イセリア人間牧場奮闘記 before&after 作:あるいてごろりと
厚かましい組織『ディザイアン』の幹部の1人。 科学分野が大好き。
手入れのされた紫の長髪はツヤツヤ。
プロネーマから最も嫌われている。
マグニスからもらう豚肉を飛竜達のエサにしていたことがバレて以降は、豚の毛で作った歯ブラシしかくれなくなった。
絶海人間牧場の主であるロディルは、お供の兵隊達を連れて飛竜に乗りソダ島の上空から地上や洋上を見渡していた。
先日の嵐が過ぎ去った後にプロネーマより、再生の旅に出た神子が漂流物や倒木などで怪我をしないよう、水の封印がある島の周囲を清掃しておくように言い渡されたためである。
特に、海洋上の大きな漂流物には注意を払わなければならないとのこと。
大陸からソダ島の移動手段は、基本ソダ島遊覧船乗り場から発着するタライのみとなる。
飛竜やレアバードを持たない神子達は、木製の心もとない船(?)に乗って島に行くしかないのである。
もし渡船中に少しでも漂流物によってタライが傷つけられて穴でも開けば、命に関わる問題となる。
そのため、清掃は神子を生かしておくためにも必要な作業であった。
たとえ神子の出来が悪かろうが、マーテルの器となる可能性がある以上は生かしておかなければならない。
ロディルは、不満気に口を尖らせている。
「他の五聖刃の男三人は待機命令を受けていますし、なんで私だけ清掃なんでしょうか…。
どうせ、『神子が歩く道先にない絶海人間牧場は手が空いておろうが』などとあの女は言うのでしょうけども。
というか、前回嵐があったときも清掃させられましたし再生の旅の計画において絶海人間牧場の役割って何なんでしょうか?
清掃でないことを願いたいところですがね。
それに、奴隷を大陸からさらうのも食料供給も飛竜がなくてはならないですし、可愛い飛竜達を酷使するのはできれば辞めたいですぞ。
まぁ、窓際族のおかげで密かな研究ができるというメリットはあるのですが…」
ロディルは、ぶつぶつと文句を言いながらソダ間欠泉周囲の洋上に浮かぶ大木やゴミを飛竜の足を使って移動させていく。
しばらくして、ほぼほぼ清掃が済んだため島に降り立ち部下の兵隊達と昼休憩を取った。
前もって、絶海人間牧場周りで魚を釣り上げフライにしてパンで挟んだサンドイッチを皆で頬張る。
中にはがっついて食べたためか喉にパンを詰まらせ、勢いよく革袋水筒に口を当てる者もいた。
後ろの兵隊はその者の背中をさすり、隣の兵隊は反対にひじで突付いてからかう。
無事にパンを水で喉の奥に流し込んだ兵隊は、気の抜けたような声を出す。
安堵の雰囲気に包まれ、周囲からどっと笑いの声があがる。
波の満ち引きの音と浜辺の上を飛ぶ海鳥の鳴き声が響き、のどかな時間が過ぎていく。
「ロディル様!」
滅多に島に来る機会など無いためか、興味深そうに島を歩きまわっていた若い兵隊が小脇に書物を抱えながらロディルの元へと興奮気味に走ってきた。
「どうしたのですか?
そんなに慌てると、転んで危ないですぞ」
「あっ、すみません。
変な本を2冊見つけたものですから、ついつい。」
恥ずかしそうな表情をする部下が、両脇に抱える本をロディルに見せる。
見た目は、大きな本であった。
特徴的なのは、カバー表紙に埋め込まれた赤い石である。
若い兵隊は、本を2冊とも主に渡す。
「これは…エクスフィアですな。
昔、プロネーマが話していた『禁書』に近いデザインですぞ。
しかし、どうしてこんなものがここにあるのでしょうか。
しかも、2冊も…」
疑問を口にするが、答えられるものはこの場にはいない。
ロディルは、『禁書』については聞いただけで実物は見たことがない。
プロネーマの話によると、随分前にマーテルを除く四大天使の3人がニブルヘイムの王と成り得る魔族を本の中に封じ込めたとか。
のちに、プロネーマ・フォシテス・マグニスがとある試練のために再封印したらしい。
だが、その本は少なくともテセアラのどこかに保管していると聞く。
つまり、シルヴァラントには存在しないはずの本だ。
とすれば、今ロディルが手に持つ本は別の『禁書』だろうか。
(海底に遺跡でもあって、そこに保管されたこの本が先日の嵐の影響で流れたのでしょうかね。
まぁ、海底遺跡なぞ本当にあるかはわかりませんが。
しかし、考古学に関する物は興味をそそられますな)
ロディルは、帰ったら自室で禁書を調べてみることにした。
△△
イセリア人間牧場の主たるフォシテスは、自身の管理する牧場内に造られた管制室にて、上司のプロネーマからリモートによる指示を受けていた。
「ユグドラシル様より伝言を預かっておる。
クルシスの輝石の成長を促すための神子へ恐怖を与える行為は、偏らないように細目にするようにとのこと。
普段はディザイアンが踏み入らないトリエットに人員を派遣し、神子が来るまで滞在させて任務に当たるのじゃ」
立体映像に映るプロネーマの話を聞き、驚愕するフォシテス。
「トリエットに滞在だと!?
プロネーマ、お前は分かって言っているのか…!」
プロネーマはフォシテスの言葉を聞くと視線を逸らしやや俯き、片方の二の腕をもう片方の手できゅっと握る。
「皆まで言うな。
分かっておる。
じゃが、そなたもユグドラシル様の指示だということを忘れるでない」
「くっ!!
…分かった。
ちょうど、嵐の影響がないかイセリアからオサ山道間の確認をしに遠征している三人一組の隊がある。
急ぎ、伝令して彼らに任務を任せよう」
「急な用件で済まぬが、頼むぞ」
ブツリと通信が切れる。
神子スピリチュアと祭司達はすでにイセリアの村を出ており2日は経っている。
一行に追いつき任務をこなすためにも、早急にとりかかった方がいいだろう。
幸い、腕の立つ傭兵を除けば付き人の祭司達は年配者ばかりと部下から聞いている。
移動はさして早くもないはずだ。
フォシテスは、管制室を出たのちに兵隊長へと指示を出す。
兵隊長は部下に伝えるため、一度自室に戻り紙にペンを走らせて用件をまとめる。
気持ちが入り、字体が暴れないように慎重に書いた。
トリエット…その名を書くことだけで心を揺さぶられる。
しかし、主より与えられた任務は絶対に遂行しなければならない。
書類を作成した兵隊長が自室から出ると、ちょうどイセリア人間牧場内でも足の速いことが自慢な若い兵が歩いているのを見つける。
女性である若者兵に声をかける。
「少しいいか?」
若者兵は、振り返って背筋をまっすぐ伸ばす。
「兵隊長!
お疲れ様です。
えぇ、大丈夫です」
若者兵のハキハキした返答が頼もしく感じる。
きっと大丈夫だろう、と兵隊長は安堵する。
「この書類を遠征中の三人に渡してもらいたい。
彼らはここ数日間のどこかで、トリエットで一泊する予定だ。
急ぎで頼みたいのだが」
兵隊長より書類を受け取った若者兵は頷く。
「リーダーがストリムの隊ですね。
かしこまりました。
準備が出来次第、すぐにでも向かいます」
「すまない。
だが、なるべくトリエットには留まらないよう気をつけるんだ。
砂漠地帯は猛暑に見舞われている。
なぜ、トリエット付近に人間牧場がないか知っているか?」
兵隊長の妙な圧を感じた若者兵は、ゴクリとつばを飲み込む。
「い、いえ。
存じませんが…」
「トリエットの町の人間は、陽気な印象を受ける者が多い。
だが、実際は陽気とはちがう。
一度会うだけでは分からないかもしれないが、あそこに住まう劣悪種達は皆、暑さで頭をやられている。
ディザイアンは奴らの不気味なまでの愉快そうな姿を見て危機意識を感じ、あの一帯に人間牧場を建てなかったんだ。
噂では、トリエットの劣悪種同様に頭のやられた者共が集う組織、レネゲードの拠点があるともされている。
もしかしたら、精霊イフリートの影響が作り上げた高熱地帯に住んでいるせいで、頭をやられて再生の旅の阻止などという下らないことをしでかしたのではないか、とも言われているほどだ。
卵が先か鶏が先か、真実は分からないがな」
兵隊長は忌々しげにレネゲードのことを思い返す。
レネゲードの構成員はディザイアンと同じでハーフエルフが大半と聞くが、なぜ人間によるハーフエルフ迫害の歴史を知るはずの奴らがユグドラシルの提唱する『無機生命体による千年王国計画』を邪魔しようとするのか理解できないでいた。
しかし、すぐに葬り去りたくてもできることではない。
「話をトリエットの住人のおかしさについてに戻そう。
昔、神子の1人がつまずき家屋の石壁に激突してできた人型の穴を観光名所にしようとした記録がある。
また、炎天下の中で中年の男が複数人でおこなう早歩きレースがあるのだが、それもおかしさを表す良い証拠だ」
「人型の穴を観光名所にすると言い出したのは誰なんですか?」
「…穴を開けられた家の持ち主だ。
当人は人型の穴を見て喜んでいたと聞く」
若者兵は唖然としていた。
無理もない。
家屋損壊など気にもせず、観光名所にするなど家主は異常である。
というか、石壁に激突して人型の穴が出来るだなんて、神子の体は何でできているのだろうか。
トリエットの家屋の外装は、砂漠地帯特有の石材で造られている。
石材の種類は、大昔に海の底で海洋生物の骨などが積み重なり長い年月をかけてできた石灰岩となるのだが、問題なのはその強度である。
石灰岩を破壊するための最大荷重は、1平方メートルあたり4000t以上となる。
もちろん、多孔質で空気の隙間が多かったり壁が大きいほど最大荷重は減少するし外壁の石灰岩は条件が異なる。
一応、炭酸カルシウムが主成分の石灰岩は風化しやすく、弱酸性の雨によって徐々に表面が溶けてはいく。
砂漠地帯で雨の影響は受けないと見た方がいいが。
年数が経ち脆くなっている可能性もあるが、それは僅かな話である。
それに頭のおかしいトリエットの住人でも必要最低限の壁厚は抑えている場合、外装の厚みはおよそ120mm以上のはず。
少しばかりの風化では、生身の人でどうこうできる分厚い石材ではない。
ちなみに、人骨で最も硬度の高い部分である歯を除けば次に硬いのは大腿骨なのだが、ねじりもせずに側面から重さをかけた場合、成人男性ならおおよそ120kgで破断する。
当然、16歳の神子という少女は普通ならそこまでの数値には及ばないはず。
クルシスの輝石が人体の力や強度を大幅にあげることはディザイアンの中でも周知の事実である。
条件次第だが石灰岩の壁を容易くぶち抜く骨の必要強度は、大腿骨だけで見ても成人男性の3万倍を優に超えていなければならない。
当然、普通のエクスフィアじゃそんな恩恵は得られない。
もはや人でない。
もちろんハーフエルフでもない。
若者兵は、再生の神子とはとんでもない化け物なのではないかと疑ってしまう。
そして、そんな化け物の被害に合ったにも関わらず呑気に観光名所などと喜ぶトリエットの住人はやはり正気ではない。
自然と身体が震え出し、中々おさまらなかった。
「お、おい。
大丈夫か?」
若者兵の異変に気付いた兵隊長が心配そうに声をかける。
「す、すみません。
少し休めば問題ありませんので…」
深呼吸して、ようやく落ち着いてきた。
だが、トリエットの不安はおさまらない。
色気も魅力もない、ただむさ苦しそうなおじさんだけのレースなど誰が感心を持つのだ。
若者ならともかく、あえて中年だけにするのはなぜだろうか。
若者の数が少ない、もしくは中年のこだわるものがある?
若者兵は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
何となく、落ち着いた気がする。
だが、対策をしないとそれも時間の問題だ。
「兵隊長、ありがとうございます。
もう大丈夫です。
しかし、おじさんのレースとやらで疑問があります」
若者兵は理解を増やすことでなんとか気持ちを保とうと試みる。
「何だ、言ってみろ」
「レースであれば、賞金がかかっているばずです。
中年の男たちは、金のために競争をしているのではないでしょうか?」
若者兵は、トリエットの住人が少しでもまともであることを望むようにして言った。
おじさんはただレースをするだけではない。
賞金という目的があるからだろう、きっと。
町を盛り上げるためなどという、最もな理由もあるかもしれない。
お客が集う日にのみ、おこなわれるイベントなのかもしれない。
そう思うと、若者兵の心が少しだけ軽くなる。
しかし、若者兵の問いに兵隊長は首をふる。
「いや、順位当てをできた者には賞金が渡されるが、中年の男たちには渡されるものなどない。
言わば、ボランティアに等しい。
そもそも見る人がいなくても、毎日取り憑かれたかのように中年だけでレースをするとも聞く。
オススメはしないが、奴らの目をじっくり見てみろ。
レース中の奴らはうっすらと微笑んでいるようにも見えるが、その目はかけらも笑っていない。
光の宿らぬ目は、もはや闇だ。
何を考えているのか分からんのが、恐ろしい。
そんな奴らがおこなうイベントがもう1000年は続いている」
「さっ、再生の旅よりも長い歴史ではないですか…!」
若者兵は数字を聞いて驚く様子を見て、兵隊長は頷いて話を続ける。
「それどころか、レースに参加するおじさんはトリエットの外から来た人間も多いのではないか、という噂も流れている。
商人や旅人は暑さにやられ判断力を失い、レースに魅了され取り込まれてしまったのではないか、とな。
取り込まれた者は、少しずつ時間をかけておじさんの顔と体型に変化していくなんて話も聞く。
レースが進む事に同じ顔のおじさんがどんどん増えていくのは不気味な光景だ。
同じ顔の人間が大勢いるはずがないから間違いない。
過去に取り込まれた外部の者が、おじさんと化したからだろう。
とにかく気をつけるんだ。
すまない、私は言わば死地に送り込むようなことを君に強いている。
出来るだけ早い内にトリエットを出るんだ。
取り込まれて、奴らのようになりたくなければな」
若者兵は肩がぶるりと震えるのを感じていた。
怖い、恐ろしいという感情が暴れそうになる。
だが、ディザイアンの兵たる者が任務を放棄することなどあってはならないと強く思い抑えつけた。
ヘルメットで表情は外からは読み取れないが、早くも疲労困憊の様子だった。
「はぁはぁ…了解です。
あ、あの…」
若者兵は、逡巡しておずおずと兵隊長に尋ねる。
「兵隊長。
もしもっ!
もしもの話ですが…!」
若者兵は、喉から絞り出すようにして言葉を吐いた。
そんな彼女の様子を見て、兵隊長は胸がチクリと痛む。
「ストリム小隊に何か理由があって、すでにトリエットに数日滞在していたら、彼らはどうなってしまうのでしょうか…?」
仲間の安否をほんの僅かに震える声で不安そうに問う若者兵に対して、兵隊長は返答に困る。
眼の前に立つ若者兵が、何かの間違いでおじさんレースに参加する気の狂った仲間を見たら、一生物のトラウマを抱えてしまいかねない。
だが、トリエットに滞在することの危険性はストリム達も承知している……はず。
神子達が来るまで、待機しなければならないことなど考えるのも恐ろしい。
兵隊長は、迷った末にあえて言わないことにした。
「リスクについては、先程話した通りだ。
予定より早く作業が終わりトリエットに宿泊して時間を潰そうなどと考えない限り大丈夫のはずだ。
だが、もし万が一のことが起きたとしても…何を見たとしても任務遂行を優先し、必ず早めにここへ戻って来るんだ。
場合によっては、数人の代わりの者が任務に当たらなければならないからな。
伝令…頼んだぞ」
「は、はい…」
兵隊長は、すっかり弱腰になってしまった若者兵に申し訳ないと思いながらも外出してもらった。
△△
トリエットの大通りから外れた路地裏で、1人の年老いた男がヒョコヒョコと走っているようには見えない速度で逃げ回っていた。
額から汗をかきぜぇぜぇと苦しそうに息を吐きだす。
老人の後ろからは、ディザイアンの兵ことストリムがムチを振り回しやや速歩きで追いかけている。
前方と左右には、壁が立ちふさがる。
もう逃げ場がない。
老人は、前方の壁を背にしてストリムを見る。
だが、その目には戦おうなどという意志などない。
諦めや絶望の色が瞳の奥に浮かんでいた。
追い詰めるストリムが、ニヤリと笑みを浮かべ口を開く。
「あははは!
ここまでですよ、観念して下さい!
ロディル様の作ったこの軽くて腱鞘炎にならない低刺激のムチであなたの体中を叩きまわし、ありとあらゆるコリをほぐしてやりますよ!」
「うぅ…。
こ、このままでは健康にされてしまう…」
体力と自らの希望が尽きた老人は、膝から崩れ落ちてしまう。
両肘は砂の上に置かれ、頭は伏して地面と平行になる。
ストリムは、うなだれる老人の元へじりじりと近寄り彼の肩や腰や背中を一瞥し、ムチを振り上げようとした。
「待ちなさい!」
少女の声が渇いた大地に響き、ストリムの動きがピタリと止まる。
振り向くと、長い金髪を後ろで束ねた少女が背後に立っていた。
強い決意を持った青い瞳は敵対するディザイアンの兵へと注がれている。
「ほお、再生の神子ですか。
ですが、何故一人でここへ…。
お供の人間たちはどうしたのですか?」
「祭司様が4人とも長旅で足腰の痛みを訴えたため、オアシス脇にあるマッサージ店で体を休めています。
傭兵さんは、私が祭司様と一緒にいると思い宿の手続きへ行きました」
スピリチュアはオブラートに包んで言ったが、イセリアの村を出た後、同年代の年老いた祭司達4人は久々の遠出にやや興奮していた。
草原にて1人が、「若い頃のように駆け出したい気分じゃ」と言うと、もう一人が「子供の頃は、ワシが4人の中で1番早かったの」と言い、他が「いや、ワシだった」やら「なんなら今の方が早い」だの言い出して競争を始めた結果、4人とも足腰を痛めてしまったのだ。
ストリムは、スピリチュアの言葉を聞いて嘆息する。
「傭兵の知らぬ合間に店をこっそり抜け出した、ということでしょうか?
悪い子ですね。
こんな路地裏で敵対組織の一兵と密談だなんて」
「そこのおじいさんの声を聞きつけたからここに来たのであって、あなたと会ったのはたまたまです!
誤解のある言い方は止めてください。
これ以上、その人を苦しめるようなことは私が許しません!」
スピリチュアは装束の内部に隠してあった短剣を取り出して構える。
ストリムはというとムチを丸め込んでいた。
一見、交戦の意思は無いように思える。
「どういうつもりですか…!?」
スピリチュアの問いかけにストリムは返事をせず、
彼の後ろで這いつくばったままの老人に声をかける。
「あなたも弁解してくださいよ。
この神子はどうやら僕があなたに手ひどい仕打ちをしているように見えているそうですよ」
ストリムの言葉を聞いた老人はゆっくりと顔を上げる。
先程とは違い、2つの眼には反抗的な意思が宿っていた。
「手ひどい仕打ちには…変わらないじゃろうが」
老人の言葉にストリムは両手を頭の高さまで持ち上げ、心外と言いたげなジェスチャーをとる。
「そうですか?
でも、僕は叩いても痛くないムチであなたの疲れを取ろうとしているだけですよ?」
ストリムの言葉を聞いたスピリチュアが「えっ…!」と声を出すが、構えた短剣の切っ先は目標から少しもブレない。
剣の扱いは素人の域から出たばかり。
だが短い期間とはいえ、その集中力は腕の立つ者から指導を受けた成果である。
世界を救おうとしている神子の信念は計り知れない。
その想いが剣先に宿ってるのだから、揺らぎが無くて当然である。
老人は、喉から振り絞るようにして声を出す。
「だからそれがひどいと言っておる!
ワシがあえて重労働の仕事をして、体中にコリを作っているのはだな!!
帰宅前にマッサージ屋のミリィちゃんにほぐしてもらうためなんじゃ!!
ワシの生きがいの元となるコリをそんなムチなんかでほぐして幸せの日々を壊さんでくれ!」
ポカンと口を開ける神子。
危険を顧みずに覚悟を持ってして敵と相対したはずだが、守るべき相手の予想外の発言に目的を見失ってしまう。
老人は「ほぐさせん!ほぐさせんぞ!」と啖呵を切っているが、神子は何を切っていいのか分からなくなっていた。
老人ではないことは間違いないのだが、ストリムかと問われればそうでもない気がする。
信念無き短剣の切っ先はもはやブレッブレだった。
老人のそんな様子を見て、ストリムは神子に告げる。
「これで分かったでしょう?
僕は別に彼に危害を与えるつもりはないのですよ」
「事情は分かりました。
そっ、それでも!
あなたが彼の望むことを壊す行為を見逃すことは…!
マーテル様の教えに背き………ます!」
歯切れが悪くても、悪を両断せんと再び短剣を強く握り締める。
直後、神子は何かを思い出したのかはっとした表情になる。
「そういえば、オアシスのマッサージ店は近々占い屋さんに転業すると店員さんが言っていました」
老人が立ち上り、「なっ、なぬ!?」と言いつつ眉をつり上げる。
神子は老人に説明する。
一応、短剣はストリムに向けたままだ。
「あるお客が毎日来店して体に触れる度に猫撫で声を上げるから、気持ち悪くてもうやっていけないだそうです」
「そっそそそそんな馬鹿な!?
ミリィちゃんがそんなことを!?
もしかして、もう彼女との触れ合いはできんのか?
ワシからセクハラするようなことなんか一切していない、健全な客のつもりじゃったのだが…。
よし!
もうワシ、犬の声しか出さん。
それならええじゃろ!」
ストリムが甘いと言わんばかりに立てた人差し指をチッチッと左右に振る。
「犬は見た目が犬だからあの声がいいんですよ。
あなたが声真似したところで、なおさら気味悪がられるだけでしょ」
老人が「そうなの?」と言わんばかりに神子の方を見てくる。
スピリチュアは苦笑いをする。
察してうなだれる老人だったが、何かを思いついたのかオアシス方面にバッと顔を向ける。
もちろん遠くにあるマッサージ店内の店員を思って視線を向けたのだろう。
「そうか…!
占いなら手を握ってもらえる。
まだ、希望は…ある!」
老人は駆け出した。
いつの間にか、疲れは抜けきっていたらしい。
不意を打たれ、ストリムも大通りに走り込んでいく老人を目で追うばかりであった。
もはや剣先を地面に向けているスピリチュアは、老人の背中を見て呟く。
「占い…手相ではなくて水晶と言っていたと思うのですけど」
老人が近い将来出禁をくらうのは、ここだけの話。
残されたのはディザイアンの兵と神子の2人。
片方は老人のコリをほぐすため、もう片方は老人を救うために集まったのだが当人はすでにいなくなってしまった。
「……」
「……」
どうしたものか、とただ単に視線を交差するのみで時間だけが過ぎていく。
何となく気まずい雰囲気。
やがて、ストリムが懐から黒い袋を取り出した。
警戒して再び短剣を構える神子。
ストリムは、怯みもせずに笑みを浮かべる。
「無駄ですよ。
今から始めるのは、物理攻撃ではありませんから」
「それは…どういう意味でしょう」
「あなたに恐怖を与えるのですよ。
僕は仕事が早めに済んだので、時間潰しにトリエットに滞在した2日の間に、素晴らしいムチを考案しました。
ムチのどこを切っても、ポップに描かれたあなたの似顔絵が出てくる上に、食べれば砂糖のように甘いムチですよ!!」
ストリムは、それが神子に恐怖を与えてクルシスの輝石を成長させるものだと疑わずに金◯郎飴を作り出していた。
しかし、取り出そうと袋の口を開けるが、絶望の表情に変わる。
顔の上半分はヘルメットを被っていることによって分かりづらいが、ショックを受けていた。
金◯郎飴は、うだるような暑さのせいでドロッドロに溶けていたのだ。
「ぼ、僕の渾身の出来の食べれるムチが見る影もない!?」
ストリムは、アメの中に可愛く描かれた神子の絵を何度も切り刻む様子を当人に見せて恐怖と絶望を与えようとしていた。
しかも、神子の顔が何度も食われる様子を見せれば、やはり恐怖によって輝石の成長はカンストし、今日を持ってして器が完成する段階にまで至るのではないかと期待していたのだ。
それが、ドッロドロになっている。
ストリムは膝から崩れ落ちる。
両肘は砂の上に置かれ、頭は伏して地面と平行になる。
ザッザッと履物が砂を上から潰すような音が近付いきていることに、ストリムは気づいた。
だが、顔を上げる気になれなかった。
この2日の間に見つけたやりがいを世界に否定されたような気持ちになっていたからだ。
足音は頭の先で止まる。
「あの…」
スピリチュアの声が聞こえる。
煩わしく思いながらも、顔を上げる。
眼の前には、両膝を折り曲げて座りストリムを見つめる神子がいた。
「袋の中には、食べれるムチが入っているのですか?」
「…ええ。
ドッロドッロに溶けていましたけどね…。
何度も試食して作り上げたのに、計画はおじゃんですよ」
ストリムはスピリチュアの質問に素直に返答していた。
計画は実らない。
そう思うとどうでも良くなっていたからだ。
神子が逃げようが、追う気持ちすら湧かない。
むしろ、1人になって観葉植物でも眺めながら自分を癒やす時間が欲しいぐらいだ、と兵は思っていた。
「良ければそのムチ、食べても良いでしょうか?」
「………えっ?」
思わぬ言葉に戸惑いながらも、おずおずと袋を神子に渡す。
神子は、袋の中を見ると躊躇なく手を中に入れた。
すくい上げるような仕草をすると、戻って来た人指し指の先にはドロドロのアメがまとわりついていた。
口の中にアメが付着した指先を入れる。
口内から取り出された指先にアメは残っていなかった。
「うん、美味しいですね」
神子が感想を言い、ディザイアンの兵に微笑む。
突拍子もない行動にストリムは唖然としていた。
なぜ?
なぜ急にアメを食べてくれたのだろうか?
疑問が頭の中で何度も周回するが、答えは出ない。
神子の行動の元を考えて答えを出すよりも、行動の結果に湧き出す感情を口から漏らす方が早かった。
「ありがとう…ございます」
神子に恐怖を与える代物で、何故か神子は笑顔になりストリムはお礼を言う。
彼は何だか、情けなくて急に恥ずかしくなってくる。
神子から袋を引ったくると、駆け出してその場を離れた。
「あっ。
もっと食べたかったのですが…」
神子は残念そうな顔をしながら、ディザイアンの兵の背中を見送っていた。
少しして、傭兵さんが気づく前にマッサージ屋へ戻ろうと決めた神子であった。
歩き出した途端、不意に足がもつれてしまう。
「えっ!?
あっ、とっとっ!」
神子の目の前には住宅の壁があった。
そのまま勢いよく激突してしまう。
△△
(くそうっ!
何だかしてやられた気分ですよ)
ストリムが悔しそうにしながら大通りに戻ると、人間達が集まってワイワイしていることに気付く。
なにやら、催し物をしているみたいだ。
キョロキョロとまわりを見渡して、仲間を探す。
「あれ。
二人ともここにいたはずなのですが、移動したのでしょうか?」
何気なしに大通りの中心近くを通る。
周囲の人間達は夢中で催し物を見ており、ディザイアンの兵装をしているストリムには見向きもしない。
人間達に恐れられる服装でありながら、ここまで無視されると何だか面白くない。
そう思っていたら、「おほほほ」やら「ぐははは」と聞き覚えのある仲間たちの笑い声を耳にした。
声のする方向を見てストリムは驚愕する。
恐ろしい伝統行事、おじさんレースが開催されていたのだ。
噂ではおじさんレースに参加しているのは、暑さで頭をやられた旅人たちも含まれるらしいことを思い出す。
早くこの場を離れなければ取り込まれる、一瞬脳内に浮かぶ警戒信号に従いたい気持ちと同時に湧き上がる2つ目の驚き。
「ふ…2人とも…」
ストリムの目に映るのは、おじさん達と並んでレースするディザイアンの兵2人であった。
(な、なぜ2人が…。
いえ、片方はおじさんなのですが、もう片方はオカマ。
オカマも例に漏れず、ということでしょうか?
くっ!
定義が分からないです!)
ストリムの肩にポンと手が置かれる。
びくりとして振り返ると、おじさんがいた。
一見、にこやかに見える表情だが目はストリムにピントが合っていないようにも思える。
おじさんの口が開く。
「同じ服装の彼らは知り合いかい?
良いおじさん達だね。
レースが盛り上がって私も嬉しいよ。
良ければ、君も『おじさんゲーム』に参加しないかい?」
果てなき沼の中へ案内するような言葉に聞こえた。
これに乗ってはまずい。
本能が告げていた。
頭の中で鳴り響くアラートはまだ自身が正常な思考を保っていることを表している、そう思うとストリムは少しだけ安心する。
ストリムは、ブンブンと両手を振る。
「せ、せっかくのお誘いですが。
僕はおじさんではないので…」
ストリムの話をおじさんは表情を崩さずに聞いていた。
だが、おじさんの黒ぐろとした目は、どこを見ているのか分からない。
ストリムの肩には手が置かれっぱなしなのも気味が悪い。
再びおじさんの口が開く。
「君は1日があっという間に過ぎていく感覚を経験したことはあるかい?
単調な仕事は、もはや頭が自動操縦されているかのように何も考えずとも淡々とこなせていないかい?
朝寝ができなくなっていないかい?
二度寝ができなくなっていないかい?
休日の予定をその日に立てるようになっていないかい?
明日の仕事のために、休日は運動することを心と体が拒否していないかい?
服装は、楽なのを基準にして選ぶようになっていないかい?
最後に走ったのはもうずっと前かい?
もし、当てはまっているならね。
君もおじさんなんだよ。
なに、私は悪く言いたいわけじゃない。
自分を受け入れて、おじさんはおじさんなりに楽しむことが大事なんだと私は言いたいんだ。
むしろ、新しい自分を受け入れる柔軟な思考を持てるようにならないと、おじさんとは呼べないかな」
おじさんの言葉を聞きながら、ストリムは視界がぐるぐると回っているかのような感覚に陥っていた。
脳の働きが鈍くなっている。
わかってはいても、自分は今の変化を受け入れても良いのかもしれないという考えが出てくる。
むしろ、変化を受けいれることこそが真のおじさんなのだろう。
(そうでしたか…。
僕も…)
頭の中のアラートは、もはや聞こえない。
ヘルメットで外見からでは分からないが、ストリムの目は真っ暗な闇と化していた。
(おじさんだったんだ…)
○○
後に、トリエットへ伝令に来たディザイアンの若者兵は「あははは」と笑い『おじさんゲーム』に参加するストリムの姿を目撃する。
ストリムの仲間たちも一緒に参加していた。
若者兵はガクブルと体の震えが止まらず、逃げるようにしてその場から走り去った。
(もう…手遅れだった…!)
泣きたいような気持をこらえて走り続ける。
だが、逃げた先には裏路地である。
「わーい、新しい観光名所ができたー!
きゃっほー!」
「すすすっ、すみません!すみません!」
そんな言葉を耳にしつつ若者兵が見た光景は異様だった。
住宅の壁には人型の穴が空いており、両手を挙げて喜ぶ家主らしきものと穴を開けたであろう何度も頭を下げる神子がいたのだ。
若者兵の頭の中で恐怖が満たされた。
「あ…ああっ…!!
うわああああああああああっ!!」
若者兵は無我夢中でトリエットから走り去った。
次の日にイセリア人間牧場の主であるフォシテスにディザイアンを退職することを伝える。
彼女の心はすっかり荒んでしまい、小さな家の中でしばらく引きこもるような生活をしていた。
後に、ちょくちょく訪ねて来る兵隊長の献身的なサポートのお陰で徐々にではあるが立ち直っていく。
やがて兵隊長も退職し、2人は結ばれて子宝にも恵まれるのはまだずっと先の話。
△△
フォシテスは、自室にてプロネーマと画面越しに会話をしていた。
トリエットで消息不明となった兵の3人については、若者兵の証言を元に捜索隊をトリエットへ派遣して周囲も懸命に探し回っていたのだが、期間を過ぎたためにとうとう中止となってしまった。
捜索隊からは、『おじさんゲーム』を1km圏外より観察したが、ディザイアンの兵装した者は見当たらなかったとのこと。
何か理由があって失踪したのか、はたまた噂の通り取り込まれておじさんとなってしまったのか誰も知らない。
フォシテスは、捜索隊の報告を聞いて若者兵を含め4人も犠牲者が出たことを知り、任務を請け負ったことを悔やんだ。
しかし、もうどうにもならないことだ。
悔やむ時間があるなら、同じ轍を踏まないよう対策案を出した方が有意義である。
フォシテスは、トリエットへの立ち入りは必要であっても半日以内までしか保証できないとプロネーマに伝え、彼女は了承した。
さらに牧場運営について説明していたのだが、プロネーマがやたらとフォシテスの顔と背後を確認しているので気になって質問する。
「どうした?
もしや、お前ともあろう者が会議中に他の考え事などらしくないな」
「いや、すまぬな。
しかし、フォシテスよ。
そなたの目の下のクマは何じゃ?」
フォシテスは、左手を顔の近くによせる。
魔導銃に映る自分の顔を覗いて、今初めてクマに気づいたような素振りを見せる。
プロネーマは、少々呆れたようにため息を吐く。
「後ろの机で山積みになっておる書類といい、一人で仕事を引き受けすぎじゃないかえ?
部下にある程度仕事を引き継がせることも牧場主の役割じゃぞ」
フォシテスは目元を指先でほぐして、プロネーマから視線を逸らす。
「分かっている。
少しばかり別件で雑務を溜め込んでしまっていただけだ。
時期に片付く」
「ふぅん。
時にフォシテスよ。
そちらの優秀な兵隊長が退職志願したと小耳に挟んだのじゃが、別件とはそのことかえ?」
わざわざ言葉に出さないようにしたのに、プロネーマは図星をついてくる。
フォシテスは、苦い顔になる。
彼女は言葉を続ける。
「どうせ、後任の兵隊長へ一気に仕事を押し付けないように配慮しているのであろう。
しかし、そなたが抱えすぎて倒れられたらどうするのじゃ?
そうなっては、引き継ぎも無しにそなたの仕事をやらなければならぬ部下や妾達のことも考えてほしいものよ」
「………」
黙ってしまうフォシテス。
プロネーマの言うことは最もである。
部下の仕事を自分一人でフォローすることなど、現実的でないことなど彼も分かってはいる。
ただし、4人の兵と兵隊長が抜けたことでやらなければならない作業内容は、気軽に他の者へ頼めるほどの量ではない。
膨大な作業量(特に兵隊長の分)を指示された部下のモチベーションの低下は、周囲へ伝播しかねない。
そうなっては、イセリア人間牧場の運営に支障が出る可能性もある。
後任の兵隊長が仕事を覚えるまでは、多少は無理してでもフォシテスだけで補おうとしていたのだが、プロネーマに痛い所を指摘されてしまった。
フォシテスの様子を見たプロネーマは、再び呆れ顔になる。
「牧場主は牧場全体の運営をうまく回すようにするのが仕事よ。
一人で抱えることが上に立つ者の職務でないと、知っておろう?
妾もそなた達五聖刃に仕事を無理のないように割り振るのが役目。
オーバーワーク気味であれば、妾に申し出よ。
現場は無理でも、多少ならば天使達と分担して事務処理はこなせるゆえにな。
それと、一般兵の抜けた穴は部下ときっちり話し合って負担の無いように埋めるのじゃ」
「…了解した。
すまない、プロネーマ」
「構わぬ。
教えるのもまた上に立つ者の仕事ゆえ」
言いながら、プロネーマは何とも言えない気持ちに駆られてしまう。
はるか昔に、四大天使の男3人から仕事を教わった時を思い出していた。
仕事を覚え始めた頃、ユグドラシルへの忠誠心から一人で作業を抱え込もうとしていたが、自身がフォシテスへ今しがたしたようにクラトスやユアンから諭されたことがあるのだ。
第一、今回の件は彼女がフォシテスに指示をしたことなので罪悪感もある。
(偉そうに言えるほどではないのじゃがな)
フォシテスとは、かつて五聖刃の長の座を狙って争った仲だ。
しかし、時間が経ち上司として接する内にどうにもほっておけない存在になる。
立体映像装置の電源を切り、プロネーマはフォシテスの作業を補助するためにも一度自身のスケジュールを見直すことにした。
一方、フォシテスは上司からの注意を受けて若干気持ちが沈んでいた。
数秒、息を吸いまた吐き出す。
プロネーマから理解を得られる程度に、上と下に作業を割り振らなければならない。
一人でやっている方が気持ちが楽な気もするが、指摘という名の命令を受けた以上遂行することが義務となる。
フォシテスは、兵隊長が申し訳無さそうに退職志願した時、若者兵との事情を察して文句も言わず急な退職を承諾した。
その時、状況が落ち着くまで自身で仕事をこなそうと決めていた。
それゆえ、作業分担を急に依頼するのはどうにも気が重たい。
フォシテスの苦悩が無くなるのは、いつの日になるだろうか。
△△
砂漠地帯は日中は猛暑、夜間は極寒となるそこにいるだけで生きる者に試練を与えるような所である。
生まれ育った土地ならともかく、好き好んでこの地に移住する者は決して多くはない。
唯一、水の溜り場であるオアシスが人々の心をほぐし体に潤いをもたらしてくれる。
旅人と商人もオアシスと町があるからこそ、過酷な土地に足を踏み入れる気になれる。
トリエットは、砂に覆われた町。
オアシス周辺を除けば、白すぎず黒すぎない黄色味がかったシンプルな配色の町だ。
乾いた大地は体から水分を奪い、頭上へと降り注ぐ日光の刺すような熱と焼けるような足元からの熱が人々をホットサンドのように挟み込む。
砂漠地帯はいるだけでも大変だ。
長旅から疲れが出たであろう、杖をついてゆっくり歩く旅人が1人。
息を荒く吐き出して、軋むような乾いた声が口外へ漏れ出す。
旅人がトリエットの入口を抜けると、何やら人々が集い騒がしい様子。
ポンと旅人の肩に手が置かれる。
振り返ると、そこには丸顔の中年男性がいた。
「お疲れの様子だね。
ようこそ、旅人さん。
ここは砂漠の街トリエットだ。
ここに来るのは初めてかな?
良ければ、私が案内するよ。
宿を探しているのかい?
それとも食べ物かな?
もしくは武器を揃えたいのかな?
おっと、すまないね。
私ばかりが喋っていてしまった。
どうも旅人を見ると、外の世界に出たい意識が戻ってくるんだよ。
まあ、簡単に押し込められるんだけどね。
ところで、旅人さん。
中央の広場でやっているイベントが気にならないかい?
あれはね、『おじさんゲーム』と言ってね。
複数人の中年男性が早歩きをして、誰が何番目にゴールしたかをあてるんだよ。
記憶力を試すゲームさ。
当てられた者には、ささやかながら賞金があるんだよ。
君も参加してみるかい?
嬉しいよ。
こうして、仲間が増えていくんだ。
さっそく、やってみようか。
もうすぐ受付が終わるレースがあるみたいだよ。
荷物を置いて、こっちにおいで。
楽しみ過ぎて笑いが込み上げてくるよ。
あ は は は 」
プロネーマ
態度が悪い組織『ディザイアン』の女幹部。 『五聖刃』を束ねる長。
過去に救われた時からユグドラシルを崇拝する。
マグニスからもらう豚肉で最も好きな部位はハツ。
コリコリとした食感が好み。