新生アスティカシア学園パイロット科特別臨時講師グエル・ジェターク   作:アヤユメ

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4 恋人と死別した生徒にスレッタから伝える話

 新生アスティカシアを覆うドームの空は、今日も快晴に設定されて。

 パイロット科の生徒たちが駆るモビルスーツは、実技の授業を兼ねて学園の清掃をしていた。

 

 アクアガンで校舎の窓ガラスを洗うユザール。

 通路のゴミをトラクタービームで集めるユザール。

 グラウンドの真ん中でホウキで本気のチャンバラをするイリヒのディランザ・ソルとアシャケのザウォート・ヘビィからは、今日は武器が外されている。

 

 モビルスーツは戦闘に使うだけではないことを、シノーメ・イワネイワはアスティカシアに来てから知った。

 

 元少年兵のイリヒやアシャケと違い、シノーメは親が学費を払ってアスティカシアに来ている。

 アーシアンの中では上流のお嬢様だ。

 国境近くの町の戦禍に胸を痛めてはいるが、シノーメの実家があるのは国の反対側の端っこだし、シノーメ自身が戦場に出ていないのはもちろん、身近な人が犠牲になってもいなかった。

 

 ほかの生徒の様子を見回す。

 経営戦略科一年のクラスメイトたちは掃除用具を手にしたままおしゃべりに勤しみ、真面目なシノーメはなんとなく孤立していた。

 

「ねえアンタ、えーと、シノーメだっけ?」

 

 クラスの女子が話しかけてきた。

 普段からシノーメのことを睨んでくる、ちょっと怖い子だ。

 

「あのさア。前から聞きたかったんだけど」

 

 シノーメは怯えてゴクリと唾を飲む。

 

「アシャケ先輩ってあんたの彼氏なの?」

 

「ち、違うよっ! 彼氏は……故郷に……」

 

「えー!? 彼氏いるんだー! 遠距離恋愛!? ロマンチックぅ〜!」

 

 クラスメイトの声が裏返り、急にフレンドリーになった。

 

「でもでもアシャケ先輩とは同じアーシアンなんでしょ? 仲、いいの? アシャケ先輩ってどんな子が好み? ねーえー、教えてよー!」

 

「えええ、えっとぉ……知り合ったのは留学が決まってからで……ワタシもよく知らなくて……」

 

 人見知りなシノーメはうまく会話に乗れず、話しかけてきた女子はすぐにほかの子のほうへ行ってしまった。

 

(せっかく人と話せそうだったのに……ワタシ、変なこと言っていないよね……?)

 

 何も間違った発言はしていない。

 むしろ失敗を恐れて話せなかった。

 

(掃除……しないと……)

 

 うつむきかけた顔を上げると、急にあせりがわいてきた。

 

(ワ、ワタシ、サボってないもん!)

 

 汚れの残っている場所を探して、シノーメはひとけのないほうへパタパタと走り出した。

 

 

 

 木立を抜けると、花に囲まれた小さな園があった。

 教師用の紺色のユザールが、レーザーを使って石碑に文字を彫っていた。

 

(何て書いているのかな?)

 

 好奇心のまま、そっと覗き込み……

 シノーメは心臓に氷の矢を受けたような気持ちになった。

 そこにあったのは、アーシアンが起こした学園テロの犠牲者の慰霊碑だった。

 

(アーシアンのワタシがここにいちゃいけない!)

 

 後退りして、小枝を踏んで、その音に自分で驚いて尻もちをつく。

 シノーメの学生手帳(デバイス)に通信が入った。

 目の前のユザールからだった。

 

──やあ、シノーメ・イワネイワだね? 逃げなくていいよ。僕もアーシアンだ。

 教育実習生のティル・ネイス。よろしくね──

 

 

 

 

 

 文字を彫り終わり、ティルはユザールを降りて、石碑から少し離れてバランスを見た。

 

「うん。オッケー。時間が経てば馴染んでくるさ」

 

 大きな石碑にずらりと並ぶ名前の、一番下に新しく彫られた文字は、今はどうしても浮いて見えた。

 

「三年間ずっと昏睡状態だった生徒が、つい先日、亡くなったんだ」

 

 首をかしげていたシノーメは、ティルの言葉にうつむいた。

 

「大丈夫だよ。悲しいこともどうにもできないこともまだまだあるけど、未来を良くするために頑張っている人たちがいるから。世の中はゆっくりと良くなっていく」

 

「……はい」

 

 それから二人はたわいのない会話を交わした。

 故郷の恋人との未来はどんななのだろう。

 個人の家庭も世界全体も、きっと素晴らしいものになるに違いない。

 シノーメの夢想話に、ティルは「うんうん」と穏やかにうなずく。

 

 不意に……シノーメの学生手帳にメールが来た。

 メールを読み、シノーメの指から学生手帳がすべり落ちた。

 

「……見ていいかな?」

 

 しばらく待って、シノーメがうなずくのを確認する。

 ひび割れた画面に表示されていたのは、知らない人名の訃報だった。

 地球で執り行われた平和式典で、主賓のスペーシアンを狙ったテロに運悪く巻き込まれたらしい。

 

 血の気を失ったシノーメの表情から、それがシノーメの大切な人だとわかった。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 地球から学園フロントへ向かう宇宙船の、船室と食堂をつなぐ通路で、スレッタ・マーキュリーは大窓に映るスーツ姿の自分と見つめあっていた。

 

(やっぱりアザが目立っちゃうな。次に来るときはお母さんのマスクを借りようかな)

 

 杖の先からプシューっとエアーを出して、低重力でスイスイ進んで、自分の船室に戻って引きこもる。

 全体的にクリーム色な室内で、床に固定されたテーブルにつき、携帯端末を取り出してミルクティーのホットを注文。

 次の電話をする前に軽く身じろぎをしたら、体が浮き上がってぐるりと回転してしまった。

 足が空中に放り出されて、なんだかだらしない格好だけれど、かしこまるような相手ではないからと、そのまま通話ボタンを押す。

 

 画面に、三年の間にすっかり気負いのない友人関係になった男の顔が映った。

 

「グエルさーん! あの子たち、どんな感じですかー?」

 

──どんなもこんなも、ウェスタニス人とイストラント人をまとめて面倒見さすなよな──

 

 グエルがため息混じりにぼやく。

 

「えー? だってグエルさんが抱きしめてあげれば、たいていの男の子はどうにかなるかと」

 

──バカ言うな。そんなのラウダだけだ。イリヒのやつはあれっきり、授業以外では目も合わせてくれない──

 

「あ、あはは……でもでも、ほかの子とも決闘したって聞きましたよ?」

 

──エビィのことか? あいつならセセリアのカウンセリングルームに入り浸ってるよ。結局、俺じゃあ、あいつらの力には……──

 

 電子音が鳴り、グエルに別の通信が入ったと知らせた。

 

──待ってくれ。ティルからだ。ティル先生、どうした?──

 

──グエル先生、生徒のことで相談が……プライベートなことで……──

 

──わかった。すまない、スレッタ。またあとでな──

 

 

 

 

 

 ホットミルクティーを飲み終えて、さらに少し経ち、宇宙船がフロントに入港して、降りてきたスレッタをグエルが出迎える。

 

「元気にしてたか?」

 

「もちろん元気ですよ」

 

 学校の運営を巡って連絡するたび聞かれる問いに、いつもどおりの答えを返す。

 しかしそれを問うグエル自身には、あまり元気がないよう見受けられる。

 

「ミオリネとはうまくいっているか?」

 

「え? ええ……」

 

 どうして急にそんなことを聞くのだろうかと、スレッタは小首をかしげた。

 

「今、幸せか?」

 

「はい! 幸せ、です!」

 

 わけがわからず思わず怒鳴る。

 その言葉を確認し、グエルは腰を九十度に折ってスレッタに頭を下げた。

 

「生徒の相談に乗ってやってほしい」

 

 

 

 

 グエルが言いたいのはつまり、スレッタがエラン・ケレスこと強化人士4号の死を乗り越えて別の人と結ばれるに至った秘訣をシノーメに伝授してやってほしいということだった。

 

「大切な人ならグエルさんだって失っているじゃないですか」

 

「俺じゃ比較にならないよ」

 

「ん……まあ、そうですね」

 

 親子と恋人ではさすがに勝手が違うな、とスレッタが思いかけたところで。

 

「シノーメには弟がいないんだ」

 

「あー、うん、ソウデスネ」

 

 

 

 

 ティルの案内で三人で広場へ向かう。

 茂みの陰から様子をうかがって、スレッタは思わず息を呑んだ。

 シノーメが慰霊碑を何度もくり返したたいていた。

 女の子の素手で、擬音をつけるならペチペチで、石の碑に傷がつくわけではないが……

 

「駄目だよ、シノーメ! この学園にはテロの犠牲者の弟や妹もいるんだ!

 こんなところをスペーシアンの生徒に見られたらどうなるか!」

 

 ティルが飛び出してシノーメの腕を掴んだ。

 シノーメはうつむいて唇を震わせた。

 

「父から電話があったんです。あの人のことは忘れろって」

 

「そんな簡単に……」

 

 スレッタがうめく。

 ティルは息を呑みつつ素早く言葉を選ぶ。

 

「残酷に聞こえるだろうけど、きっとお父さんなりの思いやりで……」

 

「誰かにあの人のことを聞かれても『知らない』って言えって!」

 

 シノーメの叫びが、広場に吹く人工の風にむなしく舞った。

 泣いて、少しだけ落ち着いて、言葉を絞り出す。

 

「あの人……自爆テロの犯人だって疑われてるんです……そんな人じゃないのに……」

 

「念のため聞くが、疑われるような理由があるのか?」

 

 グエルが低い声で尋ねる。

 

「あの人、戦争でひどい目に合ってるから……だからスペーシアンを憎んでてもおかしくないって……

 だったらどうしたらいいの!? 一度でも殴られたことのある人はそのまま死ななくちゃいけないの!?

 あの人は……こんな慰霊碑は作ってもらえない……」

 

 弱々しいすすり泣きに、グエルは思わず顔を背ける。

 だがスレッタは、身を屈めてシノーメの瞳の奥を覗き込み、強い光を見てとった。

 

「ではシノーメさん、わたしと決闘をしましょう」

 

「「は?」」

 

 何がどう“では”なのか。

 シノーメとグエルの“は?”が重なり、スレッタは満足気にうなずいた。

 

「息はぴったりですね。シノーメさんがパイロット科じゃないのならグエルさんと二人乗りしてください。

 あなたたちが勝ったら、そのテロについてわたしが調べてあげます」

 

「どうやって?」

 

 グエルがいぶかしむ。

 

「ツテがあります」

 

「ツテって……あ! まさか……!」

 

 シノーメが言っているテロは、ミオリネを狙ったものなのか? と、グエルが問うのをさえぎるように、スレッタは語気を強める。

 

「わたしが勝ったらグエルさんにあれやこれやしてもらいます!」

 

「待て! あれやこれやって何だ!?」

 

「法に触れない範囲にとどめておくので負けても泣かないでください!」

 

「ええい、なんかわからんが生徒のためだ! 受けて立つ!」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 場所は学園の戦術試験区域。

 立会人のティルのほかはセセリアと数名の教職員が安全管理に来ただけで、この決闘は生徒たちには秘密にしてある。

 

 セセリアに借りた私物のデミバーディングの、本体部分のコックピットで、シノーメは不安げにモニターを見渡した。

 ヘルメットに内蔵されたスピーカーから、スレッタの宣誓の声がシノーメの耳に流れ込む。

 

──モビルスーツの性能のみで決まらず──

 

 スレッタが乗っている機体は、元・地球寮生の友人たちが作ってくれたジム・エアリアル。

 思い出の機体のレプリカだとかで、見慣れぬ見た目だが性能は一般的なモビルスーツと同程度らしい。

 

──パイロットの技術のみで決まらず──

 

 バオリパックのグエル先生の声。

 戦術試験区域のスイッチが入り、周囲の景色に宇宙空間が投影される。

 

(初めての決闘がいきなり空中戦なんて……)

 

 シノーメの胸で不安が膨らむ。

 

==ただ結果のみが真実!!==

 

 スレッタのモビルスーツが、背中に装着したフライトユニットで飛び立つ。

 重たそうなデミバーディングも、背中に合体したバオリパックの力で空に舞い上がる。

 

(何だかわからないけれど、ワタシの決闘なんだからワタシが何かをしなくちゃいけない……)

 

 シノーメは適当にボタンを押してみた。

 いきなりビームが乱射されて、バオリパックのコックピットのすぐ脇で弾けた。

 

「グエル先生! ごめんなさい! ワタシ……」

 

──気にするな! それより戦いに集中しろ!──

 

 ジム・エアリアルのビームサーベルがデミバーディングに斬りかかる。

 

──くっ!──

 

 バオリパックが本体から分離し、ジム・エアリアルの胴体を体当たりで弾き飛ばして、シノーメが乗る本体を守る。

 バオリパックとデミバーディング本体を繋ぐワイヤーが、本体のメインカメラの鼻先で鞭のようにしなり、思わずシノーメは縮み上がる。

 すかさずジム・エアリアルがビームライフルをシノーメに向けて撃つ。

 バオリパックがワイヤーを引っぱり、デミバーディング本体を引き寄せて回避させ、そのまま再合体する。

 

──ふふっ。やっぱりグエルさんは強いですね──

 

──お前こそ、GUNDフォーマットなしでその起動。リハビリ、がんばったんだな──

 

──はい! だからグエルさんに見てほしいんです!──

 

 鮮やかな射撃と鮮やかな回避が互いにくり返される。

 

(がんど? なに???)

 

 シノーメは二人の戦いにも会話にもついていけない。

 

 

 

 

 気がつくとジム・エアリアルが体勢を崩していた。

 シノーメの目ですら、それがチャンスだとわかった。

 デミバーディングが一気に距離を詰めていく。

 

(ああ。このまま決闘は終わるんだ。ワタシ、いる意味なかったな……)

 

 シノーメはそう思ったが――

 

──ビームトーチを抜け!──

 

「何ですかそれ!?」

 

 いきなりグエル先生に指示されてシノーメが慌てる。

 ジム・エアリアルはその一瞬で体勢を立て直し、ビームサーベルでデミバーディングに斬りかかる。

 バオリパックは二本の砲身に溜めたエネルギーでスレッタのビームサーベルを白刃取りした。

 

──姿勢制御は任せろ! 俺はあくまでサポートだ! これはお前の決闘だ!──

 

 ビームを消して飛び下がったジム・エアリアルが、挑発するようにサーベルの柄の部分を振って見せる。

 要するにこれがビームトーチだということなのだが。

 

──シノーメ! 相手をよく見ろ! 操縦桿から手を離すな! ……操縦桿がどれかわかるよな? 今だ! 思い切り押し倒せ!!──

 

「やああああっ!」

 

 デミバーディング本体のビームサーベルと、ジム・エアリアルのビームサーベルが交差し、押し合いになる。

 激しく明滅する光がシノーメのコックピットを照らす。

 機体の重量の分、デミバーディングが押していく。

 

「教えてください! どうやってエランって人のことを乗り越えたんですか!?」

 

──乗り越えてなんかいません!!──

 

 ジム・エアリアルの盾型ビットがAI操作でデミバーディングの背後に回り込む。

 グエルの回避で距離を取る。

 

「だってスレッタさん、違う人と結婚して……」

 

──エランさんとの過去もミオリネさんとの今も、どちらも同じくらいに大切なんです!──

 

「そんな……二人を同時に好きでいるなんて……」

 

──軽蔑しますか?──

 

──わかるぞ、スレッタ! 俺の父さんも、俺の母さんとラウダの母さんを同じくらいに愛してた!──

 

──そういうのと一緒にしないでください!──

 

──何でだよ!?──

 

 盾型AIビットがデミバーディングの周囲を飛び回る。

 ビットの相手はバオリパックに任せて、シノーメはスレッタの言葉に無言で聞き入る。

 

──風が吹くたびにこの音があの人の声だったらって想像して、その想像が幸せなものであるほどに泣けてきて!

 平気にならなくちゃ平気にならなくちゃって義務みたいに唱えてるうちに平気なフリだけ上手になって、みんなを安心させることだけできるようになっていく!──

 

──……辛いな……──

 

──グエルさん、ちょっと黙っててください!──

 

──んっ……──

 

 訪れた静寂が、シノーメが隠そうとしていたすすり泣きの音を暴き出す。

 突進してきた盾型AIビットをバオリパックが撃ち落とし、それを合図にデミバーディングが再びビームサーベルを構える。

 

──氷を見るたびに氷の君を思い出すんですよ!

 何で氷の君なんですか!? プーパッポンカリーの君ならそんなに頻繁に思い出さなくて済むのに!!──

 

 二機の刃が交錯し、押し合う。

 

──スレッタ! そのことをミオリネには……──

 

──言えません!──

 

──ちゃんと話さないと……──

 

──お仕事で疲れてるのに猛暑日に遠い都会のクイーンハーバーからド田舎の麦畑まで会いに来てくれたミオリネさんに、わたしの目の前でアイスレモンティーを飲まないでなんて言えるわけないじゃないですか!?──

 

「きゃ!?」

 

 グエルの姿勢制御が揺らぎ、シノーメが悲鳴を上げた。

 

──グエルさんがわたしを振り切るのは“前進”ですが、わたしがエランさんを振り切るのは“薄情”なんです!

 薄情者な自分を……自分を愛せずに生きていくのはツライです!──

 

 シノーメがでたらめにビームサーベルを振り回す。

 ジム・エアリアルはスッと身を屈め、下から間合いに潜り込んだ。

 

──シノーメさんが抱えてるものは、解決なんかしません!!──

 

 ジム・エアリアルの相手のアゴへと突き上げるパンチ(アッパーカット)が、デミバーディングをノックアウトした。

 

 

 

 デミバーディングは仰向けに墜落し、月面を模した地面にたたきつけられた。

 岩に見えるが柔らかなクッションに機体が沈み込み、砂けむりがリアルに舞い上がる。

 コックピットから這い出したシノーメは、装甲の上にうまく立てずに、へたり込んだ。

 

 ジム・エアリアルがすぐかたわらに着陸し、コックピットハッチが開いて、スレッタがシノーメを見下ろした。

 

「思い切り苦しんでください。あなたの大切な人はそんなことは望みません。それでも苦しんでください」

 

 ジム・エアリアルの腕を伝ってスレッタが降りてくる。

 

「涙が枯れるまで泣いてください。一晩眠ればまた泣けてきます。それでも泣き続けてください」

 

 杖がないので機体の装甲に手をついて、慎重にデミバーディングの腹の上に移る。

 

「きっとこれは間違いです。だけど間違ってても、こうするしかないんです」

 

 スレッタはシノーメのとなりにひざまずき、少女の涙を指でぬぐった。

 まるで王子様のようなしぐさで、それはきっと本当は、スレッタが王子様にしてほしかったことだった。

 

「ところでグエルさん、何でそんなしおらしく正座なんてしているんですか? あー、もう、ズボンを汚しちゃって。そのパイロットスーツ、ジェターク社製の最高級品ですよね?」

 

 グエルは本体の下敷きになったバオリパックから直接地面に降りていた。

 

「すまん……何と言うか……お前に頼りすぎるのもよくないなと……」

 

「何を言っているんですか? 少しでも気になることがあったらすぐに報告してくれなくちゃダメに決まってるじゃないですか。大切なアスティカシアの生徒たち(わたしたちのこどもたち)のことなんですから」

 

 

 

 

 決闘の結果を見届けて、ティルは携帯端末に目を落とした。

 ネットニュース。記事の見出しは――

 

『テロ容疑者の少年、無関係の被害者だと判明』

 

 詳しく読もうとする前に、新しい記事が受診され、記事が押し流される。

 

『フォルドの夜明けが犯行声明』

 

 三年前にティルも巻き込まれたプラントクエタのテロの犯人だ。

 

「まさか……あいつらには今はもうそんな力はないはずじゃ……?」

 

「ま、テロリストが箔付けのためによその組織の()()を自分のものみたいに吹聴するのは“テロリストあるある”ですし。アタシの先輩にも一人、そういう人がいますしィ」

 

 セセリアがティルの肩越しに画面を覗き込む。

 

「それか逆に、真犯人を隠すために知名度のあるテロ組織に罪を着せようとしているのか」

 

 ティルがあごに手を当てて考え込む。

 端末の画面にはさらに次のニュースが映る。

 

『コンペイル社のコーンCEOが行方不明。フォルドの夜明けによる誘拐か?』

 

 セセリアは口を閉じて目をそらした。

 

(コンペイル社……ベネリットグループ解散の際に地球に売却されたペイルテクノロジー社の一部をもとにしてコーン氏が立ち上げた新会社……)

 

 似たような会社の多くが三年持たずにベネリットとは別の宇宙企業グループに吸い上げられて消えていった中、コンペイル社の粘りにはセセリアも注目していた。

 

(つってもいい意味ばかりじゃないんですけどね)

 

 ケレスさんによればコンペイル社のもとになった部門は、ペイル社が三年と少し前にミオリネにファラクト開発部門を売り払った際に、ファラクトの開発の中でも特に違法性の高い部分に関わった研究者たちを匿って密かに移動させるために作られたらしい。

 

(ケレスさんによれば、CEO連続失踪事件で最初に行方不明になったのは元ペイルの四魔女なのよね)

 

 彼女らもテロリストによる連続誘拐の被害者なのか?

 それとも……

 

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