シンが殺し屋を辞めて一週間が経ち、今剣人は幼馴染と娘を連れて商店街を出歩いていた。
事の発端は数日前に遡り、リベレが何の前触れもなく何処かお出掛けに行きたいと言い出したことが始まりで、晶の方は乗り気だったが剣人は先日の殺し屋騒動で周りを警戒しており、あまり遠くの場所に行くのは得策ではなくかといって娘の頼みを断るわけにもいかなく、苦慮の末に思いついたのが遠くなくかつ知らない場所の最有力候補の一番を飾ったのは仕事で通っている坂本が住む離れにある商店街だった。
訳あってできるだけ晶を坂本に接触させたくなくこの日まで商店街に行くことは避けていたが二人の幸せの為とあらばやむなしとして仕方なくここに訪れた。
そこで今回はシークレットミッションを単独で行わなくてはならない。ミッション内容は以下の通り。
1、坂本達とはできるだけ晶を接触させないこと。
2、周りに二人に危害を加える障害を取り除くこと。
3、二人がこの商店街を満喫してくれること。
この三つが剣人のミッションプライオリティーだ。
その肝心の剣人は内心坂本達とばったり出会わないように周囲に気を張り詰めているが表情を表に出さず二人と共に楽しんでいる。
「パパ~お腹すいた~」
「おおーもうそんな時間か、そんじゃここの近くにあるファミレスに行くとすっか。晶もそれでいいか?」
「もちろん、この中でこの町に一番詳しい剣人が案内してるんだからきっといいところって信じてるから」
「パパ、リベ高級お子様ハンバーグランチをちゅもんする」
「高級はないがハンバーグはあったはずだ」
近くのファミレスに向かいながらなんのメニューを決めるか相談していると―
「待てー!!この常習犯ッーーー!」
前方から大きな声が聞こえ遠くから人影と小さな影が一つずつ見えどんどん剣人達の方に近づいていき姿がはっきりとした。
そこには魚をくわえて走るどら猫とそれを追っかける魚売りの男店主といったどこかのアニメの歌詞どおりの光景があった。
「あのー!どうされましたかー?」
ただ事じゃないと察した晶が追いかけている男に遠くから声をかける。
「このどら猫が俺んとこの魚盗みやがった!!誰かその盗人、いや盗猫をふん縛ってくれ!!」
どうも今魚をくわえて逃げている猫が商品の魚を盗んでカンカンとなった男に追われているといった状況だろうか。しかも先程店主が常習犯と言ったところ同じ手口で盗みを働いていると見て間違いなさそうだ。
「たく、仕方ねえな。二人とも少し下がってろ」
「け、剣人」
二人を下がらせて剣人は道の真ん中に立ちいつでも捕まえられるように腰を降ろし両手を広げてここは通さないとアピールする相撲に似た構えを取り猫を待ち構えていた。
(へっ、たかがそんじょそこらの猫にここを突破できると思うなよ!)
そう高を括っている剣人だったが直後、猫は近くにあった軽トラックに飛び移り、車の先頭から飛び出し地面にいる時より高い高度と飛距離で剣人の頭を飛び越えた。剣人は侮って油断していたことと猫の予想外の機転で呆然とするしかなかった。
「しまった!この猫できる・・・!」
感心を抱きながらも猫を追おうとするが猫は裏路地の隙間から逃げ出そうとしてた。
(マズイ・・・あそこに逃げられたらもう手の打ちようがない・・・)
剣人はすぐに動こうとするがこの距離ではもう間に合わないと思ったその時―猫の真後ろからひょいっとあっけなくいつの間にか猫の背後にいた晶の手に捕まえられていた。
「捕まえましたー!」
「よくやった嬢ちゃん!」
念願の常習犯を捕まえれたことに店主は大喜びしているが、捉え損ねた剣人はというと―
「パパ、大丈夫?」
「俺、今回いいとこなかった・・・」
せっかく晶の前でいいとこ見せたかったのに猫に想像の斜め上を行かれ、その晶が魚泥棒を捕まえるという出オチをやらかしてしまい恥ずかしくて顔を見せられなくなり娘に慰められている。
「さぁーこのどら猫・・・観念して痛い目見やがれ!」
「ちょっと待ってください!いくら盗んだからって危害を与えるのはやりすぎなのでは?」
ふと声がする方を見ると何やら捕まえたはずの晶と追いかけていた店主が口論をしていた。
「うっせー!いいからさっさとその猫渡しやがれ!」
「駄目です!そんなことしたこの子が可哀そうですよ」
「おめーはこのどら猫見逃せってのか!?」
「そうじゃないですけど・・・でも駄目なんです!」
怒りに我を忘れている店主の圧を受けて元来優しいがゆえに気弱な晶は目を逸らしながらも怒りを鎮めようと宥めているが一向に収まらない。
「おめーいい加減に・・・」
業を煮やした店主は無理やり晶から猫を取り上げようとし迫ってくる店主から身をかがめて猫を守ろうとする晶だがどう転んでも猫を奪われるのは時間の問題だ。
その時―店主の伸ばした腕を掴み取り止めた人物がいた。
「おいおっちゃん、それまでにしとけって」
「ああん?邪魔すんじゃ・・・ってあんた坂本さんとこのボウズじゃねえか」
晶の耳によく知っている人の声が聞こえてき顔を上げると、彼女と店主の間に入り諍いを収めようと割ってい入った剣人がいた。
剣人の表情は目に見えてわかるように怒気が含まれていた。
「いくら魚を取られ続けたからって暴力を振るっちまったら大人げないだろ。それに彼女は俺の幼馴染なんだ。大目に見てやってくれ」
「うう・・・そうだな悪かったな」
「俺にじゃなくて俺の馴染みの方に言ってくれ」
「おう・・・」
恩人である坂本商店の人には頭が上がらないのか罰悪そうに晶の方に体を向けて謝罪した。
「悪かったな嬢ちゃん。せっかく捕まえてもらったのにあんな態度とっちまって」
「い、いえ!こちらこそ訳も分からず出しゃばってしまって」
互いに謝罪が済んだところで晶が捕まえた猫の処遇を決めることになった。
「この猫さんどうすればよいのでしょうか?」
「どうしようつったってやっぱ動物の保護団体に引き渡すとか」
「それがいいのかな・・・剣人はどう思う?」
「ううーん、俺にはちょっと気になっていることがあってな・・・」
「どういうこと?」
「この猫のさっきの動き俺が道を塞いだことを認識した後すぐにルートを変え予想を超えた方法で出し抜いたことからこいつは相当頭が回るヤツだ。いくら腹を空かせてるからってこう追い掛け回されていても同じところで盗んでいるのは何かしらの理由があるからなんじゃないかと俺はにらんでいる」
「な、なるほど」
剣人の憶測に晶は感心しながら店主を含めた三人で議論を続けているとリベレが晶が抱えている猫をじっと見つめていた。
「どうしたのリベレ?」
晶はリベレの存在に気づき彼女の目線と同じになるように腰を降ろした。
「ごめんね、ファミレスもうちょっと時間が」
「この猫さん子供がいるんだって」
リベレの一言に全員が目を開きリベレの方へと視線が集まった。
「ど、どういうこったお嬢ちゃん!?なんでこの猫のことがわかるんだ?」
「剣人、この子もしかして」
「ああ、猫の思考を読んだんだ」
驚いている店主に剣人と晶はリベレの能力を知っていたためすぐに娘の発言に順応して意味を理解できたので二人は娘の能力を明かさないように振舞おうと目を合わせて互いに頷き行動に移した。
「この子は生き物の感情に敏感で的確に読み取れる特技を持っているんだ」
「そのおかげでこの子、近所の犬さんの痛みにも気づけて飼い主さんからもお礼を言われたんですよ。ね?リベレ」
「うん!リベどうぶつさん大好き!」
「そ、そうなのか?」
ある程度嘘と本当を混ぜ合わせた二人と思考を読んで一緒に乗りかかったリベレの押し出しに店主も困惑しながらも納得してくれたようだ。
「猫さん、子どもたくさんいるから栄養たくさんいるって。だから新鮮なさかなひつようだったって」
「新鮮・・・たしかにうちは新鮮なものしか取り扱ってねえからな。そういうことか・・・」
「しかもたくさんいるとなればできるだけ大きめな獲物じゃないと腹を満たせないだろうな」
「だったらやっぱり保護団体に引き渡した方がいいんじゃ」
「いや、たくさんいる場合だと団体と引き取り手の都合上親子が引き離される可能性があるから猫のことを思うならおすすめできない」
「そんな・・・じゃあどうしたら」
たくさんの子猫がいるとなればよりこの猫のこれからは複雑化していきどうしたものかと考え込んでいると剣人の脳裏に閃きが響いた。
「そういや俺の知り合いに金をたんまり持っているかつ猫たくさんほしいって言ってたやつがいた。そいつに頼めば新鮮な魚も食べ放題で引き離されもしないから万事解決だ」
「剣人ってそんな知り合いがいたんだ!」
「ああ、それに性格もいいし信頼できるやつだから
解決策が見えてきたところで―
「お、剣人君じゃないですか」
「ふ、噂をすればだ」
通りすがってきた地味ながらも気品を感じる中年の男性がやってきた。
彼が剣人の話に出てきた猫好きの金持ちその人である。
「白昼堂々にこんなに集まって何か面白いことでもありましたかな」
「実は・・・」
その後剣人は事の顛末を話し猫好きのおじさんも状況を理解してもらい猫を快く向かい入れてもらいリベレの思考読みで猫の案内もあり子猫たちも無事に見つけることができた。
子猫たちはガリガリに細い姿をしておりその姿を見た晶も猫好きのおじさんも心を痛めていた。猫が躍起になって盗みを働くのも無理はない。
子猫たちもすぐに保護しおじさんは近くの病院に運ぶために近くの駐車場に行き止めてある自前の車に乗り込んだ。
状況を察した雇ったドライバーすぐさまエンジンを吹かせ発進する。
「この子たちは責任をもって私が育てますからご安心ください!」
「ああ、何から何まで済まない」
「いえ、私も金を持て余していますからこれくらい痛くもかゆくもありません」
「本当にありがとうございました!」
「猫さん達バイバイ~!」
「魚が欲しかったら今度からはそこの旦那に頼めよ!」
遠ざかっていく車が小さくなるまで全員手を振って見送り店主とは彼の店の所で別れ本来の目的であるファミレスにようやく向かうことができるようになりとうとう目的地にたどり着いた。
「やっとついったー!」
「ずっと私たちの都合に合わせてごめんね」
「ううん、リベとってもとっても楽しかった!知らないとこパパとママと歩いて冒険してみたいだった!」
「ふ、そういってもらえるとこっちも助かる。さぁ、勘定は俺が払うから遠慮せず頼め頼め!」
「はぁ~い!」
昼食を終えた三人は料理のうまさに満足顔のまま町の散策を再開しあてなく街を巡り回っていた。剣人でさえ知らなかった路地裏の怪しい質屋や剣人おすすめのスーパーや気に入って通っている公園などにも寄り晶とリベレはすっかりこの町を気に入ってくれた。
剣人は二人の笑顔を見たおかげで苦労が報われたと感じ彼も頬が緩むほどに嬉しくなっていた。
「ねぇ、剣人」
「うん?なんだ」
三人で手をつなぎながら歩いていると唐突に晶が上機嫌な剣人に尋ねてきた。
そしてその晶が開いた言葉は剣人が危惧していたことだった。
「剣人が働いている商店に行ってみたいな!」
「んな!!?」
そのことがを聞いた剣人はさっきまで有頂天だった気分が地獄に真っ逆さまに落ちていくほどの衝撃が彼の体中を走った。
衝撃のあまり剣人は上機嫌だった時と比べて分かりやすく体はギギギッとさびた機械のように首を明後日の方角に向け口調も歯切れ悪くなった。
「ソ、ソレハサスガニムリデス」
「ええ!?なんで?」
「ダ、ダッテヤスンデルニ店二イッタラナンカミンナニワルイモン」
「剣人、あなた私に何か隠してない?」
「ナ、ナイヨ」
「じゃあこっち向いてよ」
晶の圧に負けた剣人は晶の方に向き直した。彼の視線に映ったのは超不機嫌かつご立腹な晶の不満そうな表情だった。
せっかく頑張って二人を満喫させようとしたのにこれでは水の泡になってしまった。リベレも心配そうに二人を見つめておりこの最悪な展開をどう切り抜けるか剣人は頭を回し続けているがどう考えても八方塞がりな状況にはお手上げ状態で詰んでいた。
するとバスがバス停を無視して通り過ぎているところを偶然剣人の視界に入りその中には乗客以外に覆面を被ったテロリストが数名がいた。
それだけではなくその乗客の一人には剣人の良く知っている人物が乗っていた。
その人物とはテロリストがいるにも拘らずいつもの柔らかい笑顔のまま窓を見ている坂本の奥さんその人であった。
「え!葵さん!?」
「ど、どうしたのいきなり大声出して?」
沈黙を貫いていた剣人が驚愕したことに驚愕した晶は気になって聞きただす。
「今あのバスの中テロリスト達がハイジャックしててその中に俺が世話になっている店長の奥さんがいた」
「ええ!?それって一大事じゃない!」
「テロリスト現る!」
理由を聞いたことで晶も事の重大さを理解してさっきまでの剣幕はあっさりと薄れていき逆に慌てふためく。一方リベレは本物のテロリストがいたことに目をキラキラと光らせていた。
「ど、どうしよう・・・これって警察に頼んだ方がいいのかな?」
「いや、さっきのバスノンストップでスピードが止まる気配がなかった。恐らくどっかの建物にでもぶつけることが目的かもしれない」
「そ、そんな・・・それじゃ乗っている人達は・・・!」
「それがテロリストってもんだ。自分達の思想の為なら何人死んだって知ったこっちゃないって言うのが奴らの悪癖だ」
「そんなの絶対におかしいよ!自分の為なら人が死ぬなんて間違ってる!」
「晶・・・」
涙をこぼす晶の悲痛な叫びを上げた彼女に剣人は彼女の頭を優しく撫でながら晶を落ち着かせた。
「剣人・・・」
「大丈夫だ晶。俺がとっつ捕まえってやっから」
少年の変わらない明るい笑顔が曇天だった少女に光をもたらし少女の涙は収まった。泣き止んだことを確認した剣人は次に娘の方へと向いた。
「リベレ」
「?」
膝をつき娘と視線が同じになるようにしてから頼みごとをした。
「テロリストを懲らしめてくるからここで待ってママを頼めるか?」
「うん!リベここをししゅうする!」
「死なない程度でだ。でもその意気込みでいいぞ」
「えへへ」
父に頭を撫でられてリベレはご満悦になった。立ち上がった剣人は晶の方に向き直った。
「そんじゃ、行ってきます!」
いつもの日常と変わらないお出かけの挨拶をかけてくれる少年に晶はその姿を見たことで不安が一瞬でなくなり彼女もいつもと変わらない見送りの挨拶をかけた。
「うん!行ってらっしゃい!」
彼女が言葉をかけた同時にそれがスタートダッシュの合図となり剣人は縮地による俊足で駆け出していた。目指すはハイジャックされた暴走バスに向かって。
バスを追いかける剣人は見失わないように走りながら壁走りし建物の上部によじ登りかの牛若丸の壇ノ浦の時に行った八艘飛びの如くトントンと建物を軽々と飛び越えることでショートカットを行った。
追跡を続けているとバスに近づく二人乗りのバイクが近づいてくるのが見えそのまま歩道の角を利用してバスの上に飛び乗った。乗っていたのは坂本とシンだった。
二人を目視で確認した剣人はすぐに二人の目的は自分と同じだと察し屋上を渡りながら近づくが丁度バスが鉄橋の下をくぐろうしておりバスの上にいる二人はこのままではぶつかってしまう。
しかし元・プロの殺し屋の二人はすぐにそれぞれ対応し、坂本は高い身体能力で鉄橋をあっさりと飛び越え、シンは体を仰向けに倒すことでギリギリで回避した。飛び越えた坂本は剣人と同じく屋上をつたってバスより前に先回りする作戦にし、シンも坂本の思考を読んでバスの中のテロリストを制圧するために動き出す。
「坂本さん!」
「!剣人か」
坂本が剣人により近くまでやってきて都合いいと思った剣人は坂本に飛び越えながら近づいていき坂本も剣人の呼びかけで彼の存在に気付いた。
「剣人、葵が・・・」
「状況は察しています。それで今こうやって追いかけています」
「そうか」
事態について理解してくれていることに坂本は話が早くて助かっていた。
「それで、シンは人質救出ってところですか?」
「ああ、俺たちは先回りしてバスの暴走を止めるぞ」
「はい!」
作戦を剣人にも共有しているとその先の屋上には子供たちがヒーローごっこの遊びをしており二人とも仮面を頭に被っている。
「乗客に顔を見られるとマズイ」
「ええ、ちょっと借りていきましょう」
子どもたちの間をすれ違いざまに仮面をそれぞれ搔っ攫っていきながら飛んで行った。
「後でちゃんと返してやっからな!」
剣人が子供たちに一応断りを入れながら遠ざかっていき仮面を被った二人は坂本は途中で道路に降りて道路標識を引っこ抜き、剣人は置きっぱなしの選択の干し竿といった長物の得物を手に取りバスの前に降り立ち長物の先をそれぞれバスに向けて構えをとる。
「暴れ牛ならぬ暴れバスは落ち着かせますか!」
(通行止めだ・・・)
とうとう来たバスは長物に激突し棒の反対側は地面にグサリと突き刺さりブレーキの役割を果たしておりガガガガッと地面をコンクリートの道路を削りながらもスピードが徐々に減速していきようやくバスは勢いを完全に失くし停車した。
バスのドアを開けて二人は仮面をしっかりと顔に被りながらバスの中に入っていくが・・・
「ヒィィィィィ!!誰!!?」
「ワァァァ!!!逃げろ!!!」
仮面を着けたことが逆に乗客に不信と恐怖を与えてしまい二人が入ってきた出口用のドアから物凄い勢いでぞろぞろと逃げていった。残されたのは乗ってきた二人と通路に伸びている覆面テロリストが数名、それを沈黙させたであろうチョンチョンと突き殺ってないか生死確認しているシン、そして捕まっていたのに相も変わらない明るい笑顔で坂本にやってきた葵だった。
「大丈夫?」
「うん!絶対来てくれるって思ってたから全然怖くなかったわ!」
“銃持ってただろうに肝が据わってるな”と剣人は内心さすがは坂本の奥さんであると感銘を受ける。そんなことを思っていると葵が何故か申し訳なさそうな顔をしていた。
「それと・・・その・・・今朝は言いすぎちゃってごめんなさい・・・」
「・・・家訓第12条・・・」
「“喧嘩した日はごちそうを”ね!まかせて~!!」
よくわからないまま葵は坂本の手を繋ぎ仲直りしたが二人の空気が読めない剣人はなんで喧嘩なんかしたんだと頭の中に疑問が浮かび上がっていた。
「あ、剣人じゃんか!お前も来てたんだな」
「シン、今日は大活躍だったじゃねぇか」
シンと剣人はあの倉庫での出来事と商店での共同作業ですっかり打ち解けており今では気の合う友人くらいの中にまで良好な関係を築いている。
「そういや坂本さんと葵さん喧嘩したらしいけどなんかあったのか?」
「ああー実は」
シンは今朝あった出来事を話し、どうらや先日の倉庫での坂本と俺の戦いの凄さを自分事のようにベラベラと話しその殺し屋を殺したと思い込んでいたシンは殺しワードを言ってしまい葵の逆鱗に触れてしまい坂本がしり込みしてしまった。最強の殺し屋だった坂本も奥さんの怒りには敵わなかった。それで不貞腐れてしまった葵は商店を出ていき買い物に出かけてしまい帰りのバスに乗っているところでテロリスト達が占拠してしまったことが今回のことの顛末だった。
「ああーシン、そればっかはお前の口の軽さが原因だな」
「うう・・・なんも言えねぇ・・・」
「今度からは葵さんの前では殺しワードは厳禁だからな」
「・・・うっす」
一応の灸をすえ終わり剣人はバスを降りて去ろうとすると、
「剣人、お前もシンと一緒に食事をしないか?」
「え?俺もいいですか坂本さん!?」
「ええ、二人とも大歓迎よー!」
二人に誘われシンは大喜びで食いついてきたが剣人の方は申し訳なさそうな顔をしながら二人に向き直った。
「坂本さん、葵さん、お気持ちは嬉しいですがせっかくのお二人のお時間を邪魔するわけにはいきません」
「ええー!?お前せっかく葵さんの料理食べれるってのに」
「シン、こういう場合は空気読んで家族だけの空間で食べさせてあげるのが家庭の暗黙の了解なんだ」
「そ、そういうことか・・・!」
「そういうことだ」
ひそひそと話しながらシンは二人の為であると理解しあえて身を引くことが一番であると認識する。剣人とシンは再び坂本と葵の方に向き直った。
「坂本さん、やっぱ俺近くの弁当屋で済ませます」
「シン君まで・・・。遠慮しなくていいのにー」
「いいんですよ、せっかく仲直り出来たんですし」
“それに”と剣人は一呼吸おいて明るく告げた。
「せっかくのお二人の時間を俺たちが入り込んでしまうのは失礼だと思いまして。親しき中にも礼儀ありってね」
剣人としては二人が仲睦まじい時間を過ごしてほしいと本心から思っているが、同時にこういう理由があれば晶も商店には近づかせないための口実が出来て彼にとっては一石二鳥な展開だった。
「分かった。葵、二人の気持ちを汲んでやってくれないか?」
「んんー、しょうがないね。じゃあ二人のご厚意に甘えてありがたく旦那との時間を過ごさせていただきます」
とりあえず夕飯の話はひと段落し、今度葵自身が剣人とシンにお礼を返すことを条件に承諾してくれた。
その後、坂本達は商店に戻っていき剣人は先ほど被っていた仮面を持っていき子供たちに返してから晶達のもとへと帰っていった。
屋根を飛び越え続けながら周りを見渡していると公園でブランコに乗って遊んでいるリベレとそれを背中を押してブランコの勢いを出してあげている晶の姿が剣人の目に映り剣人は二人の所へ帰れることの嬉しさによる高揚に身を任せるように二人のもとに飛び降りた。
「あ、帰ってきた!」
「パパ、おかえりー」
「二人とも待たせてごめんな」
晶とリベレは剣人が現れた直後にすぐさま駆け寄っていき一番早くやってきたリベレを剣人が両手で抱えて抱き上げ晶に屈託のない笑顔を見せてあげて彼女を安心させてあげた。
「怪我はなかった?」
「平気だって。他にも手伝ってくれた人がいたから大して大事にはなんなかった」
「よ、よかった・・・」
剣人の一部始終を聞いて晶は安堵したあまり膝が地面に静かに崩れていき剣人は晶と顔を合わせられるように自分も地面に膝を付いた。
「晶、立てそうか?」
「う、うん・・・ちょっと腰抜けちゃっただけだから大丈夫」
晶は剣人の手を取り引っ張られて立ち上がり少し深呼吸してから平常心を取り戻した。
「そんじゃ、もう少しここで遊んでから帰るか」
「わーい~!じゃあパパ、あっちの滑り台一緒にすべらない?」
「うーん、何とかギリギリ入れそうか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
リベは剣人と遊べることが嬉しくて滑り台の方に引っ張っていくが晶の方はまだ用事が終わってないためリベを止めて剣人に詰め寄る。
「さっき私言ったよね?剣人がお世話になっている商店に行こうって」
顔をフグのようにムッと膨らませながら再び剣人を問い詰めるが今の剣人は言い分があるため今度は晶の質問に余裕にことができる。
「晶、実はさっき―」
剣人はある程度内容をぼかしながらもあったことを話した。途中で一緒に止めてくれた人がいたこと、葵が無事に夫と再会したこと、葵と夫との間で今朝喧嘩があってしまい再会したときに仲直りの証として一家だけで料理を食べることになり剣人が空気を壊さないように配慮したことについて話した。
「なるほど、そんなことがあったのね」
「ああ、だからごめんな商店は今回はお預けだ」
「ううん、さすがに仲直りしたのに割って入るのは失礼だしね」
何とか無事に説得が成功し剣人は内心で胸を撫で下ろし最大級の試練を乗り越えることができたであった。説得のきっけけになった事件が起きたことに感謝しつつももう二度と葵さんがあんな事件に巻き込まれないように心の中で剣人は密かに祈っていた。
「代わりと言っちゃなんだが、今日の夕飯は俺が作ってやるよ」
「剣人の料理食べられるの!?」
「ああ、最近作ってないから味には自信ないが」
剣人は顔をポリポリしながら照れくさそうにしているが晶の方は大切な幼馴染の手料理を久しぶりに食べられることに嬉々とした表情をしながら今にも飛び跳ねそうにしていた。
だがふと晶はどうしていきなり剣人が今日の夕飯を作ってくれる理由が分からないと疑問が浮かび剣人に問いただした。
「ねぇ剣人、どうしていきなり夜ご飯作ってくれるって言いだしたの?なんだかいきなりって感じだったから」
疑問に対する質問に剣人は一瞬驚きながらもすぐにその答えを返した。
「だって、こっちもせっかくの家族水入らずの時間なんだからやりたいこと、この三人でやりたいからな」
満面の笑みを浮かべた剣人のその言葉を聞いた晶は心の奥底から湧き上がる気持ちが溢れてきて嬉しくなり、彼女も幸せそうに笑顔になり剣人の言うことを肯定する。
「うん、分かった。それなら私もやりたいことあるから剣人も付き合ってくれる?」
「ああ、晶のやりたいことならなんでも手伝ってやるよ!」
すっかり二人の空間ができあがり楽しそうに話していると、
「パパ~!滑り台やろうっていったのに~」
「ああ、わりぃすぐ行くから」
滑り台の滑り口の前でずっとスタンバっているリベレがすっかりご立腹になってしまっており剣人はすぐさまリベレの元に向かおうとしている。
向かう直前に晶の方に振り返り、
「もちろんリベレのやりたいことも含めてやらないとな」
「そうね、三人でだもんね」
いまだに滑り台を一緒にやりたそうに待っている顔を愛らしくぷんすかとしている一人の娘と二人顔を合わせて笑いあう少年少女の光景は誰が見ても幸福に包まれた一家団欒の時間を過ごしている風に映っていた。