最強ヒロインの俺がクラスの美少女に正体バレたら、なぜか付き合うことになった件 作:潮井イタチ
(ちょっと思ったより星一くん動揺してますね……。大丈夫かな……)
登校中の通学路。
星一の姿になった
彼女あるいは彼は、自分の姿になった星一を見下ろしながら、内心でうーむと唸っていた。
――
別に尾行して学校の外で捕らえたっていいし、ティテアが囮になって相手を誘い出すのもいい。代替案はいくらでも浮かぶ。
もちろん、この入れ替わり作戦に意味が無いわけではない。建前だけでなくちゃんとメリットがある。
が、学校の人間にバレるリスクを犯してまでやることかと言われれば、正直微妙なところだ。
では、なぜこんな手段を選んだのかと言われれば……、
(……私が恋人になるのが『お礼』になってくれないと、困りますし)
姉に勝つために、他人の力を使うことに躊躇いはない。
手段を選ぶつもりなど江洲々或ティテアにはありはしない。
だが、だからといって後ろめたさや情けなさも無いかと言われれば、そんなことは無い。
できるならば自分の力で勝ちたい。
他人から助力を受けるにしても、それは自分が行った行動の結果であって欲しい。
正直……星一が全面的に協力してくれる今の状況は、ティテアにとって都合が良過ぎる。なんだよ超能力って。
はっきり言って、一方的にもらい過ぎている。
降って湧いたチートで勝つのを拒んだりはしないが、それでも何かしら返さなければ気分が悪い。
だが、だからと言ってティテアの方から星一に返せるものなど何も無い。
なんと言っても
だから最初の時に「女の子とイチャイチャしたい」という星一のつぶやきを盗み聞きし、咄嗟に出たのが「付き合ってあげます」だ。
正直な話、ダメ元だった。こっそり発信機付けて初手脅迫から入った女と付き合うのが報酬になるわけないじゃんねと思いながら言った。
態度も普通に悪かった。あの姉を、二番手に押しやったことをきっかけに推し始めてこっそりグッズも買ったリーレア・レジエンダ。その正体が男で、正直うっわマジかって感じだったのだ。
結局なんやかんや意気投合して協力関係になったわけだが、こうなるといよいよ、返せるものが付き合うことぐらいしかない。
しかし冷静になって考えてみれば……自分が恋人になることがご褒美になると思えるほど、ティテアは自分に自信がなかった。
自分のことを低く見ているつもりはない。
容姿は優れていると思うし、頭も要領も良い。自分が全体的にハイスペックであるという自負はある。
だが……。
(……それでも、姉さんと比べたら絶対に見劣りしますし)
結局、ティテアの心に陰を落とすのは、いつもこれだ。
自分にできて、姉にできないことはない。
性格だって姉の方が良いし、胸もデカい。
男子なら、みんなまず姉の方を好きになるに決まっている。
中学の時など、姉にフラれたからと言って、妥協で自分に告白してきた男すらいたのだ。その後ボコボコにしたが。
(それに、そうじゃなくたって今のままじゃお礼になんてなりません。だってむしろ、私の方が星一くんのこと……)
……まあとにかく、自分が恋人になることがご褒美になるぐらい、星一にティテアを意識してもらわなければ困るのだ。
そういうわけで今日の「これ」である。
これの破壊力を、ティテアはよく知っていた。
魔人の指輪に関する星一の仕様把握は正直ガバガバだったので、ティテアの方が一人で色々と確認をしていたのだが、それをやった次の日はまともに星一の方を見れなかったぐらいだ。持ち前の演技力で隠しはしたが。
同じ境遇と苦悩を抱えた仲である。姉と比べれば、という意識はあるにせよ、多少は好感を持たれている自信はあった。
男子である星一なら、今の状況はなおのこと効果的だろう。
何回か変身したことで身をもって実感したが、男子の性欲は女子のそれより遥かに強い。戻った後に悶々とする度合いは、ティテアよりずっと大きいはずだ。
(でも、やっぱりちょっとビクビクし過ぎですよね……? らしくもない……)
そういうわけで行った今回の作戦だが、自分と比べてもやはりちょっと、効き目があり過ぎるように思える。
本人に自覚があるか知らないが、普段の星一、そしてリーレアは、かなり頼もしさがある。
見た目や言動がどうこうという話ではなく、雰囲気がだ。「まあその気になれば街の一個二個ぐらい吹き飛ばせるし」という恐竜的自負から来る、樹齢万年の大樹めいたどっしり加減だ。
そんな星一が非常に弱々しい。自分と全く同じ姿なのに、周囲を警戒してびくびくとする姿はまるで別人のようだ。
可愛い……なんて、思ってしまう。
姿は自分なのに。
これじゃ、今回の作戦を講じた意味が無い。
《……星一くん、もうちょっとちゃんと演技しないと、バレちゃいますよ》
《わ、わかってるよ……》
振る舞いが少し変わる。
弱々しいのは隠し切れていないが、動きがかなり女っぽくなった。普段のティテアを模倣しようとしているのか、少しツンとして冷たい印象。
なのになんだか……妙な、色気があった。
理由はわかる。歌舞伎の
模しているのが「現実の女」ではなく「男が考える女」なのだ。
普通の男がやっても不自然になるだけだろうが、星一にはこれまでリーレアを演じてきた経験がある。その結果がこれなのだろう。
「…………」
――ムラッ。
まずい。性癖が歪む。男の強い性欲が滾りかけるのを、男性の体が
リーレアならまだいい。実際、部屋で星一に変身していた時に、反応させてしまったことはある。
リーレアの正体は星一である。性転換と異性装を一緒くたにするとジャンル分けに面倒なオタクに怒られるかもしれないが、女装男子のようなものである。女が男に懸想しているのだからセーフである。大丈夫、私はレズじゃない。そういう理屈が立つ。
だが、いくら中身が星一でも、自分の姿なのはアウトだ。自分の姿をしている相手に興奮してしまうのは、ダメだ。変態だ。倒錯的だ。ナルシストだ。
今になって気づく。
これは、諸刃の剣だったのだと。
星一がティテアになっただけなら、自分が変身せず女のままなら、こうはならなかったはずだ。ティテアの方も男になってしまったのが完全な失敗だった。それが強いことは分かっていたはずなのに、男子高校生の体がもたらす性欲に感情を踊らされている。
見事なまでの策士策に溺れる。なんやかんや理由を付けて、できる限り引き伸ばすつもりだったが、これは早々に
許すまじヴァルハラ。よもや私たちをここまで追い詰めるとは。
少し早足になる。置いていかれた子犬のように慌てて着いてくる星一に性癖を捻じられながら、ティテアは通学路を歩いていった。
※
もう普通に無理だこれ。
まだ半日も経っていないのに、俺は既に限界に達していた。
自分が、自分の席でなく、ティテアの席に、ティテアとして座っているというだけで頭がどうにかなりそうだった。
隣の席の女子が話しかけてくる。普段は話すこともないような女子だ。なのに、今の彼女の態度は、ひどく気やすい。
「ティテアー。現代文って課題とかなんもなかったよね?」
「う、うん……なかったはず、です」
丁寧語を使う。ティテアの振りをして。
隣の席の彼女が、じっとこちらを見る。俺を、江洲々或ティテアとして見る視線。
「……いや、ティテア今日やたら可愛いっていうか……なんかあった?」
「えっ、あっ、いや……な、何もありません、けれど……」
俯きそうになる俺に、彼女は「ふーん」とだけ言って視線を逸らした。
心拍数が上がる。心臓が跳ねる。
再認識させないでほしい。普段なら素直に頷くことこそないものの、普通に認めている「ティテアが可愛い」という事実そのものが、今の俺にとっては毒なのだ。
頬を撫でるきらきらした薄い色の金髪。自分の手を握っただけで分かる女の子の華奢な指。ソックス越しに分かる脚の形。頼りない体と動きの軽さ。何か別のことに集中していないと意識してしまいそうになるティテアの匂い。少し腕を前に出せばその存在が分かってしまう、控えめでありながら柔らかな双丘。
それが全部自分にある。
こんなに近いところに、こんなに可愛い子がいる。
なのに全く触れられない。近過ぎてなんにもできない。もう据え膳ってレベルじゃない。こんなの拷問だ。
ふと、唐突に後ろから肩を叩かれ、びくりと体が跳ねる。触られた自分の肩が、いやに華奢で小さくて頼りない。
振り返ってみれば、俺が……俺の姿をした、ティテアがいた。
俺の方がまるで使い物にならなくなってしまったので、ほとんど彼女一人で準備を終えたのだ。
「準備できた。行くぞ、ティテア」
「ぅ……は、はい。わかり、ました」
ティテアにティテアと名前を呼ばれるだけで、ぞくぞくとした怖気のような、快感のようなものが、背筋に走る。
俺は顔を熱くしながら、履かされたティテアのスカートを気にしつつ、席から立ち上がった。
「(こいつら今からえっちなことするんだ!)」
隣の席の女子が何か小声で言っている気もするが、気にする余裕はない。
言われるがままに誰もいない空き教室に連れられる。
「じゃあちょっとここで待っててください」
ティテアが教室の外に出ていってしまい不安を覚えるが、今は指示に従って待つしかない。
しばらく経って、黒髪をポニーテールにした長身の女子生徒……変身前の
「っ、君は……」
「……
「なるほど……全てお見通しというわけか。どうやら、君に上手く嵌められたようだな」
何をやったのかよく分からんが、ティテアに上手いこと嵌められたらしい。
「大勢の生徒がいるこの状況では、私も逃げられん。だが……」
スワイプされる変身デバイス。溢れ出す虹色の光に包まれ、女子制服が軍服に変わり、黒髪のポニーテールが緑色に変わる。
「策に溺れたな、それは君の方も同じこと……! あの時庇ってもらったことには感謝するが、こちらも使命を違える気は無い! 今度こそ捕らえさせてもらうぞリーレア・レジエンダ――いや、江洲々或ティテア!!」
バチバチと彼女から緑のスパークが溢れ出る。俺たちの見かけ倒しスパークと違い、多分ちゃんとした効果のあるやつだ。
てか勝つつもりなんだ……あの八百長バトル見てたはずなのに……。
そんな思考を俺の表情から読み取ったのか、
「確かに、君ともう一人の攻撃力と防御力は凄まじいものだった。だが、リーレア・レジエンダ。君には一つ、決定的に足りないものがある! それは『速度』……! そう、攻撃力と防御力こそ
……あ、もう変身していい? するね?
白い光に包まれ変身と着替えを行う俺を見ても、彼女は言葉を止めない。
「故に君は逃れられない……! このヴァルハラ所属☆5
俺は黙ってワンパン威力のエネルギー弾を放つ。
が、軍服女はそれを無防備に受け止め、無傷。一切のダメージを受けていなかった。
「なっ、」
「44秒だ。44秒の限定期間、相手の攻撃を無効化し、そして――」
軍服につけられたマントが翻り、刃の煌めきがこちらに迫る。
防ぐために差し出した、戦車砲の直撃すら無傷で耐える俺の腕は、しかしなんの抵抗もなく、藁束のようにざっくりと裂かれた。
「――相手の防御を無効化する。この時間中、私は攻撃を受けず、私の攻撃は防げない」
腕から血をだらだらと垂らす俺を油断なく見ながら、
「この44秒間……君の速度と技量で、防げるものなら防いでみせろ。幼少よりヴァルハラで研鑽を積んだ私の剣を!」
言に違わぬ洗練された剣技が、俺に対して縦横無尽に振るわれた。
んで、44秒後。
「バカなっ、全部避けられ――」
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
はい。
俺はリーレア用のシーツを一部破り、裂かれた腕に包帯代わりに巻いた。
超能力治療を施しているので、一時間もすれば完全に治る。
《まあ、あの雰囲気でまさか、☆3
《それはそう》
ぐったりと倒れた
この後、ゴミに見せかけて学校の外に持っていき、人目のつかない場所に隠す予定である。
《……で、俺もう男に戻っていい?》
《いやその、すいません。思ってたより美化委員会の人が面倒で。次の授業まで、まだもう少し私のフリしててもらえませんか?》
うっ……ま、マジか……。
俺は仕方なくティテアに変身し、目を瞑って彼女の制服を着る。
近くに鏡も無いし着慣れていないせいで、微妙に着方が乱れている気もするが……まあ、仕方がない。
腕の包帯のこともあるし、誰かに見られれば面倒だ。
さっさと戻って、ティテアの仕事が終わるまで大人しくしていよう。
相変わらずどうにも収まらない気持ちを抱えながら、俺は教室へと帰っていった。
※
が、その途中。
「てぃ、ティテア……!? どうしたの、その怪我……!」
なぜか二年棟を歩いていた
……やっべ、どうしようこれ。