美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み   作:角が二本

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第十五話 ニートへの第一歩

 

「しねええええぇッ!!」

 

 ランサー陣営襲撃の翌日。アインツベルン城の一室で城主たるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは淑女にあるまじき罵声を上げていた。

 

 罵声の対象は対面するTV画面の奥、主観視点のシューティングゲームに登場する腐ったヤツ(ゾンビ)である。

 このゲームは昨日、イリヤが街で購入したものだ。遊喜が欲しいと言っていたのを覚えていて、お姉ちゃんとして懐の深さを見せるために買ってきたそうだ。

 

 遊喜が大怪我を負ってしばらく安静にしていなければいけないのもあって、今は二人でこのゲームをプレイしている。

 最初は良かったのだ。イリヤも遊喜と純粋にゲームを楽しんでいた。しかし、ある程度、操作に慣れた時、イリヤが

 

『なーんだ、意外と簡単じゃない。もっと歯ごたえが欲しいわね』

 

 と、ゲームの難易度をイージーからハードにしたせいで攻略は難航し、結果としてストレスがオーバーフローしたイリヤがこんな感じで叫んでいるというわけである。

 

「……イリヤー、難しいからイージーに戻さない?」

「ダメ! ここで難易度下げたら、わたしがこんな死徒のなり損ないに負けたみたいじゃない!」

「『みたい』って………事実さっきから負けまくってるじゃん」

「今から本気出すの! だからさっきまでのはノーカン!」

 

 顔を真っ赤にしてコントローラーを弄るイリヤの姿に、遊喜はなんだか生温かい目になってしまう。今まで外見は相応な大人っぽい仕草ばかり見てきたから、目の前のイリヤには新鮮な気分になった。

 親近感湧く(ガキっぽい)なぁ、と。

 

 そんなこんなでかれこれ十回目のリトライ。横暴なご主人様の命令に従い、いざ、今一度、試練(ゲーム)に挑まん───と言ったところで。

 

「お嬢様! いつまでそのような遊戯に興じているのです! もうモーニングの時間なりますから、いい加減におやめになってください!」

 

 セラお母さんが部屋に乱入してきた。さっきからずっとノックをしていて、主人の許可が出るまで律儀に入室を待っていたようだが、流石に堪忍袋の緒が切れたようだった。

 

 

 * * *

 

 

「それじゃあ、これからの方針について話し合いましょうか」

 

 朝食を終えた後、陣営一同を講堂に集めてイリヤはそう宣言した。

 

「しばらくは籠城する、これで決定。はい、解散」

 

 五秒で終わった。

 

「……お待ちを。お嬢様、それでは話し合いとは言えません」

「あら、でもこれが最善でしょ? こちらはチヨメが戦闘不能で、敵サーヴァントは二騎。たぶんランサーでバーサーカーを押さえて、もう一騎でわたしを狙ってくると思うわ。

 さすがにわたしもサーヴァントに襲われたら身を護るのは難しい。守りを固められる魔術工房に引きこもるのは悪くない選択ではないかしら」

「む………」

 

 セラが唸る。ゲームなるものを手に入れてから出不精になっている主人を危惧して口を挟んだが、確かにそう考えると悪くない、と。

 だが、納得しかけているセラとは異なり、遊喜は不安を抱いた。

 その場で挙手して発言の許可を求める。

 

「何かしら、遊喜」

「………イリヤが言ってた守りのことだけど、この城の魔術工房だけじゃ足りないと思う。あの黄金のサーヴァントは、そのランサーと同等か、それ以上に危険だろうから」

「ふーん……なら、工房の強化でもするべきかしら」

「………ぼくは、協力者を増やすべきだと思う。昨日、街に降りた時に、イリヤ、言ってたよね。兄に令呪が浮かんでたって……」

 

 言葉の先を察したのか、イリヤは顎に手を当ててうーんと首をひねる。そうしてしばらく考え込んで、やがて苦い顔をした。

 

「……だめよ、一つの陣営にサーヴァントが集まりすぎるのは良くないもの」

「? なんでさ」

「聖杯には、ひとつの陣営にサーヴァントが偏って聖杯戦争が進行しなくなった時の予備システムとして、ルーラー含む八騎の英霊を追加召喚する機能が備わってるの。

 ……サーヴァントがどれだけ増えてもわたしのバーサーカーの敵じゃないけど、ルーラーの存在は厄介よ。全てのサーヴァントに対して令呪を保有してるんだから」

 

 だから徒に自陣営のサーヴァントを増やすことはしたくないとイリヤは言った。ただ、その態度は、欲しいものを理由をつけて欲しくないと言う子どものように見えて、何か他に兄の所に行きたくない理由があるのではないかと遊喜は思った。

 そこで今まで沈黙していたリズが口を開いた。

 

「………イリヤ、ゲームの続きしたい、だけ」

「な、ち、ちがうわよ!」

「お嬢様………やはりあのげーむなるもの、時間制限を設けるべきでは………」

「ちがうって言ってるでしょ! ああ、もう。セラとリズは城の魔術加工を強化して。ほら、早く行きなさい」

「……承知いたしました」

了解(ラジャー)

 

 メイド二人が退室した。

 

「………ぼくは?」

「わたしの部屋。いっしょにあの巨人の死徒もどきを殺すわよ」

 

 その後、遊喜が眠れたのは深夜の二時を回った頃であった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 そして翌日、アインツベルンの城は要塞となった。門の前に立ったイリヤは自分の城を見上げて満足そうに頷いた。

 

「完璧ね。結界十二層、魔力炉二器、番犬がわりの悪霊・魍魎数十体、無数のトラップに、廊下の一部は異界化させている空間もあるわ。

 ふふ、アポイントメントも取らない無礼なお客様にはアインツベルンの魔術工房をとっくり堪能してもらおうじゃない」

 

 得意なイリヤの説明口調。頼もしい……はずなんだが、なんだか破壊される前振りのような気がする、と遊喜は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ───同日、衛宮邸に一人の女が訪れた。青い髪と瞳で尖った耳の美女。士郎の知り合いにこんな浮世離れした女性はいない。

 

「えっ、と………どちらさまでしょうか……?」

 

 士郎の問いに彼女は無言で返す。代わりに答えたのは、いつの間にか彼の隣に来ていた相棒───セイバーだった。

 

「……シロウ、彼女はサーヴァントです。今は敵対の意思はないようですが、この後もそうかは判りません。私の傍から離れないように」

「え……?」

 

「ふ………勇ましいのね、剣の英霊。けれどそれは無用な警戒よ……貴女のマスターは必ず私の提案を受け入れるわ」

 

 同盟の申し出に来たのだと女───キャスターは言った。

 

「今回の聖杯戦争、 バーサーカーのクラスの英霊としてヘラクレスが召喚されているわ。私たちはその脅威に対抗するためにライダーと既に同盟を結んでいる……けれど、これでもまだ戦力としては不足よ。故に、貴女に声をかけたの、セイバー」

 

 キャスターの話はまさしく脅威の災害の来訪を知らせていた。

 ヘラクレス───ギリシャ神話最大の英雄。伝承によればその力は山を割り、天空を支えるほどであったとされ、いくつかの物語では神にすら勝利している無双の男。

 そんな存在が理性の無い狂戦士としてこの街で暴れ回れば───それは、十年前の大火災を上回る被害をもたらすだろう。

 

「……セイバー、俺はこの話、受けた方がいいと思う」

「シロウ………」

 

「───けど、俺は一人で戦ってるわけじゃない。この戦争を終わらせるのにセイバーの力を借りなくちゃいけない。だから、セイバーの意見も聞きたいんだ」

 

 セイバーはどうしたい、そう聞いてくる士郎にセイバーは瞠目する。大抵の魔術師はサーヴァントを道具扱いするというのに、このマスターは自分を対等な仲間として見ている。それは魔術師としては未熟な証だが、人としては信頼に値する人柄であった。

 

 セイバーはキャスターを見据え、熟考した。

 大英雄ヘラクレス……確かに脅威だ。不完全な召喚と未熟なマスターに足を引かれて弱体化した今の自分では逃げることすらままなるまい。

 ならば同盟を組み、この脅威に対抗できるというのは悪くない話だ。この魔女の言葉が真実で、信用に値すれば、だが。

 この交渉、キャスターのマスターの姿はない。

 直感はキャスターの存在に警鐘を鳴らしている。たがそれが、キャスターに対してのものなのか、キャスターと同盟を組んだ結果戦うことになるバーサーカーに対してのものなのか判断がつかない。

 よってセイバーはもう一つ判断材料を求めた。

 

「キャスター、私としてもその同盟を受けてもいいと考えている。だが、それにはひとつだけ条件がある」

「条件ね……いいわ、聞いてあげる。何かしら?」

「こちらの真名を開示する。故に、貴様の真名を名乗れ、キャスター」

「───」

 

 沈黙。場を奇妙な緊張感が支配した。

 たっぷり十秒ほど経った後、キャスターは返答する。

 

「それは無理ね、セイバー。条件を変えてくれないかしら」

「そうか」

 

 キャスターの言を吟味して、セイバーの腹は決まった。

 

「───マスター、私はこの同盟に反対します。キャスターは信用に値しません」

「……ああ、判った。悪いな、キャスター。同盟の話は無しにしてくれ」

 

 その答えを聞いてキャスターはため息をつく。予想できていた展開だ。セイバーのような清純な英霊相手では自分は信頼を勝ち取れない。

 だから信頼はなくとも同盟を結ばざる得ない切り札を用意した。

 

「そう。ならこの話を聞いても、貴方に心変わりはないかしら」

 

 キャスターは懐から小さなプラスチックカバーを取り出した。それは名前を書いた紙を中に入れてクリップで胸元に留める名札として使うものだ。冬木市のある小学校で採用されているものである。

 そこにはこう書かれている───衛宮遊喜、と。

 

「衛宮遊喜………坊やの弟は今、バーサーカーのマスターに囚われているわ」

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