イセリア人間牧場奮闘記 before&after 作:あるいてごろりと
【大樹一階層(右)】
~クヴァルさんが倒れたあと~
二階層に続く階段の近くで張られた煙幕が霧散していく。
クヴァルは背中と腹部を手先で貫かれたのち、うつ伏せに倒れた。
床に血が流れていく。
背後ではクロドレが見下ろしている。
クヴァルは、杖を握る手に力を込めて体の下に魔法陣を展開する。
「ライトニング!」
素早く背後へと杖先を向けて、クロドレの頭上から出の速い初級術である雷を落とす。
クロドレは攻撃の動作から気づき、バックステップで回避する。
「危ないわねぇ~。
イタチっぺにしては激しいんじゃないのぉ?」
階段を塞ぐ大岩から衝撃音が鳴り響く。
クロドレは驚いて振り向くが、大岩はまだ崩れていない。
(意識が逸れてたからびっくりしたわぁ。
もう、うるさいわねぇ)
その隙にクヴァルは頭上に杖を掲げる。
もう一度、魔法陣を展開する。
「ライトニング!」
今度は杖先に雷を落とした。
クヴァルの持つ杖は、金属で出来ている。
雷が落ちて、電気熱を帯びた杖先が赤く変色する。
ゴクリと唾を呑み込むクヴァル。
(やるしかありませんか)
倒れた姿勢を変更して、横向きになる。
その状態で、杖先を穴の開いた腹に押し当てた。
「ぐうおおおおおっっっ!!!」
焼けるような音の経過時間と比例して苦痛が大きくなる。
ゆがんだ表情のまま、クヴァルは止血に努める。
クロドレはそんな様子を眺めていた。
(最初のあたしへの攻撃は距離を取るためだったのね。
けど、まあ…)
階段を塞ぐ大岩からまた衝撃音が鳴り響いた。
クロドレは眉をひそめる。
(まるで獣ねぇ。
…あら)
この時、クロドレが作った空間の裂け目からヴァーリが顔を出す。
目が合ったクロドレは、顎を動かすジェスチャーで意思を伝えてヴァーリはすぐに裂け目の向こうに引っ込む。
裂け目は徐々に閉じていく。
(こちらが終わり次第すぐに向かうけども。
何かあったらプランBかCでいくからよろしくねぇ、ヴァーリ)
クヴァルは杖先を腹から離し、意識が飛びそうな時間を一度終える。
杖をもう一度頭上に掲げる。
「ライト…ニング…」
杖先に雷が落下し、赤く変色する。
背中にも押し当てて止血しなければならない。
地獄のような痛みを再び体験することになる。
そう考えたクヴァルの元に、足音が聞こえてきた。
「あらあら、大変ねぇ。
背中に手は回るのかしら。
良かったら、手伝ってあげるけどぉ?」
傍でクロドレが血の付いた手先を向けてくる。
クヴァルの顔は大分憔悴していた。
「逃げなければ…」
「おほほほ!
逃げるですって?
あたしは狙った獲物は簡単には逃がさないわよぉ」
衝撃音が鳴り響いた。
階段を塞ぐ大岩が音を立てて崩れていく。
姿を見せたのはプロネーマだった。
クロドレを見ると、殺気を向ける。
クヴァルは額に汗を流すクロドレに話す。
「あなたじゃ…ありませんよ。
あの状態のプロネーマは、なんだか近寄りたく…ありませんから」
クヴァルの顔はひきつっていた。
「嫌な予感が…するんです」
クヴァルの言葉を聞いたクロドレは、関わりたくない気持ちが湧いてきた。
「…同伴してもいいかしら」
言いつつ、クロドレが階段の方を見てはっとする。
プロネーマの姿が消えると、目の前に現れる。
顔に向けて振るわれた杖をクロドレは腕を立ててガードする。
プロネーマは、顔をガードすることで防御されていない腹に蹴りを入れた。
「うぐっ!!」
吹き飛んで床を転がるクロドレ。
プロネーマは、足元で横たわるクヴァルを睨みつける。
「休みでもないのに何を寝ておる」
あんまりな発言であった。
「いや…けがをして」
「ほう、血が出ておるのぉ」
出血を目視すると、プロネーマの口調が柔らかくなる。
かえって不気味に感じるクヴァル。
「…ええ、それで焼いた杖で止血をですね…」
「ふむ、それでまた戦地に赴こうと?
マーテル様への忠義がそこまでとは感心じゃな。
しかし、背中では止血もしづらいであろう。
妾が手伝うゆえ、じっとしておれ」
「へ?
いや、やめ…」
プロネーマは杖を奪い、クヴァルの背中に押し当てた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"熱っついっっっ!!!
ちょっとでいい!
プロネーマ!
ちょっとであ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁっっっ!!!!」
猛烈に叫ぶ声が続き、いつしか止んだ。
止血が済み、杖を返すプロネーマ。
返すと言っても、クヴァルは手を上げられないほど虫の息だったため杖は床に置いた。
魔法陣を展開するプロネーマ。
「アイシクル」
出力を微調整し、2つの傷口を塞ぐ小さな氷を生成した。
火傷による悪化を防ぐためである。
「ご苦労であった。
痛みに耐えた褒美に休憩をやるゆえ、そこで休んでおるがよい」
「ありがとう…ございま…す…」
言われなくとも、もう動けないクヴァルであった。
プロネーマはクロドレへと顔を向ける。
視線は変えぬまま、横向きに歩を進めた。
敵の術の範囲内にクヴァルを入れないようにするためだ。
クロドレはすでに起き上がっていたが、彼女らのやり取りにドン引きして邪魔出来なかった。
(ひどい労働環境を見たわ…!)
クロドレは思考する。
クヴァルに攻撃してプロネーマの隙を狙う手段は使えないだろう、と。
まず、絶対にかばわないだろうし、クヴァルへの攻撃はかえってクロドレ自身の隙を作ってしまうことになる。
そう思わせるに、十分なやり取りを先ほどクロドレは見させられた。
クヴァルから大分離れたプロネーマが立ち止まる。
クロドレが話しかける。
「あんな扱いして、仕事仲間じゃないの?」
プロネーマは問いかけに対して、堂々とした様子で答えた。
「仲間を思うがための行動じゃ。
優しさだけでは、組織は成り立たぬ。
時には成長のために、言葉でちくちくと突くこともある」
「言葉どころか焼いた棒で突いてるじゃないの」
間を置かずしてプロネーマが杖先を向けてきたため、クロドレはすぐに構えて足元に魔法陣を展開する。
気を抜いたまま、目の前にワープされては攻撃を食らってしまうためだ。
両者を包む空間に静寂が訪れる。
先に仕掛けたのはクロドレだった。
「レイジングミスト!!」
大きな円状のマグマのような高熱を伴う霧が現れる。
範囲はプロネーマのいる場所はもちろんのこと、クロドレの目の前まで現出。
これによりプロネーマの即攻撃するためのワープできる箇所は、三方向に絞られる。
クロドレの目の前だと術でダメージを受けるため、左右と背後だ。
先ほどまでの場所にプロネーマの姿は無いため、すでにワープをしている。
クロドレは流れるように左右を確認し、理解して横に飛ぶ。
背後から赤い獅子の闘気が現れたが、間一髪回避した。
着地したクロドレはすぐに足元に魔法陣を展開する。
ワープは短時間で行えないことは、もう把握済みだった。
ほぼ同時にプロネーマも魔法陣を展開した。
2人が術を行使する。
「レイジングミスト!!」
「タイダルウェイブ!!」
熱霧が現出するが、熱を中和する広範囲の水の魔術がクロドレとプロネーマごと奔流する。
本来、タイダルウェイブは術者を対象外としない。
しかし、足元にクロドレの高威力の術を行使されたため、あえてプロネーマは自身も術の対象に入れた。
息も出来ぬほどの水量が渦を描き、2人の体が上昇していく。
やがて、術の効果時間が終わると地面に落下した。
床に手をつき、起き上がるプロネーマ。
「ごほっ…ごほっ!!」
咳き込み顔を上げると、駆け出してきたクロドレが目前まで迫っていた。
腹を蹴られるプロネーマ。
「がはっ…!」
水たまりの上を音を立てて転がる。
痛みに耐えながら顔を上げると、クロドレが片膝をついていた。
双方、水の渦でダメージを負った様子である。
「ごほっ…さっきの仕返しよぉ。
全く、玉砕覚悟なんて嫌になるわぁ」
「ふっ…。
覚悟がないゆえ、貴様はボスよりも自らの命を優先して逃げたのであろう」
プロネーマの挑発を受けて、クロドレのこめかみに青筋が浮き出る。
怒りの表情を露わにするが、深く息を吐いて落ち着かせた。
「…人間もハーフエルフも比較の使い方が本当に下手くそよねぇ。
比べるのは過去の自分自身だけでいいのに、気持ちを抑えきれず他者と比較して得てしまうのは、嫉妬・劣等感・憎悪…。
そうして生まれた負の感情によって、やがて争いが起きる。
馬鹿よねぇ」
「なんの話をしておる、藪から棒に」
プロネーマの訝しむ顔を見て、にやつくクロドレ。
「あんたの上司も同じよ。
カーラーン大戦の原動力である負の感情という芽を摘もうと各地を旅していた男が、結局自分もその芽を育ててしまったのだからねぇ。
姉の死を他者とは異なる見方をしたから、人間という人種を嫌い憎んだのでしょ。
見知らぬ1人が目の前で殺されたら、あんたの上司は敵対する1つの人種全てを憎んだのかしら。
きっと『何か事情があるはずだ』とか『それでも世界と皆を救いたい』とか、正義ぶった臭いセリフを吐いていたんじゃないの?
駄目よねぇ。
全てを救いたければ平等な目線で周囲の者を見て、予期せぬトラブルが身近な者に起きたとしても寛容な心を持たないと。
差をつけるから、今度は自分の手で世界を混沌とさせたのよ。
覚悟が足りない証拠。
そんな哀れな男も馬鹿だって言ってるのよぉ」
「ユグドラシル様を愚弄するか!」
今度はプロネーマのこめかみに青筋が浮き出る。
そんな様子を見て、クロドレは愉快に笑う。
「おほほほ!
とか言いつつ、本当は上司が死んであんたもスッキリしてるんじゃないの?
だって、あんた…その上司に殺されたんでしょう」
プロネーマの呼吸が一瞬止まった。
脳内では、敬愛する者から首を掴まれた様子が映像として流れる。
たった一言。
普通なら失言とも取れないミス。
それ故に、プロネーマはユグドラシルに殺されたのだ。
どう考えても釣り合わない。
誰しもが理不尽と思うような処罰である。
クロドレは、大樹に来るまでにフーディーからプロネーマの死因を聞いていた。
プロネーマの動かぬ様子を見て、クロドレはすぐさま立ち上がる。
(これなら憑りついて幻覚を見せるまでも無いわねぇ。
五聖刃の長ともあろう者が、部下よりも隙が大きいだなんて!)
プロネーマの元へ駆けより、飛び上がった。
「ぼうっとしてんじゃないわよぉ!!」
空中から放たれた突進するような蹴りが、腹部にあたりプロネーマの体が吹き飛ぶ。
「ぬあっ!」
サイコロのようにして、水たまりの上を転がった。
力なく立ち上がるが、反撃には出ない。
足元に魔法陣を展開するクロドレ。
「トラウマなのか知らないけれども、ショックで動けないだなんて!
ボスの意思を引き継ぎここまで来たあたしに比べると、なんとまあ情けないわねぇ!
哀れな上司同様、覚悟が足りないあんたは死になさぁい!
スパイラルフレア!!」
直線状に放出された高速の炎が迫る。
勝利を確信したクロドレだったが、術が当たる直前でプロネーマの姿が消えた。
現れたのは先程の位置から2mほど横である。
反撃のためではなく、回避のためにワープしたにすぎない。
プロネーマは、足元に魔法陣を展開する。
(まだ動けたの!)
すぐに足元に魔法陣を展開するクロドレ。
術が発動するまでの間、プロネーマが静かに口を開く。
「今更、ショックなど受けるはずがなかろう。
妾の罪を再確認しておったにすぎぬ」
「ええ!?
何を言ってんのよ!」
「ユグドラシル様への無礼な発言をしたのは妾じゃ。
落ち度は妾にある」
双方、術の威力を上げるため魔法陣の展開時間を延長する。
「へぇ、そう!
そんなこと言って、実際どうなんだか!
強がりは覚悟なき弱い者が被る言葉の衣なのよぉ!」
「そうかえ?
それなら…」
プロネーマは足元に魔法陣を展開したまま、ワープした。
現れたのはクロドレの目の前だった。
自身の術ですら、発動すれば巻き込まれるのは明らかな距離である。
「あんた…!」
プロネーマは、愉快そうに相手の顔を見る。
「ほれ、どうしたのじゃ。
顔がひくついておるぞ。
もしや、さっきまでの言葉は強がりだったのかえ?」
「こ、この女!」
「試してみるぞえ。
妾と貴様の覚悟、どちらが上かを…」
クロドレは思考する。
仮に、魔術をキャンセルし物理攻撃に切り替えても、プロネーマは捨て身で魔術を発動する。
見た目は相打ちだったとしても、プロネーマは勝ち誇った顔をするだろう。
挑発された以上、それはクロドレにとって許せないことだ。
逃げることなど論外。
もはやクロドレに選択肢は無かった。
「~~っ!!
後悔すんじゃないわよぉ!」
同時に術を発動する。
「マイトアトラスゥッ!!」
「プリズムソードォッ!!」
クロドレの発動した風と水の複合上級魔術により、2人の体に数え切れないほどの風の刃が乱雑に舞い切り刻む。
また、プロネーマが発動することで現れた、光の洗礼を受けた七本の剣が頭上より降り注ぐ。
異様なのは、攻撃を受けている双方ともうめき声すら上げないことだった。
周囲の床には、どちらのものか判断のつかない赤い液体が飛散していく。
高威力の攻撃魔術が止むが、2人とも立ったままであった。
プロネーマは腕や足、腹部にいくつもの切り傷が出来ている。
開けないのか、片目を閉じたままだ。
クロドレの体にも多数の切り傷ができている上、傷むためか右足の甲を地面に向け、重心を軸足よりに傾けていた。
面と向かいながら、荒く呼吸をする2人。
限界は近いはずであった。
しかし、その眼差しにはまだ戦意が満ちていることを示す。
わずかな時間、互いの思考を読み取ろうと出方を伺っていた。
攻撃のタイミングと手段、回避方法…傷ついた体ではやれることが限られている。
一撃外せば負ける可能性が高い。
プロネーマの杖を持つ手に力が入った。
直後、クロドレが右手のそろえた指先をプロネーマの顔目掛けて放つ。
だが、プロネーマは重心を落として躱す。
クロドレの右手は、プロネーマの頭上をかすめた。
プロネーマの体がブレる。
ワープの予兆だ。
「なめんなあ"ぁっ!!」
クロドレが背後に顔を向ける。
背後もしくは左右にプロネーマがワープしたら、使えないように
まず、背後にプロネーマがいないことを確認した。
クロドレはすぐに左右を見るが、どちらにもいない。
予想外の事が起きていた。
(まさか…)
すぐに振り返った直後、股下から思いっきり振り上げられた杖の石突きがクロドレの顎下にヒットし砕いた。
「あがっ!!」
プロネーマはワープしたが、座標を変えなかったのである。
仰向けに倒れるクロドレ。
プロネーマは杖を床に突くと、深く息を吐きだした。
呼吸を整えて、言い放つ。
「妾は…あの方に救われた時から全てを捧げると決めておるっ!
この身はユグドラシル様の目的を果たすための駒として存在する!
ユグドラシル様がマーテル様を想うのならば、妾は主に代わり剣となり盾となろう!!
殺されようとも、あの方への忠誠心は少しも揺るがぬ!!
逃げ出した貴様とは覚悟が違うわっ!!!」
顎を砕かれたクロドレは、起き上がれぬまま話す。
「あ、あんら…。
あらは…おかひいんらないの?」
プロネーマはクロドレの言葉には構わず、足元に魔法陣を展開する。
「妾すらも推し量れぬユグドラシル様の決断を軽々しく侮辱しおって。
その発言は万死に値するぞえ」
クロドレは自身の命の終わりを悟りながら、思考する。
(どうやら、ここまでのようね。
…この女、喋れないあたしに比較するような言葉を好き放題吐いてくるなんて。
悔しいわ。
とってもとっても悔しいわ。
あたしも都合良く解釈できない哀れで愚かな存在だったってことかしらね。
やんなっちゃう。
…あとは託すのみね。
フーディーもレイジネスも駄目だったときは頼んだわよぉ、ヴァーリ。
最悪、純血の種族が滅んだっていい。
ただ、マーテルが居付くのは面白くないし、ボスの力も渡したんだからあんたが世界を支配してやってちょうだい。
それと約束通り、最後の最後の手段としてあんたにも頼んでおくわぁ。
ねぇ…堕ちた天使さん♪)
△△
【大樹二階層】
~少年がアイトラより加護を受けたあと~
祭司服の少年の火の初級魔術を受けたヴァーリは床を転げまわっていた。
服に火が着き、ヴァーリに焦りが出る。
《あちいぃぃぃぃッ!!
く、くそぉッ!!》
転がり続けてようやく消火が終わると、ヴァーリはすぐに起き上がり2人の元へ駆けだしてくる。
《舐めた真似してんじゃねぇぞ!!》
少年が再び魔術を行使しようとすると、先にアイトラが詠唱を始めた。
「聖なる翼よ、此処に集いて神の御心を示さん」
左手を前へ差し出し、右手の人差し指は胸の前で十字を切っている。
足元には白い円状の光が明滅し、透き通った羽が舞い上がる。
「エンジェルフェザー!」
アイトラが右手を頭上に掲げると、手のひらの上から3つの虹色に輝く光輪が放たれた。
高速回転する光輪は、直進してヴァーリの元へ向っていく。
《なあっ!?》
驚きつつも両腕で頭部を守るが、肩や膝が切り裂かれる。
痛みで、再びごろごろと床を転がるヴァーリ。
「…出せた」
アイトラは、クルシスの輝石がなくとも大樹の内部であれば、自身の想像と創造の力で天使術ですらも行使できることを確信した。
転がるのを止めて、床に突っ伏したまま呼吸で肩を上下させるヴァーリ。
アイトラは、声をかける。
「降参、してくれませんか?」
《あ"あ"っ!?》
ヴァーリは、顔を上げてアイトラを睨みつける。
アイトラは視線に物怖じせずに、尚も平静を保って交渉を続ける。
「私は大樹の内部がどのような状況か、ある程度把握できます。
戦況はこちらが有利で、下の階層にいるあなたの仲間たちはここには来れないでしょう。
もう、降参して頂けないでしょうか」
アイトラの提案を聞いた祭司服の少年は、あの五人が相手をしているのだろうと思いつつもひそひそと尋ねた。
「あの、アイトラ様」
アイトラが少年の方へ耳を傾ける。
「うん?
どうしたの」
「敵と戦っているのが、誰か知ってるんですか?」
少年の言葉を聞いたアイトラの表情が緩む。
「もちろん。
とっても頼りになる人達だよ」
口にする様子からして噓偽りないであろう言葉だが、少年は不審に思った。
何せ、相手はディザイアンだからだ。
「いつ会っていたんですか?」
生前の旅の最中に、あんなインパクトあるメンバーに会った記憶などない。
「新しい大樹が生まれたあと。
色々とお世話になったんだ」
whenが分かっても、howが分からない。
とりあえず、アイトラは五聖刃にお世話になったものと大雑把に少年は捉えた。
(いやいやお世話になったって、どういうこと?)
だが、結局湧き出す疑問。
きっと、天然な彼女のことだからグミでも使って懐柔されたのかもしれない、と思った。
「アイトラ様、グミをもらう相手は選んだ方がいいかと思います」
「グミ?
皆さんには、むしろ私の方からあげたよ?」
少年は更に状況が掴めなくなった。
そうこうしていると、ヴァーリが立ち上がった。
《そうか、あいつら全員負けそうなのかよ。
せっかく一緒に世界を取ろうとしたのによ、残念だぜ。
それと、やっぱ上に行けばゴールなわけだな》
ヴァーリは再び睨みつける。
《俺だけだと何もできねぇから、あんなちゃっちい情けの言葉をくれたのか?
舐められたもんだな。
クロドレが立てた3つのプランはまだ残っているのによ!》
ヴァーリが駆け出すが、今度は2人の元ではなく床に転がっていたうごめく剣と本の方向だった。
ヴァーリが何をしたいのか、少年は察して魔法陣を足元に展開する。
「アイトラ様!
あいつ、剣を呑み込んだら姿が変わったんです。
きっと、もう1本取り込んでさらに強くなろうとしています!!」
「そんな…。
ううん、分かった」
ヴァーリと散乱した荷物の距離は、もう10秒も駆け込むと手に届くほどだ。
アイトラが手を上にかざす。
「ピコハン!」
ヴァーリの頭上から現れた黄色と赤のハンマーが、そのまま頭頂部へと落下する。
《いでぇっ!!》
一度は床に倒れるも、すぐに立ち上がり頭部を押さえながら走るヴァーリ。
少年が魔術を発動する。
「ファイアボール!」
少年の元から放たれたいくつもの火球がヴァーリに迫る。
必死に走るヴァーリ。
荷物への距離はもうすぐそこだった。
少年は、剣は掴めても呑み込む時間は与えないつもりだった。
《うおおおおっ!!》
火球が当たる直前、ヴァーリは飛び込んだ。
手を伸ばして、つかみ取ろうとする。
手の先にあるのは、エクスフィアを埋め込んだ本だった。
一瞬、ヴァーリの姿が消える。
だが、すぐに現れた。
しかし、現れたのはヴァーリ1人ではない。
もう1人が、彼らの元に迫っていた火球を手から放たれた旋回する波動で打ち消す。
その者は、白い羽を広げた金髪で祭司のような姿をしていた。
以前と異なるのは、白い羽には黒い模様が渦巻いている点だ。
アイトラはその人物を見て、驚いていた。
少年も驚きを隠せなかった。
「レミ…エル…」
かつて、少年の命に終わりをもたらした天使が、2人の前に現れた。