!」
閉じかけた扉に、2人の王女は飛び込んだ。
…だが、アレクシアもローズも、飛び込んだ先が空中であるとは夢にも思っていなかった。
「「うわあッ!」」
2人は地上1mちょっとのところから、地面へとむかって落下する。
「では、ここからは…きゃあ!」「…ッ!」
その先にいたカフカとイタチへと衝突をしつつ、着地する。
4人は絡み合いながら地面に伏していた。
アレクシアはカフカの胸を鷲掴み、イタチはローズの胸の谷間に顔を埋めていた…。
「ロ、ローズ先輩⁉早くどいて…」
「アレクシア様…。変なところを触らないでください」
「イ、 イタチさんッ!///こ、こんなところで…///」
「…すまん、わざとじゃない…」
「ぶよぶよの肉まんじゅうなんか触りたくないわよ!」
「ふふっ!負け惜しみですか?」
「…イ、イタチさん///い、息が…///」
「本当にすまない…アレクシアが重くて動けないんだ…」
「ああッ⁉イタチ今なんて言ったの⁉」
4人は絡みあう身体を捩らせながら、それぞれに言葉を発する。
そんな4人に、アルファが歩み寄り、鋭い視線をもって見下ろす。
「「「「あ…」」」」
4人はその視線を受け、ようやくそそくさと絡みを抜け出し、ゆっくりと立ち上がる。
4人がそれぞれ立ち上がり、距離を取った結果、金髪の女が鋭い視線を向けるのは、イタチであったと知る。
「………」
「………」
その視線に気づいたイタチは、アルファと暫し沈黙の見つめ合いを果たす。
先に折れたのは、イタチであった。
「事故だ…」
「そうね…」
「他意はない…」
「…そうね」
イタチは、アルファから感じる嫉妬に似た不穏な空気を感じ取り、咄嗟に真実の言い訳を口にする。
「はぁ…///」
小さく吐息を吐くようにして喘ぎ、自身の胸に両手を添えているローズを見たアルファは、ギリッと歯ぎしりをして見せるが、即座に冷静さを取り戻し、真顔になる。
その瞬間を見逃さず、アレクシアは素っ頓狂な声を発する。
「ごめんなさい!つまずいて転んでしまって、そしたら扉が目の前に会って、吸い込まれてしまったのよ」
「………好きにしなさい…。もしかしたらあなた達は知るべきかもしれない…」
「「え…?」」
アルファの言葉に、アレクシアとローズは小さく疑問の声を上げた。