最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件 作:潮井イタチ
異界。
魔獣が生まれ出る超常の領域。
そこに、七王と呼ばれる六人の上位魔人が集っていた。
「【傲慢】はやはり来ておらんか」
「ははは、死んだか?」
紳士然とした老人の言葉に、快活な印象の大柄な青年がなんてことも無いように答える。
「魔人だということがバレたのかもしれませんよ? 【色欲】の開発した指輪は強力ですが、完璧ではありませんから。人間の手に渡って解析されたのやも」
「バカを言うな。アレは最初に装備したものが死ぬまで他の誰にも使えず、加えて指輪を認識しにくくなる術式を組み込み、装備者が死んだ際には自壊する機能まで搭載したのだ。自壊機能の反応が間に合わんほどの速度で全身を消し飛ばされでもしない限り、人間の手に渡ることはない。これを完璧と言わずしてなんと言う」
老人はしかめっ面で答えるが、すぐに気を取り直して言う。
「どうであれ、あれほど熱を上げていた『魔姫計画』を放棄するぐらいだからな。【傲慢】の身になにかあったのは間違いあるまい」
「いーじゃん別に。どうせボクのファフナーが全部殺すんだからさあ」
表情の無い壮年の男に対し、不真面目な態度で応じる少年。
「ボクの【強欲】の呪いは順調に進行してる。ヴァルハラの奴らも、もう一息だよ。みんなには悪いけど、人間を滅ぼすのは魔竜ファフナーだ」
「いやあ、それはどうでしょうねえ」
人好きのする笑みを浮かべた男性教師……
「……なんだよ、【怠惰】。文句でもある?」
「いえいえ。ただ、どうも【強欲】は
「リーレア・レジエンダが
「いやあ? おりますよ、
実浜仁……【怠惰】の言葉に、【強欲】と呼ばれた少年が目を見開き、そして苦々しげに顔を歪めた。
「……邪魔するつもりか?」
「まさか。ただ、我々用に人間をいくらか残しておいて欲しいのですよ。人間を殺し苦しめたいのは我々の本能ですからねえ。いずれ全滅させるにしても、全く殺さずに終わるのは消化不良というものです」
「ちっ……ろくな仕事もしないくせに、こんな時だけ欲しがりやがってさ」
「皆さんも、それでよろしいですかねえ?」
問いかけに、紳士然とした老人……【色欲】が答える。
「まあな。吾輩もこのまま【強欲】の一人勝ちではつまらんと思っていたところだ。【暴食】、お主もそうだろう? 『魔屍』も人間が多い方が使いやすかろうに」
「ははは。オレはどちらでもいいさ。人間がそう簡単に滅ぶとも思っちゃいないからな。そうだろ、【憤怒】。お前があれだけ徹底的な計画を練るぐらいなんだから」
快活な青年……【暴食】に、無表情の壮年の男【憤怒】が、その称号とは裏腹に温度の無い冷たい声で言う。
「どうであろうと構わん。ただ、俺は俺の滅びを成すのみだ」
自然と、全員の視線が、まだ発言していない残り一人……唯一の女型魔人である【嫉妬】へと集まる。
「……勝手にすれば? 私が出るのは最後。そういう契約でしょう」
興味がなさそうな彼女の様子に、【怠惰】の魔人、実浜仁がやれやれと肩をすくめる。
「相変わらず協調性の無い方々ですねえ……。まぁ、反対意見も無いようなのでよろしくお願いしますよ【強欲】。ここで契約してくれるなら、
はぁー、と諦めたように【強欲】はため息をつく。
「わかったよ。キミたちのために、ファフナーの手綱はほどほどに握っておいてやるさ」
人間と違い、魔人同士の契約は絶対だ。彼らは互いに決めたことを破れないようにできている。
「しかし、結局【強欲】の勝ちであること自体は確定してしまったな。
「当然さ。ボクのファフナーは不死な上に、人の敵意を浴びるほど強くなる最強の魔獣なんだからな!」
自信に満ちた【強欲】の顔。
しかし、それを過信であると咎める者はいない。
「はは。全く、偶然の産物だというのに偉そうなこった」
「無理もない。
「魔竜ファフナーは我々七王が有する戦力の中でも最強」
「人間ごときに負けるようでは、我々に直接戦闘での勝ち目はなくなったも同然ですからねえ」
何故ならば、【強欲】以外の五人もまた、魔竜の勝利を疑ってなどいなかったからだ。
唯一の砦であったヴァルハラもじきに落ちる。
人の滅びがもはや目前に迫っていることを、魔人たちは確信していた。
※
「やだやだやだやだやだやだ姉さんに見せ場譲るのやだやだ星一くんやってやって殺って」
だいたいそんな感じでティテアがぐずった。
いやここまで酷くはないけど内心察するにだいたいそんな感じ。
とはいえ俺にもできることとできないことがある。
先の44秒攻防無効化のような「そういう効果」というか……概念系の能力には俺では対抗できない。結局のとこ全部フィジカルだし。
とはいえ、魔竜ファフナーとやらが具体的にどれぐらい強くてどれぐらい不死身なのか、分からないことには何も言えない。
そういうわけで実際に見せてもらった。
《いけるわこれ》
《星一くん最強やったー!》
魔竜ファフナーは、地下空間に封じられた全長三〇メートル程度のドラゴンだった。スケール感としては怪獣王や光の巨人より一回り小さいくらいである。
その巨体が強化ガラスの向こう、電撃の流れるクソデカ杭数本にぶっ刺されて、強酸のプールに沈められた状態になっていた。
うーむ封印方法が思ったより物理。なんかもっとこう魔法の結界とかじゃないんだ。
不死を破る方法についてはヴァルハラの方でも当然研究されており、三秒以内に魔竜の全身を細胞の一片も残さず消し飛ばせば、理論上復活はしないとのこと。
実現不可能な机上の空論とされていたようだが、俺のフルパワーなら恐らくいける。
「い、いや、フルパワーというのは前に空に向けて撃ったアレのことだろう? 確かに威力はあったが、ファフナーを消し飛ばすには範囲が足りないのでは……?」
などと
周囲に気を遣わなければ、三〇メートル級の巨体でも跡形もなく消し飛ばすことは可能だ。
……そう、周囲に気を遣わなければ、だ。
《ここじゃ街に近過ぎる……。どの方向に撃っても確実に巻き込むぞ》
《ここ、街から十km以上離れてるんですけど》
《ほんなら俺の全力ビームの射程、どんぐらいあるかわかる?》
13万kmや。ピンとけぇへんやろ、数で聞いても。まあそんな感じ。
てか何なら多分もっと遠くまで届く。測ったことないから知らないけど。
だからガチでやるなら、いったん宇宙とかに蹴っ飛ばす必要がある。
俺も宇宙空間に出たことは無いが、積乱雲に紛れて高度一万メートルまで飛行訓練したり、日本海溝の底の深度八千メートルで超能力修行したりしたことはあるので多分いける。
半日ぐらいなら無呼吸でも戦闘可能だ。
が、そうなると目立つ。
絶対に目立つ。全世界に見られるぐらい目立つ。
そうなった際に魔竜ファフナーの有する『敵意を浴びるほど強くなる』という能力の強化幅が未知数だ。
俺では倒せないほどに強くなってしまったらもうどうしようもない。
《だから、
《えぇ〜……》
すごい嫌そう。気持ちは分かるけども。
ティテアなら上手いことこう……リーレアがボコボコにした後に、誰から見ても分かるようにトドメだけしゃあなしで先輩に譲るみたいな絵面を作れるはずだ。きっと。
「これヴァルハラの皆さんでこっそり宇宙ステーションとかに移動させられません?」
「無茶を言わないでくれ……」
ゴネるなて。困ってるでしょうがヴァルハラの皆さんが。
その場はお開きということで帰還。
呪いの影響でヴァルハラがゴタついてる現状、協力のお礼はまだできないが、例のセーフハウスであれば自由に使っていいとのことなので、ありがたく頂くことにした。
ティテアがムスッとした顔で机に突っ伏す。
よっぽど姉に活躍の機会を与えるのが嫌らしい。
「星一くん……」
頭の良い彼女らしくもなく、物分かり悪く俺を見つめてくる。……やめて、今日の入れ替わりの影響でティテア見てるとドキドキするから。
「……わかったって、修行するから」
「星一くん……!」
「その代わりそっちも先輩に協力してもらえるようにしといて。まだ封印しておけるって言われたけど、それで間に合うか分かんないし」
我ながら甘いし弱い。でもあんな目で見られたらどうしようもない。ここで使い物にならなきゃ何のための力だと言うのか。
そういうわけで、ヴァルハラの方もまだ大丈夫とのことなので、その間に周囲を巻き込まない安全な攻撃方法を開発する。
力の制御はずっとやってきた分野だ。たった数日で何ができるかという感じだが、ただ力を制御するというのと、今回のように要件がきっちり定義されているのとではまた話が変わってくる。
つまり、今回専用の必殺技を作るという話だ。
俺は技をあまり作らない。必殺技を作ってもその数ヶ月後には通常攻撃の方が強くなるような成長曲線で生きている都合、変に応用に手を出すより、基礎をコツコツやる方が早いし、性にも合うのだ。
だが別に作れないわけではない。俺とてこのサブカル大国に生を受けた生粋の日本男児である。必殺技のアイデアぐらい、いくらでも浮かぶ。
そういうわけで修行開始。
巨大エネルギー球で対象を包み、丸ごと焼き尽くす――失敗。
できるにはできそうだが、どうにも安全性に難がある。出力を高めるとどうしても炸裂してしまうのだ。また、相手が無理やり脱出しようとした際に押しとどめる力も弱い。
悪くはなかったが、この方向性では時間がかかり過ぎる。ボツ。
肉体強化を反転させ、肉体弱体で不死性を弱める――失敗。
肉体強化の反転は可能だったが、他者にかけると極めて出力が弱まる。理屈的にはティテアに分けてる超能力の出力が大きく落ちてるのと一緒だ。
普通の人間にかければ身動きも取れないほどに無力化できる便利技だが、魔竜ファフナーに有効となるレベルではなかった。しゃーない、次。
瞬間移動を応用した亜空間への吹き飛ばし――失敗。
異界とかあるんだからいけるんじゃないかと思ったが、そういうもんではないらしい。
ティテアと協力するようになってから練習していたこともあり、触れたものを転送するタイプの瞬間移動は使えるようになったが、この方向性ではどうにも難しそう。次。
特定対象にのみ働きかける特殊エネルギー攻撃の開発――成功。
できちゃった。これが一番難しそうだと思って後回しにしていたのだが、存外にいけた。
原理的には固有振動数に近い。敵の波長に合わせてこちらもエネルギーを調整し、対象のみに干渉し消滅させる漆黒のエネルギー砲を放つのだ。
威力低いしコスパ悪いしタメも長いし調整がダルいしで面倒な技だが、今回の要件には一番あっている。エネルギーの発光色が変化してドス黒くなるのも禁断の力っぽくてオシャレ度が高い。
威力的に難があるため、ファフナー相手に使うにはまだ力不足だが、もう少し時間があれば実用圏内まで持っていけるだろう。
俺に対してティテアの方は進捗芳しくないらしく、何やら江洲々或先輩がビフレストにも来ずにどこぞで訓練をしているとの事で、なかなか話す機会も無く難航しているらしい。
この間のことで、先輩の心境に何かしら変化でもあったのだろうか……。
ともあれ、俺の新技に完成の目処が立った以上、ティテアが先輩と交渉する必要もなくなった。
学校。放課後。
前回、
待っている間ヒマなので、漆黒エネルギーをこねて新技の練習。
この時間なら生徒も教師も来ないので超能力を見られることはない。
とはいえ、それでもあんまり強めに出力できないので、ほどほどに抑えながら練習しなければいけないのが残念だ。
このエネルギーは周辺被害を出さない。
が、魔獣に力の波長を合わせたせいか、出力を上げるとビフレストの魔獣レーダーや魔人レーダーに引っかかってしまうのだ。
ただでさえ一度【傲慢】の魔人とやらと勘違いされているのだ。また勘違いされたらたまったものではない。
そういうわけで抑えめに漆黒エネルギーを練り練り練り。……うーん、なんて言うかもう少しコシが欲しい。
そんな感じで集中していると、ガラガラと空き教室の扉が開いた。
「ティ……」
いや、違う。超能力レーダーの反応がティテアのものじゃない。集中していたせいで気づかなかった。
俺は即座にエネルギーを消す。……まずいな、見られたか? 今すぐ首筋に手刀トンってやって気絶させるべきか……?
俺はポーカーフェイスを保ちながら、入ってきた男性教師の様子を警戒する。
「実浜」と書かれた名札を首から提げた彼は、平然とした様子で俺に言った。
「――まさか生徒に紛れているとは思いませんでしたよ、【傲慢】。あなたの放棄した魔姫計画のことで少し相談があるのですが、よろしいですかねえ?」
…………。
………………はい?