【完結済・続編計画中】されど悪役令嬢は斬り結ぶ 作:野太刀あきら
犯人は暴けた。
だが、この事件が反乱前の不祥事として広まれば、ウィンザー公爵は必ず計画の中止を命じる。
それでは断罪イベントに間に合わなくなる。
そんなこと、絶対に許されない。
(……流れを変える)
私は一歩、セシルに近づいた。
焦りを押し殺し、あくまで優雅に微笑む。
「――ほほほ……! あぁ……おかしい!」
思わず吹き出す。
張り詰めた空気が、一瞬だけ軋んだように揺れた。
「何がおかしい?」
セシルが低く問いかける。
私はくすくすと笑いながら、息を整えて言った。
「いえ……あなた、今なんとおっしゃいました?
“か弱い女性”? “フェアじゃない”?」
ゆっくりと、腰の細剣に手をかける。
鞘から抜ける瞬間、金属音が静寂を裂いた。
「私が? “あなたごときより”弱いですって?」
セシルの表情が変わった。
その僅かな歪みに、私は確信を得る。
アニメで見たあのシーンが脳裏をよぎる。
「女みたいな顔しやがって」と笑われた敵を、
血の海に沈めた、あの場面。
「……あら、ごめんなさい。うっかりしていましたわ」
わざとらしく口元に手を当て、嘲るように微笑む。
(これは賭け。でも――流れを変えるには、これしかない)
「剣よりも、“ダンス”でお相手したほうがよかったかしら――お嬢さん?」
空気が、一瞬で凍りついた。
セシルの瞳がゆっくりと細まり、深く冷たい光を帯びる。
まるで氷の下で雷が鳴るような、静かな怒り。
「……言ったね」
その声は低く、震えるほどに冷たい。
底には、押し殺した怒りが確かにあった。
私は唇の端をつり上げた。――狙い通り。
◇
――現在。
「リリアナ、その“お嬢さん”って煽り……とんでもない地雷だよ」
モブロックが呆れたように言った。
彼は少し真面目な顔をして続ける。
「セシルにはね、誰よりも“男らしさ”に執着する理由があるんだ」
私は静かに耳を傾けた。
「彼、幼いころさ。家の政略の都合で女装を強いられてた時期があったんだよ。
細い体に整った顔立ち、声まで高くて、周囲からは“セシリアお嬢様”って呼ばれていたらしい」
(……セシリアお嬢様、ね)
想像してみたら、思わず苦笑が漏れた。
あのセシルが、そんな屈辱を味わってきたなんて。
「それが、彼の中で深い傷になったんだ。
だからこそ、“男らしく”“正々堂々と”が彼の口癖になった。
戦う時も絶対にフェアプレイ。
――あれは単なる気取りじゃなくて、信念なんだよ」
モブロックの言葉に、私は小さく頷く。
なるほど、あの時あれほど怒った理由がようやくわかった。
唇に指を当て、ふっと笑みを漏らす。
あの時のセシルの目――氷のように冷たく、けれど確かに“人間らしい怒り”が宿っていた。
今思えば、あれは彼なりの“誇り”だったのだ。
「効果はてきめんでしたわ」
私は不敵に笑った。
「いや、それ完全に喧嘩売ってるでしょ……」
モブロックが額を押さえる。
「セシルを排除するには、どうしても“決闘”という正当な形が必要でしたの。
毒も密約も、これ以上は泥沼ですわ。――だから、挑発したのです」
カップの中で、紅茶がゆらりと揺れる。
琥珀色の液面に、自分の笑みが歪んで映った。
「彼の誇りを、真正面から踏みにじってでも」
◇
セシルはわずかに目を伏せ、静かに息を吐いた。
次の瞬間、鞘から閃光が走る。
「ぐっ……!」
鋭い音。
双剣が抜かれ、空気が震える。
魔法双剣《ルミナス・フェンサー》。
淡く光を放ちながら、雷を纏う細身の刃。
その光が床を照らし、壁を照らし――私の瞳にも映り込んだ。
「リリアナ、僕は君に――決闘を申し込む」