美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み   作:角が二本

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第六話 冬の城に労働基準法は存在しない

 

「おはよう。今朝は随分と騒がしかったね」

 

 牢屋を出てから食事を取らされ、身を清められ、燕尾服のようなものを着せられたぼくは、長い机が鎮座する食堂のような部屋に通された。

 これからイリヤによってぼくたちの処遇が決定される。そう考えると知らずのうちに体が震えた。

 口を開かない無礼者に、セラは苛立ったようで眉尻を吊り上げて叱責の言葉を投げかけようとする。イリヤはそれを片手をあげて制した。

 

「おしゃべりできるだけの余裕はない? つまらないけど、それも仕方ないわね。なら、まずはいい知らせから聞かせてあげる」

「……いい知らせ? それって、」

「ええ。あなたたちの処遇に関することよ」

 

 続く言葉に生唾を飲み込む。気分はさながら絞首台に登る死刑囚のようだ。

 顔を強張らせるぼくに、イリヤは苦笑した。

 

「結論から言うと、チヨメは生かしておくことにしたわ。もちろんマスターであるユウキもね」

「え……」

「んなっ!?」

 

 それに驚いたのはぼくよりセラの方だった。

 

「な、何を仰るのですお嬢様! この子供は、憎っくき衛宮切嗣の───」

「セラ。その話、ユウキの前ではしないよう命じたはずだけれど」

「っ! し、失言でした。ですが『それ』を抜きにしても、聖杯戦争はどうするのですか。七体の英霊の魂が無ければ、天の杯(ヘブンズフィール)は……」

「『アインツベンの悲願』についても問題はないわ。昨夜、チヨメと話し合ってそれが分かった」

「無礼を承知で進言させて頂きます、お嬢様。お嬢様はあのアサシンに騙されているのではありませんか」

「………はあ。セラは心配性ね。でも、これはアインツベンのマスターとしての言葉じゃない、聖杯としての言葉よ。今回の聖杯戦争にチヨメの存在は必要ない。これは単なる事実」

 

 だからこの件についてこれ以上、議論するつもりはない。

 そう態度で示すイリヤにセラは歯噛みする。「出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません」そうイリヤに頭を下げながら、セラはぼくを睨め付けてきた。

 ………そんな鬼の形相で見られても困る。こっちだって割といっぱいいっぱいで、話について来れていないのに。

 

「……ぼくは、千代女も、殺されない?」

「ええ、そうよ」

「……兄は?」

「それについては確約できないわ。お兄ちゃん次第だもの」

「なら、一度家に帰してほしい。兄を説得するから」

「却下よ。だって、ユウキにはこれから仕事をしてもらわないといけないもの」

 

 ………?

 捕虜に仕事とは、一体どういうことだろう。聖杯戦争関係で何かやらされるのだろうか。千代女に頼んで偵察とか?

 

「わからないの? その服を着せられてることに何の疑問も抱いてないみたいだから、薄々察してるのかと思ったんだけど」

 

 そう言われて自分の体を見下ろす。

 ……着ている服、燕尾服。仕事。え、まさかそういうこと?

 

「今日からユウキは、わたしのサーヴァント(従者)として働いてもらうわ。リズ、アレを持ってきて」

 

 壁際に控えて今の今まで無言だったリーゼリットがイリヤに一枚の書面を差し出した。これは何だろうか。契約書? いや、似てるけど少し違う気がする。

 ぼくが首を捻っているとセラがボソリと呟いた。

 

「……自己強制証明(セルフ・ギアス・スクロール)ですか」

「そうよ。これでユウキを縛ってしまえば、チヨメの暗殺も気にしなくていいでしょ。まあ、わたしはもとから心配してないけどね」

 

 何か勝手に話が進んでいる。まだやるとは言っていないのだが。

 そんなふうに思案していると、セラと会話をしていたイリヤと目が合った。イリヤは微妙な顔をするぼくにこう言った。

 

「あら、まさかとは思うけど断ったりしないわよね、ユウキ? あなたたちの生殺与奪の権はわたしが握ってるのよ?」

 

 ニッコリと小さな暴君が微笑む。

 ………なるほど、拒否権は無いと。

 

「……じゃあ、謹んで、お受けします」

 

 

 

 

 

      * * *

 

 

 

 

「いつもニンニンお館様のそばに忍び寄る人影、人妻巫女忍者和風メイド望月千代女、でござる!」

「……属性過多すぎる。千代女はどこを目指してるの」

 

 数時間後、ぼくは千代女と共に牢屋から使用人の個室へと移動させられた。晴れて捕虜の身分から脱却したわけだ。

 しかし完全に自由というわけではない。先程の契約書、『自己強制証明』と言ったか、あれの効力によってぼくの命は縛られて、千代女はそんなぼくの令呪によって縛られている。イリヤを害することがないように。

 

「どこを? そんなの決まっているでござろう、『可愛い』の極致にござる。遊喜殿くらいの男児は、こういう属性パンパンな女子が好きなのではありませぬか? ほらほら、どうです? キュンときてしまったのでは?」

 

 そう自信ありげな笑みを浮かべて千代女はその場でくるりとターンする。

 ……確かに、今の千代女はとてもかわいいと思う。暗い紺色の和風メイド服がよく似合っている。

 だが、それがぼくの好みに合うかと言うと話は別。

 

「……似合ってるとは思うよ。きゅんとはこないけど」

「またまたぁ、照れてるのですなぁ、遊喜殿は」

「…………」

「……え? 本当に照れてない? そんな馬鹿な、拙者の色香なら籠絡できると思ったのに……」

「その自信はどこからきてるの?」

「だって遊喜殿はイリヤ殿が好きでござろう? ならば似たような体型の拙者でもいけるかも、と推察した次第ですが……うむむ」

「!?」

 

 この女……! 信じられない、人の秘めた想いを平然と暴露しやがった! ぼくは反射的に首を回して部屋の隅でこちらを監視するセラを見る。彼女は微塵も感情を窺わせない表情で黙りこくっている。

 何も言わないのが逆に怖い。

 とりあえず話を逸らすか?

 

「……ごほん。それはそうと千代女。そんなコスプレみたいなメイド服、どこから持ってきたのさ?」

「ああ、これは自作でござる」

「……じさく。え、自作? 自分で作ったの? 千代女って戦国時代の人だよね? なんでそんな技能持ってるの?」

「ふっふっふっ、忍者たるものこの程度の縫い物はできて当然。もちろんその他の家事、炊事・洗濯・掃除も完璧でござる。すぐにこの城のメイド長の地位にまで登り詰めてみせますとも!」

 

 高らかに宣言し、挑戦的な表情でセラを見る千代女。煽るな、微妙な立場なんだぞぼくらは。

 セラに主を狙う悪い虫だとか、アインツベンのメイドを愚弄する不届き者だとか、悪印象持たれたらどうするんだ。

 チラッとセラの顔を覗き見る。相変わらずの無表情だ。

 

「……お二人とも、身嗜みは整いましたか」

「え、あ…はい」

万全(オールオッケー)でござる!」

「では、貴方達が清掃を担当するフロアに案内します。付いてきてください」

 

 その声は静かなものだった。意外と怒ってはいないのだろうか。

 ぼくらはセラの後ろからついて行った。部屋を出て、長い廊下を歩き、その場所にたどり着く。

 

「うっわ……何これ、広すぎ」

「それに驚くほど華美な装飾ですね。異国の城とはなんともはや、手の込んだことで」

 

 そこは玄関に繋がるロビー、いやダンスホールような大広間だった。吹き抜けの上階の中央から伸びた階段は下階のチェスの盤面のような白黒のタイルに繋がり。そこから辺りを一望してみれば、彫像だの、皿だの、絵画だのと、なんか高そうなものが壁際に陳列していた。

 

「これ壊して弁償になったらマズいよね……掃除するのに神経削りそう」

「やり甲斐があっていいではありませんか。それでセラ殿、我々の仕事はこの場所の掃除と調度品の手入れ、と行ったところでござるか?」

「いいえ、違います」

 

 ぼくと千代女は揃って首を傾げる。そして次に続く言葉に絶句した。

 

「貴方達が清掃するのはこの階の全ての部屋です。ロビー、ワインセラー、それと中庭。ああ、間違っても花壇には入らないようにしてください。荒らしたら私が貴方達を厳しく指導することになりますので」

 

 セラが肩越しにぼくたちを見る。その口角は弧を描くように吊り上がっていた。

 

「メイド長の地位に登り詰める、でしたか。大言壮語もいい所ですが、そこまで言うのならお手並みの程を拝見させていただきましょう」

 

 やっぱり結構怒ってるみたいだった。

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