「ごきげんよう・・・とも言えませんわね、叔父様・・・。」
起動兵器の開発、製造を行っているマオ・インダストリーのオルレアン工場に、一人の少女が訪れる。その場にはおよそ似つかわしくない育ちのよさそうな様相、後ろには執事らしき高齢の男性を引き連れている。
「マナミか、それにローレンスも・・・映像は見せてもらった。ART-1だったか、あれは確かにどう見てもR-1の流れをくむ機体だな。」
人型起動兵器開発の第一人者であるカーク・ハミルが現れた少女、ハミル伯爵家令嬢、マナミ・ハミルとその執事、ローレンス・ジェファーソンに挨拶を交わす。
マナミは陰ながら支援しているレジスタンス組織、マーチウィンドのセレイン・メナスから送られてきたART‐1とアルトアイゼン・リーゼの映像をカークに確認してもらう。
「だが俺もロブもそんな物を作った覚えはない。平行世界や未来のRシリーズだと言われれば納得するしかないだろうな。markⅢの方も・・・随分とアレンジされている。大型化したクレイモアにお蔵入りしたリボルビングバンカー、彼女の好みそうな仕様だ。」
そう語るカークの表情は何処か暗い。
「マリー叔母様はまだ・・・?」
「ああ、まだ軍に拘束されたままだ。」
ゲシュペンストmarkⅢの設計者でカークの伴侶でもあるマリオン・ハミル(向こう側では離縁しているが)、彼女はmarkⅢの暴走後、軍に拘束され事情聴取を受けている。
アインストの存在が明確化されていないこちら側の世界において、ゲシュペンストmarkⅢの暴走は不可解な現象であり、新連邦はその原因が設計者である彼女の企てであると疑っていた。
「パイロットを暴走させるような非人道的なシステムはいくつか確認されているけど、マリー叔母様がそんな真似するわけが無いわ!」
「ああ、だが連邦軍の一部には元々マオ・インダストリー自体を良く思っていない者達も多い・・・俺のせいでな。」
カーク・ハミルには、かつて開発中だったブラックホールエンジンの暴走事故によって月面の連邦軍施設[テクネチウム基地]を消滅させた過去がある。テストパイロットだったライディ―ス・F・ブランシュタインはその事故で死亡。生存者は開発者であるカークと同席していたイルムガルド・カザハラ中尉の二名のみだった。
「社長も流石にしばらくは立ち直れないだろう・・・。ユアン常務が頑張ってはいるが、このままいけば新連邦の要請のままマオ社の生産ラインを全てザドックやその後継機に変更するしかないだろうな・・・。」
そのイルムガルド・カザハラの駆るグルンガストもまた、SRXと共にベーオウルフに破壊された。マオ・インダストリー社長、リン・マオからすると自社製品が恋人の命を奪う結果となった。
さらに新連邦軍の主力がザドックに切り替わったため、すでに旧式の量産型のゲシュペンストmarkⅡはもちろん、エルアインスの受注も止まり、立ち行かなくなりつつあったマオ社にとってmarkⅢの暴走は致命的な打撃となった。
「俺達で話していても仕方が無い事だな。・・・例の物は仕上がっている、こっちだ。」
カークが話を切り上げ、マナミたちを奥のハンガーに誘導する。
その先には50M近くある女性的なフォルムの紅の人型ロボットが固定されている。
「美しい・・・これがスイームルグ。見事です、カーク叔父様。」
「ああ、このスイームルグはマナミ、お前の祖父が引いた設計図を基に再現した機体だ。とは言えやはりエルブルスが無ければ未完成と言わざるを言えないが・・・。」
「私の方でも、今その図面を探して先々代の交友関係を当たっているところでございます。」
「図面の足りない部分を独自に補完することも出来る。・・・現にシャドウミラー隊のSMSCアンジュルグは簡易的な転移システムを武装に応用することでスイームルグとは全く別物の傑作機に仕上がっている。」
スイームルグはシャドウミラーが運用していたアンジュルグに酷似しているが、その背面には翼が無かった。
どうやらエルブルスという名の支援機とドッキングする事で真の力を発揮出来る仕様のようだ。
「いいえ、それではおじい様の手がけた機体とは言えなくなる・・・私が求めるのはあくまでおじい様の設計した機体・・・・!!?」
突如、工場内に警報が鳴り響く。
「この警報はいったい!?」
「緊急アラート・・・どうやら近くの採掘作業現場で重力震反応が検知されたらしい。これは・・・インスペクターの物だ!」
▼▼
「まさか地球人が発掘作業に当たっているとは・・・アレは本当に復活しているのか?」
ゲストの使用する輸送戦艦[ゼラニオ]のブリッジで、戦争商人のコミュニティ[ゴライクンル]に所属する傭兵、グロフィス・ラクレインが指揮官に尋ねる。
地上には巨大なクレーターがあり、その中心部ではインスペクターの起動兵器[レストジェミラ]が何かの作業を行っている。
辺りにはレストジェミラに破壊された作業用ロボット[ランボルト]や防衛用の無人機[フレイル]が残骸となって散らばっている。
「アレは驚異的な回復力と無尽蔵のエネルギーを持つ、正真正銘の化け物です。間違いなく復活しているでしょう。」
ゴライクンルの傭兵にしてこの部隊の指揮官であるキナハ・ソコンコが答える。
「けれど結局は地球人の部隊に倒されたんでしょ?過大評価なんじゃない?」
同じく傭兵のシュリコ・ハバーテが茶化すように言葉を発する。
「地球人もまた、それだけ危険な種族だという事ですよ。ウォルガの監査官殿やソガルの書記官殿は地球人を闘争本能のみに特化した種族と評していたが、そんな蛮族に対して何故ああも迂闊に接触できるのか理解に苦しむ。」
「それほどまでにどうしようもない種族とも思えないが・・・。」
キナハの様子を見てグロフィスがそう語る。
「そうは言っても、翻訳機で同じ言語で話してるのにこっちの意図が伝わらないしね。お坊っちゃん達の通告内容を全然理解できてなかったみたいだし、姿形は同じでも全然違う生き物だと考えた方がいいわ。」
今度はシュリコが述べる。「お坊ちゃん」とはインスペクターの首魁、ウェンドロ・ボルクェーデの事だが、圧倒的に立場が上の彼に対する敬意は無いようだ。
インスペクター、ウォルガの先遣部隊は地球人を未成熟な種族であると判断し、地球人に対し地球を自分たちの管理下に置くと通達した。
地球人から見ればいきなり他所者が現れ、今後は自分たちが地球と人類を管理すると言われても納得できるものではない。
しかし逆に異星人である彼らからすれば地球人が何故自分たちの通告を拒否し、反抗するのかが理解できなかった。
彼らには解らない、何故銀河辺境の小さな一つ惑星に過ぎない地球の人類が、多数の惑星で構成される恒星間共和連合国家であるゾヴォークに従おうとしないのか。
そして地球人は知らない、インスペクターがどれほどの規模の異星人なのか、自分たちがどれほど宇宙社会から取り残された存在であるかという事を。
結果として戦争が起こり、地球は大きな被害を受け、ウォルガは従来通りの仕事のはずが手痛い失敗を味わう事となった。
「なんにせよ、アレを倒した地球人の部隊となると限られるだろう。例のハガネか?」
「いいえ、アレを撃破したのはライフ(Liberation Front of the Earth)、地球解放戦線機構と言う連邦とは別の勢力よ。ゲリラや傭兵、民間人で構成された組織。元々は連邦軍とは地球人同士の小競り合いを続けてたけど、坊っちゃん達の先遣部隊に抵抗するために協力体制をとっていたみたいだけど、今はもうそれも解消されているわ・・・。」
かなり以前から地球に潜入していたシュリコが説明する。
「なんにせよ、地球人の軍隊などとは遭遇したくはありません。早くこの仕事を終わらせて・・・!!?」
キナハの言葉を遮るように、突如として作業中のレストジェミラが撃墜される。
「な!?・・・何が起こったというのです!?」
キナハがうろたえる。爆炎が止むと、レストジェミラの残骸の上に女性的なフォルムをした50M級の紅の人型ロボットが立っていた。
△
「あれはインスペクターの起動兵器、という事はあの緑色の戦艦は奴らの物なの?」
「以前の防衛戦争では確認されておりませんが、恐らくは・・・。」
マナミとローレンスが駆るスイームルグが離れたところから状況を確認する。
「あのランボルト、いったい何を発掘していたのかしら・・・?ひょっとしてインスペクターの目的も同じ物なの?」
「マナミお嬢様、もしもインスペクターの指揮官クラスが居るとすれば、我々だけで事に当るのは危険かと・・・。」
マナミとスイームルグの単騎での初陣にローレンスが危機感を覚える。
「確かにそのとおりね。ローレンス、敵はインスペクター、あの人たちに救援を・・・!」
「承知いたしました。[オーダーUX-E9]を要請いたします。」
マナミの指示でローレンスが緊急コールを発動する。
「私たちは先に敵の数を減らしましょう、アッシャークルーで奇襲よ!」
「承知しました。スイームルグを戦闘モードに移行・・・武装選択、アッシャークルー。」
マナミの指示に従い、ローレンスは火器管制を操作していく。
「アッシャークルー、シュート!!」
スイームルグの胸元からリング状の光線が発射され、レストジェミラを攻撃する。
「ライトニングソード!」
スイームルグは続けて巨大な剣に雷を纏わせ、クレーターの中心部のレストジェミラを薙ぎ払った。
▽
「地球人の機体か?SMSCアンジュルグに似ているが、新型機か・・・?」
「噂をすれば影が差す、地球人の諺は実に的を射ているわね。鹵獲すれば特別ボーナスが期待できるかしら?」
「単騎で仕掛けてくるとは理解しがたい・・・あの機体がどれほどの物かは知らないが、地球人はやはりまともではないな。」
ゼラニオから3機の起動兵器、レストグランシュ、カレイツェド、そしてその後ろにゲイオス=グルードが現れる。
「見慣れない機体・・・ひょっとして指揮官機なの!?」
「見たところどれも20級、標準サイズですが・・・油断は禁物で・・!!?」
マナミとローレンスが初めて見るゲストの量産機を警戒するが、次の瞬間グロフィス・ラクレインの駆るカレイツェドがスイームルグに高速で接近しながらスプレッドミサイル、レーザーバルカン、メガビームランチャーを順に繰り出してくる。
「きゃあああ!!?」
「むう・・・・なんの!」
グロフィスの操るカレイツェドの強襲を受け、ローレンスが必死にスイームルグの姿勢を立て直す。しかし間髪入れずにシュリコのレストグランシュがスイームルグの背後に回り込み、ツインレーザーソードで斬りかかる。
「くっ・・・速い!?」
マナミはライトニングソードでレストグランシュの斬撃を防ぐ。
『今のを防ぐなんて、趣味的な機体の癖になかなかやるじゃない?』
レストグランシュとスイームルグが組みあったタイミングで、シュリコがマナミに話しかける。
「どうやら乗っているのは女性のようでございますね?」
「それはそうよ、あのフォルムの機体に男が乗ってたら気持ち悪いもの。っていうかそっちも趣味的じゃない!」
レストジェミラ、レストレイルが爬虫類のような尾を生やしたデザインだったが、その延長線上の上位機種であるレストグランシュはバイオロイド兵による運用を想定しているにも関わらず何故か女性的なフォルムをしている。(そして後に向こう側の未来において、その機体に乗る男は現れる)
『言い得て妙ね。私たちは忘れ物を取りに来ただけなのだけど、ついでにその機体も貰ってあげるわ。』
「何を勝手な事を・・・!!」
スイームルグがレストグランシュをパワーで弾き飛ばす。
『ランチャーミサイル!』
レストグランシュは弾かれながら距離を取る。そして同時にその胸の装甲が開き、ミサイルを発射する。
「胸からミサイルだなんて、なんて下品な武装・・・アッシャークルー!!」
マナミがレストグランシュのいわゆる[おっぱいミサイル]に文句を言いつつ、スイームルグもまた胸元からリング状の光線を発射し、ミサイルを相殺する。
『そんな所からビームを発射しておいてよく言えるわね?にしても思ったよりもいい腕ね、お嬢ちゃん?』
「驚いた?うちの執事は有能なの!」
『執事?なるほど、その一緒に乗っているバトラーとやらが有能なのね?』
シュリコがどうやら執事(バトラー)と言う言葉を翻訳しきれず、『戦う者』と言う意味で捕えているらしい。
「一気に決めるよ、御曹司!」
レストグランシュの腕が空を切ると、そこから無数のエネルギーが発生し、レーザーキャノンが発射される。
「御曹司はやめろ、タイミングはこちらで合わせる!」
そして今度はカレイツェドが接近し、レーザーブレードで斬り掛かってくる。
シュリコとグロフィス、傭兵二人の巧みな戦術にスイームルグが徐々に押され始める。
「このままじゃ・・・!?」
「はい、これで終わり。コックピットだけを撃ち抜いてあげる!」
レストグランシュの花弁のような肩部装甲が開き、スイームルグの胸部に向けてドライバーキャノンの標準がロックされる。
「避けきれない!?」
しかし、ドライバーキャノンは発射されない。レストグランシュは沈黙し、その後爆散した。
突如、一体の機影が現れ、光の手刀でレストグランシュを背後から貫いたのである。
「待たせたな、マナミ嬢!」
現れたのは傭兵部隊[アンノウン・エクストライカーズ]のリチャード・クルーガー、地獄の処刑人と呼ばれる男だった。
【ロボット紹介】
[スーパーロボット大戦64]
スイームルグ
[第三次スーパーロボット大戦Z]
ランボルト
[ACEシリーズ]
フレイル
【人物紹介】
[スーパーロボット大戦64]
マナミ・ハミル
ローレンス・ジェファーソン
[告死鳥戦記(小説)]
シュリコ・ハバーテ
[スーパーロボット大戦UX]
リチャード・クルーガー(CV:小杉十郎太)
【余談】
マナミ・ハミル、名字が一緒なのでカーク・ハミルと親戚っぽくしてみました。
せっかくの並行世界なので遊び心からカークとマリオン・ラドムは離婚してない設定にしてみようと思って書いていたら、なんかマオ社の状況が暗くなっていって遊び心が死にました。
グロフィスやキナハはゼイドラムやオーグバリューではなく、あえてカレイツェド、レストグランシュ、ゲイオス=グルードと言ったOGであまりクローズアップされなかったゲストのメカを使う事にしました。
シュリコは原作小説で、グロフィスは第四次Sでそれぞれゲイオス=グルードに乗っているので、ゲイオス=グルード3連星というパターンも考えましたが、たぶんこの三人はそんなに仲良くないので却下。