美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み   作:角が二本

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第七話 ワザマエ!

 

「それで、どうしてまた牢屋の中に戻ってるの? ユウキ」

「……そんなの、ぼくの方が知りたい。なんでこの城、庭に落とし穴があるのさ」

 

 お城の清掃を始めてから数時間後、ぼくはなぜか地下の牢屋に帰ってきていた。

 庭に仕掛けられていた対侵入者用のトラップ、地下牢に直通する落とし穴に落ちたのだ。

 ちなみにこのトラップについてセラから特に説明はなかった。ぼくたちが引っかかることを見越してのことだろう。陰湿なメイドである。

 

「ああ、あの罠にかかっちゃったんだ。あんなのちょっとでも魔力感知ができれば見抜けるのに。ふふ、おっちょこちょいなのね」

「……。その評価は遺憾。昨日も言ったけど、ぼくは魔術師ってやつじゃないから、魔力感知がどうこう言われても困るし」

 

 魔術師とやらにどう見えるのかは知らないが、実際、あのトラップは一般人が肉眼で見分けられるものではなかったと思う。

 

「もしかして、この城にはあーいうのがそこら中に仕掛けられてるの? だとしたら命がいくらあっても足りなさそうなんだけど」

「んー、森とか庭園には結構置いてあるよ。でも城内にはほとんどないから、そこは安心してくれていいわ」

 

 「ほとんど」ってことは室内にもあるにはあるのか。

 全く安心できない。

 

 ぼくは思わず嘆息してしまった。それをどう受け取ったのかイリヤは不満げに唇を尖らせる。

 

「もう、さっきから暗い顔でため息ばかりついて、レディへの対応がなってないわ」

「……紳士的にエスコートでもして欲しいなら、まず檻から出してもらいたい」

「ユウキが勝手に入ったんでしょ」

 

 勝手にって。こんなトコ、入りたくて入ったわけじゃないんだけど。

 ……まあいいや。何にせよイリヤはぼくを檻から出してくれるわけではないらしい。

 

「じゃあ、イリヤは何しにきたのさ」

「あなたたちに次の仕事を命じにきたの」

「次? 掃除は……」

「千代女が終わらせたわ」

「え? いや、嘘でしょ。まだ二、三時間しか経ってないよ?」

「嘘ではござらんよ、遊喜殿!」

「うわぁびっくりしたぁ!」

 

 にゅっ、とイリヤの背後から現れた千代女。ぼくは思わず声を上げてしまった。

 

「一階丸ごとの掃除と聞いて初めは面食らいましたが、そこはそれ、拙者とて英霊の端くれです。この程度の苦境、なんのそのと乗り越えてやりましたとも!」

 

 千代女は腰に手を当て、ピスピスと鼻息をして、自慢げに胸を逸らす。

 どれだけのセラの新人いびり(困難)が待ち受けていようとも、自らの限界すら凌駕して、これを乗り越えるのが英雄なのだ、と。

 ……左様ですか。

 

「……それでイリヤ。次の仕事って?」

「それを話す前にまず身なりを整えてほしいわ。牢屋の埃で汚れちゃってるから」

「ああ、確かに」

「……それが終わったら、わたしの部屋に来なさい。詳しくはそこで話すから」

 

 

 

 

 

      * * *

 

 

 

 

「『お話がしたい』?」

「うん。わたし、あんまりお城の外に出られないから退屈なの。だから、ユウキから外のことを訊きたいなって思って」

「それは別にいいけど。うーん、急にそう言われても、いいネタが思いつかないな……」

 

 腕を組んで首を捻り、なんとか話題を絞り出そうとするが、これといって良い話が思いつかない。衛宮遊喜という男は、どちらかと言えば陰の者、自分から積極的にコミュニケーションをとるタイプではないのだ。

 そうしてウンウンと唸っていると、先ほどまで三歩後ろからこちらを見守っていた千代女が話に割り込んできた。

 

「ふむ、では遊喜殿が話題を思いつくまでの間、手前味噌ですが、拙者の忍術で場を温めておきましょう」

 

 ………時間を稼いでくれるのは嬉しいけど、そんな宴会芸披露します、みたいなノリで見せていいものなのだろうか。

 忍者ってようは暗殺者だよね? それが自分の技(忍術)披露しちゃダメじゃない?

 

「ふぅん、面白そうじゃない。何を見せてくれるのかしら。ハラキリ? カイシャク? それともセップクとかいうやつ?」

「……イリヤ。それ全部同じものだよ」

 

 トンチンカンなコトを言うイリヤに千代女は苦笑する。

 

「申し訳ありませぬ。自裁は武士の作法ゆえ、拙者がやってみせるには役不足……否、役違いでござる。ですが心配召されるな。甲賀の忍術は変態百出! 決してイリヤ殿を飽きさせることはありませんとも!」

 

 そう宣言した千代女の両手に扇が握られる。キメ顔でくるりとターンをすれば流水と花びらが周囲に舞い散った。

 

「忍法……水遁、花鳥風月!」

 

 ………やっぱりそれ、忍術じゃなくて宴会芸じゃないだろうか。

 いや綺麗だし見ていて飽きない見事な舞だけども。イリヤも楽しそうにしてるけども。

 イリヤが楽しそうならいいか。

 

「それにしても話題、話題かぁ。女の子ってどんな話が好きなんだろ」

 

 知り合いの女子で誰か参考になる人はいないだろうか。

 藤ねえは…… 猛獣(タイガー)な上に、そもそも『女の子』と言える歳ではない、参考にはならないだろう。

 龍子は……正直女の子というイメージがない、元気なチンパンジーだと思っている。

 那奈亀は……女の子なんて呼ぶのは畏れ多い、天性のフィジカルとバトルセンスを併せ持つ存在、世紀末なら覇王として世界に君臨していたであろうお方だ。

 美々は……これまでの候補の中では一番参考にはなりそうだが、最近は雀花といかがわしい本の話ばかりしているから話題に出したくない。

 雀花は……論外。

 

「………」

 

 あれよく考えてみるとぼくの周りの異性ってキワモノしかいない?

 いや、いやいやそんなことは無い。

 いるじゃないか、参考になる乙女が一人。

 そう、桜さんだ。彼女を参考にすれば良いではないか。さて、あの人は普段、どんなことを話していただろうか。

 思い出すのは兄と一緒に楽しそうに料理をする姿。

 

「……イリヤって和食を食べたことある?」

 

 どこから取り出したのかパペット人形を両手につけて腹話術で一人二役の演劇をする千代女。

 それに夢中になっているイリヤに恐る恐る声をかけた。

 

「ワショク? ううん、食べたことないよ」

「じゃあ、ぼくたちの国の食文化について話すっていうのはどう?」

「ラーメンとかオムライスとか?」

「……それを日本の料理と呼べるかは微妙なトコだけど、うん、大体そんな感じのこと。兄と兄の後輩さんがウチでよく手の込んだご飯作るから、ぼく作りはしないけど知ってるラインナップは多めだと思う」

「へぇ、お兄ちゃん、お料理するんだ」

 

 どうやら興味を持って貰えたみたいだ。

 それから色々な話をした。生卵や生魚をそのまま食べられる日本の衛生管理の高さについて、兄が作った献立の中で一番美味しかったものについて、最近は桜さんがご飯を食べすぎてちょっとお腹周りを気にしていることについて……

 気がつけば、もうお昼になっていて───

 

「あれ? もうこんな時間……マズくないかな、ぼくら全然従者としてのお仕事してないけど」

 

 鼻をツンとそらして嫌味を言うセラの姿を想像して、うんざりした気分になっていると、イリヤが小首を傾げて言った。

 

「セラから聞いてないの? ユウキのお仕事は、わたしと話をする以外は朝のあれでおしまいだよ?」

「え……」

「おや、そうなのですか? てっきり馬車馬の如くこき使われるのかと思っていましたが」

「もう、そんなことしないわよ。それにあなたたちをこき使うほど手が足りてないわけじゃないし。この城はセラとリズの二人だけでも充分回していけるもの」

 

 思ったよりもホワイトな職場だったらしい。

 

「じゃあ、午後からは何するの?」

「え? うーん、千代女とバーサーカーで模擬戦とか?」

「おお、それはいいですね。どうにも遊喜殿には頼りない姿ばかり見せていますから、この辺りで汚名返上、名誉挽回といきましょう!」

 

 昼食の後に行われた模擬戦で千代女は城壁に叩きつけられ、前衛芸術となった。

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