ゴジラ-1.0 Side 高雄   作:お猿プロダクション

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せっかくのゴジラ誕生日ですし、細やかながら華を添えるものかと……


Side 『高雄』
前編 『集結』


 一九四六年八月某日

 

 ───シンガポールへ向かってほしい。理由は現地についてから説明される───戦争が終わり、戻った日本で実家の畑を手伝っていた彼のもとへ来訪した見慣れぬスーツ姿の男は、そう言って封筒を手渡した。 

 中にはシンガポール行きの飛行機と、列車の券。このご時世に飛行機を他人のために飛ばせるとは、何者だ? と彼は訝しんでいた。

 

 彼は眉を潜ませ、「どうしてもか?」そう聞き返した。軍人として勤め、土いじりなど凡そしてこなかった彼ではあったが、この畑を留守にしていいほど彼は暇ではなかった。昨年の凶作の影響もあり、食物は幾ら作っても足りない状況が続いている。ここで俺が居なくなればこの家も畑も、とても十分に過ごせるとは思えなかった。それに、シンガポールには──────

 

 男の回答は短く、だが厳然としていた。

 

 ───どうしてもだ───

 

 柱のような剛とした声と態度、そして漂わせるただならぬ雰囲気に気圧された彼は、渋々了承せざるを得なかった。

 もし、受けなかったらここがどうなるか分からないような気がしたのだ。

 

 ───このことは他言無用、シンガポールにゆくとは誰にも言うな───

 男はそう言って立ち去ったが……無茶苦茶なやつだ! と腹を立てた彼は、封筒を破りそうになったが不吉なものを感じて思いとどまった。

 その夜、家族に遠出をしなければならないことを伝え、家を後にした。

「兄ちゃん、また兵隊に行っちゃうのか?」

 妹と未だ頬の赤い弟が悲しそうにそう言うので、「バカ、戦争は終わったんだよ。ちゃんと戻るから安心しろ」と、そう言ってやる。父と母は何か感づいているようだったが、敢えて多くは口出しせず、静かに見送ってくれた。

 

 

 そして慣れない飛行機におっかなびっくり乗り、ようやく少しは慣れた列車に乗り揺られ、久しく感じる南方特有の暑さに感慨を覚え始めた頃──────

 

「やぁ、お前さんもかい」

「……?」 

 見慣れた顔が増えた気がする───そう思い始めた頃、彼の席の真ん前に座ってきた巨漢に、彼は驚いた。

「か、艦長……!?」

「ハハハ。今はそんな肩書は無いよ。まぁ楽にしたまえ」

 肩書は無い、と言いつつ聞き慣れた命令口調で此方にそう言ってくるあたり、未だ軍人だった頃とあまり変わっていないようだ。

「か…………貴方も、もしかしてシンガポールへ……?」

「そうだ。…………君も感づいているだろうが、ここに居るのは多分な、〚高雄』に乗っていた者たちだ。俺の知っている顔が多すぎる」

「やはりそうですよね。それに、その『高雄』はシンガポールにあります。ただ、何が目的なのか…………」

「うん。連合国の気が変わって、『高雄』を日本に返そう、なんて考えんだろうしな」

 コクリと頷く。ただ回航するだけなら現地の人間でも事足りよう。何故態々元乗組員を集めたのか──────その答えは間もなく明かされる。最も、それは彼らがどれだけ予想してもしきれない、突拍子も無いと言う他ない回答ではあったが──────

 

   

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 彼らの予想していたとおり、目的地はシンガポール、同港に繋留されていた”旧"日本海軍重巡洋艦『高雄』だった。

 しかし、彼らの目に映る『高雄』には、違和感があった。

「なんか、綺麗すぎやしませんか」

「うん……ますます謎だね」

「確か『高雄』は自沈処分のはずでは」

 

 イギリス軍に接収された時の『高雄』と言ったら、迷彩塗装は剥げて、装甲の一部は潮を浴びて錆びていて、防水処理を施された艦尾など切り落とされた状態だった。

 だが……眼前の『高雄』はどうか? 少なくとも塗装は綺麗に塗り直されている。そして艦尾も醜いブツ切りにされたものではなく、軍艦としてあるべき流線型を与えられていた。

 機銃や電探、マストの一部や空中線こそ取り外され完全に往時の姿を取り戻していた訳ではなかったが、それでも『高雄』は聳え立つ城塞の如き姿を以て鎮座していた。

 

 で、自沈処分として漁礁となる命運が決定していた筈のフネを何故ここまで綺麗に仕上げておく必要があるのか。

 驚き半分、感動半分といった具合で多くの面々が呆けていると、劈頭をコツコツと鳴らしながら歩いてくる人影があった。

 連合軍の将校だろうか? 小銃で武装した兵隊も何人か引き連れていた。

 

「驚いたようだね」

「……?」

 

 英語だった。彼は英語に堪能でないのでいまいち何を言ってるのか分からなかったが、元艦長は皆より前に出ると流暢な英語を駆使し、連合軍の将校らしき者の前に立つ。他の面々と比べると偉丈夫な艦長だったが、連合軍の兵達の前に立つとその面影もない。

 

「始めまして大佐(サー)。お会いできて光栄だ」

「こちらもだ大佐───いや……元、大佐かな?」

「如何様でも構いません───して、我々は何故ここに? ティータイムに誘って頂ける訳ではありますまい」

「……ジョークを言えるとは良いことだ。この船を返しても良さそうだな」

「この船を、返す……?」

「そうだ──────」

 

 元艦長と将校らしき人物のやり取りを遠巻きに見ているしか無い───小銃を持った兵が此方に鋭い眼光で睨みを効かせているのだ───他の面々は、顔を合わせて、蚊の羽音もかくやというほどの小声で話していた。

 

「な、なぁ。アメさんと艦長、何話してるか、わかるか?」「いや全くじゃ」「艦長、英語なんて話せたんがや……」「アメさんの兵隊、儂らの事まだ敵だと思っちょるわ」

 

 そうしていると、話を切り終えたのか元艦長が皆のところへ戻って来る。何やら神妙な顔付きをしているが…………。

 

「艦長、アメさんはなんて言っていました」

「彼らは米国の軍隊じゃないよ。どうやら『高雄』の"今の持ち主"らしい」

「というと…………イギリス軍」

 

 元艦長がコクリと頷く。

「GHQの命令で、彼らが『高雄』を返還してくれるそうだ。『妙高』は処分に間に合わなかったらしいがね」

「そ、そりゃまたぁ、何で……」

 

 何でも以前から「ある理由」で『高雄』の自沈処分に待ったが掛けられていたらしい。それが後日「『高雄』を自力航行可能にせよ」と指示が上向きになり、更には「戦闘可能状態にせよ」「その上で日本人乗組員を徴用し、一時的または恒久的に日本へ返還する」とか抜かし始め、最早何のために日本から軍隊を取り上げたのか訳の判らない状態になった──────らしい。

 その肝心の「ある理由」についても、最近まで彼ら(イギリス軍)自身にも明かされていなかったらしい。

 おまけに修理も含めたいくつかの作業はGHQ───と言うが実態は『高雄』を接収したイギリス軍が主体───によって行われたようで、もしかしたら彼らを監視していた兵士達の眼光の鋭さは、そこに起因している物もあったのかもしれない。

 

「その理由ってのは、何なんです」

「……お前たち驚くぞ。冗談じゃないからな」

 

 

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 一九四六年七月二五日 現地時間八時三五分

 

 このとき、ある出来事が起こった。

 

 海中27m、揚陸艦LSM-60の直下に吊り下げられた21キロトン級インプロージョン式原爆が起爆する。人類の叡智の焔──────人類のため、世界の戦争を終わらせるため───すでに使い古された、カビの生えたフレーズの下に発せられた、人類の罪火だ。

 

 起爆の瞬間──────紺色を切り裂く眩い閃光が振り撒いた、圧倒的な熱と衝撃波が全てを焼き尽くした。海は膨れ上がり、上向きの大瀑布を作り上げ、その中から芽吹くようにして大樹を思わせるキノコ雲が屹立する。

 降り注ぐ滝のような海水と水中を駆け抜けた衝撃波に、無数の標的艦が揺られ、破壊される。その中に、タスクユニット1.2.1に配属された日本海軍から鹵獲した戦艦『長門』も含まれていた。

 七月一日のエイブル実験から二度目の核爆発、その上終戦後の状態の悪い中でも浮いていたものだから、その事は実験に立ち会った関係者に驚かれていた。

 しかし、その『長門』も二九日の未明、遂に海中へ没した──────

 

 

 否。  

 

 

 

 沈められたのだ。

 

 

「何だワッツ」「真っ黒な岩に、手足と顔が生えたような奴だった」「山そのものが暴れていたと言っていい」「怒り狂った溶岩が、意思を以て破壊を繰り返している様だった」「アレは生物じゃないし、生物であってはいけない。でも存在するのだから、アレは神か、それに近い存在だ」「この星の王か、さもなければ神だ。なんてこった。俺は信仰すべき対象を間違えていたのか」

 

 事の"目撃者"達は口々にそう語った。

 調査チームはこの証言を「放射性物質による脳への未知の影響に伴う幻覚」と結論付けた。広島、長崎への2度の対人、対都市核実験の調査では、そのような報告は上がっていないにも係わらず──────

 加えて──────核実験の様子を撮影すべく上空にあった空軍機が、存在しない筈の場所に"影"を捉えていたことから、海軍は独自に調査を開始。

 そして軽巡洋艦USS『ニューカーク・シティ』の"座礁"、その調査結果を以て以下のように結論付けた。

 

「未確認巨大水棲生物が存在する。これは現在北上中であり、一年程度で東アジア圏に到達する───」

 

 ──────この件で最も危機感を持ったのは米本国でも原爆を投下した空軍でも無く、調査を行った当の米海軍だった。

 

 なぜかと言うに"原子爆弾の影響で未知の生物が現出し、それによる被害が生じている"等と言う事実が知れ渡れば、確実に核兵器開発、配備の縮小を叫ぶ一派が現れる筈である。

 そうなれば、現状唯一核兵器の運用手段を有する空軍が国内での軍事的発言権を手にし、以後の世界で拡めるべき米国主導による世界秩序(パックス・アメリカ)でのイニシアチブも手中に出来なくなるであろう。

 

 ただでさえ、太平洋の主敵たる日本海軍を喪った米海軍への風当たりは強い。

 日本海軍を叩き潰す為に建造された数十隻の空母や巡洋艦、数百を超える駆逐艦に加えて、欧州戦線をも支えた数千に達しようかというリバティ船。これらの保管だけで港は溢れかえり、その処理にも手を焼いている始末だ。この上に政治的主導権まで奪われてしまっては──────

 

 そう考えた米海軍は駆除作戦を発動。その一翼として、旧日本海軍で未だ戦略として徴用可能な艦艇、『高雄』に白羽の矢が立ったのだ。

 

    

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「…………という訳らしい」

「らしい、って……」

 突拍子も無さ過ぎて、一同言葉を失った。

 しかして、元艦長があのイギリス将兵と何事かを図っているとは思えない。この人の言ったことは事実で、つまり──────

 

「つまり、自分等はまた『高雄』に乗る訳ですね」 

 

「そうだな。まぁ…………有り体に言えば 

 

 

 化け物退治だな」

 

 

 coming soon……

 




明日11/2には12時頃投稿予定です!
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