最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件   作:潮井イタチ

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06:まだ巻き返せるので続行な件

 数日前。

 

「神秘研鑽組織ヴァルハラ――ですか」

 

 ビフレスト本部の長官室。

 そこに呼び出された、素茂(そしゃげ)ヒイロと江洲々或(えすえすある)レア。

 彼らは、魔獣の存在が明かされてなお秘匿され続ける、とある組織の名前を聞かされていた。

 

「ああ。魔獣を討ち人々を守るというビフレスト本来の理念から外れ、神秘と超常の力を得ることにのみ傾倒した過激派の集まりだ。魔人とも手を組み、もはや人でありながら人類の敵に堕してしまっている」

 

 苦々しい表情で長官は言う。

 

 魔獣対処組織の歴史は長い。組織名や構成員、扱う技術などは変われど、理念だけは曲がることなく今日まで受け継がれ続けている。

 当然、ヴァルハラのような理念を忘れ、悪に堕ちた結社との暗闘も多くあった。

 秘密組織同士の戦いで、ビフレストが大きく遅れをとることはない……だが。

 

「だが我々はもはや()()組織ではないのだ――公にその存在を周知し、国と民間からの協力を得ることを決めた今、ビフレストは以前のようには動けない。組織力こそ極めて大きくなったが、それ以上に弱点も増えてしまった」

 

 かつてと違い、魔獣はもはや秘密裏には対処することのできない存在だ。

 組織の変革はなさねばならぬことだった。いずれ来るその日に備え、多くの準備を行ってきた。

 

 だが……実際の運用によって得ねばならないノウハウの不足は、いかんともしがたい。

 一般的な組織が行っているような防諜もあまり有効には働かない。敵組織もビフレストと同じように超常の力を用いてくるのだ。完璧な変身や記憶の操作などを行われれば、民間から募った一般職員にはどうすることもできない。

 

 構成員全員が神秘や超常に対し専門的な知識があった頃とは違う。大人数で運用せざるを得ない今のビフレストの人員の大半は、神秘現象とトリックの区別も付かないのだから。

 

「例えばの話、変わった背景や経歴が一切ない一般人が、突然変異で超常の力に目覚め、しかもそれが歴史あるビフレストにも全く未知の力だったなら、ビフレストは無防備にその人物を内部に招き入れてしまうことだろう」

「まさか……例え話にしても極端ですよ。そんな奇跡的なことは早々起こりません」

「はは、それは確かにそうだな。仮に起こったとして、長い歴史の中で積み重ねられた神秘の術の数々と、素茂(そしゃげ)博士夫妻の研究によりついに集大成として花開いた戦乙女(ワルキューレ)技術の足元にも及ばぬ力しかあるまいが……」

 

 それでも、設立したばかりのこの組織が、以前より遥かに無防備かつ不安定な状態にあることは事実だ。

 

「すでに、ヴァルハラは我々の内に潜り込んでいるだろう。ビフレスト最強である☆6戦乙女リーレア・レジエンダ……彼女も、信頼できるとは言い難い」

「っ、待ってください、あの子は……!」

 

 ガタ、と金髪の少女が椅子を揺らし腰を上げかける。

 

「どうした? 江洲々或くん」

「……いえ、すいません……」

 

 俯きながらレアは座り込む。

 自分たちの知らないところで親交があったのか、とヒイロと長官は推察した。

 当然ながら、まさか彼女の妹が今はまだ自分と全く無関係なリーレアを、意味深な言動で自分と同一人物だと誤認させようとしているなどとは思いもよらない。

 

「正直なところ……我々としても測りかねているのだ」

 

 困った、というか、困惑したような表情で長官は言う。

 

「彼女が敵であったとして、あれほどの戦力を正面からぶつけてこない理由がわからないし、内部に忍び込ませるにしては目立ち過ぎるし、我々の信頼を得ようとしていると考えるには行動が怪し過ぎる」

「市民人気は相当に高いと思いますが……」

「それにしては人気取りのやり方が適当過ぎる。好き放題暴れて、その結果ほどほどにチヤホヤされたならそれで満足とでも言うような動きだ」

 

 完全なる正解だったが、それに気づくことができる人間がいようはずもない。

 

「だがつい先日、どうにか捕らえた密偵の一人から、近々ヴァルハラがリーレア・レジエンダに干渉しようとしているとの情報を入手できた」

「なっ……」

「彼女がヴァルハラの一味なのか、ヴァルハラが彼女を引き入れようとしているのか、あるいは彼女を始末しようとしているのか……確かなことは何も分からん。故に、素茂ヒイロくん。君に、彼女のことを見極めてもらいたいと思っている。ビフレスト最優の司令官(コマンダー)であり、あの素茂博士の息子である君に」

「……分かりました。なら、あえて隙を晒して誘い込み、僕の方で対処します」

 

 というのが、リーレアがヒイロチームと行動を共にするよう言いつけられる前日のこと。

 

「――起きてください、司令官(コマンダー)! 『正常化』!」

 

 毒で意識を失った素茂(そしゃげ)ヒイロは、わずか数十秒で起き上がった。

 誰にも知らせずに隠れて待機させておいた戦乙女(ワルキューレ)。彼女の能力で回復したヒイロは、ややふらつきながらも立ち上がる。

 

「ぐっ……状況は?」

笛賀(てきが)久留世(くるよ)ちゃんの探知に、☆5級脅威が二つ引っかかりました! 江洲々或レアさんと交戦中です!」

 

 周辺人物の致命的危機を予知できる能力を持った戦乙女(ワルキューレ)も編成していたのだが、そちらには反応がなかった。

 相手が死人を出さないようにしていたことが裏目に出たか。あるいは、彼女の能力が事前に知られていた可能性もある。

 

 眠らされた隊員とスタッフを何人か起こし、戦乙女(ワルキューレ)をつけ下手人の捜索および捕縛を頼む。

 

 下手人は神秘の術を使う秘密組織の構成員である。

 とはいえ、それでも所詮は人間。あらゆる神秘技術の集大成である戦乙女(ワルキューレ)に敵うものではない。

 

 友人である星一の無事を確認しておきたい気持ちもあったが、今はリーレア……そして、彼女の様子を一人で見に行った江洲々或レアの元に向かうのが先だ。この場のことは一般の隊員たちに任せるしかない。

 

 今回の任務に編成していた戦乙女(ワルキューレ)たちに指示を出しつつ、ヒイロはリーレアたちの元へと駆け出した。

 

 リーレアには及ばないが、レアも☆5戦乙女だ。そう簡単にやられはしない。

 今ならまだ、十分に間に合う……!

 

「ごめん思ったより早く起きてきたからもっかい寝かすわ」

「え?」

 

 直後、☆6級に相当する力を持った何者かの襲撃により、ヒイロたちは一瞬で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「て、ティテア……? どうしてここに……」

「っ、姉、さん……!?」

 

 時は数分ほど遡り、リーレアが使っていたテント前。

 江洲々或レアは、この場にいるはずもない妹と遭遇していた。

 

 まさか、と、やはり。二つの感情が同居する。

 あのティテアが。信じられないという気持ちは、この状況と、最近のティテアとリーレアの意味深な言動によって否定されてしまう。

 

「……話すしか、ないみたいですね」

 

 そこから語られた事実は、やはり信じがたく、しかし認めざるを得ないものだった。

 ティテアこそがリーレア・レジエンダであるということ。彼女に力を与えた「組織」の存在。そして、正体を知ってしまった以上、すぐにでも刺客が現れるという警告。

 

 ヴァルハラ。先日聞かされた組織の名が否応なしに脳裏に浮かぶ。

 

「逃げてください姉さん……! 組織の力は強大です、私ならともかく、姉さんじゃ勝ち目が無い!」

「確かに私はリーレアよりも弱いかもしれないけど、それでも‪‪☆5戦乙女(ワルキューレ)で、何よりあなたのお姉ちゃんだよ。ヴァルハラにだって、そう簡単にやられたりなんかしない、絶対にティテアの助けになってみせる!」

「(なんか急に知らん組織名が出てきましたね……)」

 

 その、次の瞬間だった。

 激しい衝撃と巻き起こる旋風。それによって、テントが枯葉のように吹き飛ばされたのだ。

 

 とっさに妹をかばおうとするが、戦乙女(ワルキューレ)に変身していないレアはただの女子高生だ。

 変身していないティテアもそれは同じはずだったが、なぜか異常な身体能力によってレアを守りながら後方へと飛び退いていた。

 

「なっ……どうして……?!」

「くっ、まさかもう来るとは……!」

 

「まだ合図とか出してないしそもそもテント吹き飛ばすとか予定と違うんですけど――」と、音を出さずに呟かれる言葉が、レアに聞こえることは無い。

 

「安心してください、いかに組織の刺客と言えど、一人だけなら――」

「――誰が一人だと言った?」

「はい?」

 

 コツ、コツと。歩み寄ってくる二つの足音。

 

「だがまさか今の一撃を変身前の状態で凌ぐとはな」

「わし一人では危うかったかもしれんの。やはりテイと二人で来て正解だったのじゃ」

 

 一人は緑髪をポニーテールにした軍服姿の長身女性。

 一人は老人口調で話す、丈の短い和服姿の小柄な黒髪少女。

 

「(誰?????)」

 

 困惑するティテアに代わり、レアが険しい顔で問いかける。

 

「あなた達が、ヴァルハラの刺客……!」

「然り。だが、貴様が口を開くのはこれが最後だ。リーレア・レジエンダ以外の木っ端はこの場から消えてもらおう」

「っ、変身ッ!!」

 

 虹色の輝きがレアを包む。服は装甲付きのドレスに代わり、変身デバイスは光を放つ大剣へと変化した。

 

 ガキィン! と、軍服の長身女性が取り出したサーベルと、レアの大剣がぶつかり合う。

 わずか数分で数百回も互いの剣閃が衝突し、火花が散った。並の戦乙女(ワルキューレ)なら数秒も凌げず真っ二つになるような斬撃の応酬。

 

「ほう。民間から募った者など数合わせにしかならんと思っていたが……なかなかやるな」

 

 強い。ビフレスト二番手であるレアと同等か、それ以上。

 基礎性能や総合力ではレアが勝っているが、技量が違う。相手の方が遥かに実戦慣れしているのだ。

 

 軍服の女がサーベルを構え直す。

 

「名乗ろう――私は神秘研鑽組織ヴァルハラ所属‪☆5戦乙女(ワルキューレ)木棺玄(きかんげん)テイ」

「……魔獣対処組織ビフレスト所属‪☆5戦乙女(ワルキューレ)江洲々或(えすえすある)レア!」

「覚えておく。我が勲功としてな」

 

 木棺玄(きかんげん)テイの肉体に宿るエネルギーが高まり、周囲にスパークが迸る。

 警戒するレア。しかし、大技を使おうとするテイを、和服姿の黒髪少女が手で制した。

 

「……止めるつもりか、千糸」

「そうじゃ。お主の必殺はリーレアに残しておけ。こんな木っ端に使うようなものではない」

 

 木っ端。あの剣戟を見てなおそう言い切られる。

 その大言の理由を見せるかのように、小柄な黒髪少女から湧き出る禍々しいオーラ。

 彼女が動き出そうとするより早く、レアは黒髪少女に突撃した。

 

「無駄じゃ」

 

 が――少女に近づいた瞬間、レアの戦闘服はただの学生服になり、大剣は変身デバイスに戻される。

 

「な……!?」

()()()()()()()()。それがこのわし、ヴァルハラ所属‪☆5戦乙女(ワルキューレ)仏請(ぶつこわれ)千糸(ちいと)の必殺よ」

 

 あらゆる戦乙女(ワルキューレ)の天敵にして死神たる能力。

 仏請(ぶつこわれ)千糸(ちいと)は、その細く小さな、しかし常人などひとたまりもない威力を宿した握り拳を振りかぶる。変身が解除され、常人に戻った戦乙女(ワルキューレ)にはひとたまりもない拳を。

 

「さらばじゃ、せめて一撃で――」

「変身」

 

 ――眩い白光が、高速で二人の間に割って入った。

 放とうとした拳撃が弾かれ、千糸の体が衝撃に大きく後ずさる。

 

「ティテア……!」

「……何故このわしの前で変身を維持できる? リーレア・レジエンダ」

 

 銀の髪に、紅の瞳。

 いつもと同じ純白の衣に身を包んだ彼女が、宙に浮いて二人の敵を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 で、どうすんのこっから。

 時間なかったから新衣装にも着替えられてないけど。

 

《えー、とりあえず人命優先で。他の人たちの様子はどんな感じですか?》

《超能力レーダーの反応がこんな感じなんだけど、これ伝わる?》

《あ、なんか脳内に来ました。うーん、動き見るに、目の前の二人と、星一くんが倒した三人以外に敵はいないはずです》

《そういうの動きだけで分かるもんなのか》

《もともとリーレア以外は素茂(そしゃげ)くんだけ無力化するつもりだったっぽいですね。もしリーレアと『契約』してたら強化されて厄介だとでも思ったんでしょうか》

《俺たちはヒイロのついでに巻き込まれたってわけだ》

 

 ヒイロの方も事前に対策していたみたいで、すぐに起き上がって爆速でこっちに向かってきた時はビビったが。

 

《では、まずは和服の方を制圧。その次に作戦のリカバリーですかね》

《まだリカバリー諦めてないのか……ヒイロたちも近くにいた隊員に気付けされてまた起き上がってきちゃったし、あとちょっとでこっち来るけど》

《具体的には何分?》

《えー、二分ちょいぐらい》

《まだ巻き返せるので続行です》

 

 ホントかなぁ。まあティテアがそう言うならやるが。

 

《ただ、あっちの軍服には注意してください。そこの和服と同じように『リーレアを倒せる能力』を持っているようなので》

《和服の方は不発だったけどね》

 

 リーレアがただ強い戦乙女(ワルキューレ)というだけだったら確かに倒されていただろう。

 しかし生憎リーレアの正体は戦乙女(ワルキューレ)でもなんでもない一般超能力者男性である。残念だったな。

 和服が禍々しいオーラを腕に集中させ、変身解除能力の出力を上げて殴ってくるがまあノーダメージ。俺にとってはただ腕の周りモヤモヤしてるだけの普通パンチだった。

 

「くっ……ありえん、先の一瞬で対抗式を編んだじゃと!? いや、じゃとしても弱体化はするはず! 原理的に完全無効化などできるわけが――ガハッ!?」

 

 でも放置してると真実に気づきそうなのでさっさと黙らせておく。情報収集はできなくなったがこれは必要経費。

 

 しかし、こういった貴重であろう格上殺しの能力者を刺客として放ってくるあたりちょっと安心だ。ヴァルハラとやらに、(リーレア)に基礎スペックで勝てる実力の持ち主はいないことがほぼ証明されたようなものである……いたらビフレスト終わってるか。

 

 で、そうこうしている内にティテアの方もチャートの変更が終わったらしい。

 テレパシーで修正内容が送信されてくるが……これ本当にアドリブで対応できる?

 

《できるできないじゃないです。やるんです。失敗したらそれまでのことです》

《俺がその失敗に巻き込まれるんですけど》

《申し訳なさそうな顔しろっていうならしますけど。でも結局やるならそんな顔したって意味なくないですか? だったら最初からやるなって話でしょ》

《決意ガチガチのカス女おるなあ……》

《変に謝ったり悪びれたりして、決意が揺らいでるなんて思われたくないんです。何をしてでも誰に迷惑かけてでも勝ちたいなんていう、この最低な私の気持ちを認めてくれた星一くんのこと、絶対に裏切りたくないですから》

《…………》

 

 ……こんなメンヘラシスコン病みヤバのカス女に本気になったら絶対マズいのになあ!

 

《だから私、星一くんに迷惑かけるの躊躇ったりなんかしませんからね。でも、この戦いが終わったら――》

《ええい分かった分かった! さっさとリカバリするぞ!》

 

 俺は軍服に向けて攻撃をしかけようとし、直後にがくりと膝をつく。

 そして光を放ち、瞬間移動の全力爆速往復(所要時間0.3秒)で隠れていたティテアと位置を入れ替えた。

 

 傍から見れば、力尽きて変身解除したように見えることだろう。

 

「変身解除能力……完全に防ぎ切ることは、できません、でしたか……」

 

 そうして始まるティテア劇場。お前この全く予定に無い状況でよく完璧な迫真演技できるね。どんな肝っ玉してんだマジで。

 

「ヴァルハラ……あなたたちの狙いは、分かっています」

「悪く思うな。ビフレストが我々より先にお前を、『神の娘(レギンレイヴ)』を生み出した以上、その確保は絶対だ。ヴァルハラの目的のために――」

「――そう。あなたは、何も聞かされていなかったんですね」

「何?」

 

 相手の話をぶっちぎって強引に会話の主導権を握るティテア。あからさまに意味深なワードが出てきてもお構い無しである。

 もはや相手の会話に付き合う気はなかった。彼女は息を切らし、何かを堪えるように苦しそうな顔をしながら独白する。

 

「あなたたちは捨て駒、いいえ、生贄だった。ヴァルハラにはもう、正しい意志を持った人は残っていない。滅ぼすつもりなんですね。自分たちを含む、この世界の全てを……」

「何を、言っている? ヴァルハラが世界を滅ぼすだと?」

 

 あと三十秒でヒイロたち来るけど間に合うかなこれ。ハラハラしてきた。

 

「っ、ぐ……! 駄目です、これ以上は、『彼女』を抑えられない――!」

 

 ティテアから抑えきれず溢れるように放たれる白いスパークとエネルギー光。キミ見かけ倒しのエフェクト作るの上手いね。演出家に向いてそう。

 

 カッ、とティテアの体が光った。

 その瞬間、俺は光に紛れ、瞬間移動で彼女のそばに現れる。

 変身はそのまま。銀髪赤眼美少女にシーツ巻き付けたリーレアの状態。

 

「な……リーレア・レジエンダが二人――!?」

 

 軍服が驚いているが、意識して無視。

 俺はティテアに倣ってヤバげなスパークを纏って無意味に地面を焼き焦がしつつ、ぼそりと呟いた。

 

「……知ったな。秘密を」

 

 いやだいぶ棒読みになっちゃったけど大丈夫かなこれ。

 

《人間的な感情の無い暴走モンスターって設定でいくので大丈夫です》

《オデ、全員殺ス》

《そこまで暴走しなくていいです》

 

 そういうわけで久々に全力を解放する。

 俺がフルパワーを出すとけっこう広い範囲に震度2ぐらいの揺れが起こって電波障害が発生し犬猫が暴れ鳥が逃げ出し嵐を呼び雷雲ができるなど色々と迷惑なのであんまりやりたくなかったが、たまには許して。これも全部ヴァルハラってやつの仕業なんだ。

 

「なんだ……この、力は……!」

 

 俺はぶっ倒れている和服少女の首元を持って吊り上げ、力を込め……あ、やべ、力加減むずいわ。首の骨折りそう。一旦地面に放って、超エネルギー弾を生成した手をかざす。

 

「消えろ。わたしたちの使命。その障害となる、すべて」

 

 なおこの使命が何かは俺もティテアも分からん。そこはヴァルハラがどういう組織かとか色々調べてから追々決める。

 仲間を殺されようとしている軍服と、人死にを止めようとする江洲々或先輩が動こうとした。

 

「――変、身っ!」

 

 が、それより早く、眩い光が迸る。

 先の数倍の見かけ倒しスパークを纏ったティテアが、決意の籠もった表情で叫んでいた。

 

「やらせない……! 救ってみせる、私が、この世界を――!」

 

 まるで正統派ヒロインみたいだぁ……。

 俺はエネルギー弾を消し、警戒するように彼女の方を振り返る。

 

 激しい光が彼女の姿を覆い隠す。あ、ちょうどティテアが光で見えなくなったあたりでヒイロ来た。時間管理完璧。

 

 そうして、光に覆い隠されたティテアの体が、エネルギー球に包まれる。

 生成された白雷が龍のように光球の周囲を周り、エネルギーで作られた光環が回転。

 地面からはキラキラと光の粒が浮き上がり、そして次の瞬間にはそれが嵐のように渦を巻く。

 花のような紋様が展開し、キィン、キィン、キィンと、一個ずつ花弁が光球へと変化していく。

 そんで頭上に浮かんだ光の剣が旋回し、周辺に神々しい光を放って……。

 

 ……ちょっと変身バンク長くない?

 

《あと少しで着替え終わるんで待ってください!!!》

 

 光が弾け散り、中心に向けて闇へ飲み込まれるかのように収束する。

 

 現れるのは、今の俺と全く同じ姿をした、銀髪赤眼の少女。

 だが、違う。もう一人のリーレアは、これまでとは全く違う漆黒のドレスにその身を包んでいた。

 

 彼女が手に持つのはエネルギーで生成された光の剣。

 当然、同じく光の剣を武器にする姉への当てつけである。

 

「……殺す」

「させない……!」

 

 俺はティテアと拳と剣をぶつけ合う。

 当然手加減しているが、余波のように発生するスパーク(俺製)は、さきほどの見かけ倒しスパーク(ティテア製)とは比べ物にならない超威力を宿していた。白雷は大地を蹂躙し、壊しても問題なさげな周辺物を塵と変えて薙ぎ払う。

 

「ティ――」

 

 ティテアの名前を言おうとした江洲々或先輩にエネルギー弾を放った。

 しかし、ティテアがそれを剣で切り裂いた――ように見せかけて俺がティテアに当たる直前でエネルギー弾を分割し、江洲々或先輩に当たることを防ぐ。

 

「ダメ――彼女は、秘密を知る者を生かしてはおかない! 誰にも伝えないで!」

「……っ」

 

 江洲々或先輩が黙り込む。これにてヒイロたちへの情報伝達は防がれた。なんかもう俺がホラー存在か神話生物みたいな扱いなんですけど。

 

「……秘密を知る者は、全て、消えなければ、ならない」

 

 江洲々或先輩を諦め、軍服女に向かおうとした俺をティテアが止めて、鍔迫り合いが発生する。

 そして、鍔迫り合いの最中、ティテアが軍服女と和服少女へと手をかざした。

 

「なっ……」

 

 警戒する軍服女だったが、ティテアの手から放たれたのは神聖さを感じさせる優しい光(特に効果なし)。

 直後に俺は鍔迫り合いから脱し、軍服女のそばへと瞬間移動して拳を振りかぶる。

 

「逃がさない――地球の、裏側だろうと、わたしは、跳べる」

 

 大嘘である。あんまり設定盛られると恥ずかしいのでやめて欲しい。

 恐ろしげなことを言いながら振りかぶった拳は、何かに阻まれるかのように直前で止まった(止めた)。

 

 俺はティテアを睨みつける。

 

「……邪魔を」

「逃げて! これで、この子は追ってこない……!」

 

 軍服女は動揺しつつもその言葉に従うことにしたようだった。こっちもそっちの能力分からんので一旦帰ってもらえるとありがたい。

 意識を失った和服少女を回収しようとする素振りを見せた軍服女だが、それは牽制して妨害する。流石にこっちはちょっと能力がヤバいんでビフレストに預かってもらう。

 

 八百長バトルは白熱し、戦いはまさにクライマックス。俺たちの間に誰も入ってこないように、無駄に余波を発生させることも忘れない。

 

 ティテアが夜空へと飛んで光剣を輝かせ、俺は地面を踏みしめエネルギー砲を腰だめに構えた。

 

《じゃあ皆さんビビらせるために全力でお願いします》

《全力で撃ったら余裕で衛星軌道まで届くんだけど、人工衛星とかかすめたりしない?》

《こいつマジですか? ……んー、緯度的に静止衛星帯があの辺で……日没直後だから太陽同期軌道で低軌道衛星が……えー……。うーん……いけます!》

 

 よう分からんが信じるぞ!

 

 放たれるごん太ビーム。

 破滅の光束が、ティテアに切り裂かれ(たように見せかけて)、二又に分かれた。

 

 夜空を昼に染め上げ、光束と光剣が衝突する。

 

 打ち勝ったのは……ティテアの方だった。いやまあ元々その予定だったから溜めて言うことでもないんだけども。

 

「ぐ……な、ぜ……」

 

 ばたり。力を使い果たしたように倒れ込む俺を、降りてきたティテアが支える。

 ……ちょっとアドリブやめてくれます? 今から光の粒になってキラキラして消えるんで。

 

《いや、同じ顔した片割れに抱きしめられながら消えてった方がエモいかなって……》

《正統派ヒロインするのにハマってんじゃねーよ。……あの、本当にちょっとその、当たってるんで》

《私にもあなたのおっぱい当たってますけど》

 

 だから余計に恥ずかしいんだよお……!

 

 俺はさっさと光の粒を残して瞬間移動で消える。

 残された光の粒は、リーレア(ティテア)の体の中に溶け込むようにして消えていく。

 

 神秘的な光景と、別れを惜しむような彼女の顔。それを前に、声を発せる者は一人もいない。

 

 かくして、襲撃者は撃退され、捕虜も一人捕らえ、死者は無し。

 俺たちは江洲々或先輩にリーレア=ティテアであると明かし、それを誰にも伝えさせないことに成功したのだった。

 

《これにて無事完走です。お疲れ様でした》

《無事かなあこれ》

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