最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件   作:潮井イタチ

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更新遅れてごめーん!!色々と立て込んでました


15:こっちも大概こじらせてる件

 ――負けた。

 

 間が悪かった。

 運が悪かった。

 仕方がなかった。

 

 そんなのは言い訳だ。

 俺は負けた。力が及ばなかった。

 あのごちゃついた状況を処理しきれず、当たったらマズいと分かっていた攻撃をまともに食らった。

 

 だが、分かっていたことだ。

 俺だって誰だって、完璧でも全能でも絶対でもない。

 

 最強にはなれても、無敵にはなれない。

 いつかは負ける。いつかはしくじる。

 その日がいつ来てもいいように、ずっと自分に言い聞かせてきたことだ。

 

 ……分かっていた、ことなのに。

 

「ちくしょう……」

 

 受け入れられない。

 自分に敵わないことがある事実が苦しくてたまらない。

 

 だけど、だからこそ、俺は……。

 

 その思考が形になるより早く、粘土を捏ねるみたいに、ぐにゃりと目の前の世界が歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 どこだ、ここ。

 俺は確か、ええと、何か黒い炎の攻撃を受けて……なんでそんな攻撃を受けたんだっけ?

 

 どうにもはっきりしない記憶に頭を搔く。

 

 そんな中、ドォン、と後方から響く爆発音。

 視線の先。市街地に突如として現れた怪物の群れを、ヒイロ率いる戦闘少女たちが薙ぎ払っていた。

 

 ……あ、そうだ。学校で授業を受けてたら、急に魔獣とかいうのが現れて、それに対して司令官(コマンダー)のヒイロが戦乙女(ワルキューレ)を連れて戦いに行って……?

 

 まあいい。とにかく助けに行こう。

 ようやく鍛え続けてきた超能力の見せ場が来たのだ。

 

 ここでヒイロを助けて、世界も救う。

 ずっと俺を上回り続けてきたこの幼馴染に勝って、目に物見せてやらなければならない。

 

「ヒイロ!」

「星一、どうしてここに?!」

「助けに来たんだ、俺だって戦える! はぁっ!」

 

 解き放ったエネルギー波。

 しかしそれは、魔獣の体に当たってベチリと弾かれる。なんのダメージも与えられていない。

 

「なっ……!」

「ダメだ星一、そんな力じゃ何の役にも立たない! 僕らに任せて下がってるんだ!」

 

 俺の攻撃を無傷で防いだ魔獣を、戦乙女(ワルキューレ)が一撃で切り倒す。

 

 そんな……何年も鍛え続けて、街の一個二個は余裕で吹っ飛ばせるようになったのに!

 やっぱりこんな程度の力じゃ、ヒイロには全く敵わないっていうのか?!

 

 …………。

 

「いやなんかおかしくね?」

「星一?」

 

 俺はもう一度、エネルギー球を腰溜めに構える。

 

 掛け値なしの全力全開、フルパワー。

 大地が揺れ、天は嵐を呼び、周囲の動物たちが絶叫しながら我先にと逃げ出していく。

 

 そしてそのまま魔獣に向けて、渾身のエネルギー砲を撃ち放った。

 浴びせられたごん太ビームはそのまま遠くにある背後の山に命中し、山頂から麓までまとめて消し飛ばす。

 

 そんな威力のビームを浴びせられても、魔獣はやはり全くの無傷だった。

 

「えいっ!」

「グオオオオ!」

 

 で、それほどの防御力を持った魔獣が、別にビルを切断できるわけでもない戦乙女(ワルキューレ)の剣に傷つけられ、呻いている。

 

 うーん。

 

「いややっぱ何かおかしくね???」

 

 疑念を抱く俺に、妙に動きがカクカクしたヒイロが答える。

 

「おかしくないよ、実はあの一撃には、さっきの星一の攻撃以上の威力が込められているんだ!」

「へえ。そんなのがビフレストに何十人もいるんだ」

「そうだよ!」

「で、そんなのがいないと倒せないような魔獣が何百体もいるんだ」

「そうだヨ!!」

「なんならそんな魔獣や戦乙女(ワルキューレ)よりずっと強い魔人なんかもいるんだ」

「ソウダヨ!!!」

 

 大昔の3Dゲームみたいなカクカク具合のヒイロ。

 それを見ながら、俺はこの幻覚を作り出している何者かに向けて、大声で叫んだ。

 

「おーい! 今すぐ地球ぶっ壊れるか、せめて日本沈没しないと整合性取れねーぞ!」

《うるさいなあ!! なんなんだよお前、ボクの呪いがこんな形で弱体化されるなんて有り得ないだろ! ふざけやがって畜生ッ!!》

 

 直後、粘土を捏ね直すみたいに、見ている景色がぐにゃりと歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やるならやるでもうちょっとこだわってくれないとこっちも没入できな……あれ……?

 

 俺は確か超能力で魔獣を……。

 いや、超能力なんて無い、よな? そんなオカルトがあるはずない……?

 

 そうだ、だから俺は魔獣相手に何もできなくて……?

 

 うーん。

 

「でも魔獣がいるんなら超能力ぐらいあるだろ。使ってみよっと」

《やめろォ! クソがッ、どうしてもここだけ変えられない!》

 

 ……あれ? 魔獣なんていないよな。ゲームじゃないんだから。

 全く、俺はさっきから何を言っているのか。

 

 今日もヒイロは学校で、美少女ハーレムラブコメ中だ。

 俺はあんな風にはモテない。運動も勉強も容姿も、特筆して優れたものなんか持っていない。

 加えてあんな事をしていたため、灰色の青春を過ごしていた俺には……あんな事ってなんだ……?

 

 まあいい、とにかく羨ましいのに変わりはない。

 

《そうだ……! 欲しろ、力を……!》

 

 ……羨ましいか? なんか最近そんな羨ましくないんだよな。なんでだっけ。

 

「星一くん?」

 

 と、俺の袖を引いて、ティテアが話しかけてくる。

 

「何やってるんですか、いつもの作戦会議しますよ」

「え、ああ、うん」

 

 ……うん、そうだな。今は別に羨ましくないな。

 

《いけます! テレパシーで呼びかければなんか知りませんけど弱っていきますよこれ!》

《現実から干渉するな江洲々或ティテアァ! くそ、なんでもいいから沸き上がれマイナス感情ッッ!! ハァッ!!!》

 

 だけど、今は良くても、いつかはどうだろう。

 

 今は単純に、俺が役に立つからティテアが傍にいるだけだ。

 分かちあった苦悩だって、それ自体は別に特別なものじゃない。

 

 俺の代わりなんていくらでもいる。

 いや、俺よりももっと上手くメンタルをケアしてわだかまりを解けるやつだっていくらでもいるだろう。力押しでの解決など愚策もいいところだ。

 

 脳筋の俺が彼女と一緒に居れるのは、結局のところ打算ありきで、ただ縁があったという、それだけなのだ。

 

 だから、俺にはもっと力が必要で……、

 

 ……ていうか、なんで俺がティテアの役に立つんだっけ?

 

 こんな綺麗で、可愛くて、頭も良くて、なんでもできるハイスペック美少女に、いったい俺が何を協力できるというのだろう。

 

 そりゃ短所が無いわけではない。それこそ性格はだいぶカスだが、カスを帳消しにして上回るほどの可愛げもある。

 

 大体、そもそもが俺の好みドストライクなのだ。

 色の薄い綺麗な金髪。抱き締めたくなるような細い体。切れ長でかっこいいクールな碧眼。それが笑う時の可愛らしいギャップ。

 

 見た目だけの話じゃない。努力家なのも、負けず嫌いなのも、勝つために手段を選ばないのも、誠意の示し方が不器用なのも、照れた時は誤魔化しきれなくて子供っぽく怒るのも、全部好きだ。後半に関してはむしろ彼女と出会ってから好きになった。

 

《あっ、え…………あぅ……?》

《ティ、ティテア!? 照れてる場合じゃない! 星一の戦闘力が上がってきているぞ!》

《素茂くんは黙っててって言ったでしょ!! もうっ、なんでいきなりうわ言で褒めるんですか……! だ、だったらこっちもテレパシー全力で……!》

 

 ティテアが突然顔を真っ赤にする。……急にどうしたんだ?

 

「わ、私はっ」

 

 彼女がいきなり俺の襟元を掴んで、聞かせるように語りかけてくる。

 何をするのかという疑問は、彼女の真剣な眼差しにかき消された。

 

「私は! 私の悩みを分かってくれたのが星一くんで嬉しかったですよ! 別にいいじゃないですか縁があっただけで! もしもの話なんてして何の意味があるんです!」

「けど、今は良くても、どうせいつか……」

「大丈夫ですから! 星一くんが力を無くしたって、他の誰かに抜かされたって、私は、私は星一くんのことがすっ、すすっ……ねえちょっとそっちだけズルいんですけど! 正気に戻ってから好きって言ってください!!」

「でもそうなったら、俺の代わりなんていくらでも……」

 

 俺には、これしかないのだ。

 これ以外の何にも自信が無い。これだけが俺の全部だった。これにしか自分の価値を見い出せなかった。

 

 子供の頃から何にも変わっていない。変わったのはフリだけだ。

 

 これで負けたら、俺は耐えられない。

 だから、いつか抜かされる、いつか負けると繰り返して、いつかくる時を受け入れようとしてきた。

 だけどいつまで経ってもそれが受け入れられないから、ここまでずっと鍛えてきたのだ。

 

《……いけるか!? こんな感じでちょい記憶戻しながらここ突きまくればいけるか!?!? ウオオオオ通ってくれボクの呪いッ!!》

 

 俺は、俺の力が及ばない現実が、苦しくて耐えられないままだった。

 

 だから……。

 

「代わりがいくらでもいるなんて私だってそうです! 私たち二人とも、ずっとそんな風に思いながら生きてきたんですから!」

 

 もうやけくそみたいに、ティテアが叫ぶ。

 

「上位互換がいる替えのきく私を特別扱いして、どこにでもある悩みに全部賭けてくれる星一くんだから良いんです! もうとっくに、いいえ最初っからっ、力があるとかないとかそういう話じゃない!!」

 

 世界の解像度が下がっていく。

 風景がビシビシとひび割れ、その奥から超能力の白と、戦乙女(ワルキューレ)の金が入り交じった、白金の輝きが――。

 

《――まだだァ!!》

 

 ズッ、と黒い炎が白金の輝きを闇に覆う。

 

《こんな下らない恋愛ドラマのダシにされてたまるかよォ! これが最後の幻覚だ、ボクに残された力の全てをここに篭めるッ!! 届けぇえええええ――――――ッ!!!!》

 

 直後、粘土を捏ね直すみたいに、見ている景色がぐにゃりと歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ?

 どこだここ。俺は確か市街地……いや高校で……高校?

 

 俺は自分の手を見る。

 小さな、鍛えていない子供の手。

 

 そうだ、高校になんて行くわけが無い。

 

 今の俺は、小学生だ。

 

 テレビに映るゲーム画面は、俺の敗北を表示している。

 勝ったのは……隣に座っている、俺と同い年で小学生のヒイロだ。

 

「もういい?」

 

 ヒイロはつまらなさそうな顔をして、部屋の隅に戻ろうとする。

 いつも通りの暗い顔。俺と遊ぶことも、俺に勝ったことも、全く嬉しくなさそうな。

 

 俺はちらりと床を見る。

 ヒイロに貸したコントローラー。適当に転がされたそれは、子供の持ち物にしてはかなり使い込まれている。

 

「……これ、おれがいちばん得意なゲームだったんだけど」

「だから?」

「だからって……」

 

 ……そんな言い方ないだろ。

 

 こいつが来てからずっとそうだ。

 俺はこれまで自信のあったこと全部で負けている。

 そして、そうやって俺の自信をボコボコにしたヒイロは、その勝利になんの価値も見出してくれやしない。

 

「そんなのが一番得意だから何? どうせ今日みたいに、いつか誰かに負けるのに」

「……おまえなんなんだよ! ムカつくんだよ、もっと嬉しそうにしろよ! おれずっとこれやってたんだぞ!?」

「それが? 勝てないなら無駄じゃん」

「おまえ……!」

 

 掴みかかるが、それもすぐに逆転されて、床に押し付けられる。

 

「分かれよ、意味無いんだって」

「い、意味なくない!」

「無いって言ってるだろ!!」

 

 ヒイロが叫んで、俺の頬をぶん殴る。

 その荒々しい声と態度は、今のあいつからは考えられな……今ってなんだ……?

 いや、そんなことどうでもいい。とにかく何か言い返さないと。

 

「……なんだよ! なんでおれのことバカにすんだよ! おまえがすごいからって、なんでおれが意味無いとか言われなきゃなんないんだよ!」

「ぼくなんか何もすごくない! ぼくのやってたことも、全部、何にも、意味なんか無かった!!」

 

 目元を滲ませながら、ヒイロが涙声で叫ぶ。

 涙の奥の瞳はあまりにも真っ暗で、何の光も宿していなくて、俺は思わずぎょっとする。

 

「父さんと一緒に研究するために勉強してきたことも、母さんの実験を手伝うために練習してきたこともっ、全部、何の意味も無かった! 頭良いからなんだよ、運動できてゲームで勝てたからなんだって言うんだよ! そんなの、本当にどうしようもないことには、なんにもならないのに!!」

「っ、違う!」

 

 とっさに叫んだ声は震えていた。

 

 怖かったのだ。どうしようもなく。

 こんなにすごい、ムカついて仕方ないぐらいすごいヒイロにも、俺が勝てる部分がひとつも無いヒイロにも、どうしようもないことがある。覆せない現実がある。

 

 その事実が、現実が、この頃の俺には堪えようもなく怖かった。

 トラウマになって焼き付いて、いつか来る覆しようのない何かが怖くて、夜も眠れなくなった。

 

「何が違うんだよ……ぼくにも勝てないきみに、何が分かるっていうんだ!」

 

 当然のように、俺はボコボコにされる。

 どうやってでもこいつの言うことを否定しなければならないのに、どうやっても否定できない。

 

 何か、何かないのか。

 あるはずだ。

 絶対に。

 

 何もかもを試して、何もかもがダメで……。

 ……そんな中で、目覚めたのだ。

 

 超能力に。

 

 これなら。

 

 そう思いながら、それすら否定されるのに耐えられなかった。

 

 だから鍛えて、ひたすらに鍛えて、なんの見返りがあるわけでもないのに、死にかけるような特訓を重ねて重ねて重ねて……。

 

《まだだよな?! この程度じゃ足りないよな!? 足りないと言え!!》

 

 そうだ。まだ足りない。

 上には上がいる。いるに決まっている。どんなに鍛えたっていつか負ける。いつか奪われる。

 それが、受け入れなければならない根本原理だ。

 自分の力だけでどうしようもない現実を乗り越えたいなど、中学生で卒業するべき幻想だ。

 

 だが、なぜそんな現実に屈しなければならない。

 

 力さえあれば否定できる。できるはずだ。

 もっと、もっともっともっともっと力があれば。

 全てを……何もかもを……地球すらも消し飛ばす圧倒的パワーがあれ、ば……。

 

《きたか!? これ来たよな?! ウオオオオやったぞオオオ!! ボクの、【強欲】の呪いの勝ちだァアアア!!!》

 

 …………。

 

 ……ああ、そうか。

 俺は、俺に差し伸べられる黒い腕を握り、言った。

 

「――だから俺は、こんな力が無くても諦めない、ティテアのことが好きなんだ」

《は?》

 

 俺の精神に干渉する魔人の腕を握り潰す。

 そして、【強欲】の魔人に波長を合わせた相殺消滅エネルギーを全身に漲らせ、幻覚世界をその源ごと消し飛ばしていく。

 

 そうだ、最初っから、この結論にたどり着くことは決まっていた。

 ここまで惑わされたのは、俺が自分のこの感情と向き合って、認めることに臆病になっていたから。

 ……ただ、それだけのことだったのだ。

 

《がっ、ばっ?! くっ、クソがァ!!! ふざけやがって人間共オオオオオ!! 結局ボクをラブコメのダシにしやがってぇえええ――!!》

 

 魔人の残滓が、断末魔の叫びを上げて消し飛んでいく。

 

 そうして、目の前の景色は、今度こそバラバラに砕け散った。

 

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