美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み 作:角が二本
「オオオぉあああッ!!」
神速。
超常にある英霊の領域においてさえ、そう称することしかできない速さで青い槍兵は狂戦士に牙を剥く。その様は意思を持つ稲妻の如し。
ステータスにおいては
そのスピードから繰り出される槍撃の雨。四方八方から降り注ぐそれは、木々を、岩石を、獣を、悉く殲滅し森林を更地へと変える死の雨だ。
しかし、
「■■■■!!」
その
「────ち、つま先から頭のてっぺんまで打ち抜いたってのに効果なしかい。ったく、アンタの不死身の急所はどこにあるのかねぇ!」
そう。ランサーはバーサーカーの宝具の攻略のため、攻撃を仕掛けていた。確かに『
だが、全身への攻撃も、ネメアの獅子の逸話を考慮した徒手空拳での攻撃も、死因から逆算した雷と炎のルーンも悉く無効化された。
「となると後はヒュドラの毒だが……流石にそれは用意できん。いやあ、参った参った」
勝機の見えない絶望。その最中にあっても男は朗々とした笑みを崩さない。
翻弄されるバーサーカー。その姿を見て、たまらぬとばかりに少女は叫んだ。
「何をしているの、バーサーカー! あなたは最強の英霊なのよ、そんなやつ、さっさと潰してしまいなさい!」
「■■■■ッ!!」
その命令に応えるように鉛の巨人は咆哮する。
戦術、戦略、戦技、それらは狂化のスキルによって失われた。それでも、生涯に渡る闘争で染みついた
「うおッ!?」
瞬間、落雷の轟く音とともに瀑布のように砂礫が舞い上がる。それらは天然の煙幕となってランサーの視界を塞いだ。
「ハッ、これで目眩しのつもりか。子供騙しにもなりゃしねぇよ。
穂先から炎が噴き出す。ランサーが槍を一回転させれば炎は竜巻となって粉塵を吹き飛ばした。
そして視界が晴れる。しかし、眼前に、バーサーカーはいなかった。
「なに───?」
周囲を見渡す。
正面と背後、左右、頭上───どこを見てもバーサーカーの姿はない。
逃げたのか? 否、そんなはずはない。確かにランサーはバーサーカーを翻弄していたが、それでもまだ、バーサーカーの方が圧倒的に有利な状況だった。逃げる理由などない。
ならば、あの巨躯はどこに消えた……?
ランサーはバーサーカーがいた場所を凝視する。そして気づいた。陥没し、凹凸ができた大地に隠れてよく見えていなかったが、そこには地中へと続く大穴があった。
「ッ───!」
ランサーがその場から飛び退るのと、バーサーカーが足元から地面を突き破って出てきたのは同時であった。
「■■■■■■■■■■───!!!」
振り抜かれる豪剣。ランサーは空中にいる。回避は不可能。
魔槍を挟み受け止めるか? 無理だ。魔槍ごと両断される。
ならば、
「廻れ!
空中に刻むルーンは
即興だが、最高ランクの炎の盾だ。
───最も、それもこの狂戦士の前では気休めにしかならないが。
「が、あ、…あ…!」
パリン、とガラスが割れるような音を立てて魔術が砕ける。その勢いのまま、斧剣はランサーの腹を裂き抉り、空高く薙ぎ飛ばした。
* * *
「これで今度こそ終わり。どう、ランサー? 少しは後悔してくれたかしら」
無様に地に伏せるランサーにイリヤはそう問いかける。返事はない。それも当然だろう。大地に染み込む血の量、こぼれ落ちた臓物。
もはや彼は戦える体ではない。生命を維持することすら難しいだろう。
長い静寂の後、イリヤはため息をつく。この英霊にもう意識はないのだろう。ならば、これ以上の問答は不要だ。
イリヤは自らの従者にトドメをさせと命令しようと手を振り上げ、
「なる、ほど、………ねぇ……」
立ち上がった英霊の姿にピタリと手を止めた。
「うそ、あなた、まだ……」
驚愕するイリヤ。彼女に槍兵は獰猛に笑いかけた。
「生憎だが、この程度でくたばれるなら、俺は英雄になんぞなってねぇ」
男は地面に転がる臓物を己の体内に戻しながらそう宣う。そして彼は少女から視線を切ってバーサーカーを見た。
「それと、理解したぜ。アンタの不死性の穴」
ランサーは斧剣を握るバーサーカーの右腕、その前腕についた火傷を指さす。それは先ほどバーサーカーが砕いた魔術の破片がつけた傷だった。
「───
ランサーが姿勢を低く槍を構える。
ぐらり、陽炎のように空間が揺らいだ。朱い槍に禍々しい魔力が渦巻き、鳴動している。
ランサーがルーンを込めると槍は更に不吉に輝いた。
「受けるがいい、我が必殺の一撃を!」
「! バーサーカー!」
濃密な死の気配にイリヤは己が従者に警告をとばす。だが、それには一足遅い。
ランサーはすでにバーサーカーの懐に潜り込んでいた。
「"───
奔る朱い稲妻。
バーサーカーはそれを防ごうと巨大な斧剣を盾のようにして胸の前で構える。
「無駄だ。狙えば必ず心臓を穿つ因果の槍、それ故に必殺!」
魔槍の穂先は空間ごと捻じ曲がり、あり得ない軌道を描いて斧剣を通り抜けた。
「■■■■………」
バシャンと水風船が弾けたみたいな音を出してバーサーカーの体内で槍が爆ぜる。
それらの死棘は、心臓のみならず彼の臓腑の九割を破壊して死に至らしめた。
たが、それも一時の間だけ。鉛の肉に神気が迸り、時計を逆向きに回すように胸の孔が修復される。身に宿る神の祝福が彼を蘇らせたのだ。
「ま、一発じゃ殺せねぇだろうな。
だったら───たらふく食らわせてやらぁ!」
ランサーがもう一度、魔槍に魔力を込める。彼の宝具は消費する魔力が少ない。現時点の保有魔力なら、後五回は発動できる。
耐性とやらが邪魔をするだろうが、それでも後三つはもっていけるはずだ。
「"───
しかし、それは甘い考えであったとすぐに思い知らされた。
魔槍による鮮烈な死が彼の戦士としての本能を呼び覚ましたのか、彼はランサーの宝具に完璧に対応して見せた。
「■■!」
宝具の発動時に"溜め"が必要であることを見抜き、間合いの外から倒木を投擲して妨害、距離を詰めて攻撃。
「てめぇ……!」
またランサーが宝具を発動しようとすれば、間合いの外に逃れて投擲。一撃離脱による対処。
「……はあ。切り替えがうめぇなおい。ほんとにバーサーカーか? アンタ」
ランサーは悟った。どうやら宝具で楽に殺させてはくれないらしい、と。
「くく、ああ、まったくしょうがねぇ。
なら、普通に殺そうか……!」
全身にルーンを刻み、ステータスを向上させる。速力はこのままでいい。上げるのは筋力のみ。
技巧はこちらが上、攻撃さえ通れば殺せる。
「いくぜぇえ───ッ!!」
「■■■■■■───!!」
大地を踏み砕き、神速で駆けるランサー。先ほどまでのバーサーカーはその槍撃に反応できなかった。ならば、ここに繰り広げられるのは先の再現に他ならず、バーサーカーは一方的に蹂躙されるのみ。
そのはずだった。
「おっ!? なんだ、さっきより剣筋が冴えてんじゃねぇか! アンタも温まってきたってわけだ!」
だが、今回のバーサーカーは違う。
斧剣を出鱈目に振り回すのではなく、盾のように構え、回避と防御に重きを置き、隙ができれば拳打でカウンターする。
合理的な行動だ。
「だが、足りないな。それじゃあ俺は捉えられねぇよ」
ルーンより放たれた炎の幕がバーサーカーの視界を覆う。
斧剣を一閃し、かき消す。晴れた視界。ランサーはいない。
背後から風を切る音。
「意趣返しだ、食らっとけ!」
振り向き、砲弾のように飛びかかる青い影。
ランサーの蹴りを左腕で受け止めた。
骨が折れたが、構わない。頭に受けていたら頭蓋を砕かれていただろうから。
それよりも次の攻撃に警戒しろ。
やつの得物を───?
そこでバーサーカーはランサーが魔槍を持っていないことに気がつく。
そう、ランサーは炎のルーンで目眩しをすると同時に槍を空へと投げ上げていた。バーサーカーの背後に回り込み蹴撃をしたのはその後、
つまり───今、槍はバーサーカーの背後にある。
「来い! ゲイ・ボルク!」
その声に従い、魔槍は主人の手元に戻るため飛来する。そして、対角線上にあるバーサーカーの頭部を串刺しにした。これで二つ目。
「■、■■■……!」
「早えな、もう復活か。いいぜ、上等だ。このまま三つ目ももらっていく!」
復活して早々に繰り出されるバーサーカーの拳撃。それをひらりと躱して、ランサーは巨人の首に組みつく。
首に槍を突き立てる。が、引けない。耐性の獲得によって攻撃が通りにくくなっているのだろう。
ランサーはルーンで筋力をもう一段階増強し、強引に槍を引く。
バーサーカーの首が半ばまで引き裂かれ、血がシャワーのように噴出した。これで三つ目。
「■■■!」
「おっと!」
バーサーカーが自分の体ごとランサーを岩壁に叩きつけようとしたので、寸前で離れた。
「あと九つ、か。どうやって削り切るかね」
ランサーは己の手札を確認する。ルーンによる強化はあと二段階は上げられる。
……だが、
「アレを殺し切るには魔力が足りねぇな。あー、頑丈にも程があるだろ。ファルディアのやつを思い出すわ」
呆れ混じりにぼやく。
本当に規格外な陣営だ。サーヴァントも、おそらくはマスターも。今回の聖杯戦争の最高戦力だ。
これに勝利するには己の魂の全てを燃やし尽くさねばならないだろう。
「望むところだ」
眼前の狂戦士を睨む。そして昂るままに戦闘続行の意思を示し───
───そこまでだ。ランサー。
あまりにも無粋な
「……今とりこみ中だ。見て分かんねぇのか」
───分かっていないのはおまえだ。おまえの仕事は全てのサーヴァントと戦い、相手の力量を測ること。倒すことではない。
この方針に逆らうのならば、令呪を重ねがけするしかないが、それがお望みかな。
「………チッ」
ランサーは舌打ちを一つして、戦意を抑える。そしてバーサーカーに背を向けて岩壁を駆け上った。
「……逃げるの、ランサー?」
「ああ、甚だ不本意だがな。勝負は次の機会に預けるぜ、お嬢ちゃん。それまでにせいぜい、俺以外のやつに首を取られないよう気をつけな」