美遊を男体化してイリヤをヒロインにしようという試み   作:角が二本

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第九話 YAMAは人外魔境

 

 サーヴァント生活三日目。本日のぼくは───

 

「ブル■■■ァッ!!」

「助けて、千代女ー!」

 

 山奥で山のように大きなイノシシに襲われております。

 ………はい。

 

「あわぁああっ!?」

「■■■ッ!」

 

 なぜぼくがこんな危険地帯にいるのかといえば、昨日、千代女たちがお城の食料を使い果たした罰として連帯責任でバーサーカーとリーゼリットが定期的に行う森の魔獣の間引きに参加させられたからだ。

 で、森の結界だか何だかによって千代女と引き離され、現在、魔物と遭遇してしまったわけである。

 うん、絶体絶命だね。

 

「ぎゃっ!?」

 

 魔猪に背を向けて駆ける最中、隆起した木の根に足を引っかけて転んでしまう。

 ああ、なんて不運。いや、今まで逃げられていたのが幸運だったのか。

 何にせよ次の突進(チャージ)は避けられない。

 

「っ……!」

 

 地を踏み砕き、風を切りながら軽トラックほどはある巨体が迫る。

 ぶつかれば、ペチャンコでは済まないだろう。かろうじて息があれば、千代女が魔術で治してくれるだろうか。

 そう考えながら、すぐ先に訪れるだろう衝撃を恐れ、目を瞑る。

 

 ────落雷のような衝突音が森に響き渡った。

 

 が、ぼくの体に痛みはない。

 

「………あれ?」

 

 そっと猪の方を確認すると、そこにはスプラッタな肉塊が鎮座していた。上顎から胴体の半ばまでがテープを剥がすように引きちぎられていて、中の臓物が丸見えである。

 

「うげぇ……」

 

 キョロキョロと周囲を見回して下手人を探してみると、『彼』はすぐ右隣で仁王立ちしていた。

 

「きみは、確か、バーサーカー……だったよね」

 

 応答はない。巌の巨躯は物言わずその場で沈黙している。

 

「なんで、助けたの?」

 

 感謝よりも先に口をついて出たのはその疑問だった。バーサーカーがぼくを助けたことが意外だった。多分、ぼくの父はアインツベルンに怨恨を持たれていて、セラと同じようにリーゼリットや彼もぼくを疎んでいると思っていたから。

 もしかして、彼はそうでもないのだろうか。この危険な森から僕を守ってくれるのだろうか。

 

「……流石に、それは都合良く考えすぎか」

 

 そんな淡い期待を振り払う。そもそも、「森で獣を間引け」というイリヤの命令に従ってたまたまぼくを襲った魔獣を殺しただけで、彼はぼくを助けようとしたわけではないのかもしれないのだ。この先、また魔獣に襲われたとして助けてくれる保証はない。

 

「早く千代女と合流しないと………痛っ!?」

 

 立ちあがろうとすると右足首がじくりと痛んだ。足を捻ったのだ。これではこの森の中を歩くことはできない。どうしよう。

 

「……■■■」

「わっ!」

 

 途方に暮れていると唐突にバーサーカーがぼくを肩へと担ぎ上げる。

 

「………」

「えっと、もしかして、運んでくれるの?」

 

 重い足音を響かせながらバーサーカーが歩き始める。言葉はないが、ぼくを抱える彫像のような腕は見た目よりもずっと優しかった。

 

「───ありがとう」

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

「遊喜殿っ、無事でござるか!?」

 

 千代女とリーゼリットとは森を出てすぐに会うことができた。どうやら間引きそのものはとうに終わり、今までぼくのことを捜索していたらしい。

 千代女が泣きながらぼくに飛びついてきた。

 

「うおぉー! 申し訳ございませぬ、拙者がついていながら、なんという失態!」

「ちょ、危ない、降りて!」

「おぅっ!?」

「いだっ!?」

 

 しかし、バーサーカーの肩は広いが流石に人二人乗せられるほどではない。ぼくらはもみくちゃになって地面に落ちた。

 地面に転がるぼくにリーゼリットが手を差し伸べる。

 

「……大丈夫?」

 

 変わらない無表情がこちらを覗き込む。相変わらず感情が読み取りづらいが、少なくともぼくに敵意を抱いているようには思えなかった。

 不意に、ぼくはリーゼリットに尋ねる。

 

「ねぇ、リーゼリット。きみはぼくのこと、どう思ってるの?」

 

 我ながら突拍子もない質問だ。だが、バーサーカーの態度を見て気になったのだ。もしかしたら、ぼくは思っている程、彼女らアインツベルンの人間に恨まれていないのではないか、と。

 リーゼリットは端的に答えた。

 

「好きだよ」

 

 ……ふむ。

 いや、勘違いしてはいけない。彼女の言う好きとは、あれだ、友愛(フィリア)とか家族愛(ストルゲー)とかそういうのだ。

 とにかくリーゼリットはぼくに悪感情を持っていないらしい。それどころか好意すら抱いていると……?

 

「……なんで好きなのかって、聞いても良い?」

「イリヤがユウキのこと、好きだから」

 

 リーゼリットのその言葉に首をひねる。つまり主君に従って対応しているということだろうか。

 いや、しかし、

 

「イリヤってぼくのこと好きなの?」

 

 正直、それはリーゼリットの勘違いじゃないかと思う。恨みを持つ相手の家族で、元は聖杯を奪い合う敵で、出会った時には殺気満々だったのに、それが捕虜になったくらいでどうして好意に転ずるというのか。そんなぼくの内心を見透かしたかのようにリーゼリットは答えを返した。

 

「……元々、イリヤの中にはユウキを『キリツグの息子として憎む気持ち』と『残された家族の一人として愛する気持ち』の二つがあった」

 

 それが出会った時には憎悪の方に傾いていて、今は愛情の方に傾いているのだとリーゼリットは言った。

 

「そうなったきっかけはたぶん、ユウキがサーヴァント(イリヤのもの)になるって言ったから。ユウキが、キリツグの代わりに寂しさを埋めてくれるかもしれないって思ったからだよ」

 

 リーゼリットはそう話を締め括った。

 ……聞き終えてみても、何というか、納得できる説明ではなかった。

 「どうしてそこまでイリヤの気持ちが分かるのか」とか「残された家族とはどういう意味なのか」とか、聞きたいことはむしろ増えてしまった。

 かろうじて理解できたことは「単に仇敵というだけでなく、イリヤとぼくは複雑な関係にあるのだ」ということくらいか。

 何にせよ、ぼくにとって重要なのは────

 

「じゃあ、リーゼリット、」

「リズで、いいよ」

「……リズはぼくを殺そうと思ってたりしない?」

「………しない」

「そっか……良かった」

 

 この城での生存率が上がったことだ。自身の願いを見つけるまでは、空っぽのままでは死ねない、それが今のぼくの暫定目標なのだから。

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