新生アスティカシア学園パイロット科特別臨時講師グエル・ジェターク   作:アヤユメ

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10 おおむね筋肉で解決する最終話

 歴史の授業の教科書だったか。

 地球のどこかの国の首都にかつて存在していた巨大な電波塔が、戦争で失われた建築物の一例として紹介されていた。

 大きさも形状もその電波塔と同じぐらいの氷のランスが、湖から霧を破って突きいでる。

 氷のランスの先端にはハロを搭載したヘリコプター型ドローンが張りついて、ランス全体を誘導している。

 風圧に巻き上げられた霧が、ダリルバルデが飛んでいる高度までをも白に染める。

 

 串刺し……は、余裕で回避できる。

 グエルはじゅうぶんな距離を取った上で、氷のランスをビームライフルで撃ち砕く。

 

 氷のランスが蒸発し、周囲の霧が紫に染まった。

 これこそが真に危険な攻撃なのだ。

 毒霧でハロのドローンの羽根が溶け、ハロは墜落していく途中でグエルのレーダーからロストした。

 ハロも溶けてしまったのだ。

 

──凍れる毒の、この湖そのものが、ガンダム・デュラハーンの追加装備よ!──

 

 ニューゲンの狂ったような笑いが響く。

 巨大な氷のランスは群れをなして次々とダリルバルデに襲いかかる。

 

 そもそも巨大なモビルスーツでも、いかにダリルバルデの頭頂高が18.7メートルもあろうとも、湖全体を敵の体と見なすならばこんなのはマンモスとハツカネズミの戦いだ。

 

 それでもグエルはレーダーも効かず視界も閉ざされた中で、下から突き上げてくるランスの林を鮮やかにかいくぐり、ランスの生えかたからランスが守るポイントを読み解いて、霧の中の影(デュラハーン)の居場所を探り出す。

 が。

 霧に紛れた氷のランスが、ダリルバルデの足を捕らえた。

 

 ダリルバルデの動きが止まったのを確認して、デュラハーンがビームサーベルを構えて加速する。

 氷のランスの林はニューゲンの邪魔にならないように自ら倒れて道を開け、デュラハーンが霧の中の影(ダリルバルデ)に斬りつける。

 パリーンと軽い音を立てて、ダリルバルデのシルエットが砕け散った。

 

 せみのぬけがら(ウツセミ)

 

 グエルは先ほどダリルバルデに襲いかかった氷のランスを、斬り刻んで礫にしてわざとダリルバルデの表面を傷つけさせて、吹き出したフェアリーブラッドで固めてウツセミを作って囮にしていたのだ。

 

 ウツセミを持ち上げて浮かせていた腕型ドローン(イーシュヴァラ)が、真下に飛び込んできたデュラハーンにビームを放つ。

 ウツセミの影の後ろに隠れていたもう一つの影(ダリルバルデ)が、デュラハーンに斬りかかろうとしたそのとき……

 

 高く伸びた氷のランスが自重で折れて、湖の周囲の森に倒れた。

 木々はたちまち枯れていった。

 

「休戦しよう! ニューゲン! このままでは湖の外に毒液が漏れ出てしまう!」

 

──やぁねえ。それも目的の一つよ──

 

「何!?」

 

──パーメットの彼方の四人だけの世界に部外者が入り込まないように、ダムを壊して洪水を起こして、ウェスタニスとイストラントの地下に残してきた研究所を毒液の底に沈めるの──

 

「そんなことをしたら二つの国の人たちが!」

 

──私たちが人里離れた山奥のさらに地下にこっそり作った研究所の上に、いつの間にか勝手に町を広げてきた連中がどうかして?

 それぞれの国の神様がそれぞれの天国へ連れていってくれるでしょ。

 私たち四人に、同じ地獄に落ちることすら許してくれなかった神様がねッ!!──

 

「イストラントとウェスタニスには、それぞれカルとゴルネリが捕らえられている!

 二人ともあの体では逃げられない! あいつらも毒液に飲み込まれるぞ!」

 

──ご心配ありがとう。でもそうはならないわ。

 二人の生命維持装置には、自爆装置が仕込んであるの。

 バッテリー切れの直前になると爆発するし、爆弾を外そうとしてもバッテリーを交換しようとしても爆発するのよ。

 パーメットの彼方でネボラが待ってる。

 あとはここの湖底の研究所を処分するだけ。

 私の機体にはタイマーも起爆装置もないけれど、モビルスーツってただ壊すだけでも積んでいる弾薬や燃料への引火で爆発するのよね──

 

 ニューゲンは元はファラクト用の長銃(ビームアルケビュース)を自身のデュラハーンに向けて、両肩の飛行装置(ブラストブースター)を撃ち抜いた。

 

「させるか!」

 

 自由落下するデュラハーンを加速して追いかけるダリルバルデに、氷のランスが立ちはだかるも、すり抜ける。

 デュラハーンはファラクトのドローン(コラキ)を放ち、電磁バリアでダリルバルデを足止めしようとする。

 

「うおおおお!」

 

 ダリルバルデはワイヤーで伸びるつまさき(シャクルクロウ)で、コラキとデュラハーンをまとめて絡め取った。

 

──きゃああああ!──

 

 コラキが放った電撃で、デュラハーンはダウンした。

 

 

 

 沈黙。

 

 静寂。

 

 ニューゲンは何も言ってこないしデュラハーンはワイヤーでぶら下げられて風で揺れるだけ………………

 

 突然、ダリルバルデの背中を狙って何者かがビームを放った。

 

 グエルは回避し、振り向きながらビームライフルを構える。

 霧の中に新たなモビルスーツのシルエットが浮かんでいる。

 グエルはビームをフェイントに通信用ドローン(ヘルメス)を放つ。

 

 霧を破って伸び出た掌が、ヘルメスをパシッと掴んだ。

 機体の動きで周囲の霧が流れ、白と黒に塗り分けられたモビルスーツが姿を現した。

 

「その機体は……?」

 

──シュバルファラクト──

 

 グエルに答えた無感情な声は、探し求めたアシャケのものだった。

 

「ガンダム……なのか……?」

 

──はい。先生の学友を殺した機体と、先生の弟を殺しかけた機体のミックスです──

 

 シュバルゼッテの設計図は、ジェターク社の誰も気づかぬうちに、ベネリットグループ解散の混乱で流出していた。

 

──ニューゲンさん……爆弾のセット、終わったよ……──

 

──あらあら、やっとですの? どうしてこんなにノロマでいらっしゃるのかしら。まあいいわ。さっさとやってくださいませ──

 

 敗戦国の高官の家のお坊っちゃまへのニューゲンの態度に、アシャケは堪えてフッと息をつき……

 言われるままデュラハーンに六機すべてのビットが合体した大剣(ガーディアン・シース)を向けた。

 

──グエル先生、それ、ポイしてください。爆発させますから──

 

──何を言っているの? 時間がもったいないでしょ? そいつも巻き込むのよ!──

 

──先生を殺すの? どうして? 研究所を壊すだけの仕事だって言ってたのに──

 

──どうしてって……!──

 腹が立ったから、と、言いかけてやめて、ニューゲンは代わりに猫なで声を絞り出した。

──アシャケ様のためですよ。

 ワタクシどものほうの計画はこれでおしまい。

 でもアシャケさまはまだ、やりたいことがおありなのでしょう?

 アシャケ様の目的を知れば、この者はきっと邪魔をします──

 

「アシャケの目的?」

 

──ごめんなさい、先生。別に知られて困ることじゃないし口を封じる必要もないんですけど、でも足止めはさせてもらいます──

 

 ガーディアン・シースから何本もの細い光の筋(オムニ・アジマス・レーザー)が放たれる。

 ダリルバルデはそれを四機のドローンで防ぎ……

 

 突然湧き上がった嫌な予感に、グエルは本能に任せてダリルバルデ本体を旋回させた。

 直後、下方向からのビーム攻撃が、ついさっきまでダリルバルデがいた空間を通り過ぎる。

 

 ダリルバルデの足の下、こちらを見上げるデュラハーンの頭部の二門のバルカンから連射されるビームが、シャクルクロウのワイヤーを切った。

 ニューゲンが復活したのだ。

 解放されたデュラハーンは、このまま落下する気かと思いきや、ヘリコプター・ハロの群れがデュラハーンの全身に取りついて持ち上げて飛ばせた。

 

 二対一。敵が浴びせてくるビームの雨を、ダリルバルデは踊るようにかわす。

 優雅な仕草だが余裕はない。

 グエルからは牽制以上の攻撃はできない。

 どちらの敵機も、もちろん自分も、墜落させるわけにはいかない。

 墜落すれば湖の毒液が……

 そんなことよりアシャケの呼吸がパーメットにやられてどんどん苦しげになっていく。

 

(くそっ! 何か打開策は……!)

 

 ニューゲンの二丁拳銃(ビームカリヴァ)の攻撃をかわしながら、アシャケの大剣(ガーディアン・シース)と刃を打ち合う。 

 

 

 

 突然、緑色のヘルメスが三機の間を駆け抜けた。

 衛星で宇宙から操作する遠距離用の機種だ。

 空中に緑の光で巨大な文字が書かれていく。

 

『こちらエラン・ケレス。グエル、見えてるか? ゴルネリが死んだ』

 

 その文字列にニューゲンがほっとしたように穏やかに微笑む。

 

 が。

 

『自爆装置か?』

 

 グエルのヘルメスで、宇宙からでも読める特大サイズで綴る。

 

『そっちは止めた。生命維持装置のバッテリー交換に失敗してな。眠るように静かに死んでいったよ。

 カルのほうはうまくいった。あいつは長生きできそうだ』

 

──なんですってえええエエエエ!?──

 

 ニューゲンの悲鳴がハウリングを起こした。

 取り乱し、デタラメに撃ったビームで空中の文字が吹き散らされる。

 

──何をそんなに騒いでるのさ。先に死んだ人のところへ行っただけでしょ?─

 

 アシャケが冷めた声で言う。

 

──バカ! 0点! 眠るように死んだんじゃパーメットスコアがゼロじゃないの! それじゃパーメットの彼方へは行けないのよ!──

 

 アシャケがついた深い呼吸は、ため息なのか、パーメットによる息切れなのか。

 ニューゲンは、ともに戦う者の様子を気にすることなく、まくし立てる。

 

──あああ、ネボラが一人ぼっちで先に向こうで待っているのに!

 一刻も早くカルを回収してゴルネリを糞神の地獄から呼び戻さなければ!──

 

──じゃあダムの爆弾は? もうタイマー動いてるけど?──

 

──解除よ解除! ハロ! 行きなさい!──

 

 ハロの群れが北西と北東に飛んでいく。

 ウェスタニスと、イストラントの方角へ。

 

──ニューゲン……イストラント側のダムにも爆弾を仕掛けてたんだ──

 

──あなたってほんと、バカな子供ね──

 

──!──

 

 ……ずっと……いまひとつやる気のなさそうだったアシャケの目が……カッと見開かれた。

 アシャケのシュバルファラクトが、オムニ・アジマス・レーザーを一本の太いビームに束ねてニューゲンを攻撃した。

 

──何よ! 壊れたの!? 安物の道具が!!──

 

 回避したデュラハーンが、二つのビームカリヴァを合体させたロングライフルで撃ち返す。

 

 六機のガーディアンが大剣型から分離し、マントの形を作ってデュラハーンのビームからシュバルファラクト本体をガードする。

 

 見守るばかりのダリルバルデのスピーカーに、ヘルメスを通じてアシャケの孤独なつぶやきが流れる。

 

──侮辱した……このオトナもオレを侮辱した……──

 

 デュラハーンのつまさきが開いてミサイルが射出される。

 ビームではない、実体弾だ。

 

 そこにガーディアンのうちの一機が突っ込んでゆく。

 

 おそらくアシャケの狙いは、ガーディアンを犠牲にミサイルをシュバルファラクト本体から離れた場所で爆発させることなのだろうが……

 

(実体ミサイルの威力はそれじゃ済まない!)

 

 グエルが放った消火弾が、ミサイルとガーディアンの間に割って入る。

 

 消火剤の泡が白く広がって、ミサイルを包み込んで推進を止める。

 

 そこにガーディアンが体当たりして、消火弾の粘着力でミサイルと貼りついて一つの塊になる。

 

 ガーディアンはそのままデュラハーンに体当たりしてミサイルごと爆発。

 

 ミサイルから剥がれた消火剤がデュラハーンに移り、デュラハーンは誘爆することなく墜落した。

 

 

   パキーーーン!!

 

 

 湖面の氷が割れてデュラハーンを飲み込み、デュラハーンの装甲が、フレームが、毒液に溶かされながら沈んでいく。

 火薬も燃料も、爆発することなく毒液で溶けた。

 

 しばらくして、湖氷に開いた大穴の中央に、ニューゲンの生首入りのポッドがエアバッグに包まれて浮き上がってきた。

 ニューゲンが口をパクパクさせて何か叫んでいた。

 スピーカーは失われているので何を言っているのかわからないが、グエルとアシャケはそれぞれに自分への罵倒なのだろうと想像した。

 

 ニューゲンの唇が、寒さで色を失っていく。

 湖の毒液がポッドを溶かしていくが、それより早く、ポッド内の生命維持液が凍結する。

 

 湖の毒液には、一定以下の温度では効果を失う特性がある。

 

 ニューゲンは壮絶な表情のまま冷凍保存され、エアバッグが溶け、ポッドが湖水に沈み、湖氷に開いた穴は再び氷に閉ざされた。

 

 

\\\

 

 

 シュバルファラクトのコックピット。

 

「ああ……はあ……」

 

 アシャケは荒れた呼吸をなかなか整えられずにいた。

 

──……! ……!──

 

 スピーカーの向こうでグエルが叫んでいる。

 何かを問うているようだが、アシャケ自身の呼吸音のせいで聞き取れない。

 

「オレは……ニューゲンさんに……」

 

 怒りを覚えたかと問われれば、迷いなくイエスと回答する。

 殺したいほどだったかと聞かれれば、わからない、考えていなかった。

 もしもグエルからの質問が、殺すより酷い目に遭わせたかったか尋ねるものであるのなら……

 

「オレ……そんなつもりじゃ……」

 

 少しだけ呼吸が落ち着いて、ようやくグエルの声が聞こえてきた。

 

──アシャケ! 無事か!? パーメットの影響は!?──

 

 さっきから問われていたのはこれだった。

 カッ、と、アシャケの頭に血が上る。

 

「何だよっ……余裕かよっ……こんなときにそんなくだらないことが気になるのかよっ」

 

──アシャケ?──

 

「ああ! 無事だよ! 無事で悪いかよ!? ナメてんじゃねえよ!!」

 

 悲しかったし悔しかった。

 解けない氷の中でニューゲンは、永遠にアシャケをバカだと思い続ける。

 

「行け! ガーディアン!」

 

 指示を声に出して叫ぶと、こころなしかパーメットの反動がやわらぐ気がする。

 

「ダリルバルデに体当たり!」

 

 指示のやりとりを音声情報に変換すれば、パーメットがパイロットの脳から直接指示を読み取る必要がなくなり、パーメットの脳への流入を最小限に抑えられる。

 大人の研究者が何十年かかっても気づけなかった事実を、子供の無意識で使いこなす。

 

 シュバルファラクトに残された五機のガーディアンが、ダリルバルデにデタラメな体当たりを仕掛ける。

 

「そのまま湖に向けてビーム!」

 

──やめろ、アシャケ! そんなことをしたら──

 

 グエルがビームライフルを撃つ。

 

「回避優先!」

 

 ガーディアンはビームを止めて旋回するが、それでも一度に二機、落とされる。

 

──やめろアシャケ! もし毒液が町に流れたら……!──

 

「イストラントの少年兵によるものだと堂々と発表する!!」

 

──なぜだ!? そんなことをすればまた戦争にッ!!──

 

「……先生も、オレのことバカだと思ってるよね」

 

──アシャケ? 俺は……──

 

「別に仕方がないよ。大人は子供をバカにするのが普通だもん。

 でもね! それを逆転させる方法が一つだけあるんだ!

 ガーディアン・シース!!」

 

 三機だけ残ったビットを組み立てて、片刃の大剣にして振り下ろす。

 ダリルバルデが両手で構えた(アンビカー)で防ぐ。

 

「どうして戦争がなくならないか教えてやる!

 戦争に勝った国の子供は、戦争に負けた国の大人をバカにすることができるんだ! だから!」

 

 距離を取り、二丁のビームカリヴァを合体させてロングライフルに組み上げて、それをさらにビームアルケビュースと合体させる。

 

「もう一度、戦争をして! 今度こそ勝って!

 父さんを愚弄(ぐろう)したやつらを愚弄し返してやるんだ!!」

 

 アシャケが超長銃で湖面を狙う。

 盾型ドローン(アンビカー)が飛んでくる。

 

「コラキ!」

 

 カラスの群れのようなドローンが、アンビカーにとおせんぼする。

 その隙間をかいくぐってダリルバルデのビームライフルがシュバルファラクトの手を撃ち抜く。

 吹き飛ばされた超長銃をイーシュヴァラが空中で掴んで、アシャケの手が届かないよう遠くへ持ち去る。

 

「そんなことばっかしてないで、オレを直接、撃てばいいのに!」

 

 アシャケはずっとシュバルファラクトの手に持ったままだった羽根ペン型ドローン(ヘルメス)をにぎりつぶした。

 

 シュバルファラクトの眼前にアンビカーが迫る。

 アシャケのガーディアン・シースがアンビカーを切り捨てる。

 アンビカーの裏に隠していた消火銃まで一緒に斬ってしまって消火剤が飛び散って、驚いてアシャケの動きが一瞬だけ止まる。

 その隙にグエルは予備の羽根ペン型ドローン(ヘルメス)を飛ばす。

 

──もうやめろ! お前()まだ引き返せる!──

 

「グエル先生……アスティカシアの伝説のホルダー、グエル・ジェターク! 教えろ! アンタは何のために戦ってきた!?」

 

──大切な人の笑顔のためだ!──

 

 それは昔から変わらない。

 愛する父がいなくなっても、弟や仲間たちが、そして今は生徒たちがいる。

 そんなやりとりの間にも、アシャケはビームバルカンを撃ち続け、グエルは回避し続ける。

 

「大切な人なんかいない! ありもしない夢よりも、嫌いな奴の泣き顔が見たい!」

 

 アシャケが羽根ペン型ドローン(ヘルメス)を切り捨てる。

 ダリルバルデの頭部のリングがくるりと回って、さらなる羽根ペン型ドローン(ヘルメス)を射出する。

 シュバルファラクトが、飛んできた羽根ペン型ドローン(ヘルメス)をがしっと掴む。

 

──アシャケ! お前は幸せになれる! お前には(・・)輝く未来がある!──

 

「学園でイリヒと暮らしてわかったんだ!

 何を与えられても何を取り返しても、あいつが笑ってたんじゃオレは半分しか幸せになれない!

 あいつ個人がいいやつか悪いやつかの問題じゃない!

 あいつらが……ウェスタニス人が不幸にならなくちゃ、オレは完全な幸せにはなれないんだ!」

 

 アシャケがヘルメスをにぎりつぶす。

 それでもダリルバルデ(グエル)ヘルメス(対話の意思)を射出し続ける。

 

 

 

 

──どんなに努力しても──

 

 イーシュヴァラとガーディアンがビームを撃ち合う。

 

──一番強くなっても──

 

 ガーディアンが落とされる。ガーディアンは残り二機。

 

──バカにするやつはいなくならない──

 

 ガーディアンの残りが一機になる。

 

──学園で一番強かったときでも、バカにしてくるやつはいた──

 

 コラキの群れがアンビカーを落とす。グエルに残るドローンは、すでにボロボロのイーシュヴァラ一機。

 

──父さんを真似た服も、母さんに似せた髪も、嘲笑うやつは嘲笑う。やつらすべてを止めることなんて誰にもできない。だが……!──

 

 最後のガーディアンと最後のイーシュヴァラが相打ちになる。

 

──他者を愚弄することでしか救いを得られない悲しい人間を! 世界から一人! 減らすことはできる!──

 

 グエルの言葉に、アシャケの胸を、黒い炎が埋め尽くした。

 

「コラキ・シース!!」

 

 アシャケの激昂に応え、コラキの群れがシュバルゼッテの実体刀剣を芯に集い、一振りの闇色の大剣を組み上げる。

 ダリルバルデがビームサーベルを構えて突っ込んでくる。

 二度、三度、斬り結ぶ。

 

「コラキ・ドロウ!!」

 

 コラキの群れが飛び立って、双方の視界がさえぎられる。

 コラキたちがグエルのビームサーベルに体当たりして、自身を犠牲にしながらグエルの太刀筋を逸らす。

 コラキの群れが通り過ぎ、視界が再び開けたとき、アシャケの実体刀剣はダリルバルデのコックピットをつらぬいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁッ……はぁッ……」

 

 涙をぬぐうためにヘルメットをはずし、アシャケは荒い息をコックピットの天井に吐き上げた。

 

 モニターの中、ダリルバルデからフェアリーブラッドが噴き出す。

 今さら何だというのだ。

 

 フライトユニットは生きていて、力の抜けきったダリルバルデを宙吊りにしている。

 だから何だ。

 

 アシャケの刀剣はグエルのコックピットの真ん中に鮮やかに突き刺さり、その刃は昇り始めた朝日を浴びてダリルバルデの背中で輝いている。

 

「……教えてよ……オレは……どうしたら……」

 

 涙で視界の閉じたアシャケは、シュバルファラクトが爆発寸前になっていることも、脱出装置が故障していることにも気づかない。

 

 

 

 

 フェアリーブラッドがダリルバルデのコックピットを埋めていく。

 刀剣に完全に貫かれた()()()シートが飲み込まれてゆく。

 

 

 

 

 シュバルファラクトのコックピットハッチが外側から荒々しく開かれた。

 

「ともに学ぼう!!」

 

 グエルの鍛え上げた腹筋に裏打ちされた声量が、渦巻く風の轟音を吹き散らした。

 

「どひぇええええ!?」

 

 アシャケが思わず上げた悲鳴を、どうか笑わないでほしい。

 ついさっき自分の手で仕留めたはずの人の掌が、いきなり目の前に差し伸べられたら、ビビり散らかすほかにあるまい。

 ましてやその人が、機体に突き立った実体刀剣の背の上を走って渡ってくるなどと、誰に想像できようか。

 

 根本から壊れたハッチ扉が風に舞い、グエルの背後で朝もやの向こうに消えてゆく。

 

「あ……あわ……あわ……」

 

「知りたいことがあれば知っていそうなやつを探してやる! わからないことは一緒に考えよう!

 世界の広さを知れば、この世にバカにしていいことなんか何一つないってわかるようになる!」

 

 グエルはアシャケを抱きしめた。

 

「へ? ほへ? は? え?」

 

 アシャケの耳もとを起点に、熱のこもった、でも穏やかな、暖炉のような声がアシャケを包み込む。

 

「お前の親と話した。お前がアスティカシアで学ぶことを望んでいた。

 お前の親の望みのために、お前の幸せ、半分捨ててくれ」

 

 シュバルファラクトのコックピットから飛び出し、一瞬だけ重力が消えて、次の瞬間、二人はヘルメスに受け止められた。

 アシャケがバクバクする心臓を落ち着けようと四苦八苦しているうちに、シュバルファラクトは遠くの空で爆散した。

 

 

\\\

 

 

 ヘルメスに限らず多くのドローンは、人を乗せて飛ぶことを想定して設計されていない。

 グエルは右手でヘルメスの羽を、左手でアシャケのパイロットスーツのベルトを掴んでいるが、もしもアシャケが暴れたり、自棄になって自分から飛び降りようとしたならば、押さえきれないかもしれない。

 

 風が強い。

 寒い。

 

 アシャケのほうからグエルの胴に腕を回してしがみついてきた。

 

「アシャケ……」

 

 グエルを風よけにしているのか、それともグエルの体温で暖を取りたいのか。

 高いところが怖いわけでも、ましてや甘えたいわけでもあるまい。

 

(これから少しは頼ってもらえるようになるのだろうか)

 

 願いを込めて、グエルはアシャケを強く抱き返した。

 夜明けの風に流されて、羽は湖から離れていった。

 

 




 おまたせしました! ようやく完結!
 ……待っててくれましたよね?

 戦闘描写へのツッコミお待ちしていますm(_ _;)m


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