最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件   作:潮井イタチ

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05:やっぱりチャートが狂った件

 さて、天才の姉を負かしてマウントを取りたいティテアだが、彼女にもどう負かしたいかのビジョンはある。

 

「姉さんはリーレアの正体が妹のティテアであることを知り、善意からティテアのことを手助けしようとするけれど、ティテアと自分の力量が隔絶していることを痛感し、何もできない己の無力を嘆くことしかできない状態で、自分が情けなくてたまらなくなる惨めな気持ちをなるべく長く味わってほしいんですよね……」

「改めて言い分を聞いてみるととんでもねえカス女だな……」

 

 なんで俺こんなんの手助けしてるんだろうか。ちょっとそんな気持ちになりかける昼下がり。

 

「もちろん、長くと言ってもずっとバレずに続けられるとは思いません。ビフレストも無能ではないですから」

「そうかなあ。ビフレスト現状だいぶガバだけど。変身デバイスも無反応なのにバレてないし」

「適合率が95%を超えると内部クリスタルから発生するエネルギーが機械の測定限界を超えて、変身してるのにデバイスが反応しなくなるらしいですよ。一番高い姉さんが93%なのでそういうことなんじゃないですか」

「実際は0%なのになぁ」

「でも実際変身してますし超パワー使えてますしそれなのに魔人でもないですし」

 

 他にも、司令官(コマンダー)戦乙女(ワルキューレ)の試験検査で魔人かどうかをついでに識別していたり、街の中で魔人の反応を探知する機械を持った隊員がパトロールしていたり、魔人との内通を防ぐためにネットや通話を監視していたりなんかも秘密裏にやっているらしい。

 魔人を警戒させないため、この辺りに関しては機密情報だそうだ。なんでティテアは知ってんだよ。

 

 とにかく、ビフレストもちゃんと仕事をしていたということだ。知らん内に全部すり抜けたが。

 

「そういうわけなので、『リーレア=江洲々或(えすえすある)ティテア』という嘘が広まった状況で、星一くんがリーレアとしていつまでも活動していれば、いずれ真実も露わになってしまうでしょう」

「まあそうね」

「ので、姉さんには『リーレア=江洲々或ティテア』と知りつつも、それを他の誰にも明かせない状況に陥ってもらおうと思います」

「ほう」

 

 そんな七面倒臭い状況を意図的に作り出すことが可能なんですかティテア先生。やっぱこいつ頭良いな。

 

「秘密を喋ると死ぬ呪いをかけたことにします」

「お前を知略家だと思った俺がバカだったよ」

「話を最後まで聞いてください」

 

 席を立とうとする俺を手で制するティテア。俺はしぶしぶ話を聞く体勢に戻る。

 

「こういうのは心理で縛ろうとすれば失敗します。物理的な手段にした方が確実なんです」

「一理ある」

 

 気持ち的に相談しづらい、みたいな状況は、物語だと主人公の「話してみろよ……仲間だろうが!(ドン!)」みたいなので説得されがちだ。そんで俺の幼なじみであるヒイロはそういうことするやつだ。感情を理由とした行動制限は確実でないのでやめた方がいいのはわかる。

 

「まず、私はなんかすごい才能により、謎組織の謎技術によってリーレアとしての謎パワーを手に入れられたことにします」

「謎組織の謎技術の謎パワーってなんだよ」

「そこは下手に設定を決め打つと状況に対応できないのでボカします。『組織』とか『力』とかカッコつけて意味深に言っといてください」

 

 大丈夫かなそこアドリブ前提で。ティテアはいいけど俺がトチりそう。

 

「組織の存在は何者にも知られるわけにはいかないということで、私の秘密を知ってしまった姉さんには刺客が襲いかかってきます。刺客は恐ろしく強く、‪☆5戦乙女であるはずの姉さんもワンパンで倒されます。よろしくお願いします」

「しれっと俺の役どころが増えたな」

「やめろー姉さんには手を出すなー。私はリーレアに変身し星一くんと八百長で渡り合い圧倒しますが、姉さんを人質に取られ敗北します。よろしくお願いします」

「しれっと俺がヒールにされたな」

「クククお前は組織の同胞であるゆえ殺しはしない。だがこの女が失言した時には責任を取ってもらうぞ。そう言われ、姉さんの血とかで私は怪しげな紋様を刻まれます。心配しティテアと呼びかける姉さんの目の前で途端に苦しみだす私。ククク妹の命が惜しいならリーレアの正体は口にしないことだな。刺客は瞬間移動でシュッと消えます。よろしくお願いします」

「しれっと俺がククク笑いにされたな」

 

 ふーむ。思うところはあるが、まあいいんじゃないだろうか。

 これ自体はあくまで大枠で、細かいところはティテアの方でちゃんと詰めてくれるみたいだし。

 

 それにこのシーンを見るのは江洲々或(えすえすある)先輩だけだ。

 大勢でなく、一人騙すだけならガバがあってもリカバリーが効く。他人に話せず客観的な再確認ができない状況なら、本人が自身の記憶違いを疑うこともあるだろう。

 

「姉さんがなんか言ってきても、才能ねーんだよザコがペッ、ティテアの方がずっと良いぜと吐き捨ててくれると私が喜びます」

「人に三下のクズをやらせるな」

 

 んで、リーレア(俺)はちょうど最近ヒイロチームとの作戦行動が増えているので、これを利用する。

 作戦中に上手いことヒイロたちと江洲々或先輩を引き離し、リーレア(ティテア)と二人きりの状況を作った後、リーレア(ティテア)はうっかり変身を解いてしまい姉に正体を明かしてしまうのだ。

 

 ――そんな風に計画を話していたのが、数日前のこと。

 

 現在、魔獣被害によって破壊された施設の復興作業中。

 ビフレストの隊員たちが主導で進めているが、他にも日雇いバイトやボランティアの人員が多く、中には学生スタッフも少なくない。

 

 リーレア(俺)とヒイロチームの仕事は、そんなスタッフたちの護衛である。また魔獣が襲ってきた時に備えるのだ。

 

 ちなみに、まだ新衣装は見せていない。

 魔獣が出るまでは変身しないということで、今の(リーレア)はビフレストの一般隊員制服(男女兼用デザイン)だ。ティテアが丹精込めて作った新衣装は、江洲々或先輩の前で行われる八百長試合にてお披露目される。

 

 そんなこんなで、復興作業の手伝いをしようとしたら力加減をミスって「いいから魔獣の出現に警戒しててください」とか言われた俺は、黙ってスタッフたちの様子を眺めていた。

 

 女の体だと力加減難しいんだよな。筋力が落ちるので感覚が狂い、男の時より身体強化の出力を無意識に上げようとしてしまって調整をミスるのだ。

 

「スタッフの人たちが気になる?」

「ん……」

 

 と、スタッフたちを眺めていた俺に、仕事をしていたヒイロが声をかけてくる。

 無線機を使って何やら戦乙女(ワルキューレ)たちに指示出しをする仕事だ。司令官(コマンダー)としてのパワーで必要に応じて彼女らを強化したりもしている。

 

「君がそういう風にしているのは珍しいから」

「……うん。気になる、かも」

 

 ちら、と視線を向けた先。

 そこに、学生スタッフの中に混ざる『俺』……孤門(こもん)星一の姿があった。

 

 ……怖いなあ。

 いや、バレるのがじゃない。『俺』の演技自体はめちゃくちゃ上手い。「あれ俺本当に孤門星一だっけ」と本物の俺が沼男気分になるぐらい上手い。中身が女とか全然わかんない。

 

 そして、それぐらい俺の演技がめちゃくちゃ上手いのが逆に怖い。

 ティテアがなんか変なこと言っても、誰も疑わずに俺の発言だと判断するぞこれ。社会的な生殺与奪の権を握られちゃっている。

 

「正直、リーレアが来てくれて嬉しいよ。あの中には、僕の大切な友達もいるから。君がいてくれると万が一があっても心強いんだ」

「……そう」

 

 何? 照れるんですけど。でもお前は俺よりも、これから実の妹にメンタルをボコされる金髪巨乳お姉さんの心配をしておいてくれ。我ながら身勝手な期待(マジで身勝手)だとは思うが頼んだぞ。

 

「……他の戦乙女(ワルキューレ)のこと、見てあげてね。心配、だから」

「え……? あ、ああ、うん」

「先に……休んでる」

 

 時刻は日の沈む夕暮れ時。

 日雇いスタッフやボランティアの多くが帰るが、(リーレア)のような戦乙女および司令官や、孤門星一(ティテア)などの一部スタッフはもう少し居残りだ。

 

 俺は事前に用意しておいた、少し離れた場所の一人用テントへと向かう。

 テントは、何の守りも無い危険区域内に設置してもらった。一般人は近寄ってこないし、一般人以外もこんな場所で休憩しようとは思わない。

 

 危ないからやめろと止められるかと思ったが、スタッフの一人である穏やかそうな顔をした割田(わるだ)クミさんの主導により、なんか異様にスムーズに設置された。

 ゴネるために色々と弄していた策が不発に終わったティテアも訝しがっていたが、話が早いのはいいことだ。うーんやっぱ(リーレア)が最強無敵だからかな。

 

 この後に俺はティテアと交代し、スタッフの一人としてヒイロたちを夕飯休憩に誘うと同時、江洲々或先輩に「さっきあっちに行ったリーレアが物憂げに江洲々或先輩の名前呟いてましたよ」みたいなことを耳打ちしテントへ誘導する手筈になっている。

 

《こっちは位置についた。そちらの準備ができたら教えてくれ》

《トイレに隠れるので少し待ってください……はい、どうぞ》

 

 テントにて男に戻って普通のジャージに着替えた後、テレパシーを送る。

 しばらくして返答が来たので、瞬間移動でティテアの元へと飛んだ。

 

「来たぜ。送るぜ。着いたぜ。じゃあな」

「この距離の一往復半がたったの三秒」

 

 仮設トイレにいた俺の姿をしたティテアを回収し、一人用テントに瞬間移動で送り届けた後、仮設トイレに瞬間移動。

 ちょっと俺が謀略に便利過ぎる。こんなんがミステリにいたら終わるぞ。

 

 んで予定通りに江洲々或先輩を誘導し、ヒイロたちを夕飯休憩に。

 まだ仕事があるとかで揉めそうになり、プランBを実行するか迷ったが、誠実で実直そうな顔をしたビフレスト隊員の裏木(うらぎ)リモンさんの執り成しにより事なきを得た。助かる。

 

 この後に八百長試合が待っているので、夕飯をさっさとかっこんで済ませる。

 ボランティアの親切そうな顔をした読尾(どくお)守夜(もるよ)さんの料理は非常に美味かったので勿体なかったが、八百長のためには仕方がない。

 

「ご馳走様でした。それじゃ俺、部屋で休んでますね」

「え、ええ」

 

 引いた目で見てくる読尾さん。やっぱ食い方良くなかったかな。すんません。

 

 よーしそれじゃ金髪巨乳お姉さんワンパンして人質にしちゃうぞーとスタッフルームで準備をしつつ一人盛り上がっていたところで、コンコンと扉をノックする音が響いた。

 

 慌てて道具を隠して扉を開ける。

 やってきていたのは、割田(わるだ)クミさん、裏木(うらぎ)リモンさん、読尾(どくお)守夜(もるよ)さんの三人だった。

 

「……やはり、眠っていないか」

「一皿全て食っても平然としていられるヤツがいるとはな」

「無意味に死人を出すつもりはなかったが、こうなった以上は仕方があるまい」

 

 そして、人の良さそうな顔をしていた三人は、懐から暗器を取り出し、言った。

 

「「「組織のために死ね」」」

「確かに下手に設定を決め打つと状況に対応できないからアドリブの余地残しといて正解だったなあ」

 

 激しい光と、爆発音。

 床に転がり戦闘不能になった三人を縛り上げて、スタッフルームの外に出る。

 

「……やっぱガバじゃねーかビフレスト!」

 

 見れば、仮設食堂の隊員およびスタッフは全員眠りこけていた。

 ここの外にも人はいるはずだが、この分だともう全員ダメそう。

 

《なんで? なんで? なんで? 本当に妙な組織来てるじゃん! ふーざーけーるーなー! 星一くん! 星一くんはやく! 星一くんはやく来てください!》

《あいよー》

 

 俺は瞬間移動でティテアの元へと跳んだ。

 

 ……チャート、これまだリカバリできるかなあ。

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