【完結済・続編計画中】されど悪役令嬢は斬り結ぶ 作:野太刀あきら
なんだか、妙な気分だった。
僕の方が“リリアナ”として過ごした時間が長いはずなのに、
今こうして目の前に立っている彼女の方が、ずっと“リリアナらしい”気がする。
腕を組んでジト目を向ける彼女は、まるで鏡の中の自分を見ているかのようだ。
「……それにしても、やってくれましたわね」
「はは、まあね。君の人生めちゃくちゃだよ? これから大変だと思うけど」
「ええ、まったくですわ!」
ぷくっと頬を膨らませて、ぷんすか怒ってみせる。
でも、すぐに少しだけ視線を逸らして、小さく呟いた。
「……ですが」
その声音が、ほんの少し震えていた。
「あなたのお陰で、私は命拾いしました」
「……え?」
「それに、あの鼻持ちならないアレクシスを、ブチのめしてくれました」
その言葉に思わず吹き出した。
ツンツンしてるのに、ちゃんと感謝してくれるあたりが、なんとも彼女らしい。
「……もしかして、ずっと見てたのかい?」
「当然ですわ。私は、この身体の本来の持ち主ですもの」
そう言って、ツンとそっぽを向く。
でも、その頬は少し赤かった。
「あなたが必死に足掻いて、戦って、何度も何度も繰り返して……」
「……あなたがいたからこそ、私は救われましたわ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「……なんだか、自分に褒められてるみたいで、変な気分だよ」
僕がそう言うと、彼女はふん、と鼻を鳴らした。
「まあ、これからは私が、この身体を引き継ぎますわ」
「……そうか」
ああ、やっぱりここでお別れなんだ。
長かったループも、この世界も。
ようやく終わりが来たのだと、心のどこかで理解していた。
「……一人で大丈夫かい?」
思わず、そんな言葉が口からこぼれる。
リリアナは少し驚いたように瞬きをして、ふっと柔らかく笑った。
金色の髪が、光を受けてゆっくり揺れる。
その瞬間――僕は息を呑んだ。
(……やっぱり、綺麗だな)
これまで“僕の身体”だったはずなのに、
こうして対面すると、まるで別の人間のようだった。
不思議で、少し切ない感覚。
そんな僕を見て、リリアナがくすっと笑う。
「本当のあなたは、意外と小さかったんですのね」
「え……?」
視線を落とすと、手が――小さい。
服の袖が長く、足元も妙に軽い。
目線も彼女よりずっと低くなっていた。
(……戻ってる? 中学生の僕の身体に……?)
「ふふ、結構可愛いお顔をしていらっしゃるのね」
「な、なんだよ!」
思わず後ずさると、彼女が一歩踏み出してくる。
紅い瞳が、からかうように細められた。
「もう少し背が高くなったら、そうですわね……うちの使用人くらいにはしてあげますわ」
「……なんでそんな上から目線なんだい?」
「ですから、きっとまた会いに来なさいな」
「……え?」
何を言おうとしたか、その瞬間。
――ちゅっ。
「っ!?!?」
ほっぺたに、柔らかい感触が走った。
驚いて目を見開く僕に、彼女は満足げに微笑んだ。
「ありがとう。さようなら」
その笑みは、少し寂しくて、でも凛として美しかった。
眩い光があたりを満たしていく。
彼女の姿が、光の粒に溶けていく。
――そして僕の意識も、静かに白い闇へと沈んでいった。
(……唇、震えてた……)
最終章完結です。次からエピローグになります