最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件   作:潮井イタチ

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何も話進んでないけど後悔はしていない


08:もうこんなのエロな件

 翌日。朝。自室。

 

 俺は洗濯を終えた自分の制服を畳む。

 いや、天気がバッチリ晴れてて良かった。雨だったら乾かなかっただろう。もしティテアの元に洗濯しないまま持っていく羽目になっ……。

 

 …………。

 

 いや、というか、うん。

 ……え、マジで持ってくのこれ?

 そんでティテアに着せるの? このシャツも、ブレザーも、スラックスも……下着も、俺の服全部?

 

「なんで昨日あのまま流されちゃったんだ……」

 

 俺は昨日の会話を思い返す。

 お互いの姿に変身して登校。この自発的「俺たち入れ替わってる〜!?」作戦については、俺は当然反対した。

 なにゆえそんなラブコメのテコ入れ回みたいなことを自ずからやらねばならぬのかと。だが。

 

『いや、わざわざそんなことしなくても、俺は学校休んで、戦う前にテレポート交代で……』

『星一くんの出席日数減らしちゃうのは気が引けるかなって……』

『これまでもっと気が引ける場面あっただろ』

『お金と手間と恩は後々返せますが、内申評価と世間体は返せませんし』

『こんな時だけ正論を言いやがって……ええと、じゃあその、ティテアが戦う直前にテレポート交代で俺がリーレアになって出るとか』

『それじゃ私が星一くん(リーレア)をサポートできません。学校には人目も多いですから、細かいサポートは必要になるはずです。その時にリーレアと(ティテア)が一緒にいるところを誰かに見られたら、設定に矛盾が出ます』

『じゃ、じゃあ……そうだ、ティテアだけ俺に変身して登校してもらって、俺は後からリーレアで……』

『わ、私一人だけ変身するのは心細いん、です、けど……』

『…………』

 

 ……なんで流されちゃったんだろうなあ!

 

 昨日から考えているが、代替案は浮かばない。

 

 そして、だからといって延期にするのもよくないだろう。

 兵は拙速を尊ぶのだ。俺たちは早くヴァルハラに接触し情報を得て、このゴチャつかせてしまった状況を整理せねばならない。こうしている今も敵味方問わず各所が混乱中なのだ。

 

 うーんうーんと唸りながらも、俺は着替えを持って家を出る。

 

 向かうのはティテアが一人で住むアパート。

 元々はビフレスト本部の隊員寮だったが、戦乙女(ワルキューレ)を辞めてからそちらで暮らしているそうだ。

 隊員寮から通うつもりでウチの高校を選んだため、実家から通うのは距離的に厳しいらしい。

 

 実は一度、春休み中の打ち合わせで部屋に行っているのだが……まあ年頃の女子高生とは思えない殺風景な部屋だった。らしくはあるが。

 

 公衆トイレに隠れて――この後のことも考えそのまま手洗いも済ませてから――俺はティテアにテレパシーで連絡を取る。

 

 俺とティテアの繋がりはまだ伏せておきたいということで、俺たちが会う時はテレパシーと瞬間移動を駆使した待ち合わせが多い。

 超能力を使わなくても隠れて会うぐらいできそうなもんではあるが、超能力で済むなら超能力で済ませた方が楽だ。

 

《こっちは位置についた。時間になったし、そっちに行くぞ》

 

 返答は無い。……この距離じゃやっぱりティテアからのテレパシーは届かないな。俺のように日本全土とまでは言わないが、もう少し射程が欲しいところだ。ビフレストが魔人との内通を防ぐために通話やチャットの監視をしているなんて噂もあるし。

 

 俺はティテアの超能力エネルギーを探知し、彼女の元へ瞬間移動する。

 

「着い……」

「しっ、静かに……!」

 

 テレポートした瞬間、慌てた様子の彼女に口を塞がれた。

 

「今から、家に姉さんが来るんです……! とりあえず、ええと、押し入れの中にでも隠れててください!」

「お、おう」

 

 コソコソと隠れる。……よく見えんがぬいぐるみみたいのあるな、こういうの持ってるのか……。

 まあ、家探しをする気は無い。俺は身体強化で聴覚を強化し、ティテアの様子を伺った。

 

「てぃ、ティテア……。まだ、何も話してくれないの? 人に正体を話しちゃいけないのは聞いたけど、でも……」

「すみません姉さん。……私だって、一人で戦いたいわけじゃありません。でも彼女と使命を果たす力があるのは、私だけなんです。他のみんなには、姉さんには……」

「っ……」

 

 朝っぱらから姉の曇らせをすな。何をしてんだこいつは。

 

「わ、私の力だけじゃダメなのかもしれないけど、でも、ヒイロさん達や父様だって……」

「ダメです。誰かに言えば、その人に危険が及ぶ。姉さん一人を守っておくのが限界なんです。見たでしょう、彼女のあの力を。姉さんが彼女から自分と他の人たちの身を守れるとは……思えません」

「そ、れは……」

「いいんです、姉さん。姉さん一人に、秘密を抱え込ませてしまってごめんなさい。私が全てを終えたら、その時には必ず話しますから」

「…………」

 

 しばらく沈黙し、小さく呻き声のようなものを漏らした後、何も言い返せずに去っていく足音。哀れなり金髪巨乳お姉さん。

 

 俺は押し入れを開けた。目の前には姉が去っていった玄関扉を黙って見つめるティテアの姿。吹き込んだ風に金髪をなびかせるスレンダー美少女の姿は、まるで映画のワンシーンである。

 

 外でアパートの階段を降りる足音が完全に聞こえなくなる。

 それと同時、優しく儚げで寂しげな薄幸ヒロインめいた顔が、「にへぇ」とめちゃくちゃ嬉しそうかつ病んだものを滲ませた嗜虐的な笑みへと崩れる。

 

「えへ、えへへ、えへへへへ……。姉さんが、あの姉さんがあんな情けない顔してる……やばぁ……」

 

 ヤバいのはお前だ。自然と頬に両手を当てやがって。恍惚のヤンデレポーズがサマになり過ぎだろ。

 

「はぁ……でもまだもう少しいじめたいんですよね。劣等感がちょっと足りないです」

「そうかなぁ。だいぶキてたように見えたけど」

「『事情は分からないが、自分が同じ立場ならきっと誰にも心配をかけずにやれた』みたいな気持ちが透けて見えるんです。その無自覚な傲慢さを……ボコボコにしたい!」

 

 テンション高いっすね。ティテアさんが楽しそうで何よりである。

 こうも喜んでもらえたなら俺も協力した甲斐があったというものだ。複雑な気分ではあるが。

 

 俺の方はまだこの後のことを考えてイマイチ気持ちが乗らないのだが、ティテアの方はもうウキウキである。

 押し入れから出ようとする俺の腕を引き、さあ行くぞと言わんばかりだ。引っ張るのはいいが、スーパーパワーを持った俺が変に蹴つまづいたら怪我をするのはそっち――おっと。

 

 ぽんっと足元にあったぬいぐるみを蹴っ飛ばしてしまう。

 

「あっ」

 

 それはどっちの声だったか。

 明るい場所でそれを見る。人のぬいぐるみ――女の子キャラのぬいぐるみだ。

 銀髪に赤い瞳。白い一枚布を服のようにしたジト目の少女。

 ……あれ、これって。

 

「わ、あわわ」

 

 分かりやすく慌てた声を出して、ティテアが押し入れにぬいぐるみを戻そうとする。

 が、力加減を間違えて壁にぶつかった。前までならそんなこともなかったろうが、今のティテアは肉体強化が使える超能力者である。☆3戦乙女(ワルキューレ)相当の力による、思った以上に強い衝撃。

 

 どんがらがっしゃん。付けるならばそんな昭和めいた効果音とともに、アクリルスタンド、キーホルダー、プロマイド。

 その他大量のビフレスト公式ショップで発売されている☆6戦乙女(ワルキューレ)リーレア・レジエンダ公式グッズが、押し入れの上棚から転がり落ちた。

 

「…………」

「…………」

 

 ……あ、前にビフレストで撮った写真とか、サインした書類とか、こういうの作るのに使われてたんだ。へぇー……。

 

「……なんか文句あります?」

「い、いえ……」

 

 何も文句はない。

 

 ないけどこいつは俺の感情をどうしたいの???

 

 顔を仄かに赤くしたティテアが、腕をブンと振って、それこそ振り払うように言う。

 

「もう、いいからさっさと変身してください!」

「あ、はい……」

「違っ……なにリーレアに変身してるんですか! 私に変身してくださいよ!」

 

 あ、ああ。そっちか。そうね。

 いったん男の姿に戻る。いや、でもなんだろう。なんかすごい絶妙な気分なんだけど今。

 

 むぅうう、と唸りながらリーレアぬいを抱いて口元を隠すティテアは、その、先ほどのメンヘラシスコンヤバ女と同一人物と思えないぐらい、ええと、まあ、なんだ。

 ……可愛げが、あった。

 

 今からこの子と同じ姿になる、のか。

 

 …………。

 

「……な、なんですか」

「い、いやその……、……ええい!」

 

 勢いのままに指輪を起動した。

 少し目線が下がった。彼女と全く同じ目線。それを認識した直後に首と背中、そして顔にぱさりと長い髪がかかった感触がする。

 

「う……」

 

 もう自覚できる。

 ついさっきのリーレアに変身した時より、遥かに知覚が鋭くなってしまっていた。

 最初に勢いでティテアに変身した時より、ずっと意識を集中させてしまっていた。

 

 リーレアは作り物の美少女だ。容姿はよくできたCG作品みたいだし、変身してても自分とは全く感覚が異なるせいで、着ぐるみを着ているかVRゲームをやっているかのような非現実感がある。

 

 ティテアには一瞬しか変身しなかった。最初に彼女に変身した時はとっさの行動で、目の前の自分に変身していた彼女に意識がいっていて、その後すぐに戻っていた。

 

 だけど今は違った。

 リーレアの時は意識もしない、男の時とは異なる重心の位置。

 最初にティテアに変身した時は気にもしなかった、俺とは異なる手足の長さ。

 

 少し身じろぎをするだけで、ぶかぶかになった服が擦れる感触が、自分の体がさっきよりずっと細くなっていることを教えてくる。

 腕の細さ、脚の細さ、引き締まったくびれ。細さと相まって、まるで自分の体が圧縮でもされたかのようなぞわぞわとした感覚が登ってくる。

 

 ふと、そんな中で唯一細くなっていない部分が気になった。

 気になってしまった。

 今の自分に本当に「それ」があるのかと、意識を集中させてしまう。

 リーレアの時は意識しなくても分かるせいで、俺が貧乳派なのもあって「おー揺れる揺れる」なんて思っていた部位。

 

 それはリーレアよりずっと控えめで、しかし確かに分かる柔らかな重みと膨らみを持っていた。

 そして俺は、直接見たことなんてないその形を、なだらかな曲線を、こともあろうに「自分のもの」として知覚してしまう。

 

 目の前の金髪の少女しか感じたことのない、『自分の体に江洲々或(えすえすある)ティテアの胸がある感覚』を、彼女以外には誰も感じるわけがない感覚を。他人の俺が。男である俺が。

 

「っ――、」

 

 くらりとして、思わず腰が引けそうになる。意味もなく部屋を後ろに一歩歩く。

 瞬間、柔らかい太ももが互いに触れ合う感触によろけそうになった。

 

「――!」

 

 自分の太ももと、華奢で柔らかな女子の太ももが、素肌と素肌で擦れ合ったことを知覚し、脳が混乱する。

 

「っと、大丈夫ですか?」

 

 よろけた俺の手をティテアが取る。全く同じ手で握り合う。

 細い、柔らかい、指が長い、という感覚が、触れた手と触れられた手の両方から伝わってくる。頭がバグる。

 

「だい、じょうぶ……っ」

 

 自分の細い喉からティテアの声が聞こえて、小さな口から澄んだ息が漏れた。骨伝導で彼女の声に揺らされる頭蓋骨。

 

 元の自分とは全く違う高い声。

 目の前の彼女とは少し聞こえ方の違う声。

 耳元で囁かれるより、さらに近い場所で響く声。

 

 リーレアの時もリーレアの可愛らしい声で喋ることには全く慣れなかったが、これはその比じゃない。まるで、脳に弱い電気でも流されているみたいな。

 

「いや……本当に大丈夫ですか? なんかすごいテンパってますけど」

「だ、大丈夫だってば……」

 

 全然大丈夫じゃなかった。なんで大丈夫と答えてしまったのか自分で自分が分からない。見栄か、照れか、混乱か。

 いずれにせよ、気がついた時には自分で自分の退路を絶っていた。

 

 だけどそんな、信じられない。あれだけリーレア・レジエンダに、女の体に変身していたのに。

 まさか、す……す、好きな子……というだけで、ここまで違うなんて。

 

 TS抑止力の存在もあり、ティテアの姿にはあの最初の一回を除いて、一度も変身していない。

 だからまさか、変身しただけでこれほど衝撃を受けるとは、夢にも思っていなかった。

 

「ちょっと動揺し過ぎじゃないですか? 星一くんも、こっそり何回か私に変身してみたりぐらいしてるでしょう?」

「え?」

「……え?」

 

 あれ?

 ちょっと??

 TS抑止力は???

 相互確証破壊は????

 

「ん、ごほん。それじゃ、制服はここに準備してあるので」

 

 何事もなかったかのように、スッと制服を差し出される。

 

 紺の上着に……ブラウスと、スカート。

 ティテアが普段着ている、女子の、ブレザー制服を。

 

「…………」

 

 胸が熱くなり、呼吸が浅くなる。そして、それを彼女に悟られないように必死に隠した。

 

 ヤバい……ダメだ、いけない。

 結局、あのリーレア用の黒いドレスを、俺が着ることはなかった。だから、これは。

 

「あっ、た、確かに星一くんに服を脱がれるのはちょっとアレですね。少し目を瞑っててください」

「えっ」

 

 言われるがままに目を瞑った瞬間、俺の首元、今着ているぶかぶかのジャージのファスナーへと、彼女の手が伸びた。

 何の抵抗もできずに、ファスナーが下ろされ、上着を取られた。晒された腕、素肌に触れる空気の冷たさが、普段より鋭く感じられる。

 

「ちょ……!」

 

 体が縮んでゆるくなっていたズボンが、トランクスごと下ろされた。

 思わず目を開きそうになったが、今の「自分」がどういう状況にあるかに気づいて、強く目を閉じる。

 

「っ、ん」

 

 すべすべした両足に布が触れて、太ももへと上ってくる。

 ぴたり、と()()()()場所にショーツが合わさった。その禁忌的な感覚から全力で意識を逸らす。

 

「腕上げてくださいね」

 

 肌着にしていたTシャツを脱がされた。

 それに戸惑う間も無く、ブラジャーをつけられる。

 

 その際にティテアの手が俺の胸に触れて、ふに、と。

 胸板に取り付けられた異物のようで、しかし確かに自分の体の一部としての柔らかい感覚が返ってくる。

 カップが胸に収まり、肉を詰められた。アンダー部分が肋骨のあたりを締め付けて、胸という部位を強調する。

 

「う……」

 

 倒錯感が脳を揺らす。

 もう、ダメだ。「胸についた肉」という認識で逃げていた部分が、ブラジャーのせいで形を整えられて、完全に「おっぱい」にされた。

 

 肌着を着せられ、ブラウスに袖を通される。下から一個ずつボタンが閉められて、胸元まで。

 男子のスクールシャツより布地に余裕が無い。だから、今の自分の体の形がうっすらと分かってしまう。

 

 そのまま流れるようにスカートを履かせられた。だが、他と違ってびっくりするぐらい「守られてる感」が無い。信じられない、女子はこんな腰布を何の頼りにしているというのか。

 

「自分に服着せるってなんか変な感じですね……。はい、もういいですよ。目開けて大丈夫です」

 

 目を開けた。

 ティテアの方を見た後、自分の体を見下ろす――、

 

 ――制服を着た女子の体があった。

 

「あ」

 

 終わった。脳に超能力でも防げないし治らない変形を受けた確信。自分の性癖が捻れる音が聞こえる。

 

「鏡見ます?」

 

 問いかけを言った時には、もうキャスター付きの姿見をくるりとこちらに向けていた。

 まるで双子のようだ。鏡の中に、ティテアが二人。

 腕を少し動かしてみて初めて、片方が俺であると認識せざるを得なくなった。

 

 ティテアはどこからどう見ても「制服を着た自分」になった俺を見て、満足そうに指を指した。

 

「うーん、ヨシ! で、星一くんの服はどこに?」

「そ……そこの袋の中……」

 

 ティテアが俺が持ってきた服を検め、頷く。

 そのまま自分が着ている部屋着に手をかけようとして、ふと気づいたように俺に問いかけた。

 

「あっ、星一くんが自分の裸見られるの嫌だったら、目瞑ったままやりますけど……」

「じ、じゃあパンツ脱ぐ時だけ……」

 

 そうですか、と言って、ティテアは俺に変身し、慣れた仕草で服を脱いでいく。……お前俺の知らないところで何回俺に変身してんだよぉ……!

 

 左右のボタンの違いなどに少し戸惑いつつも、ティテアはテキパキと俺の制服を着ていく。

 着終わった頃には、完全に普段の俺がいた。

 

 おお……と少し恥ずかしそうに鏡を見た彼女――今は彼だが――は、自分の姿を確認した後、袖を顔に近づける。

 

「……くん」

「服の匂い嗅ぐな……!」

「あ、し、失礼」

 

 洗濯したから何も匂いしねえよ……!

 

 てか、いや、それ気にしないようにしてたのに、俺の方も、俺が着ている制服の方もそれ、さぁ……!

 

 照れたように頬をかいた彼女は、俺の方を見て……見下ろして、言う。

 

「じゃあ……行きましょうか、()()()()

「っ……や、やめろよぉ……」

 

 性癖が捩れる。俺は半泣きになりそうになりながら、自分の顔をした彼女を見上げて抗議するしかない。

 

「なんか……私になった星一くん、すっごいよわよわで可愛いですね」

「うるさい……!」

 

 そう言って、玄関に歩いていく。……俺にはもう、今日一日を乗り切れる気は全くしなかった。

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