イセリア人間牧場奮闘記 before&after   作:あるいてごろりと

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赤の求めた情景

【大樹二階層】

~クロドレが空間の裂け目に色々入れる直前~

 

祭司服の少年は、呆然と一階層に下る入り口を眺めていた。

今しがた起きた事態として、魂を食べると発言した女性のような者が、ディザイアンの1人と思われる女性によって階下へ吹き飛ばされた。

そのプロネーマ自身も少年を一瞥すると、即座に階下へ歩み始めたのである。

良く分からない状況に、少年が困惑するのも仕方がない。

しかし、プロネーマの動きは三階層にいるとされるマーテルの元へ行かせないようにしているであろうことは、容易に想像できた。

 

(ディザイアンの人達は女神様を守ろうとしているみたいだけど。

なのに、どうして…)

 

先ほどの展開で、少年は階下で何やら戦いが起きていることを察する。

また、クヴァルから歴代の神子が同化して精霊の形を作っていることを聞いていた。

生前では敵であったはずのディザイアンの面々が、マーテルを救おうとする行動に疑問が浮かぶ。

だが、それ以上に胸の中を駆け巡る思いもあった。

 

少年は、自分の胸をさする。

今、ここに存在していることを確かめるような仕草だった。

次に手のひらを見つめる。

そこに何も付着していないことを確認していた。

 

(どうして俺はここにいるのだろう)

 

見つめた手のひらを力強く握りしめる。

感情が手先にこもっていた。

女神の中に歴代の神子…すなわちアイトラがいるのならば、少年自身も何か行動をしたいのだ。

だが、クヴァルが言った通り戦えないことは分かっている。

少年は、欲しても選択肢が無い悔しさから手のひらを握りしめたのだ。

 

すると、二階層の隅の空間に亀裂が走った。

亀裂は瞬く間に広がり、人一人が難なく通れるほどの大きさになる。

少年が驚いた顔で見ていると、空間の裂け目から黒くて丸い物質が出てきた。

そのままころころと地面を転がり、やがて止まる。

次に空間の裂け目から出てきたのは、本だった。

赤いエクスフィアを埋め込んだ本で、ドサリと床に落ちる。

さらに、不気味な形をした剣が二本、裂け目から出てきた。

床に落ちると、金属音を鳴らす。

 

再び、二階層は静かになった。

少年は息を潜めるように空間の裂け目を見ていた。

閉じる気配は無い。

誰かが入ってくることもない。

 

やがて、黒くて丸い物質に動きがあった。

その物質は、徐々に人の形と成っていく。

ややふくよかな体型、髪型は側頭部に毛髪の無いモヒカン。

口周りには髭を蓄えている。

黒くて丸い物質は、ヴァーリになった。

 

「なんだ、クロドレはいないのかよ。

ってことは、プランBなのか?」

 

ヴァーリはキョロキョロと二階層の室内を見ると、少年と目が合った。

 

「誰だ?

こんな所で何をしてやがるガキ」

 

舐めたようなキツイ口調だがヴァーリの少年を見る目は、警戒の色が宿っていた。

ヴァーリはここが大樹の内部であることを理解していた。

事前にクロドレと打ち合わせをしていたからだ。

ここは彼らにとって敵地。

だからこそ、少年に警戒するのも当然であった。

 

少年は、いかにも(フォシテスに次いで)怪しい男を不審に思う。

戦いが起きる前、少しだけだが五聖刃の会議を少年は聞いていた。

その際、五聖刃からは大樹を守ろうとしている確かな意思を感じていたが、ヴァーリからそのような気持ちは全く感じられない。

要するに、先ほど二階層に上がってきた「おほほほ」と笑う女性らしき者同様、敵ではないかと疑っていた。

それに先ほど、ヴァーリが漏らした『プランB』という言葉が少年には気にかかっている。

 

(あのディザイアンの人達、予想外のトラブルに遭っているんじゃ…)

 

敵のような男が、守り手のいない階層まで辿り着いている。

三階層まで上がれば、マーテルに何かしら被害を及ぼすかもしれない。

少年は、現状を自分なりに理解する。

杖を握る手に力が入った。

 

(俺が時間を稼がないと)

 

少年は、誰かが来るまで敵をこの場に留めようと決意する。

ヴァーリは返事の遅い少年にイラついている様子だ。

少年はゆっくりと息を吸い込んだ。

同じような速さで吐き出す。

気持ちを落ち着かせたかった。

今より口から出る言葉が、果たして通じるだろうかという心配を吐き出したかったのだ。

 

「俺は大樹の番人だ!

何しに来たのか知らないけれど、痛い目に遭いたくないなら帰ることをおすすめするよ!」

「番人だと…?」

 

ヴァーリは顎に手を添えて、少年のことをじっくりと眺める。

 

「クロドレが言っていた五聖刃の奴ら以外にも大樹の関係者がいたのか?

話が違うじゃねぇかよ」

 

言いつつ、じっと眺めたまま少年の様子を伺う。

少しの間、沈黙が流れる。

少年は、早く敵以外の誰かが来て欲しいと内心願っていた。

何せ、戦えないからだ。

やがて、ヴァーリは背後にある空間の裂け目に顔を入れた。

すぐに引っ込める。

 

「戦ってるようだが、時間も掛かりそうだしな。

プランBで行くぜ、クロドレ?」

 

何かを決意したように呟いた。

振り返り、少年に声をかける。

 

「それとガキ、お前何で仕掛けてこねぇんだ?」

「そ、それは…」

 

少年は杖を強く握りしめ、答えに窮してしまう。

少年の反応を見て、ヴァーリは確信を持ったようなしたり顔をした。

 

「はっ!

ただの死んだ魂か。

俺にハッタリかますなんて良い度胸じゃねぇか」

「うっ…」

 

しかし、口で言うほどの怒気がヴァーリの口調からは見られなかった。

後頭部をポリポリと掻く。

 

「まぁ、けどよ。

力の無いやつは、口八丁でごまかしごまかし生きていくしかねぇのかもな。

…俺は生きている頃、仕事に熱意を注いでいたんだがよ。

ハッタリなんて何度使ったか分からねぇ。

とにかく、商談で得た金とコネで、何か大きなものを手にした気になっていた。

だがよ、一撃だ。

たった一撃、斧を振り下ろされて俺の人生はあっけなく終わりを迎えちまった。

結局、力のある奴が最後まで生き残れるんだよな。

昔の俺を見ているようで、お前にはちょっぴり同情するぜ」

 

少年はヴァーリの言葉が不快に感じられた。

 

「…あんたと一緒にするな」

 

ヴァーリは自嘲気味に笑う。

 

「ちげえねぇな」

 

ヴァーリは、そばに落ちている角のような剣を拾った。

杖を握りしめて身構える少年。

 

「だからよ、俺は力を欲したまま死んだんだ。

ようやく機会が巡ってきたぜ。

力をくれたクロドレやフーディーには、感謝してもしきれねぇ。

つまりよ…」

 

ヴァーリは石作りの天井を見上げる。

そのまま大口を開いた。

手にした角のような剣を頭上に持ち上げ、剣先を下に向ける。

そして、剣を口の中へ挿し込んでいった。

 

「ぐっ…!」

 

苦悶の表情を浮かべ、うめき声を上げながら喉の奥へと剣を通す。

ヴァーリの肉体は、ソウルイーターより現実世界に干渉するための加護のような力が付与されている。

剣を飲み込んだのは、強力なソウルイーターの肉体でできている剣と体内のソウルイーターの力を自分の体ごと結びつけるためである。

 

剣を全て呑み込むと、ヴァーリの体に変化が起きた。

 

《オオォォォッ!!》

 

叫び声を上げつつ、額の左右から二本の角が生えてくる。

また、瞳孔が縦長になり爬虫類を思わせる目に変わる。

口内に生えそろった歯は鋭くなり、猛獣のような牙になった。

尖った爪を眺めながら、ヴァーリは恍惚とした表情になる。

 

《こりゃあ、良いな。

力が漲るぜ》

 

少年は、恐怖を感じ後退りしてしまう。

ヴァーリは、少年に目を向けて話の続きをする。

 

《つまりよ、俺は今手にした力で世界を取る。

今後は口だけじゃねぇ。

ガキ、ここからは良く考えて物を言いな。

俺の邪魔をするってんなら、容赦しねぇ!》

 

変身したヴァーリは、少年に牙を向けた。

 

 

 

 

△△

 

 

 

 

【大樹一階層

空中都市エグザイア】

~クロドレが空間の裂け目に色々入れたころ、またはフォシテスが気絶した姿をマグニスが見たころ~

 

 

「くそがぁぁぁぁっ!!」

 

マグニスは、大斧を顕現させてレイジネスへと向かう。

真上から振り下ろすが、レイジネスはバックステップで刃の届かない距離へと移動する。

 

地面へと大斧の刃が突き刺さった直後に、レイジネスはマグニスの懐へと距離を詰めた。

 

(ちぃっ!!)

 

レイジネスは、斧を握った手を右手で掴むと捻り武器を離させた。

 

「ヤロ――がっ!!」

 

さらに、左の腕を振るい、マグニスの頬へ裏拳を当てる。

数歩後退するマグニス。

レイジネスは、放置された大斧を拾うとつまらなそうな表情のまま柄を両手で持つ。

力づくで折り曲げると、島の外へ放り投げた。

マグニスは、落下することで視界から消えていく自分の獲物を見ていた。

 

マーテルの加護を受けて武器も自由に顕現できるため、もう一度大斧を手元に再生することは可能である。

しかし、武器を取られ一度でも使用不可にされたことは、マグニスにとってある種のダメージを負わされた。

 

(…ちくしょう!)

 

マグニスはすぐさま攻撃に転ずることができない。

テセアラ事件の際に、マグニスは一撃で戦闘不能にされてしまった。

かつて目の間の敵を倒した親友は、いまだに目を覚まさない。

僅かでも臆するのも、致し方ない状況だった。

レイジネスが、マグニスを無表情のまま見る。

 

「最大の目的は果たした。

フォシテスとは、テセアラの時のような強さのまま戦いたかったが残念だ。

長いことぬるま湯につかったせいで、ぎらついた闘争心も落ちたようだな。

ディザイアンの英雄も、その程度だったということか」

 

レイジネスの言葉を聞いたマグニスは、心臓がどくりと脈打つのを感じた。

だが、それは戦意を削がれたわけでも無く、恐怖に染められたわけでも無かった。

理由はただ一つ、フォシテスをけなされたからだ。

 

(おい、聞いてんのかよフォシテス…。

それでいいのかよ、お前はよ!!)

 

怒りで感情が爆発しそうになるのをなんとかこらえていた。

だが、尚もまだ怒りが湧いて出てくる。

直後、鈍い衝撃音がマグニスの耳に響いた。

食いしばった歯が横に擦れて、ごりッと音も鳴る。

マグニスは、自分の頬を殴っていた。

 

(お前がやれねぇってんならよ。

テセアラの時の借り…ここで返させてもらうぜ!)

 

レイジネスは立ち位置を変えず、静かにその様子を見ている。

マグニスは、気絶したフォシテスを見る。

 

「いてぇな。

だけどよ、またやられてちゃあっ!

世話ねぇよなぁ!!

そうだろ…フォシテスッ!」

 

大声で呼ばれても、フォシテスは気絶したままだ。

だが、先程と違いマグニスに臆する様子は無かった。

さらに、自身の頬を殴り、怒りを抑え冷静になることができた。

マグニスは、覚悟の決まっていた目をしている。

レイジネスは、頬を緩めるような笑みを浮かべる。

両の手を前に出して、構える。

 

「テセアラの時よりは、楽しめそうだな」

「黙ってろ!」

 

マグニスは、武器である斧を顕現しないまま足元に魔法陣を展開。

レイジネスは微動だにしないで様子を見ている。

 

「フレイムランス!!」

 

空中から現れた槍の形状をした炎が、斜め下に位置するレイジネスへと射出する。

炎の槍が地面に設置した瞬間爆炎が円状に広がるが、レイジネスはバックステップで躱していた。

 

マグニスはいまだ燃え上がる炎の中に突っ込む。

相手からすれば、炎のカーテンから急にマグニスが出てきたように見えるだろう。

レイジネスとの距離が数歩の所で地面を蹴り上げわずかに跳躍、体を捻り後ろ回し蹴りを放った。

レイジネスはサイドステップで蹴りを躱す。

マグニスは着地後、即座に顔を狙い裏拳を振るう。

 

レイジネスはわずかに屈んで裏拳を避ける。

マグニスは右の拳を突き出そうとするが、腕が伸びきる前に右手首を掴まれてしまう。

そのまま右腕を引っ張られて重心をぶらされる。

マグニスの空いた懐にレイジネスは、ボディーブローを叩きこんだ。

 

「がはぁっ!」

 

腹部への衝撃が大きく、たまらず口元から唾液を垂らすマグニス。

 

先ほどレイジネスは、ボディへ拳を入れるとすぐに引いていた。

パンチは相手の体への接触時間が短いほど、ダメージが残るためだ。

 

よろけるマグニスに、ズンズンと足を踏み鳴らして近づくレイジネス。

だが、マグニスは不意打ちを狙う。

ふらつきながらも、敵の視界に入らないように左手を自身の体で隠していた。

左手は手のひらを突き出すような形になっている。

間合いに入った瞬間、マグニスはレイジネスの顎を左の掌底で突く。

 

「ぐっ!」

 

掌底が入り、目を閉じるレイジネス。

マグニスはすぐに顔を狙い上段蹴りを放つ。

顔を蹴られ二歩後退するレイジネス。

だが、倒れない。

蹴られて後退したのち、レイジネスは即座に反動をつけて前に踏み込む。

マグニスの両耳を挟むようにして、左右の手のひらで突いた。

 

耳の奥でキーンと高い音が鳴り響く。

呻いて隙ができたマグニスのみぞおちを殴ってすぐに拳を引く。

もう一度みぞおちを殴るが、今度は振りぬいた。

マグニスの足が地面から離れて、バランスを崩したまま着地したため転倒する。

地面を両手で押しつつ立ち上がるが、上体が左右に揺れてふらふらとしている。

だが上体が揺れているのは、再び攻撃のタイミングを図っているためだ。

マグニスの視線はレイジネスから外れていない。

レイジネスは、歩みつつも声をかける。

 

「宿でお前と話していたとき、ずっと考えていたよ。

人の多いパルマコスタで、ディザイアンの恐怖に染められた住民の魂を楽して食いながら生活するか。

それとも、騒ぎを起こし宿と町を捨てることになったとしてもお前と拳を交えるか。

フォシテスのように戦う価値があるのか、考えていた。

知っての通り、選んだのは前者だがな」

「要するに、てめぇの目は節穴だったってことだな」

 

レイジネスはフッと笑うが、すぐに身を屈めて前進する。

マグニスは右の拳を突き出そうとするが、その前に右手首をレイジネスの左手の甲で打たれて弾かれる。

レイジネスは、マグニスの顎下をつま先で蹴り上げる。

マグニスは一瞬ひるみつつも、左右の手で交互に掌底を突き出す。

狙いはレイジネスの顎だったが、レイジネスは半歩のサイドステップを二度おこないどちらも躱す。

マグニスが二度目の掌底を空振り腕が伸びきった隙を狙い、レイジネスはボディーブローを叩きこむ。

さらに、その場で体を一回転。

遠心力で勢いをつけた肘打ちをマグニスは顔面に食らってしまう。

 

マグニスは吹き飛ばされるようにして大きく後退し、後頭部を島の中央にある石碑にぶつける。

一瞬意識が飛び、ずるずると石碑に背を預けたまま座り込む。

その間もレイジネスは歩んでくる。

マグニスはすぐに目を覚ますが、すでにレイジネスは目の前で片足を上げている。

靴底でマグニスの顔面を踏み抜き、背後の石碑にぶち当てようとしていた。

 

しかし、マグニスは冷静にレイジネスの動きを見ていた。

靴底が顔に迫ってくる中、タイミングを合わせて首を傾けて躱す。

レイジネスの靴底は石碑を踏みつける。

その間にマグニスはすぐに立ち上がり、体制を立て直すために少し距離を置こうとして島の端に向い駆け出す。

レイジネスも駆け出して後を追ってくる。

 

マグニスは振り返りつつ右の拳を突き出す。

レイジネスは左の前腕で受けつつ、もう片方の拳を握りカウンターを狙う。

マグニスはレイジネスの右の腕が伸びる前に、手首を右の手刀で打って払った。

レイジネスは次に左の拳を突き出そうとするが、マグニスはこれも腕が伸びきる前に左手首を自身の左手で掴み外へ払う。

 

直後にレイジネスの懐が開くと、マグニスは払った左手の拳を握り、レイジネスの左頬に裏拳で打撃する。

次に右の拳で、再び左頬を殴りつける。

さらに左の拳で殴りつけようとするが、レイジネスは視線を拳に合わせて三度目を見切っていた。

わずかに腰をかがめて左手の打突を回避しつつ、そのまま伸びた左腕の手首を掴み小手投げでマグニスの体を転倒させる。

 

レイジネスは、倒れたマグニスの腹部を蹴り上げる。

勢いをつけるのではなく、ふわりと持ち上がるような蹴り方をした。

わずかに浮いたマグニスの体が背中側から地面に着く。

マグニスは右手を背後に伸ばし、地面を押して上体を起こそうとしたが、右手が地面に触れることはなかった。

背後を見ると、雲とその隙間に青い海が広がっていた。

島の端にいたのだ。

マグニスの体は、もう少しで島外に落ちてしまうような状態だった。

 

(あぶねぇっ!)

 

レイジネスがまだ上体を起こしただけのマグニスの顔を蹴りつけて島の外に落とそうとする。

足が迫ってくる中、マグニスは両手でレイジネスの蹴り足を掴む。

この時、一方の手はつま先を掴み、もう一方の手はすねを抑えて蹴りの勢いを殺していた。

掴んだ瞬間指がしびれるような感覚があった。

だが、構わず掴んだつま先とすねに力を込めて、回すように捻って押し出す。

バランスを崩したレイジネスがトットッと地面を片足で突きながら一回転する。

マグニスはパッと立ち上がり、駆け出す。

レイジネスが正面を向いたとき、マグニスはもう懐に入り込んでいた。

 

(っ!!)

 

マグニスはレイジネスの顎下を蹴り上げる前蹴りを放つ。

さらに、頭部を左右に振るような2連撃の横蹴りを放つ。

 

通常、右に払った蹴り足を地面につけずに左に振ると、速度と威力が相当落ちる。

だが、柔軟さを併せ持ちつつ鍛え上げたことにより屈強な肉体に仕上がったマグニスならば、威力も速度も落とさない2連撃の蹴りが可能だった。

 

レイジネスの胸に向けて、鋭い足刀を放つ。

レイジネスは吹き飛び、背中から中央の石碑に叩きつけられる。

 

「がはぁっ!」

 

肺から空気が絞り出されるような声を出して、レイジネスの体が硬直する。

マグニスはその間に前進し、レイジネスの前に立つ。

再び頭部を左右に振るような2連撃の横蹴り。

さらに、顎下を蹴り上げ、そのまま蹴り足のかかとを頭頂部へと振り下ろす。

 

「ぐうっ!」

 

マグニスは足首を蹴って払い、レイジネスはバランスを崩して石碑から体が離れる。

左の拳で右の頬を殴りつけるマグニス。

次に、もう一方の右の拳で左の頬を殴る。

レイジネスが一歩後退したところで、もう一撃左の拳を伸ばしたがレイジネスはサイドステップで躱した。

躱しつつも、マグニスの伸びきった左腕の手首を掴み、そのままマグニスの背後に回る。

レイジネスは、掴んだ左手をマグニスの背中で押さえつつ右手の指をマグニスの横っ腹に突き立てた。

あばらの下でレイジネスの指が食い込んでいく感覚が、神経に激痛を走らせる。

 

「がああああああああぁっ!!」

 

痛みを雄たけびをあげつつ振り払おうとするが、できない。

すぐに別行動に移すマグニス。

背後のレイジネスの顔面を狙い、勢いをつけて拘束されていない右腕で肘打ちする。

レイジネスは鼻血を出すが、拘束を解かない。

マグニスは間髪入れずにもう一撃肘打ちをする。

まだ拘束を解かない。

さらにもう一撃。

三発目にして、ようやくレイジネスは拘束を解く。

 

マグニスは慌てて中央の石碑に向って走り、振り返って背中を石碑に預けて座り込む。

指を突き立てられた横っ腹から、少し血が流れていた。

痛みに耐えていると、呼吸が荒くなる。

レイジネスはマグニスを追わず、鼻の下を指で拭うとその場で佇み静かに見下ろしていた。

 

「滑稽だな」

「はぁっ…はぁっ…!

…あ”?」

「悪党ディザイアンが世界の救済でもしているつもりか?」

 

レイジネスに言われたのちに、マグニスは島の端で気絶したままのフォシテスを見る。

 

思い出すのは、かつてテセアラ事件でフォシテスに命を救われたときのことだった。

あのとき、立ちあがれないマグニスの視線は、敵に悠然と立ち向かうフォシテスの背中を追っていた。

憧れとも言っていい気持ちすらあった。

 

その時、気絶しているはずのフォシテスの手先がぴくりと動くのをマグニスは見た。

レイジネスへと視線を移す。

 

「はっ!

悪党が正義ごっこなんざするわけねぇだろ!」

 

マグニスはニヤリと口角を上げる。

 

「このマグニス様がここにいるのはよ!

腑抜けヤローに借りを返しに来たからだ!」

「……」

 

膝に手を置き、立ち上がるマグニス。

ゆっくりと歩を進める。

レイジネスも同じような速度で歩き始める。

互いに弧を描くように歩む。

最初に仕掛けたのはマグニスだった。

レイジネスの元へ駆けていく。

相手の数歩前で、両手を組む。

ぐるりと体を一回転させつつ組んだ両手をハンマーのように勢いつけてレイジネスの側頭部に向けて打とうとする。

レイジネスは顔の横に前腕を立ててガードするが、攻撃が想定以上のパワーでガードを押し切られて前腕ごと側頭部を打たれる。

視界が一瞬歪みながらもマグニスの顔目掛けて拳を突き出してくるが、マグニスは腰を落として回避。

レイジネスのみぞおちに拳を叩きこむ。

 

「ぐっ!」

 

レイジネスは腹部を片手で押さえつつも、もう一方の拳を突き出してくる。

だが、腰の入っていない拳だ。

マグニスは敵の攻撃の威力を落とすため一歩下がりつつ、手のひらで拳を受け止める。

カウンターでレイジネスの頬を殴りつける。

さらに、マグニスはレイジネスのわき腹目掛けて蹴りを放つ。

 

レイジネスは蹴りをまともに受けて苦い顔をしながらも蹴り足に腕を回して掴む。

しかし、その直後にマグニスの軸足は地面を蹴っており、レイジネスの側頭部に放った。

たまらず掴んだ足を離すレイジネス。

マグニスは飛び掛かるようにして前進し、レイジネスの頬を殴りつける。

レイジネスはひるみながらも、マグニスの頬を殴る。

マグニスはのけぞったが、同時に腕を伸ばすとレイジネスの後頭部を鷲掴みにしていた。

引き寄せて、もう一方の腕でレイジネスの顔面に肘打ちをする。

 

レイジネスは目を閉じたまま、二歩後退する。

その僅かな時間、マグニスは地面を蹴ってわずかに跳躍し、体を捻りレイジネスの側頭部に後ろ回し蹴りを放った。

倒れこむレイジネス。

すぐに両手を地面に立てて上体を起こす。

だが、足ががくがくと震えており立ち上がれない。

 

(頭部にダメージを受けすぎたか!)

 

レイジネスは口角を上げる。

 

「フっ…!

フハハハハッ!!

面白い!

面白いぞマグニス!!

さっきは舐めた態度を取って悪かった!」

 

想像以上の実力を持つ敵が現れて昂るレイジネス。

楽しそうな表情で顔を上げるが、マグニスを見て不思議がる。

マグニスは、背中を向けてレイジネスから遠ざかるように島の端に向けて歩き出していたのだ。

 

「どうしたマグニス!

まだこれからだぞ!?」

 

言いつつも、レイジネスの体は依然立ち上がれない状態だった。

ふと、マグニスが進行方向を少しずらしたことに気づく。

進行方向がずれたことで、視線の先にフォシテスが姿を現した。

まだ倒れた石柱に体を預けて座り込んだままだが意識が戻っていた。

右腕は、左腕のサイコガンに添えられていた。

サイコガンはカバーが開き、射出口が見えている。

いつでも光線を放てる状態だった。

レイジネスの顔に焦りが浮かぶ。

 

「待て!

待ってくれ!!

マグニス、お前はそれでいいのか!?

俺を倒せば、ディザイアンの英雄を超えられるんだぞ!!」

 

マグニスは、光線の射線上を避けてフォシテスの元へと進みながらも、片目だけレイジネスを見るように向ける。

 

「やっぱてめぇ、酒のせいで話を最後まで聞いてなかっただろ?

俺は英雄を超えたいわけじゃねぇ。

並びたいんだよ」

「…マグニス!!」

 

レイジネスの呼びかけに対して、マグニスは背中越しに手をひらひらと振った。

フォシテスのサイコガンの射出口が光ると、光線が放たれる。

レイジネスの胸を貫き穴が空くと、体が真っ黒になりボロボロと崩れていった。

 

フォシテスの目の前に立つマグニス。

 

「…マグニス、良かったのか?」

 

フォシテスの問いは、レイジネスにトドメを刺したことだった。

 

「別に構わねぇよ」

「…そうか」

「それにしてもフォシテスよぉ、ボロボロじゃねぇか!」

「お前ほどじゃない」

 

フォシテスも傷を負っていたが、マグニスとは比べるほどでもない。

指摘されたマグニスはとぼけることにした。

 

「そうか?」

「ああ。

それと、だ。

腑抜けヤローで悪かったな」

 

表情には出さないが、明らか不満そうなことを言うフォシテスを見て、マグニスはニヤリと笑う。

 

「まったくだ。

まぁ、良かったぜ!

お前が腑抜けていても俺がいたからよ!

今回のことはお前にとって大きな恩ができたろ!

これは、俺の言うことを1つぐらいは聞いてもらわねーとなぁ!」

「…私にできる範囲なら聞こう」

 

ほんのわずかにすねているようなフォシテス。

マグニスは何も言わない。

沈黙が起きる。

だが、同時に2人から含んだような笑い声が起きる。

 

「くっくっく…」

「ふっ…」

 

2人の笑い声は一気に大きくなっていった。

 

「ガーハッハッハッハッ!!」

「ハーハッハッハッハッ!!」

 

空中都市に、豪快な笑い声が響く。

相手がマグニスだからこそ、フォシテスも腹の底から声を出して笑った。

フォシテスはずっと前よりマグニスのことを認めている。

だが、マグニスは今回の戦いを通して初めてフォシテスの隣に立てたような気がした。

語らずとも互いに右腕を突き出す。

2人の拳が合わさった瞬間、少々痛いであろう鈍い音がした。

 

「次はやられんじゃねーぞ」

 

言い終えた直後、満足したマグニスの魂はこの世から消え去った。

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