新生アスティカシア学園パイロット科特別臨時講師グエル・ジェターク   作:アヤユメ

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8 ガンダム・デュラハーンの話

 平和式典での事件が終わって。

 もともとラウダが取っていたホテルの一室で、ジェターク兄弟は二人きりで話し合った。

 

 ケナンジさんたち、犠牲になった人々への哀悼。

 ラウダがグエルを守るためにやったこと。

 グエルがラウダのもとに駆けつけるために、ありあわせのフライトユニットでかなり危険な操縦をしたこと。

 いつしか肉体言語を交えて話し合いが白熱してきたところに、ミオリネから通信が入った。

 

──先に帰っちゃって悪かったわね。どうしても外せない仕事があって。

 あのあと大変だったって聞いたわよ。二人とも大した怪我がなくてよかったわ──

 

 そう言いつつミオリネは、グエルとラウダの左目の上のおそろいのアオタンを見て首をかしげた。

 モビルスーツで戦ったならヘルメットをしていたはずなのに、どうしてこのような怪我をしたのだろうか。

 よく見ると椅子もテーブルもひっくり返っているようだが。

 

──……あんたたちで話し合いができたようでよかったわ──

 

「その様子だとそっちもスレッタとうまくいったみたいだな」

 

──まーね。アイスティーの話も聞いたわ。ありがとね、グエル。

 ところでラウダ、カレッジリングは? せっかくあげたんだから、しなさいよ。別に左手の薬指にって言ってるんじゃないんだから──

 

「親指でもぶかぶかなんだよ」

 

「そうなのか? ちょうどいい。俺のと交換しよう。こっちは小指でもキツくてな」

 

──はア!? その指輪、名前、入ってるんだけど?──

 

「どちらもジェタークなんだから大差ないだろう」

 

──ま、まあ、あんたたちがいいって言うならイイけどね──

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 同時刻。

 ケレスさんは、現在の名目上はウェスタニス政府の管理地区となっている、ノーザーン共和国跡地にいた。

 

 前を行くのはウェスタニス警察特殊部隊の車両五台とモビルスーツ三機。

 数十年前のドローン戦争でまかれた毒で深紫に汚染された、虫一匹住めない荒野を抜けて向かう先は、オットー・ファミルが病院のベッドで証言した一連の事件の黒幕のアジト。

 

 ケレスさんは最後尾のジープに揺られながら、分厚い防護服に包まれた指でタブレットを確認する。

 画面に映るテナガーシナガの解析結果には、ガンダムだけでなくデミバーディングの技術も用いられていた。

 同一グループ内とはいえ別々の会社で互いを知らぬまま育っていた開発者たちが、グループ解散に伴う再編成で一か所に集められたのだ。

 

 

 

 

 ノーザーン共和国跡地の地下。

 警察部隊の突入に備えて明かりを消した研究施設。

 そこがどれほど広大かを推し測るすべはないが、その格納庫は四機のモビルスーツが円陣を組んでなお余裕がある。

 ファラクトに似て非なる、黒いガンダム。

 

──来たわね。計算通りだわ──

 

 ニューゲンを収めたコックピットのモニターに、警察部隊の動きがクッキリと映っている。

 

──いよいよね。この日をどんなに待ちわびたか──

 

 小太りのカルが、うっとりと天井を仰ぐ。

 

──油断は禁物よ。誰か一人でもしくじったら、私たち死んでも死にきれないわ──

 

 長身のゴルネリが場を引きしめる。

 

──神にあらがう、大いなる目的のために──

 

 ゴーグルをかけたネボラが、何のつもりかモビルスーツの両手を、乙女のように胸の前で手を組ませた。

 

──警察部隊の足止めは私とこの子に任せてちょうだい。ほかの奴らは絶対に、私たちの世界に入らせないわ──

 

 ネボラの機体の背後には、もう一機、誰かを乗せたモビルスーツがたたずんでいた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 ミオリネは仕事があるからと早々に通信を切って。

 ジェターク兄弟二人きりで穏やかなお茶会は続く。

 談笑の合間に、ふと訪れた沈黙に、グエルは意を決してラウダをまっすぐ見つめた。

 

「一つワガママを言っていいか? 欲しいものがあるんだ」

 

「なに? 何でも言って! 何が欲しいの?」

 

「正式な教員免許」

 

 ああ。

 こうなる予感はしていた。

 だって満たされてる感じがしてるって、あちこちから報告が上がってた。

 

 それでも受けてしまったショックをなるべく顔に出さないように、ラウダは無理にほほ笑んだ。

 

「ちゃんと言ってくれてよかった。会社は僕に任せて。自分の夢を追ってよ」

 

「ラウダ……」

 

 本当はラウダにだって夢があった。

 グエルと二人で共同CEOになること。

 だからこそいったんジェターク社を離れて、慣れない地球で経験を積んだ。

 だけど。

 

「兄さんがドミニコス隊のエースになるって夢を追ってたとき、僕も応援してて楽しかったんだ! 新しい夢だって応援するよ! 当然だろ?」

 

──ダメっス!!

 

 通信機からいきなりペトラの声が聞こえた。

 

──グエル先輩! ラウダ先輩の夢はグエル先輩と机を並べて働くことなんです!

 そのためにラウダ先輩がどれほどがんばってきたか!──

 

「よせ! ペトラ!」

 

 ラウダが慌てて止めようとするが。

 

──机を並べられないならお二人のベッドを……いやいや、食卓を並べて一緒に暮らしてあげてください!──

 

「ペトラ……!」

 

 ラウダがグエルを振り返る。

 それはとても魅力的な提案だった。

 しかしグエルは静かに首を横に振った。

 

「ペトラ、お前だってラウダと二人で暮らしたいんじゃないのか?」

 

 グエルには、自分の幸せだけを考えることはできない。

 

──フェルシーも入れて四人で暮らしましょう!!──

 

 提案はますます魅力的になった。

 フェルシーの顔を思い浮かべる。

 成人していながら仔犬のように愛らしい後輩と、学生時代のように寝食をともにし、毎朝、同じ玄関からジョギングに出られたら、どんなに幸せだろうか。

 仕事を終えて家に帰れば、よほど遅くなりでもしない限りは毎晩、フェルシーを背中に乗せて腕立て伏せできる。

 今よりもっと踏み込んだ関係になれば、肩車でのスクワットにも応じてもらえるかもしれない。

 

 まさにちょうどのタイミングでドアが開き、フェルシーが駆け込んできた。

 思わずグエルは笑みをこぼして、自分の欲深さを恥じらって口もとを手で押さえる。

 しかしフェルシーの表情は緊迫したものだった。

 

「グエル先輩! 大変っス!」

 息を切らしながら叫ぶ。

「アシャケがいなくなったっス!」

 

 

 

 

 ケレスさんの視線の先、警察部隊が黒幕のアジトに攻撃を仕掛けようとしたところで、アジトから異形のモビルスーツが次々と飛び出してきた。

 

 ファラクトに似た、しかし()()()()が決定的に異なる五機のガンダムに、警察部隊は無意味でも必要な手続き(セレモニー)として投降を呼びかける。

 

 ガンダムのうち二機が警察部隊に通常の倍のサイズの銃(ビームアルケビュース)を向ける。

 残りの三機は自らのアジトのほうを攻撃しだした。

 

「今さら証拠隠滅か!?」

 

 警察部隊の垢抜けないデザインの地球産モビルスーツが、不釣り合いに豪勢なミカエリスの右手装備(ビームブレイサー)をくり出す。

 グラスレー社が開発したガンダムを停止させる電波(アンチドート)の技術は、今は地球の所有になっている。

 スペーシアンが出しゃばるべきではないからと、ケレスさんは口をつぐんで戦闘を見守る。

 事件解決は目の前のはずだ。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 アシャケを捜すために、アシャケと最後に会ったイストラントへ向かう貨客飛行船の一室で、グエルたちは各々の携帯端末にすがりついていた。

 

 ラウダが怒りに任せて通信をたたき切った。

 

「くそっ! イストラント軍のやつら! 少年兵の存在を、なかったことにしたがってる!」

 

「アスティカシアの先生たちも、アシャケは帰ってないって」

 

「スレッタたちのほうも空振りッス」

 

 フェルシーとペトラの視線がグエルに集まる。

 

 グエルの電話の相手はアシャケの母親だ。

 長い間、黙って相手の話を聞いたあと、通信を切ったグエルの表情は暗く沈みきっていた。

 

「俺はアシャケのことを何もわかっていなかった……あいつの父親は……」

 

 グエルの言葉をさえぎるように電話がかかってきた。

 

「ケレスさん?」

 

──よう。落ち着いて聞けよ、グエル・ジェターク。オレは今、ノーザーンの──

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 ノーザーンの地下の巨大な研究施設。

 こんなものがいったいいつ作られたのか。

 記録によれば地上の毒沼は、ドローン戦争以前は町だった。

 ならばこんな工事をしていて人目につかないわけがないから、作られたのは都市開発で切り開かれる前の森だったころになるのだろうが、とすれば二百年は前になる。

 

 ケレスさんは、元ペイル社CEOの四人なら、二百年以上生きていてもおかしくないと本気で考えていた。

 かつて邪悪な人体実験と、生命を蝕む危険なガンダムの開発を行ってきた、それだけの技術力とその程度の倫理観を持つあの四人なら。

 

 格納庫には、先ほど大破させた敵機が横たわっている。

 毒ガスに満ちた地上では検査するのも厳しいので、一機だけ生き残った警察部隊側のモビルスーツで運んできたのだ。

 

 地下では空調設備が問題なく動き、防護服なしでも歩けることが、いかにも古めかしいこの場所が現役の施設であると示していた。

 

 通信機越しにグエルがむくれた声を出す。

 

──俺には手出しするなって言ったくせに──

 

「手は出してない。見てただけだ」

 

──野次馬ですか?──

 

 どこか力の入らない声で、無理に軽口をしぼり出しているのがうかがえる。

 

「悪いな。いつものノリは今はあきらめてくれ。キミも勘づいているんだろう? お茶会は終わりだ。

 敵は未知のガンダム。二機を撃墜し、三機に逃げられた」

 

 敵機の検査をしていた警察部隊員が、安全が確認できたとケレスさんに合図を送る。

 ケレスさんはコックピットを覗き込み、床に見覚えのあるゴーグルが落ちているのに気づいて拾い上げた。

 

「撃墜したというのは正確ではないな。パイロットの体がパーメットに耐えられずに自滅したんだ」

 

──死んだのか?──

 

「両名ともな。ついでに警察部隊側の死人も二ケタ行ったよ」

 

 グエルが低くうめいた。

 

「パイロットの遺体は、一人は成人女性。ネボラの可能性が高いが断定はできない」

 

──断定できないって──

 

「ほんとなら、よく知っている相手なんたがな」

 

──遺体の損傷がひどいってことですか?──

 

 ケレスさんはグエルの問いには答えずに、もう一機のコックピットへ入っていった。

 

「もう一人のパイロットは若い男性。十代後半から二十代前半」

 

──まさかアシャケじゃ!──

 

「確認中だ」

 

──アシャケの写真を送ります!──

 

 通信機の向こうで何かにぶつかった音が響いた。

 

「ゆっくりでいい。顔の識別ができる状態じゃあないからな」

 

──どういうことなんですかッ!?──

 

「落ち着け。それよりも、ほかの三人の行方と目的の心当たりなんだがな。聞きたいか?」

 

 返事がない。

 通信が切れている。

 

(電波が悪いのか? 貨客船の中からじゃ無理もないか)

 

 格納庫の外、長い通路の向こうから、警察部隊員の呼び声がする。

 ケレスさんがそちらに行くと、誘拐されていたCEOたちの遺体の山があった。

 全員が人体実験に使われていた。

 屈強な警察部隊員が何人も、口を押さえたり吐いたりしていた。

 

 再びグエルと通信が繋がった。

 

──ケレスさん! そちらのガンダムについて教えてください!──

 

「一言でいうと異形だな。具体的には……」

 

──首がない?──

 

 グエルの問いに、ケレスさんが眉を跳ね上げる。

 

「正解だ。なぜわかった?」

 

──俺の目の前にいます!──

 

「は? おい待てオマエ、今どこで何してる!?」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 ウェスタニス上空。

 貨客飛行船から飛び出したダリルバルデは、漆黒の異形のガンダムと向かい合っていた。

 

「何なんだコイツは!」

 

 ペイルが作った機体なだけあって遠目にファラクトに似ているが、頭部があるはずの場所に、夜空しかない。

 

──そいつの名前は首なし騎士(デュラハーン)! ガンダム・デュラハーンだ!──

 

 コックピットのグエルの問いに、ノーザーンからケレスさんが答える。

 

「誰が操縦しているんだ!?」

 

──わからん。最悪の可能性を想定するなら……──

 

「アシャケ! アシャケなのか!?」

 

 グエルの呼びかけに、敵機からの返事は、ない。

 

 飛び来るビームを回避して羽根ペン型ドローン(ヘルメス)をデュラハーンに接近させ、隙をついて背中に突き刺し、ダリルバルデとデュラハーンの回線を強制的に繋ぐ。

 

「アシャケ!!」

 

──ジェタークCEO? 元CEOだったかしら? アナタは将来的に私たちの邪魔になりそうだから、今のうちに死んでおいてちょうだい──

 

「あんたは……」

 

──お久しぶりね。ゴルネリよ──

 

 ガンダムの力をひけらかすように、デュラハーンから大量のガンビットがカラスの群れのように飛び立って、ダリルバルデを取り囲んだ。

 

「これを全部、ガンダムの力で操っているのか? そんな戦いかたじゃアンタも死ぬぞ!」

 

──死なないわ。私たち四人はパーメットの彼方へ行くのよ──

 

「何を言っているんだ!?」

 

 

 通信にケレスさんが割り込む。

 

──ネボラの遺体は異常だった。ゴルネリもあの改造を受けているのか?──

 

──もちろんよ。長年の研究の成果だもの──

 

「強化人士になったってのか!? ガンダムのためにそこまでするなんて……」

 

──逆よ。ペイル社は何も、ガンダムに乗せるために強化人士を作ってきたわけじゃあないの。

 強化人士の研究費用を稼ぐためにガンダムを売ってきたのよ──

 

 曲芸飛行のごとく鮮やかな旋回をくり返すダリルバルデを、ファラクトから流用したガンビット(コラキ)の群れが追い回す。

 

──パーメットの彼方は! ガンダムが連れていってくれる、真なる魂だけの世界は! 私たちだけのものなの!

 そこで四人だけで暮らすために! ほかの誰も入ってこないように! ガンダムを知るものは全員殺す!──

 

 コラキがいくら電撃を放てどダリルバルデには一発も当たらず、ゴルネリの息が荒くなってくる。

 

(このまま持久戦で……パイロットがゴルネリ一人なら、テナガーシナガに乗っていたファミル夫妻より早くバテるはず……)

 

 グエルの思考を読んだようにケレスさんが叫ぶ。

 

──持久戦は厳しいぞ、グエル! デュラハーンはパイロット一人でもテナガーシナガと同じ仕組みでパーメットの逆流を分散させる、いわば一人複座だ!──

 

「一人複座!? 何だそれは!?」

 

──なあ、ゴルネリ……節約するにしても、切っちゃいけない場所ってあるよな……!──

 

──おしゃべりしている場合かしら? イストラントにもデュラハーンは行っているの。アナタのお仲間、ピンチみたいよ?──

 

「何!?」

 

 一瞬の隙をついてデュラハーンが接近し、高スコアの機動でダリルバルデに組みつき技(クリンチ)を決めた。

 

「!」

 

 振りほどこうとグエルがもがくほどに、ゴルネリのパーメットスコアがどんどん上がっていく。

 

──いいわ! いいわよオ!! 今、魂を肉体から脱出させれば、パーメットの彼方へ飛べるわア!!──

 

「どういうことだ!?」

 

──このまま自爆するって言っているのよ! 振りほどいてくれてもいいのよ? そのまま落ちるだけだから! だけどね!

 アナタがなかなか攻撃してこない理由、私が気づいてないとでも思った!?──

 

 戦場の真下には、住宅街が広がっている。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 イストラント。

 スレッタの学校の校庭。

 

 傷つきながらも辛うじて立っているジム・エアリアルが、胸部を潰されて倒れ伏したガンダム・デュラハーンを見下ろす。

 

 ノーザーンの二機、ウェスタニスの一機に続く、四機目。

 

 ジム・エアリアルに備えられた災害救助用のセンサーは、デュラハーンのパイロットが人の形を失ったと告げていた。

 

「ごめんなさい」

 

 一人切りのコックピットで、スレッタがつぶやく。

 

「殺したくなかったです」

 

 だって仕方なかった。

 逃げ遅れた生徒にデュラハーンが危害を加えようとしたから。

 

「間違いだって、わかっています。だけどわたしには正解は出せません」

 

 スレッタは最後まで相手のパイロットが誰なのか知らなかった。

 それがカルであるとも、カルがエラン4号の仇であるとも聞いていない。

 ただ、何か大切な目的があって、でもそのためにスレッタの大切な人を傷つけようとしたから、スレッタの手で殺してしまった。

 

「これでいい。

 わたしは守る側だから」

 

 グエルから通信が入った。

 

──ゴルネリを生け捕りにできた。危ういところだったがラウダとフェルシーと、それにイリヒとエビィが間に合ってな。

 四方向からトラクタービームでゴルネリの機体を吊り上げて爆発に地上が巻き込まれないようにして、ペトラが開発した新式アンチドートで強制脱出装置を作動させて。

 お前にも見せたかったぜ! あいつらの連携プレイ!

 ゴルネリのやつは脱出ポッドに閉じこもって計画が台無しだとかわめいているが、元気そうだし、市民の犠牲も出ていない──

 

「よかった」

 

 心から言う。

 と同時に。

 

「やっぱりグエルさんは守られる側の人なんだ」

 

 ぽろりと本音がこぼれ落ちた。

 グエルの声がスレッタを呼ぶ。

 気遣う声だとわかった上で、スレッタは通信を切った。

 

 余計な一言を言ってしまった。

 だってイジワルしたかったから。

 

「ずるいなー。うらやましいなー」

 

 誰もいないから声に出す。

 グエルさんは守られる側の人。

 わたしは守る側。

 スレッタの頬を涙が伝った。

 

「わたしも……守られたい……」

 

 

 

──守るよ──

 

 

 

 それは、もういないはずの人の声だった。

 

「エランさん……?」

 

 

 

 

 

 沈黙していたデュラハーンからの通信が復活した。

 

──何てことしてくれたのよアンタたちイィ!?──

 

 カルはスレッタとエランを口汚くののしり始めた。

 

「でも死ななくてよかったです」

 

 と、スレッタは素直に言う。

 

──“死”なんかないわ! パーメットの彼方には永遠の命があるのよ!──

 

「永遠に生きたくてこんなことを?」

 

 スレッタの疑問に、カルはため息をついた。

 

──私たち四人は、敵対し合う四つの国に生まれたの。

 四つの国がそれぞれ崇める宗教は、戦争の理由になるぐらい互いを見下し合っているくせに、実は結構、共通点があってね。

 同性愛者は地獄行きなの──

 

「そんなイジワルな宗教、やめちゃえば……」

 

──その宗教をやめた人間も地獄行きなの!

 でもね! それだけならば! むしろ望むところなの!

 問題は宗教が違うせいで落ちる地獄もバラバラだってことなのよ!──

 

 カルの激昂にスレッタはただ戸惑う。

 

──同じ地獄に落ちられないなら、永遠に生きるしかないじゃない!!──

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 ノーザーンのアジトに着いたグエルは、警察部隊員の案内でデュラハーン(首なしガンダム)のコックピットへ通された。

 操縦席には、首のない人体が座って……いや……シートベルトめいた拘束具でくくりつけられていた。

 

「やっぱりガンダムなんてもんはこの世にあっちゃあいけないんだ」

 

 警察部隊員がつぶやく。

 

 グエルは体の震えをこらえて首なし死体に顔を向けた。

 パイロットスーツに似た、おそらくは別の機能があるのだろう衣服。

 アシャケの体格はだいたいこのぐらいと想像しながら、手足の長さを目で測る。

 アシャケよりも大きいようだが、弛緩して伸びて見えるだけかもしれない。

 

「そいつはオマエんとこの生徒じゃねえよ」

 

 ケレスさんがコックピットに入ってきた。

 何か丸いものを抱えていた。

 

 ケレスさんが何を根拠に言っているのかはわからないが、揺らぎのない声にグエルは安堵した。

 死んだのは自分の生徒でなく見知らぬ大人。

 きっとその丸いものが根拠になっているのだ。

 

 それではこれは誰なのか。

 誰でもいい。

 アシャケじゃなかったのだから。

 

 ケレスさんがグエルの鼻先に丸い物を突きつけた。

 丸い物の正体は、エラン・ケレスの……生首が入ったヘルメットだった。

 

 グエルは悲鳴を上げて飛び下がった。

 エランの生首を持っているのは、紛れもなくエラン・ケレス本人だった。

 

「オレの6号だ」

 

 苦々しくうめいて、ケレスさんはコックピットの壁を殴った。

 

「これが“一人複座”だ。頭と胴体を別々のコックピットに入れることで、脳へのパーメットの流入を従来の半分に抑えていたんだ。それでも死んだがな。

 なあ、信じられるか? 今はもう完全に死体になっているが、こいつはついさっきまでこの状態でデュラハーンを操縦していたんだ!」

 

 グエルは派手に嘔吐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、アシャケは見つからなかった。

 

 ノーザーンを夕日が照らす。

 ケレスさんは来たときのジープに、グエルはダリルバルデに乗り込む前に。

 

「すみませんでした」

 

「何が?」

 

 グエルが何を言いたいのか、見当はついていたがケレスさんはあえて止めずに続きをうながした。

 

「遺体がアシャケじゃないからって喜んでしまって……俺は……自分のことしか考えていなかった……」

 

「バカ。本当に自分のことしか考えてないやつはこういうとき『生徒のことしか考えてなかった』って言うんだよ」

 

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