新生アスティカシア学園パイロット科特別臨時講師グエル・ジェターク   作:アヤユメ

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9 最終決戦の前にまとめておく話

 ニューゲンが見る世界のすべては、淡いブルーに染まっていた。

 モビルスーツで空を飛んでいる最中だというのに、海に沈んだかのようなブルー。

 頭部なきガンダム・デュラハーンの鎖骨の間に設えられたメインカメラの映像が、胸部の第一コックピットを素通りし、ヘソの辺りの第二コックピットのモニターに送られる。

 敵対するモビルクラフトの動きにニューゲンは、筒状のポッドに満たされた保存液の中から目を凝らす。

 

 ニューゲンが見る淡いブルーの世界は、他者から見れば白い霧に覆われた森だった。

 キャタピラで地を這うモビルクラフトが、旧式の戦車そのままの大砲をニューゲンのガンダムに向けて、領空侵犯を警告する。

 

「フンッ」

 

 ニューゲンの殺意の脳波をデュラハーンのGUNDフォーマットが読み取って、AIが予めシミュレートしていた幾通りのも攻撃パターンの中から最適なものを実行する。

 デュラハーンと、サウザーン神聖共和国軍のモビルクラフトとの間で、無数の爆発が起こる。

 

 敵が()()かを入力すれば、あとはAI任せでよい。

 ニューゲンは戦闘とは無関係なモニターに目を移す。

 

(ネボラ一人だけが無事にパーメットの彼方へ行けたのね。さぞかし寂しいでしょうに。早くカルとゴルネリをそっちへ送ってあげて、私もあとを追わなくちゃ)

 

 モビルクラフトの大砲からの攻撃を、デュラハーンがスイスイと回避する。

 かなり無茶な動きだが、パーメットの反動は第一コックピットの首無しの胴体へ流れ、ニューゲンの脳にダメージは出ない。

 ニューゲンはモニターのチェックを続ける。

 

(強化人士6号はパーメットの彼方へは()()()()()()。こちらは問題ナシね)

 

 6号は自分もパーメットの彼方で永遠の命を得られると信じていたからこそニューゲンたちに従っていたのだが、6号への改造手術にはそのための加工は含んでいない。

 

 

 

 デュラハーンが放ったビームが、サウザーン軍のモビルクラフトを吹き飛ばす。

 わずかな時間だけ霧が晴れ、針葉樹の森の向こう、暮れゆく日差しに、きらめくサウザーン湖が見えた。

 

(懐かしいわ……)

 

 サウザーンはニューゲンの生まれ故郷だ。

 

 北西でウェスタニス、北東でイストラントと国境を接するサウザーン神聖共和国は、アドステラの暦が始まるよりも前の時代の戦争で、水源の山と下流の谷が地形が変わるほどの攻撃を受け……

 国土の九割を飲み込む巨大湖ができあがった……

 

 デュラハーンが巻き起こした風が収まり、霧が再び舞い降りて、景色をただの白に塗り直す。

 戦車は動きを止めたがパイロットの生体反応は残っている。

 デュラハーンの銃口に光が集まる。

 

「待って。使い道を思いついたわ」

 

 AIがデュラハーンの銃口から光を消した。

 

──どうするの?──

 

 通信機から、数年前にイストラントにザウォート・ヘビィを売り込む際に取り入った高官の息子の声がした。

 

「ご心配なく、すべてワタクシにお任せください。それより坊っちゃまは例のことをお急ぎをば……」

 

──本当にウェスタニス側だけでいいんだよね?──

 

「当たり前でございましょう?」

 

──ん──

 

 ニューゲンがあざけるように口の端を釣り上げたのは、坊っちゃまには伝わってはいない。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 イストラント。

 スレッタの学校を夕日が照らす。

 職員室の窓越しにスレッタは校門を見守るが、アシャケが顔を出しそうな気配はない。

 

(アシャケさんが行きそうな場所……ここのほかには……)

 

 机の真ん中に置いた通信端末にメールが届いた。

 

(アシャケさんからっ?)

 

 セセリアからだった。

 

『アシャケ・キカヌ君については音沙汰なしです。イリヒ君とシノーメさんとエビィ君は、ラウダ先輩の引率で無事にアスティカシアに帰ってきました』

 

 至ってマトモな文章を、スレッタの脳内でセセリアのいつもの口調に変換して読み上げる。

 フェルシーとケレスさんは情報収集に、ペトラはオルコットのGUND義体のメンテナンスにかかりきりになっている。

 

 スレッタは通信機をしばしいじって首をかしげた。

 

「あ。ミオリネさん。すみません、別に用事とかはなくて。通信機の調子が悪いのかなって、確かめようと思ってかけてみたんです。グエルさんと繋がらなくて」

 

──うーん。それならサウザーン湖に行ったんじゃない?

 あの辺りはドローン戦争の影響で、普通の通信機の周波数じゃ電波が通じないのよね──

 

 

 

   △△△△△△△△△△△△△△

    

       ノーザーン  

       共和国跡地

 

///////////////////

         /

  ウェスタニス / イストラント

    共和国  /   共和国

         /

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

△△△△△   サウザーン  △△△△△

△△△△△   神聖共和国  △△△△△

△△△△△  oooooooooo  △△△△△

△△△△△ 8        8 △△△△△

△△△△△ 8 サウザーン湖 8 △△△△△

△△△△△ 8        8 △△△△△

△△△△△  oooooooooo  △△△△△

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

──でも立ち入りの許可をもらうのは難しいでしょうね──

 

「湖の汚染がひどいんでしたっけ? 一匹の魚も泳いでないとか。グエルさん、無茶しないといいんですけど」

 

──それもあるけど……あそこってサウザーン教徒の聖地なのよ──

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 サウザーン湖。

 ニューゲンの第二コックピット。

 

──本当にやるの?──

 

 ダムに爆弾を仕掛けに行ったはずの、お坊っちゃまの元少年兵が、なおもしつこく聞いてくる。

 

「どうかなさいました? まさかウェスタニスへの攻撃をためらっておられるので?」

 

──まさか! ただ……その……なんで今さら? って……──

 

「本当はもっと早く壊してしまいたかったんですけどね。騒ぎを起こせば計画を嗅ぎつけられる恐れがありますから。ほら、アナタの学校の先生みたいな人とかに」

 

──ん。でもこれ、大昔の施設なんでしょ? そのころからそんな、隠さなくちゃいけないぐらいすごい研究ができてたの?──

 

「念には念を、ですよ。さぁさぁ、お急ぎくださいな」

 

──そう……だね……これでウェスタニスに一泡吹かせてやれるんだ……──

 

 ニューゲンは胸中で小さく溜め息をついた。

 面識のある子供(道具)が向こうからすり寄ってきたのでコンペ落ちした機体に実験のつもりで乗せてみたが、果たしてどれほど使えるのやら。

 

(面倒なガキね)

 

 ほかの三つの研究所とは違い、ニューゲンがここで消したいのは研究の成果ではない。

 

(あんなガキに言って何になるのよ)

 

 アドステラの暦が始まる前。

 ニューゲンたち四人が若く可憐だった日の、四人以外の誰にも見られたくない艶姿の写真が残っているなどと、わざわざ伝える必要はあるまい。

 

 ニューゲンは、霧に紛れて子供にバレないように、イストラント側のダムにも爆弾を仕掛けにデュラハーンを飛ばした。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「祈るしかないわ」

 

 プラントからプラントへ飛び回る宇宙船の中で、スレッタと電話を繋いだまま、ミオリネは静かに目を閉じた。

 

「アスティカシアの生徒の身に、悲しいことが起きませんように」

 

 ほんの三年前まで『チャンスさえあれば』と叫び続けたアーシアンの声は、ベネリットグループ解散によってソラから降ってきた富を地上に留めることができず『チャンスがあってもダメだった』というカスレた嘆きに変わっていった。

 

 だけど時が経って、三年前には若すぎてチャンスに手を伸ばせなかった人たちが、かつての『チャンスさえあれば』と同じトーンで『教育さえあれば』と叫ぶようになってきた。

 

 その言葉に応える場所は、この広い宇宙において、今はアスティカシアしかない。

 

「だからお願い……教育のチャンスを与えられた子が、それでも幸せになれなかったら、もう打つ手なんて残ってない……!」

 

 

\ \ \ \ \

 

 

 カルとの戦いでボロボロになったジム・エアリアルは、株式会社ガンダムに運ばれて修理中。

 サウザーン湖に行くすべのないスレッタは、通信機から流れるミオリネの声を聞きながら星空を見上げた。

 

「わたしのせい……なんですよね。アシャケさんをアスティカシアに送った張本人ですから」

 

──そんなこと……──

 

「どうしてもアシャケさんを……イリヒさんもですけど……あの子たちをアスティカシアで学ばせてあげたかったんです。

 だってほら、少年兵って、禁止じゃないですか。

 イリヒさんは英雄になりたがってましたし、アシャケさんは実際に英雄だったみたいですけど、むしろ……汚点、なんですよ。少年兵って。国にとっては。だから地球にいると危なくって」

 

 幸せになれない運命を、変えてあげられるはずだった。

 スレッタにできることはすべてやった上で子供たちをグエルに託した。

 

──そうね……悪いやつをぶちのめしても、大きな事件を防げたとしても、あのアシャケって子を救えなければ私たちにはバッドエンドなのよね──

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 真っ白な霧にかすむサウザーン湖を眼前に、グエルはダリルバルデのフライトユニットをホバリングに切り替えた。

 

 見上げれば煌々と輝く満月。

 見下ろせば深い霧から先端だけを突き出す針葉樹の森。

 モニターが、緯度からみても季節的にも異様というべき気温の低さを告げている。

 

 霧が晴れる日は年に数回しかないが、そのときは湖底に眠るいくつもの寺院が見られるらしい。

 

(スペーシアンが勝手に湖に入れば新たな紛争の火種になりかねない。アシャケがいないなら早めに引き返そう)

 

 一刻も早くアシャケを見つけたい気持ちと、こんな寂しい場所には居てほしくないという想いとを、同時に抱えて視線を巡らす。

 ここでは通常の通信機やレーダーは機能しない。

 

 森の端っこで何かが光った。

 短く三回、長く三回、そしてまた短く三回の点滅。

 

(SOSのサインだ!)

 

 ダリルバルデの高度を下げて駆けつける。

 光の主は、ハロだった。

 オレンジ色のハロのかたわらで、戦車型のモビルクラフトが、この土地ならではの不自然な寒さを浴びて白い湯気を上げていた。

 

 戦車のハッチから誰かが手を振っている。

 しかしその振り方は、助けを求める雰囲気ではない。

 

(追い払うようなハンドサイン? なぜ?)

 

 次の瞬間、湖で爆発が起き、霧が吹き散らされた。

 

 魔法めいた氷の(つぶて)がダリルバルデめがけて降りそそぐ。

 ただの氷ならモビルスーツの装甲に当たったところで意味がない、と、普通ならば思うだろうが。

 グエルはダリルバルデの膝からペレットマインを発射し、破裂させ、爆風で氷の礫を吹き散らした。

 

 わずかな飛沫がダリルバルデの二の腕をかすめると、ジュッという音とともに小さな穴が開き……

 それだけで終わらず、周囲の金属が溶けて穴がみるみるうちに広がっていく。

 

「くっ……」

 

 ビームサーベルで傷口を周囲の装甲ごと切り落とし、フェアリーブラッドで穴を塞ぐ。

 

 これこそがサウザーン湖の汚染。

 湖ができたときに水没した化学兵器工場の毒液が、外の世界に漏れ出さないよう、大量の冷却薬を流し込んで湖面を凍らせて封印しているのだ。

 

(囮だったのか!)

 

 グエルが戦車に目をやる。

 先ほどのハロが戦車の下に潜り込んで自爆した。

 

(人質だったのか!?)

 

 戦車が人を乗せたまま吹き飛ばされて空に舞う。

 迷わず助けに飛ぶダリルバルデの背中めがけて、霧に紛れた敵のドローンがビームを浴びせかけてくる。

 

「アンビカー!」

 

 盾型ドローンがダリルバルデの肩から離れて敵のビームを防ぐ。

 

「行け! イーシュヴァラ!」

 

 ダリルバルデの腕型ドローンが本体よりも速く飛び、戦車が落下を始める直前の、重力が消えた瞬間にキャッチする。

 霧の中から飛び出してきた、ハロにヘリコプターのプロペラを生やしたドローン五機の追撃を、伸びるつま先(シャクルクロウ)で牽制して、グエルは湖から離れた。

 

 

 

 

 霧の森に身を屈め、戦車を地面に下ろす。

 湖の周囲では十機以上のヘリコプター・ハロがこちらを捜している。

 

 グエルはダリルバルデの頭部のリングをくるりと回して羽根ペン型ドローン(ヘルメス)を射出して、戦車に接触させて通信を繋いだ。

 

「この羽根に乗ってください。自動で安全な場所まで運んでくれます。やつらは俺が引きつけます」

 

──貴方は何者だ? 何の目的でここに来た?──

 

「俺は――」

 

 

 手短に事情を告げると、モビルクラフトのハッチが開き、重傷を負った中年男性が若い男性に支えられながら這い出てきた。

 

 中年男性のパイロットスーツの胸元に、隊長の印と並んで、サウザーンの宗教的指導者としての高い地位をも示す印が描かれている。

 あるいは宗教的な地位ゆえに隊長役を任されているのかもしれない。

 サウザーンはそういう国だ。

 

 隊長がダリルバルデの指先に手を置いた。

 祈りを唱え、終えて、気を失う。

 

──赤き騎士よ、貴方には聖地に入る資格が与えられました──

 

 ヘルメスを通じて若い隊員がそう告げた。

 

 

 

 

 湖の中央、白い霧の奥。

 漆黒のガンダム・デュラハーンが、ダリルバルデの赤を見つけて、ビームアルケビュースの銃口を向ける。

 

 振り向きもせず盾型ドローン(アンビカー)でビームを防ぎ、飛び去るヘルメスを見送って、振り向きざまにダリルバルデからもデュラハーンにビームを放つ。

 

 激しく撃ち合い、飛び来るビームをかいくぐって接近し、二機目のヘルメスを射出してデュラハーンの肩に当てて通信を繋ぐ。

 

「アシャケか!?」

 

──薄汚い子供と間違えないでちょうだい──

 

「ニューゲン……か……あなたも生首なのか?」

 

──だったら何?──

 

「同じ機体をすでに討ち破っている! あなたに勝ち目はない!」

 

──もちろん追加装備を用意したわ──

 

 ダリルバルデの背後で、湖の氷がランスのように鋭く尖って突き上がった。

 

 

 

 

 




みなさま、たいへん長らくお待たせお待たせいたしました!
(待っててくれた人、いらっしゃいますよね??? いるならいるって言ってくださいませっ)
Σ(*´◯`ノ)ノ

戦闘描写に苦戦していますが最終話も半分ほど書き終わっておりますゆえ、どうかご期待を!
最後までお付き合いくださいませませー!
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