イセリア人間牧場奮闘記 before&after   作:あるいてごろりと

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同行者

地下室にいたクロドレは、立ち上がりドアを追うことにした。

まだ間に合うかもしれない。

今からだと、どこで捕えられるかを考える。

空間に右手を振ると、裂け目が出来た。

人一人が通れるほどの裂け目である。

ソウルイーターは精神世界から現実世界へ出る際に空間の裂け目を使う。

また、精神世界内ならば、裂け目を通ってどこへでも移動は可能だ。

ただし、前もって一度移動先の場所を視認する必要がある。

クロドレは、樽の山に突っ込んだマグニスの方をちらりと見る。

積み重なった樽からはみ出た足が、ぷらりと垂れ下がっているのが見えた。

事態を覆した元凶だが、優先事項はドアだ。

マグニスについては考えるのをやめ、今はドアの捜索を優先する。

 

(美味い魂を作るためにどれだけ手間かけたと思ってんのよ!)

 

苛立つクロドレは、ドアが連れて行ったエクスフィギュアを始末することを決める。

絶望させるには、そうするのが手っ取り早いからだ。

じっくりとしみ込ませた絶望に比較すると味は落ちるが、まだ食える範囲だ。

これ以上時間をかけるのも悪い予感しかないため、相方の始末を優先した。

呆けてクロドレのことを見るヴァーリは置いておくことにする。

2人の後を追うには速さが肝心だったからだ。

クロドレは、潜るようにして裂け目に入っていく。

裂け目から出てきた場所は、総督府の前の広場だった。

 

(いないじゃない!)

 

辺りを見渡すが、エクスフィギュアとドアの姿は見当たらない。

こちらの方が早かったのかもしれないと思い、総督府のドアを開き中を覗くがやはりいない。

再び広場に戻る。

周囲には町民の姿もいなかった。

突如、空に亀裂が入る。

ガラスにヒビが入るのと同じように、少しずつ亀裂は大きくなっていく。

クロドレが取り付いていた魂の外に出るときにも起こる現象だが、今回は違う。

彼にとって、最も忌み嫌う状況だった。

ドアの魂がこの世から消えていくのだ。

食事にはもうありつけない。

クロドレ達ももうすぐ現実世界へ引き戻される。

亀裂は空全体を覆いつくす。

 

(あああっ!

んもう、やめてちょうだいよぉっ!)

 

クロドレは、何かを制止するようにして空に手を伸ばすが何も意味はなさない。

パリンとガラスが割れるような高い音が鳴ると、広場や総督府を含むパルマコスタ全域の空間が消えていった。

 

 

○○

 

 

クロドレが現在いるのは、パルマコスタの地下室だった。

ドアの魂が消えたため、現実世界へ強制転移したのだ。

クロドレは、階段側を向いたままブルブルと怒りで身体を震わす。

隣には、ヴァーリがいた。

 

「ここは地下室じゃねぇか…?

一瞬、景色が消えたように思えたが、何か変わったのか?

なぁ、おいクロドレ」

 

ヴァーリが声をかけた瞬間、クロドレは地面を踏みしめた。

そのまま数回、地団太を踏む。

ヴァーリは固まってその様子を見ていた。

地団太を止めると、肩で息をする。

 

(どうしてよ…。

どうしてマグニスはさっさと処刑を行わなかったの!?

あいつは、ハーフエルフの敵である人間の命を何とも思わない牧場の主なのでしょう!)

 

クロドレはドアが絶望から立ち直った時を思い起こす。

マグニスは、ドアから何かをされて吹っ飛ばされていた。

あのとき、ドアが斧を手に持っていたことを考えると、切りつけたのだろう。

刃先には、血痕が見えたので十中八九間違いない。

だが、クロドレは疑問に思う。

 

(あいつ、斧を一体どこから取り出したのよ。

あたしとすれ違った時には、持っていなかったはず。

マグニスを目の前にして、ドアが想像したから?

いいえ、あの時のドアはもう何かを考えられる状態では無かったわ。

………まさか)

 

思い当たることがあり、地下室の奥へ振り向く。

そこには、胸に切り傷のできたマグニスの倒れた姿があった。

 

「おい、これを見ろよクロドレ!」

 

ヴァーリが何かに気づいた声を出す。

そばには、クロドレが地下室に来た頃にはなかったはずの外套が落ちている。

 

(マグニスは、ドアが精神世界でイメージして現れたわけじゃないってこと…!)

 

マグニスは、ドアがイメージした存在ではなかったのだ。

そうなると、外部からの侵入者ということになる。

ただし、精神世界に入り込めるのはおかしい。

人間だろうがハーフエルフだろうが、他者の魂の内部に介入するなど土台無理な話であるからだ。

クロドレは、精神世界に入り込めたマグニスについて考える。

 

(こいつは特殊な力を得た、もしくはそういう存在になったっていうことなのぉ?

けど、そもそもこいつは死んだはずなんじゃ…)

 

結果の予想が立てられても過程がイメージできないため、いまいち合点がいかない。

マグニスの周囲を見る。

クロドレが目についたのは、フード付きの外套だった。

出入りしたクロドレとヴァーリの所持品ではないことを考えると、マグニスの物と推測するのが妥当である。

何のために着ていたのだろうか。

ちなみに外の天気は、雨ではない。

パルマコスタの牧場主でありながら、マグニスが身を隠すような衣類を身に着けていることに疑問を抱く。

 

(ディザイアンの生き残りだから身を隠した…?

外套のつじつまは合うけど、しっくりこないわねぇ)

 

それだけでは、精神世界に入れる説明にはならない。

クロドレは、予想のつかない状況に警戒心を抱いた。

座り込むヴァーリを見る。

ここは分担して対応した方がいいと判断した。

 

「ヴァーリ、早く立ちなさいな!

いい?

あんたは外に出て広場に待機よぉ。

何かおかしなことがあれば、伝えに来なさい!」

「お、おう!

だが、あんたはどうすんだ?

いつまでも、ここにいるわけにはいかないだろうよ」

「あたしもちょいと確認が終わればすぐに向かうわよ。

さっさと行きなさい!」

 

ヴァーリは慌てて立ち上がると、地下室の階段を駆け上がって行った。

クロドレは、マグニスがぴくりと動くのを見る。

意識があるのを確認すると、自然と構える。

瞼が開き、クロドレの方を見た。

そのまま、胸の傷を手で押さえつつ上体を起こす。

一度、傷を抑えていた手を離し、ジッと見つめる。

 

「はぁ。

…ったくよ」

 

仕方がないと言わんばかりのねっとりとした息を吐いた。

顔中に傷のある赤いドレッドヘアーの男は、後頭部を掻きながら不満を口にする。

 

「いってぇな、あの野郎。

だが、まぁ…」

 

今度は、クロドレを見る。

のっそり立ち上がると、拳を握り骨を鳴らす。

マグニスの口角が上がる。

してやったりと言わんばかりの表情だった。

 

「お前が、ソウルイーターか?

ドアの魂に憑りついた様子が外から分かったもんで、お邪魔させてもらったぜ。

食事前に悪かったな、好奇心が抑えられなくてよぉ」

 

クロドレは目を見開く。

 

「あんた、どうして種族名を…。

いえ、その名を知っているってことは分かっててやったのね?

いつからよ…いつからドアの精神世界に来ていたの?」

「あ?

お前らが地下室にいた頃だぜ?」

 

クロドレは焦りを感じつつも思考する。

 

(あそこだけ見て状況判断したって言うの?

いえ、流石にそれは有り得ないわ)

 

何も知らない者ができる行動ではない。

クロドレが魂を扱う存在であることを目の前の男は把握している。

 

(そこまであたし達のことを知っているのだとしたら…危険だわ)

 

放っておけない存在だとクロドレは認識した。

マグニスの胸の傷を見ると、出血はすでに止まっている。

 

(斬られて吹っ飛んだのもダメージ軽減のためね。

見た目に似合わず演技派じゃないの)

 

クロドレは目の前の男を敵として認めつつも、怒りをにじませていた。

対するマグニスは、にやつくばかりで全く悪びれた様子もない。

その顔を見て、なおさら怒りが湧くクロドレ。

だが、気持ちを抑える。

 

(あんな、自分に危険な方法でドアに正気を取り戻させるなんて…。

まともじゃないわ。

けど、こいつはあたしを欺いて最悪な結果を生み出した。

…悔しいけど、馬鹿にできない根性と演技力を持っているわ)

 

クロドレは、間合いを図る。

マグニスの手には、精神世界で持っていた武器が無かった。

だが、現実世界でも武器を出す可能性も十分考えられる。

 

(考えれば考えるだけ、おかしな存在ね。

モヤモヤしちゃうわ)

 

クロドレは、もう1つ情報を入手しようと考えた。

 

「あんた…何者よ?」

「なんだ、知らねぇのかよ。

俺様は、マグニス様だ!

覚えておきな」

 

マグニスの拍子抜けした顔を見て、クロドレは声を荒げる。

 

「ちっがうわよ!

今のあんた、普通のハーフエルフじゃないでしょうよ!」

「当たり前だろ?

このマグニス様が普通に収まる器のはずねぇだろうがよ!」

「……聞いたあたしが馬鹿だったわ」

 

マグニスはクロドレの肩を落とす様子を見て話す。

 

「へっ、余程ショックだったようだな。

その顔を見れば分かるぜ。

さすがはマグニス様ってとこだな!

ガァーハッハッハッハッ!!」

「…やってくれたじゃないの」

 

大口開けて笑うマグニスを見て、クロドレのこめかみを走る欠陥が大きく浮き出た。

再び、構えて戦闘態勢を取る。

マグニスは、現在逃げ場のない地下室奥にいる。

総督府から広場に出るためには、クロドレの背後にある階段をまず上らなければならない。

 

(さて、やり合うか)

 

マグニスは、武器を出さずに構えた。

単純に肉弾戦も好みだからということもあるが、相手が魔術を扱う場合も考慮してだ。

重量のある武器を持つよりも距離を詰めることができる。

魔方陣を展開すれば、即座に発動前に駆け寄り拳を振るうつもりだった。

向かい合う2人の目がぎらつく。

 

「おい、クロドレ!

上がやべぇぞ!!」

 

だが、戦いは始まらなかった。

地下室への階段を駆け下りるヴァーリが、戦闘に入りそうな空気を壊す。

明らか異常事態が起きた様子だった。

クロドレは、マグニスを睨みつけたまま背後のヴァーリに話す。

 

「なによ!

今からあたしは、お肌の天敵をぶち殺すんだから簡潔に話しなさい!」

「フーディーの奴が、広場でおかしな見た目をした2人にやられてるんだよっ!」

 

クロドレは、今度はフーディーの方を振り向く。

 

「何ですってっ!?」

 

ヴァーリの表情を見て、それが嘘でないと理解する。

クロドレはマグニスへ顔を向けると、悔しそうに歯を食いしばる。

 

「あんたっ!覚えてなさいよ!

あたしは食事を邪魔されることが、何よりも大嫌いなのよ!!」

 

言い切ると、クロドレは地面に何か丸い物を投げつけた。

地面に当たった瞬間、煙が室内を満たす。

 

(これは、煙幕か!)

 

視界が遮られる中、マグニスの目の前に投擲された木樽が現れる。

しかし、冷静にこちらへ向ってくる木樽に拳をぶつけ粉砕する。

空だった木樽は、激しい音を立ててバラバラになる。

もう一度構えを取り、次の攻撃に備えて神経を研ぎ澄ませる。

 

マグニスの耳に風を切る音が聞こえた。

再び目の前に現れる木樽。

先ほどとは異なり2荷、飛んできた。

今度は、両手をそれぞれの木樽に添えて受け流す。

背後でバラバラに砕ける音が響く。

少しして煙幕が晴れると、地下室にはマグニスの姿が残るだけであった。

木樽の砕ける音が2人の階段を駆け上がる音を消していた。

そのせいで、まだ地下室にクロドレが残っているものと思い、3回目の攻撃に警戒してしまっていた。

 

「ちっ」

 

マグニスは、舌打ちして階段を目指す。

 

 

 

 

△△

 

 

 

 

~マグニスがドアに斬られるより少し前~

 

 

フォシテスとプロネーマは、パルマコスタの市場の様子を見て回ったが、ソウルイーターの足取りは掴めない。

レネゲードの兵から聞いた情報は、男女2人であることと少しばかりの身体的特徴のみである。

スピリアの魂が入った大きな本を所持しているかもしれないが、なんにせよ情報が少ない。

道行く人に尋ねてみても顔を振るばかりであった。

それどころか一部の町民は、フォシテスの眼帯と左腕にはめられた魔導銃を見て不審に思っている様子だった。

身バレするわけにもいかず、退避するフォシテス。

プロネーマも他の人に尋ねてみたりするが、良い結果を得られない。

市場の近くで合流するフォシテスとプロネーマ。

プロネーマは、聞くよりも先にフォシテスが首を振ったため状況をすぐに理解した。

 

「こちらも収穫は無しよ。

マグニスはどこにいったのかえ?」

「総督府に向かうと言っていた。

合流するか?」

「そうじゃな、一度現状を整理しようかの」

 

こうして2人は、総督府前の広場に向かいたどり着いた。

人気はあまりなく、1人のおじさん以外見当たらない。

フォシテスは、マグニスが広場にいないことに気づく。

 

「もしや、総督府の中に入ったのか…?」

 

室内にいるとすれば身バレのリスクが大きい。

 

「まさか…とは思うが、彼奴ならあり得るのが恐ろしいことよ」

 

この時、広場に1人いたおじさんはフォシテス達の背後にある石橋に向かって歩き出していた。

フォシテスにもプロネーマにも興味を示す様子もない。

フォシテスは、おじさんが2人のそばを通り抜けたあとにプロネーマへ提案を持ちかけようとした。

 

「プロネーマ、このまま総督府にいく―――」

 

フォシテスは、咄嗟に首を横に傾ける。

フォシテスの頭が元あった場所を片腕が通り抜けた。

おじさんが攻撃をしてきたのだ。

顔をしかめるおじさん。

 

「くそっ、上玉がまた手に入ると思ってついやっちまったぜ」

 

おじさんは2人から後退して、先ほど伸ばした手先を開いたり閉じたりしながらフォシテスに目を向ける。

 

「けど、おかしいよな。

お前の特徴は、以前憑りついたやつの記憶にあったものだ。

五聖刃の1人、フォシテスがなぜここにいやがる…?」

 

フォシテスは魔導銃をおじさんに向けて構える。

 

「その疑問を話すと思うか?

こちらも質問させてもらう。

先程の憑りついたという言葉にはどんな意味がある?」

 

おじさんは豪快に笑いだした。

 

「ぐははは!

その疑問を話すと思うかよ?

いいぜ、こっちで探るからよ」

 

おじさんことフーディーは、すんすんと鼻を動かす。

視線の先には外套に身をつつむプロネーマがいた。

 

「そこの女の匂い…五聖刃のプロネーマも生きているだと?

お前は救いの塔で無様に殺されたはずじゃ。

いや、それだけじゃねぇ」

 

再び鼻をひくつかせるフーディー。

すぐに首を横に倒し疑問を頭に浮かべ始めた。

 

「何だ…。

救いの塔で虫になった時に嗅いだ匂いがお前らからするぜ。

わからねぇな…」

 

言った後に、フーディーが目を見開く。

プロネーマの姿が一瞬で消えたからだ。

直後、フーディーはわき腹に痛みを感じつつ吹っ飛ぶ。

そのまま広場の床を転げまわる。

プロネーマが瞬間移動でフーディーの背後にまわり、杖で殴りつけたのだ。

彼女の顔は、少々怒っているようにも見えた。

 

「貴様…妾の死に様を目にしたのかえ?」

「うぐっ…。

ちょ、ちょっと待て――がっ!!」

 

今度は正面に瞬間移動をして、杖を頭頂部に叩きつける。

頭を抑えて悶絶するフーディー。

 

「答えよ。

無駄な返答はいらぬ」

「ちきしょう!!」

 

フーディーはすぐに立ち上がると、プロネーマの頭部に向って腕を突き出す。

だが、すぐに瞬間移動で後退したため姿を捕えられない。

フーディーは、頭頂部から顎下にかけて一筋の赤い血を流していた。

肩を上下しながら荒く呼吸する。

 

「く、くそっ!

すばしっこいやつだ」

 

フーディーの視線の先がプロネーマからフォシテスへと変わる。

歩み寄ってきているのが視界に入ったからだ。

フォシテスは、近寄りながらもフーディーに話す。

 

「上着の内側に何か隠しているだろう。

見せてみろ」

 

フーディーは、腹の側面を上着ごと手で大事そうに押さえつける。

手で押さえたせいで、明らかふっくらとした物が上着で形作られていた。

フォシテスに牙を剝くようにして、唾を飛ばしながら口を開けるフーディー。

 

「だれがてめえの言うことなんか聞くかよっ!!」

 

プロネーマがフォシテスに注意をする。

 

「フォシテス。

こやつ、先ほどから捕えるような動きしかしておらん。

気をつけよ」

「ああ」

 

フォシテスは、プロネーマの助言に返事をすると足を止めた。

フーディーとの距離は、約1m。

目の前に立つフォシテスを見て、フーディーは動揺する。

先ほど、プロネーマのアドバイスを聞いていたとは思えない大胆な立ち位置だったからだ。

フォシテスの目には、傲慢さは見られない。

 

「ちっ!」

 

先手必勝とばかりにフーディーは、右腕をフォシテスの頭部に向けて伸ばす。

フォシテスは、屈んで腕を躱す。

カウンターで、魔導銃を突き出しボディーブローを決める。

 

「ごおうッ!?」

 

腹部を抑えながら膝をつくフーディー。

 

「隙だらけじゃな」

 

フーディーの背後に回ったプロネーマが、上着の裾をあげる。

エクスフィアのはめこまれた本が、上着の大きな内ポケットに差し込まれていた。

フーディーが抵抗しようとするが、フォシテスがフーディーの右手を足で踏みつける。

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

同時に、フーディーの左手首をフォシテスは右手で握りしめる。

その合間にプロネーマは、エクスフィアのはめこまれた本を抜き取り後退する。

クヴァルの注意喚起によって、気を付けて触れたのでエクスフィアのついた本に吸収されることはなかった。

プロネーマは、一瞬姿を消して再び元の位置に現れる。

その手に本は握られていなかった。

本をフーディーの目に届かない場所に置いてきたようだ。

 

「てめぇっ!

本をどこにやったんだよっ!!」

 

フーディーが暴れようとしたため、フォシテスはバランスを崩されないように数歩下がる。

立ち上がったフーディーが、駆け出しながら両手を突き出してくる。

フォシテスは、ひらりと身をかわす。

フーディーは、真横に立つフォシテスを見る。

前へ突き出した両手をフォシテスへと方向転換させようとした。

だが、それよりもフォシテスがフーディーの頭頂部に魔導銃を振り下ろす方が早かった。

地面に頭部が叩きつけられるフーディー。

 

「ぐえっ!!?」

 

起き上がることができない。

フーディーは、伏したまま思考する。

 

(くそっ…くそうっ!!

あいつらは何やってやがる!

クロドレの食事はまだかよ!

レイジネスは、行けたら行くって言ったまま来ねぇしよっ!!

考えてみりゃ、大概来ない奴のセリフじゃねぇかよ!

はやく来てくれねぇと、このままじゃ…)

 

フーディーは、フォシテスの靴音を耳にしたのでびくりと体を震わせる。

顔を上げて、すぐさま立ち上がる。

だが、攻撃する時間も許されなかった。

最初と同じようにボディーブローを受ける。

腹部を抑えながら、千鳥足になるフーディー。

 

「おっ…お、おおおおおっ!!??」

 

突如、フーディーの口から光る丸い玉が吐き出された。

地面の上を少し転がると、片手で掴めそうな大きさの玉は静止した。

 

(はぁ…はぁ…。

あれは…救いの塔のときの…。

せっかくの食料がもったいねぇ)

 

ふらつきながらも光る丸い玉の元へ向おうとする。

だが、視界の端にフォシテスが魔導銃を振りかぶる姿が映り、フーディーは命の危険を感じた。

 

(くそっ…)

 

 

 

 

 

「何だ、フーディー。

今にも死にそうだな」

 

フォシテスは、フーディーへの攻撃を止める。

背後から男の声がしたからだった。

魔導銃を後ろへ振るう。

だが、男は頭部の横に腕を立てて防御する。

フォシテスは、身を低くして足払いをしようとする。

だが、男は跳躍して躱す。

着地と同時にフォシテスの頭部目掛けて貫手を放ってきた。

首を傾けて躱すフォシテス。

男はニヤリと笑う。

楽しそうな顔をしていた。

 

「ハハハッ!!

今回は躱したか!

まさか、ここでお前に会えるとはな。

やはり来て正解だった」

 

フォシテスは、魔導銃を水平に振るう。

男は後退した。

筋骨隆々の男は、半そでのグレーのシャツと丈がくるぶしまでの青いレギンスを履いたシンプルな格好だった。

茶髪は毛先が肩にかかるほどの長さで、鼻の下には真一文字のヒゲを生やしている。

フォシテスの背後にいるフーディーが力なく男の名を読んだ。

 

「おせえよレイジネス…」

 

フォシテスは、フーディーをちらりと見る。

いつの間にか、地面に倒れていた。

戦闘意欲を失った顔は、レイジネスと呼ばれた男の方を見ている。

近くには、プロネーマが杖を持って構えていた。

フーディーが不審な動きをすれば、彼女が対応するだろう位置にいる。

彼女を信頼し、男に向き直るフォシテス。

 

「今回…?

それに、お前のその動きは…」

 

フォシテスの言葉を聞いたレイジネスは感心した表情を浮かべる。

 

「ほう?

動きで分かるか。

面白い。

俺を負かした男は、そうでなくてはな」

 

思い当たる人物が目の前にいることに疑問を持つフォシテス。

 

「やはり、テセアラのときの首謀者…。

だが、どういうことだ。

あのとき、死んだはずなんじゃ?」

「それはお互い様だろう?」

 

レイジネスは戦闘を続けたいのか、うずうずしている様子だ。

 

「それに、姿が変わっているのは…」

 

フォシテスは、レイジネスの返事を聞きつつピンときた。

 

「そうか…。

お前もソウルイーターなんだな?」

 

構えを取るレイジネス。

 

「その種族名を良く知っているな」

 

フォシテスも同様に構える。

 

「成り行きでな。

だが、いつ姿を変えた?」

「テセアラのときからは2度変えたが、1度目はお前に負けた直後だ。

たまたまいた兵の魂を食って体を乗っ取った。

少しの間、ディザイアンの兵として生きていたのだよ。

しばらくして、今の姿を手に入れた。

あの時よりも仕上げられた肉体だ。

お前とサシでやりあえる日を待ちわびていたよ」

 

レイジネスは、ニヤリと口角を上げた。

ソウルイーターであるならば、体を乗っ取ることができる。

あのとき…テセアラのハーフエルフ虐殺事件でフォシテスが首謀者を吹っ飛ばした先にはディザイアンの兵がいた。

ディザイアンの兵は、首謀者と身体がぶつかると白目を向いていた。

あの一瞬で、魂を抜き取り身体を乗っ取っていたのだ。

フォシテスは、頭に湧いた疑問を口にする。

 

「厄介な種族だ。

テセアラでの目的は何だ?

それに、あの事件に関わっていたのはお前だけか?」

「俺は人間牧場から遠征される兵と戦ってみたくてな。

事件の関係者か…、お前の後ろで倒れているそいつともう1人いるが、ディザイアンの兵に成りすましていたよ。

テセアラの虐殺事件は、俺達ソウルイーターが仕組んだことだ」

「他の2人は何のために…」

「ソウルイーターの好む食料を知っているか?

絶望した魂だ。

俺も美味い飯が食いたくてな」

「……」

 

フォシテスが足元に魔方陣を展開する。

レイジネスは嬉しそうに笑みを浮かべた。

その時、総督府から女性のような声がした。

 

「ちょっと!ちょっと!

何よこれぇぇぇぇぇ!?」

 

クロドレが、広場の様子を見て驚きの声を上げたのだ。

片手には、黒くて丸い玉を持っていた。

その玉を呑み込むと、フーディーの元へ近寄ろうと駆け出してくる。

プロネーマが、瞬間移動でクロドレの背後にまわる。

だが、突如プロネーマがいなくなったことに気づいたクロドレが背後に回し蹴りを放つ。

 

「ぬぅっ!」

 

杖で蹴りを防ぐが、威力を殺せず数歩分地面を滑る。

クロドレは、プロネーマに顔を向けて嘆息する。

 

「また五聖刃…?

それにしても、いやぁねぇ。

ちょっと一芸に秀でたからといって、やらしい戦法よ。

まぁ、あたしぐらい世の中斜めに見ていると、あんたが何するかなんて大体予想ついちゃうんだけどねぇ」

「ぬかしおるわ。

…貴様もソウルイーターなのか?」

 

クロドレは、後ろを振り向く。

フーディーやレイジネスを見ていた。

再びプロネーマに向き直る。

 

「貴様゛も゛…ね。

今更隠す必要も無さそうね。

そうよ、あたしら3人はソウルイーター。

絶望した魂を食らい、身体を乗っ取る種族よ」

「丁度よいな。

貴様に聞いておきたいことがあるんじゃが」

 

クロドレは、プロネーマの言葉に眉をひそめる。

 

「何よ、せっかち女。

あたしがあんたの正体聞く番じゃないの?」

「4000年前…。

4人の英雄がマナを独占しようとしているなどとぬかし、シルヴァラント王を騙した宰相は誰じゃ?」

 

クロドレは、腕組みをした。

さらに、自分の頬に右手の指先を当てながら考え事をしている。

すぐに分かった様子で答える。

 

「ああ、それね。

4000年も前だから考えちゃったわ。

実行者はフーディーっていうそこにいる太っちょよ。

ちなみに助言したのはあたしよ、あ・た・し!

あたしが宰相の体を乗っ取って、王に意見するようフーディーにアドバイスしたのよ。

あのあと、生き残った3人の英雄はいい仕事したわぁ。

襲ってくる兵を滅多切りにしてくれたのよぉ。

おかげで、調理の必要がほとんど無いぐらい美味しい魂が獲れ放題だったわぁ。

まぁ、あたしあの英雄達嫌いだけどねぇ」

 

クロドレは、うっとりとした様子で語る。

プロネーマは、杖を強く握りしめる。

 

「ほう。

何が気に食わぬのかえ?」

「だって、あいつらあたし達のボスを殺しちゃったんだもの。

ムカつくわ、超おこよ!」

 

クロドレは、プロネーマが殺気を緩めていないことに気づく。

白けた目でプロネーマのことを見る。

 

「そういえば、あんたの上司だったわねぇ。

あたし達が上司の悲劇を生んだから怒ってるってわけぇ?

まぁ、確かに実行したわ。

けどねぇ、あたし達が手を下さなくても悲劇は遅かれ早かれ起きていたわよ?

だって、奪い合うのが人間なんだもの」

 

プロネーマの殺気は変わらない。

クロドレは、今度は自分の番とばかりに質問する。

 

「で、あんたらは何しに来たのかしら?」

「一言で言うならば、貴様らの邪魔じゃな」

「…そ?

分かりやすいじゃない」

 

クロドレが足元に魔方陣を展開する。

プロネーマは目の前に瞬間移動し、杖を振るう。

クロドレは即座に魔方陣を解き、しゃがんで杖を躱した。

 

「おー、こわいこわい」

 

言いつつ、足元に小さな玉を叩きつける。

煙幕の出る中、クロドレは倒れたフーディーの元へ行く。

肩を貸すと、レイジネスの方へ声をかける。

 

「レイジネス!

一旦引くわよぉ!!」

 

レイジネスは、フォシテスと交戦中だった。

不満気な声を漏らす。

 

「俺は残る」

「ばっか言ってんじゃ無いわよぉ!

そりゃいずれは殺すわよ。

けど、フーディーだってこんな状態なのに、こいつら相手にして明日に支障が出たらどうすんのよぉ!」

 

フォシテスは、レイジネスが振り下ろす足を魔導銃を真上に掲げて受けきる。

クロドレの話を聞いていたフォシテスは、疑問を口にする。

 

「明日…?」

 

レイジネスが蹴り足を地面に戻して、正拳突きをしながら話す。

 

「大樹の精霊を殺して、世界を乗っ取る計画だ」

 

フォシテスは、レイジネスの突きを横へ半歩移動し躱す。

 

「なるほど」

「レイジネスゥゥ!?

なに喋ってんのよっ!!」

 

クロドレが大声で注意すると、目を見開く。

煙幕が晴れた総督府の前で、何かに気づいた様子だった。

フーディーを突き飛ばしてしゃがみ込むと、真上をプロネーマの杖が通り抜けた。

プロネーマの姿が見えなくなったので、攻撃を予知して躱したのだ。

 

「外したか…」

「邪魔すんじゃないわよぉ!

って、あらあらマグニスまで来たじゃないのよ」

 

総督府の扉が開かれると、マグニスが姿を現した。

マグニスは広場を見渡すと、フォシテスと戦うレイジネスを見つける。

 

「あいつは…」

 

舌打ちするクロドレ。

プロネーマに向かい、蹴り上げようとするが瞬間移動で回避される。

プロネーマとの距離が空いた隙に、倒れているフーディーの元に駆け寄る。

 

「クロドレ…わりい。

本も取られちまった」

「あら、喋れたの?

あいつ等が神子入りの本を取った…?

なぜかしら」

 

フーディーは力なく首を振る。

 

「…まぁ、いいわ。

手段はいくらでもあるもの。

さっさとここを出るわよ」

「その前によ」

 

肩を担がれながら、フーディーが言う。

 

「ここにいる五聖刃のやつら。

なぜだか、大いなる実りと同じ匂いがしやがる」

「…ふ~ん。

そういうことぉ」

 

クロドレは、顔をレイジネスに向ける。

 

「筋肉バカっ!

こいつら、大樹から来た精霊の関係者よ!

明日にはまた会えるからここは引くわよ!」

 

レイジネスの動きがピタリと止まる。

ほぼ同時に、町の衛兵による笛の音が鳴り響いた。

ようやく広場の異常事態に気づいたようだ。

クロドレの方へ向き直るレイジネス。

 

「このままでは邪魔をされるな。

いいだろう、町の外へ出るぞ。

宿の方は、今日で閉業だ。

楽して魂を食う生活も悪くなかったがな」

「やぁっと重い腰を上げたのね、この馬鹿!

決めたんなら早く行くわよぉ」

 

煙幕を張るクロドレ。

フォシテスは、プロネーマとマグニスの元へ向かおうとしたがある異変に気付く。

それは、フーディーが吐き出した光る丸い玉だった。

地面を転がっていたその玉が、徐々に形を変えつつあったのだ。

光る丸い玉は人の形を成していく。

やがて、光が消えていく。

その者は、服を身に着けていた。

顔立ちとまだ発展途上と思われる身長からして子どもである。

光の玉は、気を失う祭司服を着た少年へと変貌した。

手には杖が握られている。

経緯を見るに、肉体を持たない魂である。

フォシテスは、ほっとけないと思い少年を脇に抱えた。

そのまま本を持つプロネーマとマグニスの元へ駆け寄る。

 

「我々も退避するぞ」

 

マグニスがフォシテスの脇に抱えられた少年を見て尋ねる。

 

「何だそのガキは?」

「説明はあとだ」

 

プロネーマが2人に注意する。

 

「衛兵が集まって来たゆえ、急ぐぞ」

 

一度、三人は外套を羽織る。

市場に入り、雑踏の中に紛れる。

衛兵を撒くと、人目のつかない建物の裏手に回る。

そこで、マーテルに願い転送してもらった。

気を失ったままの祭司服の少年も一緒にだ。

 

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