最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件 作:潮井イタチ
事の始まりは数年前。
まだ世を脅かす「魔獣」と、それと戦う「
俺が名実ともにただの一般的男子小学生だった頃の話である。
普通の家庭で、普通の両親に育てられ、普通の生活を送っていた俺、
そんな俺の元に、ある日突然、普通じゃない奴がやってきた。
後に俺の幼なじみとなる、
何でも、研究者であるヒイロの親が、実験中の事故で亡くなったらしい。
俺の父親が彼の親に世話になってどうこうとか、実験成果の重要性がうんちゃらで相続の問題がこうたらで、ウチで引き取ることになったそうだ。
最初はふーん、って感じだった。
まだ子供で、人が死ぬだとかよく分かってなかったし、親に「優しくしてやるんだよ」と言われて、じゃあ優しくしてやるか、程度にしか思わなかった。
だけど、そんな気持ちはヒイロと一緒に過ごしてすぐに吹っ飛んだ。
ヒイロは、いわゆる天才児だったのだ。
頭が良いだけでなく、運動もできるし、顔も良い。
俺が苦労して勉強している横で、教科書をパラ見で完全に記憶するし、宿題をやらなくても授業をサボっても誰にも叱られない。
運動会の練習なんてろくに参加しないくせに、当日の徒競走では涼しい顔で一位を取る。
ゲームや遊びをすれば嫌々付き合ってるみたいな顔で俺をボコボコにし、面倒くさそうな顔で「もういい?」とか抜かす。
ぶちのめそうと思って喧嘩を始めれば、開幕のパンチでこっちが一撃KO。
気に食わなかった。当然だろう。当時の俺でなくたっておんどれこのクソ生意気なガキがと思うはずだ。
何より気に食わなかったのは、それだけの才能があるのにあいつがちっとも嬉しそうにしなかったことだ。
俺が褒めても、誰が褒めても、どうでもよさそうな顔で暗い顔をして塞ぎこんでいる。
まだ小学生だった俺は、そんな親が死んだばかりのヒイロの気持ちを一切慮ることはなく、どうにかしてこいつを上回って悔しがらせてやろうと必死だった。
俺はごくごく普通の小学生男子だったが、負けん気だけは人一倍あったのだ。
あらゆることに挑戦した。あいつが休んでいる間も寝ている間も努力した。卑怯な手でもなんでも使った。
だが勝てなかった。
あいつはあらゆる分野で天才だったし、俺の時間をかけた努力は初めてやったあいつに上回られたし、卑怯な手は意に介されず正面からボコボコにされた。
俺は齢十歳にして既に世の無情を儚み、覆せぬ才能の差を嘆いていた。
今にして思えば何を子供が一丁前に悟った気でいるのかという感じである。俺も大概クソ生意気なガキだった。
だが、当時の俺は本気で絶望していた。
自分が何をしても、どう頑張っても、そんなのは実のところ何の意味もないのだと真剣に打ちのめされていた。自分のこれから先の人生を全否定されたような気分だった。
さっさと他の同級生みたいに「ヒイロは自分たちとは違うのだ」と諦めて、関わらないようにした方が良かっただろう。
彼らの方が、俺よりずっと賢かった。
だが俺は愚かだった。諦めきれなかった。逃げたくなかった。
まだ何かあるはずだと、荒唐無稽なことにまで手を伸ばした。
――そして俺は、超能力に目覚めた。
急に何を言ってるんだと思われるかもしれない。
俺もそう思う。
今でも時々、俺はヒイロに負けたくなさ過ぎて、頭がおかしくなったんじゃないかと思う時がある。
だが事実として、手から放った気合で空っぽのペットボトルは触れずに倒れた。
なんでそんなことをしようと思ったかはわからない。なんとなくやれそうな気がしたからだ。
何のドラマも理由もなく超能力に目覚めているが、目覚めちゃったんだから仕方がない。
すぐにヒイロに自慢したくなり――やめた。
ヒイロなら、「これ」すらも簡単にできるようになって、俺を追い抜くと思ったからだ。
俺は、誰にも知らせずに超能力の訓練を開始した。
他人に頼れない中、試行錯誤で行う訓練は地道で、歩みは遅く、しかし確実に成果は出た。
最初は、気合で空のペットボトルを倒せる程度だった。
一ヶ月経って、中身の入ったペットボトルを倒せるようになった。
半年経って、椅子ぐらいなら動かせるようになった。
一年経って、人一人吹っ飛ばせるぐらいの威力を手に入れた。
この辺りで、手から放った気合弾が光を放つようになった。
だが、ヒイロならこの程度、三日も経たずにできるようになってしまうのだろう。
いや、きっとそうなる。今までずっとそうだった。
これまでの忸怩たる経験は、トラウマとして俺の心に刻み込まれていた。
上には上がいる。
その根本原理を小学生にして心の髄に刻み込まれていた俺は、それからも超能力の訓練を続けた。
最初の一年は試行錯誤の繰り返しで、効率的に成長できたとは言いがたかった。
が、おかげで二年目からはかなり効率的な訓練法を見出すことができた。
特に、死にかけるぐらい自分を追い込んでからどうにか復活すると爆発的に成長する、ということに気づいてからはだいぶ伸びが良くなった。超回復的な理論が働いてるっぽい感じだ。他人にバレたら心配されるのであんまりできないのが残念である。
しかしその甲斐あって、二年経つ頃には、車ぐらいならどうにかぶっ飛ばせるぐらいになった。気合も手からビーム状に放出されるようになった。
俺たちは中学生になった。
この頃から、周囲から遠巻きにされていたヒイロは、その能力の高さと顔の良さから一転して女子にモテるようになった。
羨ましいとは思ったが、しかし俺の心は穏やかだった。
あいつがどれだけ完璧超人で、文武両道で女の子にモテていても「でも俺あいつと違って手からビーム出るしな」という心の拠り所があるからだ。
だからだろうか。
気がついたら、俺たちは普通に仲良くなっていて……。
……ヒイロは、暗い顔をしなくなっていた。
そうしてヒイロは毎日のように、学校で美少女たちとイチャイチャ学園ハーレムラブコメをする。
そうして俺は毎日のように、学校の裏山で全身の超能力エネルギーを励起させて精神統一の後に身体能力を強化し「破ァ!」と叫んで岩を素手で割る。
そんな感じの学校生活が続き、三年経った。
俺は身体能力を強化して超人的な動きができるようになり、ビームは家を吹き飛ばす威力になった。
いや、実際に吹き飛ばしたりしないけどもね。本気で撃ったら多分それぐらいの威力はあるかなって感じ。
四年経って、中二真っ盛りの頃に空を飛べるようになった。
ビームはビルを木っ端微塵にできる威力になった。
五年経って、俺たちは中学を卒業した。
ビームの威力は……どんなもんだろう。ちょっと迂闊には全力出せないぐらいにはなった。
あと瞬間移動を会得した。最大射程は一キロちょい。通学に便利だぜ。
そんな感じで超能力訓練をする
そして、ふと俺は思い返した。
あれ、思えばここまでの学校生活、ほぼほぼ超能力訓練だけだな、と。
幼馴染が美少女侍らせて学園モノのイベントにありそうなこと大体やってる中、俺はずっと瞑想し、気を高め、イメトレをし、実戦を想定した体力作りと戦闘訓練しかしていない。灰色の青春ってレベルじゃねーぞ。
そろそろ非日常バトルヒロイン来ないだろうか。学校にテロリストでもいい。うちの高校、財閥の令嬢も通ってたはずだし。
いい加減にこの鍛えに鍛えた超能力で俺TUEEEしたい。ヒイロみたいに女の子にワーキャーされたい。
――この世界に『魔獣』と呼ばれる存在がいることが明かされたのは、そんなある日のことだった。
古くより異界から現れ、この世界を侵略せんとする恐るべき怪物たち。
混乱を招かぬためにその存在を隠蔽されていたが、ついに隠しきれなくなったそれ。
魔獣たちは瞬く間に街を破壊し、人を屠り、世界を混乱に陥れた。
「よっしゃ任せろ俺がお前とこの世界を救ってやるぜ」と、ウキウキで超能力を発揮しようとした俺は、信じられないものを見ることになる。
俺の幼なじみ、
彼は、俺が動こうとする一瞬前に、こうなることが分かっていたかのようにその腰を上げたのだ。
「来たか……! 行こうみんな! この世界を救えるのは僕たちだけだ!」
「ええ、行きましょう、ヒイロさん! 魔獣は、私たち
「ふふ、指揮はお願いね、
「
で、ヒイロの元に次々とあいつのハーレムメンバーがわらわら集まってきて、なんか独特な見た目のスマートフォンを取り出し、画面に指を沿わせ、勢いよくスワイプした。
「「「変身!」」」
虹色の激しい輝き。
美少女たちの顔立ちが幾分か変わり、髪色が派手になり、服装が装甲付きの衣装に変わる。
そうして、ヒイロは変身した美少女たちを連れ立って、被害のあった場所へと駆けていった。
………。
……ん?
と、虚を突かれたのも仕方のないことだと思う。
だってびっくりするじゃん。いきなりそんなんなったら。
だがここまで言えば、その後どうなったかもうお分かりのことだろう。
ヒイロは、スーパーパワーを持った美少女たちを率いて魔獣を蹴散らしていったのだ。
一人一人の力量は大したことなかった。俺ならワンパンだなって感じの魔獣相手にも相当苦戦していた。
しかしヒイロは彼女らに適切な指示を出し、能力の特性を活かし組み合わせ、自分たちより強大な敵を次々と打ち破っていった。
正直、裏切られたような気分だった。
非日常バトルは俺の領分だろうがテメエと理不尽にブチギレそうにもなった。
これ後から俺が出ていっても、主人公はお前で俺は実は異能があった的なサブキャラじゃんとか思った。
まあ仕方ない。ヒイロのせいじゃない。
後から知ったことだが、ヒイロの両親の死が実は魔獣関連のうんぬんかんぬんだとかで、ヒイロはずっと隠れて頑張っていたらしい。
そんなん言われたら仕方ない。もういいよお前が主人公で。
俺はサブキャラでいいけど、せめてレギュラーメンバーには入れてくれな。
そんなことを思いつつ、ヒイロが苦戦しているところにド派手に出ていこうとした。
「ク、ハハ……! 愚カ、愚カなリ人間! 我ら魔獣ノ進化セしモノ、偉大なる魔人たちハ、既に人に化ケ、人ノ内に潜ンデいるとイウのに!」
「なっ……! 魔人――人に化ける魔獣だって……!?」
「然リ! 来たレ、魔人の中デも最も優れし、我らが七王ノ一人! 【傲慢】の魔人よ!」
でもちょっと登場したタイミングが最悪だったんだなこれが。
俺は何やらゴチャゴチャ喋っていた魔獣に空からドデカビームを撃ち込み、ビームの射線上に急に出てきて「呼んだか我を……そう我こそが【傲慢】のフヴェギャァアアーッ」とか言ってたのを魔獣ごと消し飛ばし、激しい光と砂煙の立ち込める中、スーパーヒーロー着地でかっこよく登場した。
結果。
「――よう。来てやったぜ、ヒイ、」
「なんのつもりだ【傲慢】の魔人ッ! ふざけるな、星一に、僕の親友に何をした! 答えろッ!!」
俺はボコボコにされた。
その後に何も知らなかった顔で家にいたら、魔獣対処組織「ビフレスト」の隊員とかいうのがやってきて、魔人じゃないかの身体検査やら何やらされ。
で、「魔人が君に化けていただけであり君自身が魔人でないことは分かったが、それでもしばらく監視をつける」だの何だの言われた。
…………。……そんなん言われたら……もう……何もできないじゃん……!
その後は、信じられないほどあっという間に世の中が変わっていった。
曰く、世間に露見することは予測済みであり、事前に政府やメディアへの根回しも終わっていたのだという。
魔獣の存在は周知され、それと戦う少年と少女たちの存在は公に認められ、巧みなメディア戦略により、彼彼女らの人気は日を追うごとに高まっていった。
超常の力を振るう少女たち『
それらは国の少年少女から広く募集され、応募が殺到した。
出遅れる形になりはしたが、俺も当然応募した。
が。
「不合格……?」
よって、不合格。
「あの俺、一応、超能力者なんですけど」
「あー多いんですよねえ。超能力あるとか魔術師だとか、そういう荒唐無稽なことを言って何とか合格しようとする応募者。でも合格点80点のところ38点だったんで」
「空とか飛べるんですけど。こんな感じで」
「こりゃまたなかなか気合入ったトリック仕込んできましたねえ。でも悪いんですけど、もう機械で検査の結果出ちゃってるんですよ。お引き取りください」
……こんなのって……ないよ……!
どうにか魔人と勘違いされずに済む方法を考えたが、良い方法は思いつかなかった。
ヒイロに相談しようとも思ったが、最初のあの剣幕を思い出してやめた。
マジであれタイミング最悪過ぎるんだけど。あれでもう全部ダメになってんじゃねーか。
俺が手をこまねいている間にも、時は進む。
彼らは敵を倒し、功績を積み、力をつけていく。
このまま行けばきっとまた、俺はヒイロに抜かされるのだろう。
子供の頃と、同じように。
「はぁ……」
そうして現在。
俺は何をすることもできず、物陰でヒイロと
「今だ、レア! 全力でぶちかませ!」
「やぁーっ!
必殺技みたいな感じで斬撃放ってるけど、ビルも輪切りにできないような威力でドヤ顔すんなよな。俺がその気になったらスカイツリーぐらいは余裕で両断できるってんだよ。縦に。
……だけども。
「いいなぁ……」
羨望が思わず口をついて出た。
ヒイロは今や、魔獣対処組織「ビフレスト」最優の
いいなあ。
俺も、俺TUEEEしてみんなにチヤホヤされたい。
女の子にモテて、美少女と付き合ってイチャイチャしたい。
それができなかったら俺のこの五年間は何だったというのか。
使えもしない超パワーに何の意味があるというのか。
もうマジで魔人になっちゃおうかな。
ぐったりと俯くそんな俺の背後から、コツコツコツと怪しげな足音が迫ってきていた。
「クク……! お前があの厄介な
「うるせえ今ナイーブなんだよ死ね」
「ピギュッ」
俺は手からビームを放ち、人に化けて襲ってきた魔人を消し飛ばした。
……いかん、つい跡形もなく消してしまった。
少しは戦ってやったり、せめて死体を残しておけば、超能力バレをすることもできたかもしれないのに……いや、それでも魔人同士で仲間割れしているとか思われるだけかな……。
……ん、ていうかなんか指輪落ちてるな。あの魔人が落としたのか?
拾い上げつつ、俺は思考を続ける。
だいたい、なんで女しか
「いっそ俺が女だったらな」
なんて冗談交じりに呟いた次の瞬間――俺の体が光った。
何事かと思った瞬間には、光が収まっていた。
光につられたのか、人の足音が近づいてくる。
見れば、魔獣対処組織「ビフレスト」の隊員たちだった。
「魔人発見の報告を受けて来たが……大丈夫か、君!」
「あ、はい。大丈夫で、――っ!?」
なんだ。声がおかしい。今、俺が出した声。
まるで、女の子みたいな――。
「付近にエネルギー反応はないようだが……気をつけろよ。奴らは
「え」
指輪を握り込んだ手に、思わずぎゅっと力がこもる。
「それに、魔人のことがなくたって、君みたいな
「……わ……わかり、ました……」
俺は確かに平均よりは背が低いし、男らしさのある顔でもないが、体格も顔立ちも、間違っても女子に思われるほどではない。
組織隊員が去っていくのを見送り、俺は恐る恐る……胸と股間に、手を当てた。
「ある……。ない……」
風が吹いて、いつの間にか長くなっていた髪が揺れるのを感じながら、俺は呟く。
「女に、なってる……?」
ってことは、あれ。
え、じゃあ
……いや、いやいやいや。
流石にそれはない。流石にそりゃまずいって。
っていうか、そもそも受からないだろう。
この魔人の指輪がどれだけの性能があるか知らないが、いくらなんでも魔獣対処組織の目をすり抜けられるほどではないはずだ。
だいたい、女になってまで力を振るったからってなんだというのか。
女の子になってしまえば当然、女の子にはモテない。女の子とイチャイチャすることもできない。
それじゃ意味がない……。
……いやでも、俺TUEEEで気持ちよくなることはできるのか。
「…………」
まあ……どうせ受からんだろ。
「受験番号666。君は全試験項目で前例なき成績を収めた。その能力、冷静な判断、そして恐怖を超えて立つ意志。いずれも真の
――我々、魔獣対処組織ビフレストは、その力を正式に認め、君を最高ランクの
受かっちゃった。