最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件 作:潮井イタチ
「はぁっ!」
「うーん、違うんだよな。最初の内はもっとこう、頭の中空っぽにして、周りのこととか後のこととか、もう何も気にしない勢いで破ァ! って叫ぶ感じ」
「じゃあちょっとやってみて下さいよ」
「すぅー……ェェェェェァアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」
「もうハァッって言ってないんですけど。しごき抜かれた剣道部のシャウトかよ」
俺の目の前で、手を触れずにペットボトルがころんと倒れる。
翌日。昼。
今は春休みなため、魔獣が出ない限りは日中も自由時間。
現在地は街の外にある草も生えない不毛の荒野。
昔は有毒ガスが湧くとかで立ち入り禁止になっていた区域だが、魔獣の存在が一般に明かされるとともに、実はガスではなく魔獣の発生する地帯であることが暴露された。
今の日本にはこういった場所がそこそこある。
このようなエリアが増え、国家の力をもってしても違和感が隠しきれなくなったことも、魔獣の存在が世に明かされた理由の一つであるらしい。
まあ、子供の頃から街の外に普通に荒野があった俺たちにとっては、正直そこまで違和感無いのだが。
で、そんな魔獣が出現する危険地帯で、俺はティテアに超能力の訓練をつけていた。
ここなら何をしても人目につくことは無いし、出てくる魔獣は基本ワンパンなため、危険地帯と言っても危険は無い。
言わずもがな、自分以外の人間に超能力を教えるのはこれが初めてである。
これでティテアの姉よろしく、俺の五年間の努力が一週間で抜かれたらどうしようと内心ビクつきながらの訓練だ。
が、その結果は……幸か不幸か、芳しいものでは無かった。
「言っちゃ悪いけど、才能無いな。エネルギーをヒュってしてクルンってするのはそこそこ上手いと思うけど、超能力はこう、ギャっと上げてズゥン! ってするのが大事だから。結局そこのグンって部分ができてないとメトってなってジュンするからどうしようもないわけ」
「こんなカスみたいな教え方されといて、できなかったら才能無いって言われるの全然納得いかないんですけど」
リーレア・レジエンダの正体を偽っていく以上、いくらかの戦闘力は必要になるだろうと始めたこの訓練であったが、早速行き詰まってしまった。
「どうにかならないんですか? 私もビーム撃ちたいです」
「死にかけた後に復活したらまあまあパワー上がるけど」
「傷跡残さないようにできます?」
「やるのか……」
そういうわけでティテアを半殺しにしてみた。
が、別にパワーは上がらなかった。
なんということだ……超能力者である以上、死に瀕すれば勝手に生存本能がなんやかんやしてどうにかこうにかパワーが覚醒するのではないのか……!?
瀕死のティテアを超能力で治療(なお治療には二時間近くかかり、その間細胞の活発化により痛覚が鋭敏になるため、施術中は麻酔も効かない地獄の苦痛を味わう)した。
無駄に半殺しにされた彼女が全力のドロップキックを顔面に叩き込んでくるのを甘んじて受けながら、俺は代替案を考える。
「うーん、何も思いつかん」
とりあえず、超能力でどうにかできないか試してみた。
「力が……溢れます……!」
どうにかなった。
が、残念ながら効率はゴミだった。
俺の力の半分近くを注いでも、そのうちのほんの数パーセント分しか強化されていない。
その上、時間経過かティテアが超能力を使うことで注いだ力を消費していき、俺が触れて力を補充するまで力が回復しない。
加えて、力を分け与えている間は、俺は常に弱体化するというデメリットまである。
強化技としては流石にお粗末すぎる性能と言わざるを得ないだろう。
「たった数パーセントじゃ現状の☆3
「☆3以下の戦乙女に失礼過ぎるんですけど。ぶん殴りますよテメー」
その後はビームの撃ち方や肉体強化を伝授し、ある程度モノにすることに成功。
飛行や瞬間移動まではいけなかったが、十分な成果だ。
ティテアは超能力エネルギーの生成・増幅に関する適性は無かったが、エネルギーの制御技術では光るものがある。
限定的には俺を凌駕するほどの才能があるだろう……と言っても、俺の超能力の才能が普通の超能力者と比べてどんなもんかなんて分からんのだが。現状、二人しか超能力者いないし。
《星一くん星一くん、エネルギーを操作してたら星一くんの脳内に直接語りかけることができるようになりました! これは一体……!?》
《知らん……何これ……怖……》
が、一人から二人になっただけでも、いくつかの新事実が判明した。
まず、超能力者同士はテレパシーで会話することができる。
テレパシーが届く距離は超能力の力量に依存するらしく、ティテアは数百メートル程度が限界。俺の方は恐らく日本国内なら全域カバーできる。我ながら要らんオーバースペックしてんな。
他にも、他の超能力者を目標とすることで、瞬間移動の射程を伸ばすことができる。
俺の瞬間移動の射程距離は一キロが限界なのだが、ティテアのエネルギーを探知することで、彼女のいる場所に限り一キロを超えて移動できる。検証不十分なため断言はできないが、十倍程度は射程が伸びていそうだ。
他にも調べたいことは多くあるが、超能力の研究ばかりに時間をかけるわけにはいかない。
やるべきことは多くあるのだ。
「というわけで、はい魔人の指輪。三つまで変身する容姿を登録できるから」
「ふーん。……こうですか?」
「なんで俺に変身した???」
ティテアの体が一瞬光り、女子制服を着た
目の前に似合ってない女装して女の子座りした自分いるんですけど。最悪。
「星一くんがリーレアになってる間の身代わりが必要かなって……」
「なるほどね。必要なことかもしれないね。でもさっさと戻ってね。見苦しいからね」
「割と筋肉あるんですね。肩の辺りとかかなりキツいです」
「検分してんじゃねーよ」
「スカートの中……」
「やめっ――やめろォ! 待て、逃げるなこの……オラァ!!」
「ちょ、なに私に変身してるんですかやめてください!」
かくして俺たちの間で相互確証破壊が成立した。以降、我々は互いに対して、自由に尊厳的および社会的な死を与えることができ、それに対して同様の手段で相手に報復することができる。そして、これによって逆説的に互いに手出しをしないことが保証された。核抑止力ならぬTS抑止力である。
こうして最後の変身スロットが彼女の姿で埋まり、俺は「俺が女だった場合の容姿」「リーレア・レジエンダの容姿」「
ティテアの指輪の方は、俺にとっては不本意ながら一個目のスロットが「
「へー、ほー、ふーん……。これはなかなか……」
金髪クールスレンダーから、銀髪赤眼ジト目巨乳になったティテアが、鏡の前でくるくるとポーズをとる。
言うまでもなく、リーレア・レジエンダの姿である。ティテアが彼女の「正体」になるためには必須だろう。
様子を見るに、どうやらなかなか気に入ってもらえたようだ。キャラデザイナーとして誇らしい。というかなんか知らんが俺と違って表情普通に動いてるな。
しかし自分ではなく、他人がこうやってリーレアとして動いているところを見るのは不思議な気分だ。
「……巨乳ってこんな感じなんだ……良いな……」
こっちが見てる前でバストサイズの比較されると反応に困るのでやめてください。
ちなみに俺は貧乳派である。
「はっ……! あ、と、ところで、リーレアの衣装ってアレどうなってるんですか? せっかくなので着てみたいです」
俺は鞄の中からいつも使っている白い布を取り出した。
「えっと、これと?」
「それだけ」
「……下着とかってどうしてるんです?」
「無い」
「露出狂のバカ?」
「だって女ものの下着持ち歩いてたら補導された時に終わるし……」
一応、危ないところはエネルギー光で発光させて隠している。俺も他人の体に変身してるからやれてるが、自分の体だったら絶対にやらない。やれない。
「それに試験でいきなり変身しろって言われて……瞬間移動で持ってこれたの宿直室にあったシーツだけだったから……」
「これシーツなんだ……」
シーツである。服ですらない。「遠目から見た時は古代ギリシャの服みたいでカッコいいと思ってたのに……」というティテアの言葉にいたたまれない気持ちになる。本当にごめん。
「……リーレアの衣装を考えましょう」
「やっぱ要る?」
「私にノーパンノーブラでシーツ被って人前に出ろって言うんですか?」
「すいません」
そういうわけで、二人で戦乙女衣装を考えることになった。
と言っても、考案するのはほぼティテアだ。というかデザイン案を事前に用意してきていた。
「
「お前の衣装そんなにダサかったの?」
「……姉さんのを地味にした感じです」
……可哀想に……。
見る目が生暖かくなる。そのせいか、これにしようあれにしようと提案するティテア(リーレア変身中)の姿は、心なしかウキウキしているように感じた。
「この辺の複雑なのは除外して……シンプルなのだと、これとこれと……うん、やはりこれですね。これにしましょう」
「おお、いいじゃん」
ティテアが出してきた衣装案は、こう……なんか……シンプルだけど……オシャな……なんか音楽家が着てそうっつーか……まあだいたいそんなんだった。
一つ言えることがあるとすれば、色は黒基調だ。
リーレアが銀髪だからこう、白と黒で、あの……コントロールじゃなくて……コーラスでもなくて……えー……。
……色の差が際立っていい感じだ!
「じゃあ採寸するので変身してもらって」
「自分の体で測るんじゃいかんのか?」
他人の、それも女子の前でリーレアになるのめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。いや、というかそうなるとそうか、俺もこの服着るのか。マジか。ティテアが気にいってるし俺もさっきいいじゃんって言った手前やっぱ嫌って言い出しにくいんだけど。
そんな俺の内心を悟ってもらえることもなく色々と計測された。ティテアも変身しているので、ダブルリーレア状態である。
……てかリーレアって身長そんぐらいだったんだ。あ、いやいいよ別にバストサイズの数値は教えなくても……え、そんなに……? マジか……でも
傍から見れば双子みたいな状態でぎゃーぎゃー言いながら、採寸を完了。
この後の衣装製作においては俺は一切無力なので、製作費用を渡しておいた。☆6
そんなこんなで数日しかない春休みは過ぎていく。
春休みなんてのはいつだって短いものだが、今年は特に短かった気がした。
ティテアの正体をリーレアと誤認させる計画に関しても順調に進行。
彼女の指示で江洲々或先輩に会った時に「姉さ――、っ。……ごめん、間違えた……気に、しないで」などと言って露骨な伏線を貼りつつ(このセリフだけめちゃくちゃ練習した)、決定的な「証拠」を作るための計画案を完成させた。当然これらの計画立案もほぼティテアがやった。
ティテアの方も家でちょこちょこ「そうですよね……私が、守らないと……」「気をつけてください、姉さん。すぐに私も――……いえ、なんでもありません」などと言って伏線を貼っているようだ。
てか俺と協力体制を結ぶ前からそういうことちょいちょいやって姉に疑心を植え付けていたらしい。何してんだこいつ。
「しかしこういう計画、予定通りやるの苦手なんだよな。本番でド忘れしたり緊張でトチったりしそう」
「大丈夫ですよ、テレパシーもあるんだから。サポートは任せてください」
「頼もしい」
「ふふん。大船に乗ったつもりでいてくださいよ。服もこうやって完成しましたし」
かくして春休みが終わり、始業式も終了した後の放課後。
ティテアはリーレアに変身し、完成した衣装を着て、ヒラヒラと俺に見せびらかしていた。
言うだけあって、衣装のクオリティはかなり高い。この見た目である程度の耐久力と防塵性防汚性があり多少の戦闘なら問題ないというから驚きだ。ティテアも心なしかテンションが高くなっている。
こういう服づくりにどれだけの時間がかかるのかは知らないが、たぶん相当早いのではないだろうか。俺の分も合わせて二着となると、相当無理をしたことだろう。
学校生活が再開してしまえば服づくりをするためのまとまった時間も取れない。彼女の頑張りには称賛を送るばかりだ。金しか出せなくてごめん。
「ただ、計画が進むまでは、星一くんと付き合っていることは学校の皆さんには明かせませんね。申し訳ありません」
「別に他人に知らせる必要は無いし、そもそも無理して付き合わなくていいって何回も言ってるんだけど……」
「なんですか? 私じゃ自慢にならないって言いたいんですか??」
自己評価が高いのに自己肯定感が低い面倒で哀れなメンヘラである。こんな女に誰がした。江洲々或先輩か。そう考えるとこうやって入念な逆恨みをされるのも
ともあれ、俺とティテア、そしてヒイロは同クラスとなり、計画にも都合がいい環境が整っている。
ティテアの計画に関しても隙は無い。……無いよね?
「ありませんよ失礼ですね。チャートはちゃんと組んであります」
「ならいいんだけど……。それで、俺が変身して着る分の衣装は?」
「え?」
「……え?」
え? 一着しかないとか言わないよね? まさか今着てるそれ二人で着回すつもりだったとか、そんなわけないよね? ティテアが着てたやつを、俺が?
「…………あ。あ、いや、その……〜〜〜〜っ!」
今になって気づいたのか、ティテアの顔が見る間に真っ赤に染まっていく。
「なんですか文句あるんですか私の匂いついた服着るのがそんなに嫌なんですかいいですよもうこれここに置いてきますから!」
「脱ぐな脱ぐな脱ぐな! 冷静になれ!!」
こうして、既にガバの気配が見え隠れする中、俺たちの先行き不安な計画はスタートした。……大丈夫かなあ。