イセリア人間牧場奮闘記 before&after   作:あるいてごろりと

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決着

【大樹二階層】

 

 

長男祭司と次男祭司が足元に魔法陣を展開して、術を行使する。

 

「フィールドバリアー!」

「アグリゲットシャープ!」

 

少年を含めた五人の身体を二種類の光が包み込む。

 

「それ以上はさせんぞ!」

 

レミエルが並び立つ三男祭司と四男祭司の前にワープして、旋回する波動をぶつけて吹き飛ばす。

2人とも壁に叩きつけられるが、『フィールドバリアー』の効果をすでに得て耐久力が向上していた。

そのため、レミエルの攻撃も一撃には及ばず、よろよろとではあるが立ち上がる。

 

(忌々しい!

前回こいつらと戦った時を嫌でも思い出す!)

 

苦々しく思っていると、背後から声が聞こえた。

 

「ファイアボール!」

 

すぐそばにいた少年が初級魔術を発動する。

レミエルは振り返り、旋回する波動を火球にぶつける。

 

「ぐっ!」

 

うめき声をあげたのはレミエルだった。

手を見ると、火傷を負っている。

『アグリゲットシャープ』の術を受けた少年の魔術は、完全には相殺しきれないほど威力が上がっていたのだ。

手傷を負うレミエルの様子を少年は見る。

 

(これなら…俺の術でも通用する!)

 

少年は、隣にいる長男祭司と次男祭司をちらりと見る。

彼らはさらに足元に魔法陣を展開している。

長男祭司と次男祭司が術を発動する。

 

「フォトン!」

「レイ!」

 

2人の祭司の術が発動する直前までに、レミエルは弓矢を番えていた。

 

「おのれ!」

 

レミエルは攻撃魔術をワープで回避し、長男祭司と次男祭司の背後に周り三本の矢を放つ。

振り返るときに一本は通り過ぎたが、二人は腕や足に矢を受けてしまう。

だが、やはり『フィールドバリアー』の効果のため大きなダメージは無かった。

 

「祭司様っ!!」

 

少年が長男祭司と次男祭司に心配そうな声をかけるが、長男祭司は手で制す。

 

「問題ないわい。

あやつを見ておれ」

 

2人の祭司は、各々刺さった矢を痛みにこらえながらも引き抜く。

その間、奥にいる三男祭司が魔法陣を展開して『レイ』を放つ。

レミエルは三男祭司に背を向けていたが、すぐに飛行して出現した光球から距離を置き躱した。

少年は、その動きを見て疑問に思う。

 

「あいつ…どうして奥の祭司様の攻撃に気づけたんだろう」

 

隣にいる長男祭司が答える。

 

「耳が良いのかもしれぬ。

クルシスの輝石を身につけると、身体能力が向上するからのう」

 

足元に魔方陣を展開しつつ、少年は生前のことを思い出す。

かつて少年が両親の死に苦しみ天幕で叫んでいたとき、アイトラは素早く駆けつけていた。

他の祭司達が来なかったのは、少年がハーフエルフだからではなく声が聞こえず単に眠っていただけだった。

 

(じゃあ、あの時のアイトラ様も…)

 

三男祭司の近くにいる四男祭司が『ハートレスサークル』を発動して、長男祭司と次男祭司の回復をしていた。

さらに、長男祭司がレミエルを牽制しつつ次男祭司は三男祭司と四男祭司に向けて回復を行う。

優勢とも言える状態の中、レミエルがワープをした。

転移先は倒れたアイトラのはるか上、2階層の高い天井近くである。

真下に向けて弓を引いていた。

 

「前回と同様、貴様らの弱点は小娘だろう!」

 

放たれた矢は真っ直ぐアイトラに向っていく。

近くには少年・長男祭司・次男祭司がいる。

だが、老人は反応が遅れていた。

少年が駆け出す。

 

「ぐあぁっ!」

 

少年はアイトラを覆うようにしてかばい、三本の矢を背中で受けた。

耐久力を上げているとはいえ、三本も刺さるとダメージも大きい。

長男祭司が矢を引き抜くために少年の元へ行き、次男祭司が回復のため魔術を行使しようとする。

レミエルは攻撃魔術を行使しようとする三男祭司の前にワープし光の波動で吹き飛ばす。

さらに、近くにいた術の行使前の四男祭司に光の矢を放ち、術を強制的にキャンセルさせる。

 

レミエルは、振り返りすぐに真下に魔法陣を展開する。

狙いは回復魔術を行使しようとする次男祭司だった。

前回の戦いの時と同様、『ホーリーランス』で1人沈めてから徐々に戦力を削っていく予定だ。

だが、発動前に火球が飛んできた。

 

「くっ!」

 

レミエルは術をキャンセルして、飛行で回避する。

見ると、少年が背中から血を流しつつもレミエルに杖を向けていた。

長男祭司が矢を引き抜きつつも、激励する。

 

「ナイスじゃあ!」

 

次男祭司が回復魔術を行使しようとすると、少年が指示を出した。

 

「奥の祭司様達に使って!」

 

次男祭司は躊躇したが、三男祭司や四男祭司に向って『ハートレスサークル』を行使した。

回復し、威勢よく立ち上がる老人2人が真下に魔法陣を展開する。

次男祭司が少年が出した指示の意味を理解した。

 

(自分の治療よりも攻撃の手数を増やすことを優先したのじゃな。

無茶をするわい)

 

少年は、矢を引き抜き終えた長男祭司からの治療を待ちつつも術を行使する。

 

「アクアエッジ!」

 

三枚の水の刃がレミエルに向っていく。

レミエルは、飛行して回避する。

すぐに三男祭司が魔術を発動する。

 

「レイ!」

 

飛行での移動先を読まれた位置に光球が出現する。

 

(回避するしかないが。

だが、次の手は…!)

 

光線をワープして回避するが、四男祭司が追い打ちをかけてきた。

 

「フォトン!」

 

収束して弾ける光の攻撃魔術を受けたレミエル。

 

「ごふっ!」

 

そのまま、白目を剥き地面へと落下していく。

よろよろと立ち上がるが、帽子が取れて服もボロボロであった。

拳を握りしめるレミエル。

 

(邪魔な奴らだ…。

こうなったら、まとめて消すか。

こいつらだけではなく、な)

 

レミエルの姿が消えた。

五人は辺りを見回すが見つからない。

やがて、見上げた少年がその姿を目にする。

 

「上だ!」

 

レミエルは、二階層の天井部近くにいた。

すでにレミエルは技を進めており、足元に青白く光る文様を描いた陣を展開する。

陣からは、文様と同じような青白く透き通った多数の羽が舞い上がっていく。

祭司達が魔法陣を展開するよりも早く、攻撃が始まる。

 

「ジャッジメント・レイ!」

 

レミエルの周囲より幾数本もの光が真下へと降り注ごうとしていた。

少年はアイトラのそばへかけて行き、祭司達は蜘蛛の子散らすように逃げていく。

光が矢のように落下していくが、彼らは運良く被弾することを避けることができた。

少年と祭司達が回避に専念していた最中、足元に魔法陣を展開し続けていたレミエルは次の術を発動する。

レミエルの頭上に光の玉が出現する。

 

行使した魔術名は、『レイ』。

光の玉から、足元や周囲に光線を発射する威力の高い技である。

祭司達も知っているため、再び身構える。

だが、今回の光の玉は逆向きに光線を発射した。

逆向き、すなわち天井部目掛けて光線が射出されていく。

 

「しまった!

上にはマーテル様がっ!!」

 

少年の声を聞いた祭司達が、レミエルの意図を理解するが無慈悲な攻撃は止まない。

1本の光線ですら、天井部に簡単に穴を開けるほどであった。

4人の兄弟祭司達では、再現できない程の威力である。

穴の数は、次々と射出された光線に比例して増していく。

天井部の穴はきれいにぽっかり開き、最後に真上へ光線が射出されたときには天井全体に対して均等に穴が9つ出来ていた。

 

「仕上げだっ!!」

 

レミエルが天井目掛けて光の波動をまとった拳をぶち当てた。

拳を当てた箇所にヒビが入り始めると、一気に広がり始める。

『レイ』で開けた穴も、レミエルの作戦をより効率良く実現するためのものであった。

少年と祭司達が、これから起こる事を察して唖然とする。

 

「これはまずいわい…」

 

やがて、2階層を覆っていた天井部は全体にヒビが入り切った。

そして、崩壊が始まる。

瓦礫と化した天井部が音を立て、少年や祭司達目掛けて落下していく。

一つ一つの塊が、人間1人を簡単に圧死させるような大きさであった。

レミエルはすぐにワープして瓦礫より高い位置に避難していた。

瓦礫とは別に、落下中の大小の植物が紛れ込む。

また、ベッドやイスに布類といった生活感のあるものも降ってくる。

少年は、アイトラの体を自身で覆いかぶさり守ろうとする。

やがて二階層の床へと到達した1つの塊が生み出す音を皮切りに、続々と命を崩壊させるような音の濁流が響き渡っていく。

室内をうねり、攪拌する轟音を誰も止めることなどできない。

祭司達からは、瓦礫の落下する音に紛れて唸るような声が上がっていた。

数mの高さから落下した大きな瓦礫が崩れて砂ぼこりが舞い上がり、周囲を瞬時に灰色へと染め上げていく。

色彩が失われる様子は、まるで希望が塗りつぶされていくようでもあった。

やがて、室内を満たす砂ぼこりの中から少年の咳き込む音が響く。

 

「げほっ、げほっ」

 

少年は、徐々に開けていく視界の中で真下で覆うアイトラの様子を窺う。

たまたま瓦礫の落下地点を避けれていたようで、かばった少年同様に怪我をしていない。

辺りを見回すと少年の背丈よりも高い瓦礫だらけで、先ほどまでの殺風景な室内の様子から大きく変わっていた。

頭上にあったはずの天井は吹き抜けてしまっており、3階層と思われる高い位置の側面の壁には植物が生えているのが分かった。

 

(これじゃ、マーテル様は…。

いや、まだ決まったわけじゃない)

 

会ったことも無いマーテルの安否確認をしないとと思いつつも、味方になってくれた老人祭司達のことも探す。

 

「祭司様!

マーテル様!」

 

少年は立ち上がり、呼びかけるが何も聞こえない。

誰一人として返事はなかった。

最悪の事態が頭を巡り、少年の顔が強張っていく。

上空からレミエルがゆっくりと中心に降り立った。

 

「さて、マーテルの姿が見えないがどこに隠れた?」

 

辺りを見回すと、少年と目が合った。

だが、優先順位が低いようでまた違う箇所に視線を移す。

すぐに目に映らない女性を探すことを面倒に思ったレミエルは、ふぅと息を吐く。

 

「今度は瓦礫一帯を消し飛ばすか」

 

少年の呼吸が早くなる。

震える膝を叩き、気持ちを何とか固めようとする。

 

(俺が…俺がやらないとっ!)

 

アイトラに危害が及ばないように前へ歩を進める。

数m進むと、他所を見ていたはずのレミエルが少年のことを見据え目の前にワープしてきた。

光の波動が迫ってくるのが見えて、少年は横方向へ飛び込みながら杖を盾にする。

杖は波動に当たると砕けた。

杖を盾にすることで威力をやや殺すことはできたが、吹き飛ばされた少年は床の上を転がり、大きな瓦礫に体をぶつけた。

 

「うぐっ!」

 

杖は魔術の威力を高めるのに必要な物だ。

今度は『ファイアーボール』で攻撃しても火傷すら与えられないだろうと、少年は察した。

祭司達の補助魔術もすでに効力が切れているのも大きい。

レミエルも理解しているようで余裕の表情が見て取れる。

それでも少年は立ち上がる。

わずかに移動すると少しだけ振り返り、背後には自身の背丈よりも高い瓦礫があることを確認してからレミエルのことを見る。

その目に灯る光は消えていない。

訝しむレミエルは、少年に問いかける。

 

「何故立つ。

まだ、神子アイトラのことを守れると思っているのか?」

 

肩で息をするままの少年の無反応ぶりを見て、レミエルは嘆息する。

 

「私は数百年、昇進を夢見てひたすら業務をこなしてきたが、かなうことは終ぞなかった。

努力が報われないことだってある。

己の道が1つだけだと思うな。

現に、私は新しい道を求めた」

 

死んでやり直す機会が与えられたレミエルは、クルシスへの執着を捨てた。

四大天使という高みに登ろうとして諦めたのだが、今の方が彼にとって充足感に満ちている。

数百年ごまをすってでも得ようとしていた地位は、クルシスから離れることで以前よりも矮小な物に感じていた。

クルシスの旅の案内人という安全かつ安定性の高い業務をこなすよりも、野心を持ち戦士として振る舞う方が性に合っていたのだろう。

今までの自分は井の中の蛙であったと、レミエルは痛感していたのだ。

 

「古いものに拘るな。

小娘のことならあきらめて、この世でもさまよっていろ。

私もわざわざ子どもの魂1つをつけ狙うような馬鹿な真似はしない」

 

もはや、敵とすら見ていないような言葉である。

実際、先程の一対一の戦いでは全く敵わなかった。

 

「…アイトラ様はどうなるの?」

 

少年の質問にレミエルは鼻で笑う。

 

「今の小娘は、大樹の精霊の一部と聞いている。

これから世界を統べる私にとって邪魔な存在よ。

死んでもらう他無いだろう」

 

レミエルの話を聞き終えた少年は、折れた杖の先端を拾う。

 

「アイトラ様を消そうとする奴の言う事なんか聞かないよ。

俺の魂がここにある限り、諦めない。

…一度は、全てを失った」

 

両親もアイトラも、そして自分自身という命も、70年前に無くしてしまった。

 

「でも、また会えた。

今度こそ、恩を返さなきゃいけないんだ」

 

少年は、その機会は今しかないと考えている。

自身が大樹にいる理由は、生前果たせなかった想いを叶えるためだと悟った。

 

「いくら語ろうが、結果をなし得なければ無意味だろう。

あがくなら、もう少し力を身に着けるべきだったな。

さて、貴様は後だ。

まずは、邪魔な老人達が生きているか確認させてもらおうか」

 

言いつつその場から動かないレミエルを見て、少年は瞬時に思考する。

 

(あいつやっぱり耳が良いんだ。

でも、さっきの瓦礫の落下音は凄まじかったけど影響は無いのか。

もしかしたら…)

 

『クルシスの輝石』による身体能力の向上について、仮設が出始めるとすぐさま足元に魔法陣を展開する。

少年は、出の早い初級魔術を唱えた。

 

「ライトニング!」

 

レミエルの頭上から雷が落ちてくるが、少年の動きで攻撃を理解していたレミエルはワープして回避する。

 

「せっかちなやつだ!

あとにしてやろうと思っていたのだがな」

 

ワープ先は少年の目の前だった。

レミエルが光の波動をぶつけようとすると、少年が同じタイミングで杖の先端を突き出してきた。

少年の背後には大きな瓦礫があり、そこへワープ出来ないことは少年には把握出来ている。

視界に入る範囲で攻撃してくると予想出来ていれば、あとは遠距離か近距離かの二択。

即対応が必要な近距離攻撃に優先して備え、偶然にもレミエルが少年の予想通りに動いてくれた。

あとは、杖の先端を突き立てるだけだ。

 

「お前が剣士であれば、違ったかもな」

 

だが、レミエルは戦闘経験の少なくない戦士である。

少年が突き出した杖の先端を握りしめていた。

そのまま杖を引っ張り、少年の体ごと放り投げる。

床に体を打ち付けて倒れたままの少年に向けて、レミエルは顕現した弓をひきしぼる。

 

矢が放たれると、少年は起き上がることを諦めた。

レミエルを見て魔法陣を展開する。

片手は頭部の前に立てて、1本の矢がそのまま腕へ突き刺さる。

 

「うぁっ…!」

 

少年は倒れていたため的が小さく、残り2本の矢は床に刺さった。

 

「ライトニング!」

 

痛みにこらえながらも、少年は術を発動する。

レミエルは、頭上から降る雷をすぐさまワープで回避する。

雷は轟音を立てながら床へと落下した。

 

(先ほどから騒々しい術ばかりを使いおって…!)

 

レミエルのワープ先は、再び少年の目の前。

少年の頭部を蹴り上げようとするが、少年は矢の刺さった腕に当てさせる。

しかし、威力を殺すことが出来ず、少年の体は吹き飛ばされた。

床に身を打ち付けたが、少年はまだ諦めない。

倒れたまま、魔法陣を展開する。

 

「ライトニング!!」

 

レミエルは、ワープして回避する。

今度は、少年から少し距離を置いた座標にいた。

レミエルはイラついていた。

倒れたまま術を連発するとは思わず、老人達を探すために聴覚機能を上げた矢先に耳の近くで雷の音を聞いてしまったのだ。

『ライトニング』がよほどうるさかったのか、片耳を手のひらで押さえている。

甲高い音が耳の中で走り回る。

 

本物の雷ほどではないにせよ、魔術による雷の衝撃音も聴覚機能を上げれば鼓膜に響く音圧レベルのものであることに変わりない。

先程のレミエルにとって、雷の魔術は普通の人間以上に不快な音だったのだ。

レミエルは、念のため再び聴覚機能を低く調整する。

 

「ここまでしつこいとはな。

諦めの悪さだけは敬意を表する」

「あんたに褒められても嬉しくない」

 

少年は立ち上がり、杖の先端をレミエルに向けて投げつけてすぐに駆けだした。

レミエルはため息交じりに杖の先端を手の甲で弾く。

足元に魔法陣を展開し、術を発動する。

光る玉が駆け出す少年のすぐ後ろに現れた。

斜め下に射出された光線が、少年の背中から胸を貫通する。

 

「がはっ!!」

 

立ち止まる少年の胸には風穴が空く。

口から血を垂らす。

生前と同じ、命が終わりを迎えるような一撃だった。

だが、膝をつく前に少年の体が光に包まれる。

 

みるみるうちに胸の穴が塞がっていく。

驚いた様子のレミエル。

脇を見ると、長男祭司が遠くの瓦礫から這いずり出て少年へと杖を向けていた。

無理に出てきたのか、腕や身体はボロボロである。

 

少年は、祭司達が一人でも生きていることを願いながら戦っていた。

そのため、レミエルに彼らの存在が察知されないよう聴覚機能を上げないよう努めていたのだ。

一対一では敵わない相手であることは分かっていたため、少年は祭司達が動けるまで粘り強く戦った。

 

レミエルは長男祭司を狙い足元に魔法陣を展開しつつ聴覚機能を上げるが、背後で老人の足音を聞いた。

聞こえる声の距離は、もうすぐそこだった。

 

「今じゃ!」

「なんなら、ワシらごとでもやるんじゃ!」

 

背後から飛びついた三男祭司と四男祭司がレミエルの腕をそれぞれボロボロの腕で拘束する。

 

「ええい!

離れろ!!」

 

レミエルは身体を旋回させて、2人の祭司を吹き飛ばす。

旋回中、離れた瓦礫の上に立つ次男祭司が足元に魔法陣を展開しているのが目についた。

そちらを向いて弓をひきしぼり、矢を放つ。

次男祭司は、術をキャンセルして杖と腕で頭部や身体を守った。

三本の矢が腕や足に突き刺さり、次男祭司が倒れる。

レミエルが振り返ったとき、少年が駆け出してくるのが見えた。

胸の祭司服はぽっかり穴が空いているが、中の素肌には傷一つ無い。

手にはナイフを持っている。

 

(刃物を扱えるのか…?)

 

一瞬レミエルの思考が刃物を持つ少年に集中したとき、不意に思い出されたのは生前の祭壇での戦いだった。

赤い衣を身に着ける二刀流の男の鬼気迫る姿が、目の前の少年の姿と重なったのである。

どちらも神子のために必死だった。

レミエルに生前の記憶を呼び戻させた時間は僅か1秒。

だが、記憶の虚像が為したわずかな助力は大きな隙を作ってくれた。

レミエルの体が光に包まれる。

 

(しまった…!)

 

ワープの転移先を考える暇は無かった。

長男祭司が放った『フォトン』により、収束し弾ける光の攻撃を受けてレミエルの体が硬直する。

 

「ぐぁっ!!」

 

かすむ視界の中で少年が懐まで差し迫っていた。

両手に握られているのは、先程見たナイフ。

何をしてくるかは一目瞭然であった。

 

(馬鹿なっ!

私は…最強の戦士なんだぞ!?)

 

少年が両腕をまっすぐ伸ばす。

それは父からもらったナイフ。

生前にかつて旅を共にした祭司より何度も鍛錬をしてもらったことで、攻撃箇所に迷いは無い様子だった。

 

「もうアイトラ様を苦しめるなぁ!!」

 

レミエルの胸に、ナイフが突き立てられた。

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