最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件 作:潮井イタチ
「ば、バカな……この、私が……?!」
「はぁ、はぁ……!」
激戦だった。崩れ落ちる実浜仁を見ながら、ヒイロは荒くなった息を整える。
「【傲慢】は、僕のよく知る人物だと、言ったな……答えろ、実浜仁」
「く、フフ……言うわけがないでしょう……冥土の土産になどと思って、喋るべきでは、ありませんでしたねえ……
自身が死ぬ間際となってなお、【怠惰】の魔人には余裕があった。
「ですがどの道、同じこと……! 世界最強の
自身の力の制御を失い、実浜仁が爆散する。
地面に残された闇色の炎を見つめながら、ヒイロは決意を込めて呟いた。
「取り戻してみせるさ……レアも、リーレアも。二人がいれば、魔竜ファフナーだって必ず倒せる」
そう言って、ヒイロは背後を振り返る。
視線の先に立つのは、丈の短い和服姿の黒髪少女。
「リーレア相手にも、わしの変身解除は不完全ながら通用していた……そうじゃな、
「ああ、その通りだ、
そしてその時間稼ぎに最適な能力を持った
「あの時は連携が間に合わんかったが……今度はしくじらん。今すぐにテイのところに向かうのじゃ?」
「いや、先に僕の知り合いを保護する。【傲慢】を抑えることができれば、リーレアとも戦わずに済むかもしれない」
まずは……やはり孤門星一か。
かつて【傲慢】の魔人は彼の姿に変身していた。最初に当たるならば彼からだろう。
彼に化けた【傲慢】との戦いになるかもしれないが、ヒイロ自身の体力にはまだ余裕がある。【怠惰】相手に活躍してくれた皆は休憩が必要だが、他の
飛行能力を持った
「あ、星一くん、
「あー、新技できるまであと二日はかかるかな」
「わかりました、伝えておきますね」
「任せた……って何か空から来てるな」
何かを話している星一の姿を上空から発見。
どうやってかこちらにすぐに気づいた彼に驚きつつも、ヒイロは地面に降り立つ。
「星一!」
「どうしたヒイロ。なんかあった?」
「ああ、実は――」
と、そこで、彼の隣に立つ女子生徒に気づく。
「ティテア? 星一と知り合いだったんだ」
「……名前で呼んでんの?」
「え。うん。彼女がビフレストにいた時からの仲間だからね」
「あ、そう……」
ピリ、と僅かな敵意。
星一からこんな感情を感じたことは久しくない。一体、なぜ……!?
(まさか、【傲慢】の魔人……?!)
いや、まだそうと決まったわけではない。
ヒイロは会話を再開し、事情を説明する。
姉が洗脳されたという情報にショックを受けたのか、手で顔を覆って天を仰ぐティテアを尻目に、星一がヒイロに問いかける。
「……その、保護っていうのはどんな感じ? 期間はどれぐらい?」
「ごめん、前は監視だったけど、今回は軟禁って形になると思う。期間は最低でも一週間」
「一週間……一週間かぁ……」
星一とティテアが黙りこくって見つめ合う。
……何をしているのだろう? テレパシーが使えるわけでもあるまいし。ヒイロは首を傾げる。
そして、星一は「フッ」と意味ありげに笑った。
「――ならば仕方あるまい」
「え?」
ゴッ!! と星一の体から黒いモヤが勢いよく溢れ、風圧が周辺物を吹き飛ばす。学校に設置されたレーダーも、魔人反応を感知してけたたましいサイレンを響かせた。
「ご、【傲慢】……!」
「ククク……安心しろ
星一の姿をした何者かが、ティテアの首を抱いて自身の傍に寄せる。
「きゃ、きゃあー……!」
「っ! 卑怯な……!」
「悪いが、今は貴様に関わっている暇は無い」
そしてそのまま黒いモヤが渦を巻き、二人の姿をどこかへと消し去った。
「くそっ、すぐにビフレストに連絡を!」
ビフレストの動きは早く、即座に星一とティテア、レアとリーレアの四名の情報提供の呼びかけがなされる。
が、それはまるで指名手配かのように剣呑なやり方だった。
「長官、これは……」
「……心苦しいが、ただの行方不明というのでは緊急性が伝わらん。魔竜ファフナーの性質的に、他の隊員たちに今の危機を詳しく伝えることはできないからな……あとでできる限りフォローはするが……」
「くっ……」
こうなった以上は、四人が早く見つかることを祈るしかない。
異界に潜んだり変身したりすることができる魔人と違い、普通の人間を完全に隠すというのは存外に苦労する。
誰か一人でも見つけられれば、そこから痕跡を辿って事件解決の糸口とすることもできるはずだ。
(どうか無事でいてくれ、みんな……!)
※
『――討伐された【怠惰】の魔人に関与している可能性があるとして、☆6戦乙女リーレア・レジエンダと、◯◯高校に通う男子高校生・孤門星一、女子高生・江洲々或レア、同じく江洲々或ティテアの四名の情報提供を――』
「なんか大変なことになっちゃったけど」
「あれぇー?」
そんなこんなで、俺たちはいつぞやのセーフハウスに逃げこんでいた。
ふと、部屋の中に鳴り響く無機質な着信音。
『どういうことだリーレア! さっき
「この状況じゃ弁解しても無駄ですね」
ブツンと通信機の電源を落とし、
ヴァルハラに情報がいった以上、このセーフハウスもそのうち捜査されるだろう。
いそいそと夜逃げの準備を開始。追っ手がそれぞれの家に来る前に、一旦瞬間移動で帰って必要なものを持ち出していく。
現在はティテアの家。
俺の方はすぐに済んだが、ティテアは女子ということもあり時間がかかっている……いや女子だからとか関係ないな。何そのよく分からん機械。挿すだけで電子機器をハッキングできる? そう……。
「てかこれティテア攫う必要あった?」
「【傲慢】の魔人と一緒にいたから何かあるかもって保護されたら面倒ですし」
まあそうか。この状況、彼女のサポートはどうであれ必要になる。瞬間移動で攫いに行くのも二度手間だ。
「それに我々にはこれがありますから。指名手配されたってどうとでもなりますよ」
「むしろなんで指輪あるのに指名手配したんだろ」
「そもそも『魔人は指輪で変身する』ってのが一部でのみ伝わってる真偽不明の噂なんですよね。指輪に認識阻害機能と自壊機能ついてますし。だから魔人が持つ種族的能力だとでも思ってるんじゃないですか」
そんな機能ついてたんだ……知らなかった……。
話しつつも、ティテアは自分の指輪を操作し、三つ目の姿を設定する。
「星一くんに倣って、私の男だった場合の姿にしておきますか」
「えぇ……何もわざわざ男にならなくても――って背高っか」
いや男版ティテアめちゃくちゃ背高いぞコイツ! 確実に百八十センチ以上ある……!
ティテアは視点の違いに感心しながら、デカい手で俺の頭を触ってくる。
「おお、星一くん小さ……」
「や、やめろ……! 絶対身長盛っただろお前!」
「盛ってませんよ。私のおじいちゃん外国人なのでそっちの血が出たんじゃないですか? ……あ、もしかして星一くん背低いから気にしてます?」
低くねえし……! 平均よりちょっと下なだけだし……!
パツパツになった女子制服が苦しかったのか、すぐに女に戻るティテア。
あとで俺のジャージ借りるとか言っているが……絶対丈足りないんだろうなあ……。
ともあれ、こうやって指輪で変身し潜んでおけば、誰にも見つかることは無い。
隠れながら新技を完成させ、さっさとファフナーを吹っ飛ばしたら今回のゴタゴタは終わりだ。
終わりなのだが……。
「あの姿、気分的に女装してるみたいになるからイヤなんだよな」
「女装ならいつもしてるじゃないですか。何を今さら真人間みたいなこと言っているんです」
人を真人間じゃないみたいに。否定できないけど。
言われながら、俺は一番最初に指輪に登録した姿……女だったら
背が一気に縮み、男子制服がぶかぶかになった。
ちょい背高めのティテアや、平均ちょい下のリーレアよりだいぶ小柄のちんちくりん。
その上あんまり凹凸の無い、子供みたいな体型だ。乳もティテアと同じぐらいしかない。
俺の父親は平均的な身長だが、母親はかなり背が低い。女だった場合は体格が母親似になるということなのだろう。指輪くんがどういう判断してるかは分からんけども。
窓ガラスに顔を映す。
……うーん、髪とかは伸びてるけど、やっぱり顔だけ見たら男の時とそんな変わらないのがなんかイヤなんだよな。
細身なのに柔らかくメリハリがあるラインをしたティテアと違って、体つきもあんまり男と変わりゃしないし。
当然ながらティテアやリーレアと違って美少女でもなんでもない。芋っぽいチビ女って感じ。
「な? 背とかは違うけど、男の時とそんな変わらな……どした?」
「……あ、いえ。そうですね。あんまり変わらないですね。星一くんだとバレないように、ちょっと髪とか整えて印象変えた方がいいですね」
「ん……? いや、こんだけ背格好違うんだからそんな事しなくても分からないと思うんだけど……まあいいか」
なぜかティテアがキョドっているが一体どうしたのか。
夜逃げの準備で持ち出していたものの種類が変わり、よく分からん化粧道具やらなんやらが取り出されていく。
ふーむ、さっきはああ言ったが、やっぱり女子は色々と準備が必要なんだな。ちょっと本格的過ぎる気もするが、あんなの旅行の時とかどうしてるんだろう。
スッとティテアに無言で鏡の前に座るよう促される。
……あ、そうか、髪整えるんだったか。自分でやるつもりだったんだけど、適当に櫛通すんじゃダメなのかな。
余ったズボンの裾を踏みそうになりつつ、彼女の傍に座る。
近くで見ると女のティテアもだいぶ大きいな。いや俺が縮んだのだが。
自然と上目遣いになってしまう。
そして、そんな俺をじっと見る彼女。
どうしたんださっきから。あんま見られると照れるんだけど。
「それじゃ星一くん――覚悟して、くださいね」
「なにを???」
――途中で場所を移したりしつつ、一時間後。
鏡には、すっかり垢抜けた様子の低身長童顔黒髪少女が映っていた。
「……あの、ティテアさん?」
「どうしました?」
「もう全然顔違うんですけど。何やったのこれ。なんか目とかデカくなってるし」
「……ちょっと身だしなみを整えただけですが? いいじゃないですか、可愛いでしょ」
……この顔を可愛いって言うの、めちゃくちゃ嫌なんだけど。
だって変わったって言ってもまだちゃんと俺の面影残ってるし。化粧やらなんやらされたせいで、女装してる感が余計に増してる。
正直死ぬほど恥ずかしい。
しかも垢抜けてはいるけど、雰囲気自体は幼げに……やっ、やめろ、髪をツインテールに結わえるんじゃない! これ以上女児っぽくするな! 俺は男子高校生だぞ!!
てかなんで急にこんな意地悪をするのだ。理由が無い。
よもやティテアの性癖というわけではないだろう。
女体化した男を女の子っぽくして辱める癖なんて、早々目覚めるものではな……。
…………。
「……えっ、前の入れ替わりで……?」
「…………。な、なんのことだかさっぱりですね」
見るからに動揺していた。
言葉の足りない会話だったが、意味するところは全て伝わってしまっていた。
ど、どうすればいいのだろう。
俺のせいでこんなんなっちゃったというのか。
現在、近場にあったショッピングモール。
ティテアの方は既に男物の服を買って、着替え終えている。
ちらりと……いや、それでは足りない。
ぐいっと顔を上げてティテアの方を見る。今や大人と子供ぐらいの身長差ができていた。
「ぐぬ……」
当然というべきか、美形だ。
まるで王子様みたいな細身高身長の金髪イケメンだ。
買った服も、俺じゃ絶対似合わないスカしたオシャレコーデだ。
俺と同じで顔はそんなに変わっていない。
だから、変身してることを知った上で見れば、ちゃんとティテアだと分かるが……なんだろう、なんか無性に悔しい。
そんなティテア(男)が未だぶかぶかジャージの俺を見てから、売り場の一画に目をやる。
……やたらフリフリした服が並んだ、婦人服売り場を。
「…………」
「…………」
「……いや、流石にあっちにしておきましょう。無難ですし」
指差したのは、最大手の衣服量販店、YOU296(通称ユーニクロ)。
確かに俺としてもそっちの方がいいが……。
「べ、別に、ティテアの好きにしてくれればいいけど」
「……そ、そう、ですか?」
その後、何度も何度も「本当にいいんですか?」と聞いてくるものだから、もはや俺も意地である。
男に二言は無いということで、もう本当に何も遠慮させずに全部好きにさせた。
で。
「着た……けど」
「…………」
そ、そっちが気まずそうな顔すんなよ……!
ティテアが選んだ服は、過度に可愛過ぎたり変に目立ち過ぎたりもしない、しかし日常感は無く気合入れてきたんだろうなって感じの……なんていうの? 上品さのあるガーリー? な服だった。
なんだかんだちょっと気遣ってくれたんだろうけど、逆につらい。
もうがっつりコスプレみたいにド派手にフリフリにしてくれたら、ネタとして開き直れたかもしれないのに。
今しがた出てきた試着室を振り返り、鏡を見る。
……うわ。金髪高身長イケメンのティテア(男)と並んでると、背伸びしてお洒落してきた女の子感がすごい。通りすがった店員さんも微笑ましい目で見てくる。最悪。
ティテアもこちらをチラチラと見つつ、照れくさそうに言った。
「か、可愛い、ですよ?」
「う……」
……やばい。
なんか本気っぽい感じで言ってくるから、その……ちょっと、嬉しく……いやいやいや……!
覚えてはいけない感覚に全力でフタをする。このままだと戻ってこられなくなる予感があった。
服を購入し、ショッピングモールを出る。
捜査の手が伸びていると考えられるため、家には帰れない。適当に宿を予約したが、少し距離がある。
そしてそこにたどり着くまでの間、すれ違う人がちらりと向けてくる視線に、もう耐えられそうになかった。
「しゅ、瞬間移動していい?」
「……まあ、人に見られないようにやるなら、いいですけど」
人目につかない場所を探し、狭い路地裏へと移動する。
そこで瞬間移動をするためにティテアの手を握り……うわ、手でか……そんで俺の手ちっちゃ……。
「星一くん?」
「っ、何でもない! すぐに瞬間移動して――」
「――いけません、ストップ!」
ティテアがいきなり俺を制止し、壁に押し付ける。ちょ、これ壁ドン……!
《人来てますよ! ちゃんと周囲確認してください!》
《え、あ、ご、ごめん……!》
いけない。動揺し過ぎて超能力レーダーの反応を確認してなかった。
帰宅途中のサラリーマンっぽい男性が、気まずい顔をしながら会釈して、俺たちのそばを抜ける。
男性が通り抜けるためのスペースを確保するために、ティテアの体がぐいとこちらに近づく。
……か、顔が近い。男になっているが、ティテアの綺麗な顔だ。
必死に抑えようとするが、頬が熱くなり、心拍数が上がるのを止められない。
だ、ダメだ、いくら中身がティテアだからって、男に顔近づけられてドキドキするとか最悪だ。このままじゃホモになる。ホモにされる……!
男性が通り過ぎ、ティテアの体が離れる。
どうにか態度を取り繕おうとするが、取り繕えているか分からない。
ティテアの様子を伺うが、彼女もとい彼の方もなんだか顔を赤くして……え。
「……女の子好きなの?」
「はい?! ち、違いますよ!! 星一くん男の子でしょ!?」
え、いやそれ……うん?
なんだかよくわからなくなったので、もう一度瞬間移動するために、勢いに任せてさっさと手を繋ぐ。
先の失敗を繰り返さないよう、今度こそレーダーの反応を確認し、て……?
「……近くに、江洲々或先輩の反応あるな」
「姉さんの……?」
どうするべきか。
新技が完成していない都合、まだあまり魔人連中を刺激したくはないが……。
悩みつつ、ティテアの方を見上げる。
彼女の方も少し顎に手をやって悩んだ後、手を離して頷いた。
救助できるのに放置して、彼女に致命的な危害が及んでは本末転倒だろう。これ以上ビフレストやヴァルハラに無用な心労をかけるのも忍びない。
俺たちは路地裏を出て、江洲々或先輩の反応があった方へと向かっていった。
最後のドラマシーン終了。次回からクライマックスです。