【完結済・続編計画中】されど悪役令嬢は斬り結ぶ   作:野太刀あきら

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Ep.2

「出た! レオンだよリリアナ! ゲームだと隠し攻略キャラだったんだよ!」

 

「……隠し攻略キャラ、セドリックみたいな?」

 

「そう! 普通にプレイしてても出てこないんだ!

ダンジョン探索してるとランダムで遭遇して、一定回数イベントを踏むと仲間になるの!

 

しかもとある遺跡を一緒にクリアすると“レオンエンド”に分岐するんだよ!

プレイヤーの間じゃ“みんなのアニキ”って呼ばれててさ!

 

――しかも彼は王国南部の…」

 

「はぁ……」

 

呆れ気味にため息し、モブロックを黙らせると私は話を先へ進める。

 

 

その後、私は彼のパーティ――《不滅の疾駆(イモータル・ラン)》の面々に引き合わされた。

レオンの隣には赤髪の少女ミレイユ、そして黙って荷を整理する黒髪の青年カイル。

 

最高位であるプラチナに次ぐゴールド等級のパーティは数少なく、

彼らはその中でも優れた実績を誇っていた。

 

「素人のお嬢さんを死地に連れて行くわけにはいかない」

 

同行を願い出た私に対するレオンの言葉に対し、私はきっぱりと答えた。

 

「心配には及びません。腕には覚えがありますので」

 

レオンは目を細め、やや挑むように笑った。

 

「ならば証明してもらおうか。

依頼を一つ、共にこなせれば認めよう。

俺たちにとっては造作もない難度だが、君にはどうかな?」

 

その挑戦を、私は受け入れた。

 

 

数刻後。

 

薄暗い森に潜む狼型の魔物を退治する依頼。

群れの一体が唸り声を上げ、鋭い牙を剥いた。

 

私は迷わず剣を抜く。

「――はあっ!」

 

鋭い一閃。

レイピアの切っ先が獣の首を裂き、鮮血が宙を舞う。

流れるような身のこなしに、レオンの瞳が驚きに揺れたのが分かった。

 

「……見事だ。その若さで、まるで洗練された剣士のようだ。

その剣、誰に習った?」

 

胸の奥がふっと温かくなる。努力して積み重ねてきたものを認められるのは、素直に嬉しい。

 

「セドリック・モルデン様という方に教えていただきました」

 

「あのセドリック殿か!」

 

レオンの表情がわずかに引き締まる。

 

「だが、弟子を取ったという話は初耳だな」

 

「セドリック様をご存じなのですか?」

 

「直接会ったことはない。だが――あの《不敗の銀狼》を知らぬ者など、この国にいないさ」

 

その言葉に、私は思わず目を見開いた。

(……こんなところまで二つ名が轟いている。やっぱりセドリックって、すごい人だったのね)

 

心の奥に、誇らしさと少しの懐かしさが入り混じった。

 

 

魔物討伐後――

 

レオンが静かに私を見つめていた。

あの鋭い青の瞳が、先ほどまでの試すような色を失い、真剣に評価する光を帯びているのが分かった。

 

「……なるほどな。口先だけではなかったか」

 

彼はゆっくりと頷いた。

「これなら《黒鋼》に同行させても問題あるまい。君の実力、確かに見せてもらった」

 

胸の奥がかすかに弾んだ。認められた――そう思うと、自然と口元が綻んでしまう。

「ありがとうございます。足を引っ張ることはいたしませんわ」

 

レオンは少し口元を緩めて、しかしすぐに真顔に戻った。

「ただし、命を張る場所だ。覚悟だけは忘れるな」

 

私は一歩踏み出し、その眼差しを正面から受け止める。

「もちろんですわ」

 

さあ、いよいよ《黒鋼の迷宮》攻略だ。

 

 

だが、その帰り道。私は奇妙な違和感に気づいた。

ふと腰のアイテム収納ポーチを探る。

 

そこには常備しているスタミナポーションが並んでいた。

――一本も減っていない。

 

いつもなら戦闘ごとに一本は消費しているはずだ。だが今回は一滴も口にしていない。

そう思った瞬間、さらに気づく。

 

(……そういえば、汗をかいていない。息も……切れていない?)

 

この身体は体力がない。

短時間でも戦えば肺が焼けるようになるのが常だった。けれど今は、胸の鼓動すら穏やかだ。

 

おかしい。何かが決定的に違う。

胸の奥に、冷たい疑念が芽生えていた。

 

 

現在――

 

「私、この身体は体力がまるでないということを散々思い知らされてきたのです。

ループするたび、鍛え直してきたけれど……

 

一月という限られた期間では十分な体力を養うことができなかった。

それがこの肉体の弱点です」

 

「それもそうか、本来のリリアナはただの貴族令嬢だしね」

 

「でもその依頼のとき、私はまったく息切れしなかった。……おかしいでしょう?」

 

モブロックが腕を組んで聞いていた。

 

「つまり誰かの魔法か何かが発動してたってことじゃないの? ゲーム的に言えばパッシブスキルってやつだよ!」

 

「そう、私もそう思って最初に疑ったのはレオン。アニメ版では確か、妙に体力バカっぽく描かれていましたから」

 

「そうそう! モブキャラの冒険者に混ざって『俺はまだ走れる!』ってしつこく言ってたシーン、思わず笑っちゃったよ! ゲームでも体力は登場キャラの中で一番だったし」

 

「ですが彼に尋ねても、『魔法なんて使えない』と。ミレイユにも聞きましたが心当たりはない、と」

 

モブロックは首を傾げる。

 

「じゃあ残るは……カイル?」

 

「ええ。でも彼も『そんな力はない』と首を振ったのです」

 

リリアナの瞳に、冷たい光が宿った。

 

「――ですので、直接確かめるしかありませんでした」 

 

 

(……全員否定した。嘘をついている風でもなかったから、本人も気づいてない力?ならば、確かめればいいだけのこと)

 

ループを前提にすれば、方法はいくらでもある。

 

もし体力を強化できる魔法があれば黒い影の軍勢への切り札になるかもしれない。

 

私は静かに毒を煽った。

 

 

次の周回。

 

同じ依頼、同じ森。

私は仲間と肩を並べて進む。

 

だが途中、皆の距離が少し離れた隙をついて唐突に剣を翻した。

 

「っ!? 何を――」

 

レオンが振り返った瞬間、その胸をレイピアで貫いた。

青い髪が鮮血に濡れ、彼はその場に崩れ落ちる。

 

……けれど、呼吸は乱れない。足も軽い。

「……レオンじゃない」

 

 

さらに次の周回。

 

今度はミレイユの背を狙った。

詠唱を始める唇を切り裂き、彼女は悲鳴もなく倒れる。

 

だが、まだ私は疲れ知らずだった。

「ふむ。ミレイユでもない」

 

 

三度目の周回。

 

残るは一人――カイル。

静かに剣を構え、彼に歩み寄った。

 

「――ごめんなさい」

レイピアが心臓を突き破る。

 

黒い瞳が驚愕に揺れ、血が土を濡らす。

 

その瞬間だった。

 

全身に鉛のような重みが戻り、呼吸が荒くなった。

肺が焼け、足が鉛のように重い。

 

「……確定ね」

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