イセリア人間牧場奮闘記 before&after   作:あるいてごろりと

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孤独な闘い

【大樹二階層】

~レミエル降臨後~

 

クロドレが事前に立てたプランは3つだ。

プランAは、ソウルイーターのみで大樹に侵攻し、マーテルの肉体を乗っ取り世界を思うがままにする。

プランBは、ソウルイーターだけでは攻略が難しいと判断した場合、自分達が囮にヴァーリを懐に潜り込ませる(事態が早々に収拾つきそうであれば一緒に侵攻する)。

この場合、ヴァーリしか生存もしくは他が侵攻不可であればソウルイーターの力が宿る剣を取り入れて、代わりにマーテルの肉体をヴァーリが乗っとる。

また、ソウルイーターの誰かが生存していた場合、世界の支配権はソウルイーターに譲るがヴァーリにも相当なおいしい思いができるように待遇する(プランAでも待遇は変わらない予定だった)。

そして、プランCはソウルイーターとヴァーリだけでは攻略が難しいと判断した場合、加護の力を与えた既に交渉済みのレミエルを開放するというものだ。

レミエルをエクスフィアの本に閉じていたのは、あくまで最終手段であるためだ。

彼もロイド達に敗れた後、フーディーによって死後魂を食われていた。

ソウルイーターの仲間になったのは、パルマコスタから大樹に向かう途中だった。

仲間になった順番が遅かったため、支配権の優先順位は低い。

(ただし、ヴァーリに関してはクロドレが相当気に入っていたのも大きい)

状況次第では、支配権はレミエルに譲る。

 

 

 

 

△△

 

 

 

 

エクスフィアの本から出てきたレミエルとヴァーリ。

レミエルはヴァーリに声をかける。

 

「私を頼ったということは、大樹の支配権は私がもらってもいいということか?」

《そうだな。

この体になってから、同胞の所在が分かるようになったんだがよ。

ソウルイーターは恐らく全員負け。

俺だけじゃどうにもならない事態だった。

旦那に譲るよ》

 

レミエルは、ヴァーリの肩に手を置く。

 

「そう気を落とすなヴァーリ。

お前にも好待遇を与える約束だろう」

 

ヴァーリはちょっとだけ口を尖らせた。

 

《ちぇ、一番いいのをもらえるのが旦那には変わりないのによ。

調子がいいもんだな》

 

レミエルが口角を上げて笑うと、少年の声が部屋に響いた。

 

「どうしてお前がここにいるんだ!」

 

祭司服の少年が、足元に魔法陣を展開する。

 

「アクアエッジ!」

 

地面の上を滑る3枚の水の刃が、レミエルに向かう。

ヴァーリは転がって避ける。

レミエルは上空へとワープで回避し、ゆっくりと降下した。

 

「私のことを知っているようだが、お前は誰だ」

 

レミエルは本気で尋ねていた。

過去に何度も行われてきた再生の旅だが、劣悪種やそれに同行する者の顔などよっぽどのことがない限り覚えていないためだ。

腹の立った少年がもう一度、術を放とうとするとアイトラが少年の腕を取り止めた。

 

「待って!

闇雲に打っても消費する一方だよ」

「でも、アイトラ様!

あいつ…あいつは…!」

 

少年は、アイトラに話しつつもレミエルに視線を集中させている。

アイトラは、少年の頬に優しく手を添える。

手のひらから体温が頬へ伝わっていく。

びっくりした少年がアイトラの顔を見る。

 

「もう…ようやくこっちを見てくれた」

 

ちょっとだけ不満が混じりつつも心配そうな表情だった。

 

「それは…見ますよ」

 

少年の荒ぶる気持ちが和らいでいく。

アイトラは、頬に添えた手を離す。

 

「落ち着こう。

私、旅の時の失敗を思い出すんだ。

石化したとき、先走ったせいで周りの人に迷惑をかけちゃったなって」

 

アイトラの話は、生前自分が鳥の攻撃によって石にされたときのものである。

後々、祭司達からこってり絞られたのは彼女にとって苦い思い出だ。

 

「2人で出来ることを探そう。

私、もう後悔はしたくないから…」

 

アイトラの懇願するような瞳に少年はたじろぐ。

彼女の言葉は、少年のことを想ってのことも含めている。

それが理解できる以上、反論が出ない。

レミエルへの怒りもさらに鎮火してきていた。

 

「…すみません、俺…」

「謝らないで。

本当は、私が言えることじゃないから」

 

2人は互いに顔を見合わせて頷くと、レミエルの元へ体を向ける。

レミエルは大層退屈そうに腕組みをして2人のことを見ていた。

 

「つまらん茶番は終わりか」

 

アイトラがレミエルに尋ねる。

 

「…レミエル様。

いえ、レミエル。

あなたが何故ここにいるのでしょうか」

 

レミエルは呆れたような表情をしていた。

 

「何故だと?

この状況が見て分からないのか。

大樹を制圧し、マナを操り世界をこの手に治めるために決まっているだろう」

 

次第に、レミエルの表情が険しくなっていく。

 

「それに私が救いを求めたにも関わらず、非情な言葉を吐いてきたクラトス・アウリオン!

あの劣悪種贔屓の男にも、世界のマナ不足で苦しむ人間をたっぷりと見せつけて後悔させてやるのだ!」

 

クラトスがデリス・カーラーンにいることをレミエルは知らない。

だが、マナ不足は貧困にあえぐ民を増やしてしまうため看過できない問題だ。

 

《おいおい、レミエルの旦那。

一応、俺も人間だぜ》

 

レミエルはヴァーリの姿を見る。

額からは2本の角が伸びており、鋭い牙が生え揃え、爬虫類のような目をしている。

 

「…前の姿なら悪かったと謝罪するが、今はどう見ても人間のものでは無いだろう」

《まぁ、それもそうだな》

 

レミエルはじっくりとアイトラのことを観察し、誰であるか気が付いた。

 

「…そうか。

お前は神子アイトラか。

よく覚えているぞ。

器にもなれず哀れに散った出来損ないの姿をな」

 

レミエルは、含みのある笑いを見せた。

 

「レミエル!!」

 

少年が挑発に再び怒りが心頭しそうになるが、アイトラが手で制する。

 

「大丈夫だから」

 

そう言ったアイトラは少年のことを優しい目で見ていた。

少年が落ち着くのを見ると、レミエルへ振り返る。

 

「今の私はマーテル様よりこの場を任されています。

…引く気はないのですね」

「ふははははっ!

当然だろう!

私は気付いたのだ。

4大天使すら、かすむほどの存在になれる己の力量にな。

いやはや、導き手をしていた頃の私は若かった。

何より、世界のマナを支配できるチャンスを逃すはずがないだろう」

 

このとき、ヴァーリが床に落ちているうごめく剣を拾おうとしているのが少年の視界に入った。

足元に魔法陣を展開する。

 

「ストーンブラスト!」

 

地面から急上昇する数個の石の礫により、うごめく剣が弾かれ床の上を転がっていく。

 

《チッ!

あのガキ!》

 

舌打ちをしつつ、少年の姿を見たヴァーリはぎょっとした。

なにせ、次の魔術を放つ準備をすでにしていたからだ。

 

「ライトニング!」

 

少年は、追撃で雷の術をヴァーリに当てる。

 

《ぐおうッ!?》

 

ヴァーリは膝をつき、視界がぐらついたのか額に手を添えていた。

 

「アイトラ様!

あいつの邪魔をしてきます!」

 

ヴァーリの強化は見過ごせないからだ。

アイトラは少年の言葉に頷く。

 

「分かった。

無理な深追いはしないでね」

 

少年は、ヴァーリの元へ駆け出す。

そんな様子をちらりと見ていたレミエルは、やれやれと言わんばかりの表情で弓と矢を顕現させる。

弓をつがえて少年に向けて矢を引き絞る。

 

「ピコハン!」

 

声がすると、レミエルの頭上に影が突然現れる。

赤と黄色のハンマーで、アイトラが技を仕掛けていた。

レミエルは、ワープで1mほど移動し回避する。

アイトラはレミエルに向き合う。

 

「させません!」

「神子アイトラよ。

今も昔もお前などに用はない。

消え去るがいい!」

 

アイトラに向けて、3本の光の矢が放たれる。

彼女は、両手を前に伸ばす。

 

「レデュース・ダメージ!」

 

アイトラが淡緑色の光の球体に包まれた。

3本の矢は、光の球体の膜に突き当たるが破れずにいずれも床に落ちていく。

アイトラは、すぐに天使術の詠唱を始める。

 

「その御名の下、この穢れた魂に裁きの光を降らせたまえ」

 

レミエルはワープを使いアイトラの背後に回ろうかと考えていたが、詠唱を聞いて中止する。

 

(これは…離れた方がいいな。

あの小娘、見かけによらずいきなり豪快なことをする)

 

詠唱中、アイトラは少年のことを見る。

ヴァーリを追いかけており、距離は離れつつある。

安全の確認後、術の名を言い行使する。

 

「ジャッジメント!!」

 

遥か頭上より現れた裁きの光が、アイトラの周囲に降り注ぐ。

光の数は20を超え、落下速度は目にも止まらぬほどだった。

落下地点では、光が水飛沫のように飛散している。

レミエルは範囲外にワープして回避していた。

 

「まるでじゃじゃ馬だな」

 

レミエルが嘆息しながら口にする。

天使術による攻撃を終えたアイトラは、レミエルの言葉に返すようにして静かに話す。

 

「私、怒っているんです。

あなたが、あの子を傷つけたこと」

 

少年は、走りながら背後を見て驚く。

 

(アイトラ様って、あんなすごい術いつの間に使えるようになったの!?)

 

どの神子にしても天使術『ジャッジメント』を習得できるのは、救いの塔に行き心と記憶を捧げてからである。

アイトラは、救いの塔で祝福を受ける前に少年の手によって祭壇を離れている。

それでも強力な天使術を行使できるのは、同化の影響だ。

歴代の神子の中にも『ジャッジメント』を習得した者がおり、その者達と記憶と知識を共有していたアイトラは大樹の内部であれば生前習得していない術でも発動が可能だった。

戦っているのはアイトラだけではない。

彼女の戦いを支えているのは、約800年にも及ぶ旅を引き継いできた歴代の神子達だ。

クルシスによって、器となるべく強制的に人生を捧げなければならなかった少女達全員の戦いでもあるのだ。

ワープ先でレミエルが再び光の矢を放つが、アイトラは再び淡緑色の光の球体でガードする。

矢を防ぐと、アイトラは詠唱を始める。

 

一方、少年はヴァーリを追いかけている真っ最中だった。

 

《ようやくだぜ!》

 

ヴァーリがうごめく剣のすぐ近くまで着いており、手を伸ばしていた。

少年が狙いを定めて術を行使する。

 

「アイシクル!」

 

うごめく剣が氷塊のなかに埋もれてしまう。

 

《なぁっ!?》

 

ヴァーリは氷塊に抱きつくが剣は氷の向こう側にあり届かない。

 

《ち、ちくしょう!!》

「こっちも急いでるから、大人しくしといてよ」

 

少年は『ライトニング』を放ち、食らったヴァーリは床に倒れる。

氷塊に手を伸ばし、いまだに剣に執着していた。

しかし、どうにもならない。

ヴァーリが歯がゆそうにしている姿を見た少年は、アイトラのサポートをするべく彼女の元に駆け寄る。

 

「アイトラ様!

手伝います!」

 

アイトラは少年の姿を見ると、安堵する。

 

「ありがとう。

あの人、消えたと思ったらパッと離れた所に現れるから困っていたの。

だから、背中をお願い!」

「分かりました!」

 

アイトラと少年は背中合わせになる。

狙いはレミエルのワープ対策だった。

視界から外れて、見つけるのが遅くなると攻撃を受けてしまう危険性がある。

そのため、2人が背中合わせになることで視界を広くして対応しやすくしたのだ。

アイトラは、天井へ手を伸ばして掲げる。

 

「ピコレイン!」

 

レミエルの頭上より多数のハンマーが現出して落下してくる。

上を見上げてアイトラの攻撃を目視すると、レミエルは回避のためにすぐにワープして彼女達の背後を取る。

移動先で矢を番うレミエルの姿は、少年の視界に入っていた。

 

「アイトラ様、後ろです!」

 

言いながら少年は、足元に魔法陣を展開する。

レミエルが矢を放つ直前、アイトラは振り返り『レデュース・ダメージ』で防御態勢を取った。

放たれた3本の矢は、2人を包む淡緑色の光の膜で防がれる。

 

「ファイアボール!」

 

少年が火球を放つ。

レミエルは、インターバルによりワープがまだ使えない。

手から旋回する波動を放ち、火球を打ち消した。

霧散する火の粉を手で払う。

 

「無駄なことを…。

んっ!?」

 

このとき、レミエルの目には何かを投擲したあとのようなアイトラの態勢が目に入った。

今までの彼女の技のことを思い出して、天井を見るとハンマーがあった。

そのハンマーは、電気を帯びている。

 

(今までとは少し違うな…。

だが、落下速度が遅いことには変わりない)

 

避けるのには容易くワープを使う必要性も感じ得なかった。

レミエルがアイトラ達を見ると、少年が足元に魔法陣を展開していた。

しかし、少年の魔術も脅威ではない。

 

(ハンマーを避け、魔術を防げばそろそろ移動できる。

背後に飛んで、今度はあの一帯ごと消し飛ばすか)

 

そう思っていた矢先、アイトラが口にした。

 

「出でよ!

雷撃の槌!」

 

少年が魔術を唱える。

 

「ライトニング!」

 

少年が唱えた魔術は初級の術に過ぎない。

レミエルは、波動を頭上に向けて放ち打ち消す準備をする。

だが、上空より現れた電撃はレミエルではなくアイトラが投擲した電気を帯びたハンマーに落下した。

電撃を受けたハンマーが、レミエル目掛けて高速で急降下してくる。

レミエルの顔にやや焦りの色が浮かぶ。

威力が予想できず、波動で相殺できるかが分からなかったためだ。

加速したハンマーが落下を終えると、電撃の高熱により空気が膨張し周囲に衝撃波が発生する。

熱風が吹きすさび、アイトラと少年は腕で顔を覆っていた。

2人の複合特技『ミョルニル』によって巻き上げられた砂ぼこりにより、少しの間視界が悪くなるが、やがてそこいる者の姿が鮮明になっていく。

少年は、そこにいるものを見て驚愕する。

紫色の3mはある巨岩のような生物が、レミエルのいた場所に存在していたからだ。

よく見ると、コウモリのような羽が包み込むような形をしている。

羽を広げると、中から先程よりも異形と化したヴァーリが姿を現す。

体色は紫で、背丈は倍近く大きくなっている。

爬虫類のような目は、瞳孔が微かに分かる程度に全体的に赤黒く変化していた。

中心にはレミエルもいる。

どうやらヴァーリが、羽で包んでレミエルを守ったようだ。

 

(いつの間に…!)

 

少年がハッとして振り返ると、当然ヴァーリはいない上に氷塊がえぐられてうごめく剣の姿が無くなっていた。

ヴァーリの口元を見ると、もごもごしており氷の粒が口からこぼれ落ちていく。

 

「あいつ…氷ごと食べたのか…」

 

レミエルはフンと鼻を鳴らし、ヴァーリを見る。

 

「…助かったぞ。

更なる好待遇を約束しよう」

《へっ、まあ良いってことよ。

それよりよ…》

 

雷撃の攻撃を防いだためか、ヴァーリの体からは湯気が立っていた。

 

《まぁまぁ、いてえじゃねぇか!》

 

しかし、言葉とは裏腹に大きなダメージを受けた様子もなく、黒々とした目でアイトラと少年のことを見る。

ニヤリと笑うヴァーリ。

 

《ハッ!

やはり、ガキか!

詰めがあめんだよ!

そして、その判断がお前らの命を終わりにさせちまった。

さっきよりも力が湧いて止まらねぇ!!

早く試させろォ!》

 

高揚するヴァーリが、腕を振るうと空間に裂け目が2つ出来る。

1つはヴァーリの前、もう一つは少年の前だった。

ヴァーリが腕を目の前の空間の裂け目に突っ込むと、少年の前に現れた裂け目から腕が伸びてくる。

 

「がはっ…!」

 

ヴァーリの腕は少年の腹部を殴りつけた。

少年の体は床を転がっていく。

 

「うっ…」

 

腹部で波打つ痛みのせいで、少年は起き上がれないでいた。

レミエルが弓をつがえて、少年に向け放つ。

すると、アイトラが少年の前に立ち防御技を発動する。

 

「レデュース・ダメージ!」

 

淡緑色の光で矢を防ぐが、レミエルは余裕の表情だった。

 

「愚かなことをしたな。

先ほどから見て分かったが、その技…せいぜい数秒が維持する限界なのだろう?」

 

アイトラの頬に汗が流れる。

図星だった。

レミエルはワープして彼女の前に立つ。

 

「もう他の選択肢は与えんぞ!!」

 

レミエルの足元に青白く光る文様を描いた陣を展開する。

陣からは、文様と同じような青白い色をした多数の羽が舞い上がっていく。

 

「ジャッジメント・レイ!!」

 

レミエルの周囲に幾本もの光が矢のように降り注ぐ。

アイトラは上空からの攻撃のため、倒れる少年のほぼ真上にまで近寄って耐えていた。

 

「っ…!」

 

光の矢の猛攻が収まると、レミエルの周囲の元は綺麗な石畳だった地面は荒れ果てた状態へと変わっていた。

アイトラは何とか防ぎ切ったが、すでにシールドの膜は消失していた。

 

「はっ…はっ…!」

 

呼吸も荒く、ギリギリだったことが見て取れる。

レミエルは、その時が来るのを待っていた。

アイトラの表情に恐怖の色がにじみ出る。

 

「選択肢が無いのは辛いだろう。

まるで、世界再生の旅と同じだな。

生き方すら選べぬ愚かな娘よ!」

 

レミエルは腕を旋回して波動でアイトラを吹き飛ばす。

アイトラは、側面の壁まで吹き飛び体を打ち付ける。

 

「あぁっ!」 

 

後頭部を壁に打ち、床に倒れると動かなくなる。

脳震盪を起こし、気絶したのだ。

少年も床で呻いている。

ヴァーリが口笛を吹く。

 

《終わったな、レミエルの旦那》

「そうだな…ん?」

 

勝利の余韻に浸る間はわずかである。

一階層より階段を上がった者が、姿を見せたからだ。

眼帯をつけ、左腕に魔導銃をはめたフォシテスである。

時間はかかったが、レイジネスによって変えられた空間をマーテルが無事元に戻すことができていた。

フォシテスは、ヴァーリ達を見たあと床に倒れている少年を見つける。

さらには、そばで倒れている少女を見て動揺する。

 

「あれは…アイトラ!?」

 

二階層の入口よりフォシテスは、彼女の元へ駆けよろうとする。

だが、ヴァーリとレミエルが反応する。

 

《邪魔してもいい奴だな!

なあ、旦那よぉ!》

「そのようだ」

 

ヴァーリが腕を振り、空間に裂け目を2つ作る。

1つはフォシテスの前、もう一つはヴァーリの前に現れた。

ヴァーリが腕を裂け目の中に突っ込み、フォシテスの前に現れた裂け目から腕が伸びて殴りかかる。

だが、フォシテスは魔導銃でヴァーリの拳を防いだ。

 

《野郎ぉ!》

 

悔しがるヴァーリは、もう一度腕を振るう。

そのすぐあと、レミエルがフォシテスの目の前にワープする。

ガードしていた魔導銃に手を添えて、そっと押し込んだ。

 

(なにを…)

 

フォシテスが数歩後退する。

レミエルがやったことは、相手からするとリアクションが取りずらい攻撃とも呼べない殺意の無い行動だ。

だが、フォシテスの背後には空間の裂け目が出来ていた。

ヴァーリが先ほど腕を振るったときに作り出したものだ。

空間の裂け目にフォシテスの体が入り込む瞬間、一瞬目の合ったレミエルは背中がぞくりと感じた。

何か仕掛けてくる、そう思った途端に風の刃がレミエル目掛けて飛んでくる。

 

「くっ!!」

 

レミエルは、上体を逸らして何とか回避しようと努める。

風の刃はレミエルの頬をわずかに切り裂き、背後に飛んでいく。

ずっと後ろにいたヴァーリが直撃を食らう。

肩から血を流すヴァーリ。

 

《いってぇじゃねぇか!!

かなり頑丈なこの体じゃなきゃ、死んでたぞ!》

 

文句を言うヴァーリを尻目に、レミエルは頬を拭い手に付着した血を眺める。

その後、フォシテスが放り込まれた空間の裂け目を見てヴァーリに問う。

 

「ヴァーリ。

あの男はどこにやった?」

《この大樹の別の部屋だよ。

旦那が来る前にざっと見たから裂け目を繋げられたんだ》

 

空間の裂け目を作るには、移動先を一度視認する必要がある。

ヴァーリは、クロドレが作った裂け目から右の一階層を覗いていたため空間を繋げることができた。

 

《にしてもさっきの野郎、強そうだったな!

…面白れぇ!》

 

ヴァーリは力を手に入れて、気分が高揚していた。

 

《旦那、俺は奴の元へ行って来るぜ!

戦いたくてうずうずしてんだ!

おっと、その前に…》

 

ヴァーリが手を頭上に掲げると、アイトラと少年の上に緑と黄のハンマーがそれぞれ現れた。

落下し、ハンマーの振るわれた2人の体が床を転がる。

少年だけがうめき声をあげた。

レミエルは、愉快そうにその様子を眺めていた。

 

「念の為か。

感心だな。

いいだろう、行って来い。

私はマーテルを片付けておく」

 

ヴァーリは空間に裂け目を作る。

 

《あとで落ち合おうぜ》

 

裂け目にヴァーリが入っていくのを見届けると、空間が一気に静かになった。

レミエルは三階層に繋がっている木製の扉を見る。

ヴァーリの言葉の通り、上へ行ってマーテルを探そうと決める。

わずかに浮いたまま進んで行くと、やがて木製の扉が目の前の所まできた。

ドアノブなど使わず、光の波動をぶつけて扉を破壊した。

すると、背後から砂利をこするような音が聞こえ、振り向くと少年が立ち上がりつつあった。

足元に魔法陣を展開し、火球を放ってくる。

レミエルは、嘆息する。

 

「無駄なあがきはよせ。

お前にできることなど高が知れている」

 

手から旋回する波動を火球に当てて消滅させる。

レミエルは、もはや相手に対しての危機感など無いのかゆっくりと少年の元へと進みだした。

少年が腹部を抑えながら、息を何とか整えようとする。

考えるのは現状やらなければならないことだ。

 

(あいつをこのまま行かせちゃ絶対に駄目だ!)

 

マーテルを人質にでも取られれば、もう抵抗すらできない。

そもそも人質に取るまでもなく、殺める可能性だってある。

近づけることはリスクしか無い。

少年は自分だけではレミエルを倒す力など無いことを察する。

実力差だけでなく、腹部から絶え間なく激痛が走っているのだ。

先程のヴァーリの攻撃が相当応えていた。

 

(だけど、まだディザイアンの人達がいる)

 

アイトラは、五聖刃側が優勢である事を話していた。

レミエルを少しでも二階層にとどめておけば、下の階から来るかもしれない。

少年は、もはやディザイアンに頼るしかないと判断した。

 

(逃げ回ってでもいい。

こいつの思い通りにはさせない!

俺が死んでも食い止める!!)

 

少年は、少しでも時間稼ぎをしようと決意し、足元に魔法陣を展開する。

 

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