【完結済・続編計画中】されど悪役令嬢は斬り結ぶ   作:野太刀あきら

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Ep.5

「ここは……」

 

カイルの声が震えた。

「ええ。前回、私たちが退いた場所」

 

だが今回は違う。

背後には、カイルに運ばせた大量のレイピアが山のように積まれていた。

 

折れればすぐに新しい刃を取り、休むことなく攻撃を続ける。

そして――カイルの加護があれば、私は疲れ知らずに戦い続けられる。

 

「準備は整ったわ」

 

私は赤い瞳を光らせる巨人を見据え、レイピアを握りしめた。

(さあ、殺し合いましょう。何度でも挑んで、必ず突破してみせる)

 

最奥の戦いが始まる。

 

◇

 

「ちょ、ちょっと待って! 作戦って……まさか、大量のレイピアと無限の体力で休まず戦って、コロッサスを倒すってこと!?」

 

私は小さく肩をすくめた。

 

「ええ、そうですわ」

 

「いやいやいや、脳筋すぎるでしょ!何か作戦がある風の言い回しだったから期待してたのに……もっとこう……魔法で攻撃するとかさ!」

 

「私、魔法は得意じゃありませんの。ご存知でしょ?」

 

「じゃ、じゃあ罠を使うとかさ! 上手いこと誘導してさ!」

 

私は小さくため息をつき、首を横に振った。

 

「あのコロッサスという敵、決してあの場所を離れないんですよね。困ったわ」

 

「うーん……うーん……」

 

モブロックは必死に唸っていたが、結局なにも思いつかないらしい。

私は口の端をゆっくり吊り上げ、不敵に笑った。

 

「これまでの話からわかるでしょ? 私の持ち味は――根気と暴力ですわ」

 

弱点だった体力問題が解決した今、あとは単純明快。

 

「ひたすら削って、削って、削り抜くだけですわ。簡単な作業です」

 

私が平然と言い放つと、モブロックが両手を振りながら悲鳴に近い声を上げた。

 

「やっぱりキミ、おかしいよ……!」

 

◇

 

巨人が動いた。

 

赤い光が閃き、黒鋼の腕が振り下ろされる。

床が砕け、轟音が広間に反響した。

 

衝撃波に吹き飛ばされそうになりながら、私は地を蹴って避ける。

 

「ッ……!」

 

その隙を狙い、レイピアを突き出した。

刃は甲冑に弾かれ、甲高い音を立てただけだった。

 

(……やはり正面からでは無理か)

 

私は呼吸を整え、狙いを変える。

巨体の関節部――膝や足首、装甲が幾分薄いそこなら、ほんのわずかに刃が通る。

 

ひたすら突き、斬り込み、隙あらば刃を叩き込んだ。

硬い金属に刃が食い込み、甲高い火花が散る。

 

少しずつだが、確かに関節部には傷が刻まれていく。

しかし――。

 

ガキィンッ!

 

乾いた音とともに、私の手から衝撃が走った。レイピアの刃が真ん中から折れ、無様に床に転がったのだ。

 

「……ッ!」

 

打撃強化の付与術を施した特別製のレイピア。

だが元は対人用の細剣、耐久力などたかが知れている。

 

本来なら、こんな鉄の塊を斬るための武器ではない。

それでも――。

 

(私には、これしかないのだ)

 

背後にはまだ積まれたレイピアの山がある。

ならば、いけるところまでいくしかない。

 

次の瞬間、折れた剣を放り捨て、すぐさま新しい一本をカイルから受け取る

「……いいでしょう。何本でも折ってご覧なさい」

 

私は新しいレイピアを握り直し、赤い瞳を光らせる巨人へと踏み込んだ。

(削るまで、砕くまで、何度でも挑む。それが私の戦い方ですわ)

 

「寄越しなさい、カイル!」

「ああ!」

 

カイルが震える声で返し、次の剣を投げ渡す。

私は途切れぬ連撃を続けた。

 

斬れなくともいい。削るのだ。少しずつ、少しずつ。

だが――

 

「……ッ」

 

視界を覆う黒い影。

巨人の拳が振り抜かれ、逃げ場を塞いだ。

 

次の瞬間、私は潰され、意識が途切れた。

 

◇

 

目を開けると、再び自室のベッドの上。

私は唇を舐め、歪んだ笑みを浮かべる。

「上等ですわ…!」

 

◇

 

二度目。

 

私は巨人の攻撃を紙一重で避け、脇腹へと剣を突き立てた。

火花が散り、鋼がきしむ。

 

だが成果は微々たるもの。

焦りが生まれた瞬間――

 

ドゴォォォッ!

巨人の蹴りが直撃し、私は骨を砕かれて絶命した。

 

◇

 

三度目。

 

今度は足を狙う。

連撃、連撃、連撃。

 

剣が次々と折れ、山のように積んだ武器が消費されていく。

それでもまだ倒れない。

 

(ならば、倒れるまで続ければいい。私は死ねば戻れる)

 

◇

 

何度目の挑戦だったか。

巨人の胸部装甲に、大きな亀裂が走った。

 

中から淡く光る核が覗く。

「……見えた」

 

私は最後の一本を握りしめ、渾身の突きを放った。

「砕けえええええ!!!」

 

レイピアの切っ先が核を貫き、鋭い悲鳴のような金属音が響いた。

巨人が震え、赤い光が瞬く。

 

そして――轟音と共に、その巨体が崩れ落ちた。

「……やった……」

 

私はその場に立ち尽くした。

しかし、胸の奥には確かな勝利の熱があった。

 

(ようやく……削り切りましたわ)

 

◇

 

巨像が崩れ落ちた後、広間の奥の重々しい扉を見据えた。

息を整えながら近づくと、その扉は鈍い音を立てて開いていく。

 

中は――不自然なほど広い空間だった。

黒鋼の壁はどこもかしこも焼け爛れ、斬り裂かれたような跡が走っている。

 

まるでここで、かつて激しい戦いでもあったかのように。

そして、奥に横たわっていたものを見て、私は思わず足を止めた。

 

巨大な骨。

ドラゴンのそれだと、すぐにわかった。

 

今はただの白骨と化しているのに、なお空気を圧迫するような威容を放っていた。

壁にもたれかかるように晒されたその骸は、どこか悲壮ですらあった。

 

だが……。

 

「……これだけ?」

 

がっかりした。

迷宮の最奥まで来て、待っていたのはドラゴンの死骸だけ。

 

宝の一つも見当たらない。

だが――私は見逃さなかった。

 

ドラゴンの胸を貫くように、赤黒い杭が突き立っていた。

まるでその巨体を壁に縫い付け、永遠に逃さないように。

 

私は吸い寄せられるように歩み寄った。

近づいてみれば、それはただの杭ではなかった。

 

柄のような形があり、全体の輪郭は――

「……剣?」

 

自然と手が伸びていた。

指が柄を掴んだ瞬間――

 

――バンッ!!

 

重い衝撃が走り、空間全体が震えた。

長い年月が経っていたからだろう――ドラゴンの骨は粉々に砕け散り、白い粒子となって宙を舞う。

 

気づけば、私は“それ”を引き抜いていた。

右手に握られたのは、赤黒く鈍く光る無刃の剣。

 

その剣から響く唸りのような音。

――カルヴァロス――確かにそう聞こえた。

 

そして気付いた。

驚いたことに、確かにここにあるはずなのに、この剣“重さを感じない”。

 

「……なんて……」

なんて軽いのだ。羽のように。

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