美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み   作:角が二本

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第十七話 間が悪いっす、千代女さん

 

 結論から言えば、士郎の潜入は上手くいった。

 それというのも、キャスターに与えられた魔術礼装が余りにも高性能であったおかげだ。

 

 古代ギリシャにはエジプトのかんぬきを改良したパラノス式錠という鍵があった。士郎が城の窓や扉、十二層の結界すら自由に開閉できたのはそれによく似た独特な形の金属板の礼装を使ったからだ。

 

 さらに腕に装着された古めかしい青銅の手鏡……鏡というよりは盾のような形だが、これには魔力を感知する能力があった。

 これにより、城に仕掛けられたトラップや異空迷宮化した階もマッピングされ、弟の居場所を絞り込むことができた。

 

 そして白い鉱石。これには助けられた。途中に運悪くすれ違った悪霊に勘づかれそうになった時、キャスターに言われた通りに石を投げるとそれは眩く発光し、それの意識を刈り取ったのだ。

 

 士郎は知らないことだが、これらの高性能な礼装は全てキャスターにとっては片手間に作成したお粗末な品である。今は同盟を結んでいるが、いずれ敵になる相手に有用な道具を贈りたくないと考えてわざとグレードの低いアイテムを渡したのだ。

 にも関わらずこの圧倒的な性能。サーヴァント中でも五本の指に入る最高峰のキャスターの面目躍如といったところか。

 

 有象無象が相手ならば(・・・・・・・・・・)十分以上に成果を挙げられた。

 

「────止まれ」

 

 その声が聞こえたその瞬間にはもう衛宮士郎は詰みの状態になっていた。手足に苦無が無数に突き刺さり、廊下に這いつくばる。

 

「なっ!? が、あぁ……!」

 

 苦痛に喘ぎながら、士郎は下手人を見る。

 

「貴様、何者だ」

 

 姿を現したのは黒髪の小柄な少女だった。高く見積もっても中学二年くらい。見目は整っているが、巫女装束と忍び装束をかけ合わせたような奇妙な装いをしている。

 一見して痛いコスプレ少女だが────放たれている殺気が尋常ではない。人間が放つ気配ではない。

 

「お、まえ……サーヴァント、なのか……?」

 

 疑問は当然であった。士郎は訊いている。アインツベルンのサーヴァント・バーサーカーの特徴を。

 目の前の少女はそれに全く当てはまらない。新手のサーヴァントだ。

 

 つまりそれは、強力無比なヘラクレスが他のサーヴァントと協力しているという絶望的な事実にほかならず────

 

「問いかけているのは拙者の方だ」

 

 士郎の思考はそこで唐突に遮られた。千代女が掌をかざす。するとそこから黒い靄が這い出し、士郎に巻き付いた。

 

 激痛。否、もはや"痛み"と表現することすら憚られる灼熱が全身の神経を焦がす。

 

「ギ……ッ!?」

「その手の刻印……貴様はこの儀のマスターだな。使役する英霊はなんだ。それらの道具はなんだ。何のために、城に踏み入った」

 

 千代女は士郎と視線を交わす。黒檀の瞳には虚偽を許さない冷酷な光があった。

 虚実を混ぜて話せば、もしくは沈黙を選べば、その時点で彼女は士郎の首を刎ねるだろう。

 士郎は生唾を飲み込んだ。

 

「……俺は、セイバーのマスターだ。キャスターの力を借りて、お前らの城に忍び込んだ」

 

「────ほう。ならば矢張り、それらはキャスターの拵えた道具か」

 

 千代女の声のトーンが一つ落ちる。"キャスター"という単語を出してから明らかに彼女の殺意は高まった。

 

 ……何か、地雷を踏んでしまったのだろうか。しかしここで黙る選択肢はない。こうなれば士郎にできるのは、正直に己の事情を説明することだけだった。

 

「ここには、弟を救けるために、来た」

「……………なぬ?」

 

 だが、予想外の間隙ができた。なぜかは判らないが、士郎が目的を告げると、千代女は間の抜けた顔で硬直した。殺意が薄まり、士郎の身を蝕む呪が解けた。

 それは千代女が自身のマスターから訊いていた家族のことを思い出したからなのだが、士郎にとってそんなことは知るよしもなく。重要なのは目の前のサーヴァントから注意が逸れたことであった。

 

「……貴様、いえ、あなた、御名前は────」

「っ! 今だ!」

「え、ちょっ!?」

 

 士郎は少女に白い石を投げつける。これから放たれた光を浴びることは霊体にとって酸の雨を浴びるようなものだ。

 千代女は咄嗟に呪いの影を外套にして光から身を守る。稼げた時間は数秒。しかしそれだけあれば"これ"を使うには十分だ。

 士郎は拳を掲げ、握りしめた。

 

「来てくれッ! セイバーァアアアアッ!!」

 

 敵に見つかってしまった。こうなれば最早、速攻するしかない。

 

 士郎の令呪が発光し、一角消失する。次の瞬間、主人の願いに応え、膨大な魔力が奇跡を起こした。

 空間を跳躍して白銀の騎士が召喚された。

 彼女は召喚されてサーヴァントの姿を捕捉すると、即座に裂帛の気合を入れて敵へと突撃する。

 

「はぁあああッ!!」

「待て! ちょっと待て(タイム)でござ────ごっふぁッ!?」

 

 風王鉄槌。剣圧は風の砲弾となって呪いの盾ごと千代女を吹き飛ばし、ガシャン、と城の壁を突き破って外に放り出した。

 追いかけて追撃を加えようとするセイバーを士郎は止める。

 

「待ってくれセイバー。追わなくていい。それより早く遊喜の所に向かいたい」

「……判りました」

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「どうやら、坊やは失敗したみたいね」

 

 チラリと先ほどまでセイバーがいた場所を流し見てキャスターは言う。

 間桐慎二はそれに忌々しそうに鼻を鳴らして応えた。

 

「そんなこと、どうでもいいさ。それよりさっさと攻め込もうぜ、キャスター。衛宮に獲物を盗られちまう前にさ」

 

 慎二は興奮が抑えられない様子だった。まるで新しい玩具で遊ぶ子供のように、サーヴァントという兵器(おもちゃ)を使う機会を待ち望んでいた。

 ライダーはそれを冷めた目で見つつも、マスターの言葉に素直に従い。鉄杭を構え、臨戦態勢となる。

 キャスターも空に浮かんで杖で天を衝くと、彼女の周りに紫紺の粒子が発光し、幾つもの魔法陣が展開された。

 

「……それならば、先制攻撃といきましょうか。まずは、この粗末な工房を解体しましょう」

 

 淡紫のエネルギーが莫大な熱を帯びて魔法陣に収束する。それはさながら、地獄の業火のように。

 神話時代、自身から夫を奪い取った王女を城ごと焼き尽くした大魔術。それがついに解き放たれる。

 

「"神言魔術式・灰の花嫁(マキア・ヘカティック・グライアー)────!"」

 

 そして、淡紫の砲弾が撃ち放たれる。極光の柱が雨のように降り注ぎ、城の結界・城壁が尽く砕かれ、蹂躙される。

 ただの一撃、但し宝具に匹敵するその魔術は、一瞬でアインツベルンを守る外郭を剥がし、丸裸にしたのだ。

 その美しくも凄惨な光景に慎二は愉しげに、ひゅう、と口笛を吹いた。

 

「いいね。派手にやるじゃないか。僕たちも行くぞ、ライダー!」

「……ええ、了解しました。マスター」

 

 廃墟と化した城から無数の魑魅魍魎がキャスターたちに襲いかかる。

 ライダーは両手を交錯させるように鉄杭を投擲した。蛇の如く鎖がうなる。鎖に彼女の意思が宿っているのか、鉄杭は複雑怪奇な軌道を描き、魍魎を刺し貫いていく。

 ライダーは突き刺さった鉄杭をそのままに華奢な腕からは想像できないほどの膂力で鎖を振り回した。

 即席のモーニングスターの出来上がりだ。

 

()っ!?』

■■■■ (グギャア)……!』

■■■ (ガァア)ッ!!』

 

「……大人しくしていて下さい。下手に動かれたら、優しく殺せません。長く苦しみたくはないでしょう………」

 

 血飛沫が上がり、肉片が舞う。それは一方的な虐殺であった。アインツベルンが用意した尖兵がたった一騎のサーヴァントに蹴散らされている。

 

 断っておくが、これはライダーが特別強いがために生じた状況ではない。むしろライダーの現時点での能力はサーヴァント中でも下位に位置する。

 それでも彼女がここまで優位に立てるのは、それだけ英霊という者たちが通常の霊や魔性とは隔絶した存在だからだ。

 

 サーヴァントにはサーヴァントでしか対抗し得ない。

 

「■■■■■■■■ ────!!!」

 

 故に彼女たちはその場に現れた。

 

「前は尻尾を巻いて逃げたのに、今回は態々死ににきたのね、キャスター」

 

 鉛の巨人の肩に優雅に腰掛けた少女はあどけない貌で、しかし冷酷な魔女の笑みを浮かべる。

 

「もしかして、他のサーヴァントを仲間にしたからバーサーカーに勝てるって勘違いしちゃった?

 ふふ、だとしたら、案外かわいらしい所もあるのね」

 

 傲岸に振る舞うイリヤに、キャスターは歯噛みする。予定よりバーサーカーの登場が早い。予定ではセイバーが戻ってくるまでの時間は稼げたはずなのだ。

 

「……はあ、その()を仕立てるのにも、かなり手間がかかったのだけれどね……」

 

 キャスターはバーサーカーが城から飛び出てきた時、地面に転がったそれを一瞥する。

 それは元マスター(アトラム・ガリアスタ)の遺体を、幻想種の肉とカドモスの竜化の魔術で加工した、竜と人の間の子のような異形のフレッシュゴーレムであった。

 

 彼女は衛宮士郎の潜入と同時にこれにありったけの魔術道具を持たせて敵城に送り込んだのだ。

 バーサーカーのマスターを暗殺するため。それが無理ならせめてバーサーカーの攻撃を受け止める肉盾とするために。

 

 キャスターが自身の美的センスに反してまで過剰な改造を施したことで、異形の竜人は例えキャスターが"灰の花嫁"を叩き込んだとしても死ねない化け物となっていたはずだ。

 それがこの様。もはや原型を留めない肉塊であった。

 

「気は進まないけれど、方針を切り替えましょう。どうか無理をなさらないで■■■■」

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