美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み 作:角が二本
「遊喜殿、我々は今、捕虜の立場にあります」
「うん、そうだね」
「危うい立ち位置です。いつ殺されてもおかしくはありませぬ」
「うん、そうだね」
「故にイリヤ殿らに己の価値を示し、慈悲を頂く必要があるのでござる」
「……今の状況だと、むしろ怒りを買ってるんじゃない?」
サーヴァント生活二日目、ぼくたちはアインツベルン城のキッチンにいた。傍には割烹着を身にまとった千代女、無表情のリーゼリット、射殺さんとばかりに睨みつけるセラ。
発端となったのは千代女の提案だ。
『イリヤ殿、日ノ本の食に興味を持たれたなら、宜しければ拙者が馳走致しますが、如何でござるか?』
イリヤは軽くオーケーを出したのだが、これに猛反発したメイドが一人、言わずもがなセラである。
『なりませんお嬢様! この英霊はアサシンのサーヴァント、そんな輩の料理をお嬢様の口に入れるなど!』
『問題ないわ。ユウキは
『くっ、そ、そうであったとしてもこのような粗忽者にお嬢様に相応しいグレードの一品を提供できるとは思えません。どうかご再考を……!』
『そこまで言うならあなた自身の目でチヨメの腕を確かめれば良いわ』
というわけで、千代女とセラのお料理対決と相成った次第である。
時刻は昼食の時間帯。審査員はぼく、 バーサーカー、リズの三人。先方は千代女。ドイツ料理vs日本料理………レディ、ファイッ!
「ホアちゃぁっ! アタタタ! ホアッタァ!」
裂帛の気迫で千代女が包丁を振るい、空中で食材を瞬く間に分解していく。
うん、すごいけど、そのかけ声いる?
それに別に時間制限とか無いわけだし、そんな早業で調理しなくてもいいと思う。
……この場にイリヤがいれば喜んでいたかもしれないが。
「へいお待ち、でござる!」
威勢よく、しかし丁寧に卓上に並べられる皿。
食欲を刺激する湯気が立ち上る。ラインナップは五目炊き込みご飯、エビの味噌汁、筑前煮、カレイの煮付け、漬物などのその他諸々。ぼくの語彙では詳細に表現できないが、まあ不味くはなさそうである。
「おいしい」
「五目ご飯が風味豊かでいいと思う。お互いに自分たちの味を邪魔してないというか」
「■■■■………」
セラも無言で料理に口をつけている。その表情は若干険が取れているように見えた。
「ふん……大口を叩くだけはありますね。ですがアインツベルン千年の歴史にはまるで及びません……!」
そして次鋒、アインツベルンの鉄人が包丁を握る。千代女とは対照的に静かに、手際よく。
そうして食卓の上に並べられた料理は、まるで光沢を持っているかのようだった。
ふっくらとして、小麦の香ばしい匂いを漂わせる
ソーセージ にジャガイモ、にんじん、タマネギ、レンズ豆などを入れて煮込んだ
ジャガイモとベーコン、玉ねぎをブイヨンとドレッシングでさっぱりと味付けした
薄く伸ばした子牛肉を狐色のサクサクとした衣が包み、鮮やかなグランベリーソースが彩る
リンゴを生地に混ぜ込んだしっとり甘い
「どうです! これがアインツベルンの実力です!」
そう胸を逸らして自信ありげに言うセラ。実際、彼女の料理は美味しかった。千代女のも美味しくはあったが、あれはあくまでも家庭料理の範囲内の味である。
「さあ、リーゼリット、エミヤユウキ! 採点を!」
………だが、ぼくは千代女のマスターで、心情的にもセラより千代女の方が好きだ。
だから、贔屓にはなるけど点数は千代女の方に多くつけよう。きっとリーゼリットもそうするだろう。
点数札を上げる。ぼくは千代女90点で、セラ30点。リーゼリットは千代女10点で、セラ70点である。
同点。その結果がセラは非常にお気に召さなかったらしく、ギロリと僕を睨みつけてきた。
「いや、セラの料理も美味しかったけど、やっぱり日本人としては食べ慣れた和食の方が口に馴染んだというか……」
視線を逸らして言い訳がましくそう言うぼくに、セラは鼻を鳴らす。
「……ふん。まあいいでしょう。下々の味覚になど元から期待していません」
そしてバーサーカーを見る。
「ですがまだ採点者は残っています。バーサーカー、この格付けに終止符を打つのです!」
びしり、とバーサーカーに指を突きつけて叫ぶセラ。その声に応えるかのようにバーサーカーは点数札を上げた。
───握りつぶされた点数札を。
「おお、なんと言うことでござろうか」
「こなごな」
「………」
「………」
「………■■?」
うん。予想はできてた。バーサーカーは狂化とやらで理性も知性もない状態らしい。そんな彼に料理の採点など出来るはずも無いだろう。
「くっ、ならば決着がつくまで何度でも勝負するまでです。構えなさい! アサシン!」
「望むところでござる!」
お玉と包丁を持った千代女と、フライパンとフライ返しを持ったセラが向かい合って火花を散らす。
こうしてクッキングバトルが再開される。セラよりの審査員リーゼリットと、千代女よりの審査員のぼく。贔屓こみの採点は勝負を泥沼化させ───
日が沈む頃、二人は料理器具と皿が散乱したキッチンで揃って大の字に倒れていた。
「……アサシン。下賤の輩と思っていましたが、存外に貴方もやるようてすね」
「……ふっ、それは貴殿もでござろう、セラ殿」
二人の間にはなぜか友情的なものが芽生えているようだった。夕暮れの河原で殴り合ったら喧嘩仲間、みたいなアレだろうか。
ともかく、千代女の捕虜の心象を良くするという試みは成功したらしい。なんでこれで上手くいったんだろう。
「──へー、セラを認めさせたんだ。やるじゃない、千代女」
「お褒めに預かり光栄にござる」
かくしてセラからイリヤへの料理提供の許可が降り、さっそくその腕を振るおうと勇んだ千代女であったが、ここで致命的な
それは──
「あっ、しまったでござる」
「どうしたの?」
「その、セラ殿との料理対決で、えーと、城の備蓄を使い果たしてしまいました……!」
「………えー」