イセリア人間牧場奮闘記 before&after   作:あるいてごろりと

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後半の名有りのキャラが悪人しかいません。


お義父さんキレる

応接室でローテーブルを挟んで対面するヴァーリとドア。

クロドレは、お茶の提供をしてそばで立ち、控えている。

ドアはヴァーリに金の捻出方法を尋ねた。

ヴァーリは臆する様子もなく、ニヤリとほくそ笑む。

 

「来年分の住民税を前もって払ってもらえばいいのさ」

 

ヴァーリの言葉にドアは疑問を持つ。

確かに、税金を値上げすれば金は集まる。

薬は早く欲しいし、金の集まりが少ない今だからこそ早急な対応を求めてはいる。

だが、すんなりいく方法とは思えなかった。

 

町民を納得させないとならないからだ。

「じゃあ、すぐにでも払いますね」などと了承するイメージができない。

それに今年の住民税を多く負担すると、旅業の儲けが減る懸念もある。

下手な案は、総督としての信用崩壊にも繋がりかねない。

ドアの不安な表情を察したヴァーリは、「まぁ、最後まで聞いてくれよ」と言う。

 

「もちろん来年安くなるから、今年多めに払ってくれで受け入れる人はいないだろう。

裕福な奴らも眉を顰めるだろうな。

だからこそ、今年多めに払うことへの付加価値をつけるんだよ」

 

ヴァーリは、説明する。

町民には、ある特定の商品を買ってもらう。

その商品の購入に支払った金額を来年の住民税から差し引くという案だった。

 

例えば、1000ガルドで販売される特定の商品を購入した町民は、来年払う住民税が1000ガルド減るというものだ。

ちなみに、商品の原価が100ガルドならば、900ガルドの懐に入る金が手に入る。

その金は、今年徴収する税金と含めてディザイアンに横流しする金である。

100人が購入すれば、90000ガルドを他の徴収した金に付け加えてディザイアンへ渡すことが可能だ。

 

ただし、来年の徴収額が減ることが懸念される。

これについては、来年税金の支払いが減るという精神的負担が取れることで、町民の購買意欲が高まるのではないかとヴァーリは説明する。

購買意欲が高まれば、来年の高級宿の利用者も安定するかもしれない。

マーテル教会への献金も同様である。

家計簿でもつけて数値を細目に把握でもしていなければ、案外気持ち1つで町民は金を支払うものなのだ。

懐に入り込む金は確かにそこまで下がらないかもしれないな、とドアは思った。

第一、今年の横流しの金で薬を手に入れることが出来れば問題ない。

 

当然、住民へ事前に説明する必要がある。

ここでクロドレが挙手をする。

ドアは発言を促す。

 

「新しい税制立ち上げの理由は、パルマコスタや旅業で関わりのあるアスカードを盛り上げるためというのはどうでしょうか?

もしくはアスカードの観光場所から離れた奥まった所では、貧しい者達が生活しているので彼らを救うための寄付金を一部回すと町民に聞かせても良いかもしれません」

 

クロドレの意見を聞いたヴァーリは鼻を鳴らしながら言う。

 

「確かに。

貧民を救うためと説明すれば、一定数の『自分には善意がある』と思っている奴らが必ず購入してくれるだろうな」

 

全員が商品を購入するわけではないだろうが、それでも好意的に支払う者は確保できるだろう。

そうなれば、今年の徴収額は去年までよりも上がるし、前もって慈善活動をすると伝えておけばドアの信頼も低下することはない。

多めに徴収した金をディザイアンに渡せば、今度こそクララを元に戻す薬がもらえるかもしれない。

ドアは顎に手を添えながら考え、ヴァーリに言う。

 

「購買する商品は、アスカードの高級宿のサービスを含めた回数券でもいいと思うのだが…」

 

もちろん支払う金額分だけの割引はしない。

そこはサービスをつけるなりして、損な気分にさせないようごまかすつもりである。

数回の割引券によって高級宿の快適さを体験させることで、今後割引が無くとも利用を続けてもらうことがドアの狙いである。

ドアにとって高級宿を利用してもらった方が、利益は大きいからだ。

少し渋い顔をしたヴァーリは、腕組みをして返答する。

 

「ああ、良いと思うぜ。

だが、もう1つ加えて欲しい所だな。

付加価値は、数があったほうが飽きられねぇからな」

 

ヴァーリの表情の変化と言葉を聞いて、ドアは理解した。

 

「なるほど、君の商品を入れこみたいということだろうか?」

 

ヴァーリは、肯定した。

具体的に聞くと、自身の作った酒をパルマコスタで是非とも売り込みたいそうだ。

町の名物は、『パルマコスタワイン』で根強い人気がある。

同じ酒の分野で新規参入するのは、難しいだろう。

だからこそヴァーリは、ドアに手を貸すことで自身のこれから経営する店を成り立たせようとしていたのだ。

 

薬を手に入れるか、町の名物の売り上げを減らすか。

ドアは天秤にかけるまでもなく、ヴァーリの意見を採用することにした。

新しい税制は、『ふるさとOK税』と名付けられた。

ドアは、ヴァーリに売り込みたい商品を聞く。

 

商品名は、『シン・パルマコスタワイン』とのことだった。

ヴァーリ曰く、本家を超えたいから同じ赤ワインだと言った。

税制の話を固めていく2人。

ドアはヴァーリに注意点として、『ふるさとOK税』期間中は総督府の方でも店のフォローを最低限するが、販売価格は原価に近いものにしてほしいと伝えた。

一時的とはいえ、利益を少しでも上げるためだ。

販売価格に対しての原価の上限は3割までが望ましい。

 

ヴァーリはドアの意見を了承する。

まずは自身の商品の名を知ってもらい、町民に定着させればいいらしい。

どうやら資金的に体力のある様子だ。

本人曰く、「長い目で見れば、利益は間違いなく出るから構わないぜ」とのこと。

クロドレが時折お茶を取り換える中、彼らの話がまとまりつつあった。

 

 

○○

 

 

「それでは、明日から早速取り掛かる。

助かったぞ、ヴァーリ」

「なに、俺にとってもうまみのある話だからな」

 

ソファから立ち上がり、握手をする2人。

クロドレは2人の様子を見つつ、お茶を運ぶのに使用していたトレイで口元を隠していた。

総督府の扉から外へと出ていくヴァーリ。

見送ったドアとクロドレは、応接室へと戻る。

ソファに着いたドアはふぅっ、と息を吐いた。

クロドレはお茶を差し出す。

ドアは彼女に礼を言う。

 

「まさか君が地下室に入り込んだトラブルがここまで発展するとは思わなかった。

一時はどうなるかと思ったが…君には助けられた」

「あの時は申し訳ございません。

掃除用具を探しに地下への階段を降りてしまったんです。

総督のお役に立てたようで何よりです」

「あの男とは知り合いなのか?」

 

クロドレは首を振る。

 

「いえ、町中でたまたまです。

彼が新しい店を立ち上げていたので話をしたんです。

遠回しにお金に困っていると伝えたら、事情を尋ねてくださいました。

信頼できる方のように思えましたので続きの話を…身勝手な真似をして申し訳ございません」

「いや、いいんだ。

終わり良ければ総て良し、だ」

 

ドアはそんな会話をしつつも、これまで町で関わってきた町民の顔が浮かぶ。

赤ん坊や学生、主婦、職人や老人…。

だが、胸を痛めるには遅すぎるほど罪を重ねてきた。

ドアは、浮かんだ町民の顔を頭の隅に追いやる。

 

「総督、明日もよろしくお願いします」

 

言いつつ、クロドレは手を差し出す。

ドアも「こちらこそ」と言いつつ、握手に応じる。

向かい合った手のひらが密着するのを確認したクロドレはドアにささやく。

 

「今回のことでトラブルが起きた場合、責任はヴァーリが請け負います。

そのこと、ちゃあんと理解してくださいね。

私のことは、頭によぎるのも禁止ですよ?」

 

ドアの手のひらに何かが流れていく。

ドアは、「分かった」と返答した。

午後は少しばかりの公務を終えて、2人は帰宅の途についた。

 

 

 

 

△△

 

 

 

 

夜のパルマコスタは静かなものであった。

日中にぎやかな市場も今や虫の声すら聞こえない。

暗い通りを出歩く町民も見当たらない。

ただし、裏路地で向き合う2人の人影を除いてはだが。

細身のシルエットが話し出す。

 

「とりあえずはひと段落と言ったところかしらね。

褒めてあげるわぁ。

いい演技だったわよ、ヴァーリ」

 

クロドレはご機嫌な様子だった。

 

「生前は商談で相手にいい顔することもあったからな」

 

ヴァーリは得意げに話す。

生前の職はエクスフィアブローカーであり、毒盛り教皇や卑怯な科学者相手に商談をしていたので、その経験が活きた。

彼を認めたのか、クロドレもご機嫌な様子だ。

クロドレはその証として、ヴァーリに注意を促す。

 

「現実世界とは違ってここはドアの精神世界。

もう可能性は無いだろうけど、もしドアが暴れたらあんたも怪我をするから念のため注意しなさい」

「ああ、気を付けるよ。

けど、いいのか?

あれを絶望させるのがあんたの目的じゃなかったのか?」

 

今の段階だと、ドアは新たな税制によって希望を見出しつつある。

だが、クロドレはほくそ笑む。

ヴァーリは、民家の明かりで照らされるクロドレの横顔を見てゾッとする。

 

「希望が大きいほど絶望は生まれやすいのよ。

元から借金のある人が借金増やすよりも、裕福な奴が資産を全て失う方が気持ちの振れ幅は大きいからねぇ。

そ・れ・と。

希望によって魂が報われちゃうとこの世からいなくなっちゃうから、もちろんその辺りは調整してるわよ」

 

クロドレは、ニタリと笑う。

ドアの魂を手のひらで転がしていることに愉悦を感じている様子だ。

ヴァーリは、人ともハーフエルフとも異なる不気味な存在を改めて認識して冷や汗をかく。

 

「な、なるほどな。

金を失う絶望は計り知れねぇからな」

 

ヴァーリの言葉にクロドレは「それだけじゃあたしは満足しないけどね」と言う。

記憶を探っているのか、クロドレは自身の頬に人差し指を当てる。

 

「ドアにとっての希望は、金。

けれどもその根本にあるのは、妻への愛よ」

 

ドアがおこなうディザイアンへの賄賂も、町民を騙し続けるのも全ては妻のクララのためである。

動機は1つに過ぎない。

良心を抑え込んででもディザイアンのために思考し行動するのは、魂を支える一本の柱があるからだ。

その柱がドアにとっての希望に他ならない。

つまりは、クロドレの狙いはその柱を砕くことである。

 

悪夢を繰り返させるのも、魂を弱らせるため。

金の工面を算段するのも、より深い絶望を生み出させるため。

今までの行動は事前準備に過ぎなかった。

クロドレは、ふぅっと息を吐く。

 

「まずは町民からの信頼を奪うわ。

少しでも絶望に近づけたいからねぇ。

そのあと、本丸よ。

まぁ、多少は暗示で思考を誘導するんだけどもねぇ」

 

クロドレはすでにドアに対して3回の暗示をかけている。

暗示は対象に直接触れることで行使できる。

1度目は、秘書の募集をかけたことにするためだ。

2度目は、地下室でクララの姿を見たあと、クロドレの話をすんなりと聞かせるためだった。

3度目は、ヴァーリが帰ったあとに行使した。

ヴァーリは首を捻って、質問する。

 

「なんだ、そんなことができんのかよ。

それなら、最初からあいつを絶望するように暗示をかけりゃいいじゃねぇか」

 

チッチッと人差し指を振るクロドレ。

 

「そんな強い暗示かけたら魂がまずくなるのよ。

火が強ければ、肉が美味くなるわけじゃないわ。

強火だと硬くなるから、食感も良くないしねぇ。

私達ソウルイーターは味にうるさいの。

まずは絶望するための舞台を整えるのよ。

あたしはね…弱火でじっくりと炒めて、柔らかいお肉のような魂を頂きたいの。

絶望というソースが中までしみ込んだお肉は絶品よぉ。

おほほほっ!!」

 

クロドレは愉快に笑い声を上げる。

悪意のこもった笑顔を見て、ヴァーリは再びゾッとした。

 

 

 

 

△△

 

 

 

 

ドアは2つの夢を見た。

 

1つ目は、若いドアに語りかける父との思い出だった。

ドアの父は、総督を務めてしばらく経つ。

学生の日々を終えて、ドアは総督府での勤務が決まった頃だった。

ドアの父は、がちがちになった息子の肩にポンと手を置く。

 

「町や町民、何より自分のために誠実に生きていくんだ。

きっと、お前のことをちゃんと見てくれる人はいるからな」

 

親なりの激励だろうか。

普段あまり語ることのない父は、このときばかりは優しい眼差しでドアのことを見て話していた。

短い夢であった。

 

 

また、2つ目の夢は総督府内での出来事だった。

ドアが書類と向き合っているときに、キリアが隣にやってきた。

ドアは娘の存在に気が付く。

邪魔をしないためか、視界の入らない斜め後ろの方からドアの手元を眺めている。

今確認している書類は、ディザイアンに横流しするための資金繰り表であった。

正直、見られて気分の良いものではない。

たまらず、娘に声をかける。

 

「どうしたんだ?」

 

キリアは一瞬仕事の邪魔をしてしまった、と思ったのか眉が八の字になる。

そのあと、ごくりと唾を呑み込んでドアに勢いつけて話す。

 

「お父さま、わたしにも今やっていることの勉強をさせてください!」

 

ドアは、苦笑いになる。

娘に悪事の加担をさせようとする父親がどこにいるだろうか。

地下室でのディザイアンとの密会にはキリアがいることもあるが、そこまでだ。

しかし、断るにしても内容も説明しづらい。

ドアは、首を振る。

 

「そうだな…これはキリアがもう少し大きくなったらにしよう。

今は他のことを学びなさい。

例えば…世界再生の歴史を学んだりとか。

他の子に遅れを取るわけにもいかないだろう?」

 

キリアは、少し肩を落としてしょんぼりしていた。

しかし、横流しの勉強などさせられないので、ドアはグッとこらえた。

 

 

 

 

△△

 

 

 

ドアはベッドの上で目を覚ます。

やはり、昨日の今日も地下室で殺されている。

わき腹の痛みは、毎回目を覚ます朝には無くなっていた。

上体を起こしつつも、先ほどまで見ていた2つの夢のことを思い出す。

 

(父上…見てくれる人とは誰のことでしょうか。

父上はディザイアンに殺され、クララはあのような姿に変えられた。

昔はまだ今より誠実に生きたはず。

けれど、失うものばかりだった)

 

2つ目の夢は、クララがエクスフィギュアと化したあとの記憶だった。

 

 

〇〇

 

 

ドアは総督府へ勤務してスケジュールの確認をおこなう。

昨日の今日が繋がっているようで、ヴァーリが箱に入った『シン・パルマコスタワイン』を置いていった。

ヴァーリは、挨拶もほどほどにどこかへ出ていく。

部下たちは話が終わると新たな税制を伝えに各々総督府を出ていった。

 

反応は上々だった。

町民は、信頼するドアの新しい税制を快く引き受けて料金を支払い、割引券やボトルを持って行く。

しかし、午後には事態が一変する。

クロドレが、ドアのいる総督府に戻ると青い顔で報告した。

 

「ワインの中身は、紫キャベツのしぼり汁でした…」

 

思わぬ事態にドアは動揺する。

だが、時は戻っても待ってもくれない。

いつの間にか、総督府の前には怒りの形相の町民たちが集っていた。

各々が不満を声に出し、叫ぶ。

 

「ワインって名前なのに全然ワインじゃねーよ、なめてんのか!」

「信用してたのにあんまりだ!」

「不正だ!!金返せ!!」

「レモン汁を入れたらピンク色に変わったけど何で!」

 

鳴り止むことのない罵声を止めることなど出来なかった。

事態を知ったドアの頭に巡るのは、最悪な結末だった。

 

 

○○

 

 

ドアは、総督府の扉を無理やり開いて押しかけてくる町民に捕えられた。

地下室の真ん中の牢屋に入れられるドア。

ドアは自分の未来を人々の話を耳にして知った。

今日中にでも、処刑になるようだ。

乱暴な制裁であるが、もしかしたらディザイアンとの繋がりの証拠を見つけられたのかもしれない。

兵が来る様子もない。

町民の圧倒的な数に対抗できなかったのだろう。

 

静かな牢屋の中で、ドアは身動き一つせずに座り込んでいた。

その姿に、総督としての威厳は感じられなかった。

総督は町民の支持によって得られた肩書きであるから当然だ。

騙してきた人々によって、とうとうドアはしっぺ返しを受けたのだった。

ドアは右隣の牢屋の壁を見る。

そこには妻がいるはずだった。

 

(クララ…。

私はもうおしまいだ…)

 

薬ももう手に入らない、そう思うとドアの顔が歪む。

しかし、好転するための行動など牢屋の中では何も出来ない。

無力である。

今のドアには、俯いて嘆くことしか出来なかった。

 

どれだけの時間が経っただろうか。

カツンカツン、と地下室の階段を降りる音がした。

誰かが真ん中の牢屋の前に立つ気配をドアは感じた。

処刑の準備が出来たのだろうか。

嫌でも体が震える。

恐る恐る顔を上げると、そこには心配そうにドアのことを見るクロドレがいた。

 

「大丈夫ですか?」

 

尋ねる彼女の言葉をドアは無視した。

柵をつかみ声を張り上げる。

 

「あの男は!!

ヴァーリはどこにいった!?

私の…私の希望を返せ!

返してくれ…」

 

最後は力なく言った。

膝から崩れ落ちるドア。

ヴァーリが捕まっていないのであれば、逃げたに違いない。

総督の地位にいる者に嫌がらせをするために仕掛けたのかもしれないとドアは思ったが、もうどうしようもなかった。

ドアは、生気のなくなりつつある顔で口から言葉が漏れ出すようにしてクロドレへ話す。

 

「わたしは…すべてをうしなった…。

だが、まだ…死を…うけいれるのがおそろしいんだ…」

 

クロドレはしゃがみこむ。

柵をつかむドアの手に触れる。

そっと添えるような触れ方だった。

 

「残念ながら、私は総督の死を回避する手段を持ち合わせておりません。

ですが、あなたには雇ってもらった恩があります。

最後に、死を安らかに受け入れる方法をお伝えします。

よく聞いてください」

 

クロドレは落ち着いた口調で、優しく語りかけた。

 

「死を恐れるのは未練があるからです。

失いたくない想いが、死の恐怖を生むのです。

未練を断ち切ってください。

すなわち、奥様への愛を捨ててください。

そうすれば、死を恐れずに済みますから…。

いいですね?」

 

ドアの手に何かが流れ込む。

クロドレの言葉を受け入れたのだろうか。

歪んだドアの表情が徐々に石のように固まっていく。

微塵も生気を感じない、瞬きすらしない人形のようになっていった。

その様子を見たクロドレは内心ほくそ笑む。

 

(おほほほ!

ただでさえ濁っていた目が、ますます光を失っていくわ~。

この瞬間がたまらないのよねぇ、おいしそー!)

 

カツンカツンと地下室の階段を降りる音をクロドレは聞いた。

見ると、ヴァーリがやってきていた。

 

「あら、いらっしゃい」

 

ヴァーリは、クロドレとドアの顔を交互に見て事態を把握する。

感情を隠す素振りもしないまま、したり顔で近づく。

 

「終わったようだな」

 

クロドレは立ち上がって振り返る。

その表情は、仕事をやり終えたことで満足感に浸っている様子だった。

 

「ええ、上出来よ。

あとは、こいつの精神世界から出て魂ごと丸吞みするわ。

あぁ~楽しみねぇ」

 

クロドレの言葉を耳にしつつ、ヴァーリはドアの目の前にある牢屋の扉を開ける。

茶化すようにして、開いたり閉じたりした。

何も反応が無いことを認めたヴァーリは、扉を開いたままクロドレへご満悦そうにして語る。

 

「そこまで言うなら俺も味見したくなるじゃねぇか」

「おほほほ!

ちょっとぐらいならいいけど、あんたの舌には多分合わないわよぉ」

 

2人が談笑していると、地下室の階段をカツンカツンと降りる音がした。

ドアの精神世界に侵入したのは、クロドレとヴァーリだけのはず。

2人はフーディーの可能性に思い当たる。

だが、予想を反して姿を現したのは別の人物であった。

 

「なんだ、ドアの野郎すっかり生きる気力を無くしたのかよ。

つまらねぇな」

 

赤いドレッドヘアーで顔にいくつかの傷を持つ男、マグニスが現れた。

クロドレは突如姿を見せた五聖刃の1人を訝しむ。

ドアの顔を見る。

先ほどと同じ、人形のような顔のまま静止している。

クロドレはある考えに行き着く。

 

(マグニスはパルマコスタの牧場主だったわね。

そうか、ドアは絶望する直前に死の象徴であるマグニスから処刑されるイメージでもしたのねぇ。

だから、ドアのイメージであるマグニスが今現れたって所かしらぁ。

さしずめ、幻影マグニスってところね)

 

マグニスはクロドレとヴァーリを見る。

クロドレは立ち上がり、ヴァーリの背中を押して距離を取った。

どうぞ、とドアに向けて手を差し伸べる。

ヴァーリは、クロドレに疑問を投げかける。

 

「いいのか?

今処刑でもされたらドアの魂は消滅とかしねぇのか?」

「大丈夫よ。

ドアのイメージで作り出されたマグニスが、処刑をしたところでこの精神世界が閉じるだけ。

出来立てほやほやの絶望は覆らないわ。

そんなことより、とっとと行くわよぉ」

 

2人の会話を聞きつつもマグニスは、ドアの真ん前に立つ。

手を開くと、マグニス専用武器の大きな斧が顕現した。

そのまま斧をドアの前の床に投げる。

牢屋の扉は開いたままだ。

 

「ドアよぉ。

このマグニス様を前にしてだんまりとはいい度胸じゃねぇか。

お前なんざ、処刑する価値もねぇ。

生きる気力が無いなら、自分のことは自分でケリをつけやがれ」

 

ドアは無反応のままだった。

座り込んだまま、動こうとしない。

マグニスは、「ケッ」と言い苛立ちを隠すことも無く表に出す。

直後に、何かを思いついた様子を見せた。

 

「ああ、そうそう。

ドア、お前確か娘がいたよな?

名前は…キリアつったか?

お前が死んだら、そいつどうすんだよ」

 

ドアの表情は石像のように固まったままだ。

マグニスは構わず話す。

 

「じゃあ、俺がもらうとするか。

ちょうど、奴隷が欲しかった所なんだよ」

 

ドアはなおも硬直したままである。

ニヤニヤと悪者らしい笑みを浮かべるマグニス。

 

「そいつには、生まれたばかりの子豚を育てさせてやるか。

毎日一緒に飯を食わせたり、散歩に行かせてよ。

もちろん、下の世話だってやらせるからな。

そうしてすくすくと育てた豚をよ、最後にはお前の娘に食ってもらうんだよ。

豚のありがたみを知る教育だ!!

 

構わねぇよなぁ?

娘は俺様のものになるんだからよぉ!!

ガァーハッハッハッハッ!!」

 

ドアがふらりと立ち上がった。

ゾンビのようにふらふらと歩き始める。

前にある牢屋の扉をゆっくりとくぐり、足元の斧を握る。

マグニスは、ドアの様子にも気付かずに豚とキリアとの共同生活のプランを目をつむりつつペラペラと話し続ける。

ドアの口元が開く。

 

「きさまの…」

「あ゛?」

 

マグニスは、ようやく目の前に立つドアの存在に気づく。

ドアがすーっと、斧を振り上げる。

斧が真上で制止した瞬間、ドアの目が怒りに燃え出す。

 

「誰が貴様のようなゲスな男に娘をやるかぁっ!!

今ここで死ねえええっっ!!!!」

「おおうっっ!!??」

 

振り下ろした斧は、マグニスの胸を切り裂く。

そのまま吹き飛び、積み重ねた木樽の中へ背中から突っ込む。

階段を登ろうとしていたクロドレとフーディーは、背後の異常事態に気づき振り向く。

ドアは数回、肩で息をした。

木樽の山にいるであろうマグニスに言い放つ。

 

「もう貴様の言いなりになるのはやめだ!」

 

ドアは一番奥の牢屋の扉を開けた。

牢屋の中にいる者に宣言する。

 

「総督の地位は捨てる。

クララ、キリアを連れて町を出るぞ!

薬は必ず見つけだすからな!」

 

ドアは、エクスフィギュアの手を引いて駆け出す。

 

「邪魔だ!」

 

言いつつヴァーリとクロドレを押しのけて、地下室から外に出る階段を登って行った。

ドアに押されて尻もちをついたヴァーリは唖然とした様子で、階段を登る2人を眺めていた。

同じく尻もちをついたクロドレは、開いた口が塞がらなかった。

声にならないので、心の中で叫ぶ。

 

(ええええええええええええええっ!?

ちょ、ちょちょちょっちょ!!

どういうことなの!?

げ、げんええええええええええいっっっ!!??)

 

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